ミステリーランドシリーズ『虹果て村の秘密』有栖川 有栖

2020.08.19 Wednesday

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    夏になると読みたくなる、ミステリーランドシリーズ虹果て村の秘密』は、ミステリ作家有栖川有栖さんによる子ども向けのミステリ。
    子ども向けといっても、名だたる推理作家が本気で書いたのですから、大人が読んでも十分におもしろい。


    『虹果て村の秘密』あらすじ


    ミステリ作家になりたい秀介と、刑事になりたい優希は、小学六年生。ともに夏休みに優希の母のふるさとである「虹果て村」へやってくる。虹果て村に別荘を持つ優希の母・ミサトからの招待だ。

    しかし、かんじんのミサトは講演で到着が遅れ、ミサトのいとこ、明日香が2人の面倒をみてくれた。到着早々、ふたりは虹果て村の道路建設に関わる住民たちの争いを目撃する。

    やがてそれは事件に発展し、道路建設反対派の笹本が殺されてしまう。秀介と優希は、周囲の目をかいくぐり、独自で犯人探しをしようとするのだが…



    美しい田舎での夏休みと、ひと夏の冒険


    「美しい田舎での夏休みと、ひと夏の冒険」このテーマに心躍る人も多いでしょう。私もその一人です。秀介と優希はもちまえの好奇心と頭脳を生かして犯人探しを行います。

    ここでは密室トリックやダイイングメッセージ、被害者の言い残した言葉など、子どもにもわかりやすい王道のトリックが使われていますが、ひとつひとつが複雑に絡んでラストに繋がっていきます。

    虹はて村の伝承や伝説になぞらえた精密なプロット、前半の何気ないシーンが実は大事なポイントだったりと、大人が読んでも「そうだったのか!」と謎解きのワクワクと心地よい読了感が残ります。

    ミステリーランドシリーズ


    「魔女の死んだ家」篠田 真由美
    「くらのかみ」小野不由美
    「透明人間の納屋」島田荘司
    「銃とチョコレート」乙一

    『ビブリア古書堂の事件手帖II〜扉子と空白の時〜』三上 延

    2020.07.20 Monday

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      『ビブリア古書堂の事件手帖II〜扉子と空白の時〜』は、横溝正史の幻の書籍『雪割草』をモチーフに横溝小説のような家族の葛藤がテーマのミステリ。今回は成長した扉子ちゃんも活躍します。

      『ビブリア古書堂の事件手帖II〜扉子と空白の時〜』あらすじ


      前作では小学生だった栞子さん娘・扉子ちゃんが高校生になっており、そこから物語は過去へさかのぼっていきます。

      扉子は祖母・篠川智恵子から父・大輔が書いたマイブックと持ってくるよう言われる。友人家族が営むブックカフェで祖母を待つ間、マイブックを読みふける扉子。そこには過去、ビブリア古書堂が遭遇した本にまつわる「ビブリア古書堂の事件手帖」が書かれていた…。




      事実と虚構の二重構造


      この物語は、横溝正史の『雪割草』にまつわる時間の二重構造が興味深い筋立てでした。また、新聞小説を切り抜いて作る「自装本」というジャンルがあるのも初めて知りました。

      当時は新聞小説がすべて単行本になるわけではなく、自分で本や新聞の切り抜きを装丁する文化があったようですね。そういえば、江戸川乱歩も、新聞の切り抜きなどをスクラップにして装丁した『貼雑年譜』を作っていましたっけ。


      『第一章 雪割草I』


      上島家の当主・上島秋世が亡くなった。葬儀の歳、彼女が甥に譲るはずの『雪割草』の自装本が紛失してしまう。本の捜索を依頼された栞子さんと大輔は、横溝小説のようなそっくりな双子の老女に振り回されてしまう。

      第一章では、2017年に発見される以前の2012年を舞台に、世に存在しない『雪割草』を自装本として登場させ、そこに横溝正史の自筆原稿を絡めたミステリになっています。

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      『第三章 雪割草II』


      『雪割草』の原稿が発見され、再販後の2021年。9年前に解決できず、依頼人の家族にも深い溝ができたことを後悔していた栞子さんが、ふたたび上島家から依頼をうけることで、止まっていた事件が動きだします。

