『柳宗民の雑草ノオト 春』柳宗民

2023.03.22 Wednesday

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    春はこの本を片手に散歩に出たくなります。『柳宗民の雑草ノオト 春』は、単なる野草図鑑ではありません。柳宗民氏の草花に対する愛情が伝わる本であり、随筆なのです。

    この本で名前やその性質を知ってからは道ばたの雑草も、なんだか愛おしく思えてきました。


    植物への慈しみ


    『柳宗民の雑草ノオト』では、雑草も野草も、国内種も外来種も、同じように紹介されています。

    例えば、最近見かけるナガミヒナゲシというオレンジの花。この花は有毒成分を含む他、周りの植物を枯らす成分が含まれています。しかし、柳先生はそうした草花もニュートラルな視点で観察しています。
    ナガミヒナゲシ

    「雑草という名の草はない」という有名な言葉がありますが、柳先生もまた、道端の野花への慈しみを持ち、文章を綴られています。

    植物に添えられた文章も、単なる植物の特徴だけではなく、その草花にまつわる思い出やエピソードも添えられているのが図鑑ではなく「ノオト」なのでしょうね。

    例えば、イヌノフグリという花がありますが、草花の名前に「イヌ」や「ヘビ」とつくのは「贋とかくだらないもの」を表すのだとか。

    現代では眉をひそめるような命名ですが、昔はこうして有効と無用な植物を分けていたのでしょう。


    華麗なる一族の園芸家


    ところでこの柳先生、実は美術界の華麗なる一族のご出身。お父様は民藝運動の創始者・柳宗悦でお母様は日本の声楽家の草分け的存在である柳兼子。

    『柳宗民の雑草ノオト』にも、「声楽家である母親が飼っていたカナリアのために、ハコベを摘むのは私の役割だった」と書かれています。柳家の様子がうかがえるエピソードです。

    兄たちもそれぞれ工業デザイナー、美術史家として活躍。こうしてみると宗民先生だけ、別の道に進んだように思うのですが、『評伝 柳宗悦』という本を読んでいたらと、祖父の柳楢悦が明治時代に洋風の花壇をつくっていたという記述がありました。

    もしかしたら、宗民先生はお祖父様の植物好きが遺伝したのかもしれませんね。

    評伝 柳宗悦 水尾 比呂志 (N)



    JUGEMテーマ:最近読んだ本



    『ブッダも笑う仏教のはなし』哲夫

    2023.03.02 Thursday

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      笑い飯の哲夫さんが仏教好きというのは、なんとなく知っていましたが、まさかこんなにガチだったとは。

      やはり本業がお笑い芸人さんなので、文章のリズムがよく、難しい説法も身近なもので例えるのでわかりやすい仏教本です。

      そんな身近だけれど、詳しいことはよくわからない仏教。それをシャンプーやカレー鍋という、身近なもので例えることで難しい仏教の教えを噛み砕いて教えてくれます。



      すべてはカレー鍋の中


      仏教とカレーはどうやら縁があるらしい。「4月8日(お釈迦様の誕生日)にカレーを食べよう」と伝えるカレー坊主なるお坊さんもいるくらいです。
      カレー坊主さんのツイッターはこちら

      カレー坊主こと吉田武士さんが解説を行う餓鬼の漫画『丁寧な暮らしをする餓鬼』もおすすめです。

      哲夫さんも仏教の教えを「カレー鍋」にたとえています。
      世の中のものはすべてが同じ、カレー鍋の中にあり、この世に存在するものは、たまたま、すくったお玉に入っている具材にすぎない。

      変わらないのであれば、腐らないし壊れないけれど、そんなものはどこにもない。

      なるほど。たしかにどんな物質も長い短いの違いはあってもいつかは腐ちて、また(カレー鍋に)戻る。そう考えれば納得できるし、なにより「カレーならいいか」と、ちょっとホッとします。

      こうした死の捉え方は以前読んだ寄藤文平さんの『死にカタログ』を思い出しました。死はこわいけれども、だからこそ今をちゃんと生きなきゃと思います。

      しかし、カレーとかシャンプーとかで難しい仏教の教えが例えられるとは思いませんでした。哲夫さんのワードセンスが炸裂しています。

      もしかしたら、笑い飯の伝説のネタ「鳥人」も、仏教の迦陵頻伽(かりょうびんが)という、下半身が鳥で上半身が人間という、生物から思いついたんでしょうか…?

