珈琲にまつわるエッセイ『こぽこぽ、珈琲』

2020.08.02 Sunday

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    『こぽこぽ、珈琲』は、珈琲をテーマにした随筆、エッセイを集めた本ですが、ひとくちに「珈琲」といっても、作家によって表現はさまざま。

    喫茶店の珈琲が好きな方、サイフォンなど珈琲を入れる器具にこだわる方、お気に入りの喫茶店の紹介、コーヒーを飲みながらの会話など、珈琲が店によって味が異なるように、随筆もまた、1作ずつ味わいが異なります。
    ぜひとも、珈琲を飲みながら味わいたい本です。



    人気作家の、珈琲にまつわる日常


    野呂邦暢


    名随筆「小さな町にて」にも登場する、野呂邦暢さんの独身の叔父。野呂さんが学生時代、叔父と映画の帰りに喫茶店に立ち寄るエピソードが書かれていました。野呂さんはこの博学な叔父から、文学やクラシック、そして珈琲の薫陶を受けたようです。




    湊かなえ


    言わずとしれたイヤミスの女王。湊かなえさん作品は苦手で、エッセイとはいえ、どんな後味の悪い展開が待っているのか…、もしかしたらショックで今後珈琲を飲めなくなったらどうしよう…などと、けっこう勇気をもって読み始めたところ、中身は楽しいエッセイでした。

    湊さんがエスプレッソマシンを景品で当ててから、美味しいおうちコーヒーを楽しもうとする様子が、やさしくて楽しい文章で描かれています。ただ、そういう「やさしくて楽しい」人が書くからこそ、イヤミスが恐ろしいんだろうな…

    戦争と珈琲


    『こぽこぽ、珈琲』では、時代もジャンルもさまざまな文章が掲載されています。中には大正時代に書かれたものや、戦時中のエピソードも。

    塚本邦雄という歌人が残した文章によると、この方は大のコーヒー好きで、戦争中は「珈琲が飲めそうだ」という理由だけで南方の戦線に粋、コーヒーをしこたま飲んで胃を壊して入院、戦後もコーヒーを求めて横浜まで行き、進駐軍払い下げの出がらしを飲んでいたのだとか。

    野呂邦暢さんも戦後の珈琲について「大豆粕を挽いたような粉末」が売られていたと書いてあります。
    けれども、そんな粗悪品でも人々は珈琲を欲していたのでしょうね。

    老舗喫茶店の話


    ロージナ茶房と山口瞳


    国立の老舗喫茶店、ロージナ茶房。私も何度か訪れたことがありますが、避暑地のコテージを思わせる落ち着いた木造の屋内と、美味しい珈琲、軽食のサンドイッチは昔ながらのおいしさです。

    ナポリタンはアルミの楕円皿にどーんと。国立は学生の街なので、学生がお腹いっぱい食べられるように工夫したのだとか。

    エッセイでは山口瞳さんと、ロージナ茶房創のマスター伊藤氏との交流が描かれています。伊藤さんは骨董の目利きで、店内には厳選された骨董品が飾られていたそうです。

    京都のイノダコーヒ


    イノダコーヒといえば、分厚いカップに最初からミルクと砂糖が入っている京都の老舗珈琲店。
    イノダコーヒは若い頃に何度か訪れたことがありますが、エッセイと同じく常連の旦那衆が新聞や本を広げ、思い思いに自分の時間を楽しんでいる姿が、なんだか外国に来たような、自分にはない文化を見せられた気がしたものです。

    職人の街であるイノダコーヒでは、店側がこだわりを見せないことなのだとか。そんなところが旅人には興味深く、また敷居の高い空間でもあります。

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    『ビブリア古書堂の事件手帖II〜扉子と空白の時〜』三上 延

    2020.07.20 Monday

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      『ビブリア古書堂の事件手帖II〜扉子と空白の時〜』は、横溝正史の幻の書籍『雪割草』をモチーフに横溝小説のような家族の葛藤がテーマのミステリ。今回は成長した扉子ちゃんも活躍します。