      ビブリア古書堂の事件手帖4 栞子さんと二つの顔』でも、乱歩の架空の小説が出てきますが、ここではそのアイデアをさらに発展させ、未来の事実から架空の過去が描かれていくところが興味深かったです。


      横溝正史の原稿を書くときの習慣など、史実や真実を交えつつ架空のミステリ要素を配置しているんですが、それが見事で。本当に『雪割草』の自筆原稿があるんじゃないかと思えるんですよ。

      扉子というキャラクター


      子どもが親から引き継いだ能力を、パワーアップさせていくのがネクストジェネレーションものの定番ですが、扉子ちゃんもおそらく、篠川家で最強になるのかもしれません。

      ・智恵子さん…推理は本のため。それ以外には使わない
      ・栞子さん…推理は人のため。しかし、自分の能力(や美貌)に無自覚なところが事件につながる。極端な人見知り。

      そして、扉子ちゃんです。彼女も卓越した記憶力と推理力の片鱗をみせていますが、祖母、母と違うのは人とコミュニケーションがきちんと取れるところだと思います。

      その証拠に『獄門島』をモチーフにした話では、きちんと対等な友だちをつくっています。

      栞子さんは、夫の大輔くんをはじめ、周囲の人はみな、彼女を放っておけない「保護者」ポジションだし、智恵子とさんに関しては、友だちと呼べるひとがいるか…謎です。

      そして、扉子ちゃんは父親が書いた「事件手帖」の内容だけで、両親でも時間がかかった謎を解いてしまいます。母の推理力、父の洞察力を受け継いだ扉子ちゃんには、これからどんな本の謎が待っているんでしょうか…

      今後の展開


      もともと作者の三上延さんは「ビブリアの後日譚と前日譚を書くつもり」とコメントしていました。

      シリーズ後半で、栞子さんの祖父でありビブリア古書堂の創始者のエピソードが書かれていたので、私は戦前、戦後の古書の話が始まるのかとワクワクしていたのです。(そのため、難しい専門書も読んだ)

      しかし、扉子ちゃんという最強のキャラクターが現われたので、これから『ビブリア古書堂の事件手帖II』として彼女の推理を生かしたラノベ風味の学園推理モノとかになるのかな…。

      そりゃ、おじいさんの話より、美少女の方が受けがいいよな…とがっかりしていたら、これから前日譚も書かれるとあとがきにありました。うれしい…。

      そりゃ、理由が無ければ「あの」智恵子さんが、わざわざ孫に会いに来るわけがないもんな…今後の展開が楽しみです。

      ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ


      『ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち〜』
      『ビブリア古書堂の事件手帖2〜栞子さんと謎めく日常〜』
      『ビブリア古書堂の事件手帖3〜栞子さんと消えない絆〜』
      『ビブリア古書堂の事件手帖4〜栞子さん2つの顔』
      『ビブリア古書堂の事件手帖5〜栞子さんと繋がりの時〜』
      『ビブリア古書堂の事件手帖6〜栞子さんと巡るさだめ〜』 
      『ビブリア古書堂の事件手帖7〜栞子さんと果てない舞台〜』
      『ビブリア古書堂の事件手帖〜扉子と不思議な客人たち〜』

      JUGEMテーマ:ミステリ

      江戸川乱歩著、宮崎駿解説『幽霊塔』

      2020.07.13 Monday

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        以前、黒岩涙香版の『幽霊塔』を読み、明治の独特な筆記体に苦しみつつも、物語の面白さに引き込まれたことを感想に書きました。

        こちらの『幽霊塔』は、涙香版をベースに江戸川乱歩がリライトをした、現代版(といっても昭和初期)の『幽霊塔』です。



        『幽霊塔』のざっくりとしたあらすじ


        北川光雄は叔父児玉丈太郎が買い取った『幽霊塔』と呼ばれる古い屋敷を視察に行った際、そこで不思議な美女と出会う。彼女は時計塔の秘密を解き明かすよう、光雄に言い残し去っていく。

        『幽霊塔』は幕末、渡海屋という商人がつくり、秘密の隠し場所へ財宝を隠したものの、そのまま行方不明となった伝説が残っていた。その後も、塔を所有した長田鉄という老婆が養女に殺され、その幽霊が出るといういわくつきのたてものであった。

