2018.09.28 Friday

明治の推理作家 VS 天才棋士『涙香迷宮』

以前『幽霊塔』を読んだのは『涙香迷宮』を読む前に黒岩涙香の作品を知っておきたかったから。
『幽霊塔』で明治の翻訳表現に苦しみながらもページをめくる手が止まらなかった涙香のすごさがわかりました。

『幽霊塔』感想→

そんな涙香をモチーフにしたミステリ『涙香迷宮』は、天才棋士が、明治時代のミステリ作家・黒岩涙香が残したいろは歌にまつわる謎を解いていくというもの。暗号、殺人、いわくありげな洋館、そして嵐の山荘…。ミステリ要素が満載の作品でした。

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『涙香迷宮』あらすじ


若き天才棋士・牧野智久は知り合いの刑事から事件の意見を求められる。その人物は碁を打っている最中に後ろから刺され、絶命していた。智久は碁石の数が通常より多いという事実に引っかかりを感じた。

一方、智久の彼女・類子はミステリサークルのイベントで黒岩涙香の研究家である麻生に声をかけられる。麻生は涙香の企画展を計画しており、涙香が残したとされる洋館の発掘調査を行うという。

そこへ智久も招待され、ほかにも歌人、ゲーム作家、編集者などさまざまなミステリマニアが集まり、洋館の地下に残る涙香の暗号を解き明かそうとするのだが…。

日本ミステリの始祖、黒岩涙香


いろは唄はひらがなを一文字ずつ使った和歌で、「いろはにほへと」が有名ですが、その他にも様々ないろは唄がつくられいて、黒岩涙香はいろは唄の達人でもありました。

その他にも涙香は「連珠」と呼ばれる五目並べやビリヤードなど、遊芸百般と言われるほど様々なことに才能を発揮していたそうです。

星座盤を模した天井、十二支を配した部屋にそれぞれ置かれたいろは唄。ミステリ要素がふんだんに含まれていたのは楽しかったです。涙香は自分の新聞社で実際に宝探し懸賞企画をおこなったので、自分のハマった趣味である「いろは唄」や「連珠」で「宝探し」の謎解きをさせるのは実際にあってもおかしくないモチーフですね。

黒岩涙香のこと




ただ、これだけワクワクするモチーフがありながら、宝と内容だとか、殺人事件の結末だとかはいまひとつ盛り上がりに欠けた感じも。十二支いろは唄の部屋は、詳細に描かれていたので、部屋そのものにもなにかあるんじゃないかと期待してしまったんです。

綾辻行人さんの館シリーズを読んでいると特に「部屋の配置図=謎がある」と思っちゃうんですよ…

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いろは唄の解説も、明治期のかな文字表現がむずかしいので、自分で考えられず探偵役が解き明かすのをただただ感心するばかりなので、あまり物語の中に入り込むという感じはなかったかな。

とはいえ、明治の偉大な推理作家と若き天才棋士の頭脳戦は面白かったです。本当の犯人というか仕掛け人は黒岩涙香なのかもしれません。

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2018.09.16 Sunday

乱歩や宮崎駿があこがれた小説『幽霊塔』黒岩 涙香

乱歩や宮崎駿があこがれた黒岩涙香の翻訳小説『幽霊塔』を読了。宝が隠された塔を巡る冒険活劇ミステリ。「幽霊塔」は少年時代の江戸川乱歩や宮崎駿も憧れた小説で、後に江戸川乱歩によりリライトされ、宮崎駿の「カリオストロの城」にも影響を与えてます。

いわくつきの時計塔、宝の謎、暗号、首無し死体、からくり屋敷など、ミステリの要素がたっぷり詰まっています。

・パブリックドメイン(0円)デジタル書籍版「幽霊塔」。明治時代の描写そのままなので読みづらいところも。

幽霊塔




『幽霊塔』あらすじ


丸部道九郎はおじが買い取った「幽霊塔」と呼ばれる時計塔を視察に行くと、そこには日影色(灰色)の着物を着た美しい女性・松谷秀子がいた。秀子は幽霊塔の内部に詳しく、道九郎にいろいろなアドバイスを行い去っていった。

やがて幽霊塔に住まいを移した道九郎たちであったが、それは様々な謎と恐ろしい出来事の始まりであった。
果たして「怪美人」秀子の正体は、また幽霊塔にまつわる宝の謎は…。

