『 羽の生えた想像力 阿部智里BOOK』(電子書籍)

2020.09.14 Monday

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    『烏に単は似合わない』から始まった和製ファンタジー、八咫烏シリーズの作者阿部智里さんのファンブック
    『 羽の生えた想像力 阿部智里BOOK』は前橋文学館で開催された企画展に合わせて作成された冊子です。

    新しい時代のファンタジー作家を育んだもの


    この冊子では作家・阿部智里のバックボーンについてインタビュー形式で紹介されています(インタビュアーは萩原朔太郎の孫で前橋文学館艦長の萩原朔美)。

    小さい頃から「作家になる」と思い続け、高校時代すでに『玉依姫』の原型を手掛けていた阿部先生。しかし、そのまま小説を書くことだけに集中せず、部活動にも所属し、さまざまな実体験を積んでいきます。
    小説以外からの体験やインプットを大事にされていたからだそうで。

    生い立ちを拝見すると、阿部先生の生い立ちって『精霊の守り人』の作者・上橋菜穂子先生と少し似ていますね。阿部先生も上橋先生も、友人や家族、先生方といった周囲の方々が、作家になる道を後押ししてくれる環境があり、若い頃から作品を書き続けている。

    そして、上橋菜穂子先生も文化人類学でのフィールドワークや、旅先での実体験を大事にされている作家ですから。



    松本清張賞


    冊子には『烏に単は似合わない』が松本清張賞を受賞した際の審査員のコメントが掲載されていますが、受賞したのにも関わらず、案外けちょんけちょんにけなされています。審査員さんたち、結構容赦ないな…

    まあ確かに、『烏に単は似合わない』は読んでいてよくわからないシーンとかはありましたけれど、物語の展開や世界観は素晴らしいです。

    シリーズを重ねるほどに筆致も冴えていき、『楽園の烏』ではアクションのシーンなどもスピーディーで臨場感がありました。

    ああ、こういう描写も書けるようになったんだなあ、すごいなあと、若い作家の成長が読めるのは、おばちゃん読者の楽しみだったりします。



    新しい時代のファンタジー作家を育んだ土壌


    阿部智里さんが群馬県出身と聞き、正直「群馬も変わったな」と思ったものです。私も阿部智里さんと同じ群馬県出身なのですが、群馬とは昔から勉強、特に文学系に弱い土地です。(あくまで個人の感想ですが)

    過去には萩原朔太郎や田山花袋といった有名作家もおりますが、それも明治・大正の話。
    私が青春時代をすごしたひと昔前の群馬は、そこそこ有名企業や工場が多く、就職に困らなかったので、よほど勉強したいと思う人以外は、高校や専門学校を卒業するとすぐに就職して車を買い、家を建てます。

    なにも好き好んで、群馬で不要不急の文学なぞやる必要はなかったのです。

    けれど、時代は変わり、群馬でも大学の数も、進学率も増え、選択肢が昔より容易になってきました。そんなときに生まれたのが「阿部智里」という作家でした。

    『阿部智里BOOK』や八咫烏シリーズで描かれた山の風景や、阿部先生がインスパイアを受けた場所を知るにつけて、自分の故郷は素晴らしい文化遺産があるのだな、と気づかせてもらいました。昔は「なにもない」と思っていた場所が、こんなにも物語性にあふれているなんて、思いもよらなかった。

    古い伝承を新たな感性で綴っていく阿部智里先生の今後に期待と愛をこめて。
    感想というよりファンレターのような内容になってしまった…。



    八咫烏シリーズ


    『烏に単衣は似合わない』
    『烏は主を選ばない』
    『黄金の烏』
    『空棺の烏』
    『玉依姫』
    『弥栄の烏』
    外伝『すみのさくら』
    外伝『しのぶひと』
    外伝『ふゆきにおもう』
    外伝『まつばちりて』
    外伝『あきのあやぎぬ』
    外伝『ふゆのことら』
    外伝『なつのゆうばえ』
    外伝『はるのとこやみ』
    外伝『ちはやのだんまり』
    外伝集『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
    コミカライズ『烏に単は似合わない』
    第二部『楽園の烏』
    『 羽の生えた想像力 阿部智里BOOK』