        はたして、北川光雄のまわりでも奇怪な事件が起こり、その謎の中心にあの美女三浦栄子がいたのだった…。

        江戸川乱歩版『幽霊塔』のおもしろさ


        黒岩涙香版は、登場人物が日本名なのに舞台はイギリスだとか、時代がかった言い回しなど、現代の私たちが読むと混乱する文章が多々ありました。

        いっぽう、乱歩版は現代語で書かれているし、時代も下っているので現代の言い回しに近く(盆栽室→温室など)、混乱することなく読みすすめることができました。ありがとう乱歩先生…

        涙香版は新聞小説だったので、一話ごとに派手な展開が「盛って」あるのですが、乱歩版は盛られすぎた部分を削ったことで、読みやすく、恐ろしさや謎に集中することができました。

        涙香版が弁士が語る活動写真だとすれば、乱歩版はヒッチコックのサスペンス映画のような雰囲気です。

        涙香版『幽霊塔』の感想

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        まんがあり、絵コンテあり、超豪華な宮崎駿の解説


        岩波書店から出版された『幽霊塔』は、宮崎駿の口絵と解説がついています。ただ解説といっても、全ページカラーの幽霊塔の歴史と解説、原作『灰色の女』と涙香の『幽霊塔』、乱歩版への流れ、時計塔のデザインと断面図まで、とにかくもりだくさん。

        しまいには、ヒロインと主人公の出会いのシーンを絵コンテに起こしてあって、映画のビジュアルブックのような豪華さです。

        原作『灰色の女』から涙香版、乱歩版の『幽霊塔』へ、そしてカリオストロへ。通俗文化とよばれるエンターテインメント作品一連の流れが紹介されています。

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        面白いのは、宮崎監督は幼い頃に乱歩の『幽霊塔』を読んで影響を受け、その江戸川乱歩もまた、幼い頃に黒岩涙香の『幽霊塔』を夢中になって読んでいたそうです。(そこの再現まんがが面白い)

        その黒岩涙香はというと、イギリスの小説を勝手に翻訳と脚色を加えまくり(当時著作権なんてものは無視されていた)大衆に受けそうな小説をジャンジャン量産していたのだとか。

        明治のはじめは西洋文化がどっと押し寄せてきたものの、まだ江戸文化が根強かったので、涙香版の幽霊塔は当時の読者にわかりやすいよう「外国が舞台で、日本人名の登場人物」という、今読むとねじれた構造になっていたのだそうです。

        こうして通俗文化の流れが、人から人へ、小説家からアニメ監督へと伝わっていき大きな流れになっているのは感慨深いものがあります。

        それにしても宮崎監督、よほど時計塔が好きなのか、涙香版、乱歩版の時計塔に加え、自らデザインした時計との間で何パターンもの時計塔を描いています。

        もういっそ、映画化してほしい…。

        蓮丈那智フィールドファイルIV 『邪馬台』北森鴻

        2019.09.11 Wednesday

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          民俗学ミステリ・蓮丈那智フィールドファイル初にして最後の長編『邪馬台』読了。異端の民俗学者・蓮丈那智が邪馬台国の謎に挑むと同時に、謎の文書「阿久仁村遺聞」にまつわる滅びた村の秘密に迫ります。

          あとがきには作者・北森鴻氏の急死により途絶えた物語を、氏のパートナーだった作家の浅野里紗子氏があとを引き継ぎ完成させたとありました。

          未完の、それも結末が残されていない作品を引き継ぐのは並大抵の覚悟ではなかったでしょう。
          しかしこうして物語を世に出してくれた作者と関係者の方々には感謝しかありません。

          今回、私が興味深かったのは「阿久仁村遺聞」よりも那智先生による邪馬台国の推理です。確かに、このように考えれば邪馬台国の位置についても説明がついてしまうのです。



          邪馬台国とは何か


          邪馬台国に関しては古くは江戸時代からその「場所はどこか」について論じられてきましたが、那智先生は「そんなものは考古学者にでもまかせておけ」と言い放ち、独自のアプローチを試みます。

          それは「邪馬台国はどこか」ではなく「邪馬台国とは何か」、そんな国家であったかというものです。那智先生の推理によると、古代の国家は当時最強のテクノロジーである「鉄」の製造が密接に関わっているのだとか。