美人の謎、宝の謎、怪しげな洋館、暗号、いわくありげな人物など、ミステリの要素がふんだんに詰め込まれた作品です。

江戸川乱歩のリライト版の「幽霊塔」。物語自体を楽しむならがよいかもしれません。(舞台は日本になっている)宮崎駿の豪華イラスト解説入りです。

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明治の探偵小説


現代の我々から見るとトリックは稚拙だし、ご都合主義的な展開があるものの、謎が謎を呼ぶ展開にページをめくる手がとまりませんでした。

原作となった英語の小説から、暗号部分を漢詩風にアレンジしたり、随所に黒岩涙香の言葉のセンスが光ります。

ひとつの章ごとに山場があり、次への展開が気になるようなつくりになっていたり、私が斬新だな、と思ったのは各章のタイトルが文章中に出てくるセリフや言葉になっていて、今読むと一周回ってとても新鮮でした。

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嗚呼、面倒な明治の描写…


物語は面白いのですが、なにせ明治32年の小説なので、台詞回しや表現が現代とまったく違って読みづらいことといったら…!
しますのサ」「シテ見ると」など、芝居がかった台詞回しや現代では使われない表現など、いちいち頭で現代の表現に変換しながらでないと先に進めず大変でした。

話の展開が面白いので早く読みたいのに、描写がそれを許さない…。

あと、「舞台がイギリスなのに登場人物が日本名」なのには参りました。
涙香の時代は名前や周囲の描写を日本風にアレンジしないと読者が想像できなかったのでしょうが、現代では逆にそ場面や人物が想像しづらく、読みながら「どっちやねん!」とツッコミをいれながら読んでいましたよ…。

「盆栽室」…温室?イギリスには盆栽ないやん…
「衣嚢」…ポケットのことらしい。わからん…
「夫で」…それで。読めん!
「了う」…しまう。終了→終わり→終う→しまう…

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『幽霊塔』と『カリオストロの城』


『幽霊塔』を読んでいて「あれ?この設定カリオストロの城みたいだな…」と思っていたら、調べてみると宮崎駿は幽霊塔からインスピレーションを受けて『カリオストロの城』を作ったのだそう。

宝が隠された時計塔、詩文のような暗号、機械のような時計塔内部、骸骨に部屋の中に落とし穴など、カリオストロの城でみられた設定が随所に出てきます。

少年時代のの宮崎駿が、いかにこの小説に魅入られていたかがわかります。

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JUGEMテーマ:ミステリ

2018.06.27 Wednesday

『BORDER 警視庁捜査一課殺人犯捜査第4係』古川 春秋 金城 一紀

金城一紀脚本、小栗旬主演でドラマ化された『BORDER』。犯人の銃弾が脳内に残ってしまったことで死者と話せるようになった刑事、石川安吾が事件を通じ生と死に対峙する重厚なサスペンス。

自らも格闘技を行う金城さんがこだわったアクションシーンは圧巻でした。

そんな『BORDER』がオリジナルストーリーでノベライズ化。登場人物のバックボーンや心情が語られ、より深くドラマの世界を楽しむことができました。

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『BORDER 警視庁捜査一課殺人犯捜査第4係』あらすじ


トンネルで会社員大谷の死体が発見される。特別監察官の比嘉ミカは「犯人は身長160センチ前後、あるいはそのように偽装だれた可能性がある」と推測。時を同じくして大谷の部下の女性社員が自殺未遂。
事件は、恥情のもつれによる犯行とみて捜査が開始される。

石川は静かに死者に問いかける「あなたを殺したのは、誰ですか?」死者からの聞き取りで犯人は「鬼」のような突起を持つ男だという。ほどなく政治家の秘書が殺され、石川は殺された秘書にも話を聞くと、彼もまた「鬼」を見たという。

関連のないように思われた2つの事件が、大きな事件につながっていくと知った石川は…

オリジナルストーリー


ノベライズものって、ただストーリーを文章化したものが多いですが、こうしたオリジナルストーリーはうれしいです。

登場人物たちの設定も深く描かれていて、ドラマでは描かれなかった石川の家族のこと(兄の自殺、父との確執)や比嘉ミカが「死者の声を聞く」ことにこだわる理由などが語られます。設定では知っていたけれど、実際に言葉になると石川と比嘉の深い思いを知ることができました。