      『ビブリア古書堂の事件手帖II〜扉子と空白の時〜』あらすじ


      前作では小学生だった栞子さん娘・扉子ちゃんが高校生になっており、そこから物語は過去へさかのぼっていきます。

      扉子は祖母・篠川智恵子から父・大輔が書いたマイブックと持ってくるよう言われる。友人家族が営むブックカフェで祖母を待つ間、マイブックを読みふける扉子。そこには過去、ビブリア古書堂が遭遇した本にまつわる「ビブリア古書堂の事件手帖」が書かれていた…。




      事実と虚構の二重構造


      この物語は、横溝正史の『雪割草』にまつわる時間の二重構造が興味深い筋立てでした。また、新聞小説を切り抜いて作る「自装本」というジャンルがあるのも初めて知りました。

      当時は新聞小説がすべて単行本になるわけではなく、自分で本や新聞の切り抜きを装丁する文化があったようですね。そういえば、江戸川乱歩も、新聞の切り抜きなどをスクラップにして装丁した『貼雑年譜』を作っていましたっけ。


      『第一章 雪割草I』


      上島家の当主・上島秋世が亡くなった。葬儀の歳、彼女が甥に譲るはずの『雪割草』の自装本が紛失してしまう。本の捜索を依頼された栞子さんと大輔は、横溝小説のようなそっくりな双子の老女に振り回されてしまう。

      第一章では、2017年に発見される以前の2012年を舞台に、世に存在しない『雪割草』を自装本として登場させ、そこに横溝正史の自筆原稿を絡めたミステリになっています。

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      『第三章 雪割草II』


      『雪割草』の原稿が発見され、再販後の2021年。9年前に解決できず、依頼人の家族にも深い溝ができたことを後悔していた栞子さんが、ふたたび上島家から依頼をうけることで、止まっていた事件が動きだします。

      ビブリア古書堂の事件手帖4 栞子さんと二つの顔』でも、乱歩の架空の小説が出てきますが、ここではそのアイデアをさらに発展させ、未来の事実から架空の過去が描かれていくところが興味深かったです。


      横溝正史の原稿を書くときの習慣など、史実や真実を交えつつ架空のミステリ要素を配置しているんですが、それが見事で。本当に『雪割草』の自筆原稿があるんじゃないかと思えるんですよ。

      扉子というキャラクター


      子どもが親から引き継いだ能力を、パワーアップさせていくのがネクストジェネレーションものの定番ですが、扉子ちゃんもおそらく、篠川家で最強になるのかもしれません。

      ・智恵子さん…推理は本のため。それ以外には使わない
      ・栞子さん…推理は人のため。しかし、自分の能力(や美貌)に無自覚なところが事件につながる。極端な人見知り。

      そして、扉子ちゃんです。彼女も卓越した記憶力と推理力の片鱗をみせていますが、祖母、母と違うのは人とコミュニケーションがきちんと取れるところだと思います。

      その証拠に『獄門島』をモチーフにした話では、きちんと対等な友だちをつくっています。

      栞子さんは、夫の大輔くんをはじめ、周囲の人はみな、彼女を放っておけない「保護者」ポジションだし、智恵子とさんに関しては、友だちと呼べるひとがいるか…謎です。

      そして、扉子ちゃんは父親が書いた「事件手帖」の内容だけで、両親でも時間がかかった謎を解いてしまいます。母の推理力、父の洞察力を受け継いだ扉子ちゃんには、これからどんな本の謎が待っているんでしょうか…


      今後の展開


      もともと作者の三上延さんは「ビブリアの後日譚と前日譚を書くつもり」とコメントしていました。

      シリーズ後半で、栞子さんの祖父でありビブリア古書堂の創始者のエピソードが書かれていたので、私は戦前、戦後の古書の話が始まるのかとワクワクしていたのです。(そのため、難しい専門書も読んだ)

      しかし、扉子ちゃんという最強のキャラクターが現われたので、これから『ビブリア古書堂の事件手帖II』として彼女の推理を生かしたラノベ風味の学園推理モノとかになるのかな…。