    JUGEMテーマ:最近読んだ本

    八咫烏シリーズ第二部『楽園の烏』阿部智里(ネタバレ含む)

    2020.09.04 Friday

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      いよいよ第二部がスタートした八咫烏シリーズ。『楽園の烏』は第一部『弥栄の烏』から20年後が舞台。
      若宮や浜木綿、そして雪哉は…?表紙に映る女性はいったい…?
      そんな期待とワクワク感は、読んでいくうち衝撃に変わりました。

      『楽園の烏』あらすじ


      安原はじめは、養父の遺産としてある山を相続する。父からは「どうして売っていいかわからない限り、売ってはいけない」と謎めいた遺言を残されたが、彼が相続人となった途端、山を売って欲しいという人物が押し寄せる。

      一体その山にはなにがあるのか。「幽霊」と名乗る美しい娘の案内で、はじめは山に向かい、そこで「楽園」のごとく存在する八咫烏の住まう土地「山内」を知ることになる。

      そこには博陸候と呼ばれる山内の統率者、雪斎が現れ、山内は八咫烏の住む土地だと説明をうける。



      『楽園』とはなにか


      はじめは、若い山内衆である頼斗とともに山内の観光にでかけ、「あんたにとって、ここは楽園か?」と問い続けます。そして誰もがみな「博陸候は慈悲深い。ここは楽園だ。」と答えます。

      博陸候は、かつて谷間とよばれた暗黒街を掃討し住民にも新しい仕事をあたえ慈悲を持って接していると

      安原はじめは、それがひっかかったんですね。全員が肯定する楽園なんて、楽園じゃないと。頼斗の語る博陸候への尊敬と理想も、怪しいの新興宗教のような、自分の理想を相手に押し付ける感じがするんですよね。

      そういえば、過去に某国が海外にいた国民に帰還を促すキャッチフレーズは「地上の楽園」でした。娼婦を女工場へ「公正」させるのも、某大国が革命後に行った事業でした。

      現在の山内には、それらに似た危うさを覚えます。

      そして、すべて読み終えると、「楽園」の意味にゾッとします。

      残酷で魅力的な作家


      阿部智里という作家さんは、『烏に単は似合わない』ではラブストーリーの定番を覆し、『玉依姫』では、せっかく長続きしそうなシリーズの世界観を早々にネタバレさせ、「この作家、何する気なん?(群馬弁)」と思ったものです。

      しかし、第二部ではさらに拍車をかけて、第一部の主要人物である雪哉を、第二部では冷徹で老獪な策士として登場させています。『弥栄の烏』で親友亡き後の雪哉がどうなっていくのか心配でしたが、まさかここまで冷徹になっているとは…

      読んでいて思わず、「雪哉がオーベルシュタインになっている…!」とつぶやきましたよ。こんな変化ってある…?

      さらに、これまでの登場人物たちが、どうやら悲惨な末路をたどったらしいと書かれていて、読み切った後に思わず「ちくしょうめ!(褒め言葉ですよ)」と口に出しましたよ。

      残酷であるのに魅力的で、ページを捲る手がとめられない。ほんとうに恐ろしい作家だ…

      ※「オーベルシュタイン」とは、田中芳樹先生の名作SF歴史絵巻『銀河英雄伝説』に登場する目的のためなら手段を選ばない軍師です。

      ここからネタバレ検証


      ・「幽霊」を紫苑の宮と仮定するなら、奈月彦、浜木綿はすでに死亡していることになる。

      そもそもなぜ、雪哉は紫苑の宮を追い落としたのかおそらくここが最大の謎。
      雪哉は「山内の状況を知った上で反旗を翻す貴族」を駆逐しようとしている。しかし、紫苑の宮が反対勢力(大紫の御前?)側というのは考えにくい。

      あるいは、傀儡の金鳥をたてて、紫苑の宮をわざと逃して反対勢力の掃討後に呼び戻すつもりとか…?