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      知らないから怖い


      仏教ではおそれや不安は無知からくるものとしています。
      「シャンプーが怖い」という大喜利のようなテーマから、連想ゲーム的につなげていって、最終的には「おばけが怖いから、おばけがいないとわかればシャンプーが怖くない」という、なんのこっちゃわからない結果になります。

      こんな感じですが、要するに、

      「不安や恐れはその原因を突き詰めていけばいい、そのためにも無知ではいかん」

      と、いうことらしいです。

      仏教伝来の言葉


      たとえば「お陀仏」「お釈迦」「師走」など、実は仏教由来の言葉ってけっこうあるんです。
      ほかにも「くしゃみ」も仏教由来なんですって。くしゃみをすると寿命が短くなると考えられていて、「長寿」という意味の「くんさめ」を唱えたのが由来なのだとか。

      キリスト教でもくしゃみをすると魂が抜け出すので「Bless you」といいますよね。仏教とキリスト教がくしゃみという意外ところで繋がっています。驚きです。


      『向田邦子の恋文』向田和子

      2022.11.21 Monday

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        向田邦子の秘められた恋と、妹・和子さんが姉との思い出を綴ったエッセイ『向田邦子の恋文』。

        作家のきょうだいの中には、ときおり文章のセンスがある人が現れます。宮沢賢治の弟で『兄のトランク』の作者、宮澤清六さんや、今回読んだ向田和子さんもまた、思い出を綴るのにふさわしい書き手でした。

        向田和子の死


        向田邦子さんは、昭和56年の飛行機事故で帰らぬ人となってしまいました。彼女の死後、あとしまつを任された和子さんは、愛猫「マミオ」の世話や、遺品の整理と管理に追われます。

        原稿や資料などは邦子さんが「故郷もどき」と呼んでいた鹿児島の文学館に引き取られることに。その際、お母様が「鹿児島に嫁入りさせよう」と言ったそうです。

        邦子さんへのはなむけとして、これほど的確な言葉はないでしょうね。

        そして、和子さんは遺品の整理の際、ある茶封筒を見つけます。そこには、姉・邦子さんの秘めた恋が綴られていました。



        秘めた恋


        向田邦子作品といえば、長女は「秘めた恋」をしている場合が多いのですが、それは向田邦子さんの実体験でもあったわけです。お相手は記録映画のカメラマン。そして、妻子のある人でした。

        久しぶりにみた向田邦子新春シリーズは、やはり秘密の匂いがした。

        シナリオライターとして忙しい中でも向田邦子さんは、お相手のN氏にまめに手紙を書いて贈っています。締切に追われると、速記文字のような略語を使っていたのに、恋文にはユーモアと甘さが繊細に描かれていました。

        そこには、自身のドラマで描かれるようなドロドロした恋愛や痴情はなく、ともに美味しいものを食べ、時間を共有し、仕事の相談をする。実によいパートナーとしてのN氏との関係が見えてきます。N氏は妻子と別居しており、脳卒中で倒れた彼と、その母に対しても、彼女は生活面でもサポートをしていたとか。

        しかし、やがてN氏は他界。自死だったそうです。その時の邦子さんの様子を、和子さんはこう書いています。「抽斗
        に手を突っ込んでいた。放心状態だった」と。

        その後、彼の日記と手紙は邦子さんに渡され、彼女はそれをずっと所有していました。時々は懐かしんで、開いてみたのだろうか、それとも、和子さんが開けるまで封印していたのか、今となってはわかりません。

        向田和子と家族


        向田邦子のエッセイでは当然、書き手である邦子さんの視点からの家族が語られています。でも実は、邦子さんはそんな父親のことを、誰よりも理解し、支えていたのだそうです。

