歴史と不思議の織りなす物語 『かたづの!』中島京子

2015.04.23 Thursday

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    戦国時代、青森・南部家に実在した女領主・寧々の生涯。それを、一本角のカモシカ「かたづの」によって語られる不思議な物語「かたづの!

    読んでいて、どこまでが史実で、どこからが幻想なのか、まったくわからなくなり、気がつくと、遠野物語の世界へも、足を踏み入れてしまうのです。

    「かたづの!」あらすじ


    戦国時代の青森・八戸で、角が一本しかない羚羊・片角が、八戸南部家の姫・弥々と出会う。弥々に命を助けられた縁で、片角は城にも出入りを許され、弥々の幼い姫たちと幸せな時間を過ごし、天珠をまっとうする。

    「かたづの」が角だけの存在なった頃、弥々の周囲では夫や息子が相次いで亡くなり、叔父である三戸領主・信直から無理難題を言い渡され、弥々は女領主になることを決意する。

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    歴史と不思議の、美しい織物のような作品


    「かたづの!」は史実を縦糸に、不思議を横糸にして模様を編んだ、美しい織物のような物語です。

    八戸南部氏の女領主・弥々の波乱万丈な人生を描いた作品ですが、その一方で、遠野物語のベースとなるような、不可思議な話が随所に織り込まれ、どこからが幻想で、どこからが史実なのだか、本当にわからなくなります。

    特に、私がすきだったのが、河童の総大将が弥々に惚れてしまい、彼女と顔立ちの似た河童の娘を娶り、弥々子と名乗らせたエピソードに興味をひかれました。実はこの弥々子は、後に利根川に住みつき、関東河童の総大将となるのです。弥々子がどれほど強いかは、畠中恵さんのしゃばけシリーズ「えどさがし」でも描かれています。

    女領主の一代記


    戦国時代の女領主と言えば、橘訐藺紊箘羂膨掌廚覆匹有名です。彼女たちは、家長を亡くし、家を守るため知恵を絞り、男たちを渡り合います。

    私は女性領主たちのさっそうとした姿に憧れをもっていたのですが、「かたづの!」の弥々の女領主生活は、多難だらけで、ちっとも気の休まる暇がありません。そのたび、弥々の知恵と、かたづのの神通力で苦難を乗り越えてきたのですが、大きすぎる力は、疑心を呼び、家臣や娘たちからも距離を置かれてしまいます。

    いくら戦国の世とはいえ、その苦悩や悲しみが、切なくて。
    女領主は女性が活躍するというよりは、危ない橋を最初に渡るかのような、危うい場面の連続なのですね。

    それでも、弥々は大切な人々を守るため、最後まで力をつくします。そしてまた、かたづのも、最後まで弥々につきしたがうことになります。そんな、奇妙で不可思議で、でもあたたかい絆に感動しました。

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    中島京子作品感想


    「のろのろ歩け」→
    「小さいおうち」→
    「女中譚」→
    「冠・婚・葬・祭」→
    「花桃実桃」→
    「FUTON」→

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    「鹿の王 還って行く者」 上橋 菜穂子

    2015.04.14 Tuesday

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      「鹿の王 還って行く者」 あらすじ


      岩塩鉱で黒犬によって移された伝染病から、奇跡的に助かった主人公・ヴァンは、同じく助かった幼女・ユナとともに、トナカイ放牧民の青年、トマもとへ身を寄せ、トナカイの放牧を手伝っていたが、呪術師スオッルに招かれた先で、ユナが何者かにさらわれてしまう。「偶然」居合わせた女狩人・サエとともにユナを追いかける旅へ。

      一方医術師ホッサルは、黒犬病が狼と犬の混血犬によって媒介されることを発見し、核心に迫るものの、媒介者たちに捕らえられてしまう。

      ヴァンとホッサル、全く異なる2人が会合したとき、病の謎と陰謀の姿が明らかになっていく…。

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      異世界と現世は表裏一体


      「鹿の王」の後半は、伝染病の原因と、その裏側にある、国や民族の対立が浮き上がってきます。ひとつを結び目を解くと、また別の結び目ができてしまう、そんな複雑な背景がみえてくる。普通、ファンタジーというのは、善とか悪とか、二分化された単純なものが多いですが、上橋菜穂子さんの作品は、だれも悪ではなく、視点を変えれば、だれもが悪で、善でもあるんです。

