『菓子屋横丁月光荘 光の糸』ほしおさなえ

2024.01.23 Tuesday

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    菓子屋横丁月光荘』シリーズもこれで最後。とても名残惜しいですが、孤独だった守人が人や家の縁に恵まれて幸せになってゆく様子は、読者としても嬉しく思いました。

    『菓子屋横丁月光荘 光の糸』あらすじ


    月光荘のオーナー、島田さんと、恩師である木谷先生とともに古民家の蕎麦屋を訪れる守人。そこで聞こえた家の声は機を織る「とんとん からー」という音と「マスミ」という人の名前だった。

    その家は昔「広瀬斜子(ひろせななこ)」という織物を作っていたが詳しいことはわからず、織物自体も現在では失われていた。

    しかし、川越の人々の縁が繋がり、家と関わりのある人物が見つかった。もうすぐ壊されてしまう家のために守人は彼女と家を会わせようと計画する。

    やがて世の中はコロナ禍へ。月光荘のイベントが中止されたため守人は周囲のすすめで小説を書くことに。それは、家の声を聴くことができる守人が体験したことや、人々との交流から編み出された物語だった。



    人が紡ぐ歴史


    偉人や有名な歴史的事件とは違い、昔の、ふつうの人々の暮らしや思いは忘れ去られてしまいます。例えば物語に出てきた「広瀬斜子(ひろせななこ)」という織物も現代ではほとんど残っていないそうです。

    守人と大学の後輩である豊島さんは「これまで生きてきた人それぞれの物語」を文章にしたいと考えるようになります。

    年配の方やその土地の歴史に詳しい人に話を聞くのって意外な発見があって面白かった事、私も経験があります。そんな儚い人の物語を守人はこれからも紡いでいくのでしょう。

    最初は何も持たずに川越にやってきた孤独な守人が、徐々に周囲の人との絆を結び、孤独ではなくなっていく。そんな彼の物語もまた愛おしいものでした。

    菓子屋横丁月光荘シリーズ


    『菓子屋横丁月光荘 歌う家』
    『菓子屋横丁月光荘 浮草の灯』
    『菓子屋横丁月光荘 文鳥の宿』
    『菓子屋横丁月光荘 丸窓』
    『菓子屋横丁月光荘 金色姫』

    『後宮の烏7』白川紺子

    2023.06.13 Tuesday

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      いよいよ最終巻。神々との戦いと人の戦い、そして烏妃という存在に終止符が打たれます。

      『後宮の烏7』あらすじ


      烏連娘娘の半身を探すため、界(ジェ)島に向かう寿雪。一方、沙那賣(さなめ)家の当主は寿雪を疎い、次男に命じて北方での反乱を企てる。

      寿雪は開放されるのか、反乱は防げるのか、神々の戦いの行方など、これまでの謎が回収されています。



      淡々とした終わり方


      クライマックスというなら5巻か6巻のほうが盛り上がった印象があります。半身を得た烏連娘娘は寿雪の元を離れ、後は神同士の戦を見守るだけ。新たな巫女となった阿兪拉(あゆら)が戦況を伝えます。

      そこで、もう寿雪は神の声を聞くことができないんですね。

      そして、ラスト。淡々としながらもとても美しいラストでした。男と女ではなく、それを超えた半身としての関係を高峻と寿雪は獲得したのですね。

      鶴妃の実家・沙那賣(さなめ)家の当主と兄、次兄それぞれの確執と陰謀が、異世界の風土とともに描かれます。父親から謀反を誘発させるよう命じられた次兄の亘が北方に向かいます。
      ここでも、ただ人を描くのではなく地域の気候や生業などが詳細に描かれるのはさすが。