      そりゃ、おじいさんの話より、美少女の方が受けがいいよな…とがっかりしていたら、これから前日譚も書かれるとあとがきにありました。うれしい…。

      そりゃ、理由が無ければ「あの」智恵子さんが、わざわざ孫に会いに来るわけがないもんな…今後の展開が楽しみです。

      ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ


      『ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち〜』
      『ビブリア古書堂の事件手帖2〜栞子さんと謎めく日常〜』
      『ビブリア古書堂の事件手帖3〜栞子さんと消えない絆〜』
      『ビブリア古書堂の事件手帖4〜栞子さん2つの顔』
      『ビブリア古書堂の事件手帖5〜栞子さんと繋がりの時〜』
      『ビブリア古書堂の事件手帖6〜栞子さんと巡るさだめ〜』 
      『ビブリア古書堂の事件手帖7〜栞子さんと果てない舞台〜』
      『ビブリア古書堂の事件手帖〜扉子と不思議な客人たち〜』

      JUGEMテーマ:ミステリ

      八咫烏シリーズ外伝『ちはやのだんまり』阿部智里

      2020.07.15 Wednesday

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        八咫烏シリーズ外伝『ちはやのだんまり』。前回『はるのとこやみ』の、シリアスな話とは真逆の、ほほえましいラブコメに仕上がっています。登場人物がみんなかわいらしい…。

        『ちはやのだんまり』あらすじ


        雪哉と同じ勁草院出身の千早は、その戦闘力の高さから若君の護衛をつとめるほどの武人となったが、盲目の妹のことになると暴走しがち。そんな大事な妹が『結婚したい』と連れてきた相手が、まさかのチャラ男…

        結の相手、シンは定職にもつかず、結の好きなところを聞かれると「顔と声」と言う軽薄さ。もちろん反対する千早と結はその後大ゲンカ。

        千早の性格を知っている明留は、なんとか二人の仲をおさめようと、シンを呼び出すのだが…



        苦労してきた兄妹と、苦労症の姉弟


        阿部智里さんはこの兄妹が好きらしく、ちょくちょく外伝に書かれています。結ちゃんのお相手のシンくん、面白いキャラですね。「EXITの兼近か!」とツッコミを入れながら読んでいました。かねちと同じく、チャラそうに見えるけれど実は…なんですけどね。

        それにしても明留くん。四大貴族の、それも直系の御曹司だというのに、まわりから振り回され…いや、自分から首をつっこむのか、調停役が板についてきちゃいましたね。真穂の薄とともに、姉弟そろって苦労性だなあ…。

        明留と千早が出会う勁草院での学園ストーリー『空棺の烏』。明留くんも最初はなまいきだったのですが…
        真穂の薄と明留は、出自よりも自らの体験を通じて成長していくキャラクターなんですよね。そこが共感がもてます。

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        弥栄の烏、その後の話


        『ちはやのだんまり』は、時系列的には、最終話『弥栄の烏』の後日譚です。その後、奈月彦が金鳥となり、浜木綿が皇后になっています。

        しかし、大紫の御前たちは、いまだ奈月彦の追い落としを諦めていないようで、子育ては宮中ではなくゆかりの寺で行っています。

        弥栄の烏』であれだけ痛い目をみたっていうのに、手を取り合うことなく内輪で争っているんですかね…。未来が語られる自作の八咫烏シリーズではどうなっているのか…

        八咫烏シリーズ


        『烏に単衣は似合わない』
        『烏は主を選ばない』
        『黄金の烏』
        『空棺の烏』
        『玉依姫』
        『弥栄の烏』
        外伝『すみのさくら』
        外伝『しのぶひと』
        外伝『ふゆきにおもう』
        外伝『まつばちりて』
        外伝『あきのあやぎぬ』
        外伝『ふゆのことら』
        外伝『なつのゆうばえ』
        外伝『はるのとこやみ』

        江戸川乱歩著、宮崎駿解説『幽霊塔』

        2020.07.13 Monday

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          以前、黒岩涙香版の『幽霊塔』を読み、明治の独特な筆記体に苦しみつつも、物語の面白さに引き込まれたことを感想に書きました。

