八咫烏シリーズ第二部『望月の烏』(ややネタバレ)阿部智里

2024.02.23 Friday

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    八咫烏シリーズ第二部『望月の烏』。時間軸でいうと『追憶の烏』の10数年後、『楽園の烏』の少し前といったところです。
    まだ発売されたばかりなので、できるだけネタバレを少なく書いたつもりですが、未読の方はぜひ、『望月の烏』後に御覧ください。

    ネタバレ考察もいずれ書きたいと思います。

    『望月の烏』あらすじ


    金鳥代・凪彦の后選び「登殿」が行われることになり、東家、南家、北家、西家から新たな姫が選ばれ桜花宮にやってくる。

    しかし、以前の「登殿」とは異なり、政治的な取り決めにより皇后と側室(それに羽母まで)に選ばれる家はあらかじめ決まっていた。

    そんな中、美貌の落女(男として朝廷で働く女性)・澄生(すみき)が注目を集め、凪彦もまた、彼女の聡明さに興味を持つようになり…。



    金鳥代凪彦(ややネタバレ)


    今回、私が一番驚いた人物が凪彦でした。『追憶の烏』で奈月彦が暗殺され、貴族たちによって担ぎ上げられた少年帝。
    母親は「あの」あせびの君で、父親は凡庸な捺美彦です。さぞかし母親の影響や博陸候の言いなりの愚者だと思っていたら、存外に彼は聡明な人物でした。

    平安時代で例えるなら、破天荒な花山帝ではなく、人間関係のバランスを重視した一条帝のような人物です。

    澄生の言葉に耳を傾け、博陸候の政治に対する疑問を抱くようになるのですが、博陸候にかかってはなすすべもありません。

    しかし、仮にも最高権力者である彼が現状の問題に目覚めたことは無駄ではなかったのでしょう。

    博陸候雪斎の意図


    物語は澄生(すみき)が落女として文字通り宮中を引っ掻き回していきます。綺羅絵(山内の浮世絵のようなもの)の版元や絵師に近づいたり、凪彦に博陸候の政治の問題を指摘したり。
    ・綺羅絵についてはこちら『きらをきそう』

    博陸候は彼女を泳がせておくのが得策と考えたようです。その方が敵味方が見極めやすくなるから。
    それは『烏は主を選ばない』で、彼の主である奈月彦が行った手法と同じですね。

    そして、ここからは私の想像なのですが、もしかしたら雪哉(雪斎)は、自分の「敵」を集めて殺すのではなく、「味方」を集めてもろとも自らも滅びようとしているのではないかと。

    自らが誘蛾灯となって害虫を引き寄せ、今までの山内を壊し、新しい山内を紫苑の宮に渡すつもりだとしたら…。

    そんな風に思えて仕方がないんです。

    あせびと真赭の薄(ややネタバレ)


    『烏に単は似合わない』でお后候補として敵対していた、あせびと真赭の薄が登場します。あせびは今や大紫の御前と呼ばれる山内で最も地位の高い女性として、40を超えた今も少女のように美しい。

    一方で真赭の薄は年相応に老けてはいるものの、はつらつとして若々しく、新たに2人の息子に恵まれ夫とともに貧民救済の仕事に励んでいます。

    真赭の薄の刻んだシワや白髪は、彼女の生き様の勲章のように描かれているにとても感銘を受けました。幸せの定義は人それぞれですが、あせびと真赭の薄、果たしてどちらが幸せなのでしょうね。

    あせびは多くを手に入れましたが、最も欲したものは最後まで得られなかったのですから。

    八咫烏シリーズ


    『烏に単衣は似合わない』
    『烏は主を選ばない』
    『黄金の烏』
    『空棺の烏』
    『玉依姫』
    『弥栄の烏』
    第二部『楽園の烏』
    第二部『追憶の烏』
    第二部『烏の緑羽』