そして小説版では石川と比嘉は焼き肉食べに行ったり、比嘉の顔立ちに照れたりする石川の姿もみられてちょっとほっこり。ドラマではいつも殺伐としていたから。こういうちょっとしたぬくもりがあるとうれしいし、こうした暖かさが石川が「あちら側」へ行きそうになる衝動を防いでくれるかもしれない、と思ったりします。

欲を言えば、アクションシーンはもう少しスピード感がほしかったかな。金城さんのスピード感のある文章が懐かしい。はやく小説も書いてくれよ…。

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「BORDER 贖罪/衝動」、ドラマのその後、罪を背負った石川がどう生きていくかを描いた「贖罪」、比嘉ミカが石川たちと出会う前の事件を描いた「衝動」どちらも申告な内容でしたが、物語がきちんとあるべきところに収まったという感じです。

比嘉さんは死者と話せずともその卓越した分析能力で犯人にたどり着きます。石川と違ったアプローチですが、彼女もまた「死者の声」を聞き取ることができるのでしょうね。

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2018.06.21 Thursday

がんとは何なのか。『がん消滅の罠 完全寛解の謎』岩木 一麻

このミステリーがすごい!大賞を受賞した『がん消滅の罠 完全寛解の謎』読了。がんや先進医療についても学べるので勉強になります。

がん消滅の罠 あらすじ


日本がんセンターの医師・夏目は、担当した末期がんの患者が次々と寛解(がんが消える)するという通常ではありえない現象に遭遇する。一方、がん患者が寛解によりが巨額の保険金支払いが行われたことに夏目の友人で保険会社課長の森川は、部下の水嶋とともに調査を始め、夏目のもとへ。

夏目は森川、友人で研究医の羽島とともに完全寛解の謎を調査するのだが…。

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がんを知る


一体「がん」とはなんなのか、将来、自分やほかの身内ががんになったらどうしたらいいのか。本を通じてそうした現代のがん治療についての知識も知ることができました。「がん」とは細胞がコピーされるときに生じる「バグ」ので、常に体内で発生するものの、通常は免疫細胞ががん細胞を攻撃することで健康でいられるけれど、がん細胞が
増殖することで「がん」になっていくんですね。

自分の細胞から発生したものだから、なかなか攻撃が難しく抗がん剤治療は重い副作用を生じることもあります。
また、現代のがん治療はがんを完全除去できない場合の「がんとともに生きる」という治療方針があるのだとか。

日本人の2人に1人ががんになる時代、がんについて知れたという意味でも興味深い本でした。

細胞擬人化まんが「はたらく細胞」でもがん細胞と免疫細胞との攻防が描かれます。

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救済と復讐


ただ、ストーリーとしては納得がいかない面も多々ありました。いくら遺伝子レベルの治療が進んでいるとはいえ、がん細胞を自由自在にコントロールできるとは到底思えない。それができるのは「神」だけではないのか…。

そう思った時、ああ、だからキリスト教なのかと。犯人はもしかしたら「神」になりたかったのかもしれない。愛するものを奪われたことで一方では貧しきものに「救済」を与える神、もう一方で戒律を守らないものに「試練」を与える神として。

しかし、人間は神にはなれない。この結末のあと犯人がどうなっていくのか、おそらく自滅するのではないかと私は考えます。

面白いけど納得がいかない(ここからネタバレ)


「がん寛解」というアイデアはすごく面白いけど、犯人たちの動機にいまひとつ共感できなかったなあ。家族を失ったことで「壊れて」しまったのかもしれないけれど。

最後の落とし方は面白かったけど、意外な顛末というわけでもない。もうひとりの犯人が、どうしてあそこまで尽くすのか、理由を説明されてもバックボーンが描かれていないので「ああそうなんだ」と、納得はするけど驚きはなかったなあ。

羽島と犯人の娘との関係も、あれだけの説明では納得がいかないし…。


「このミステリーがすごい!」で賞とったけど、動悸がまったく納得いかないのはこれもそうだな…。

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私は「館シリーズ」のように一見、荒唐無稽な設定でもプロットも動機も納得できて「驚かせてくれる」話のほうが好きだな…。

