2019.12.01 Sunday

『白銀の墟 玄の月』第三巻 感想(ネタバレ)

前半で暗中模索にみえた泰麒の白圭宮での奮闘と李斎の驍宗探索。しかし、今回、すべてがつながりました。

これまで登場人物たちはもちろん、読んでいる私たちの前にも覆われていた霧が少しずつ薄れていき、その霧の先には、皆が待ち焦がれたあの方がいたのです。

物語の構成も、これまで章ごとに泰麒側と李斎側それぞれの視点で物語が展開してきましたが、3巻では互いの物語の間隔がどんどん狭まっていき、前半の伏線が、少しずつ、確実に回収されていくのです。
本当に、ページをめくる手が止まりませんでした。




泰麒の六太化


前半では、単身、白圭宮に戻りあろうことか、「新王阿選」を宣言した泰麒。このハッタリと度胸は陽子のようだな、と思ったものですが、今回もまた、ひとりで阿選に直談判しに行ったり、捕らえられている正頼に会いに行ったりと、麒麟にあるまじき行動にでます。

今回は延麒・六太くんの(破天荒な)行動力が加わったかのようですね。

「麒麟」という生き物は殺生を嫌い、血を嫌います。それは血や穢を浴びると病気にもなるくらいです。
しかし、泰麒は正頼の牢に忍び込む際、門番を攻撃するなど、自ら行動に打って出ます。それほど切羽詰った状況ということもあるのでしょうが、彼の行動原理には蓬莱(日本)での悲惨な経験が影響しています。

「魔性の子」という作品では、泰麒を守るため使令が暴走したため、周囲の人間や両親も虐殺された過去を持ちます。泰麒はいまもその罪を背負い、彼らの死を無駄にしないために文字通り身を削って戴を救おうとします。



巌窟王・驍宗


さて、長いこと行方知れずで、最大の謎だった驍宗さまの行方ですが、なんと灯台もと暗し!李斎さんたちが散々さがした函陽山の落盤で閉じ込められていたのです。まさに巌窟王…、閉じ込められたくらいで諦める驍宗さまではなく、コツコツと岩をのぼり、脱出を試みていたのです。

しかし、いくら不老不死の仙とはいえ、食べないと死んでしまうのですが、それが、前半にでてきた貧しい親子が月に一度、捧げた供物が巡り巡って驍宗さまの元に届いていたのです。(その他にも前半ででてきた玉とかも意外な形で関わっているし…!伏線回収すげえ)

ここでも、人の行い、思いが、本人たちの思いもかけないところで誰かを助けになっている。そんな「思い」の細い糸の一本一本が繋がり、太い縄になって驍宗さまの元にどど来ました。
「青条の蘭」の命のリレーでのテーマがここでさらに壮大な形になって返ってきました。

結局、人を救えるのは剣でも魔法でもなく、少しずつの、けれどもたくさんの人の思いなんですね。

それにしても、ページの中に、本物の驍宗さまが現れたときは、思わず本をおいて目頭をおさえました。よくぞ生きていてくださった…!

銀色の髪の亜里沙
山の中に閉じ込められるというシチュエーションは巌窟王というより、和田慎二さんの「銀色の髪の亜里沙」を思い出しました。これは少女が洞窟に閉じ込められ、そこで得た知識で復讐を行う物語。「銀髪」というのも同じだし。



マッドサイエンティストと逆臣


ここへきて初めて阿選の行動原理が明かされます。驍宗との良きライバル関係だったものの、先王が崩御したことで、そして、驍宗が王となったことで、彼の影になってしまう恐怖。でも、それだけでは彼も行動を起こさなかったかもしれない。

けれど、彼の近くには恐ろしく聡明で、天の摂理を意に介さない琅燦がいたのです。どうやら琅燦は阿選に具体的な知恵を授けることで天の摂理の「実験」を試みたらしい。

黄昏の岸 暁の天 」を読み終わったあと、その当時私を含め、読者の一部は「陽子はいつか、天に戦いを挑むのではないか」と考えていました。天の摂理の届かない蓬莱育ちで、泰麒のことで天に疑問を抱いていたようだったからです。