      『後宮の烏』全体の感想


      架空の中華ファンタジーは数多く存在しますが、ここまで異世界を綿密に作り上げた作品はめったにありません。

      それは、ただ不思議な現象や風習を描くのではなく、歴史や宗教、地理や民俗まで、丁寧に作り込んでいるからでしょうね。

      おかげで物語に入り込みやすかったし、民話や言い伝えが後の伏線になっていたりと、物語の展開も素晴らしかったです。

      そして、高峻が寿雪へ贈る美味しそうなお菓子など、食べ物の描写も詳細で寿雪でなくても頬張りたくなりました。

      ただ、結局、烏連娘娘と鼈(ごう)の神がなぜ争っていたのかも説明されないままだったし、寿雪たちの後日譚なども外伝などで補完してほしいかなと思います。

      『後宮の烏1』
      『後宮の烏2』
      『後宮の烏3』
      『後宮の烏4』
      『後宮の烏5』
      『後宮の烏6』

      『「八咫烏シリーズ」ファンBOOK』阿部智里

      2023.05.26 Friday

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        以前、電子書籍のみで発売されていた『八咫烏シリーズファンブック』。今回、阿部先生作家生活10周年を記念し、描き下ろしや過去のインタビューなど秘蔵の記事を再編集。

        さらになんと、まだ世に出ていない『空棺の烏』のキャラが描かれているという、八咫烏ファン垂涎の一冊です。

        小説家・阿部智里ができるまで


        阿部先生が小説家を目指すまでの人生と、愛読書についての文章が印象的でした。阿部先生、小さい頃から空想力と物語力に長けていたお子さんだったそうです。

        こうして読むと、阿部先生の小説家になる過程って『精霊の守り人』シリーズの上橋菜穂子先生と似ていますね。

        ・親や周囲が作家の空想力や物語を否定しなかった
        ・家族による読み聞かせが頻繁に行われていた

        上橋先生も、おばあさまが膝の上で語ってくれた物語が小説家の原点であると言っていました。おふたりとも家族や周囲が「小説家なんて夢みたいなこと…!もっと安定を…」などと否定や不安を言われていないんですね。

        親や周囲が子供の夢を否定しない環境って大事だなと思いました。



        『空棺の烏』のキャラと山内当世風俗通


        まだ漫画化されていない『空棺の烏』から、キャラクター絵が掲載され、茂さんや明留、千早など勁草院メンバーが勢ぞろい。

        他にもキャラへのインタビューもあり、より人物像を楽しめます。翠堅や清賢など講師陣や治馬のキャラ設定も。
        阿部先生が「清賢て実はヤバいやつ」と言っていたのですが、イラストを見ると「なるほど確かに」と納得。

        山内当世風俗通は、山内の文春のようなゴシップ雑誌…という設定で、登場人物たちの裏話が掲載されています。

        駆け落ちしたあのカップルのその後や、綺羅絵にわざわざポーズをつけるあの山内衆だとか、中央の街をうろつく場違いな美少年の話など。信じるか信じないかはあなた次第です(笑)

        紙面の構成はデザイナーの野中さんが江戸のかわら版からヒントを得てデザインされたそうです。細部にまで凝った作りになっています。

        阿部先生によるQ&A


        『八咫烏シリーズファンブック』は公式ツイッターで集めた読者からの質問を、阿部智里さんが答えています。電子書籍版からさらに質問が追加されました。

        山内の世界観や、八咫烏シリーズの裏話や執筆に関することなど、質問は多岐にわたり、それに対して阿部先生が丁寧に答えてくださっています。

        八咫烏の生態についても細かく語られています。特に「羽衣」の仕組みは興味深く、羽毛の変形ではなく「意識でつくる髪の毛の編み込み」に近いのだとか。


        ほかにも色々盛りだくさん


        人間側から見た山内世界を描いた「幕間」シリーズも掲載。それぞれ、八咫烏と関わってしまった人間の、不可思議で恐ろしい現象が描かれています。
        『山を下りて』
        『烏の山』

