『斜め屋敷の犯罪』島田 荘司

2023.09.09 Saturday

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    島田荘司さんの名作ミステリ『斜め屋敷の犯罪』。資産家の老人が酔狂建てたわざと斜めに傾いている「斜め屋敷」。そこでで起こる殺人事件を描いたミステリです。

    舞台が1982年のため、携帯電話もありませんし、動機やトリックなども時代背景が感じられますが、それでも幾重にも仕掛けられたトリックにページを捲る手が止まりませんでした。



    『斜め屋敷の犯罪』あらすじ


    北海道は宗谷岬の外れに建つ「流氷館」は、別名「斜め屋敷」と呼ばれている。その名の通り、東西に傾いているこの屋敷は、ハマー・ディーゼルの会長である浜本幸三郎が道楽で建てたもので、ときおり親しい人々を招待している。

    1983年の暮も押し迫った時期、館に招かれた客が死体となって発見される。窓の外から見えた怪しい人物、踊る人形の謎、第二の殺人…。果たして、犯人は?密室トリックの謎は?

    警察の手に負えないこの難解な事件を解決すべく『占星術殺人事件』で謎を暴いた御手洗潔がやってくる。

    ネタバレ無しの感想


    物語は1983年。まだ携帯電話もインターネットもない時代です。密室殺人ではありますが、刑事たちも行き来しているため「嵐の山荘(閉じ込められた状態)」ではありません。

    それでも犯人がわからないため、招待客や家族たちは館を離れることができません。じわじわと追い詰められる恐怖と、不思議な作りの館での殺人事件は不謹慎ながらもワクワクします。

    館に招待された人々も曲者揃い(愛人を伴ってくる社長とか)で、みんな怪しい。

    そして、壮大にしてユニークなトリック!これは御手洗潔のような変人(いい意味で)しか解けないでしょうね。

    『斜め屋敷の犯罪』は、『占星術殺人事件』と同じく、昭和50年代が舞台のため、時代ならでは(戦争)の背景感じられます。

    この時代はまだ、戦争を戦った人が生きていたためこうした設定になったのでしょう。

    島田荘司作品感想
    占星術殺人事件
    透明人間の納屋

    建築士が実際に「斜め屋敷」を設計してみた本はこちら
    犯行現場の作り方

    ファンタジー作家はホラーもすごい『発現』阿部智里

    2023.03.13 Monday

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      久々にゴーストハントを読み返したおかげで、ホラーが読みたくなりました。
      阿部智里さんの『発現』は、和風ファンタジー八咫烏シリーズとは違う切り口で描かれたホラーミステリです。

      戦争中に起こったある事件と、現代の家族が遭遇する怪奇が、時を越えて発現してゆく。じわじわと恐ろしく、そしてやりきれない物語でした。

      『発現』あらすじ


      昭和40年、兄の自死の真相を探る省吾は、兄の戦友たちから話を聞き、満州で起きた事件の謎に迫る。平成30年、突然、精神に異常をきたした兄を支えようと奮闘するさなえ。しかし、彼女もまた幻覚を見るようになる。彼岸花と血と虚ろな目の少女が、さつきを死へと追いやろうとするのだった。

      2つの時代の出来事が、やがてひとつに繋がった時、ある答えが導き出されることになる。




      『発現』感想


      果たしてこれはホラーなのか、と言われれば、主人公たちが恐怖を覚えるといった点ではホラーですが、でもそれだけではない歴史の悲惨さや、そこに巻き込まれた人々の悲哀が伝わってきます。