    『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
    『烏百花 白百合の章 八咫烏外伝』
    八咫烏シリーズ外伝『さわべりのきじん』
    八咫烏シリーズ外伝『きらをきそう』
    幕間『烏の山』
    幕間『山を下りて』
    コミカライズ『烏に単は似合わない』
    コミカライズ『烏は主を選ばない1』
    コミカライズ『烏は主を選ばない2』
    コミカライズ『烏は主を選ばない3』
    コミカライズ『烏は主を選ばない4』
    『羽の生えた想像力 阿部智里BOOK(電子書籍)』
    『八咫烏シリーズファンブック』
    『追憶の烏』ネタバレトークイベント感想
    八咫烏シリーズ展覧会&トークショー2023

    『営繕かるかや怪異譚その参』小野不由美

    2024.02.09 Friday

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      家にまつわる怪異と、それを修繕して整える『営繕かるかや怪異譚その参』。今回も家にまつわる様々な怪奇が登場します。

      念と呪い


      「念」とは、常に心から離れない、強い思い入れのことを言います。そんな人の念は家や家具に影響を与え、時に呪いとして人を襲います。

      呪いといえば怖いのですが、元をたどると人の強い思い入れが怪奇の原因になることが多いんですね。やはり結局、人が一番恐ろしいということでしょう。

      私がもっとも怖かったのが『火焔』です。昔は五体満足であれば嫁に行けたため、時折こうした異常な人が妻や母親となって子や嫁を苦しめることがあります。

      死んだ後も人を攻める姑の執着と、それを受け入れ、抗えない嫁の関係がただただ恐ろしかった…。



      受け継がれる呪い


      『誰が袖』では、家に受け継がれる呪いが描かれています。「末代までも祟る」は昔の芝居でよくあるセリフですが、家系や先祖とのつながりの薄い現代人から見ると、「受け継がれる祟り」に理不尽さを感じます。

      この家の祟りは「妻が嫡男を妊娠すると死亡する」でしたが、「祟り」といっても発動条件があるんですね。

      小野不由美さんの小説『過ぎる十七の春』を思い出しました。こちらもまた、祟りには発動条件があります。でもたいていは昔の家制度が原因なんですよね。

      家を維持するために人を犠牲にした結果、恨みが家(または家具)に残り、それがまた人に祟るのは悲しいことです。

      家や人、時に祟りにも寄り添う尾端さんの言葉からも人の念の悲しさが伝わります。
      恨みが強いと視野が狭まって捨てるなんて考えられない。(中略)剥がれて初めて、捨てたほうが楽なんだと気づく


      小野不由美ホラー作品


      くらのかみ
      営繕かるかや怪異譚
      営繕かるかや怪異譚 その弐
      過ぎる十七の春

      『菓子屋横丁月光荘 光の糸』ほしおさなえ

      2024.01.23 Tuesday

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        菓子屋横丁月光荘』シリーズもこれで最後。とても名残惜しいですが、孤独だった守人が人や家の縁に恵まれて幸せになってゆく様子は、読者としても嬉しく思いました。

        『菓子屋横丁月光荘 光の糸』あらすじ


        月光荘のオーナー、島田さんと、恩師である木谷先生とともに古民家の蕎麦屋を訪れる守人。そこで聞こえた家の声は機を織る「とんとん からー」という音と「マスミ」という人の名前だった。

        その家は昔「広瀬斜子(ひろせななこ)」という織物を作っていたが詳しいことはわからず、織物自体も現在では失われていた。

        しかし、川越の人々の縁が繋がり、家と関わりのある人物が見つかった。もうすぐ壊されてしまう家のために守人は彼女と家を会わせようと計画する。

        やがて世の中はコロナ禍へ。月光荘のイベントが中止されたため守人は周囲のすすめで小説を書くことに。それは、家の声を聴くことができる守人が体験したことや、人々との交流から編み出された物語だった。



        人が紡ぐ歴史


        偉人や有名な歴史的事件とは違い、昔の、ふつうの人々の暮らしや思いは忘れ去られてしまいます。例えば物語に出てきた「広瀬斜子(ひろせななこ)」という織物も現代ではほとんど残っていないそうです。

