『女の子がいる場所は』やまじえびね

2023.10.05 Thursday

0
    女性の生きづらさを世界の少女たちの視点から描いた『女の子がいる場所は』。とても切なくて、とても考えさせられる漫画でした。女性だけでなく、男性にも読んでほしい物語です。

    『女の子がいる場所は』あらすじ


    サウジアラビアのサルマ
    サルマは父親にもう一人の妻がいることを知る。第一夫人のアミーラは子供ができないため、第二夫人であるママとの結婚を望んだ。離婚歴があるため再婚が難しいママはそれを幸福だという。
    でもサルマはこう思った。「わたしたちは結婚をしないと生きていけないの?」と。

    モロッコのハビーバ
    おばあちゃんの知り合いのシャマおばさんがやってくる。おばさんはハビーバを見た途端「女の子がメガネなんて男に嫌われる」と否定する。そのくせ頭の悪い兄には男だというだけで褒めちぎる。おばさんが滞在する間、不快に思うハビーバだったが、実はシャマおばさんにはある秘密があって…。

    インドのカンティ
    カンティは母の再婚相手の義父が家庭教師のアーシャに売春を強要していることを知り憤るが、義父からは生意気だと折檻され、母からも「元の貧乏ぐらしに戻るからパパに逆らっちゃだめ」と言われる。
    自分の無力さに打ちひしがれるカンティだったが…。

    日本のまりえ
    まりえは両親が離婚し、母と祖母と暮らしている。祖母はまりえに「女の子は勉強なんてしたら(男に好かれないから)苦労する」という。パパはママが自分より仕事ができることに嫉妬を抑えられない。

    離婚したことで、家族は安定したけれど、やっぱり少し友達の家族がうらやましい。

    アフガニスタンの少女たち
    タリバンが去って学校が再開し、はじめて自分のノートと鉛筆をもらった日、彼女たちは将来を夢見る。しかし今、再びタリバンが彼の地を襲う。彼女たちはどうしているだろうか。



    女の子の不自由さ


    私達が思うのは 毎日生きている中での女の不便さです。
    いまある世界で女はなんてつらくて非力か


    これは昭和初期に生きた女性が主人公の漫画『陽の末裔』のセリフです。戦前よりもましになったとはいえ、女性が女性であることを肯定されることはまだまだ少ない気がします。

    そして漫画の少女たちも、日常生活の中で不自由さを感じています。
    「女の子なんだから 男に楯突いてはだめ」
    「女の子なんだから 可愛く、バカでいなきゃだめ」

    それでも賢明な彼女たちは周囲からの言葉が「どこかおかしい」と感じはじめています。まだ、それを解決する術をしらない彼女たちですが、そのために必要なものが「知ること、学ぶこと」だと気づくのです。

    とても小さな希望の光ですが、どうかこれからの彼女たちの行先を照らしてくれますように。



    男だったらよかった


    両親は私を愛情をもって育ててくれました。
    ただ、同時にこう言われて育ちました。「お前が男だったらよかった」と。

    女が二人続いたため男を望まれていたこと、それをつい、娘に聞かせるほど当初は「がっかり」していたこと。
    そのため私は子供の頃こう感じていました。女の子である自分は悪いのだろうかと。

    また、男の子の好む特撮や漫画を読み、男の子のように振る舞いました。そうすれば両親が喜んでくれると信じて。

    なぜ、女の子が女の子でいるだけで、なぜこんなにも辛いのでしょうか。それはなにも、男性優位社会のムスリム社会やインドカーストの世界だけではなく、日本でも日常的に身近にあるものなのです。

    そして、女の子を否定するのは、一番身近な女性である母や祖母だったりするのです。シャマおばさんやまりえのおばあさんのように、自分が「女の子なんだから」と否定されてきたことを、次の世代にも強要するのが当たり前と思ってしまっているのでしょう。


    賛否両論の意見


    以前、ひめゆり部隊をモチーフにした漫画『COCOON』の感想を書いたところ「大変だったのは女だけじゃない!」と否定的なご意見をいただきました。『女の子がいる場所は』の感想でも肯定と否定、さまざまな意見がありました。