        八咫烏シリーズの漫画版を担当された松崎夏未さんによる相関図も。キャラクターの解説で、かなり突っ込んだコメントが面白い。

        雪哉には「家族思いの腹黒」とか、あせびの若宮へのコメント「いつか誤解が解ければいいのにな♪」等、毒舌だが、ものすごく的を得ている…



        八咫烏シリーズ


        『烏に単衣は似合わない』
        『烏は主を選ばない』
        『黄金の烏』
        『空棺の烏』
        『玉依姫』
        『弥栄の烏』
        第二部『楽園の烏』
        第二部『追憶の烏』
        第二部『烏の緑羽』

        『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
        『烏百花 白百合の章 八咫烏外伝』
        八咫烏シリーズ外伝『さわべりのきじん』
        八咫烏シリーズ外伝『きらをきそう』
        幕間『烏の山』
        幕間『山を下りて』
        コミカライズ『烏に単は似合わない』
        コミカライズ『烏は主を選ばない1』
        コミカライズ『烏は主を選ばない2』
        コミカライズ『烏は主を選ばない3』
        コミカライズ『烏は主を選ばない4』
        『羽の生えた想像力 阿部智里BOOK(電子書籍)』
        『八咫烏シリーズファンブック』
        『追憶の烏』ネタバレトークイベント感想
        八咫烏シリーズ展覧会&トークショー2023

        『後宮の烏6』白川紺子

        2023.05.17 Wednesday

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          結界は破られたものの、前王朝の証である寿雪の白銀の髪がさらされ、寿雪の魂も行方不明に…。

          『後宮の烏6』あらすじ


          寿雪の変わりに烏(烏連娘娘)が現れて、これまでの経緯を語る。寿雪の魂を戻すには、「血を分けた肉親」が必要とされ、冬官・千里の助言で父方の縁者を探すことに。

          一方で前王朝の遺児である寿雪の立場を救うため、高峻をはじめ後宮の妃や冬官たちが協力し、宮中での説得を試みる。

          魂が体を離れた寿雪は、魂の流れつく回廊銀河で初代の烏妃・香薔の魂と出会う。彼女はなぜあんな、むごい呪いをかけたのか…。



          人のつながり


          物語の中で、官吏の之季は「どこがどうひとがつながって、助けになるかわからぬものです」とつぶやきます。まさに人とのつながりによって、寿雪の運命が変わります。

          烏妃として幽鬼を払い、悲しむ人に寄り添ってきた寿雪。だからこそ、高峻や侍女の九九(じうじう)をはじめ、官吏や後宮の妃たちにも慕われ、みなが寿雪を助けようとします。寿雪の行動そのものが彼女を救うことになったのです。

          しかし初代の烏妃・香薔は、自分の欲ばかりを優先したことで、周囲も自分も追い込んでしまいます。それでも、愛する男を手に入れるために、烏妃たちを犠牲にしてもまったく罪悪感がない。だからこそ、魂のまま今も彷徨っているのでしょう。

          そして、寿雪の変わりに現れた烏連娘娘。神々しさとは真逆で、言葉も態度も幼子のようで驚きました。自らの好き嫌いで物事を決めてしまうところが無邪気であり、恐ろしくもあります。

          続編をアニメ化するなら、こんな幼く恐ろしい烏連娘娘をぜひ、アニメ主題歌を歌った女王蜂のアヴちゃんに演じてほしいです。きっと似合いそう。

          今後の展開(ネタバレ)


          とりあえず、寿雪を縛っていた出自や烏妃の呪いは回避できたので、今後は烏連娘娘の半身が沈んだ界(じぇ)島へ舞台が移りそうです。

          敵味方ともども主要な人物が集まってきたので、寿雪一行が神々の戦を止められるかがポイントになりそうです。そして、剣になった烏連娘娘の半身の行方や海底火山の噴火も気になります。

          寿雪が無事、高峻の元へ戻れますように…。
          『後宮の烏1』
          『後宮の烏2』
          『後宮の烏3』
          『後宮の烏4』
          『後宮の烏5』
          『後宮の烏6』
          『後宮の烏7』