          こちらの『幽霊塔』は、涙香版をベースに江戸川乱歩がリライトをした、現代版(といっても昭和初期)の『幽霊塔』です。



          『幽霊塔』のざっくりとしたあらすじ


          北川光雄は叔父児玉丈太郎が買い取った『幽霊塔』と呼ばれる古い屋敷を視察に行った際、そこで不思議な美女と出会う。彼女は時計塔の秘密を解き明かすよう、光雄に言い残し去っていく。

          『幽霊塔』は幕末、渡海屋という商人がつくり、秘密の隠し場所へ財宝を隠したものの、そのまま行方不明となった伝説が残っていた。その後も、塔を所有した長田鉄という老婆が養女に殺され、その幽霊が出るといういわくつきのたてものであった。

          はたして、北川光雄のまわりでも奇怪な事件が起こり、その謎の中心にあの美女三浦栄子がいたのだった…。

          江戸川乱歩版『幽霊塔』のおもしろさ


          黒岩涙香版は、登場人物が日本名なのに舞台はイギリスだとか、時代がかった言い回しなど、現代の私たちが読むと混乱する文章が多々ありました。

          いっぽう、乱歩版は現代語で書かれているし、時代も下っているので現代の言い回しに近く(盆栽室→温室など)、混乱することなく読みすすめることができました。ありがとう乱歩先生…

          涙香版は新聞小説だったので、一話ごとに派手な展開が「盛って」あるのですが、乱歩版は盛られすぎた部分を削ったことで、読みやすく、恐ろしさや謎に集中することができました。

          涙香版が弁士が語る活動写真だとすれば、乱歩版はヒッチコックのサスペンス映画のような雰囲気です。

          涙香版『幽霊塔』の感想

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          まんがあり、絵コンテあり、超豪華な宮崎駿の解説


          岩波書店から出版された『幽霊塔』は、宮崎駿の口絵と解説がついています。ただ解説といっても、全ページカラーの幽霊塔の歴史と解説、原作『灰色の女』と涙香の『幽霊塔』、乱歩版への流れ、時計塔のデザインと断面図まで、とにかくもりだくさん。

          しまいには、ヒロインと主人公の出会いのシーンを絵コンテに起こしてあって、映画のビジュアルブックのような豪華さです。

          原作『灰色の女』から涙香版、乱歩版の『幽霊塔』へ、そしてカリオストロへ。通俗文化とよばれるエンターテインメント作品一連の流れが紹介されています。

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          面白いのは、宮崎監督は幼い頃に乱歩の『幽霊塔』を読んで影響を受け、その江戸川乱歩もまた、幼い頃に黒岩涙香の『幽霊塔』を夢中になって読んでいたそうです。(そこの再現まんがが面白い)

          その黒岩涙香はというと、イギリスの小説を勝手に翻訳と脚色を加えまくり(当時著作権なんてものは無視されていた)大衆に受けそうな小説をジャンジャン量産していたのだとか。

          明治のはじめは西洋文化がどっと押し寄せてきたものの、まだ江戸文化が根強かったので、涙香版の幽霊塔は当時の読者にわかりやすいよう「外国が舞台で、日本人名の登場人物」という、今読むとねじれた構造になっていたのだそうです。

          こうして通俗文化の流れが、人から人へ、小説家からアニメ監督へと伝わっていき大きな流れになっているのは感慨深いものがあります。

          それにしても宮崎監督、よほど時計塔が好きなのか、涙香版、乱歩版の時計塔に加え、自らデザインした時計との間で何パターンもの時計塔を描いています。

          もういっそ、映画化してほしい…。

          漫画『烏に単は似合わない』松崎夏未

          2020.07.07 Tuesday

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            阿部智里さんのファンタジーミステリ『烏に単は似合わない』のコミカライズ版が全4巻が完結。
            原作の雰囲気と展開をいかしつつ、独自の表現が素晴らしいまんがでした。