      普通の人々が、追い詰められ、自らの氏族を守ろうとするあまり、相手を犠牲にしてもかまわない。そんな考えに取り憑かれてしまう。

      「鹿の王」は架空の国の話ですが、一方的な支配や闘争、伝染病の蔓延は、今の世界情勢にシンクロしています。本当に人間を描いた作品には、絵空事なんてないんです。そんな中で、この物語を読むことで、自分はどう考え、どう生きればいいのか、とても考えさせられるのです。

      人と自然との結びつき


      人は、生きていく土地によって、食べるものも、環境も違います。育てる家畜も、馬であったり、トナカイであったり様々。

      土地にあった作物や家畜を育て、その土地の自然を神として祀る、そんな社会環境が構築されていきます。けれど、そのシステムが無理やり変化させられてしまうとしたら、やはりそこには歪みが生じ、それが闘争の原因となっていきます。

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      外伝が読みたいっ!


      「鹿の王」発売から日も浅いのですが、もう外伝が読みたくて仕方がないんです。マコウカンの一族の話とか、サエの跡追いの話とか、あと、できればユナが大きくなった話とか、物語の世界で他にどんなことが起こっていたのか、これから起こるのか、それをぜひ読みたい。

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      壮大な命の物語 「鹿の王 生き残った者」 上橋 菜穂子

      2015.04.08 Wednesday

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        上橋菜穂子さんの新作「鹿の王 生き残った者」を読みました。素晴らしいです。命をめぐる壮大な物語は、読んでいるうちに体の不思議について考えさせられます。

        「鹿の王 生き残った者」あらすじ


        アカファ王国は東の東乎瑠(ツカル)帝国に屈し、属領となるが、北部で抵抗を続けていた戦闘集団「独角」の長であるヴァンは、とうとう捕らえられ、奴隷として岩塩鉱で過酷な労働を強いられるれることに。

        ある時、岩塩鉱で謎の犬達に襲われ、奴隷や、東乎瑠の兵、そのすべてが命を落とすという事件が起きる。生き残ったヴァンは、同じく隠されて生き延びた赤子とともに逃亡する。

        一方、もうひとりの主人公、オタワル国の貴人の血を引く天才医師・ホッサルは、岩塩鉱での事件を調べていくうちに、かつて自分の故国を滅ぼした病・黒犬病だと確信する。

        ヴァンとホッサル、それぞれの立場と役目、そして国や民族のさまざまな思惑が絡まり合い、黒犬病にまつわる一連の事件はアカファ王国を揺るがしかねない事態に陥っていく…


        ファンタジーと医療


        異世界を描いた「ファンタジー」と「医療」は、一見、相反する要素のように思えますが、上橋菜穂子先生は「鹿の王」執筆にあたり、いとこの内科医の方に医療監修をお願いしたのだそうです。そのため、伝染病や薬学、免疫など、医療に関する描写がすごいのです。

        「鹿の王」の重要な鍵である黒犬病という伝染病、これの発生源や発病の過程、そして、かかるものとかからないものを隔てる要因、それらはすべて、自然と人間との関わりによって生まれるものなのです。

        たとえ、架空の異世界であろうと、人が生き、生活する社会には、その土地の気候、風土、食べ物、宗教、社会構成などが存在するのが、当たり前といえば当たり前なのですが、上橋菜穂子さんほど、その人の社会性を、物語として表現された作家さんはいないのではないでしょうか。

        獣の感覚


        「鹿の王」で、主人公ヴァンが病原をもつ犬に噛まれてから起こる体の変化。その、感覚が鋭敏になっていく様、獣のように匂いが鮮明になり、自分が制御できない感覚。読んでいて、まるで自分もヴァンと一体となって走っていけるような、そんな気持ちになるのです。