      ・文章中、雪哉は貴族を心底憎んでいる描写があり、雪哉がここまで変わったのは、反対勢力に誰か大切な人を殺された可能性も。

      ・雪哉の政策は「八咫烏が(人形をとる)八咫烏でいるためのもの」であり、弥栄の最後で浜木綿が言っていた「ただの(人形をとらない)八咫烏でいいじゃないか」と相反する。

      それが「幽霊」が語った「絶望的に意見が異なる」ことで、金鳥サイドと雪哉サイドとの対立の理由となり、雪哉が奈月彦たちを手をかけた…?

      ・金鳥の名前
      『弥栄の烏』で猿のオオキミが明かさなかった、八咫烏の神の名前。それがわかれば、力の衰えた山神の眷属ではなく、鳥神として存在することができる。
      しかし、その名前は永遠に失われてしまった。第二部ではそれが明らかになるのか…?

      私は、地方豪族が「金鳥が来る前からいた八咫烏」という描写に、もしかしたら地方に古い神の名前が、なにかのかたちで伝わっているのでは…?と考えているのですが…


      八咫烏シリーズ


      『烏に単衣は似合わない』
      『烏は主を選ばない』
      『黄金の烏』
      『空棺の烏』
      『玉依姫』
      『弥栄の烏』
      外伝『すみのさくら』
      外伝『しのぶひと』
      外伝『ふゆきにおもう』
      外伝『まつばちりて』
      外伝『あきのあやぎぬ』
      外伝『ふゆのことら』
      外伝『なつのゆうばえ』
      外伝『はるのとこやみ』
      外伝『ちはやのだんまり』
      外伝集『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
      コミカライズ『烏に単は似合わない』

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      ミステリーランドシリーズ『ラインの虜囚』田中芳樹

      2020.09.01 Tuesday

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        夏になると読みたくなるミステリーランドシリーズ。今回は『銀河英雄伝説』の作者、田中芳樹先生の『ラインの虜囚』です。ナポレオン没後のフランスを舞台に、ひとりの少女と、彼女を助ける3人のおじさんたちの冒険譚。

        歴史の中に、冒険と活劇、そして謎解きが加わり、子どものようにワクワクしながら読みました

        装丁デザインも挿絵もかっこいいので、できたら単行本で読んでみてください。


        『ラインの虜囚』あらすじ


        コリンヌ・ド・ブリクールは、フランス人の父とカナダ先住民の母を持つ少女。父親が亡くなり、絶縁中の祖父・ブリクール伯爵に会うためフランスへやってきた。

        しかし、伯爵はコリンヌを認めず、「50日のうちにライン河のほとりに建つ双角獣(ツヴァイホルン)の塔に幽閉されている人物が、死んだはずのナポレオンかをしらべよ。」と、いう難題をつきつけられる。

        コリンヌは旅の仲間を探すためパリの街にでかけ、借金取りに追われるアレクサンドル・デュマという天才(自称)作家、紳士的だが得体のしれないラフィット、飲んだくれの剣士・モントラシェをみつける。

        かくて少女と3人の男たちはラインを目指すが、ならず者「暁の4人組」たちの追撃を受ける。はたして無事、塔にたどり着けるのか、そして塔の住人の正体は…?

        史実かと思えるほどの物語


        歴史に造詣のふかい田中芳樹先生なので、登場人物についても史実になぞらえて詳細に描かれています。
        (私は『銀河英雄伝説』も歴史小説だと思っている)

        後に『仮面の男』や『三銃士』など傑作を生み出すデュマですが、モントラシェやラフィットは、まさに彼らをモデルにして『三銃士』が書かれたかも…と、物語が史実に思えるほど、登場人物たちが歴史の中に生きているのです。

        また、ナポレオン亡き後の社会情勢が「ナポレオンが生きている」という都市伝説を作り出す要因として書かれていて、もしかして『ラインの虜囚』は本当にあった話では…?と疑うほどでした。

        少女を守る、かっこいい大人たち


        剣の達人モントラシェ、海賊で銃使いのラフィット、劇作家で後に文豪となるアレクサンドル・デュマ。
        それぞれ飲んだくれだったり、女性に弱かったりと、だらしないところが多いのですが、実にかっこいいんです。

        敵とハンカチをくわえあい、近距離で敵と決闘するラフィット、双角獣(ツヴァイホルン)で敵と壮絶な剣技をひろうするモントラシェ、口だけと思いきや、実はあんがい強いデュマ。