        守人と大学の後輩である豊島さんは「これまで生きてきた人それぞれの物語」を文章にしたいと考えるようになります。

        年配の方やその土地の歴史に詳しい人に話を聞くのって意外な発見があって面白かった事、私も経験があります。そんな儚い人の物語を守人はこれからも紡いでいくのでしょう。

        最初は何も持たずに川越にやってきた孤独な守人が、徐々に周囲の人との絆を結び、孤独ではなくなっていく。そんな彼の物語もまた愛おしいものでした。

        菓子屋横丁月光荘シリーズ


        『菓子屋横丁月光荘 歌う家』
        『菓子屋横丁月光荘 浮草の灯』
        『菓子屋横丁月光荘 文鳥の宿』
        『菓子屋横丁月光荘 丸窓』
        『菓子屋横丁月光荘 金色姫』

        乙女の本棚『待つ』太宰治+今井キラ

        2023.11.14 Tuesday

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          文豪と現代のイラストレーターがコラボした「乙女の本棚シリーズ」。今回は太宰治の『待つ』を読んでみました。
          美麗で儚げな少女が「待つ」のは一体誰なのでしょう…?


          『待つ』あらすじ


          毎日、駅のベンチに佇んで「誰か」を待つ少女。彼女自身、待ち人が誰かわからない。もし、その相手が現れた時、自分がどうなってしまうのだろう、そんな期待と恐怖を胸に描きながら待ちわびているのだった。

          戦争の影が迫る中、少女はなにかしなければと思う一方で、空想の相手を待ち続ける日々を送っている。



          太宰治の乙女小説


          もしかしたら、太宰治の中には乙女がいるんじゃないでしょうか。少女の心の機微の表現がすごい。

          「見知らぬ誰かを待つ」というなんとも不思議な物語ですが、少女の頃というのは、こうした妄想というか、衝動みたいな思いを誰しもが持っていると思うのです。

          言葉にできないような、そんな繊細で微妙な少女の心を、的確な言葉を当てて文章化されている。

          そしてそれを、男である太宰治が描ききっているのがすごいことだと思います。

          太宰治は他にも『葉桜と魔笛』や『女生徒』など、乙女の心情を細やかに描いています。太宰自体の生き様は決して褒められたものではなし、正直嫌いなのですが、残した作品は悔しいけれどやっぱり素晴らしい。

          JUGEMテーマ:最近読んだ本



          八咫烏シリーズ『烏は主を選ばない』アニメ化への感想と考察

          2023.10.25 Wednesday

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            2023年10月24日、驚きのニュースが入ってきました。和製ファンタジー小説・八咫烏シリーズの『烏は主を選ばない』が2024年4月にアニメ化されるとのこと。
            これまでずっと、私達ファンが夢見てきた八咫烏シリーズのアニメ化です。これまでの公開情報と自分なりの考察をまとめてみました。

            2023年10月時点での情報


            ・NHKで2024年4月から放送予定
            ・第一作『烏に単衣は似合わない』 ではなく、二作目の『烏は主を選ばない』がアニメ化
            アニメの特設サイトには雪哉らしき烏衣姿の少年と、糸の切れた長琴らしき琴のイラスト
            ・阿部智里先生のコラムによると、コミカライズとはまた別の新しい設定になるらしい



            物語の考察:なぜ「単」ではなく「主」なのか


            それはやはり『烏に単衣は似合わない』 が単独の物語だからでしょう。

            アニメ化するのであれば、後の『黄金の烏』『空棺の烏』に繋げやすい『烏は主を選ばない』が選ばれたのだと思います。

            また、「単」と「主」は、女性側と男性側、ふたつの視点で描かれた対になる物語ですから、「主」を主体にして「単」のピソードを挿入したほうが初見の方にわかりやすいのだと思います。

            だからといって「単」の話がカットされるということは無いと私は思います。女性たちが出てきたほうが華がありますし、ヒロイン(?)のあせびちゃんが作中で奏でる「長琴」がイラストで登場していますから、きっと「単」の4人の姫もでてくるのでしょう。