            いままで脳内で想像していた登場人物や、桜花宮の壮麗なお屋敷、宮烏たちの美しい衣装など、実際に絵になることでわかりやすく美しく、そして恐ろしく表現されています。



            『烏に単は似合わない』あらすじ


            人の姿をとる八咫烏の一族が暮らす山内。世継ぎの若君の正室「桜の君」を決める「登殿」には、山内の東西南北を納める大貴族の家から四人の姫君が選ばれる。

            東家の姫・あせびは、姉の代わりに急きょ「登殿」することになり、山内の中央、桜花宮へと向かう。夏殿には南家、秋殿には西家、冬殿には北家と、それぞれの家を背負った姫たちの美しくも雅な戦いの始まりだった。

            山内の事情に疎いあせびは、はじめのうち桜花宮の雅な暮らしに戸惑うものの、他家の姫たちと競いつつ交流を深めていく。やがて政治や家の事情が絡みあい、姫たちの闘争が深まるが、かんじんの若君は現れない。そして桜花宮で恐ろしい出来事が…

            詳しくはこちら→小説『烏に単は似合わない』



            コミカライズ『烏に単は似合わない』の魅力


            松崎夏未さんの表現力、すばらしいですね。もともと阿部智里作品のファンで、以前から八咫烏シリーズの絵をSNSでアップしていたのを阿部智里先生がみて、コミカライズに抜擢されたんだとか。

            作品のファンということで物語の理解度が高く、世界の再現力がとても高い。八咫烏シリーズの大発明システム「羽衣」から八咫烏に変わる描写もすばらしい。

            「羽衣」とは


            「羽衣」は、八咫烏が鳥から人になるとき、意識でつくる仮の衣のようなもので、羽を变化させたような黒の着物姿になります。(ただし、貴族たちは烏の姿になることはないし、やりかたも知らない)

            通常、ファンタジー世界で獣から人になるときは裸になってしまうので、いったん服の着脱が必要です。

            しかし「羽衣」というシステムがあると、いちいち着替える必要がないので、物語を中断させずに先へすすめることができるし、ビジュアル的にも美しい。ほんとこの「羽衣」を発明した阿部智里さん、天才だわ…

            そして、今回、その「羽衣」のシステムが物語の重要な鍵になっています。

            特に素晴らしいのが後半の描写


            とくに私が好きなのが、後半の描写です。前半は美しく、優雅に競っていた姫たちが一転、感情をむき出しにしていくところが、本当に見事。

            特に白珠のキレっぷりと、藤浪の焦燥の表情が醜くていい。高貴な姫は感情を表に出さないように教育されているのですが、そうした彼女たちが、人目もはばからずに醜い表情をむきだしにする姿が迫力がありました。



            ここからネタバレ


            私は小説を読んでから漫画を読んだのですが、結末を知っているからこそ、あせびの愛らしくも無垢な姿が恐ろしく思えます。漫画でも彼女だけなんですよ。激しい感情の起伏を見せないのは。

            最後、謎解きが終わってあせびの涙するシーン、あの1ページはすごい。
            美しいあせびの泣く姿、彼女の下には、たくさんの八咫烏たちの屍が敷かれている。
            あの絵だけで、あせびという姫のすべてを表していますね…。

            外伝外伝『はるのとこやみ』では、本作にも登場したあせびの母、浮雲の話です。こちらも合わせて読むと、この母娘の行動にはゾッとさせられます…

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            コミカライズでは『烏は主を選ばない』』の主人公・雪哉も登場。この頃はまだ猫をかぶって…いや、初々しい少年のようでしたね。雪哉の話もコミカライズしてほしいです。



            八咫烏シリーズ


            『烏に単衣は似合わない』
            『烏は主を選ばない』
            『黄金の烏』
            『空棺の烏』
            『玉依姫』
            『弥栄の烏』
            外伝『すみのさくら』
            外伝『しのぶひと』
            外伝『ふゆきにおもう』
            外伝『まつばちりて』
            外伝『あきのあやぎぬ』
            外伝『ふゆのことら』
            外伝『なつのゆうばえ』
            外伝『はるのとこやみ』