          『後宮の烏5』白川紺子

          2023.05.12 Friday

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            いよいよ物語が動き出します。寿雪の中にいる女神・烏連娘娘を開放するため、寿雪は敵対関係にある巫術師・白雷を引き込み、高峻は解放後の寿雪の安全を確保するため、それぞれ準備を始めます。

            『後宮の烏5』 あらすじ


            寿雪を烏妃である己を開放するため、初代の烏妃・香薔の結界を破ろうと皇帝である高峻と協力し、準備を進める。一方で、烏妃でなくなった後は後宮をさらねばならない。

            それは、高峻をはじめ、夜明宮に使える人々と別れを意味していた。



            二重の禁忌(ネタバレ)


            「妃ではない妃」という烏妃の謎、寿雪の出自という二重の謎が明かされたと思ったら、烏連娘娘と鼈(ごう)の神との因縁や、初代烏妃・香薔が仕掛けた、怨念ともいうべき呪いが明らかになります。

            寿雪は前王朝に敵対する烏妃であるとともに、前王朝の遺児でもあります。寿雪の遠い祖先は鼈(ごう)の神を祀っていたため、両方の神に翻弄されてしまうのです。そして、香薔の呪いの凄まじさ…。

            ここへきて、昔の烏妃の魂が呼べなかった理由と、先代の烏妃・麗娘の慈しみが、物語を加速させていきます。
            いったい、香薔は何を思ってあんな呪いをかけたのでしょうか…。

            ファンタジー世界のリアル


            『後宮の烏』は描写がとても美しい小説です。今回も、漆や塩といった生活や文化に必要な産業が描かれています。(前回は養蚕でした)

            美味しそうなお菓子の出るお茶会と同じく、こうした日常的な産業に携わる人々の言い伝え解決のヒントになっていくのも興味深かったです。

            巫術や魔法で一気に解くのではなく、民間の伝承や昔話から紐解くことで、異世界の物語が物語が身近に、リアルに感じられます。

            作者の方の知識の深さと、物語の表現力に感動しました。

            『後宮の烏1』
            『後宮の烏2』
            『後宮の烏3』
            『後宮の烏4』
            『後宮の烏5』
            『後宮の烏6』
            『後宮の烏7』

            『後宮の烏4』白川紺子

            2023.05.11 Thursday

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              『後宮の烏』は、これまで後宮の中での出来事でしたが、女神・烏連娘娘にまつわる謎が一部解明され、物語は少しずつ世界を広げていきます。
              そして、これまでのように寿雪が高峻、夜明宮の人々との気軽なお茶の時間が少なくなりました。

              それだけ、事態は深刻になってきたのでしょう。

              『後宮の烏4』あらすじ


              宦官の淡海を新たに加え、夜明宮にも人が増えた。「烏妃は孤独でなければならない」。先代、麗娘のいいつけを破ることになるものの、寿雪は彼らを手放せなくなっていた。

              彼らを守るために、時に強引なやり方を押し通そうとする寿雪。

              一方で寿雪は鶴妃とその宮女を救ったことで、後宮内に「信徒」が増えていった。その熱狂的な信仰が、寿雪や後宮を巻き込んだ事態に発展していく。



              どうなってしまうのか…(ネタバレ)


              「どうなってしまうのか」、4巻を読んだ感想はこの一言につきます。
              書物を探す幽鬼の事件によって見つかった古文書から、鼈(ごう)の神と烏連娘娘との過去の因縁がわかります。過去の戦い、女神の半身は海に沈んでいるらしいのです。

              けれども、王朝が変わり、巫術師が追放されたため正確な情報が寿雪たちには伝わっていません。

              海に沈む半身を探そうにも、初代の烏妃がかけた呪詛によって、寿雪は後宮から出られない。呪詛を破るには術師が必要。けれども手が足りない…。鶴妃の父は烏妃を危険視して取り除こうとするし、鶴妃はなんと、高峻の子を妊娠。

