2018.05.12 Saturday

『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』阿部 智里

八咫烏シリーズの短編集『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』これまで電子書籍のみの発売であった短編が、新たに書下ろし2話を含む外伝集として発表されました。

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電子書籍で発売された4話は以下の通り。

『すみのさくら』


浜木綿の小さい頃のお話。南家の姫として両親の愛情を一心に受け、何不自由なく育った浜木綿。ある日両親の失脚から宮烏の身分を剥奪され、寺に預けられることに。最初は境遇を受け入れられず脱走したり復讐を考える浜木綿だったが、失意の中すごすうち、ある日上皇につれられ若君が寺にやってくる。

若宮との出会いで浜木綿のかたくなな心も次第にほどけていき…

外伝『すみのさくら』


『しのぶひと』


若宮の正室・浜木綿の侍女となった真赭の薄。あるとき真赭の薄と雪哉の間に縁談がもちあがる。突然の話に驚き憤る真赭の薄だったが、その縁談を若宮夫婦に勧めたのが澄尾だと知り憤る。しかし、その縁談の裏には澄尾のある思惑があって…

外伝『しのぶひと』

『ふゆきにおもう』


北領・垂氷郷の郷長の下の息子2人が行方知れずになった。母親の梓は必死で探すものの見つからない。そんな時・息子雪哉とその生母・冬木の噂を耳にした梓は、北本家の姫・冬木のことを思い出す。

梓は昔、北家の姫・冬木の侍女だった。冬木は病弱ゆえ、意地のわるいところがあったが、梓のように気に入ったものや、小さく無垢なものにはやさしかった。そして、俯瞰的に物事を見る目と、明晰な頭脳を持っていた。

外伝『ふゆきにおもう』

『まつばちりて』


八咫烏の世界「山内」でも下層の「谷合」、そこの娼家で生まれた「まつ」は女郎になる運命の少女だったが、金烏の正妃・大紫の御前に見出され「落女」となるよう教育を受ける。「落女」とは女の戸籍を捨て、男の名で務める官吏のことだった。

やがてまつは松韻と名を変え落女として出仕する。しかし、朝廷には彼女に対抗する蔵人・忍熊がいた。対立しつつも、お互いの才覚を認め合うふたりだったが、忍熊からの驚くべき申し入れにより、松韻の運命は大きく変わっていくことに…。
外伝『まつばちりて』

『わらうひと』あらすじ


「弥栄の烏」直後のお話。猿との決戦後、真赭の薄(ますほのすすき)のもとに澄尾が訪ねてくる。澄尾から正式に愛の告白を受けた真穂の薄はそれを断るものの、澄尾から返ってきたのは意外な答えで…。

ありゃ?真赭の薄は澄尾のこと好きじゃなかったのか。てっきりくっつくのかと思っていたけれど。

外伝「しのぶひと」とはまた違った2人の関係が描かれます。澄尾の態度にやきもきしてしまう真赭の薄。なんだかんだでいいコンビになっているのでは。この二人の関係、今後どうなっていくか楽しみです。

八咫烏シリーズを通じて、一番成長したのが真赭の薄じゃないかしら。雪哉も成長はしているけれど、心は頑なですし。

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その他、『空棺の烏』に登場した雪哉の仲間・千早と結の兄妹喧嘩についても。こちらも女子が強いです。また、結が歌う外界から伝わった『外唄』という文化が存在することがわかります。百年前の曲ということは、もしかしたらこれなんじゃないかと。

『ゴンドラの唄』は『命短し恋せよ乙女』と歌われる大正時代の流行歌。今でも時々引用されています。

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『ゆきやのせみ』あらすじ


『黄金の烏』直後のお話。忠誠を誓いはしたものの、相変わらず若宮に振り回されている雪哉。雪哉は地方への視察の際、またフラフラとお忍びで出かけ、戻らない若宮を探しにいくと、ようやくみつけた若宮(と澄尾)は何故か牢の中だった…。

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う〜ん、正直書下ろしの2話は、他の4話に比べてクオリティが低い気がします。なんだか締切に追われてやっつけで書いたようで。

短編は短い文字数の中で「新しい設定」「登場人物の紹介」「物語の起承転結」を入れ込まなければならないから長編より技量が求められるとおもうのだけど、これまで本編の八咫烏シリーズの冴えが、短編ではどんどんなくなっていくんです。