            「単」と「主」のリミックスはアニメ関係者の腕の見せ所といったところでしょう。

            アニメ化への期待と不安


            阿部智里先生のエッセイ「作家の羽休み」によるとこのように書かれています。
            「映像的なアプローチは現場に任せて欲しい」とのことでしたので、文化・風俗の設定なども新たにお任せする形となりました。


            ということは、設定を活かすも殺すも制作次第ということです。読者はイラストレーター名司生(なつき)さんの美しい装画や、松崎先生の詳細で原作を最大限に生かしたコミカライズに親しんできました。



            なので、こういってはなんですが、新参者に山内の世界が描ききれるのか、という正直一抹の不安が拭えません。
            要は、アニメ制作側がどれだけ原作への理解度とリスペクトにかかってくるでしょうね…。

            それでも、アニメだからこそできる表現には期待しています。個人的には羽衣から烏への変化や滑空シーン、あせびちゃんの演奏シーンなど、どう描かれるのかが楽しみです。


            ファンタジーとNHK


            NHKはこれまで数々のファンタジーアニメを手掛けてきました。

            ・『十二国記』(2002年)
            ・『彩雲国物語』(2005年)
            ・『精霊の守り人』(2006年)
            ・『獣の奏者エリン』(2009年)

            これだけファンタジーアニメの制作を手掛けてきた実績があるので、民法のアニメよりは信用がおけそうです。

            それに、シリーズを通じてアニメ化するならやはりNHKが最適だと思います。民法だとワンクールで終了なんてこともザラですから。

            アニメ化の最初のうちは『精霊の守り人』「バルサはこんなにおっ◯いがデカくない!」「タンダはあんなにイケメンじゃない!」など賛否両論がありました。

            『十二国記』のオリジナルキャラもうるさくて物語の雰囲気を壊していたし、細かい設定はほとんど小野主上が手掛けていて、「制作側仕事しろよ…」と思ったものですが、それでも全体を通してみるといい作品になっています。

            『烏は主を選ばない』も、長く愛されるアニメになりますように…。

            八咫烏シリーズ


            『烏に単は似合わない』
            『烏は主を選ばない』
            『黄金の烏』
            『空棺の烏』
            『玉依姫』
            『弥栄の烏』
            第二部『楽園の烏』
            第二部『追憶の烏』
            第二部『烏の緑羽』

            『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
            『烏百花 白百合の章 八咫烏外伝』
            八咫烏シリーズ外伝『さわべりのきじん』
            八咫烏シリーズ外伝『きらをきそう』
            幕間『烏の山』
            幕間『山を下りて』
            コミカライズ『烏に単は似合わない』
            コミカライズ『烏は主を選ばない1』
            コミカライズ『烏は主を選ばない2』
            コミカライズ『烏は主を選ばない3』
            コミカライズ『烏は主を選ばない4』
            『羽の生えた想像力 阿部智里BOOK(電子書籍)』
            『八咫烏シリーズファンブック』
            『追憶の烏』ネタバレトークイベント感想
            八咫烏シリーズ展覧会&トークショー2023

            『女の子がいる場所は』やまじえびね

            2023.10.05 Thursday

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              女性の生きづらさを世界の少女たちの視点から描いた『女の子がいる場所は』。とても切なくて、とても考えさせられる漫画でした。女性だけでなく、男性にも読んでほしい物語です。

              『女の子がいる場所は』あらすじ


              サウジアラビアのサルマ
              サルマは父親にもう一人の妻がいることを知る。第一夫人のアミーラは子供ができないため、第二夫人であるママとの結婚を望んだ。離婚歴があるため再婚が難しいママはそれを幸福だという。
              でもサルマはこう思った。「わたしたちは結婚をしないと生きていけないの?」と。