        父を理解し、母を助け、弟妹たちの面倒をみる。そんな女性だったそうです。家族を捨てられなかったから、N氏と結婚という形式をとらなかったのかもしれません。

        父親の死についても、父にかける白い布と間違えて、手ぬぐいをかけてしまったという、悲しい中にもユーモアあふれる文章を書いていましたが、実際の邦子さんは生前・父の座っていた場所に深々とお辞儀をしていた姿を、和子さんが目撃していました。

        家族が語った向田邦子という女性は、家族を、恋人を、弟妹たちをときには自分を犠牲にして「支える人」だったのでしょう。

        昭和時代、女性脚本家として脚光を浴びた働く女性は、実は誰よりも家庭を大事にした人だったのかもしれません。

        改めて、向田邦子という女性の生き様に感銘を覚えた本でした。

        私の父もよく怒鳴る人でした。家によく人を呼ぶので、母が苦労をしていたので、父のことが苦手でした。でも、大人になり、向田作品を読んだことで、父親の別の面が見えるようになりました。父が存命のときに、向田作品を読んでいたら、もっと違う接し方ができたのでは…と、今になって少し後悔しています。





        『大泉エッセイ 僕が綴った16年』大泉洋

        2022.03.04 Friday

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          何気なく手にとって読んでみた『大泉洋エッセイ僕が綴った16年』、面白いです。
          水曜どうでしょうの話、家族の話、大泉さんが旅で遭遇したおもしろい人々の話を、ボヤキ口調や、時にマジメな文章で綴られています。

          しかしなぜ私は、こんなに面白いエッセイを今まで読んでこなかったのか?その原因はたぶん、『水曜どうでしょうアフリカ編』で、大泉さんがことあるごとに、この本を画面に写して宣伝していたから。

          アフリカ編を見た人ならわかるでしょうが、大泉さんはキリンなど野生生物を写している脇から、ちょいちょいこの本を出してくるのです。内容に集中したかった私は食傷気味になり、逆に「読むのめんどいわ…。」と思ってしまったのです。

          大泉さん、過度の宣伝は時に逆効果になるのですよ…。



          大泉家の話


          古くから大泉洋ファンの方や、水曜どうでしょうを見ていた方にはおなじみ・祖父の恒三さん。おじいちゃんの面白エピソードは何度も登場します。

          ・留守電の保留を覚えず、「洋ちゃんいるのか〜!」とこちらの声が丸聞こえ
          ・保留を覚えても解除できず、相手はずっと待たされる
          ・夏は玄関先で涼んでいた恒三さん。客が扉を開けるとびっくりされたとか。

          面識のないおじいちゃんをここまで親しみを持つなんて、『鉄腕ダッシュ』の明雄さんか、恒三さんくらいのものでしょう。恒三さんは生前から大泉さんに「あんたのくだらない番組」と、憎まれ口を叩いていた割に、水曜どうでしょうを欠かさずみている、一番の理解者であったのだとか。

          他にも、家族旅行で「俺はのんびり過ごす」と言った側から、テニスに水泳、あらゆるアクティビティを(家族を押しのけて)参加する父、ディズニーランドを全力で楽しむ兄など、「この家族にして大泉洋あり」だな、と思いました。

          そんな大泉家をモデルにしたドラマ『山田家の人々』。後日譚がファンクラブイベント「CUE DREAM JAM−BOREE 2006」で舞台化されました。
          『山田家の人々』感想

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          『CUE DREAM JAM−BOREE 2006』感想

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          旅の話


          エッセイを読むと、水曜どうでしょうなど番組以外でも大泉さんはちょこちょこ旅に出ています。しかし、そこは大泉洋。旅には何かしらのトラブルがつきまといます。

          ・若い頃の関西旅行、お金を使い果たして飛行機に乗れず、母親に空港までお金を払いに来てもらった
          ・どこへ行っても、お目当ての店が空いていないことがある(調べたのにも関わらず…)