しかし、意外な形で天に戦いを挑んだのは琅燦の方でした。彼女もまた、陽子とは別の意味で天の摂理から外れた人だったから。

サイエンティストというのは時に倫理を超えた実験に心を動かされるものですが、琅燦の場合は、どこまでが計算づくだったのか。作中、彼女の心理が語られることはなく、阿選の視点からの描写なので彼女が敵なのか味方なのかはまだ霧の中に包まれているようです…


JUGEMテーマ:オススメの本



2019.10.29 Tuesday

『白銀の墟 玄の月』第二巻 感想(ネタバレ)

『白銀の墟 玄の月』第二巻読了。白圭宮に戻った泰麒と、驍宗を探すため文州・函陽山周辺を旅する李斎の2つの視点から物語が展開していきます。

そして2つの視点の合間に、病気の主に仕える少年と、貧しい家の少女のエピソードが挟まれています。この2つが後にどう関係してくるのか。

泰麒視点・白圭宮


白圭宮に戻った泰麒は、阿選と面会。帰還を許されるものの、官吏は動かず民の救済は進まない。責任を取りたくないからのらりくらり問題を先送りにする官吏たち。

そんな官吏たちに、麒麟とは思えない心理戦で圧力をかける泰麒。あろうことか、「阿選を新王にするためには驍宗に禅譲(自ら王の位を降りる。すなわち王の死を意味する)をさせる必要がある」とまで言い放ちます。

果たしてそれは、民の救済を行うための方便なのか、それとも本当に…?

しかしなんだか泰麒の行動が陽子化してますねww
たぶんこの事件が終わったあと「胎果の王、麒麟=思いもよらない行動をする人たち」と言われそうな…



李斎視点・文州・函陽山周辺


驍宗が最後に消息を絶った函陽山周辺で手がかりを探す李斎一行。途中、土匪の頭目や道観の人々の協力を得て、さまざまな土地を訪れるものの、その全てが空振りに終わり、各地で民の惨状を突きつけられただけだった。

絶望の中、数少ない希望も得た。土匪の頭目からは驍宗が行方不明になった原因となった土匪の乱の内情を知り、驍宗配下の将軍の部下・静之に出会うこともできた。

しかし、最後にたどり着いた老安というまちで、驍宗らしい武人が匿われていたという情報を得たものの、その武人はすでに亡くなっていた…。



混迷を極める「承」


とにかくこの巻をひとことで言えば「混迷」です。なにもかもが不明瞭で、確かなことがなにも見えない。

しかし、情報も人も制限され、不確実な情報ばかりの中では、疑おうと思えばどれも疑わしい。
冢宰の趙運などは、泰麒が本当に麒麟であるのかまで疑い出す始末です。

泰麒が戻った白圭宮では、さまざまな思惑が交錯しています。これまでの戴国編を読むと阿選は「麒麟の角を切り、驍宗から王位を簒奪した極悪人」なのですが、阿選の配下でも「新王阿選」に素直に喜ぶ者がいるかと思えば、不安を感じているものもいます。

あるいは阿選によってうまい汁を吸ってきた連中は、泰麒が示した条件に右往左往し、なんとか阿選が王位につくよう画策するも、阿選には届かず、ますます混迷を極めていきます。

読めば読むほど、霧が深く、なかなか真相にたどりつけない、そんな不安を掻き立てられる二巻でした。

今後の予想


ここからは読んでみて引っかかった部分をもとに推理してみました。

使令が戻った?


作中、泰麒が「上を向いて膝をついたあと、床を見つめていた」という文があり、私はここで使令が帰ってきたのじゃないかと推理しました。

寒い庭にずっととどまっているのも、使令と連絡をとりあっているのでは…?

不気味な鳩の鳴き声


姿の見えない、建物の上にいるらしい鳩。この鳩がでてくるとき、どうもその周囲の人が「病む(魂が抜かれたような状態)」ようで、今回は最初に泰麒の世話にあたった平仲がその餌食となったような…?
この鳩が阿選が行う「傀儡廻し」との関係は…?