              モロッコのハビーバ
              おばあちゃんの知り合いのシャマおばさんがやってくる。おばさんはハビーバを見た途端「女の子がメガネなんて男に嫌われる」と否定する。そのくせ頭の悪い兄には男だというだけで褒めちぎる。おばさんが滞在する間、不快に思うハビーバだったが、実はシャマおばさんにはある秘密があって…。

              インドのカンティ
              カンティは母の再婚相手の義父が家庭教師のアーシャに売春を強要していることを知り憤るが、義父からは生意気だと折檻され、母からも「元の貧乏ぐらしに戻るからパパに逆らっちゃだめ」と言われる。
              自分の無力さに打ちひしがれるカンティだったが…。

              日本のまりえ
              まりえは両親が離婚し、母と祖母と暮らしている。祖母はまりえに「女の子は勉強なんてしたら(男に好かれないから)苦労する」という。パパはママが自分より仕事ができることに嫉妬を抑えられない。

              離婚したことで、家族は安定したけれど、やっぱり少し友達の家族がうらやましい。

              アフガニスタンの少女たち
              タリバンが去って学校が再開し、はじめて自分のノートと鉛筆をもらった日、彼女たちは将来を夢見る。しかし今、再びタリバンが彼の地を襲う。彼女たちはどうしているだろうか。



              女の子の不自由さ


              私達が思うのは 毎日生きている中での女の不便さです。
              いまある世界で女はなんてつらくて非力か


              これは昭和初期に生きた女性が主人公の漫画『陽の末裔』のセリフです。戦前よりもましになったとはいえ、女性が女性であることを肯定されることはまだまだ少ない気がします。

              そして漫画の少女たちも、日常生活の中で不自由さを感じています。
              「女の子なんだから 男に楯突いてはだめ」
              「女の子なんだから 可愛く、バカでいなきゃだめ」

              それでも賢明な彼女たちは周囲からの言葉が「どこかおかしい」と感じはじめています。まだ、それを解決する術をしらない彼女たちですが、そのために必要なものが「知ること、学ぶこと」だと気づくのです。

              とても小さな希望の光ですが、どうかこれからの彼女たちの行先を照らしてくれますように。



              男だったらよかった


              両親は私を愛情をもって育ててくれました。
              ただ、同時にこう言われて育ちました。「お前が男だったらよかった」と。

              女が二人続いたため男を望まれていたこと、それをつい、娘に聞かせるほど当初は「がっかり」していたこと。
              そのため私は子供の頃こう感じていました。女の子である自分は悪いのだろうかと。

              また、男の子の好む特撮や漫画を読み、男の子のように振る舞いました。そうすれば両親が喜んでくれると信じて。

              なぜ、女の子が女の子でいるだけで、なぜこんなにも辛いのでしょうか。それはなにも、男性優位社会のムスリム社会やインドカーストの世界だけではなく、日本でも日常的に身近にあるものなのです。

              そして、女の子を否定するのは、一番身近な女性である母や祖母だったりするのです。シャマおばさんやまりえのおばあさんのように、自分が「女の子なんだから」と否定されてきたことを、次の世代にも強要するのが当たり前と思ってしまっているのでしょう。


              賛否両論の意見


              以前、ひめゆり部隊をモチーフにした漫画『COCOON』の感想を書いたところ「大変だったのは女だけじゃない!」と否定的なご意見をいただきました。『女の子がいる場所は』の感想でも肯定と否定、さまざまな意見がありました。

              確かに男の子にだって性的搾取はあるし、女以上に大変なこともあります。社会進出に興味のない女性もいるでしょう。
              ただ、さまざまな考え方がある中で私が思うのは、女の子が自らの意志で学び、考え、改善していく意欲だけは否定しないで欲しい。それだけです。

              ババーン!『ねこいる!』たなかひかる

              2023.10.03 Tuesday

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                ねこがババーン!と出てくる!たったこれだけ。でも最高に面白い絵本でした。
                猫が好きな人、絵本が好きな人、そして、お笑いが好きな人におすすめの絵本です。