      怪奇現象とミステリ要素、戦争。これらの要素が合わさって、怖くて悲しいけれど、とても魅力的なお話でしたし、戦争についてもう一度、考えるべきだな。とも感じました。

      あと、昭和40年代の言い回しや表現の描写に時代性を感じつつも現代風に読みやすくなっていて、さすが阿部先生だなと。

      ラストも、除霊や浄霊といった、すっきりした解決法ではないのですが、逆にそのほうが合点がいくものでした。

      血の因果への憤り


      しかし、私がこの本を読み切って思ったのが「ふざけるな」です。いえ、作家や物語にではありません。家や血統についてです。

      ホラーの「呪い」や「祟り」は、たいていその子孫に継承されていきます。小野不由美さんの『過ぎる十七の春』も子孫に因果が原因でした。

      私自身、血統の入れ物である「家」というものに少し苦しんだ経験があるので、主人公たちが記憶の因縁で苦しまなければならないことが、すごく嫌でした。

      さつきや家族のように、自分の罪ではないことに対して、苦しみを与えられてしまいますが、世の中には罪を犯しても、反省もせず生きている面の皮が厚い人間もいるんですよね…。

      記憶を継承するのは大事なことですが、それで子孫が苦しむのは辛いことです。

      JUGEMテーマ:最近読んだ本



      悪霊シリーズ続編『悪夢の棲む家』小野不由美

      2023.03.06 Monday

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        悪霊シリーズは、高校生・谷山麻衣と冷徹な心霊調査事務所所長・ナル、個性豊かな霊能者たちが活躍するホラー小説です。

        そして、このシリーズの続編にあたるのが『悪夢の棲む家』です。なので、この物語自体がシリーズのネタバレになるので、できれば悪霊シリーズを読んでからお読みください。

        とはいえ、内容は独立しているので『悪夢の棲む家』を読んでから悪霊シリーズを読んでみても面白いかもしれません。



        『悪夢の棲む家』あらすじ


        母親と築20年の一戸建てに引っ越してきた翠だったが、家に入ると隣に母がいるのにも関わらず「誰もいないような不安」に襲われる。

        奇妙なことに、その家の窓には鏡が埋め込まれていた。まるで、「何か」から覗かれるのを防ぐように…。

        ほどなく、家電製品が壊れたり、物の位置が変わったりと怪現象が起きる。翠は友人の咲紀、咲紀の同僚の広田とともに渋谷サイキックリサーチに調査を依頼する。

        検察事務官である広田はある理由から霊能者に懐疑的だったが、翠が依頼を決めたため、なりゆきで調査に加わることに。

        ナルたちが調査を開始すると、怪異の原因は大半が隣家の嫌がらせだったことが判明するが、麻衣が憑依され、真砂子からもこの家で殺された霊の存在を指摘される。

        霊が殺された原因を探っていく内に、この家で起きたおぞましい事件の真相が明らかになっていく。



        営繕では直らない家の怪異


        久しぶりに読み返してみて、懐かしい友人たちに再会したような気持ちになりました。

        ナルは相変わらず美形なのに厚顔無恥で、麻衣はそんなナルに持ち前の明るさで突っかかり、ぼーさん、ジョン、綾子も相変わらず。リンさんは少し態度が柔らかくなりましたね。

        そして、1ページ目から怖い。すっーと血の気が引く感じがします。誰もいない家にひとりのこされたような不安がこちらにもじわじわ伝わってくるんです。

        同じく小野不由美さんのホラー小説『営繕かるかや怪異譚』でも、建物の怪異がでてきますが、こちらの家は因縁がひどすぎて、家の営繕だけでは収まりそうもありません。

        それも、この家だけのことではなく、隣家も含めた呪いがかかっているため、原因を探るだけでも大変です。

        霊とはなにか


        浄霊にしても除霊にしても、霊がなぜ発生し怪奇現象を起こすのか、その原因を突き止めないと問題は解決しないため、ナルのような科学的なアプローチが必要なんでしょう。

        ナルは、「霊は情報の一種」と仮説をたてています。強い念が情報として灼きつき、それを受信する状態が霊視であると。

        一方で、麻衣のように霊に寄り添うことで、ナルとは違った解決の糸口をつかむこともあります。

        広田になぜこんな仕事をしてるのか問われた時、麻衣はこう言います。
        「あなたが辛くてわたしも辛いよって言ってあげたい」と。

        霊に対してのアプローチが対照的な二人ですが、だからこそナルと麻衣はお互いを補完し合う存在になりつつあるのかもしれません。


        いなだ詩穂さんによるコミカライズもぜひ。


        小野不由美ホラー作品


        くらのかみ
        営繕かるかや怪異譚
        営繕かるかや怪異譚 その弐
        過ぎる十七の春

        JUGEMテーマ:最近読んだ本

        『営繕かるかや怪異譚 その弐』小野不由美

        2022.10.06 Thursday

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          家にまつわる怪異を「営繕」というかたちで整える『営繕かるかや怪異譚』の第二弾。