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        本屋大賞に上橋菜穂子さんの「鹿の王」

        2015.04.08 Wednesday

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          2015年の本屋大賞、大賞は上橋菜穂子さんの「鹿の王」に決まりました!(*´∀`)ノ

          私も「鹿の王」を読ませてもらいましたが、納得の受賞だと思います。だって、すごい話なんだから。

          この物語のすごいのは、社会生活、歴史と風俗、医療など、人間の生活のすべてが詰まっていることです。とくに医療の描写は、日本医療小説大賞を受賞するくらい、ファンタジーでありながら、医療についての描写がリアルなのです。

          上橋菜穂子先生は、「鹿の王」を書く際に、内科医のいとこの方に、医療監修をお願いしたのだそうです。だから医療描写が、正確で、養老孟司さんや、医療関係者にも「鹿の王」のファンは多いのです。

          本屋大賞HP→


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          どうか、読んでみてください。『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』 佐々涼子

          2015.04.01 Wednesday

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            こんなにも、読むのが大変だった本はありませんでした。数ページ読むごとに、涙がでてしまうから。

            紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』 は、東日本大震災で壊滅した日本製紙石巻工場の復興ドキュメントです。

            この本をもとに再現されたドラマを観て、「あの」池上彰さんがテレビにもかかわらず、涙を流していました。この本を読んで、その意味がわかりました。

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            第一章「石巻工場壊滅」
            第二章「生き延びた者達」
            第三章「リーダーの決断」
            第四章「8号を回せ」
            第五章「たすきをつなぐ」
            第六章「野球部の運命」
            第七章「居酒屋店主の証言」
            第八章「紙つなげ!」
            第九章「リーダーの決断」


            マスコミが伝えなかった、震災


            第一章「石巻工場壊滅」、第二章「生き延びた者達」第七章「居酒屋店主の証言」では、東日本大震災発生直後から、津波に飲み込まれた石巻の凄惨な描写が続きます。

            その日、工場に出勤していた従業員は、総務課の徹底した危機管理によって、全員無事でしたが、街の中には津波に流され、壁一枚向こう側であがいている人々を助けることが出来なかったこと、津波が押し寄せた工場の1階に流されていた無数の遺体、震災後、無法地帯と化した街では強盗事件が続発したこと…。

            この本を読んで、いったい私達は何を観てきたのだろうかと、衝撃をうけました。マスコミでは美談、もしくは悲劇しかつたえませんから。これらの描写は、震災を体験した人々の生の、心の声が詰まっています。

            文中、壊滅した街をみて「戦時中のようだ」と表現されましたが、そんな悲惨な光景が、ほんの4年前に日本の東北で起こった事実を、忘れてはならないんです。

            紙つなげ!工場再生の駅伝レース


            被害状況がわかると、工場の再生は不可能だろう、そう思う人が大半でしたが、2人のリーダーが動きます。

            倉田工場長は、「工場を半年で稼働する」という目標を行員たちに掲げます。
            芳賀社長は「銀行と話ををつけてきた、金の心配はするな」と、石巻工場再生に向けてのバックアップを約束します。

            工員たちは半年復興の目標に、最初は難色をしめしたものの、工場の復旧作業を続けることに希望を見出していくようになります。紙を作るためには、電気、ボイラー、タービンなど、各部署の設備を復旧しなければならず、工程を遅らせることなく、次の課にバトンタッチしなければならない。

            この「紙つなげ!」のタイトルには、駅伝のように各部署が復興のたすきをつないで、最後の抄紙機を動かすまでが描かれています。凄惨な状況で、それでも勝つと信じ、ひたすら突き進んでいく石巻工場の人々の姿に、人間の底力を感じました。そして、涙がとまりませんでした。


            日本の紙の現状


            『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』では、紙がいかにしてつくられていくか、どのような材料を使い、どのように作られていくかが描かれています。