                なんだかお笑いのフリップ芸みたいだなと思ったら、作者のたなかひかるさんは現役のお笑い芸人でした

                この絵本、フリップ芸としても面白いし、読み聞かせで「ババーン!」って叫んだら子どもたちが喜びそう。

                パンの中やリコーダーの中、跳び箱の中など、意外なところに「ねこいる?」と問いかけると、次のページに「ババーン!ねこいる!」と猫が飛び出してきます。

                ページをめくるごとに猫たちの登場はエスカレートしていき、犬はでてくるし、文字の中にも「ババーン!」と登場します。

                何度読んでも、オチがわかっていても、ねこが突然「ババーン!」と登場するのが楽しくて、ワクワクしながら読んでいます。



                こちらもおすすめ。猫が主役の絵本です。
                ・『ねこはるすばん

                JUGEMテーマ:最近読んだ本

                『斜め屋敷の犯罪』島田 荘司

                2023.09.09 Saturday

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                  島田荘司さんの名作ミステリ『斜め屋敷の犯罪』。資産家の老人が酔狂建てたわざと斜めに傾いている「斜め屋敷」。そこでで起こる殺人事件を描いたミステリです。

                  舞台が1982年のため、携帯電話もありませんし、動機やトリックなども時代背景が感じられますが、それでも幾重にも仕掛けられたトリックにページを捲る手が止まりませんでした。



                  『斜め屋敷の犯罪』あらすじ


                  北海道は宗谷岬の外れに建つ「流氷館」は、別名「斜め屋敷」と呼ばれている。その名の通り、東西に傾いているこの屋敷は、ハマー・ディーゼルの会長である浜本幸三郎が道楽で建てたもので、ときおり親しい人々を招待している。

                  1983年の暮も押し迫った時期、館に招かれた客が死体となって発見される。窓の外から見えた怪しい人物、踊る人形の謎、第二の殺人…。果たして、犯人は?密室トリックの謎は?

                  警察の手に負えないこの難解な事件を解決すべく『占星術殺人事件』で謎を暴いた御手洗潔がやってくる。

                  ネタバレ無しの感想


                  物語は1983年。まだ携帯電話もインターネットもない時代です。密室殺人ではありますが、刑事たちも行き来しているため「嵐の山荘(閉じ込められた状態)」ではありません。

                  それでも犯人がわからないため、招待客や家族たちは館を離れることができません。じわじわと追い詰められる恐怖と、不思議な作りの館での殺人事件は不謹慎ながらもワクワクします。

                  館に招待された人々も曲者揃い(愛人を伴ってくる社長とか)で、みんな怪しい。

                  そして、壮大にしてユニークなトリック!これは御手洗潔のような変人(いい意味で)しか解けないでしょうね。

                  『斜め屋敷の犯罪』は、『占星術殺人事件』と同じく、昭和50年代が舞台のため、時代ならでは(戦争)の背景感じられます。

                  この時代はまだ、戦争を戦った人が生きていたためこうした設定になったのでしょう。

                  島田荘司作品感想
                  占星術殺人事件
                  透明人間の納屋

                  建築士が実際に「斜め屋敷」を設計してみた本はこちら
                  犯行現場の作り方

                  『あんまりすてきだったから』くどうれいん みやざきひろかず

                  2023.09.07 Thursday

                  0
                    この絵本があんまりすてきだったから、思わず買ってしまいました。
                    「すてき」と思うものを持つ人や、推し活をしている人に読んでほしい絵本です。

                    『あんまりすてきだったから』あらすじ


                    歌手のうたごえがあんまりすてきだったから、こんちゃんはお手紙をかきました。


                    こんちゃんが歌手の歌を「すてき」という気持ちは、手紙を届ける郵便屋さんやお魚やお月さまにも伝わっていきます。
                    「すてき」な気持ちは、やがてみんなにも伝わっていき…。



                    かわいいオノマトペ


                    作中にはかわいいオノマトペがたくさん使われていて、絵だけでなく、音も楽しい絵本です。

                    「てってこてこ」「たぴちゅん」「ざざん ぞぞん」など、思わず声に出してよみたくなる、面白い言葉がたくさん。これは、お子さんに読み聞かせをするのも楽しいと思います。