          『水曜どうでしょう』の最新作、アイルランドの旅でも、スマホで調べた店がことごとくクローズだった大泉さん。普段からこうなんですね…。

          水曜どうでしょうの話


          水曜どうでしょうといえば大泉さんのほか、「藤やん(またはヒゲ)」の藤村D、「うれしー」こと嬉野D、大泉さんの所属事務所の社長(現会長)である「ミスター」。この3人も個性豊かな面々です。

          大泉さんと舌戦を繰り広げる藤村Dですが、大泉さんの結婚式でご祝儀を袋に入れてしまったため、別に会費もとられてしまい(北海道の結婚式は会費制、ご祝儀は別)、その事をスピーチでぼやくという、まさに水曜どうでしょうのような楽しい式になったそうです。

          エッセイではこれまであまり語らなかった『水曜どうでしょう』の思いを語っています。
          台本のない中でうまれるストーリー(ムンクさんなど)、カメラが自分に向かないことが面白い会話を生み出すこと、大きくなりすぎた「どうでしょう」への葛藤などなど、大泉さんのどうでしょうへの思いが詰まっています。

          2022年現在、コロナで静養している大泉さん。元気になり、世の中が落ち着いたらまた4人で旅に出てほしいです。

          『板極道』棟方志功

          2021.11.08 Monday

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            書店まんが『書店員 波山個間子2』で紹介されていた棟方志功の自伝エッセイ『板極道』。

            志功センセイの文は、上村松園や小村雪岱のように洗練されているわけでもなく、話は前後するし、言葉遣いは独特。正直、とても読みやすいとは言えない文章です。
            (序文を書いた谷崎潤一郎も、同じようなことを書いてます。)

            でも、なんというか、文章からほとばしっているんです。情熱が。現代でたとえるなら、エレカシの宮本浩次さんでかも。雰囲気が似ています。



            情熱のひと


            志功センセイは作品に対しても人に対しても、とにかく情熱的。「わだばゴッホになる」と独学で油絵を描き、その後はゴッホが憧れた日本の版画に自らの道を見出します。

            仏像が見たいと、河井寛次郎の帰京に合わせて京都についていってしまったり、借家の襖や便所の壁に絵を描いてしまったりと、その情熱エピソードは尽きません。

            海外への講演旅行で欧米を訪れた時、美術館でゴッホのひまわりの絵のそばに、自分の版画が展示されているのを見て涙が止まらなかったそうです。

            また、人に対しても情熱的で、恩人の死に際し、ご遺族より大泣きして逆に慰められたり、作品を見ては感動で泣いてしまうほどでした。

            愛されキャラ


            そんな情熱的で芸術への猪突猛進な棟方志功は、ふるさと青森はもちろん、東京、疎開先の富山でも愛されていました。
            みんな、この風変わりで声が大きく、奇妙だけれど、どこか人を惹きつける男を愛していたのです。

            上京するときには職場や親戚、友人知人がお金を出し合ってくれたそうです。

            愛されキャラはその後も健在で、欧米へ公演旅行に行ったときも現地の日本人、日本美術愛好家の欧米人たちにも愛されていました。
            ちなみに北大路魯山人は、癇癪をおこすとお付きの人をステッキで叩くので嫌われていたとか…。

            太宰治とのエピソード


            棟方志功と同じく青森出身の太宰治。火のように情熱的で「陽」の志功と、「陰」の太宰。

            志功センセイは太宰治に対しガチで「ちょっと何言ってるかわかんない」と思ったそうですが(めっちゃ声が小さかったらしい)、太宰の方は志功の作品を評価して買い求めていたそうで、その思いには感謝をしています。

            柳宗悦たちとの出会い


            最初のうちは認められず、苦しい思いをしましたが、やがて彼の版画は、柳宗悦たち民藝運動のメンバーたちに見いだされます。

            この評価に感動した志功センセイ、思わず柳宗悦をハグしてしまい、柳先生は後々「あの時は棟方に抱きつかれて困ったよ。」と語っていたとか。

            民藝活動のメンバーにも可愛がられ、河井寛次郎からは「熊の子」とあだ名されました。一緒に京都に行った時、濱田センセイがいたずら心で「クマノコトユク」などと電報に書いたせいで、お迎えの人たちを驚かせるエピソードも可愛らしいです。