          「鉄」は武器として持てば強大な軍事力となり、農具に使えば農業技術が向上することで食べること以外の余力、「酒」を作り出すこともできる。

          邪馬台国とは、「鉄」と「酒」がキーワードとなるのではないか。
          そこに、助手の三國くんが提唱する「滅びの民俗学」説を加えると…。もちろん、実証されない推理ではあるのですが、歴史外の視点から邪馬台国を捉えるとこんな風にも考えられのか、と改めて那智先生の思考力に驚かされました。

          奇しくも有名な『銃・病原菌・鉄』でも、古代、鉄がもたらす生産性の向上と、その余力で国家が形成されると書かれていました。

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          蓮丈那智フィールドファイルIII 『写楽・考』 北森鴻

          2019.08.17 Saturday

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            美貌の民俗学者・蓮丈那智が殺人と歴史の謎を解く、蓮丈那智フィールドファイル『写楽・考』

            前作『触身仏』から新たに研究室の助手となった佐江由美子が加わったり、これまで名前が伏せられていた教務の元民俗学者の名前が判明するなど新たな変化があったものの、助手兼ワトソン役の内藤くんは相変わらず蓮杖先生に振り回されています。

            優秀な佐江さんが加わったことで戦々恐々としたり、ちょっと狂言回し的な役割が強くなってきたのはちょっとかわいそうな気も…



            写楽・考─蓮丈那智フィールドファイルII あらすじ



            憑代忌


            「憑代」とは神をその中に宿す器物のこと。お祭りのお神輿なども「憑代」の一種ですね。
            那智先生に依頼され、内藤と佐江だけである旧家にある憑代の人形の調査に向かうものの、そこで殺人事件に巻き込まれてしまう。
            また、大学内では単位を落とさぬおまじないとして、学生の間に内藤の写真を撮ってそれを破損する行為が流行っていて…。

            那智先生の写真は手に入らないし、怖い。なので代替品として内藤くんの写真が使われたらしいのだけど、それが「憑代の変遷」という事件のヒントにつながっていきます。

            湖底忌


            湖の底に沈む鳥居とそれにまつわる事件。そもそも鳥居とは何なのか、一節には神が変化した鳥のとまる場所とも言われますが、ここでは、鳥居そのものが信仰の対象であり、現実と非現実を分けるモノという説を唱えています。

            神社も鳥居も私達の身近にあるけれど、説明をしろと言われたらよくわからないものですね。

            棄神祭


            那智先生が学生の頃、フィールドワークで訪れた旧家で起こった殺人事件。過去に決着をつけるべく那智先生が再度謎を解くという展開。その家には神像を壊すという一風変わった行事があり、それを撮影したビデオに謎をとく鍵があるらしい。

            「破壊される神」とは何を表しているのか。日本神話で殺されることで食物を生み出した大気都比売神を例に取り、崇めるべき神が破壊される謎に迫ります。

            写楽・考


            民俗学的モチーフではなく、地方の資産家の失踪事件と、資産家の持つ美術品についての謎を、蓮丈那智研究室と元民俗学者の教務職員・高杉が追っていきます。

            タイトルに写楽がついているのに、実は写楽は最後まででてきません。最後でようやく謎が解けるのですが、これだけ少し毛色の違う感じがしました。



            JUGEMテーマ:最近読んだ本

            民俗学とミステリはよく似ている『触身仏』北森 鴻

            2019.07.26 Friday

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              美貌でクールな民俗学者が解き明かすのは、昔も今も変わらない人間の「業」かもしれない。蓮丈那智フィールドファイルも2冊め。このシリーズの面白いところは現実の事件と、民間伝承の中に埋もれた事件、その両方の謎が明らかになるところです。

              民俗学は正規の歴史書に書かれないような地方で「その時そこで何があったか、なぜこうして残ったか」を検証し、推理していく学問です。

              昔の農村では生存それ自体が難しいため、生き延びるために村人たちは間引きや姥捨て、人柱など、現代の感覚では考えられないような壮絶な虐殺が行われていました。

              それを残したい思いと、知られたくない思いが相反し、時に人や現象を変化し逆転させ、元とは異なる伝承として伝わる。それを解き明かしていく作業が民俗学はミステリのようでもあるわけです。




              触身仏─蓮丈那智フィールドファイルII あらすじ



              「秘供養」


              人里離れた場所に作られた五百羅漢の謎。「なぜ、この場所に、こうした形で残るのか」には理由があり、これが解かれたときの恐ろしさといったら…!