    確かに男の子にだって性的搾取はあるし、女以上に大変なこともあります。社会進出に興味のない女性もいるでしょう。
    ただ、さまざまな考え方がある中で私が思うのは、女の子が自らの意志で学び、考え、改善していく意欲だけは否定しないで欲しい。それだけです。

    『うちのちいさな女中さん4』長田佳奈

    2023.08.30 Wednesday

    0
      昭和初期、翻訳家の令子さんと14歳の真面目な女中・ハナちゃんの日常を描いた『うちのちいさな女中さん』。

      蚊取り線香を焚いたり、海水浴に行ったりと、戦前の夏の過ごし方は現代の私たちとそんなに変わりません。むしろ、今のようにネットもテレビもないからこそ、毎日が充実しているように思えます。



      ラジオ講座


      令子さんは義姉から「女中にも教養をつけさるべき」と説き伏せられ、ハナちゃんになにか学ばせようとするものの、仕事一筋のハナちゃんからは断られてします。

      それなら…と、家にあったラジオで講座を提案します。これなら仕事が終わった後に聞くだけだからと。当時のラジオでは女性たちが家事の合間に学べるように、教養番組もあったそうです。

      そして、ハナちゃんが始めたのはなんと、水泳講座!果たして、ラジオで水泳が上達するの…?

      昭和初期の海水浴


      令子さんに憧れる女学生の萬里は、懸賞であたった券で令子さんを海水浴に誘うものの、「ハナちゃんも一緒に」と言われてしまいます。

      「(ハナちゃんに)水泳を教えれば、おねえさまに良いところを見せられる…!」と考えた萬里ちゃんと、ハナちゃんに熱心に教えるものの、なかなか上達することができません。それでも生真面目にがんばるハナちゃんが可愛らしいです。

      当時はパラソル型の屋根がついた海水浴専用列車が運行され、今より特別なレジャーだったようです。
      日本の観光3 : 昭和初期観光パンフレットに見る

      ハナちゃんの読み書き


      ハナちゃんは小さい頃から働いていて、ろくに学校にも行けませんでしたが、読み書きがきちんとできるのを令子さんは不思議に思います。実は、そのきっかけが令子さんが以前に書いた童話集でした。

      本を読みたい一心で女中仲間のフヨさんに習っていたのです。ハナちゃんが令子のお家に来るきっかけとなったのもこの童話でした。

      しかし、令子さんは今は童話を書いていないようです。ご主人が亡くなったことがきっかけなのでしょうか。
      そして、いつか、ハナちゃんが童話集を持っていることが令子さんに伝わることがあるのでしょうか…。

      『うちのちいさな女中さん1』
      『うちのちいさな女中さん2』
      『うちのちいさな女中さん3』

      『マダムたちのルームシェア2』seko koseko

      2023.08.14 Monday

      0
        沙苗さん、栞さん、晴子さん、3人のマダムたちの暮らしを描いた『マダムたちのルームシェア2』今日もマダムたちは日常を全力で楽しんでいます。

        マダムたちのルームシェア

        毎日を楽しくする工夫


        夏祭りでは全力で買い食いやくじ引きを楽しみ、誕生日は全力でお祝い。ハロウィンでも仮装とお菓子を楽しみます。

        しかし、さすがマダムたち。イベントがなくても毎日を楽しく過ごせるよう工夫をこらします。晴子さんと沙苗さんの気分が優れない時、栞さんが何かできないかと、手作りのおみくじを思いつきます。

        それもいい事しか書いてないおみくじです。それをみた2人はちょっと元気になり、自分たちでもおみくじを書き足します。

        マダムたちは、楽しいイベントも、そうでない日も楽しく過ごせるメソッドをお持ちなんですね。別の漫画『メンタル強め美女白川さん3』でも、元気のない時に見るための「安心カード」を作っていました。