            紙には会社によってそれぞれ特徴があり、読む者のことを考えて嵩高く、それでいて軽く、裏移りせず、めくった時の感触の心地よさといった技術は、熟練のオペレーターの腕に支えられているというのも、この本を読むまで知りませんでした。

            意識もせず、めくるページのその中に、技術者たちの、たゆまぬ努力の結晶が詰まっているのだとおもったら、一枚一枚、ページをめくるのが愛おしくなりました。

            本文の中にこんな表現があります。
            紙には生産者のサインもない。彼らにとって品質こそが、何より雄弁なサインであり、彼らの存在証明なのである。

            そんな技術者たちがの思いがこもったこの本のページは、めくりやすく、優しくて、読むたび指になじんでいきます。

            作者の佐々さんはこの本の最後に、使用した紙の名前と、8号抄紙機の名前を記しました。それは出版業界から、日本製紙への感謝の気持ちだったのではないかな、と思うのです。


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            ジョーカー・ゲームシリーズ 『ラスト・ワルツ』 柳 広司

            2015.02.14 Saturday

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              旧日本軍のスパイ組織、D機関を描いた「ジョーカー・ゲーム」、その新作「ラスト・ワルツ」を読了。今回もまた、見事なまでのどんでん返しに、読んでいて鳥肌が立ちました。

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              アジア・エクスプレス


              中国・満州を縦断する満州鉄道の特急・あじあ号。D機関のスパイ・瀬戸は、ソ連側の情報提供者モロゾフと接触するため、あじあ号に乗車する。しかし、モロゾフは洗面所で死体となって瀬戸に発見される。次の停車駅まであと2時間。その間に暗殺者を見つけ出し、情報を回収することはできるのか…。

              列車内という走る密室での殺人事件。犯人はどうやってモロゾフに近づいたのか、文書の行方は?ページを進めるたびに、二重三重に張り巡らされた「しかけ」が明らかになっていきます。

              あじあ号に関する描写も詳細で、最新式の空調システムや、ロシア人少女の給仕など、あじあ号がいかに技術とお金をかけて作られたことがわかります。この技術が後に新幹線開発につながっていったのだとか。

              瀬戸が車内でたいくつしていた少年たちを使って、少年探偵団のごとく任務にさせたエピソードが印象的でした。

              舞踏会の夜


              結城中佐と因縁を持つ女性との、ロマンスの香り漂う物語。陸軍エリートの妻である加賀美顕子は仮面舞踏会の夜、ある男を探していた。それは、二十年前、家を抜けだした夜の街で愚連隊に絡まれていたのを助けてくれた男。
              顕子はその男とダンスの約束を交わしたものの、その後、彼は行方不明に。

              やがて男を探す顕子の前に、ダンスに誘う男性が現れて…。

              ラストダンスはワルツ。開戦前のひとときの舞踏会の華やかさが、花火のように鮮やかに描かれます。
              もちろん、ここでも単なるロマンス以上のスパイの駆け引きがあるのですが、それでも結城中佐が昔の約束を覚えているのではないかと、女性側としては期待してしまうのです。

              ワルキューレ


              ドイツ日本大使館の防諜対策をのため赴任してきた「日本のスパイ」雪村は、大使館にしかけられた盗聴器、ドイツ大使と親しい俳優・逸見五郎の招待で訪れた撮影所で耳にした「幽霊」の噂から、大使館に匿われているある人物を見つけ出す。

              ナチスから追われるその男を逃がすため、撮影費を使い込んで進退窮まった逸見五郎を巻き込み、雪村は大胆不敵な作戦を立てるのだが…。

              雪村の行動が、D機関にしてはちょっと危うい感じがするな、と思ったら、最後に意外なプロフィールが明かされ、読み返してみるとその伏線の貼り方の見事さに驚きました。


              単行本では、書きおろし短編「パンドラ」を掲載。
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              ・当時の映画へのオマージュ


              「ワルキューレ」は、当時の映画制作現場が物語に関わってくるため、当時の映画関係者が多数がでてきます。
              実在の人物としては「オリンピア」の女性監督レネ・リーフェンシュタールやナチス宣伝大臣ゲッベルス。