              世継ぎを作るのは皇帝の役目とはいえ、それを寿雪が知ったらどう思うのでしょう。淡海が予言したように「嫉妬を知る」ことになるのでしょうか…。

              次の巻を読むのが楽しみです。

              『後宮の烏1』
              『後宮の烏2』
              『後宮の烏3』
              『後宮の烏4』
              『後宮の烏5』
              『後宮の烏6』
              『後宮の烏7』

              『後宮の烏3』白川紺子

              2023.04.29 Saturday

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                『後宮の烏3』から、この世界の地図と、烏妃たちの住む霄国の地図、登場人物の表記がつきました。
                アニメ主題歌で女王蜂のアヴちゃんが「四角い海」と歌うように、この世界は平坦で、その両端に神々が住む島があります。

                地名もまた独特で、別の国の発音を漢字に当てはめたような記述があります。この世界の不思議な魅力が伝わってくる地図です。

                『後宮の烏3』あらすじ


                女神・烏漣娘娘の兄である「梟」の襲撃からしばらくたち、烏妃である寿雪は自らの存在について思い悩む。しかし、それでも今夜もまた、彼女のもとには幽鬼に悩む人々が訪れる。

                泊鶴宮の宮女・泉女の呪いを解いたことがきっかけとなり、新興宗教「八真教」を知る。「八真教」は「亀の王」といわれる鼈(ごう)の神を祀っていて、それが烏漣娘娘の衰退につながっているらしい。

                一方、皇帝である高峻は地方で勢力を伸ばす「八真教」という新興宗教を調べて泉女の主・鶴妃の実家の庇護を受けていることをつかむ。

                ひとつひとつの事件が、やがて大きな流れとなって寿雪と高峻を巻き込もうとする…。



                描写の美しさ


                物語の展開とは別に楽しみなのが、寿雪たちの日常の描写です。妃たちが着る美しい衣装の描写や、かんざしが揺れる音、寿雪が術で使う牡丹の描写などが、繊細で美しく表現されています。

                そして、時おり高峻が持ってくるお菓子がとても美味しそう。蓮の実が入った饅頭や杏を飴で固めたもの、桃の蜜煮など、殺伐とした話のなかで、少し気が解ける瞬間です。『後宮の烏レシピ集』を出してほしい…。

                伏線だらけの展開(ネタバレあり)


                今回、任務で花街を訪れた宦官の衛青は、寿雪との意外な因縁が明らかになります。これは驚きました。ふたりはどうやら異母兄弟であるらしいのです。高峻の「お前たちは仲良くなれそう」というセリフがここで回収されるとは…。

                寿雪には、烏妃であることと、前王朝の生き残りという、2つの因縁を持ちますが、今回あららに古代王朝とも関連があることが匂わされています。

                そして、鶴妃の実家の暗躍、鼈(ごう)の神と烏漣娘娘の関係、八神教の教祖・白雷の思惑、寿雪と高峻の関係の変化など、伏線だらけの3巻でした。

                そして、物語の冒頭、宦官の少年・衣斯哈(いしは)の視点で物語が始まり、幼なじみの女の子を心配する独白、ラストで女の子側の視点で描かれます。

                お互いの所在を知らぬまま、敵と味方に別れてしまった少年と少女は、どうなってしまうんでしょうか。

                『後宮の烏1』
                『後宮の烏2』
                『後宮の烏3』
                『後宮の烏4』
                『後宮の烏5』
                『後宮の烏6』
                『後宮の烏7』

                『後宮の烏2』白川紺子

                2023.02.22 Wednesday

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                  前回は烏妃と、烏妃である寿雪、双方の正体が判明しました。しかし、烏妃と烏連娘娘にはさらなる秘密があるようです。

                  『後宮の烏 2』あらすじ


                  妃でありながら皇帝の妻ではない烏妃。彼女は女神・烏連娘娘を身に宿し、不思議な力を使うことができる。実は烏妃は、皇帝と並び立つ存在であるため、帝の高峻は彼女を「友」として扱う。