最大の謎


その他にも謎の少女・那利の主は誰なのか、琅燦の狙いはなにか、白幟の母子が目指す「奇跡をさずける道士」の存在、など、謎は多いのですが、最大の謎は「驍宗様の安否と居場所」「阿選の行動原理」です。

この二つの謎がどのようにして解かれていくのか、それとも謎のままなのか…



第四巻の表紙は阿選なんですかね…?彼を倒せばハッピーエンド、そんな近頃のファンタジーでは片付けられないのが十二国記の残酷さであり、魅力なんです。




JUGEMテーマ:オススメの本



2019.10.21 Monday

『白銀の墟 玄の月』第一巻 感想(ネタバレ)

『白銀の墟 玄の月』第一巻、読了。圧倒される世界観と、そこに生きる人々の詳細で丁寧な描写、次の展開がまちきれず、ページをめくる手が止まらない。久々にそんな思いをさせていただきました。

現代のファンタジーと十二国記が違うのは、ここでは魔法やアイテムでラスボスを倒せば解決する、という単純なものではありません。理不尽な状況を変えられるのは唯一つ、人間たちの思いだけなのです。

読んでいくうち「敵」と言われる側の人間たちにもそれぞれの思惑があること、「正義」の側にもさまざまな考えがあることが語られます。



『白銀の墟 玄の月』第一巻あらすじ


泰麒と李斎が戴国へ戻ってくる。途中、驍宗の麾下で将軍だった英章の部下、項梁、阿選に意見したことで滅ぼされた道観の生き残り、去思と出会い、驍宗を探す旅に出る。

驍宗が行方不明になった当時の状況を追いながらも、行く先々で民の困窮を目にした泰麒は李斎と別れ、別行動をとることに…。

ここからネタバレ
いや、ネタバレしないと語れませんよ…

泰麒の決意


最初は李斎とともに驍宗を探すため戴に戻った泰麒でしたが、旅の途中で民の困窮を見て一つの決意をします。

それは、宿敵である阿選のいる白圭宮に戻ることでした。旅の途中で知り合った項梁だけをつれ、単身敵の中へ乗り込み、あろうことか自分を襲った阿選が「新王」だと宣言します。

「新王阿選」は本当なのか、それとも民の救済のための方便なのか…。そこもはっきりしません。ただ一つ言えることは「いちど地獄を見た者は強い」ということです。
目的のためには手段を選ばない、というか、周りが驚くような豪胆な策を打ってみせるのです。

同じく胎果である陽子、尚隆、六太も、過酷な環境下で生死の境を体験してます。
もう、泰麒は守られるだけの子供ではなく、自らの意思で希望を掴み取ろうとする青年に成長したんですね。


退廃の霧


阿選の仮朝は最初こそ機能していたものの、ちかごろでは阿選は政務に飽きたのか、表舞台に出てこず、冢宰の超運が牛耳っている。とはいえ、全体の指揮があやふやで、まるで霧の中にいるような状態が続いている。

また、官吏がいつの間にかいなくなり、傀儡のような意思のない者たちが宮中をうろついている。

読んでいるうち、あれ?この状態はどこかで読んだことがあるような…?たしか柳でも同じように王が政務を放棄し、官吏が好き勝手を始めていなかったか?

この状態は阿選の仕業なのか、それともなにか大きな不具合が十二国に起こっているのか…?謎が深まります。




2019.10.20 Sunday

『風の岸 迷宮の海』十二国記2 小野不由美

おもえばこれが、これまでの彼の人生の中で、一番幸せだった時かもしれない。
このあとに彼の運命を思うと、そう思わずにはいられません。

十二国記とは


ここで十二国記について軽くご説明を。
十二の国からなる異世界。そこでは生き物は卵から生まれる。それぞれの国に王がいて、王は麒麟が選ぶ。麒麟とは仁のけもので、人にも獣にも姿をかえられ、世界の中心部に位置する黄海で生まれる。

ときおり「触」と呼ばれる突発的な嵐により、卵は異世界「蓬莱(日本)」「崑崙(中国)」に流される。

『風の岸 迷宮の海』主人公・泰麒も、卵のうちに「触」で「蓬莱」流されてしまいます。




『風の岸 迷宮の海』あらすじ


高里要は祖母の折檻でだされた冬の庭で、白い腕に引かれて異世界にやってきた。蓬山と呼ばれるその場所で、自分は本当は「こちら」で生まれた戴国の「麒麟」、泰麒であると聞かされる。