            ローマ・ブリテン第二作『銀の枝』ローズマリー・サトクリフ

            2020.07.05 Sunday

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              ローマ後期のイギリスを舞台にした『第九軍団のワシ』。その主人公マーカス・アクイラの子孫たちが活躍するのが『銀の枝』の物語です。

              『銀の枝』あらすじ


              ローマ帝国の後期。外科医のジャスティンはローマからブリテンへ派遣される。そこで彼は百人隊長フラビウスと出会い、彼が同じイルカの紋章を持つ親族であることがわかり、親友となる。

              ジャスティンとフラビウスは、当時ブリテンを支配していた皇帝・カロウシウスに目をかけられていたが、ある日、狩りに行った島でアレクトス大臣が「海のオオカミ」と呼ばれるブリテンの男との密談を聞いてしまう。

              このことを皇帝に進言するものの、皇帝は受け入れず、反対に彼らは北の赴任地へ追いやられてしまう。やがて2人は、皇帝がアレクトスに暗殺されたことを知る。

              アレクトスに反旗を翻すため、彼らは行動を開始する。信頼する仲間を失い、長い苦難の末、家の祭壇の下から軍団の旗印である「ワシ」を発見し、寄せ集めの軍団の旗印とするのだった…。




              史実とフィクションの融合


              サトクリフは、発掘されたローマの遺物から、歴史を絡めた壮大な物語を作りだしてくれます。遺跡に刻まれた「槍の人 エビカトス」という文字から、部族をお追われながらも、部族のために戦う孤高の狩人が描かれました。

              旗印となる「ワシ」も、実際に発掘された場所につながるように、物語のクライマックスで登場します。
              それがもう、本当かっこいい。まるで歴史が、その場で作られていくのを見ているようでした。

              また、敵から追われた2人がそこから仲間を集めて、よせあつめの軍団を形成していき、最後に先祖のマーカスに導かれるように「ワシ」を反撃の旗印していくところも痛快でした。

              逆境から立ち上がり、寄せ集めの軍団をつくる展開は最近読んだ『十二国記』でもありましたが、やはり胸が躍る展開です。

              ただ、エビカトスの名前が史跡にどう残っていったのか、そのあたりも描いてほしかったかな…。

              『第九軍団のワシ』感想→

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              『菓子屋横丁月光荘 文鳥の宿』ほしおさなえ

              2020.06.26 Friday

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                川越を舞台にした菓子屋横丁月光荘シリーズ『文鳥の宿』。ほしおさなえさんの本を読むと、ほっとします。

                特に今年、2020年はコロナ禍のため行きたいところに行けず、会いたい人に会えないつらい時期。

                そんなときに「菓子屋横丁月光荘」をよむと緊張がほぐれて、なんだか自分も守人のように、やさしい人達に囲まれている気がして、こころが温かくなるんです。



                主人公の守人は、両親を早くに亡くし、厳格な祖父と折り合いが悪く孤独を抱えていた青年ですが、月光荘の管理人を任され、川越の人たちと関わることで少しずつ絆が芽生えていく姿が、読んでいて応援したくなります。

                また、守人は「家の声を聞くことができる」不思議な能力も孤独と同様に抱えていたわけですが、月光荘と言葉を交わすうちに、不思議なことだけれど、それを受け入れ、生きていくことでまた新しい縁が生まれた気がします。

                雛の家


                前作浮草の灯で関わることになった「二軒家」の整理を手伝うことになった守人は、大事にしまわれた雛人形をみつける。

                二軒家の整理が終わるまで月光荘で雛人形を飾ることになったが、なぜか三人官女の一体だけが見当たらない。家主の和田さんに確認しても、雛人形の存在自体知らないという。
                しかしある日、「二軒家」の三人官女を返しに来たという女性が月光荘に訪ねてきて…

                子どもの死亡率が高かった昔、ひな祭りは女の子の成長を願うものでした。和田さんのお母様の、亡くなった娘への思いと、その思いを託された女性。二人の女性をまもってきた雛人形。
                読んでいて涙があふれました。