        そんなクセのある大人たちに守られるコリンヌもまた、並の少女ではありません。勇気と聡明さと、やさしさをあわせもつコリンヌは、もし「ナポレオンが生きていたらどうする」と聞かれ
        「(父親が見れなかった)パリを見せてあげたい」
        と答えます。

        また、ある理由から偽名を使っているモントラシェにも
        「正体が何者でも、あの人はわたしにとってモントラシェ、それ以外の誰でもない」
        と、仲間を信じる姿勢が言葉に現れていて、とてもかっこいい。

        そんなコリンヌの真っ直ぐな気持ちは、おっさんたちの父性と騎士道精神を刺激し、
        「なんとかあの娘の望みをかなえて無事にカナダへ返してやりたい」
        と思うようになります。

        最後には『アルスラーン戦記』のアルスラーンと、ダリューンやナルサスのような信頼関係ができあがっていて、この4人の旅が、ずっと終わらなければいいのに、とさえ思いました。
        でも、すべてを終わらせた4人の別れのシーンもその時のセリフもまた、かっこいいのですが。

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        ミステリーランドシリーズ


        『虹果て村の秘密』有栖川有栖
        『魔女の死んだ家』篠田 真由美
        『くらのかみ』小野不由美
        『透明人間の納屋』島田荘司
        『銃とチョコレート』乙一

        『西の魔女が死んだ』 梨木 香歩

        2020.08.13 Thursday

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          前に紹介した『書店員 波山個間子』という書店まんがで紹介され、気になっていた『西の魔女が死んだ』読了。
          自分のことを理解し、無条件で愛してくれる人がいること。現代ではそれこそが「魔法」なのかもしれないな。

          『西の魔女が死んだ』あらすじ


          主人公のまいは、祖母である「西の魔女」が死んだと知らされ、祖母の家に向かう途中、むかし祖母の家で過ごした時間を思い出す。

          まいは感受性が強く、学校で孤立してしまう。そんな彼女を見かねた母は、まいを祖母のもとへ預けることにする。田舎で暮らしているイギリス人の祖母は、まいに生活の術と、魔女の心得を伝えていく。



          理想の子ども時代


          こんな子ども時代を過ごしてみたかった。主人公のまいは感受性が強く、「生きて行きにくいタイプの子」です。

          そんなまいを、おばあちゃんは「まいのような子が生まれてきてくれたことを感謝していましたから。」といい、傷ついたまいを愛情で包んでくれる。

          ベッドメイキングやジャムづくりといった具体的な生活の知恵から、精神を鍛える魔女修行まで、いろいろなことを教えてくれます。

          それは学校では決して習えないけれど、生きていくのにとても大事なことですね。

          まいの父が「死んだらそれまでで何も残らない」と答えたことで、不安をつのらせていたまいに「それでは(お父さんの答え)はつらかったね」と言い、まいにも納得のいく答えを授けてくれます。

          思春期のこどもなら一度は考える「死への恐怖、人は死んだらどうなるのか」と考えますよね。

          まいの父親も子ども思いのいい人なのですが、親や教師は、常に現実社会と向き合わなければならないので、子どもへの回答が現実的になってしまうのかもしれません。


          聖なる繭


          おばあちゃんの家や庭、森や小道、切り株のお気に入りの場所。ここはまいにとっての聖域で心地よい、聖なるものだけが存在する空間です。ここにはまいの心を傷つけたり、汚したりするものはいない。(少なくともまいはそう感じている)

          しかし、そうした聖なる繭と対極にいるのがゲンジさんという隣人で、まいは彼を、聖域と真逆の野蛮で欲望にまみれた汚れた存在だと感じます。

          感受性の強い思春期の少女からしたら、粗野なゲンジさんの存在はゆるせないものだったのでしょう。私にも覚えがあります。近所の粗野なおじさんを毛嫌いしていましたから。
          だんだんまいは、おばあちゃんのうちで起こるトラブルをすべて、ゲンジさんのせいと考えるようになります。

          けれど、おばあちゃんはゲンジさんの他の面も見ているだろうし、用事を頼んでいる手前、悪しざまには言えないかったのかもしれません。それがまいをまた苛立たせてしまうのですが…