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2017.06.24 Saturday

『モップの精は旅に出る』近藤 史恵

キュートでおしゃれな清掃員・キリコが、清掃先の問題を解決していくモップの精シリーズ「モップの精は旅に出る」今回が最終巻なのだとか。相変わらず、清掃先で起こるできごとをきれいに解いていくキリコちゃんですが、今回キリコちゃん自身にもある問題が降りかかってきます。

英会話教室での事件


英会話教室の事務員・翔子は、ある日生徒の中沢から婚姻届を送られる。一度カウンセリングをしただけで身に覚えのない翔子だったが、その後、中沢が殺されてしまう。

翔子は忘れ物をしたことが縁で、英会話教室の夜間清掃をしていたキリコちゃんと知り合い、婚姻届が入っていたと思われる封筒がゴミ箱に捨ててあったことを知り、真犯人が他にいるのではないかと疑います。

もう一編は大人のいじめがテーマ。主婦グループに大人気の外国人講師をめぐり、新規会員の女性がいじめを受けているのでは、と心配する翔子に、キリコちゃんは自分も教室に通って調べると言い出し…

以前、作者の近藤史恵先生が通っていたフランス語の教室の話をツイッターで書かれていたことがあったので、もしかしたらそんなとことから作品のヒントを得られたのかもしれません。(さすがに事件は起こらないでしょうが…)

モップの精の最後の物語


物語の最後「ラストケース」は、キリコちゃん自身のお話です。これまで、キリコちゃんの家族は夫の大介くん以外は出てきませんでしたが、キリコちゃんには年の離れた姉がいたこと、そのお姉さんが急な病気で亡くなってしまったことから、物語は始まります。

キリコちゃんと姉の菜々子さんが仲が良かったのに疎遠になってしまった理由、自分のことを優先してしまう父親など、家族の問題について語られていきます。

大介くんも気難しい祖母の介護や、母親の死など、キリコちゃんと結婚したことで癒やされていきましたが、キリコちゃんもまた、大介くんが「帰る場所」だったんですね。シリーズの最初は頼りなかった大介くんも、悲しみを抑えようとするキリコちゃんに「君の好きにしていい。」といえる程、たくましくなりました。

しかし、自分のことを棚に上げ、相手を糾弾する大介の叔母や、自業自得なのに、キリコちゃんに仕返ししようとする菜々子さんの元夫など、自分のために他人を傷つけてもいい、と思っている人が「家族」の中にいるほど、恐ろしいことはありませんね。


この表紙、なんだかメリー・ポピンズみたいですね。キリコちゃん自身が清掃先で問題を解決して去っていく、メリー・ポピンズみたいな感じだからかな。でも、可愛くて前向きで、最終巻にふさわしい表紙です。
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モップの精シリーズ


「モップの精と二匹のアルマジロ」→
「モップの精は深夜に現れる」→
「モップの魔女は魔法を知ってる」→
「天使はモップを持って」→

JUGEMテーマ:オススメの本

レビューポータル「MONO-PORTAL」

2017.05.18 Thursday

サクリファイスシリーズ『スティグマータ』近藤 史恵

自転車ロードレースの世界を描いた「サクリファイス」の続編「スティグマータ

『スティグマータ』あらすじ


自転車ロードレースの本場、ヨーロッパでアシストとして走り続ける白石誓(チカ)。今回は、以前に因縁のあったフランス人エース・ニコラと同じチームで彼のアシストとしてツール・ド・フランスに参加する。一方、日本のチーム・オッジ時代のエース伊庭もヨーロッパのチームで走り始める。

レース前、チカは伊庭から彼と同じチームに所属するかつての英雄・メネンコを紹介される。メネンコは一度、ドーピングでロードレース界を追放されており、今回のツールで復活を果たすという。敵が多いメネンコは、チカと同じチームのアントニオから狙われている、彼を監視して欲しい、と依頼され…。

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アスリートの業


うーん。メネンコ非道。こういう俺様で、自分のためなら道具のように相手を使い捨てるし、人を人とも思わない。こういうアスリートがいる(のかもしれない)と思うと、正直ロードレース以外でもスポーツを観たいとは思えなくなるな。

ただ、頂点を極めたアスリートというのは、どんなに非道でも人を引きつける力があるらしく、チカも最初、そんなカリスマのパワーにあてられ、走る姿に感銘を受けたりしています。