「あちら」では、家族に疎まれ、周りとうまく馴染めないこどもだった泰麒は、すぐにこちらの世界に馴染んでいったが、麒麟としての能力が開花せず、周囲の期待に応えられないことに悩んでいた。

しかし、無情にも月日は流れ、黄海には選定を受けるべく昇山者たちが集まってくるが、泰麒はまだ、どうやって王を選ぶのかもわからないままだった…。


異世界は楽園か


最近のラノベでは「異世界に転送、または転生で成功」が流行りです。
自分とは何者なのか、もっとふさわしい場所があるのではないか。誰もがそう思い、自分の(都合のいい)居場所を追い求めます。

しかし、十二国記は甘くない。

「自分の居場所」は、選ばれたものにしか用意されておらず、その他の人間は異世界で苦労を強いられます。

一方、王や麒麟など「選ばれし者」が楽をできるかというと、そうはいかないのです。
十二国では「選ばれし者」なりの責務を、まったくの予備知識のないところから始めなくてはなりません。

責務を負わされるのに、そのすべがわからない。泰麒はそこで悩み、自分の判断に苦しみます。

けれど、選ばれなかった者はをひたすらそれを求め、選ばれし者に嫉妬する。

『風の岸 迷宮の海』と対をなす、蓬莱側からの視点で描いた『魔性の子』は、「選ばれし者」と、そうでないものの対比が描かれていてこちらもおすすめです。(ホラーですけど)




愛しいこども


読み返してみて、結局みんなが泰麒のことが大好きですね。世話をする女仙たちはもちろん、昇山者たち、あの仏頂面でツンデレ麒麟の景麒まで。

景麒の無愛想っぷりを心配した玄君に「景台輔は最初からお優しかったです。」って…!
ああそりゃみんな泰麒のこと好きになるに決まってる…!

景麒なんて『月の影影の海』で主人公の陽子を何の説明もせず異世界に拉致ったり、文句やため息ばかりのくせに泰麒に対しては自分の言葉の足りなさをわびています。

泰麒は自分を至らないものだと感じますが、その素直さ、正直さこそが、後に彼のために十二国を巻き込んだ救出劇につながっていくんですね。

これで、泰麒が性格の悪い子どもだったらきっと流されたままあちらで亡くなっていたでしょうしね。





JUGEMテーマ:オススメの本



2019.10.02 Wednesday

ミュージカル風味のエンタメ時代劇[映画]引っ越し大名!

星野源さん主演の「引っ越し大名!」みてきました。もう単純に面白かった!

1スジ(脚本)、2ヌケ(技術)、3ドウサ(演技)
とは、日本映画の父である牧野省三が言った言葉ですが、「引っ越し大名」はそのすべてが揃ってます。

昔懐かしい時代劇映画の味がするものの、アレンジは現代風でテンポが良くて飽きがこない、面白い映画でした。

引っ越し大名三千里 (ハルキ文庫)

新品価格
¥660から
(2019/10/2 23:18時点)




引っ越し大名!あらすじ


越前松平家、書庫番の片桐春之介は「かたつむり」とあだ名される引きこもり侍。しかし突然、藩の引っ越し(国替え)の責任者、引っ越し奉行を任じられてしまう。おまけに今度の国替えは距離は増えるし石高は減少。

先代の引っ越し奉行の娘、於蘭、幼なじみで剣の達人、源右衛門、勘定方の監物などの協力の下、断捨離、スケジュール管理、費用の算出など、書物ヲタクの春之介の知恵で、なんとか引っ越し作業がすすんでいくのだが…


時代劇とミュージカル


劇中、なんと歌がでてきます。犬童監督「のぼうの城」で主演をつとめた野村萬斎さんによるコミカルな「引っ越し唄」や藩士の妾が歌う別れ唄など。時代劇に歌?と思われるかもしれませんが、これが案外合うんです。

昔はこうしたミュージカル調の時代劇がジャンルとしてあって「鴛鴦歌合戦」「狸御殿」などの傑作も作られました。だから一周回って新しくて面白い。主要な登場人物たちは歌えるひとたちですものね。高畑充希さんの伸びやかな歌声は本当に素晴らしかった。

日活100周年邦画クラシックス GREATシリーズ 鴛鴦歌合戦 HDリマスター版 [DVD]