          聖なる繭を巣立ったまいのその後は、短編「渡りの一日」で描かれています。きっともう、まいは大丈夫なんだろうな。

          おばあちゃんと食い違いが生じたまま分かれることになってしまったけれど、でもきっとおばあちゃんはわかってくれているんじゃないかな。でなければ最後のメッセージはありえないと思うし。

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          八咫烏シリーズ外伝『ちはやのだんまり』阿部智里

          2020.07.15 Wednesday

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            八咫烏シリーズ外伝『ちはやのだんまり』。前回『はるのとこやみ』の、シリアスな話とは真逆の、ほほえましいラブコメに仕上がっています。登場人物がみんなかわいらしい…。

            『ちはやのだんまり』あらすじ


            雪哉と同じ勁草院出身の千早は、その戦闘力の高さから若君の護衛をつとめるほどの武人となったが、盲目の妹のことになると暴走しがち。そんな大事な妹が『結婚したい』と連れてきた相手が、まさかのチャラ男…

            結の相手、シンは定職にもつかず、結の好きなところを聞かれると「顔と声」と言う軽薄さ。もちろん反対する千早と結はその後大ゲンカ。

            千早の性格を知っている明留は、なんとか二人の仲をおさめようと、シンを呼び出すのだが…



            苦労してきた兄妹と、苦労症の姉弟


            阿部智里さんはこの兄妹が好きらしく、ちょくちょく外伝に書かれています。結ちゃんのお相手のシンくん、面白いキャラですね。「EXITの兼近か!」とツッコミを入れながら読んでいました。かねちと同じく、チャラそうに見えるけれど実は…なんですけどね。

            それにしても明留くん。四大貴族の、それも直系の御曹司だというのに、まわりから振り回され…いや、自分から首をつっこむのか、調停役が板についてきちゃいましたね。真穂の薄とともに、姉弟そろって苦労性だなあ…。

            明留と千早が出会う勁草院での学園ストーリー『空棺の烏』。明留くんも最初はなまいきだったのですが…
            真穂の薄と明留は、出自よりも自らの体験を通じて成長していくキャラクターなんですよね。そこが共感がもてます。

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            弥栄の烏、その後の話


            『ちはやのだんまり』は、時系列的には、最終話『弥栄の烏』の後日譚です。その後、奈月彦が金鳥となり、浜木綿が皇后になっています。

            しかし、大紫の御前たちは、いまだ奈月彦の追い落としを諦めていないようで、子育ては宮中ではなくゆかりの寺で行っています。

            弥栄の烏』であれだけ痛い目をみたっていうのに、手を取り合うことなく内輪で争っているんですかね…。未来が語られる自作の八咫烏シリーズではどうなっているのか…

            八咫烏シリーズ


            『烏に単衣は似合わない』
            『烏は主を選ばない』
            『黄金の烏』
            『空棺の烏』
            『玉依姫』
            『弥栄の烏』
            外伝『すみのさくら』
            外伝『しのぶひと』
            外伝『ふゆきにおもう』
            外伝『まつばちりて』
            外伝『あきのあやぎぬ』
            外伝『ふゆのことら』
            外伝『なつのゆうばえ』
            外伝『はるのとこやみ』
            外伝『ちはやのだんまり』
            外伝集『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
            コミカライズ『烏に単は似合わない』

            八咫烏シリーズ外伝『はるのとこやみ』(ネタバレ)

            2020.05.09 Saturday

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              八咫烏シリーズ『はるのとこやみ』は1巻『烏に単は似合わない』の前日譚。東家の姫・あせびの母親・浮雲のお話です。音楽で心を通わせるラブ・ストーリーなのですが…



              『はるのとこやみ』あらすじ


              東家は音曲を司る家柄。庶民にも広く音曲を奨励しており、双子の伶と倫も「山烏」と呼ばれる庶民の出であるものの、楽才で東家に仕えることを許されていた。

              楽才があれば中央での出仕もかない、出世も約束されているため、修練を積むふたり。しかし、楽の才能は倫の方が勝っていた。自分の才能に限界を感じ、弟に嫉妬を覚える伶。

              ある時、帝である金鳥代に嫁ぐ登殿の候補者選びのため、邸内で梅見の宴が開かれる。そこで二人は驚くべき演奏を聞く。それは浮雲という姫の音だった。姫の音に魅了された弟の倫は、密かに姫と合奏を行い、心を通わせていく。