今回も、アスリートの業というものがこれでもか、と描かれています。チカも昔はアシストとして走れればいい、という感覚だったのに、伊庭がスプリンターとして活躍し始めると、焦りと嫉妬を感じます。
私は、チカは嫉妬とか羨望とか無縁で自分の能力を最大限に活かせたらそれでいい、と思っていたので、伊庭に嫉妬心を持つって、正直意外でした。

しかし、スポーツで栄光を得る人って、みんなどこか普通と違いうのかもしれません。チカと同じチームになったニコラは前回無邪気すぎる気質が幸いして周りを混乱させていたし、今回のメネンコは、ほぼ犯罪者ですし。(レ○プ教唆、恐喝、詐欺など)突出した人物は、それだけ普通の人間と違うってことでしょうか…。

しかし、それでは周りにいる人間は堪ったものではない。でも、それでも走りたいと思うのがアスリートなのかもしれません。

最後に、メネンコの仕掛けた演出を、チカらしい形で収めてみせた時は、ああ、やっぱりこれがチカなのだなあ、とちょっと安心したというか。

走り続けるということは「普通」からかけ離れていくと同意かもしれない。でも、チカはどこか「普通」をもって走っているから、読んでいると安心できるんです。

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サクリファイスシリーズ


サクリファイス→
エデン→
サヴァイブ→
キアズマ→

レビューポータル「MONO-PORTAL」

2015.08.17 Monday

「イニシエーション・ラブ」 乾くるみ

少し前に映画化され「ラスト2行のどんでん返し」に興味をひかれて読んでみた「イニシエーション・ラブ」。噂に違わぬラストのオチのインパクトに、他の読者同様、最後の2行を読んでから、最初から気になるところを読み返しました。

「イニシエーション・ラブ」あらすじ


鈴木は人数合わせで参加した合コンで、成岡繭子に一目惚れする。どうやら、繭子も好意をもってくれたらしく、電話番号を渡されたとこがきっかけで、2人は付き合うことに。(Side-A)

やがて鈴木は静岡から東京に転勤になる。最初のうちはマユのために、足繁く静岡へ帰る鈴木だったが、同僚の女性・石丸から好意を寄せられるようになり…(Side-B)


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恋愛小説が、どうミステリに化けるのか


恋愛小説ではあるんです。殺人らしきものは起こらないし、探偵もでてこない。けれど、その張り巡らされたトリックが解き明かされた時、殺人とはまた違った怖さを感じました。

「イニシエーション・ラブ」は、80年代後半が舞台で、前半と後半でSide-A、Side-Bと設定され、それぞれに70〜80年代に流行った音楽のタイトルがつけられています。

実はこれが、この物語の最大のヒントだと思うのです。若い方はなじみがないかもしれませんが、昔、レコードというのは、A面、B面裏表があり、「ひっくり返さないと」裏の面が聞けないというしくみが、物語の軸となっています。

あと、繭子の部屋にあった「十角館の殺人」もヒントといえばヒントかも。ラストシーンはもちろん違いますが、ラストに至る過程とか、細密なトリックな感じが似ている気がします。「十角館の殺人」を知っているミステリファンが、それを踏まえて読めば、謎は溶けるんじゃないかな。

残念だったのは、80年代に生きていたせいかその頃の恋愛描写が、なんかこう、痛痒い感じがして、感情移入ができなかったことですかね。
あと、ラブシーンがエロくない。理系の童貞くんからの視点なので、生物化学のレポートを読んでるみたい。
あくまでミステリの前振りとして読んでしまっているので、恋愛ターンに「ときめき」が感じられなかったのが残念。

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2015.08.12 Wednesday

八咫烏シリーズ『烏に単は似合わない』 阿部 智里

表紙絵と、奇妙なタイトルに惹かれて読んだ「烏に単は似合わない」、面白いです。八咫烏が支配する土地、「山内」を統べる金烏、その世継ぎの御子へ入内をめざす四家の姫が、宮中で遭遇する事件を軸に、不思議な八咫烏の世界が描かれます。

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「烏に単は似合わない」あらすじ


八咫烏の世界「山内」を統べる金烏、その世継ぎの若宮へ入内を果たすべく、貴族の頂点である東西南北を司る四家からそれぞれの姫が登殿する。

東家の二の姫・あせびは病気の姉の変わりに登殿することになった。西家の真赭の薄、南家の浜木綿、北家の白珠、各家の姫たちそれぞれが競い合い、若宮の心を射止めようとする。

