八咫烏シリーズ第二部『望月の烏』(ややネタバレ)阿部智里
2024.02.23 Friday
八咫烏シリーズ第二部『望月の烏』。時間軸でいうと『追憶の烏』の10数年後、『楽園の烏』の少し前といったところです。
まだ発売されたばかりなので、できるだけネタバレを少なく書いたつもりですが、未読の方はぜひ、『望月の烏』後に御覧ください。
ネタバレ考察もいずれ書きたいと思います。
金鳥代・凪彦の后選び「登殿」が行われることになり、東家、南家、北家、西家から新たな姫が選ばれ桜花宮にやってくる。
しかし、以前の「登殿」とは異なり、政治的な取り決めにより皇后と側室(それに羽母まで)に選ばれる家はあらかじめ決まっていた。
そんな中、美貌の落女(男として朝廷で働く女性)・澄生(すみき)が注目を集め、凪彦もまた、彼女の聡明さに興味を持つようになり…。
今回、私が一番驚いた人物が凪彦でした。『追憶の烏』で奈月彦が暗殺され、貴族たちによって担ぎ上げられた少年帝。
母親は「あの」あせびの君で、父親は凡庸な捺美彦です。さぞかし母親の影響や博陸候の言いなりの愚者だと思っていたら、存外に彼は聡明な人物でした。
平安時代で例えるなら、破天荒な花山帝ではなく、人間関係のバランスを重視した一条帝のような人物です。
澄生の言葉に耳を傾け、博陸候の政治に対する疑問を抱くようになるのですが、博陸候にかかってはなすすべもありません。
しかし、仮にも最高権力者である彼が現状の問題に目覚めたことは無駄ではなかったのでしょう。
物語は澄生(すみき)が落女として文字通り宮中を引っ掻き回していきます。綺羅絵(山内の浮世絵のようなもの)の版元や絵師に近づいたり、凪彦に博陸候の政治の問題を指摘したり。
・綺羅絵についてはこちら『きらをきそう』
博陸候は彼女を泳がせておくのが得策と考えたようです。その方が敵味方が見極めやすくなるから。
それは『烏は主を選ばない』で、彼の主である奈月彦が行った手法と同じですね。
そして、ここからは私の想像なのですが、もしかしたら雪哉(雪斎)は、自分の「敵」を集めて殺すのではなく、「味方」を集めてもろとも自らも滅びようとしているのではないかと。
自らが誘蛾灯となって害虫を引き寄せ、今までの山内を壊し、新しい山内を紫苑の宮に渡すつもりだとしたら…。
そんな風に思えて仕方がないんです。
『烏に単は似合わない』でお后候補として敵対していた、あせびと真赭の薄が登場します。あせびは今や大紫の御前と呼ばれる山内で最も地位の高い女性として、40を超えた今も少女のように美しい。
一方で真赭の薄は年相応に老けてはいるものの、はつらつとして若々しく、新たに2人の息子に恵まれ夫とともに貧民救済の仕事に励んでいます。
真赭の薄の刻んだシワや白髪は、彼女の生き様の勲章のように描かれているにとても感銘を受けました。幸せの定義は人それぞれですが、あせびと真赭の薄、果たしてどちらが幸せなのでしょうね。
あせびは多くを手に入れましたが、最も欲したものは最後まで得られなかったのですから。
・『烏に単衣は似合わない』
・『烏は主を選ばない』
・『黄金の烏』
・『空棺の烏』
・『玉依姫』
・『弥栄の烏』
・第二部『楽園の烏』
・第二部『追憶の烏』
・第二部『烏の緑羽』
・『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
・『烏百花 白百合の章 八咫烏外伝』
・八咫烏シリーズ外伝『さわべりのきじん』
・八咫烏シリーズ外伝『きらをきそう』
・幕間『烏の山』
・幕間『山を下りて』
・コミカライズ『烏に単は似合わない』
・コミカライズ『烏は主を選ばない1』
・コミカライズ『烏は主を選ばない2』
・コミカライズ『烏は主を選ばない3』
・コミカライズ『烏は主を選ばない4』
・『羽の生えた想像力 阿部智里BOOK(電子書籍)』
・『八咫烏シリーズファンブック』
・『追憶の烏』ネタバレトークイベント感想