              弟は姫との恋に溺れ、けっきょく楽士となれたのは伶の方だった。ある日、中央に出仕した伶のもとに、弟が自殺をしたと知らせが入る。

              真相を確かめるため、浮雲の元を訪れる伶。そこで見たのは、弟の髪と目を持つ小さい姫だった。

              浮雲が弟を愛していたと確信した伶は、彼女に対面する。しかし、浮雲の口から出たのは、思いもかけない言葉だった…

              一番怖いのは、自覚がないこと


              最後の浮雲のセリフにゾッととしました。
              浮雲もあせびも、したたかで計算高いのですが、なんというか、その時々で欲しいものがあると全力を尽くすけれど、手に入れるとすぐに飽きて、忘れてしまうんですよね。

              『烏に単は似合わない』によると、浮雲は若君の母親殺しにも絡んでいるらしいのですが、そんな浮雲を持ってしても、敵わなかった大紫の御前すごいわ…。

              大紫の御前のものがたり『なつのゆうばえ』

              漫画版『烏に単は似合わない』は姫たちの美しさと、あせびの可愛らしさ、そして恐ろしさが詳細に描かれているのでぜひ読んでほしい…。

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              感想(1件)




              八咫烏シリーズ


              『烏に単衣は似合わない』
              『烏は主を選ばない』
              『黄金の烏』
              『空棺の烏』
              『玉依姫』
              『弥栄の烏』
              外伝『すみのさくら』
              外伝『しのぶひと』
              外伝『ふゆきにおもう』
              外伝『まつばちりて』
              外伝『あきのあやぎぬ』
              外伝『ふゆのことら』
              外伝『なつのゆうばえ』
              外伝『はるのとこやみ』
              外伝『ちはやのだんまり』
              外伝集『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
              コミカライズ『烏に単は似合わない』

              八咫烏シリーズ外伝『なつのゆうばえ』阿部 智里

              2019.07.19 Friday

              0
                八咫烏シリーズ外伝『なつのゆうばえ』読了。八咫烏の帝「金鳥代」の皇后である「大紫の御前」の物語です。
                この外伝が始まってからせひとも「大紫の御前」の物語がよみたいと思っていました。

                なぜなら、八咫烏シリーズの「大紫の御前」といえば、主人公の若君と敵対するラスボス的な女性だから。そんな敵役の彼女を、別の角度から見たらどんな物語が潜んでいるのだろうか…と思っていたのです。

                この外伝シリーズは、本編では描かれなかった登場人物のバックボーンや、心情、山内の生活や風俗を細やかに描いてくれるため、外伝を読んでからまた本編を読むことで、物語をより深く感じることができるんです。

                「なつのゆうばえ」あらすじ


                小さい頃から「南本家の姫」として、誇りと振る舞いを叩き込まれてきた夕蜩(ゆうぜみ)は、やがて「金鳥代」となる若宮に嫁ぎ、皇后となることを運命づけられていた。しかし、夫となる若宮は愚鈍で彼女を嫌い、唯一彼女を愛してくれた両親もなくしてしまう。

                生きる意味さえ失いかけた中で、彼女が見つけたのは…


                彼女の行動原理は意外なところにあったのですね。誰も信用ができない、だれも愛せない世界で、彼女が手に入れた行動原理ははたから見ると歪んでみえるかもしれませんが、それこそがたったひとつ、彼女に残された「自由」だったのでしょう。

                そんな複雑な人間模様と対をなすように、夏の庭、ゆうばえの描写がとても美しくて、匂いまでも感じられるようでした。

                「愚鈍な皇帝に賢い皇后」という構図に、ロシアのエカテリーナ2世を思い出しました。ダンナがアホだと権力と別の愛人くらいしか頼るものないものなあ…




                『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』は、電子書籍版の短編と書き下ろし2編を加えた外伝集


                八咫烏シリーズ


                『烏に単衣は似合わない』
                『烏は主を選ばない』
                『黄金の烏』
                『空棺の烏』
                『玉依姫』
                『弥栄の烏』
                外伝『すみのさくら』
                外伝『しのぶひと』
                外伝『ふゆきにおもう』
                外伝『まつばちりて』
                外伝『あきのあやぎぬ』
                外伝『ふゆのことら』
                外伝『なつのゆうばえ』
                外伝『はるのとこやみ』
                外伝『ちはやのだんまり』
                外伝集『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
                コミカライズ『烏に単は似合わない』