              金と女にだらしのない俳優・逸見は戦前のハリウッド俳優の早川雪洲、フィリップ・ランゲは実際のユダヤ系ドイツ人監督フリッツ・ラング(「メトロポリス」を製作)。

              作中に出てきた日独合作映画「サムライの娘」は原節子主演の「新しき土」なのでしょうね。ここらへんの人物は物語にからむので、架空の人物に変えているのでしょう。古い映画が好きな人間は思わずニヤリといしてしまうのではないでしょうか。

              目立たないスパイを映画化


              奇しくも現在、ジョーカー・ゲームが映画化されています。
              ワルキューレの中で「スパイは目立たない男でなくてはならない」という一文がでてきます。また逸見が出演した、スパイ映画では、実際のスパイとは程遠いハンサムな俳優による、派手なアクションが繰り広げられます。

              これ、深読みをするとあの映画化への寓意、というか、ちょっとした皮肉ともとれます。
              ただ原作のD機関のメンバーは目立たないように見せてるだけで、実際はハンサムな人が多いらしいし、映画というメディアでスパイを描くなら、どうやっても派手にならざるを得ないですから…。


              『ジョーカー・ゲーム』は2016年アニメ化、NHKのベストアニメ100で12位に選出された、原作を生かしてクオリティの高いアニメとなっています。

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              D機関シリーズ
              「ジョーカー・ゲーム」→
              「ダブル・ジョーカー」→
              「パラダイス・ロスト」

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              数学は難しい。けれど数学者たちは面白い。「フェルマーの最終定理」 サイモン・シン

              2014.09.29 Monday

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                確か、女優の杏さんのラジオだったと思うのですが、番組内でおすすめされていた本「フェルマーの最終定理」を読みました。

                フェルマーの最終定理という、証明不可能といわれた数式にまつわる数学者のドキュメンタリーです。数式もでてきますが、むしろ数学者の性格や人生、数学の歴史を中心に書かれているので、数学がわからなくとも楽しめます。

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                数学の歴史とフェルマーの最終定理


                数学の歴史は古く、遠く古代ギリシャのピタゴラスの時代から始まり、ギリシャからや中東やインドに伝わり(そこで0が発見される)さらにヨーロッパへ伝わります。

                そして17世紀、弁護士として働くアマチュアの数学家ピエール・ド・フェルマーは仕事の合間に、いくつもの定理を発見します。

                ところがこのフェルマーという人、かなり「いけず」な人でして、自らの定理の証明をわざと書き残しておかなかったため、その後300年以上も、学者たちがこの難問に頭を悩ましていくことになります。

                ・カール・セーガン博士とフェルマーの最終定理


                70年代に人気を誇ったテレビの宇宙番組「コスモス」の司会であり、天体物理学者のカール・セーガン博士は、宇宙人と交信できるといった輩たちによく「宇宙人と話ができますよ。何が聞きたいですか?」と言われると、きまって「フェルマーの最終定理の証明」と答えたそうです。

                フェルマーの最終定理がどれだけ難解であったかが伝わるエピソードですね。ちなみに答えが返ってきたことはないそうです。

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                カール・セーガン 朝日新聞出版 (2013-06-11)売り上げランキング: 291,591



                数学にとりつかれた人々


                この、フェルマーの最終定理に関わる人たちの生き様が面白いんです。最終定理は長い年月の間、すこしずつ部分的に証明が立証されていくのですが、途中には「フェルマーの定理が証明できないという証明」が証明され、またその証明が否定される…と、どんどん袋小路に陥っていきます。

                300年の間、この最終定理に関わった人の中には、失恋が原因で自殺を考えたけれど、最終定理に関わる数式を説いている内に夜が明けてしまい、結局、自殺のタイミングを失ってしまった人や、当時珍しかった女性の数学者、有名なドイツの暗号機「エニグマ」の解読に関わった数学者(この人はゲイ)など、個性あふれる数学者が登場します。