        落ち込んでいたり、元気がなかったりする時はポジティブな言葉を摂取するのって、案外効くんですね。私もいいことしか出ないおみくじ、作ってみようかな。



        描き下ろし 沙苗さんと栞さん親子のルームシェア


        1巻で少しだけ語られたルームシェアのはじまりについてのお話。ある日沙苗さんのマンションに、栞さんと娘がやってきます。

        当時沙苗さんにはパートナーがいたらしいのですが、なにか理由があり広いマンションに一人暮らし。栞さんは離婚を決意し、住むところが決まるまでおいてほしいと頼みます。

        それから3人の共同生活が始まるのですが、今は飄々としているマダムたちも、若い頃は悩みや葛藤、悲しみを抱えています。娘の星奈ちゃんのために、全力でサンタを演出する2人の様子も微笑しいです。
        おそらく80〜90年代のお話なのですが、当時のファッションがとてもおしゃれで見ていて飽きません。

        マダムたちのルームシェア


        JUGEMテーマ:漫画/アニメ



        『言葉の獣2』鯨庭

        2023.06.15 Thursday

        0
          同じ言葉でも、意味は人によって違う。それが「言葉の獣」のテーマなのですが、「中傷」や「記憶」も、人それぞれで感覚が違うのです。

          『言葉の獣2』あらすじ


          言葉の意味を視覚的に「獣」として描ける東雲と、言葉の感覚に優れたやっけん。
          「言葉の獣」を探すため、ツイッターをはじめた二人。
          けれども自分の絵を残したくない東雲はツイッターをやめたいと言う。

          さらに「言葉の獣」に関するつぶやきが注目されはじめると、誹謗中傷の言葉を吐く者たちが現れ…。



          「中傷」と「ずるい」と「うらやましい」



          共感覚の言葉の森では「誹謗中傷の獣」は耳が小さく閉じられている姿。そのため人の言葉を聞き入れられないんですね。二人は恐怖を覚えながらも、「誹謗中傷」の言葉の真意を解き明かそうとします。

          誹謗中傷の獣に声をかけるやっけん。やがて会話の中から、獣が抱える本当の気持ちが明らかになります。
          言葉で書く誹謗中傷の意味はひとつですが、その言葉の中には「(注目されて)ずるい」や「寂しい」などの気持ちが入り組んでいます。

          やっけんは「ずるい」は卑怯な手段を用いたときに使う言葉だから、「うらやましい」なんじゃない?と語りかけます。実は「誹謗中傷」は「ずるい」に操られている獣だったのです。

          「ずるい」の獣がずるがしこい姿をしているのは、人を貶める行為を表しているからでしょうね。ようやく「誹謗中傷」の意味がわかった二人ですが、今度は「誹謗中傷」の獣が他の鳥たち(つぶやき)に攻撃されてしまいます。

          言葉はときに刃となって、自分に返ってくるもの。人を批判している時、自分の言葉はこんな形なのかと思うと、ゾッとしますね。

          残したい記録、残したくない記録


          次に東雲とやっけんは「記録」について調べ始めます。

          東雲は貴重な「言葉の獣」のスケッチも「残したくない」と、描き終えると満足して捨てていまうほど、記録に興味がありません。逆にやっけんは自分の言葉や東雲の絵も「残したい」と思っています。

          この違いは一体なんなのか。すると、二人の前によく似た獣が現れます。

          私はやっけんのように「残したい」派なので、東雲のように「自分の存在をなかったことにしたい」という境地にはなかなか至れません。

          もしかしたら、自分の存在を残したくないというのは一種の悟りに近いのかもしれません。人というの承認欲求の生き物ですから。

          ふたりの「記録」の獣は、どんな形をしているのでしょうか。

          言葉の獣1

          『まめで四角でやわらかで 上』ウルバノヴィチ香苗

          2023.04.17 Monday

          0
            江戸の人々の日常風景を描いたウルバノヴィチ香苗さんの『まめで四角でやわらかで』。
            連載当初から大好きで、単行本化を楽しみにしていました。

            季節の行事と人々の暮らし


            『まめで四角でやわらかで』では、特に事件らしい事件は起こりません。江戸の長屋に住む人々の日常が淡々と描かれるのですが、その日常が我々現代人からみると、それがとても楽しく、愛おしく見えるのです。