                オカイコサマ


                大学時代の友人・田辺の誘いで川越の隣、川島町を訪れた守人。近代和風建築の遠山記念館を訪れた時、家から「モリアキ」と声をかけられる。最初は人違いだと思っていたが、田辺の祖父母の家を訪ねた時、また声がした。

                紹介された田辺の祖母は不思議なひとで、彼女もまた家の声を聞くことができる人だった。そして、「モリアキ」と守人とのつながりも…

                蚕のいる家


                関東近郊の農家の2階は、かつて蚕を飼育していました。私の親戚も養蚕をやっていたので、蚕が桑の葉を食べる雨のような音の描写を懐かしく読みました。

                田辺くんのおばあさまのやさしく、どこか浮世離れした雰囲気がかわいらしい。おばあさまとの出会いによって、秘密を抱えていた守人の心が軽くなって、なおかつ先祖とのつながりもわかったのは、読んでいるこちらもうれしくなりましたね。

                出会いはみんな縁になり、僕たちはつながりの中で生きている。


                文鳥の宿


                守人は大学院を終えた後の進路を考えるようになる。そんなとき、懇意にしている古書店「浮草」のスタッフから、元料亭だった旅館のリーフレットづくりの手伝いを頼まれることに。

                守人が浮草のスタッフとべんてんちゃん、宿のオーナー美里さんと話し合い、いろいろな企画やアイデアを実現していくようすが、ワクワクします。こちらも参加している気分になれる。

                将来のことについて、まだ悩みはつきない守人ですが、せっかくできた川越での縁を活かす仕事についてほしいなと思います。

                実際に川越では古民家を利用した宿やゲストハウスが増えていて、宿泊だけではなく、地域やお客さんとの絆を大事にしています。また、川越の夜の風景は昼間と違ってしずかできれいなので興味のある方は行ってみてはいかがでっしょう。

                観光だけで帰るのはもったいない!川越は「夜」も面白いのです
                日帰り観光の川越で、あえて宿泊する3つのメリット

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                レビューポータル「MONO-PORTAL」

                ハッカ油+布マスクで清涼感

                2020.06.21 Sunday

                0

                  布マスクを少しでも涼しくしたい


                  毎年、夏になるとミントの香りのハッカ油利用法として、おしぼりや素焼きのストーンをご紹介してきました。
                  しかし今年はコロナ禍の影響で、布マスクにもハッカ油を利用できないか試してみました。

                  今はたくさんの冷感布マスクが販売されているので、どれが涼しくて使いやすいか、いろいろ購入して使用感を試しています。

                  冷感マスクの使用感


                  最近購入した絹マスク。ちょっとお高めですが、ワイヤー入りで形がしっかりしているし、厚みの割にはけっこう涼しくて愛用しています。

                  マスク 涼やか 洗える 涼感 冷感 夏用 日本製 絹マスク シルクマスク おやすみマスク 多重構造 フィルター ノーズワイヤー入り 対策 繰り返し使える 絹 シルク 爽やか 在庫あり 小杉織物 あす楽

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                  感想(92件)




                  ハッカ油、布マスク、ジップロック


                  ハッカ油は清涼感と冷感を感じることができるのですが、マスクに直接スプレーしてしまうと匂いがきつすぎるし、吹きかけた部分が肌につくとヒリヒリして、何度も痛い目をみてきました。

                  なにかいい方法はないだろうか…と思った時、洗った布マスクの保存用に使っていたジップロックの中にハッカ油をスプレーしたところ、これがちょうどいい!

                  ジップロック内にハッカ油をスプレーしてから布マスクをいれると、ちょうどいい感じでミントの香りが布マスクにつきます。

                  ハッカ油+布マスクで清涼感

                  これなら、肌がヒリヒリにならず、香りもきつすぎないのでちょうどよい清涼感が味わえます。

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                  ちょっと風変わりなガレージセール「三護さんのガレージセール」

                  2020.06.14 Sunday

                  0
                    家の近所にも、こんなガレージセールをやっている家があるといいな。

                    「三護さんのガレージセール」あらすじ


                    在宅ワークで人としゃべる機会がない三護さん。だったらしゃべる機会をつくってしまおう、と自宅のガレージでガレージセールを開きます。しかし、普通のガレージセールと違うのは三護さんはなんと、ガレージセールをするためにガレージのある家を借りてしまったのです。