新品価格
¥1,752から
(2019/10/2 23:16時点)




欲をいえばミッチー殿にも歌わせて欲しかった。なんたって殿は毎年ワンマンショーで歌って踊ってクルクルターンをなさっているので。

殿は現世でもキラキラしています…。

及川光博ワンマンショーツアー2015『光博歌合戦』(DVD初回盤・プレミアムBOX)

新品価格
¥6,600から
(2019/10/2 23:17時点)





魅力的な登場人物たち(ここからネタバレ)


とにかく、登場人物たちがみんな魅力的。引きこもりの書物オタクの春之介、その幼なじみでこちらは戦闘ヲタクの源右衛門、しっかりものだけど、ちょっとマイペースなヒロイン於蘭はその言動で春之介はドギマギさせます。

高畑充希さんの於蘭、かわいかったです。ちょっとツンデレで、意表を突く間のとり方が魅力的でした。

そして、殿!なんといっても及川光博さんの殿!実はミッチーさん、なよっとした(男色の)役って案外やってないのでファンとしては逆に新鮮でした。御手杵を振り回す源右衛門に駕籠のなかからキャーキャーいってるところが可愛らしかったww


全員がそろうまでが引っ越しです


物語のクライマックス、公儀隠密との大バトル(高橋一生が御手杵をぶん回すシーンは圧巻)を繰り広げて大団円かと思いきや、その後も少し物語は続きます。その後も引っ越しを繰り返す間に春之介は一児の父に。

あれ?まだ続くの?と思ったら、ほんとうの意味での「引っ越し」は終わってなかったんですね。
百姓として姫路に残した藩士たちを再び迎えるまでが「引っ越し」だったんです。何度も国替えをして、10数年後、ようやく石高が加増されて彼らを迎えることができることに。

最後に殿様が百姓として生きてきた山里の汚れた手を握るところは、本当に泣けた。約束を反故にすることもできた。けれども「かたつむり」と言われた男はあきらめず、少しずつ道を進めて目的の場所にたどり着いたのかもしれない。

2019.09.11 Wednesday

蓮丈那智フィールドファイルIV 『邪馬台』北森鴻

民俗学ミステリ・蓮丈那智フィールドファイル初にして最後の長編『邪馬台』読了。異端の民俗学者・蓮丈那智が邪馬台国の謎に挑むと同時に、謎の文書「阿久仁村遺聞」にまつわる滅びた村の秘密に迫ります。

あとがきには作者・北森鴻氏の急死により途絶えた物語を、氏のパートナーだった作家の浅野里紗子氏があとを引き継ぎ完成させたとありました。

未完の、それも結末が残されていない作品を引き継ぐのは並大抵の覚悟ではなかったでしょう。
しかしこうして物語を世に出してくれた作者と関係者の方々には感謝しかありません。

今回、私が興味深かったのは「阿久仁村遺聞」よりも那智先生による邪馬台国の推理です。確かに、このように考えれば邪馬台国の位置についても説明がついてしまうのです。



邪馬台国とは何か


邪馬台国に関しては古くは江戸時代からその「場所はどこか」について論じられてきましたが、那智先生は「そんなものは考古学者にでもまかせておけ」と言い放ち、独自のアプローチを試みます。

それは「邪馬台国はどこか」ではなく「邪馬台国とは何か」、そんな国家であったかというものです。那智先生の推理によると、古代の国家は当時最強のテクノロジーである「鉄」の製造が密接に関わっているのだとか。

「鉄」は武器として持てば強大な軍事力となり、農具に使えば農業技術が向上することで食べること以外の余力、「酒」を作り出すこともできる。

邪馬台国とは、「鉄」と「酒」がキーワードとなるのではないか。
そこに、助手の三國くんが提唱する「滅びの民俗学」説を加えると…。もちろん、実証されない推理ではあるのですが、歴史外の視点から邪馬台国を捉えるとこんな風にも考えられのか、と改めて那智先生の思考力に驚かされました。

奇しくも有名な『銃・病原菌・鉄』でも、古代、鉄がもたらす生産性の向上と、その余力で国家が形成されると書かれていました。

銃・病原菌・鉄 上下巻セット

中古価格
¥2,010から
(2019/9/11 23:22時点)