            例えば、お月見は十五夜だけじゃなく、次の月の十三夜を合わせてみると縁起が良いとか、大家さんが店子にお団子をお酒を配ったりして、当時の人にはビッグイベントだったんですね。

            昔は師走の13日には長屋の店子全員で煤払い(大掃除)。すすで真っ黒になるので、掃除が終わるとそのまま湯屋で汚に行ったんだそうです。



            江戸のごはん


            『まめで四角でやわらかで』では、食べ物の描写が多く、そのどれもが美味しそうです。長屋のお松さんは煮売り屋をやっていて、きんぴらやお芋の煮っころがしなど、美味しそうな惣菜をたくさん作っています。

            夜には旦那さんが煮売りのお残りと田楽の屋台を出すのですが、美味しいのに、隣のそば屋のご主人とすぐにケンカが始まってしまうのが玉にキズ…。

            ほかにもお松さんの季節のお弁当や、女中のお妙ちゃんがつくる朝ごはんが美味しそうなんです。江戸時代の長屋ではごはんを炊くのは朝だけで、昼や夜はそれをおにぎりにしたり、お粥にしたりして食べるのですって。


            こちらの紹介動画もすてきです。旦那様でイラストレーターのマテウシュ・ウルバノヴィチさんが手掛けています。


            ウルバノヴィチ夫婦関連作品
            『東京店構え』
            『日月十譚』
            『ぽんこさんの暮らしのはてな?』

            JUGEMテーマ:オススメの本



            『みゃーこ湯のトタンくん』スケラッコ

            2023.03.16 Thursday

            0
              猫の銭湯に紛れ込んだ人間・ハラくんと大将・トタンの日常を描いた『みゃーこ湯のトタンくん』。
              猫好き、銭湯好きの人におすすめの漫画です。

              『みゃーこ湯のトタンくん』あらすじ


              「みゃーこ湯」という銭湯の前に倒れていたハラくん。覚えているのは自分の名前と「トタン」という猫を飼っていることだけ。そしてなぜか、銭湯の大将は猫。おまけにハラくんが飼っていた「トタン」にそっくり。

              なりゆきでみゃーこ湯で働くことになったハラくんは、銭湯に訪れる猫たちとも親しくなり、迷いながらも満ち足りた日常を送っていた。自分以外、全員猫だけれど。

              しかしある日、流れの占い師・はてなさんから「ほかに帰る場所があるのでは?」と指摘され、元の世界へ帰る決心をするのだが…。


              猫と銭湯


              読むだけでほっこりする物語です。アラウンド90の老猫ジンさん、中学生のまめちゃん、進路に悩む大学生のアランくんなど個性豊かな猫たちが銭湯を訪れます。

              みんななぜか、ハラくんが人間であっても気にしません。

              この漫画、滋賀県にある実際の銭湯に取材をしているので、銭湯の薪くべや浄水システム、煙突掃除まで、リアルに描かれています。

              廃材を利用する時は釘を磁石で分別したり、薪くべは30分に一回やらないといけないし、もちろん掃除も毎日なので作業は大変です。

              また、猫の世界の銭湯なので、脱衣所にはブラシや爪とぎが置かれているし、トイレには猫砂完備。猫たちは思い思いにサウナに入ったり、電気風呂に入ったり、銭湯を楽しんでいます。

              銭湯に入ったことのなかった中学生のまめちゃんが、隣のおばちゃんにシャワーをかけて注意されるのですが、思えば銭湯はこうした社会のルールを覚える場所でもあったんですよね。

              もしも猫が利用する銭湯があったら、こんな感じなのだろうな。行ってみたいなあ。
              お湯は毛だらけだろうけれど…。

              JUGEMテーマ:漫画/アニメ



              『烏は主を選ばない4』松崎夏未 阿部智里

              2023.03.03 Friday

              0
                『烏は主を選ばない4』いよいよここから、前作『烏に単は似合わない』の登場人物や出来事とリンクして、原作を見据えたオリジナルシーンも満載。

                ますます面白くなってきました。

                『烏は主を選ばない4』あらすじ


                若宮の命を狙った射手を探すため、若宮と雪哉は端午の儀式が行われる桜花宮へ。

                そこには、若宮のお后候補として登殿した四人の美しい姫たちがいた。その直後、若宮の陰謀で桜花宮に置き去りにされる雪哉。

                若宮の大敵・大紫の御前に呼び出されるものの、雪哉はそこで「射手」を見つけ出した。一方、若宮に敵対する兄・長束陣営でも穏健派と強硬派に分裂し、穏健派の敦房は若宮のもとを訪れ、協力を申し出る。果たして彼は信頼できるのか?若宮・長束の後継者争いの行方は…?