                『菓子屋横丁月光荘 浮草の灯』ほしおさなえ

                2019.06.20 Thursday

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                  小江戸・川越を舞台にした『菓子屋横丁月光荘』は、家の声を聴くことのできる主人公・守人と、人と家とのつながりの物語です。

                  2作目の『菓子屋横丁月光荘 浮草の灯』では、孤独だった守人が家の声をきっかけにして、川越の人々と縁をふかめていき、家である(はずの)月光荘とも仲良くなっていきます。



                  また、同じく川越を舞台にした『活版印刷三日月堂』に登場した「浮草」という古書店や三日月堂ゆかりの人々が登場するので、三日月堂ファンにも嬉しい展開でした。
                  ・『活版印刷三日月堂 雲の日記帳

                  家のつくもがみ


                  今回、読んでいて驚いたのが月光荘です。月光荘は守人の恩師・木谷教授から管理人を任されている古い家…なのですが、この子(と呼びたくなるのです)は守人の前だとずいぶんと「おしゃべり」なのです。

                  月光荘は最初、昔住んでいた少女が歌っていた歌を口ずさむ程度でしたが、声を聞ける守人と会話が成立するようになります。それは、まるでちいさな少女のような明るくて屈託のない感じなのです。

                  「ツカレタ」「タノシイ」など、カタコトのような言葉で守人と会話する月光荘がとてもかわいらしい。月光荘の言葉によると、家には魂のようなものがあり、他の家ともある方法で交流できるようなのです。
                  なんだか年を経たモノが变化した「つくもがみ」のようですね。

                  つくもがみ貸します (角川文庫)

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                  家と人とのつながり


                  『菓子屋横丁月光荘』を読むまで、家はただの居住空間であり、持ち主の転居など、時期がくれば去っていくものだと思っていました。でも、この物語では家も長い年月を経ていたり、人から大切にされることで家もまた、人を大切に思ってくれているのを知って、ちょっとうれしくなりました。

                  守人のように声は聞けなくても、こうして家と人とがつながっていると考えると、家がとても愛おしくなりますね。



                  菓子屋横丁月光荘シリーズ


                  『菓子屋横丁月光荘 歌う家』
                  『菓子屋横丁月光荘 文鳥の宿』
                  レビューポータル「MONO-PORTAL」

                  もしも写真の中に入れたら…『銀塩写真探偵 一九八五年の光』ほしをさなえ

                  2019.05.18 Saturday

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                    もしも写真の中に入れたら、あなたは何を見てみたいですか?
                    亡くなってしまった懐かしい人、撮影当時の風景、あるいは思い出の品…。
                    銀塩写真探偵 一九八五年の光 』の世界では、特殊な状況下でだけ写真の中の風景に入ることができます。

                    一見、荒唐無稽な設定と思われるかもしれませんが、詳細な現像技術や撮影の描写と、ほしおさなえ先生の情景描写がすばらしくて、読んでいるといつの間にか私たちも写真の世界へ吸い込まれてしまいます。

                    銀塩写真探偵 一九八五年の光 (角川文庫)

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                    『銀塩写真探偵 一九八五年の光』あらすじ


                    陽太郎は高校の写真部の掃除中にカメラマン辛島弘一の作品に出会う。モノクロの、影を写したようなその写真は、弘一によれば「光」を写した写真・フォトグラム(印画紙に直接ものを置いて感光させる技法)だという。

                    弘一の作品とフィルム(銀塩)写真に惹かれた陽太郎は弘一に弟子入りする。

                    ある日、陽太郎は弘一のアトリエで写真の引き伸ばし機を作動させると、そこは写真の風景の中だった。陽太郎は写真の中で弘一の姪・杏奈とともに行方不明の弘一を探すことに。