              「大黒闇」


              大学に潜む恐怖を描いた話。大学内のカルト宗教、催眠術のように相手を操る教主のおそろしさといったら、助手の三國くんまで危うく入りそうになるほど。でもそれを制した蓮杖先生の「無用!」の一言かっこよかったですねえ。

              「死満瓊」


              学者同士のディスカッションの場で殺人事件が発生。死体の隣には蓮杖先生が意識不明で発見されてしまう。「三種の神器」のひとつ、勾玉についての考察が語られます。

              鏡は鬼道(占い)、剣は軍事力、勾玉は日本神話にでてくる海の満ち引きを支配する玉から、治水事業であると考える説が興味深いです。ヤマタノオロチ退治も、水に住むオロチを川の氾濫に見立てた治水事業という説もあるのだとか。神話に秘められた歴史的な解釈、面白いですね。

              「触身仏」


              即身仏とは食を少しずつ絶ちながら絶命するまで念仏を唱え、その亡骸を仏として祀る修行。その即身仏にまつわる物語。本来里の近くに祀るべき仏が集落と異なる場所に安置された意味とは…。実際にフィールドワークでその場所や地形を見ることで、全く違った側面がみえてきます。

              「御蔭講」


              わらしべ長者の物語と「講」と呼ばれる昔の相互扶助システム(沖縄にはまだ残っている)との関連性。わらしべ長者のように、より多くを得るために狂ってしまった男の話とリンクしています。



              蓮丈那智フィールドファイルシリーズ


              「凶笑面」

              『占星術殺人事件』島田 荘司

              2019.03.23 Saturday

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                日本ミステリ界の名作『占星術殺人事件』読了。トリックの斬新さに度肝を抜かれました。この小説にはミステリの定番「読者への挑戦状」が途中で挟まれているのですが、材料が提示されているとはいえ、まったくわかりませんでした。

                これが約40年前に書かれた物語だとは感じられません。改訂版ということもありますが、時代を感じさせない、すごいミステリでした。猟奇的殺人ではありますが、極端なグロ表現ではないので純粋にミステリが楽しめます。

                物語は、昭和11年に起こった猟奇殺人「占星術殺人事件」を40年後の昭和50年代に、占星術師の御手洗潔とワトソン役の石岡和己が依頼され、この事件の真相を探るというもの。

                雪に残った謎の足跡、密室殺人、6人の乙女たちのバラバラ死体、占星術になぞらえた殺人計画など、ゾクゾクする謎が一体どのように説かれるのか、犯人は誰なのか…「読者への挑戦状」によると物語の中であらかじめ提示された
                人物の中にいるらしいのですが、謎を解いている時にはほとんどが死んじゃっているし、正直お手上げでした。



                しかし、殺人のトリック、それもバラバラ死体のからくりがわかった時の驚きといったら…!不可能と思われる事柄も、ほんの少し、ピンをはずすだけでこんなにも簡単に形が整うとは…。このどんでん返しは「十角館の殺人」の犯人を知った時以来の衝撃でした。


                昭和という時代


                謎解きのワクワクと、トリックの衝撃が素晴らしかったのですが、読んでいて切なかったのは犯人の心情です。
                ミステリで犯人に同情することは多々あるのですが、この「やりきれない感じ」は昭和ならではじゃないかなと思うんです。

                犯人が身の上について少しだけ書かれた文の中にも、その裏にある悲痛な経験がすけて見えます。

                平成の世の中ならばまだ、悲惨な環境から逃げ出すこともできたでしょうが、家の因習や家族制度の力が強かった昭和では、そこから逃げ出すのが今よりもずっと難しいかった。だからあんな事件がおこってしまったのかもしれません…。

                『葉桜の季節に君を想うということ』歌野 晶午

                2019.02.14 Thursday

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                  『葉桜の季節に君を想うということ』そんなロマンチックなタイトルから、儚げな純愛小説を想像したのですが、ところがどっこい、冒頭、エロいシーンからはじまります。殺人、詐欺といった生臭い事件と、主人公とヒロインの純愛。それが最後にはあんな風になるとは。気持ちよく騙された作品でした。


                  『葉桜の季節に君を想うということ』


                  主人公・成瀬将虎は、高校の後輩・キヨシから、キヨシの想い人・久世愛子の身内の死の真相と、高齢者を対象にした詐欺グループ「蓬莱倶楽部」の調査を依頼される。そんな時、成瀬は偶然駅で自殺を図ろうとした麻宮さくらと運命的な出会いをする。

                  二人の恋の行方、「蓬莱倶楽部」の詐欺によって人生を狂わせる老人たち、そこに成瀬の過去が絡み合い、事件は意外な方向へと進んでいく…



                  あ〜!、やられた〜!