          尾端さんの営繕は「除霊」でも「浄霊」でもなく「場を整える」「ずらす」に近い気がします。怪異を「ありえないもの」ではなく「あるもの」として普通に捉え、欠けたり歪んだりした場を直していく。

          幽霊のことを「お住まいの方」とか「ご先祖様」と言った言葉で表すのも、彼の怪異に対する真摯な態度が伝わります。



          昔の人は長年の知恵から怪異を避ける方法を行ってきました。しかし、現代ではそれらのシステムが顧みられなくなっています。

          諸星大二郎の妖怪ハンターシリーズでも、祭りの祭祀の方角や日時を勝手に変えてしまい、化け物が現れた、なんて話もありました。
          現代の都合に合わせてルールを変えてしまうと、とんでもないことになりそうですね。

          ふるぎぬの思い


          どのお話も印象深かったのですが、特に「魂やどりて」という、着物にまつわる怪異が心に残りました。
          DIY好きのおおざっぱな女性が、古い家具や着物を、強引でぞんざいに扱ってしまのですが、そのせいで周りに嫌われたり、ついには幽霊にまで罵られることに…。

          加門七海さんの『着物憑き』という本でも、アンティークの着物はその人専用につくられているため、魂を抜くためにきちんと自分の寸法に仕立て直すと書いてありましたし、波津彬子さんの『ふるぎぬや紋様帳』でも、着物にこめられた思いは時に人を惑わしたりもします。

          それだけ、昔の女性にとって着物は大事なものだったのです。

          特に昔の着物は手間暇をかけて縫うものでしたから、自分の作品をバスマットなんかにされちゃったら、私でも化けてでるかもしれません。

          なんにせよ、リサイクル着物を買うときには覚悟と注意が必要なのだなと自分への戒めにもまりました。

          それにしてもこのお話、主人公の育が「悪人」で、隣の真穂が「善人」であり、「悪人」が罰を受けるという昔話のスタイルにもなっていて興味深いです。

          小野不由美ホラー作品


          くらのかみ
          営繕かるかや怪異譚
          営繕かるかや怪異譚 その弐
          過ぎる十七の春

          『過ぎる十七の春』小野不由美

          2022.08.23 Tuesday

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            『過ぎる十七の春』は小野不由美主上の初期のホラー作品。当時から建築物や自然の描写が詳細で美しく、それと相反するような恐怖描写に震えます。

            謎解きのミステリとしても読めますし、ホラーが苦手な私でも読めるくらいの怖さです。

            『過ぎる十七の春』あらすじ


            直樹と典子は毎年春になると従兄弟の隆の家を訪れていた。山間の集落に建つ家は、春の花が一気に咲き誇る桃源郷のような場所だった。

            隆も伯母の美紀子もやさしく穏やかで、二人は毎年ここを訪れるのを楽しみにしてた。しかし、直樹と隆が十七歳を迎える今年、穏やかで優しい隆が突然変貌を遂げ、家には陰鬱な雰囲気が流れる。

            隆の変化に何かを感じ取った伯母は、何かを覚悟するかのように自殺をはかる。それは、直樹の家系が長年受けてきた呪いの始まりだった。

            母の実家・菅田家の呪いは、その家の長男が十七になると母を殺し、自らも命を断つというもの。隆の受けた呪いの印は、やがて直樹にも現れる。二人は呪いを解くことができるのか。

            『過ぎる十七の春』X文庫版のイラストは贅沢にも漫画家の波津彬子さんです。


            呪いのシステム


            最初の、花咲き乱れる美しい春の風景から始まり、少しずつ、陰鬱な空気がまとわりつくような展開。呪いは怖いだけでなく、解除のための謎解き要素もあいまって、ページをめくる手が止まりませんでした。