『わらうひと』は真赭の薄と澄尾のキャラクターに助けられた部分が大きいし『ゆきやのせみ』なんてタイトルそのまんま、とくにおもしろいことが起こるわけでもない。

正直、前の短編のような展開を期待していたため、肩透かしをくらいました。「これはあくまで箸休めのコメディです」と前置きがあればよかったかも。話の並びを変えるとかしないと、『ゆきやのせみ』をラストにもってくるのはキツイな…

それなら『烏に単衣は似合わない』のあせびや大紫の御前など、個性的なキャラクターを掘り下げた話などでもよかったのでは…と思うのですが。阿部智里さんは短編は今後に期待することにしましょう。

そう考えると、小野不由美さんの短編の冴えは凄まじいなと感じました。
短い文章に世界がぎゅうっとつまっていて長編をよんでいるくらいの満足感があったもの。

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八咫烏シリーズ


『烏に単衣は似合わない』
『烏は主を選ばない』
『黄金の烏』
『空棺の烏』
『玉依姫』
『弥栄の烏』


JUGEMテーマ:電子書籍

2018.04.30 Monday

しゃばけシリーズ『とるとだす』畠中 恵

しゃばけシリーズ『とるとだす』読了。最近のしゃばけシリーズは、それぞれが独立したお話であると同時に、各話が呼応し合った一連の流れとなっています。

最初のお話で問題が発生→若だんなと妖たちが試行錯誤(その間に他の事件を解決)→最終話で解決…?

『とるとだす』あらすじ


さて、今回の話の核となるのは長崎屋の主である藤兵衛の病。若だんなたちが藤兵衛病状を回復させるため、妖怪の世界や神々の世界を訪れ奮闘します。しかし、藤兵衛の倒れた原因は病ではなく「薬」だったため、通常の方法ではなかなか回復せず…

とるとだす
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とるとだす


顔見知りの僧、寛朝に呼び出された若だんなと父親の藤兵衛。ほかにも薬種問屋が集められており、その渦中、突然藤兵衛が倒れてしまう。どうやら数種類の薬をすすめられて同時に飲んだらしい。息子と違って健康体の藤兵衛がなぜ薬を飲んだかというと…


しんのいみ


藤兵衛の病状は危機は脱したもののまだ難しい状態。若だんなは父親の病を好転させることのできる妖怪「枕返し」を探して江戸に出現した蜃気楼のなかへ。ところがその蜃気楼は、入ったものの記憶をうばっていくところだった。

若だんなは蜃気楼の中で知り合った坂左(さかざ)とともに蜃気楼の主である喜見を探しに行くのだが…

古来、蜃気楼は大きな貝がつくる幻だと信じられてきました。幻の土地だからこそ、人は何かを忘れたくてひきつけられるのかもしれません。


ばけねこつき


藤兵衛の容態はまだ安定せず、若だんなは兄やたちの静止も振り切り薬種問屋の店先にでて商売に励んでいた。あるときそんな若だんなに押しかけ結婚話が。神田の裕福な小東屋では娘が「ばけねこつき」と噂され縁談が流れたため、遠くの通町の長崎屋へ縁を求めに来た。小東屋は娘と結婚すれば万病に効く薬の作り方を持参金としてもたせるという。

実はそこには、ある陰謀があり…

ここで一番怖いのは妖怪よりも人。善意にせよ悪意にせよ、人の強い気持ちにはさすがの妖怪も神々ですら圧倒されます。なかでもすごかったのが長屋のおかみさんたち。なんと貧乏神の金次にまでお嫁さんを世話する始末。

当時仲人をすると謝礼がもらえるし、付き合いもふえる、井戸端会議のネタにもなるので、おかみさんたちはこぞって独身者に結婚を世話していたそうで…。現代も少しはそうしたおせっかいがあったほうがいいのかな、と思いますが、あまり強引なのも現代では通用しないでしょうね。


長崎屋の主が死んだ


このタイトルには驚きました。本当に藤兵衛は死んでしまうのか。あるとき長崎屋に狂骨と呼ばれる死神が長崎屋を呪うとやってきた。まだ本調子でない藤兵衛を心配し、若だんなは狂骨の正体を探っていくと、ある僧が井戸に身を投げて死んだのが原因とつきとめる。

自分だけがなぜこんな不幸な目に。という思いが強すぎて、狂骨は不幸の原因に少しでも関わった者たちをたたっていたのです。狂骨も以前は人間。やはり恐ろしいのは人間ですね…。