                  最終章を読み終えて、思わずあ〜、やられた〜!って思いましたね。
                  『葉桜の季節に君を想うということ』は「どんでん返し」がすばらしいミステリとして紹介されていたので、警戒しつつ読んでいたのですが、まさかこうくるとは。

                  言われてみれば小説の構成や、登場人物たちの言動などに「ひっかかり」は感じていたのですが、最後の最後で実にスムーズにひっくり返されるというか、いかに自分の感覚が思い込みでできているかを実感しました。

                  そして、読者がミスリードされるように作られた作者の綿密な構成がすごい。確かに読み返してみると核心を避ける表現であったり(多少強引なのもあるけど)、主軸の話の途中で、全く無関係(にみえる)話が入ってくることで混乱を誘ったり、小道具なども選びぬかれていているんです。(ジャイアンツとか)

                  推理というよりはラテラルシンキングに近い部分もあり、自分たちの感覚が固定概念に凝り固まっているのかを思い知らされました。

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                  80年代、とあるカップルを巡る恋愛小説…かと思いきや、最後の2行でひっくり返される。殺人はないけれど、別の怖さのある作品です。

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                  明治の推理作家 VS 天才棋士『涙香迷宮』

                  2018.09.28 Friday

                  0
                    以前『幽霊塔』を読んだのは『涙香迷宮』を読む前に黒岩涙香の作品を知っておきたかったから。
                    『幽霊塔』で明治の翻訳表現に苦しみながらもページをめくる手が止まらなかった涙香のすごさがわかりました。

                    『幽霊塔』感想→

                    そんな涙香をモチーフにしたミステリ『涙香迷宮』は、天才棋士が、明治時代のミステリ作家・黒岩涙香が残したいろは歌にまつわる謎を解いていくというもの。暗号、殺人、いわくありげな洋館、そして嵐の山荘…。ミステリ要素が満載の作品でした。

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                    『涙香迷宮』あらすじ


                    若き天才棋士・牧野智久は知り合いの刑事から事件の意見を求められる。その人物は碁を打っている最中に後ろから刺され、絶命していた。智久は碁石の数が通常より多いという事実に引っかかりを感じた。

                    一方、智久の彼女・類子はミステリサークルのイベントで黒岩涙香の研究家である麻生に声をかけられる。麻生は涙香の企画展を計画しており、涙香が残したとされる洋館の発掘調査を行うという。

                    そこへ智久も招待され、ほかにも歌人、ゲーム作家、編集者などさまざまなミステリマニアが集まり、洋館の地下に残る涙香の暗号を解き明かそうとするのだが…。

                    日本ミステリの始祖、黒岩涙香


                    いろは唄はひらがなを一文字ずつ使った和歌で、「いろはにほへと」が有名ですが、その他にも様々ないろは唄がつくられいて、黒岩涙香はいろは唄の達人でもありました。

                    その他にも涙香は「連珠」と呼ばれる五目並べやビリヤードなど、遊芸百般と言われるほど様々なことに才能を発揮していたそうです。

                    星座盤を模した天井、十二支を配した部屋にそれぞれ置かれたいろは唄。ミステリ要素がふんだんに含まれていたのは楽しかったです。涙香は自分の新聞社で実際に宝探し懸賞企画をおこなったので、自分のハマった趣味である「いろは唄」や「連珠」で「宝探し」の謎解きをさせるのは実際にあってもおかしくないモチーフですね。

                    黒岩涙香のこと




                    ただ、これだけワクワクするモチーフがありながら、宝と内容だとか、殺人事件の結末だとかはいまひとつ盛り上がりに欠けた感じも。十二支いろは唄の部屋は、詳細に描かれていたので、部屋そのものにもなにかあるんじゃないかと期待してしまったんです。

                    綾辻行人さんの館シリーズを読んでいると特に「部屋の配置図=謎がある」と思っちゃうんですよ…

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                    いろは唄の解説も、明治期のかな文字表現がむずかしいので、自分で考えられず探偵役が解き明かすのをただただ感心するばかりなので、あまり物語の中に入り込むという感じはなかったかな。