            『過ぎる十七の春』の呪いは、対象者だけでなく直樹たち子孫にも威力を発揮します。
            昔のことわざでは「猫を殺せば七代祟る」「末代まで呪う」など、当事者だけでなくその子孫にも影響が及ぶこととがあります。

            それは、昔の家長制度では血縁や家の格こそが重要で、個人より家が重要視されていたからなのでしょうね。それを家長制度とは無縁の、平成の高校生たちだったからこそ、古い呪いに立ち向かえたのかもしれません。

            呪いを生み出すのは人


            章の終わりごとに隆と直樹を呪うものの記憶が出てきます。やがて直樹たちは彼らの悲しい結末を知るのですが、呪いを生み出し、末代にも悲劇を残した人間こそが、やはりこの世で一番怖い。

            ホラーを読むと、毎回そう思いますね。

            そして今回、良くも悪くも物語の鍵を握るのが「母親」です。
            この世で最も強いものは「母親の無償の愛」だと私は思うのですが、それは時に呪いに変わってしまうことも。しかし、その呪いから守るのもまた母の愛なんです。

            母親の愛と、決意の凄まじさに感じ入った物語でした。

            おまけ


            講談社X文庫(ホワイトハート)版『過ぎる十七の春』では、近年ではめずらしい、小野不由美主上のあとがきを読むことができます。95年当時、主上のもとへはファンが同人誌を贈ったとの記述が…。

            え、それってあの、もしかしてアレなんでしょうか…?

            小野不由美ホラー作品


            くらのかみ
            営繕かるかや怪異譚
            営繕かるかや怪異譚 その弐
            過ぎる十七の春

            『営繕かるかや怪異譚』小野不由美

            2022.08.06 Saturday

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              小野不由美さんのホラーは怖い。特に恐ろしい言葉を使っているわけではないのに、怖い。怖いけれど面白い。
              普通の言葉で描写しているはずなのに、そこには「何か」潜んでいるんです。

              『営繕かるかや怪異譚』は、家にまつわる怪異短編集。それでも小野不由美さんの他のホラー作品に較べて、ライトな内容ので、怖いのが苦手な私にも読みやすいし、なにより家にまつわる怪異が面白い。

              以前に読んだ『菓子屋横丁月光荘』が家の「陽」を描いた作品なら『営繕かるかや怪異譚』はそれとは真逆の、家の「陰」の部分を描いています。

              そういえば、昔のオカルト番組ではよく「家相が悪いと不幸が起こる」として、霊能者が間取りの悪さを指摘していました。それだけ家というのは、ひとつ間違えば怖いものが潜んでしまうもなんでしょう。

              それを先人たちは、お祓いや家相を整えることで避けてきました。しかし、現在では利便性と合理性が重視され、そこに「障り」が生まれることも…。



              幽霊も怖いが人も怖い


              しかし、営繕かるかやが出会う怪異は、「わからないもの」以外は、人間が怪異をつくりだしています。虐待されたり、病気を放っておかれたりした霊は、今も苦しんだり怯えていたりして、どこか哀れを誘います。

              本当に怖いのは幽霊ではなく、それを作り出してしまう人間なのでしょう。

              払うのではなく、折り合いをつける


              『営繕かるかや怪異譚』には、さまざまな怪異が出てきます。しかし、「営繕かるかや」を営む尾端さんには、それらの正体はわかりません。

              彼は人の暮らしに障りがでると、家に修繕を加えます。しかしそれは、基本的には大工作業です。それでも家に手を加えることで、住人がつつがなく暮らしていけるようになります。

              尾端さんはこう言っています。
              良い疵もあれば悪い疵もある。古い家にはそんな疵が折り重なっているのですが、それこそが時を刻むということなんでしょう。