                    三護さんは在宅の仕事で普通よりも収入が多く、そのためついつい衝動買いをしてしまい、イヤホンなんて色違いでいくつももっていたり、持っているのを忘れて、同じものを買い直してしまいます。

                    そんないらない物の処分と、「人と話すこと」を目的としているので、値段は格安でてきとう。

                    すると、そんな風変わりなガレージセールに、これまた風変りなお客さんが集まるようになり…。




                    風変わりなガレージセールと、風変わりなお客さんたち


                    類は友を呼ぶ、というのでしょうか、三護さんのガレージセールには一風変わったお客さんが集まります。
                    本を読みすぎて、家族から注意されるほどの読書家の主婦・宮崎さん。ドラマ「シャークロックホームズ」マニアが講じて友だちになった高校生の舞原さん。

                    そして時にはお客さんではない人も、やってきます。近所の武藤さんは三護さんを気に入り、ソフトボールや焼き芋会に誘ったり、ガレージセールにものを買わずに置いていったりするおじさん。

                    そんな風変わりな人たちとのコミュニケーションは、当初の予定とはだいぶ違ってきたけれど、地域のひとたちと仲良くなったり、常連さんとガレージでなぜかおでんを食べたりと、三護さんのガレージセール・ライフはなかなかに充実してきています。

                    1巻だけで終わるのがもったいない。もっと読みたい漫画でした。


                    作者は『書店員 波山個間子』シリーズの黒谷和也さん。本に関しても造詣が深く、作中にもよく小説やエッセイの話がでてくるので、本好きにもうれしいお話です。

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                    「みえるとかみえないとか」ヨシタケシンスケ

                    2020.06.09 Tuesday

                    0
                      みえるとかみえないとか」は、「目の見えない人は世界をどう見ているのか」目が見えないとはどういうことなのか、見えるひととどう違うのか。

                      そして、自分と違う人たちとどう関わっていくのかを、わかりやすく、かつユニークに紹介しています。

                      ヨシタケシンスケさんは伊藤亜紗さんの「目の見えない人は世界をどう見ているのか」を読んで、この絵本を描いたそうです。

                      ヨシタケさんにかかると、見えても見えなくても、大人でも子どもでも、違った世界はこんなにも面白くできるんですね。



                      残念がられる「普通の人」


                      この絵本の主人公は宇宙飛行士。調査でいろいろな星に行きます。ある時、目が3つある、自分の後ろが見える人たちの星に行くと、その星の人々から「うしろが見えないなんて、かわいそう」「ふべんだね」と言われます。

                      ここで価値観の逆転がおこります。私たちが目の見えない人に対しての感想を、こんどは「普通の人」が言われることに。
                      宇宙飛行士の少年は、それまで行ったいろいろな星のことを思い出します。
                      足が長い人、体がやわらかい人、そういう場所では「自分のふつう」が不便になってしまうんです。



                      のりもののようなもの


                      みえるとかみえないとか、そうした特徴やみためは「のりもののようなもの」とヨシタケさんは書いています。

                      自分とちがうと「よくわからないから」「ちょっと きんちょうしちゃう」けれど、おたがいの工夫や失敗を教えあったら、きっといろいろな発見があるかもしれない。

                      個人的にすきだったのは、三つ目の星の人はテストを受ける時に後ろが見えないよう、目をいっこしか使っちゃいけないルールです。足が長い人、短い人、大人やこども、いろんな「へー!」という発見で面白がれるといいですね。

                      ここ数年、盲目の漫談家・濱田祐太郎さんがR-1ぐらんぷりに優勝するなど、これまであった意識の壁みたいなものが少しずつ取り払われている気がします。

                      ちがうところを おたがいに おもしろがれば いいんだね。


                      濱田祐太郎さんのネタはほんとに面白い。彼のつかみは「迷ったら笑っといてくださいね」

                      大爆笑の最強ネタ大連発SP 2018/9/15放送

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