ふろうふし


藤兵衛の様子は芳しく無く、若だんなの母親のおたえは心配で数々のお供えをした。それが神々の噂となり大黒様が長崎屋にやってきて、常世の国の少名彦ならば妙薬を知っている、ついでに言伝を頼みたいと、若だんなを常世の国国へ送ってしまう。しかし、ついた先はなぜか神田。小さな一寸法師が侍たちと争っていた。

若だんなは「島子」という神が不老不死の薬を持ち逃げした騒動にまきこまれてしまう。

相変わらず日本の神仏は畏れ敬い、決して近づいてはならぬものですね。こちらの理は通用しませんから。

JUGEMテーマ:ファンタジー



2018.01.01 Monday

『パーマネント神喜劇』万城目 学

おそらくこの話、クリスチャンやムスリムなど『絶対唯一の神』をもつ人々には理解されないでしょうね。なんといってもこの神様、神なのにものすごく人間くさい。失敗だってする。でも、そんな神様が大好きなんですよね、私たち日本人は。

とある小さな神社におわす縁結びの神と、そこの神社に願う人間たち、そして様々なタイプの神が集まる『パーマネント神喜劇』。『鴨川ホルモー』『鹿男あをによし』など、人間と神様の不思議なかかわりを描いてきた万城目さんの神さま小説『パーマネント神喜劇』、今回も面白いです。

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人間くさい神さまたち


まずこの表紙のインパクトたるや…。この大阪の街で飲んだくれていそうな太ったおっちゃんが実は縁結びの神。そして裏表紙の七三スーツのサラリーマン風の男性も神さまです。確かに日本には八百万(やおよろず)も神さまいるのだから、中にはこんな神さまもいるかもしれません。

神さまたちも、現代人のニーズに合わせるため、いつまでも弥生時代衣装に「みずら髪」ではいられないのでしょう。

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おっちゃん神は縁結びの神さまなんだけど、神さまヒエラルキーでいえば下っぱ。そのため、上位神からのノルマ(縁結びの成功率とか)に苦しんだり、別の神社(芸能)でパートタイムをしたり、神様仲間に仕事の愚痴をこぼしたり。神さまなのに人間臭い。

けれどそんな人間臭い神さまが、私は大好きです。遠くの大きな存在よりも、近くのおっちゃんの方がお願いごともしやすいですし。


神と人の絆


最終章『パーマネント神喜劇』では、人と神さま同士との絆が描かれていて、読んでいてちょっと泣けました。おっちゃん…じゃなかった、神さま、かっこいいよ。

ある地方に大規模な地震がおきて、その土地の神社も壊滅状態に。小学生の美琴はぺしゃんこになった神社に「地震をなくしてください」とお願いすると、サラリーマン風の不思議な男の人を見かける。実はその神社の主神はあのおっちゃんの神さまで、地震で親睦の中に閉じ込められていた。

美琴とサラリーマン風神さまの協力で、なんとかおっちゃん神の救出に成功したものの、上位神からこの地にさらなる災厄がもたらされると聞かされて、ひとり(ひとはしら)、この地を守る決心をします。

それは土地の人々が神社と神さまを信じて、拠り所としていたから。自分たちの家よりも神社の復旧を優先させ、「地震をなくして」と願っても、地震をとめられなかった神さまを恨んでなどいない。
そこには、ずっと長い時をかけて培ってきた、人と神との絆がありました。

神は人間が祀ることで存在し、人間たちが神を忘れてしまうと、その存在が消えてしまう。つまり、神が神たるには、人間の思いが必要なんですね。

こんな神さまが近くにいてくれるなら、毎日ちょっとがんばれる気がします。

『パーマネント神喜劇』に登場した神さまたちも、ときにはホルモーを観戦したりするのかな。

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万城目さんの他の作品「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」の登場人物もでてきます。こういうちいさなコラボがうれしいんですよね。

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「鴨川ホルモー」→
「鹿男あをによし」→
「プリンセス・トヨトミ」→
「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」→
「ザ・万歩計」→
「ザ・万遊記」→

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2017.05.12 Friday

しゃばけシリーズ『おおあたり』 畠中 恵

しゃばけシリーズももう15作め『おおあたり』若だんなと妖たちが「大当たり」を巡って、物語が展開します。「おおあたり」って、幸運な場合だけじゃなくて、不運の場合もあるのですね。