・八咫烏シリーズ展覧会&トークショー2023
まだ発売されたばかりなので、できるだけネタバレを少なく書いたつもりですが、未読の方はぜひ、『望月の烏』後に御覧ください。
ネタバレ考察もいずれ書きたいと思います。
『望月の烏』あらすじ
金鳥代・凪彦の后選び「登殿」が行われることになり、東家、南家、北家、西家から新たな姫が選ばれ桜花宮にやってくる。
しかし、以前の「登殿」とは異なり、政治的な取り決めにより皇后と側室(それに羽母まで)に選ばれる家はあらかじめ決まっていた。
そんな中、美貌の落女(男として朝廷で働く女性)・澄生(すみき)が注目を集め、凪彦もまた、彼女の聡明さに興味を持つようになり…。
金鳥代凪彦(ややネタバレ)
今回、私が一番驚いた人物が凪彦でした。『追憶の烏』で奈月彦が暗殺され、貴族たちによって担ぎ上げられた少年帝。
母親は「あの」あせびの君で、父親は凡庸な捺美彦です。さぞかし母親の影響や博陸候の言いなりの愚者だと思っていたら、存外に彼は聡明な人物でした。
平安時代で例えるなら、破天荒な花山帝ではなく、人間関係のバランスを重視した一条帝のような人物です。
澄生の言葉に耳を傾け、博陸候の政治に対する疑問を抱くようになるのですが、博陸候にかかってはなすすべもありません。
しかし、仮にも最高権力者である彼が現状の問題に目覚めたことは無駄ではなかったのでしょう。
博陸候雪斎の意図
物語は澄生(すみき)が落女として文字通り宮中を引っ掻き回していきます。綺羅絵(山内の浮世絵のようなもの)の版元や絵師に近づいたり、凪彦に博陸候の政治の問題を指摘したり。
・綺羅絵についてはこちら『きらをきそう』
博陸候は彼女を泳がせておくのが得策と考えたようです。その方が敵味方が見極めやすくなるから。
それは『烏は主を選ばない』で、彼の主である奈月彦が行った手法と同じですね。
そして、ここからは私の想像なのですが、もしかしたら雪哉(雪斎)は、自分の「敵」を集めて殺すのではなく、「味方」を集めてもろとも自らも滅びようとしているのではないかと。
自らが誘蛾灯となって害虫を引き寄せ、今までの山内を壊し、新しい山内を紫苑の宮に渡すつもりだとしたら…。
そんな風に思えて仕方がないんです。
あせびと真赭の薄(ややネタバレ)
『烏に単は似合わない』でお后候補として敵対していた、あせびと真赭の薄が登場します。あせびは今や大紫の御前と呼ばれる山内で最も地位の高い女性として、40を超えた今も少女のように美しい。
一方で真赭の薄は年相応に老けてはいるものの、はつらつとして若々しく、新たに2人の息子に恵まれ夫とともに貧民救済の仕事に励んでいます。
真赭の薄の刻んだシワや白髪は、彼女の生き様の勲章のように描かれているにとても感銘を受けました。幸せの定義は人それぞれですが、あせびと真赭の薄、果たしてどちらが幸せなのでしょうね。
あせびは多くを手に入れましたが、最も欲したものは最後まで得られなかったのですから。
八咫烏シリーズ
・『烏に単衣は似合わない』
・『烏は主を選ばない』
・『黄金の烏』
・『空棺の烏』
・『玉依姫』
・『弥栄の烏』
・第二部『楽園の烏』
・第二部『追憶の烏』
・第二部『烏の緑羽』
・『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
・『烏百花 白百合の章 八咫烏外伝』
・八咫烏シリーズ外伝『さわべりのきじん』
・八咫烏シリーズ外伝『きらをきそう』
・幕間『烏の山』
・幕間『山を下りて』
・コミカライズ『烏に単は似合わない』
・コミカライズ『烏は主を選ばない1』
・コミカライズ『烏は主を選ばない2』
・コミカライズ『烏は主を選ばない3』
・コミカライズ『烏は主を選ばない4』
・『羽の生えた想像力 阿部智里BOOK(電子書籍)』
・『八咫烏シリーズファンブック』
・『追憶の烏』ネタバレトークイベント感想
・八咫烏シリーズ展覧会&トークショー2023