              それは、相手を完全に滅するのではなく、異常に怖がるのでもない。疵を冷静に確認し、受け流して怪異との折り合いをつけることなんですね。

              しかし、人は忘れやすいものです。疵の修繕をおこたると、いつかまた、なにか出てくるかもしれません。
              私の家でも、頻繁に盛り塩を取り替えています。「何か」がこないように…。

              小野不由美ホラー作品


              くらのかみ
              営繕かるかや怪異譚
              営繕かるかや怪異譚 その弐
              過ぎる十七の春

              『ビブリア古書堂の事件手帖III 〜扉子と虚ろな夢〜』三上延

              2022.03.29 Tuesday

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                亡き父親の蔵書をめぐるミステリ。扉子と栞子、そして智恵子の関係が複雑に絡み合います。

                『ビブリア古書堂の事件手帖III 〜扉子と虚ろな夢〜』あらすじ



                プロローグ・五日前
                樋口佳穂という女性がビブリア古書堂を訪ねてくる。離婚した前夫の残した蔵書を息子に相続させたいが、元舅の古書店主・杉尾正臣が息子の蔵書を売ろうとしている、と相談を受ける。

                初日・映画パンフレット『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』 
                藤沢のデパートで行われた古本市。樋口恭一郎は祖父から父の蔵書を売るため、古本市のバイトを依頼される。複雑な思い出訪れた会場には、本のことになると話が止まらない、不思議な美少女・扉子がいた。
                恭一郎は映画パンフレットの盗難事件に巻き込まれるものの、扉子の推理で事件は解決する。しかし、パンフレットに意外な事実が判明して…

                間章一・五日前
                栞子は不在中の古本市の手伝いを扉子に頼む。智恵子の思惑を感じながら…。

                二日目・樋口一葉『通俗書簡文』 
                樋口一葉の本から連番の貴重な五千円札が見つかる。

                間章二・半年前
                無くなる前、杉尾康明は智恵子を訪ねる。智恵子は康明にある頼み事をする。

                最終日・夢野久作『ドグラ・マグラ』
                康明の愛読書だった『ドグラ・マグラ』。サイン入りの貴重な初版本が見つかる。その裏にいるのが智恵子だった。果たして康明の蔵書はどうなるのか。

                エピローグ・一ヶ月後
                新たな対決と野望のはじまり。



                本の呪い


                本作には、本に魅入られてしまった人々がでてきます。愛するにしろ、憎むにしろ、本は彼らに多大な影響を与えていきます。亡くなった人の蔵書がこんなにも人々を翻弄するのは、読んでいて恐ろしくなりました。

                読書は男にとって大きな力になった。(中略)しかし、大きな力はたやすく呪いに変わるのだ。


                本を読まない人間からしたら、本は単なる紙の束でしかありません。しかし、本に魅入られた人々はその中に世界を構築する。そして、自分の世界を守るため、時に他者を犠牲にしてしまう。

                本に興味を持ち始めた恭一郎や扉子も、いつかは本の呪いがかかってしまうのでしょうか…。

                智恵子の野望と栞子の決心


                新シリーズになり、扉子ちゃんメインの話かと思いきや、栞子さんも活躍します。前作で対決した母・篠川智恵子の野望が絡んでくるからでしょう。

                智恵子さんの野望に、扉子ちゃんが狙われていると気づいた栞子さんは、もう一度、母に向かい合います。

                一度は和解した母子ですが、人間、そう簡単には切り替えられませんよね。ましてや「本」が絡めばなおさらです。彼女たちにとって、本は世界のすべてなのですから。

                栞子さんも昔は人見知りで本以外には無頓着、そのため人の嫉妬や野望に巻き込まれていました。でも母となったことで、扉子ちゃんや周りの人々智恵子さんから守る決心をします。もちろん、大輔くんも一緒に。

                あ、そして相変わらず栞子さんと大輔くんはラブラブファイヤー(登場人物の坂口しのぶさん命名)でした。(笑)結婚20年にもなろうというのに、「早く会いたかった…」「大輔くんの夢ばかり見てました」だの、イチャイチャしております。

                ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ


                『ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち〜』
                『ビブリア古書堂の事件手帖2〜栞子さんと謎めく日常〜』
                『ビブリア古書堂の事件手帖3〜栞子さんと消えない絆〜』
                『ビブリア古書堂の事件手帖4〜栞子さん2つの顔』
                『ビブリア古書堂の事件手帖5〜栞子さんと繋がりの時〜』
                『ビブリア古書堂の事件手帖6〜栞子さんと巡るさだめ〜』 
                『ビブリア古書堂の事件手帖7〜栞子さんと果てない舞台〜』
                『ビブリア古書堂の事件手帖〜扉子と不思議な客人たち〜』
                『ビブリア古書堂の事件手帖II〜扉子と空白の時〜』

                JUGEMテーマ:ミステリ



                『原因において自由な物語』五十嵐律人

                2021.12.10 Friday

                0
                  いじめをテーマにした作品。前半までは冷静に読めていたのですが、物語のクライマックスが近づくにつて、自然と涙がこぼれました。人の悪意への絶望と、それでも救いの光あったことへの安堵。2つの感情に揺さぶられました。

                  物語の主人公は「過程」を書くことで読む人に「自分ごと」として捉えてほしかった、と書いていますので、その意味で私は彼らの物語を受け取ったことになるのかもしれません。

                  『原因において自由な物語』


                  ミステリー作家・二階堂紡季が、恋人であり作品のブレーンである想護から渡されたプロット。それは、いじめを受けていた高校生が、廃病院で自殺を図るストーリーだった。

                  やがて紡季は小説の物語が実は本当に起きた事件だと知ることになるが、その直後に想護が廃病院から転落、重症を負っただと連絡が入る。

                  何が現実で、なにがフィクションなのか。同僚弁護士の椎崎とともに、紡季は事件の真相と想護の意図を調べ始めるが…。



                  展開の面白さ


                  私が感じた『原因において自由な物語』の魅力は、物語の構成です。プロローグ、男子生徒の自殺をほのめかす文章からはじまり、そこから遡り彼らの学園生活が描かれたと思ったら、実はそれが主人公の書いた物語だった、という展開。

                  現実と物語が交錯していき、どちらが真実なのか、誰の言っていることが正しいのか、いや、そもそも正しさなどというものが存在するのだろうか…。そんな不安にさいなまれつつも読み進めると、登場人物たちの行動原理が二転三転していきます。

                  普通のミステリよりも、人物描写に重きを置かれているせいか、単純な謎解きにワクワクしてはいけない、そんな気持ちになりつつも、結果が早く知りたくて最後までページをめくる手がとまりませんでした。


                  いじめ体験者として思うこと


                  私の過去をお話すると、中学生時代にはいじめ、社会人では不当ないやがらせによる退職教唆、パワハを経験していますので、こうした負の連鎖の物語を読むのは辛かったです。

                  この物語の子供たちは一人を除いて、だれもその場から逃げないんです。昔と違って現代はさまざまな救済措置があるのに。それほど、彼らにとって「学校」や「クラス」というコミュニティは絶対的だったのか…と、思うと悲しいです。

                  救いだったのは、弁護士の想護や椎崎、主人公の紡季たち一部の大人が、きちんと子どもたちに向き合ってくれたことです。彼らの奮闘が私の過去を少しだけ楽にしてくれました。

                  特に椎崎が「いじめられる人間に非があっても、いじめてもいい根拠にならない」と言ってくれたのは単純にうれしかったです。いじめられたり、責められてると、自分で自分の価値がないと思い込み、追い込まれていきますから。

                  でも、いじめとパワハラを経験したおばさんから言えることは「辛かったら逃げていい!」んですよ。
                  そして、この物語を読んで、いじめという犯罪に苦しんでいる人が救われますように。

                  Testosteroneさんの『ストレスゼロの生き方 心が軽くなる100の習慣』でも、こう言っています。
                  「逃げる=負け」じゃない。勝つために一時撤退するだけだ逃げるのは立派な戦略なのだ