            芸術をと仏を愛し、棟方志功そのものを版画に刻んだ人生でした。後にも先にも、もうこんな情熱的で魅力的な人は現れないんじゃないかと思います。


            十万石まんじゅう


            埼玉県人にとってのソウルフードであり、テレ玉CMで有名な十万石まんじゅう。このパッケージは棟方志功が描いたのだそうで、「うまい、うますぎる」のフレーズは棟方志功の言葉を元にしたのだとか。

            ほんとうの序の舞『青眉抄』上村松園

            2021.01.11 Monday

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              日本画家・上村松園画伯の随筆『青眉抄』。絵の道を極めた画家の文章は、清廉で美しかったです。

              上村松園画伯をモデルにした小説や映画の『序の舞』は、やたらとエロと情念ばかりが強調され、本来の芸術性が隠れてしまっています。しかし本来の上村松園は、未婚の母という当時としては過激なスキャンダルこそあったものの、その人生は絵と芸術に捧げた清廉なものでした。



              情念とは内に秘めるもの


              そもそも明治人は情念を内に秘めることが多く、松園画伯も息子の父親について語っていません。それが『序の舞』というとエロス、というイメージがついてしまったのは残念でなりません。
              小説『序の舞』感想

              たとえ情念があったとしても、それは本来、内に秘めておくものなのでしょう。『青眉抄』でも女性の愛情についてこう書かれています。
              想いを内にうちにと秘めて、地熱の如き
              と。
              たとえ地熱の如き熱い愛情があったとしても表面に見せないのが「想い」なのでしょう。松園画伯はそんな女性の想いを、「砧」という作品に託して描いています。

              松園画伯は、ただ男性に流されるだけの弱い女性ではありませんでした。むしろその逆で、展覧会に出品した絵の顔に落書きをされてしまっても「かまいませんから、そのままにしておいてください」と言い放ち、女と侮っていた主催者側も最後には陳謝したのだとか。

              その時落書きされた絵は『遊女亀遊』。外国人の客をとるくらいなら…と、大和魂を貫き、自害をした遊女を題材にした作品です。彼女の辞世の句「露をだにいとふ大和の女郎花 降るあめりかに袖はぬらさじ」は、その後戯曲にもなりました。

              どうやら画伯、明治女性の芯の強さと、京都人のいけず、生来の勝ち気さを持ち合わせた、肝のすわった女性だったようです。「序の舞」の主人公は、どちらかというと流されやすく、弱く、感情の起伏が激しいので、デフォルメもいいところだと想います。

              古き良き京都と母の想い出


              『青眉抄』では、松園画伯の育った、古き良き明治の京都の街が生き生きと書かれています。幼いころ夢中になった、道端に色鮮やかな砂で絵を描く老人、実家の葉茶屋の香ばしいお茶のを焙じる匂い、客たちの和やかな雰囲気。

              古き良き、江戸時代の匂いを残す京都の風景は、読んでいると私たちにもその風景ががみえるようです。

              そして、女ひとりで葉茶屋を切り盛りしつつ、夕暮れどきまで縫い物をしている母親の姿。

              松園画伯にとって母親は、父であり、彼女の芸術を支援するパトロンであり、理想の女性像でありました。母親がはかなくなる夕方の光をたより縫い物をする姿は「夕暮」という絵に描かれています。
              針に糸を通す、という日常的な風景なのに、荘厳さすら感じる美しさです。



              「雑誌の品格」 能町みね子

              2014.12.21 Sunday

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                どうでもいいものに、的確な名を与える天才・能町みね子さん