                数学者の生涯は、どこか芸術家に似ています。


                情熱的で破天荒で、己の目指すところへひたすらに突き進む。その作業は時に人類の役に立つわけではなく、ただ「好きなことを追いかける」その姿は、学者というより芸術家に近い気がします。作中に紹介された十数人、数学者のうち二人も恋愛絡みの自殺(一人は自殺未遂)を試みていたり、中には決闘で命を落とす人までいました。

                数学にまつわる冒険


                日本人の数学者たちもフェルマーの最終定理を解くための予想を提案していました。谷山=志村予想を証明することができたとき、フェルマーの最終定理を証明することができるとされていましたが、それでもなお、フェルマーの最終定理は難攻不落で数学者たちを寄せ付けませんでした。ひとりの数学者・アンドリュー・ワイルズが解き明かすまでは。

                ワイルズのフェルマーの最終定理の解き方はユニークで、彼は過去300年に渡る「失敗の歴史」を検証し、なぜ失敗したのかを検証することで、最終定理に至るアイデアを抽出していきました。彼は子供の頃、数学の本の中にフェルマーの最終定理を見つけてから、この最も難解なパズルを解く冒険の旅を始めたのです。

                途中、致命的なエラーを発見するものの、リカバリーの方策を見つけ出し、ここにフェルマーの最終定理はその謎を白日のもとにさらすことになりました。

                それは、偉大な冒険の終わりと、数学者の頭のみで証明する数学の終わりでもあったのです。作者は最後にコンピュータの台頭により、巨大な数の計算が可能になったことで、これほど楽しいパズルはなくなるのではないかと書いています。

                永遠の謎が解けてしまうことは、いいことばかりではないようです。

                それでもまた、数学者たちはまだ解かれていないパズルに挑んでいくのでしょうね。

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                清少納言の戦い 「はなとゆめ」 冲方丁

                2014.08.16 Saturday

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                  冲方丁さんの「はなとゆめ」は、清少納言の枕草子をベースに、平安時代の宮中の様子や陰謀を、史実を交えて描かれた小説で、主人公・清少納言の心情を交えながら描かれています。

                  「はなとゆめ」の時代背景と物語


                  清少納言が仕えた中宮定子は、関白道隆の娘で、当時の帝、一条帝の寵愛を一心に受け、一族の反映を支えている才色兼備なお方。清少納言は定子に仕えることで才能を開花させ、きらびやかな宮中でみずからの「華」を咲かせていきます。

                  この物語での定子さまは、才色兼備なだけではなく、相手の才能を花開かせたり、場を斬新なアイデアでイベントを演出するプロデューサーとしての才能もお持ちの方でしたので、彼女の周りは常に明るく華やいだ世界があったのです。

                  しかし、道隆の死後、あの有名な藤原道長が台頭。実験を握ろうと、あの手この手で中宮定子さま一族を追い落としていきます。ゴリ押しで自分の娘を宮中にあげちゃったり、陰険な方法で嫌がらせを仕掛けてくるため、清少納言は定子を守るため、様々な文章を書くことでで彼女を楽しませようとします。これがのちの「枕草子」になっていくんですね。

                  ちなみに、あの有名な「源氏物語」の作者、紫式部が登場するのは、このお話の後の時代です。

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                  滅びの美学


                  定子さまは結局、道長に栄華を奪われてしまいますが、「華」の番人としての清少納言の戦いは、後の世の評価を考えれば、勝ったといえるのじやないかな、と私は思うのです。

                  枕草子の描写が素晴らしいほど、後の人びとは、定子さまや清少納言のその後の悲劇に同情し、定子たちの華を奪って栄華を極めた道長には、やっかみや憤りを感じます。特に日本人は判官びいきで、美しく栄華を誇ったものが落ちぶれていくことに、激しく同情するものですから。

                  理不尽に栄華を奪われ、それでも凛として戦い続けた中宮定子と清少納言。彼女たち、ひたすら自分の「華」を咲かせることに命をかけていきます。それが美しければ美しいほど、この物語は切ないのです。