                オリジナル幕間


                毎回、松崎先生による「原作には描かれていない展開」がすばらしいのですが、今回も原作にはない「端午」と「七夕」の間に若宮と雪哉と澄尾で街に遊びに行く、つかの間の休息が描かれています。

                しかし、ただ遊んでいるのを描いているわけではありません。『烏に単は似合わない』で重要なキーワードである芝居「烏太夫」についての別解釈や、中央の街の様子など見どころがたくさん。

                細かいところでは「湖で水蛇に引かせる舟遊び」の描写があったり、街では綺羅絵に描かれた山内衆がアイドル扱いで澄尾さんが困っていたりと、原作の記述をモチーフに活かした描写がファン心をくすぐります。

                そして、山内の不要不急、市柳先輩も登場。松崎先生による市柳スタイルは毎回楽しみなのですが、今回はページ内になく、残念…と思っていたら、カバーをはずした見返し部分にありました!
                デコトラの装飾のようなキャッチコピーも健在です。

                原作を見据えた絶妙な作画(ややネタバレ)


                今回も、松崎先生の絶妙な展開と作画がすばらしかったです。

                中でも、私が思わず「すごい!」と思ったのが桜花宮で雪哉とあせびがすれ違うシーンです。
                その前に雪哉の桜花宮での粗相が噂されていて、二人がすれちがった瞬間、

                あれは下賤の者だ」とセリフが入ります。

                前作『烏に単は似合わない』を読み込んでいる方なら、ピンとくるしゾッとするシーンなのです。

                実はこのセリフ、雪哉だけでなく、あせびのことも指しているんですよね…。

                彼女ほど純粋で「下賤」な者はいませんから。

                また、34話で若宮が戯れに、雪哉の背を柱に刻みつけるんですが、その十数年後、『追憶の烏』において、雪哉は思い出の詰まった招陽宮を焼き尽くしてしまいます。

                読者はこの後の展開を知っているから、だからこそ、このシーンが一瞬の二人の最も良い瞬間だったのだと、胸を掴まれてしまうのです。

                八咫烏シリーズ


                『烏に単衣は似合わない』
                『烏は主を選ばない』
                『黄金の烏』
                『空棺の烏』
                『玉依姫』
                『弥栄の烏』
                第二部『楽園の烏』
                第二部『追憶の烏』
                第二部『烏の緑羽』

                『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
                『烏百花 白百合の章 八咫烏外伝』
                八咫烏シリーズ外伝『さわべりのきじん』
                八咫烏シリーズ外伝『きらをきそう』
                幕間『烏の山』
                コミカライズ『烏に単は似合わない』
                コミカライズ『烏は主を選ばない1』
                コミカライズ『烏は主を選ばない2』
                コミカライズ『烏は主を選ばない3』
                コミカライズ『烏は主を選ばない4』
                『羽の生えた想像力 阿部智里BOOK(電子書籍)』
                『八咫烏シリーズファンブック』(電子書籍)
                『追憶の烏』ネタバレトークイベント感想

                JUGEMテーマ:漫画/アニメ



                マテウシュ・ウルバノヴィチ発の短編漫画『日月十譚』

                2023.01.23 Monday

                0
                  マテウシュ・ウルバノヴィチさんは、新海誠監督の『君の名は』の背景を手掛けたイラストレーター。

                  そんなマテウシュさんが、妻で漫画家の香苗さん(『ぽんこさんの暮らしのはてな?』)や、『盆の国』のスケラッコさんなど日本国内外のクリエイターとともに、日本をモチーフにした短編を描いたのが『日月十譚』です。