さて、どんな「おおあたり」が若だんなたちに当たるのかといえば…

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おおあたり


若だんなの幼なじみの栄吉は、餡づくりが苦手な菓子職人。そんな栄吉だか、餡以外の菓子はうまく、新作の辛あられがたいそう評判になるが、それが思わぬ災難を呼ぶことに。

辛あられの偽物がでまわり、おまけに栄吉さんの許嫁に横恋慕する人まで現れ…

なんだって栄吉さんは、餡づくりが上達しないんでしょうねえ…?一人前になるまで結婚しない、というのは男のけじめであり、プライドですが、待たされる身になると、たまったものではありませんよ(^^;)。


長崎屋の怪談


悪夢を食べてそのネタを高座にかける貘の場久が、誰かに追われていると告げる。同じく、若だんなの顔見知りの日限の親分が、仲間殺しの嫌疑をかけられてしまう。

場久の語った怪談噺さながらに、皆が追われるはめになり、若だんなが推理を働かせて犯人を探します。
しかし、妖より幽霊より、本当に怖いのは人間かもしれません。

はてはて


若だんなと親しい貧乏神の金次は、宴会のお菓子を買いに行った先で男とぶつかり、お菓子を弁償する代わりに富くじを渡される。その富くじはなんと大当たりだったものの、同じ番号の富くじをもつ人間が他にも現れて…。

ある意味、お金をコントロールすることのできる貧乏神が、お金のトラブルに巻き込まれるって面白いですね。ちなみに貧乏神はきちんと祀ればたまに福をさずけてくれることもあるのだとか。


あいしょう


佐助と仁吉が、はじめて若だんなと会ったお話。齢千年にもなる2人ですが、若だんなに使え始めた時は、小さな子供の姿をしています。
あるとき、5歳の若だんなが離れから姿を消してしまう。必死に探す仁吉と佐助ですが、やがて外の妖たちが犯罪に関わっていることを突き止めます。どうやら若だんなは他の子の誘拐事件にまきこまれてしまったらしい。

何を置いてもぼっちゃん大事の仁吉と佐助はこのころから始まったんですね。

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暁を覚えず


そろそろ、跡取りとしての仕事をしたいと考えていた若だんなだったが、接待のたびに寝込んでしまっていた。こんどこそ、と、意気込む若だんなに、猫又が「1日眠れば翌日元気で過ごせる」という妙薬をもってきて…。
翌朝まで眠っているはずが、途中で目覚めてしまった若だんな。

その間、父親の藤兵衛は母(妖の血をひいてか、浮世離れ)のおたえが接待先の大親分に気があるのではとやきもきするし、おまけに腹違いの兄、松之介が妻の様子がおかしいと相談に来て…

おたえさま、藤兵衛旦那の嫉妬心にまったく気づかず、のんきに「夫婦げんかができる」と喜んだり、妖の血なのか、浮世ばなれしていますね。

しゃばけシリーズ感想


「しゃばけ」感想→
「ぬしさまへ」感想→
「おまけのこ」感想→
「うそうそ」感想→
「いっちばん」感想→
しゃばけ絵本「みぃつけた」感想→
「ころころろ」感想→
「ゆんでめて」感想→
「やなりいなり」感想→
「ひなこまち」感想→
「たぶんねこ」感想→
「すえずえ」感想→
「なりたい」感想→

外伝「えどさがし」感想→

「しゃばけ読本」→
2007しゃばけドラマ感想→
2008しゃばけドラマ感想→
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2016.09.13 Tuesday

不思議で不可思議 『海に住む少女』 シュペルヴィエル

シュペルヴィエル『海の上の少女―シュペルヴィエル短篇選 (大人の本棚)』、不思議で不可思議。でも読んでいくとどんどん世界に潜っていく。そんな物語。

私は普段、翻訳もの(ミステリや歴史以外)はほとんど読まないのですが、とあるきっかけから、偶然にもこの本を手に入れました

シュペルヴィエルという人は、小説家でも詩人でもあり、「フランスの宮沢賢治」と例えられているそうです。確かに、宗教の物語をモチーフにした作品があるのは共通しているかも。でも、作風は宮沢賢治というより、レイ・ブラッドベリに近い気がします。救われない話もありますから。

たったひとり、海の中にある街に住む少女、キリスト誕生につきそった牛の物語、ノアの方舟にまつわるお話。日常と少しだけ離れた不思議な世界は、読むものを深い世界へ誘ってくれます。