2019.08.27 Tuesday

アバンギャルドとロボット時代劇『戦前日本SF映画創世記: ゴジラは何でできているか』

昭和29年『ゴジラ』という前人未到のSF映画が完成するまで、日本映画はどのようにしてSFの表現を模索してきたか。

日本映画の黎明期の稚拙なトリック映画から、キングコングに影響を受けた和製映画、はたまたアマチュアの自主制作まで、さまざまなフィルム・資料を調査し、日本のSF映画のルーツに迫るドキュメントです。

マニアックなテーマではありますが、戦前映画、SF映画が好きな人にはたまらない内容です。



アバンギャルド映画「狂った一頁」


日本SF映画の黎明期は、SFの物語が一般的ではなく、撮影テクニックにその後のSF映画に通じる系譜をみています。
最初に挙げられるのは大正時代に作られた「狂った一頁」という実験映画。

精神病院を舞台にした幻想世界を、最新の撮影技法を使って作られたものですが、これが怖い。直接脅かす感じではないけれど、モノクロ、能面、狂人たちなど、見ているだけでゾッとします。

興味がある方はYou Tubeにもありますので見てみてください。夜見ると眠れなくなりますが…

この映画には多重露光やオーバーラップなど、当時革新的な技術が使われています。若き日の円谷英二(当時は英一)も参加していました。


なんでもありのSF時代劇


昭和に入るとようやくSFの概念が定着しつつあり、アメリカの「キングコング」が上映されると日本でも「和製キングコング」など亜流の作品が作られますが、着ぐるみをつかったチープな映画が量産されました。

当時、映画は花形産業だったため多くの映画プロダクションが乱立。中小の映画会社は予算もなく、チープさを逆手に取ってなかなかおもしろい映画を撮っていました。時代劇にロボットを登場させたり、侍と河童を戦わせたりと、チープなのですが、スチール写真を見るとなかなかおもしろく、ちょっと見てみたいと思うのですが、こうした戦前のB級映画は殆どが現存せず残念。

紛失やパクリは日常茶飯事。戦前の映画事情


しかし、こうした戦前映画の調査は大変に難しいのだとか。なぜなら『紛失やパクリは日常茶飯事』だったからです。

同じ著者の『映画探偵: 失われた戦前日本映画を捜して』を読むと、戦前は映画のフィルムを上映側が勝手に編集したり、パクったり、捨てちゃったりが普通に行われていたのだとか。もちろん、戦争による紛失も多いのですが、そうした事情で正確なストーリーもわからないSF映画が多いのは残念です。

映画探偵: 失われた戦前日本映画を捜して

中古価格
¥1,649から
(2019/8/27 23:22時点)




そんな中、お金持ちの趣味で撮影したアマチュア映画の方が商業映画より保存がよく、クオリティが高い映画があるのだそう。


円谷英二がゴジラを創るまで


円谷英二の師匠・枝正義郎がつくった幻の映画「大仏徘国」は、大仏が起き上がり街を歩くというただそれだけの映画なのですが、スチール写真はインパクトが強く、見てみたくなります。ただこれもフィルムが残っていません。2018年にリメイクされましたが、映像をみると牛久大仏が歩いたらこんな感じではないかと。

大きな存在が徘徊する、というのは「ゴジラ」と通じるものがある気がします。



円谷英二は「ハワイ・マレー沖海戦」という戦争映画であまりに精巧な模型を作ってしまったがために、GHQが本物だと信じ込み公職追放なったり苦労したけれど、ちゃくちゃくと特撮技術を磨き「ゴジラ」を作り出しました。

こうしてみると、SF映画の黎明期は試行錯誤、遅い歩みではありましたが、その遺伝子は少しずつ蓄えられ、やがて「ゴジラ」でカンブリア紀の生物のごとく大爆発をおこした、そんな風に感じました。

ゴジラ(昭和29年度作品) <東宝Blu-ray名作セレクション>

中古価格
¥3,826から
(2019/8/27 23:13時点)


JUGEMテーマ:最近読んだ本



2019.08.19 Monday

もしかしたらこれは、新しい世界の新しい神話なのかもしれない。[映画]天気の子

新海誠監督の映画「天気の子」鑑賞。「君の名は。」はラブストーリーでしたが、「天気の子」はラブストーリーだけじゃなくて、世界のあり方について考えさせられる物語でした。