                  ノスタルジックでエキサイティングなウルバノヴィチ作品


                  初めてマテウシュさんの『東京店構え』を見た時、私は妹尾河童さんの『河童が覗いたシリーズ』を思い出しました。どこか懐かしい風情と、まるで旅をしているようなワクワク感。

                  『東京夜行』の方は、夜の街のきらびやかでワクワクする気持ち共に、どこか棟が苦しくなるほどの寂しさが感じられます。

                  そして、マテウシュさんと彼が選んだ作家による短編集『日月十譚』は、舞台は日本だけれど、SFあり、ファンタジーあり、日常ありと、さまざまなイマジネーションが繰り広げられ、どれもみな、違っていてとてもいい。


                  懐かしくも新しい作品集


                  『日月十譚』を読んでまず思ったのが、新しい漫画の可能性でした。作家たちがそれぞれの感性と情熱で描いた漫画は革新的で、通常の商業誌ではまず見られない作品ばかりです。

                  そして、思い出したのが、かつてプロの漫画家による同人漫画雑誌「WINGS」です。そこでは作家たちが商業誌では描けないような革新的な作品を発表していました。『日月十譚』にもその頃の漫画の可能性や情熱が感じられて、思わず童心に返って、ワクワクしながら読ませていただきました。

                  その中でも特に「刺さった」のがウルバノヴィチ香苗さんの「おわりの灯台」です。
                  主人公の女の子が、部活を辞めたいと悩んでいる時、焼きおにぎりや彩弥さんと会い、悩みを聞いてもらうというお話。

                  印象的だったのが、舞台は現代風なのに、登場人物たちは着物や袴を日常的に着ています。

                  しかし、物語の核はあくまで少女の悩みです。それは、大人になれば忘れてしまうような小さなことだけれど、その時の彼女にとっては人生を左右する大事な問題なんです。

                  それを、彩弥さんは真剣に受け止めて話を聞いてくれた。子供の時分に正論ではなく、ただ、気持ちに寄り添ってくれる大人がいるのって、とても心強いんですよね。

                  それが、画面から伝わってきて「ああ、そうだよぁ…」と思わず中学時代に戻って彼女に共感してしまうのです。

                  ウルバノヴィチ香苗さんの『ぽんこさんの暮らしのはてな』は、日常にある科学や自然現象のしくみについて優しく解説した漫画です。

                  ぽんこさんの暮らしのはてな?

                  新品価格
                  ¥1,980から
                  (2023/1/22 18:57時点)




                  マテウシュ・ウルバノヴィチさんの作品『月はうどん味』は、たぬきたちがお祭りで大きな月を触ろうとする物語です。アニメーションのように動きがスピーディーでかっこいい。そしてお祭りや街並みの風景が日本のようで日本じゃない。

                  なんだか、夢の中で見たような「日本」で、それがどこかノスタルジックで不思議なんです。


                  スケラッコさんは「クロマツ」の盆栽と女性の一生をコミカルなタッチで描いています。盆栽を通じて人生を見る、味わい深い作品です。
                  スケラッコさんの『みゃーこ湯のトタンくん』

                  みゃーこ湯のトタンくん

                  新品価格
                  ¥1,568から
                  (2023/1/22 18:58時点)



                  『丁寧な暮らしをする餓鬼 参』塵芥居士

                  2023.01.14 Saturday

                  0
                    人間道よりも充実した餓鬼道スローライフ『丁寧な暮らしをする餓鬼』も最終巻。今回はいよいよ餓鬼(ガッキー)の正体、前世の姿が描かれます。

                    餓鬼のスローライフと、カレー坊主こと吉田僧侶が仏教による餓鬼の解説もなさっています。



                    餓鬼のおともだち


                    第一巻から登場している餓鬼の友人・牛鬼。現在はフリーランスで活躍する牛鬼ですが、以前はブラック企業でパワハラにあっていました。それを偶然見ていて、助けたのが餓鬼でした。

                    お釈迦様の言葉には「善き友 善き仲間を得ることは、聖なる修行のすべてである」という一説があり、餓鬼はまさに牛鬼の「善き友」であり、見返りを求めない行動はまさに仏教の教えそのもの。