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2016.08.04 Thursday

八咫烏シリーズ『玉依姫』 阿部 智里

阿部智里さんの八咫烏シリーズ『玉依姫』読了。こう言っちゃなんだが、阿部智里さんは、読者の期待を裏切る作家だ。もちろん、いい意味でですけど。

これまでは、人型をとる不思議な八咫烏の一族と、彼らの住む「山内」という世界で起こる物語でしたが、今回の舞台は人間の世界。いきなり神域へ連れてこられた人間の少女と、八咫烏が使える山神との物語が展開していきます。

いや〜なんとも思い切ったものだ。

山内の世界観なんて、引っ張ろうと思えば、いくらでも設定を継ぎ足して長い物語にできるだろうに、(下手な作家なら、この方式で必要以上に引っ張るのだが)たった5冊目で世界の謎が明らかにされ、物語はいったん完結してしまいます。

玉依姫
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『玉依姫』あらすじ


高校生の志帆は、これまで音信不通だった伯父から誘われ、母の故郷である「山内」村へ向かう。祖母の実の息子である伯父に対する厳しい態度に訝しみながらも、祖母に内緒で山内村を尋ねると、そこでは山神に生け贄を捧げる儀式が今もとり行われ、志帆はその生け贄にされてしまう。

山神のいる神域で、代替わりした、まだ幼い山神を育てる役目を担わされることになった志帆の前に「奈月彦」と
いう山神の使いと、大猿が現れ…。

いい意味で裏切られた展開


一作目『烏に単は似合わない 』では、独自の世界観を見せつつ、宮中で起こるミステリを描き、二作目からは、奈月彦に使える雪哉という少年の視点で、八咫烏の世界の謎が徐々に明らかになっていきました。

前作『空棺の烏』で大敵・猿との大戦が間近にせまる、というところで終わったので、てっきり最新作では猿との戦いが描かれるのかとおもいきや、まさかのラスボス、山神が登場し、彼をめぐる謎が物語の主軸になっていきました。

これまでの作品では、山神は八咫烏の世界の創造主であり、敬うべき存在と思われていたのが、かんしゃくをおこす幼子のような山神に、八咫烏も、志帆も手を焼いていきます。

山神が神たるためには、体を赤ん坊から生まれ変わらせる必要があり、志帆は彼を育てる母親役として人身御供にされたのでした。

これまで書いてきた世界とは、真逆の視点から描く、というのは、実は勇気がいることなんじゃないかと。人気もあるシリーズなのに、成功パターンをあっさり捨てて、新しい物を書いていく。阿部智里さんの作家魂のすさまじさを感じるとともに、これからどんなものを書いていくのか、という期待にワクワクします。

それにしても、山神の癇癪で殺された八咫烏は誰なんだろう…?茂丸?千早?それとも、雪哉…?思い切ったことをする阿部さんのことなので、雪哉をあっさり死なしてしまうことは十分考えられるので怖い。
それは次の『弥栄の烏』で明かされることになるのですが…
『弥栄の烏』

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八咫烏シリーズ


『烏に単衣は似合わない』
『烏は主を選ばない』
『黄金の烏』
『空棺の烏』
『弥栄の烏』
外伝『すみのさくら』
外伝『しのぶひと』
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外伝『まつばちりて』
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2016.06.13 Monday

八咫烏シリーズ『空棺の烏』 阿部智里

阿部智里さんの『空棺の烏』読了。今回もまた、面白くて一気読み。今までと違って、謎解きよりも、学生生活に重きが置かれています。いや、意外なところに謎解きはあったのですが。

でも、この本での主人公・雪哉が体験する勁草院での学生生活と、そこで出会う友人たちとの友情こそが、この本の読みどころではないかと思うのです。

『空棺の烏』あらすじ


前回、人の姿を持つ八咫烏の世界「山内」に、外敵・猿が結界を破って八咫烏を襲う事件が発生した。山内の危機を救う「真の金烏」である若宮・奈月彦を守るため、彼に忠誠を誓った地方豪族の次男坊・雪哉は金烏を守護する「山内衆」の養成学校、勁草院へ入学する。

平民出身の茂丸、西領本家の貴族・明留、ワケありな南領出身・千早など、個性的なメンバーに囲まれ、厳しい課題に向き合いつつ、彼らとの間に友情が生まれるが、勁草院では、若宮派と、その兄・長束派に分かれての対立がエスカレートしていき…。