                    とはいえ、明治の偉大な推理作家と若き天才棋士の頭脳戦は面白かったです。本当の犯人というか仕掛け人は黒岩涙香なのかもしれません。

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                    乱歩や宮崎駿があこがれた小説『幽霊塔』黒岩 涙香

                    2018.09.16 Sunday

                    0
                      乱歩や宮崎駿があこがれた黒岩涙香の翻訳小説『幽霊塔』を読了。宝が隠された塔を巡る冒険活劇ミステリ。「幽霊塔」は、少年時代の江戸川乱歩や宮崎駿も憧れた小説で、後に江戸川乱歩によってリライトされ、宮崎駿の「カリオストロの城」にも影響を与えてます。

                      いわくつきの時計塔、宝の謎、暗号、首無し死体、からくり屋敷など、ミステリの要素がたっぷり詰まっています。

                      ・パブリックドメイン(0円)デジタル書籍版「幽霊塔」。明治時代の描写そのままなので読みづらいところも。

                      幽霊塔




                      『幽霊塔』あらすじ


                      丸部道九郎はおじが買い取った「幽霊塔」と呼ばれる時計塔を視察に行くと、そこには日影色(灰色)の着物を着た美しい女性・松谷秀子がいた。秀子は幽霊塔の内部に詳しく、道九郎にいろいろなアドバイスを行い去っていった。

                      やがて幽霊塔に住まいを移した道九郎たちであったが、それは様々な謎と恐ろしい出来事の始まりであった。
                      果たして「怪美人」秀子の正体は、また幽霊塔にまつわる宝の謎は…。

                      美人の謎、宝の謎、怪しげな洋館、暗号、いわくありげな人物など、ミステリの要素がふんだんに詰め込まれた作品です。

                      江戸川乱歩のリライト版の「幽霊塔」。物語自体を楽しむならこちらがおすすめ。(舞台は日本になっている)宮崎駿の豪華イラスト解説入りです。

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                      乱歩版、宮崎駿解説の『幽霊塔』

                      明治の探偵小説


                      現代の我々から見るとトリックは稚拙だし、ご都合主義的な展開があるものの、謎が謎を呼ぶ展開にページをめくる手がとまりませんでした。

                      原作となった英語の小説から、暗号部分を漢詩風にアレンジしたり、随所に黒岩涙香の言葉のセンスが光ります。

                      ひとつの章ごとに山場があり、次への展開が気になるようなつくりになっていたり、私が斬新だな、と思ったのは各章のタイトルが文章中に出てくるセリフや言葉になっていて、今読むと一周回ってとても新鮮でした。

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                      嗚呼、面倒な明治の描写…


                      物語は面白いのですが、なにせ明治32年の小説なので、台詞回しや表現が現代とまったく違って読みづらいことといったら…!
                      しますのサ」「シテ見ると」など、芝居がかった台詞回しや現代では使われない表現など、いちいち頭で現代の表現に変換しながらでないと先に進めず大変でした。

                      話の展開が面白いので早く読みたいのに、描写がそれを許さない…。

                      あと、「舞台がイギリスなのに登場人物が日本名」なのには参りました。
                      涙香の時代は名前や周囲の描写を日本風にアレンジしないと読者が想像できなかったのでしょうが、現代では逆にそ場面や人物が想像しづらく、読みながら「どっちやねん!」とツッコミをいれながら読んでいましたよ…。

                      「盆栽室」…温室?イギリスには盆栽ないやん…
                      「衣嚢」…ポケットのことらしい。わからん…
                      「夫で」…それで。読めん!
                      「了う」…しまう。終了→終わり→終う→しまう…

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                      『幽霊塔』と『カリオストロの城』


                      『幽霊塔』を読んでいて「あれ?この設定、カリオストロの城みたいだな…」と思っていたら、調べてみると宮崎駿は幽霊塔からインスピレーションを受けて『カリオストロの城』を作ったのだそう。

                      宝が隠された時計塔、詩文のような暗号、機械のような時計塔内部、骸骨に部屋の中に落とし穴など、カリオストロの城でみられた設定が随所に出てきます。

                      少年時代の宮崎駿が、いかにこの小説に魅入られていたかがわかります。

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