                    最近では、なまはげやボゼといった地方神とも仲良くなり、オンライン飲み会をしたり、お泊まり会をしたりと楽しそうです。

                    だけど、こんなに丁寧でやさしいのに、ついつい誘惑に負けてしまい、なかなか解脱できない餓鬼なのでした…。


                    餓鬼の前世(ネタバレ)


                    前世の餓鬼は平安時代、貴族の子息・田鶴を教える博士でした。歌会の賞品である香壺を集めていたものの、教え子の田鶴の和歌が選ばれ、博士は嫉妬から壺を奪ってしまいます。

                    そんな姿を閻魔様に咎められ、そこから、餓鬼の暮らしが始まりました。己の中にある餓鬼の心と向き合い、丁寧な暮らしを身に着けていった餓鬼ですが、解脱しそうになった時、さらなる試練として目の前にインターネットが…。

                    それでも、日々、丁寧にな暮らしをする餓鬼は、そのままでも楽しそうです。

                    日々の暮らしで承認欲求に悩んだり、ストレスや不安を感じたら、「丁寧な暮らしをする餓鬼」を読めば、ガッキーの不器用でやさしい生き方から癒やしと生きるヒントをもらえます。


                    丁寧な暮らしをする餓鬼
                    丁寧な暮らしをする餓鬼【弐】

                    草原の嫁取りは命がけ『乙嫁語り14』森薫

                    2022.11.24 Thursday

                    0
                      『乙嫁語り14』では、最初の乙嫁アミルの兄、アゼルの嫁取りの様子が描かれます。
                      草原の嫁取りの条件、それは「強い男」であること。アミルの年下夫・カルルクもアミルを守りたい一心でアゼルのもとに修行に来ているくらいですし、19世紀の中央アジアではロシアの驚異も迫っていて、ますます強さと結束力が求められているのです。

                      カルルクたちの街の長老や、周囲の遊牧民族たちが一同に介し、ロシアとの驚異に立ち向かうべく話し合いが設けられました。その際、同じ草原の氏族ジャンディクと、アゼルたちハルガルとの間に縁談がもちあがります。



                      馬競べと嫁取り


                      しかし、紛争や懐具合などから返事を渋る族長はある条件を提示します。その条件は「馬競べ」。
                      要は馬でのレースですが、相手側の娘たちはかなり曲者揃いで、レースを妨害してきます。アゼルは姉のジャハン・ビケと一騎打ちで勝負に挑みます。

                      アゼルさんはかなり戦闘能力の高い人なのですが、それと対等に戦えるジャハン・ビケさんも強い!

                      いとこのジョルク、バイマトもそれぞれ気になる女性を見つけ、結局は3人とも嫁取りをすることができました。よかったよかった…。

                      それにしても実直なバイマトが、婚家で顔に傷を負った娘をあえて嫁にするところに男気を感じました。

                      中央アジアは男性社会ではありますが、一方で真面目な男は女性に対してきちんと責任を負ってくれるので、こういうところは安心でもあります。

                      お相手の氏族ジャンディクの娘たちは先端に房のついた、三角形の特徴的な帽子をかぶっています。これは中央アジアのカザフスタンの民族衣装らしいです。
                      詳しくはこちらの 森薫先生執筆「みんなで作ろう!中央アジアクッキング」に各国の民族衣装が描かれています。

                      カザフスタンといえば、美しい民族衣装がオリンピックでも話題になりましたね。



                      乙嫁語り


                      「乙嫁語り14」
                      「乙嫁語り13」
                      「乙嫁語り12」
                      「乙嫁語り11」
                      「乙嫁語り10」
                      「乙嫁語り9」
                      「乙嫁語り8」
                      「乙嫁語り7」
                      「乙嫁語り6」
                      「乙嫁語り5」
                      「乙嫁語り4」
                      「乙嫁語り3」
                      「乙嫁語り2」
                      「乙嫁語り1」
                      森薫さんがつくる「乙嫁語り」レシピ
                      「乙嫁語り」の森薫さんが中央アジア料理を漫画で紹介。主催はなんと外務省!
                      レビューポータル「MONO-PORTAL」