                    フォトグラムの写真


                    ものの形が際立つものや、ぼかしや色が加えられたアーティスティックな作品など、光と影だけでもさまざまな表現方法があって驚きました。





                    銀塩写真探偵とは


                    タイトルにもある「銀塩写真探偵」とはどんなものなのか。
                    写真の中で再会した弘一によると「モノクロフィルム、特定の引き伸ばし機、一枚の写真でその中に入れるのは一度きり、写真の中に干渉はできない」など、さまざまな制約があるものの、撮影された日時のフィルムに映っていない場所にも行くことができるのだそう。

                    弘一もこの秘密を受け継いだため、「使い方」は知っていても「どうして」そうなったかは謎のまま。でも、その日、その時にもどって確かめたいと願う人は少なからずいて、そうした人々のために写真の中に入る「探偵」をしていました。

                    写真というのはある意味、タイムマシンなのかもしれない。写真を見ればその時の風景や一緒に写った人たち、さまざまな思い出が蘇りますから。シャッターを押した時は気がつかないのだけれど。

                    もし、私が写真の中に入れたら、学生時代のゼミ旅行に行きたいな。写真に凝っていた友人たちが撮ったモノクロの写真もあるので。

                    ほしおさなえ作品感想


                    『活版印刷三日月堂 星たちの栞』
                    『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』
                    『活版印刷三日月堂 海からの手紙』
                    『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』
                    『菓子屋横丁月光荘 歌う家』

                    JUGEMテーマ:最近読んだ本

                    『菓子屋横丁月光荘 歌う家』ほしおさなえ

                    2018.12.08 Saturday

                    0
                      愛読していた『活版印刷三日月堂』が終了して寂しくおもっていたら、ほしおさなえ先生の川越シリーズ新刊『菓子屋横丁月光荘』が刊行されました。

                      タイトルにある「菓子屋横丁」とは、埼玉県川越市で駄菓子や土産物を売る店が軒を連ねている、人気観光スポットです。




                      『菓子屋横丁月光荘』あらすじ


                      大学院生の遠野守人は幼い頃から古い家の『声』を聞いたことができた。あるとき、担当の木谷教授から「川越の古い家の管理人をやらないか」と声をかけられる。

                      通学時間や、今の家の立ち退き問題から守人は管理人を引き受け、川越の家に住むことになったが、その家からはかすかに誰かが歌うような声が聞こえた。

                      しばらくして守人は近所の人たちから、かつて月光荘と呼ばれたその家に住んでいた人たちの話を聞いた。そこにはいくつかの家族が住んでいて、さまざまな思い出が家に染み込んでいた。

                      そんな思い出に呼応するように家はまた歌い出し、守人もまたその声に呼応するように今まで抑えていた感情を吐きだすのだった…。

                      家の声、家の記憶


                      守人が聞く家「声」は、家自身の声もあるのですが、月光荘はそこに住んでいた人々の「思い」を記憶していて、どうやらそれを伝えたたがっているようなんです。

                      なぜ、守人には家の声が聞こえるのか。

                      今の守人は両親を亡くし、住んでいた家からも離され、厳格で傲慢な祖父に育てられました。そんな祖父も亡くなり、よるべのない身の上です。

                      そんな彼だから、家の「声」を聞き、寄り添うことができたのかもしれません。

                      特に最初の「歌う家」のお話は物語の最後に歌の謎が明かされるのですが、その描写が詩のようで美しいです。読んでいてぽおっと心が暖かくなる文章です。

                      月光荘の謎がとけた後も、守人は管理人として川越の古い家にまつわる出来事に関わるようになり、別の家にはまた違った形の家の思いが残っていて、それを聞くことになります。

                      これから守人はどんな家の声を聴くことになるのか、そこにはどんな物語があるのか…




                      菓子屋横丁月光荘シリーズ


                      『菓子屋横丁月光荘 浮草の灯』
                      『菓子屋横丁月光荘 文鳥の宿』

                      活版印刷三日月堂シリーズ


                      『活版印刷三日月堂 星たちの栞』
                      『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』
                      『活版印刷三日月堂 海からの手紙』
                      『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』
                      『活版印刷三日月堂』の舞台を訪ねて

                      レビューポータル「MONO-PORTAL」