                  枕草子関連


                  漫画「超訳百人一首 うた恋い」でも、清少納言のエピソードがでてきます。宮中の貴公子たちとの和歌のやりとりやウィットの効いた会話など、宮中の雅さが伝わってきます。こちらもおすすめ。

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                  「物語ること、生きること」 上橋 菜穂子 瀧 晴巳

                  2014.05.17 Saturday

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                    作家には、二種類ある。作家という職業になりたいものと、書かずにはいられないものだ。」そう書いたのは有川浩先生ですが、精霊の守り人や、獣の奏者などの名作ファンタジーを生み出した作家、上橋菜穂子先生も、書かずにはいられない作家だと思います。


                    「物語は、私そのものですから」


                    「物語ること、生きること」は、「どうしたら作家になれますか?」という、子どもたちの必死の思いに、同じように作家になりたいこどもだった上橋先生が、作家になるまでの道のりをインタビュー形式で語ってくれた本です。


                    物語ること、生きること
                    上橋 菜穂子 瀧 晴巳 講談社 売り上げランキング: 16,300



                    こども時代の上橋先生には、画家である父親と、子どもの進路を見守る母親、それに、語り部として昔話を伝えてくれた、おばかあさんからの影響がありました。作家としての上橋先生は、最初から恵まれた環境にあるといえるかもしれません。けれど、それだけで作家としてデビューできるほど甘い世界ではないのでしょう。上橋先生も最初は、書きたい物語ではなく、書きたいシーンしかかけなったそうです。そこから、短くても完結した物語を書くために努力をし、書きたいものを書くための「修行」が始まるのです。

                    体感することの大切さ。


                    上橋作品の魅力のひとつが、異世界とそこに住む人々のいきいきとした描写だと思います。
                    上橋先生は、文化人類学者としてのフィールドワークのほかにも、実際に武道を体験してみたり、昔の鎧をつけてみたりと、とにかく「体感」することを大事にされています。もちろん、体験出来ないこともあるのでしょうが、その場合も、登場人物の気持ちにそって、考えて、考えて、描かれているのだと思います。だから、読み手に迫ってくるのでしょう。

                    実在感


                    小説(特にラノベ)の中には、事件や人の死が、とても軽く感じられるものがあります。書き手がただ感覚的に殺そう、生かそうと思って書かれた文は、読み手にもその安易さは伝わるんです。でも、上橋作品で描かれる人の死には、重みがあり、それが読み手に迫ってきます。それは決して絵空事などではなく、その世界で、実際に起こっていることとして感じるのです。


                    2つの職業


                    小説家としての上橋先生の側面は、これまでも特集記事等で語られてきましたが、もうひとつの職業である文化人類学者としての体験も書かれていて、こちらもとても興味深い内容でした。

                    読み手が体感できる物語を紡ぐため、文化人類学を学び始めた上橋先生。「精霊の守り人」のキャラクター呪術師トロガイは、フィールドワークで会った沖縄のおばあたちからヒントを得たそうです。

                    文化人類学はとにかく現地へいっての調査が重視されるため、オーストラリアのアボリジニたちに会うためなら水曜どうでしょうの企画並にオーストラリア全土を何千キロも、車を飛ばして行ったそうです。せっかく訪ねても門前払いされたり、悔しい思いもたくさんあったそうですが、そこからの体験が物語に反映されていってるのですね。


                    隣のアボリジニ 小さな町に暮らす先住民 (ちくま文庫)
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                    上橋作品感想


                    「精霊の守り人」→
                    「闇の守り人」→
                    「夢の守り人」→
                    「天と地の守り人」→
                    精霊の守り人シリーズ外伝「流れ行く者」→
                    精霊の守り人シリーズ外伝「炎路の旅人」→
                    精霊の守り人レシピ集「バルサの食卓」→
                    「獣の奏者 闘蛇編・王獣編」→
                    「獣の奏者掘|亀翳圈廣
                    「獣の奏者検ヾ扱詈圈廣
                    「獣の奏者 外伝 刹那」→
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                    まほろ駅前多田便利軒、完結?『まほろ駅前狂騒曲』 三浦 しをん