                  ただ、私は歪んでいる人間なので、すべてのいじめの元になった女子生徒は、『鬼滅の刃』の鞠の鬼のような悲惨な死に方をしてほしい、と思ってしまいますけどね。あるいは一生口内炎に悩まされてほしいですけど。

                  『野呂邦暢ミステリ集成』野呂邦暢

                  2021.07.20 Tuesday

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                    『野呂邦暢ミステリ集成』は、過去作品の中から推理小説的な中短篇八編とエッセイを収録した作品集。

                    主人公の内部に深く埋もれていたものが明るみに出て来る(中略)
                    このようなミステリには事件はいらない。平凡な日常生活があれば事足りるのである。
                    そこには派手なトリックもバラバラ殺人もなく、ただわからないことへの恐怖と不安があるだけ。でもそれが、奥深くて面白い。
                    著者は随筆でミステリについて、このように語っていますが、本書はまさに、「記憶の井戸さらい」のごとく人の記憶に埋もれた「事件」を記憶の底から引き上げたような物語です。


                    失踪者


                    友人の死の真相を知るべく、北陸の島を訪れた主人公が島の秘密を知ったために幽閉される。なんとか逃げ出して潜伏するものの、唯一の脱出手段であるフェリーに乗ろうとすると追手に捕まり…。

                    島独特の恐ろしい風習と閉鎖的な島民たちから逃れる主人公。なにせ島民全部が敵なわけですから、主人公がどうやって島を逃れるかがスリリングに描かれています。

                    洞穴での潜伏生活、漂着物での筏づくり、蛇やカエルを食らうサバイバル生活。ここには作者の自衛隊時代の経験がいかされているらしく、描写がリアルでハラハラさせられました。

                    もうひとつの絵


                    極端に夕日を怖がる男性が、前の住人が置いていった絵によって幼少の頃の出来事を思い出し、記憶を取り戻すように絵の下に描かれたはがし「もうひとつの絵」を見ようとする。それさえわかれば、自分が罪を犯したかどうか分かるのだから…。

                    もどかしくて不安な記憶というもの。
                    「絵」と「幼い頃の記憶」による事件は綾辻行人さんの『人形館の殺人』を思い出しました。あれもまた曖昧な記憶が事件に繋がる話でした。

                    人形館の殺人〈新装改訂版〉 「館」シリーズ (講談社文庫)

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                    運転日報


                    高校教師が婚約者の売春の噂を聞き、真相を探ろうとする話。ぐうぜん、タクシー運転手から売春婦が利用しているタクシーを知り、その運転日報を手に入れたい主人公。それさえあれば恋人の真相が明らかになる。

                    しかし、一介の教師にはそんな権限はない。そこで彼の撮った行動は…。はたして彼女は本当に売春をしていたのか。

                    行動や言動によって、どちらにもとれるところに不安と面白さがある作品でした。

                    ミステリと随筆


                    これまで野呂邦暢の随筆では、難しそうな翻訳小説や詩、芸術書をんでいたので、まさかミステリが趣味だとは思いませんでした。しかしご本人によると「下戸なので酒の代わりにミステリを嗜む」ほどのミステリ好きで鮎川哲也やモース警部を愛読していたのだとか。

                    随筆では海外ミステリを中心に書かれていますが、日本のミステリはあまりお好きではないらしく「通産省の課長補佐というのは味気ない」と書かれています。確かに戦後のミステリは松本清張の『点と線』のような社会派ミステリが一世を風靡していましたしね。(点と線にも省庁の管理職が登場します)

                    もう少し時代が下り、80年代になれば日本でも島田荘司や綾辻行人などの本格ミステリ時代が花開くのですが、その頃には野呂邦暢氏は鬼籍に入られてしまっていたので、読まれたらどんな感想を書いていたのでしょう。

                    本にまつわるミステリ


                    同じく野呂邦暢さんの作品『愛についてのデッサン』は本に関わる人たちの記憶と日常がミステリのような感覚で読める作品。


                    レビューポータル「MONO-PORTAL」

                    『暗幕のゲルニカ』原田マハ

                    2021.01.20 Wednesday

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                      アートには、世界を変える力がある。たった1枚の絵で世界中に影響を及ぼしたパブロ・ピカソの「ゲルニカ」をめぐるサスペンス、『暗幕のゲルニカ』。コロナウイルスにより、世界が分断された今だからこそ読んでおきたい。