                  「烏妃は孤独でなければならない」という掟があるが、寿雪の周りには彼女を慕うものたちが集まっていた。しかしそれを快く思わない者もいる。そして、また、烏妃の命を狙う存在も現れる。


                  烏妃の孤独と寿雪の不安


                  誰とも関わることができないため、幽鬼を相手にするしかなかった烏妃。そんな寿雪に高峻は「幽鬼を救うことで、その家族を救っている」と諭し、彼女の周りに人が増えることを喜びます。

                  それは、先代の烏妃、麗娘が寿雪を慈しんで育てたのと同じ愛情だと。

                  高峻や九九(じうじう)、衣斯哈(いしは)など、大事な人ができたのは、孤独な寿雪にとって喜ばしいことですが、彼らが危機に陥るとは力のコントロールがきかなくなることに不安を覚えます。


                  烏妃と烏連娘娘(ここからネタバレ)


                  さらに秘密や謎が隠されている烏妃と烏連娘娘。烏連娘娘はもともと遠方から来た来訪神であり、初代烏妃の香薔がその身を烏連娘娘を封じる器とし、代々そのシステムが受け継がれていったらしい。

                  だから、新月の夜に烏連娘娘の魂が烏妃から離れると、恐ろしい激痛がともなうのですね。烏妃の命を狙う「梟」もまた遠方の神であり、彼によって烏連娘娘は霊を弔う神だということが判明します。だから、烏妃は死者を送ることができるのでしょう。

                  それにしても、まだまだ謎が多い烏妃の存在と、高俊と寿雪の今後はどうなるのか。
                  高俊の腕の痣はなにか災いをもたらすのか。
                  宮中でも権力の駆け引きがはじまりそうですし、二人の交流を快く思わない物も出てきて、ますます続きが楽しみです。

                  『後宮の烏1』
                  『後宮の烏2』
                  『後宮の烏3』
                  『後宮の烏4』
                  『後宮の烏5』
                  『後宮の烏6』
                  『後宮の烏7』

                  『後宮の烏』白川紺子

                  2023.02.03 Friday

                  0
                    2022年にアニメ化された『後宮の烏』。アニメが素晴らしかったので、原作も読んでみました。

                    『後宮の烏』あらすじ


                    後宮の奥・夜明宮に住む烏妃は、妃でありながら皇帝の夜伽をせず、不思議な術を使う特別な存在。新たに皇帝のくらいについた高峻は、夜更けにある頼み事をするため、烏妃のもとを訪れる。

                    そこに現れたのは、黒い衣をまとった少女だった。
                    翡翠の耳飾りの持ち主を探すことで、縁をつないだ烏妃の寿雪と高峻。しかし、烏妃と皇帝は互いに相容れない存在であるらしい。

                    また、寿雪には、人に知られたくない重要な秘密があった。



                    唯一無二の世界観と美しい描写


                    最近のアニメやマンガは、設定が使い回しの転生チートものばかり。いささか食傷気味です。

                    もっと「十二国記」や「八咫烏シリーズ」のような、作り込まれた設定がほしい。そして「精霊の守り人」のような、歴史や民俗学まで感じられる異世界がみたい。

                    そんな時出会った『後宮の烏』は、久しぶりに心惹かれる物語でした。

                    烏漣娘娘という女神を祀る烏妃という存在、四角い海のある世界、不思議な風習。中国(唐時代?)の文化をベースにしつつ、新しい世界観と、それを支える美しい描写が物語をより魅力的にしています。

                    詳細な設定


                    小説では、寿雪の細かい出自や、先代の烏妃・麗嬢と寿雪との絆、烏妃に関する謎がより深く味わえました。

                    文章の節々に先代烏妃の麗嬢が、寿雪を慈しんできたことが伝わります。だからこそアニメ最終話での冬官の薛魚泳の行為の意味と、高峻の言葉が意味をなしてくんですね。

                    物語はこれから、烏妃や烏漣娘娘に関する秘密が明かされていきそうです。人々が烏漣娘娘を祀らなくなった事は、今後の展開にどう関わっていくのでしょうか。先を読むのが楽しみです。