実はあせびは幼いころ、一度若宮に会ったことがあり、それ以来、若宮への思いを募らせていた。

しかし、やがて宮中でさまざまな事件が起こり、やがてそれは四人の姫たちを巻き込んでいく…。

斬新な八咫烏シリーズの世界観


モチーフとしては「十二国記」「後宮小説」「源氏物語」などの設定に共通点がみられるものの、八咫烏が支配する世界というのがなかなか斬新で、読んでいくにつれ、徐々に八咫烏の世界の謎が解かれるのが面白いですね。

八咫烏の世界は、日本の平安時代に似ており、東西南北を司る四家を頂点にした「宮烏」と呼ばれる貴族は、人の姿をとり、烏の形になることはなく、一方庶民の「山烏」は烏の形へたびたび変化する。(烏の形をとらない=別の移動手段をもつことが、ステータスらしい)

異世界恋愛ファンタジーかと思ったら、叙述トリックミステリだった


幼いころ、心を通わせた少年少女が時を経て再会したとき、何が起こるのか。当然、読者は古典の「筒井筒」のような純愛をイメージします。

それが、「普通」で、「通説」だったから。それに物語の構成が春夏秋冬、再びの春となっていて、これだけみたら、どうしたって純愛を期待してしまうのだけど、読んでいくうち、「?」「!」といった展開に。

おもえばこの否定形のタイトル「烏に単は似合わない」にも、物語の本質が隠されているような気がします。

このラストの展開は見事でしたが、私はちょっと後味の悪さを感じてしまったかな。でも、まともな展開じゃなかったからこそ面白いのですが。

作者の阿部智里さん、この本を書かれた時は20代前半だったそうで、いやはや、異色の、そしてものすごい作家が誕生しました。それは、今後の展開を読んでいくとわかるのですが…。

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『烏に単は似合わない』このたび漫画化され、期間限定でイラストとコミックつきの特別版が電子書籍で発売されています。

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いよいよ八咫烏シリーズ外伝『烏百花 蛍の章』発売。これまでの短編に加えて書き下ろしも。

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八咫烏シリーズ


『烏に単衣は似合わない』
『烏は主を選ばない』
『黄金の烏』
『空棺の烏』
『玉依姫』
『弥栄の烏』
外伝『すみのさくら』
外伝『しのぶひと』
外伝『ふゆきにおもう』
外伝『まつばちりて』
外伝『あきのあやぎぬ』
レビューポータル「MONO-PORTAL」

2015.02.25 Wednesday

極端に、短い物語集 「極短小説」スティーブ・モス ジョン・M・ダニエル

BSで放送中の「宮崎美子のすずらん本屋堂」のショート・ショート特集で紹介され、面白そうなので読んでみました。

アメリカの週刊誌で募集した「55語小説」を集めたショート・ショート集。「SHORTEST STORIES」を、「極短小説」と訳したのは洒落がきいていますね。

ショート・ショートとはいっても、SFからミステリ、恋愛小説まで幅広いジャンルの小説が揃っています。

極端に、短い話。


55語(語句?)という制約で、起承転結がしっかりとついていて、さくさく読めちゃいます。

難点を言えば「玉石混交」。最後の行で見事にオチがついてあっと言わせるものから、正直「これどういう意味?」と首をひねってしまうものまで、面白いのとそうでないのとの差が大きい。

あと、英語ならではの慣用句や、映画の知識がないとわかりづらいのもあるのですが、翻訳家の浅倉久志さんが巻末で解説をしてくれています。


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「極短小説」は短い中でオチをつけるためか、どうしても内容がブラックなものが多いようです。読んでいて何かに似ているな、と思ったらこれでした↓

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レビューポータル「MONO-PORTAL」

2014.12.28 Sunday

「ビブリア古書堂の事件手帖6 栞子さんと巡るさだめ」 三上 延

ビブリア古書堂の事件手帖、今回は全編太宰治作品です。今回は「栞子さんと巡るさだめ」とあるように、彼女のルーツについて、驚くべき事実が判明します。

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第一章 走れメロス


前回の巻末、太宰治の希少本「晩年」に関する脅迫文が届き、大輔は第一巻「ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち」で、「晩年」を巡って栞子さんに怪我を負わせた犯人、田中俊雄に接触するものの、田中から逆に祖父が持っていた別の「晩年」を探して欲しいと依頼されます。