さて「天気の子」のストーリーですが、クライマックス以外は、ほぼ予告編や紹介映像のとおりです。ただ劇中の「世界の形を決定的に変えてしまったんだ」の本当の意味を知ったときは衝撃でした。

「若さ」は無謀


正直、この話は世代によって見どころが違うかもしれません。中年の私が見ると若者たちの無謀さが心配になりました。家出少年の帆高は、「東京に来たらなんとかなる!」と甘い考えですぐ行き詰まってしまったし。

帆高くんの家出の理由も映画では明確にされていません。小説だとそのあたりのことも書かれているらしいので読んで補完したい。


困窮する陽菜を助けようと、「晴れ女ビジネス」初めたときも「おいおい、これじゃあいつか、しっぺ返しをくらうぞ」とおばちゃんは心配してしまったのです。

だって、神との契約には古今東西、「代償」が必要なのだから…

神なき世界の新しい神話(ここからネタバレ)


雨乞いや洪水、地鎮など、神との契約の代償として、昔から人は神へ供物を捧げてきました。民俗学や歴史学によると、それらはたいてい「人柱」、人の命です。

諸星大二郎のマンガ「詔命」は、地震を抑えるため人柱に選ばれてしまった男の話ですし、泉鏡花の「夜叉ヶ池」は、神との契約を守る娘が、村人の間違った生贄信仰によって辱めを受けそうになります。

天候をコントロールできる陽菜もまた、巫女であり神への生贄となる運命でした。それを帆高は奪い返してしまいます。普通の神話ならば「人柱」を助けたものは「英雄」となるのですが、帆高はクシナダヒメを奪い返し、ヤマタノオロチを退治したスサノオのような神でも、英雄でもない。

だから、ふたりは世界の形を決定的に変えてしまうのです。その代償として、雨が続いた東京都心は水没してしまう。

彼らはもう神の助けを得ることはできず、自分たちが変えてしまった世界を受け入れ、新しい世界の、新しい神話をつくっていくのかもしれない。

沈んでしまった東京と、そこで現実を受け入れて生きる人々は、近年頻発する災害を暗示しているようにもとれました。

世界が変わってしまったら、自分たちはどう生きるのか。
そんなメッセージを投げられた気がして、映画を見終わったあとも、世界のあり方を私は今も考えています。


泉鏡花の「夜叉ヶ池」も、神との契約よりも恋人を選んだ男女が描かれます。封建的な明治時代では契約を破ったことで悲劇的な結末を迎えてしまいます。
令和時代の「天気の子」では、神よりも人を選んだ主人公たちがはき残ります。そこが現代的な夜叉ヶ池みたいだなと思いました。



JUGEMテーマ:漫画/アニメ

2019.08.18 Sunday

「夏」が舞台の小説いろいろ

避暑地の出来事、真夏の逃避行、夏休みの子どもたちの冒険、夏の悲しい失踪事件、傷ついた大人の夏休み…など、さまざまな夏の小説を集めてみました。


桃源郷の短期滞在客


100年前のニューヨーク。避暑地の混雑を避け、都会のホテルで過ごす上流階級の婦人と紳士のお話。どんでん返しあり。


エルニーニョ


暴力を振るう彼氏から逃げだした主人公が、逃亡先で不思議な少年・ニノと出会う。ニノもまた誰かに追われていた。二人の逃避行と非日常が交錯する不思議なお話。



くらのかみ


耕介は、夏休みに田舎の大叔父の家を訪れたとき、いとこたち4人と遊んでいると、いつの間にか一人子どもが増えていることに気がつく。旧家で起こる事件と、座敷わらし、ミステリとホラーが両方楽しめる本です。




幻夏


ドラマ「相棒」の脚本家・太田愛さんが描くクライム・サスペンス。小学6年の夏、相馬は近くに引っ越してきた尚と拓という兄弟と友だちになった。しかし、二学期の始業式の日、尚は忽然と姿を消してしまった…。