空棺の烏
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八咫烏版、ホグワーツ


今回の読みどころは、雪哉が入学する勁草院の学生生活です。若宮をはじめ、金烏の一族を守る優れた武官を養成するために、その授業は格闘や剣術などの他、法律や医術といった座学、「馬」と呼ばれる鳥形の八咫烏を乗りこなす御法、戦術シュミレーションを行う兵学など、その授業は多岐にわたり、進級試験に合格しなければ、身分にかかわりなく退学と実力社会です。

そんな中でもご飯を食べたり、語り合ったり、時には喧嘩したり、ハリー・ポッターの魔法学校、ホグワーツを思い出しました。

最初は貴族の明留と平民(雪哉も平民より)の生徒たちとの軋轢があったりするのですが、それを乗り越えて行くところが胸熱で。青春ていいな(*´∀`*)

こうした学生時代に培った友は、これから命がけの任務につく彼らにとって、貴重な財産となるのでしょうね。

空棺の烏とは


雪哉たちの学生生活と平行して、若宮の方で起こる新たな問題も描かれます。若宮が先代の「真の金烏」の記憶を持たないことが原因で、神官が若宮の即位に待ったをかけたため、若宮は先代の金烏の情報を調べていくうち、意外なことが判明してゆくのですが…

タイトルにもなった「空棺の烏」とは、行方不明になった先代の金烏のこと。彼の行動にどんな意味があるのか、そして八咫烏を襲う猿との対決も間近にせまり、次回の話が待ち遠しいです。


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『烏に単衣は似合わない』
『烏は主を選ばない』
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外伝『まつばちりて』

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2016.04.19 Tuesday

八咫烏シリーズ『黄金の烏』 阿部 智里

八咫烏シリーズ『黄金の烏』読了。面白くて一気読み。相変わらず阿部智里さんの書く世界観は独特で面白いのです。

『黄金の烏』あらすじ


人の姿をとれる八咫烏の住まう世界「山内」、その世界を統べる特別な烏を「金烏」という。

金烏は、あらゆる烏の父であり、母でもある。山内が危機に瀕したときに生まれ出るとされ、現在では、若君の奈月彦が金烏であると言われている。

地方豪族の次男坊・雪哉は以前、日嗣の皇子である若君に仕えていたが、現在は故郷の垂氷にもどっていた。ある日、「仙人蓋」と言われる危険な薬物を使用し、暴れていた者と遭遇する。

雪哉はお忍びで垂氷へ来ていた若君と共に、薬の調査を開始するが、調べの途中で立ち寄った辺境の村で、全ての村人が「猿」に喰われるという異常事態に遭遇する。

生き残ったのはたった一人、行李に入れられ、難を逃れた小梅という少女だけだった。

やがて、人喰い猿を山内へ引き込んだものがいることがわかり、そしてそれは、小梅が鍵をにぎっているらしいのだが…

黄金の烏
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八咫烏の住む世界について


今回は、「山内」の世界の謎、外の世界との関わり、そして、真の金烏とは何か?と言う謎が少し明かされます。
山内は、言わば大きな結界であり、そこからの出入りは(とくに、入ることが)容易ではありません。

今までの敵は、宮中内の同じ烏同士でしたが、今回は新たな敵「猿」が登場します。また八咫烏の世界と何らかの関わりがある「人間」の存在も。今まで、独立した異世界だと思っていた「山内」が実はいろいろな世界とつながり、影響を与えているらしいことがわかってきます。


でも今回、雪哉は、金烏である若君が、世界を救う力を持つことに懐疑的でしたが、今回、若君の力を目の当たりにしたことで、若君のマイペースな行動の裏にある思いに、触れることになります。

それが、どんな結果を若君や雪哉にもたらすのでしょう。これからの展開が楽しみです。


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外伝『ふゆきにおもう』
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2016.04.06 Wednesday

江戸時代の猫ばなし 『猪吉とたま』 くるねこ 大和

江戸時代の猫と侍のほのぼの話を描いたくるねこ大和さんの『殿様とトラ 』シリーズの外伝『猪吉とたま 殿様とトラ (一般書籍)』。

殿様とトラ 』に登場し、後に猫のトラと仔をもうけるメス猫の「たま」と、ちょっとどんくさい雉のキジ夫、飼い主の猪吉の日常。

たまは、顔に3本の傷があり(実はそれはキジ夫がつけた)とてもいかつい風貌なのだけど、心根はけっこうやさしく、面倒見がよい。

偶然、たまを飼うことになった猪吉は、いかついたまを可愛がり、仔猫が生まれると畑仕事そっちのけで溺愛。心配した近所の正吉どん(猫好き)とセンセー(トラの飼い主・寺子屋先生)が相談して、猪吉っつあんに嫁をとらせようと画策する。