                    2014.04.23 Wednesday

                    0
                      多田と行天の便利屋コンビが活躍する、まほろ駅前多田便利軒駅前シリーズも三巻め。「まほろ駅前狂騒曲」では、いよいよ今までの伏線が回収され、物語も一応の区切りがついたようなのですが…。

                      まほろ駅前狂騒曲 あらすじ


                      まほろ駅前で便利屋を営む多田と、居候の行天。なんだかんだでこの2人のバディ生活も2年を過ぎ、行天に振り回されつつも、安定した日々を送っていた多田に、またもトラブルが持ち込まれる。

                      ある事情から離れて暮らす行天の娘・はるを、母親から半ば強引に押し切られて預かることになる多田。自分の遺伝子上の娘といえど、幼児を恐れる行天への説明に四苦八苦することに。

                      また前回「まほろ駅前番外地」に登場した無農薬野菜販売団体「家庭と健康食品協会(HHFA)」が、いよいよ本性を表し、学校給食やヤクザにまで販路拡大を狙う。

                      HHFAを快く思わない、まほろ裏社会を仕切る星から、多田は半ば強引に調査を依頼される。
                      なれない育児に奔走し、やばい仕事を依頼され、おまけにバスの間引きを疑う顧客の老人・岡が仲間とバスジャック!はたして多田と行天は無事に事件を乗り切ることができるのか…。


                      三浦しをんが描く、駅前人情シリーズ


                      昭和30年代、森繁久弥らが登場する「駅前シリーズ」という人情喜劇の映画がありました。
                      最初に「まほろ駅前多田便便利軒」のタイトルを見たときに、お人好しのおっさんが、周囲の困っている人を助ける、駅前人情シリーズのような話かとおもっていました。読んでみると、だいぶ違いましたが。

                      人情というよりハードボイルド、過去を背負った男たちの話でした。しかし、シリーズを読み進めていくいちに、なんだ、やっぱり人情ものなんじゃないか、と。

                      多田は過去に子どもを亡くし、行天は宗教がらみの母親から虐待を受けた過去を持ち、それぞれが過去を背負いながらも、仕事で出会った人々や、事件を通じて、過去を受け入れながら、もう一度前を向こうと思い始めます。

                      つらい過去を背負っているからこそ、夫を亡くした亜希子や、親に犠牲を強いられる子どもたちに彼らはぶっきらぼうながら、彼らの傷ついた心に沿おうとします。実は相手のことを思うことが、彼らの過去を癒していくことになるのですが。

                      行天が宗教にはまった母親に振り回される子どもに「大事なのは正気でいること、常に自分の正気を疑うこと」と話すシーンは、きっと、行天は子どもの頃、自分で自分を守るしかなかったんだな、だから同じ立場の子どもに、この言葉をかけることができたんだろうな…

                      大団円…かな?


                      行天は、自分の子どもであるはると出会い、一緒に暮らしたことでなにか吹っ切れたようで、多田もまた、亜希子と交際をはじめて、多田便利軒のまわりは新しい風がふいてきたようです。しかし、事件が解決すると行天は行方不明に…。いったいどこへ行ってしまったのか?と思ったら、思いもかけない大団円が待っていました。

                      これで、まほろ駅前多田便利軒は一応の完結したようですが、物語は新生多田便利軒の再スタートで終わっているし、まだ行天の母親の行方も知れないので、また新たな形で多田便利軒シリーズ、続いていって欲しいです。

                      まほろ駅前狂騒曲
                      まほろ駅前狂騒曲
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                      「むかしのはなし」→
                      「まほろ駅前番外地」→
                      「まほろ駅前多田便利軒」→
                      「月魚」→
                      「舟を編む」→
                      「風が強く吹いている」→
                      「きみはポラリス」→
                      「木暮荘物語」→
                      「星間商事株式会社社史編纂室」→
                      「三四郎はそれから門を出た」→

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