それから23年後。相馬の友人、私立探偵の鑓水のもとに、23年前に失踪した息子・尚を探して欲しいという風変わりな依頼が尚の母親から舞い込む。

権力に翻弄される家族と、その復讐劇。せつない話です。



風まちのひと


妻の不倫や母の死で心に傷を追った須賀は、母の家で風変わりなおばちゃんと出会う。「福の神のペコちゃん」と呼ばれる喜美子の献身的な世話で須賀は徐々に生きる力を取り戻しくのだが…。

心が疲れた大人の夏休みの物語。



JUGEMテーマ:オススメの本



2019.08.17 Saturday

蓮丈那智フィールドファイルIII 『写楽・考』 北森鴻

美貌の民俗学者・蓮丈那智が殺人と歴史の謎を解く、蓮丈那智フィールドファイル『写楽・考』

前作『触身仏』から新たに研究室の助手となった佐江由美子が加わったり、これまで名前が伏せられていた教務の元民俗学者の名前が判明するなど新たな変化があったものの、助手兼ワトソン役の内藤くんは相変わらず蓮杖先生に振り回されています。

優秀な佐江さんが加わったことで戦々恐々としたり、ちょっと狂言回し的な役割が強くなってきたのはちょっとかわいそうな気も…



写楽・考─蓮丈那智フィールドファイルII あらすじ



憑代忌


「憑代」とは神をその中に宿す器物のこと。お祭りのお神輿なども「憑代」の一種ですね。
那智先生に依頼され、内藤と佐江だけである旧家にある憑代の人形の調査に向かうものの、そこで殺人事件に巻き込まれてしまう。
また、大学内では単位を落とさぬおまじないとして、学生の間に内藤の写真を撮ってそれを破損する行為が流行っていて…。

那智先生の写真は手に入らないし、怖い。なので代替品として内藤くんの写真が使われたらしいのだけど、それが「憑代の変遷」という事件のヒントにつながっていきます。

湖底忌


湖の底に沈む鳥居とそれにまつわる事件。そもそも鳥居とは何なのか、一節には神が変化した鳥のとまる場所とも言われますが、ここでは、鳥居そのものが信仰の対象であり、現実と非現実を分けるモノという説を唱えています。

神社も鳥居も私達の身近にあるけれど、説明をしろと言われたらよくわからないものですね。

棄神祭


那智先生が学生の頃、フィールドワークで訪れた旧家で起こった殺人事件。過去に決着をつけるべく那智先生が再度謎を解くという展開。その家には神像を壊すという一風変わった行事があり、それを撮影したビデオに謎をとく鍵があるらしい。

「破壊される神」とは何を表しているのか。日本神話で殺されることで食物を生み出した大気都比売神を例に取り、崇めるべき神が破壊される謎に迫ります。

写楽・考


民俗学的モチーフではなく、地方の資産家の失踪事件と、資産家の持つ美術品についての謎を、蓮丈那智研究室と元民俗学者の教務職員・高杉が追っていきます。

タイトルに写楽がついているのに、実は写楽は最後まででてきません。最後でようやく謎が解けるのですが、これだけ少し毛色の違う感じがしました。



JUGEMテーマ:最近読んだ本


Calendar

S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031    
<< December 2019 >>

おすすめ記事

検索

Archive

Selected Entry

Comment

  • 『白銀の墟 玄の月』第二巻 感想(ネタバレ)
    日月
  • 『白銀の墟 玄の月』第二巻 感想(ネタバレ)
    苗坊
  • あさイチの『スーパー主婦ワールド』で紹介されたイヴォンヌブレンド洗剤が超便利!
    日月
  • あさイチの『スーパー主婦ワールド』で紹介されたイヴォンヌブレンド洗剤が超便利!
    ミィママ
  • 戦前の少女雑誌の美しさ『彼方の友へ』伊吹有喜
    Roko
  • 音楽をことばで表す『羊と鋼の森』宮下 奈都
    日月
  • 音楽をことばで表す『羊と鋼の森』宮下 奈都
    苗坊
  • ハチミツとクローバー外伝と3月のライオン14巻でハチクロメンバーその後のその後
    日月
  • ハチミツとクローバー外伝と3月のライオン14巻でハチクロメンバーその後のその後
    あひる
  • ビブリア古書堂、その後の物語。『ビブリア古書堂の事件手帖 扉子と不思議な客人たち』三上 延
    日月

Link

Profile

Search

Other

Powered

無料ブログ作成サービス JUGEM