                    主題歌『MYSTERIOUS』を歌う女王蜂のアヴちゃん、ほんと烏漣娘娘そのものだわ。エロくて神秘的で恐ろしい。



                    JUGEMテーマ:最近読んだ本


                    『後宮の烏1』
                    『後宮の烏2』
                    『後宮の烏3』
                    『後宮の烏4』
                    『後宮の烏5』
                    『後宮の烏6』
                    『後宮の烏7』

                    八咫烏シリーズ幕間『山を下りて』阿部智里

                    2023.01.03 Tuesday

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                      異世界「山内」を舞台とするファンタジー、八咫烏シリーズ。その中で「幕間」と題されるのは、人間側の視点から描かれる異界としての山内です。

                      『山を下りて』あらすじ


                      主婦の美紀は姑の看病のため、山あいにある姑宅に泊まった。家族の朝食をつくるため、翌朝早くに姑の家を出る。車を走らせていると山道を歩く二人の少年を見かけ、心配になり彼らを車に乗せる。

                      警察への連絡のためにコンビニに立ち寄ると、ほどなくして少年たちの保護者という男がやってくる。

                      彼は少年たちの住む児童養護施設の職員だった。事情を説明後、そのまま少年たちは彼に引き渡されることに。

                      しかしなぜ、彼は美紀が少年たちを車に載せていたのがわかったのだろう…?

                      日常から見た異界の違和感


                      前半は、美紀が家事の失敗に落ち込んだり、姑へ不満を感じたりと、どこにでもある家族の話です。それがし、少年たちと出会ったことで少しずつ、違和感を覚える展開になっていきます。

                      『山を下りる』では、私たちの日常から見た「異界」への違和感が感じられました。
                      それは、微妙な差異なんですが、やはり美紀のようにひっかかりを感じてしまう人もいる。『烏の山』のように恐怖を感じる人もいる。

                      外界の人々のこうした違和感は、雪哉(雪斎)の「楽園」プロジェクトに、どのような影を落としていくのでしょうか…。

                      ここからネタバレ


                      ・谷間の子どもたちは山神への祭祀のため、人間として外界で生活をしている
                      ・しかし、その生活に疑問を抱くものが出てきている
                      ・子どもたち(少なくとも家出少年2人)は、八咫烏の正体と特性(夜に転身できないこと)を知っている

                      子どもたちは、自分たちの保護者が「人ならぬもの」だと最初から知っていたのか、それとも、家出をした少年たちだけなのか。「東京の親戚」とは少年たちの嘘なのか、それとも、「誰か」が教えたのか。

                      そして、美紀が渡した携帯電話の番号が使われる日がくるのか。今後の展開が楽しみな幕間でした。

                      『山を下りて』は、八咫烏シリーズファンBOOKにて掲載。


                      八咫烏シリーズ


                      『烏に単衣は似合わない』
                      『烏は主を選ばない』
                      『黄金の烏』
                      『空棺の烏』
                      『玉依姫』
                      『弥栄の烏』
                      第二部『楽園の烏』
                      第二部『追憶の烏』
                      第二部『烏の緑羽』

                      『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
                      『烏百花 白百合の章 八咫烏外伝』
                      八咫烏シリーズ外伝『さわべりのきじん』
                      八咫烏シリーズ外伝『きらをきそう』
                      幕間『烏の山』
                      幕間『山を下りて』
                      コミカライズ『烏に単は似合わない』
                      コミカライズ『烏は主を選ばない1』
                      コミカライズ『烏は主を選ばない2』
                      コミカライズ『烏は主を選ばない3』
                      コミカライズ『烏は主を選ばない4』
                      『羽の生えた想像力 阿部智里BOOK(電子書籍)』
                      『八咫烏シリーズファンブック』
                      『追憶の烏』ネタバレトークイベント感想
                      八咫烏シリーズ展覧会&トークショー2023