                    すてきなあとがき


                    とてもすてきな物語の終わりに、作者のくどうれいんさんが書いたあとがきもすてきなので、ぜひ読んでみてください。

                    すきだと思ったらお手紙を書く。それはとってもすてきなことです。
                    おへんじがもらえなかったとしてもきっとその言葉は、その先のあなたに届きます。


                    くどうれいんさんも、この絵本のイラストを担当されたみやざきひろかずさんのファンだったそうです。
                    「すてき」だと思う気持ちを持ち続けていること。
                    それを伝え続けることは、自分をとても幸せにするし、もしかしたら、相手に届くことだってあるのです。

                    私も、和楽器バンドのボーカル、鈴華ゆう子さんが好きで、お手紙を書いたことがあります。鈴華ゆう子さんはいつもファンクラブなどで「みんな手紙読んでいるよ!」と伝えてくれています。

                    これだけでもう、嬉しいんですよね。

                    返事がなくても、きっと「すてき」という気持ちは、伝わることがあるし、それは自分の糧になるんです。みんながそれぞれの「すてき」をたくさん伝たら、きっと世界はすてきなものになると思うのです。

                    『映画を追え フィルムコレクター歴訪の旅 』山根 貞男

                    2023.09.05 Tuesday

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                      戦前の映画の殆どが行方不明です。そうした貴重なフィルムを探すコレクターたちを追った『映画を追え フィルムコレクター歴訪の旅 』

                      以前読んだ『映画探偵: 失われた戦前日本映画を捜して』は、失われた戦前映画のフィルムを探しだすドキュメンタリーでしたが、この本ではコレクターたちがいかにして映画を入手するが描かれます。

                      戦前のフィルム事情


                      戦前の映画フィルムのうち、9割が失われている理由として、以下の理由があげられます。
                      ・可燃性で燃えやすい
                      ・映画館側が勝手にフィルムを売る
                      ・上書きされて使われたり、勝手に編集される

                      それでも近年、貴重な日本映画の発掘が続いています。戦前の映画会社では、上映用の35mmフィルムのほか、家庭用に9.5mmフィルムが販売されていたため、そうしたルートでの新発見もあるのだとか。

                      そして、フィルムの発掘に一役買っているのがフィルムを収集するコレクターたちでした。

                      コレクターには2種類のタイプがあります。コレクションの公開を許す人と、秘匿する人。、作者は「公開型」のコレクターたちを訪ねては、コレクションの経緯や所有フィルムについてインタビューを試みています。

                      その中には、長らく行方不明だった小津安二郎の映画『突貫小僧』のフィルム所有している人もいたそうです。



                      生駒山の伝説のコレクター


                      貴重なフィルムを所蔵している生駒山麓に住む伝説のコレクター・安倍氏については『映画探偵: 失われた戦前日本映画を捜して』でも取り上げていましたが、本書ではより深く、安倍氏とそのコレクションに迫っています。

                      まだ世にでていない貴重な戦前のフィルムを多数所持していると語る安倍氏。

                      作者は90年代から2000年代初頭にかけて、安倍氏の家を訪問し、フィルムの貸出を希望するものの、のらりくらりとはぐらかされてしまいます。2005年に安倍氏が亡くなり、家財を調査したところ、話に出てきた貴重なフィルムは見つからなかったとか。

                      果たして彼は稀代の大嘘憑きだったのか、それともどこか他の場所にフィルムが眠っているのか、現在も謎に包まれています。

                      ロシアに残るフィルム


                      実は、ロシアには多くの日本映画が残っています。戦前、満州に住む日本人向けに映画が輸出され、その後侵攻してきたソ連によってフィルムは押収、長く鉄のカーテンに遮られてきました。

                      ソ連崩壊後、ようやくフィルムの調査が進み、さまざまな映画フィルムが発見されたそうです。

                      もしかしたら、あなたの家にも発見を待つフィルムが残っているかもしれませんね。