                      彼が描いた「ゲルニカ」は、ひと目見で戦争の悲惨さと愚かさが伝わる、印象的な作品です。ピカソが故郷・スペインの町、ゲルニカ空爆をモチーフに描き出したこの作品は、現在では美術的価値以上に、反戦の象徴として認識されています。

                      『暗幕のゲルニカ』あらすじ


                      MoMAの日本人キュレーターでピカソ研究家の八神瑤子は、アメリカ同時多発テロの報復攻撃が行われる際、国連本部の「ゲルニカ」タペストリーが暗幕で隠されているのを見て愕然とする。MoMAの理事長、ルース・ロックフェラーの指示の下、瑤子は今だからこそニューヨークで「ゲルニカ」を展示する意義があると、スペインへ交渉に向かう。

                      1937年のパリ。ピカソの恋人、ドラ・マールはゲルニカの空爆に衝撃を受けたピカソを支え、傑作「ゲルニカ」に衝撃をうけつつ、その製作過程を記録していく。やがて、戦争の足音はパリにも近づいてくる。

                      「ゲルニカ」に魅入られた二人の女性の戦いの行方は…。



                      リアルとフィクションの融合


                      原田マハさんのアート小説は、リアルとフィクションのバランスが素晴らしい。ゴッホを題材にした『たゆたえども沈まず』でも、ゴッホと日本人画商・林忠正との交流など、もしかしたら…と思わせる歴史の網からこぼれたようなエピソードが秀逸でした。

                      『暗幕のゲルニカ』では、20世紀のパリと、同時多発テロの起こった21世紀のニューヨーク、2つの場所でゲルニカに関わる二人の女性の視点が交互に描かれていきます。ゲルニカの制作過程、暗幕事件など、実際に起きた事件をベースに、アートを武器に2人(正確には3人かも)戦う女性たちが描かています。

                      ピカソが「ゲルニカ」を描く様子や、その制作過程をドラが目の当たりにしている様子など、本当に私達の目の前でピカソが描いているかのような臨場感を感じます。それにしてもピカソ、かっこいいですね。

                      ナチスの将校たちに「この絵の作者はお前か?」と聞かれると、
                      「ーいいや、この絵の作者は、あんたたちだ。」
                      実際にピカソが言ったかはわかりませんが、これを言い放つ自負と大胆さ。
                      そりゃ、多くの女が夢中になるわけだ。

                      ラストシーンに目頭が熱くなる


                      最初はフィクションかと思われたけれど、実際はゲルニカはスペインを出ていないので、どういう展開になるのか、はたして「ゲルニカ」はMoMAで展示されるのか。

                      また「自分たちこそゲルニカの所有者」と主張するテロ組織まで絡んできて、後半は怒涛の展開です。さまざまな事件や人員が交錯して、最後にあっと驚くような謎解きが待っています。

                      そして、ラストシーン。最後の行を読んで目頭が熱くなりました。作中に登場するピカソの「鳩」のように、自由で希望に溢れたこのラストには、希望と人々の思いが溢れています。

                      どうか私がいるこの世界にも、希望で包まれますように…。

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                      感想(6件)




                      池上彰さんの解説


                      文庫版ではジャーナリストの池上彰さんの解説があり、政治・歴史的な視点から同時多発テロとゲルニカ暗幕事件について解説されています。あの毒舌の池上さんが、本作品には「読むものの心を動かす」と感想を綴っているのには驚きました。

                      しかし、やはりというか、文中、元トランプ大統領に対しては「ゲルニカの実物を見てほしいものです。」と、皮肉めいたコメントがやはり池上無双だなと。

                      原田マハさんのアート小説


                      暗幕のゲルニカ
                      リーチ先生
                      美しき愚かものたちのタブロー
                      たゆたえども沈まず
                      The Moden モダン

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