真相をつかむためにも依頼を受けた栞子さんと大輔は、関係者へ聞き込みをはじめ、事件に巻き込まれていくのですが…。

知己の同業者に事情を聞くと、栞子さんの祖父もまた、本に関する依頼を受けていたことを知ります。

第二章 駆け込み訴へ


太宰の書き込みがあったという(田中の祖父が持っていた)「晩年」を探し、富沢という人物に辿り着いたものの、田中の祖父が起こした蔵書盗難事件によって、疎遠になってしまった太宰研究会(ロマネスクの会)のメンバーと富沢氏の娘により、事件の真相解明を依頼されます。

栞子さんは、50年近く前の盗難事件についても、明晰な推理をみせ、見事に解決したのですが、そこには田中の祖父と、大輔の祖母の秘密が関わっており、田中を利用して本を手に入れようとした人物は…。

ここへきて、物語の鍵になる人物が出てきます。故人ではありますが、栞子さんの祖父の修行先の店主であり、希少本に異常な執着があり、強引な手段で手に入れる人物・久我山書房店主・久我山尚大。

その久我山の行為そのものが、今もなお亡霊のように栞子さんたちの身に災いをもたらしていきます。

この人物、これからも絡んできそうです。


第三章 晩年


栞子さんの「晩年」を奪おうとし脅迫文を送った、意外な犯人が判明します。確かに、最後まで読んでみると、一番しっくりくる動機をもっていますから。

その他、大輔が気がついてしまった、篠川智恵子(栞子さんの母)の出生の秘密。それこそが「巡るさだめ」なのかもしれません。


おまけ:ラブラブファイヤー


正体のわからない脅迫者、祖父母の代までさかのぼった因縁、もうひとつの晩年の行方…と、深刻な内容が続きますが、ちゃんとラブ要素も、それも(2人にしては)すっごいのが出てきます。(*´∀`*) まさにラブラブファイヤーですね。ちなみにラブラブファイヤーは第一巻に登場した顧客の坂口しのぶさんの命名です。


おまけ:栞子さんの母・智恵子が探している本についての考察


ここまでわかっていることをまとめてみました。

・正気じゃ手に入らない、とんでもない古書である
・彼女はそれを探すため、家を出た
・「台湾」でに志田に再会
・篠川智恵子が大輔くんの病室で読んでいたのは「聖書」(HOLY BIBLE)
・栞子さんの祖父は「クリスチャン」で神父を目指していた
・ビブリア古書堂の名前の由来はラテン語の聖書を指すビブリアから

「台湾」というキーワードから、以前「戦前に日本国外で出版、または執筆された、日本人作家の小説」ではないかと推理しました。6巻では新たに「キリスト教」というキーワードが追加されました。

「聖書」にからんだもので、たとえば「世界、または日本で最初に出版された聖書」というのも考えられますが、「聖書」については、以前、ギャラリーフェイクという漫画で取り上げていたので、できれば、違う結末だと嬉しいのですが…。

もうひとつ、キリスト教がらみで思い出したのが戦前、上海にあった内山書店です

内山書店は日中文化人のサロンとしての役割を持ち、魯迅など中国人作家や、谷崎潤一郎など日本の作家とも親交があり、彼らの訪中時には世話をしていました。(内山完造著「そんへえ・おうへえ」→

そして、店主の内山夫婦は、敬虔な「クリスチャン」でした。古書好きの間で内山書店は有名ですし、もしかしたら、栞子さんの母親が探す本は、内山書店がからんでいる希少本なのでは…と私は想像しています。例えば、谷崎や芥川、魯迅に金子光晴など、有名作家の未発表原稿を集めた、幻の単行本が密かに発行されていただとか…。

今後の展開で、智恵子が探していた本が何なのか、明かされていくといいのですが…。

「ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち」
「ビブリア古書堂の事件手帖2〜栞子さんと謎めく日常」
「ビブリア古書堂の事件手帖3〜栞子さんと消えない絆」
「ビブリア古書堂の事件手帖4〜栞子さん2つの顔」
「ビブリア古書堂の事件手帖5〜栞子さんと繋がりの時」
ビブリア古書堂シリーズで紹介された本が一冊に。「栞子さんの本棚」
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