ものがたりの途中に「セン」という娘の物語も同時進行で描かれ、やがてそのセンが猪吉と出会うというストーリーになっています。

センは山芋堀りが好きな一風変わった娘ですが、そこは、たまやキジ夫など、クセのある動物たちにも愛情をそそぐ猪吉さんのこと。そんなセンさんを気に入り、仲人の正吉さんとセンさんの家に向かうところで離しは終わります。

センさんなら、猪吉ファミリーにもきっと愛されて、幸せになりそう。

読んでいてほっこりする話でした。(*´∀`*)

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殿様(飼い主のセンセーのことを、トラはこう呼ぶ)にも、良いお相手がくるといいのだけど…

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『殿様とトラ 幼少編』→
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2016.03.20 Sunday

『ローマとケルトの息子』ローズマリー・サトクリフ

「精霊の守り人」の作者、上橋菜穂子先生が影響を受けたイギリスの作家、ローズマリー・サトクリフの『ケルトとローマの息子』読了。これは、子どもに読ませるのがもったいないほど、骨太な歴史ファンタジーです。

ローマとケルトの息子 あらすじ


ローマ人でありながら、ケルトの氏族に育てられたベリック。周りからは「赤いたてがみ」(ローマの司令官がつける兜の色から)と差別されるが、鍛錬をつんで立派な戦士となる。しかし、村に不作と病が襲い、ベリックは災厄を連れてきたとして、村から追放されてしまう。ベリックはローマ軍に入るため旅にでるが、よこしまな商人に騙され奴隷に身を落とす。

ブリタニア(イギリス)からローマ、ゲルマニア(ドイツ周辺)、そしてまたブリタニアへ。過酷な運命に翻弄されるベリックのたどり着いた場所は…

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被支配者からの視点


サトクリフの名作『第九軍団のワシ』は、ローマ人の青年マーカスと、元奴隷のエスカの冒険譚で、征服者側のマーカス視点で描かれます。反対に、『ローマとケルトの息子』は、征服されたブリタニアの氏族の少年、ベリックからローマ側をみています。

ローマの支配は、インフラを整備し、現地の暮らしを向上させ、現地人との混血も進んだものの、やはり、支配者と、被支配者の間には、大きな隔たりがあり、

しかし、ベリックは本当はローマ人の血をひいているので、物語はより複雑で、ローマとケルト、どちらにも疎まれ、裏切られたベリックは孤独と疎外感に苛まれます。

様々な人間に裏切られ、手負いの狼のように傷ついたベリックが最後にたどり着くのが、ブリタニアで干拓事業を行うローマ軍人・ユスティニアス。彼もまた、つらい過去を背負った人間で、だからこそ、傷ついたベリックを家族として迎え入れてくれます。


大人が読みたい、骨太な歴史ファンタジー


ベリックが追い込まれていく様子が、とても生々しく描かれています。中でも恐ろしいのは、奴隷となってからの描写で、奴隷の生活はベリックの自由を奪うだけでなく、徐々に奴隷生活が当たり前として、何も感じなくなっていくのです。

そして、その後のガレー船での描写は、本当にひどい。奴隷はまだ、人間だったものが、どんどんと獣のように本能むきだしになっていくんです。

サトクリフはよくもまあ、こんな過酷な物語を、子供向けに書いたものです。しかしこれは、読んでおくべき話だと思います。そして、大人が読んでも十分読み応えのある物語です。

おまけ:食べ物表現


サトクリフは、食べ物の表現が非常に豊か。ブリタニアの丸焼きのイノシシや大鍋のシチュウ、ローマの子ヤギのミルク煮、アーモンドケーキなどの豪華料理。どれも歴史や当時の風俗を反映したごちそうがどれも美味しそう。

サトクリフの食べ物表現は、上橋菜穂子先生の作品の料理表現にも継承されているんだろうな。

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サトクリフ作品感想
『ケルトの白馬』→
『第九軍団のワシ』→

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