                世の中にある、なんて言ったらいいかわからないけれど、なんかもやもやする感じ、そうしたモノに的確な言葉をつけることができるのが、能町みね子さんです。

                有名なところだと、芸能人と結婚する経歴が謎の一般女性を「プロ彼女」と呼んだのも彼女の造語です。あとは「モテない系」とか。

                雑誌の品格のどこかに自分がいる


                そんな秀逸なセンスで絵や言葉で伝える天才・能町みね子さんが、世にあふれる様々な雑誌の購読者を、想像し、妄想して擬人化したのが「雑誌の品格」です。

                とにかく、網羅している雑誌の種類が豊富。ギャル御用達の雑誌「小悪魔ageha」から、対極にあるようなナチュラル嗜好の「クウネル」、有名ドコロの赤文字雑誌「JJ」や「nonno」まで、あらゆる雑誌の人格がつくられていて、読んでいくと、その趣味嗜好が自分に似通った人格がいるのに気が付きます。

                こうしてみると、雑誌ってあらゆる人格を網羅したメディアなのだなー、と気付かされます。
                また、能町みね子さんが作り出す雑誌の人格がツボすぎるの。ちょっと誇張はあるものの、だいたいその雑誌を読んでいそうな、実際にいそうな人ばかりなんですよ。

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                ギャル系雑誌の「小悪魔ageha」(惜しまれつつも現在休刊)擬人化・アゲハさん設定
                ・地方(山口県)のキャバ嬢・22歳
                ・キラキラネームの子供あり
                ・地元を愛する
                など

                私に一番近いのは、「カメラ日和」か「ku:nel (クウネル)」かなあ。近いというより憧れですね。雑誌は憧れの対象を掲載するものですから。

                友人の漫画家・久保ミツロウさんとタッグをくんだオールナイトニッポンや久保みねヒャダこじらせナイトは最高。
                久保ミツロウと能町みね子がオールナイトニッポンやってみた
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                モテない理由はここにあった! 「くすぶれ!モテない系」

                大野更紗さんの「困っているひと」のイラストも能町さんです。

                JUGEMテーマ:オススメの本

                レビューポータル「MONO-PORTAL」

                「あなたに褒められたくて」 高倉 健

                2014.11.19 Wednesday

                0
                  高倉健さんといえば数々の映画での名シーンはもちろん、ビストロスマップにでた時、SMAPのメンバー一人ひとりに、ぎゅうっと堅い握手をしたことなどが印象深く記憶しています、そしてもう一つ、印象深かったのが、文筆家としての高倉健さんです。

                  あなたに褒められたくて (集英社文庫)」は、高倉健さんの人柄や少年時代の話など、知られざる姿が実直な文章で綴られたエッセイです。あまり高倉健とエッセイってちょっと結びつかい気がしますが、この「あなたに褒められたくて」は、かつて日本文芸大賞エッセイ賞を受賞しています。

                  福岡での少年時代、アメリカに渡ろうとして密航を企てようとしたり、南国での旅の話など、プライベートがまったく想像できない伝説的な名俳優の、日々の暮らしや思いが綴られていて、読んでいて胸が熱くなりました。

                  久々に、読み返してみようと思います。謹んでご冥福をお祈りいたします。


                  あなたに褒められたくて (集英社文庫)
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                  JUGEMテーマ:エッセイ


                  ガイジン視点の日本食体験 『英国一家 日本を食べる』 マイケル・ブース

                  2014.01.14 Tuesday

                  0
                    私はよく、日本びいきがすぎて、変な行動をおこしてしまう外国人のネタをネットで観るのが好きなのですが、『英国一家 日本を食べる』のブース家は、まさにそんな日本食の魅力にはまってしまった、英国人家族の日本食体験記です。

                    高級料亭や天ぷらといった定番料理からラーメン、お好み焼き、串かつなどジャンクフードまで、さまざまな日本料理を体験したイギリス人一家の食の冒険は、普段食べなれた日本の食が、違った視点で描かれていて、日本人が読むと新鮮な感じです。


                    相撲部屋からBISTRO SMAPまで


                    英国一家 日本を食べる』は、ただの観光日記というわけではありません。ブース氏の職業は、れっきとしたフードジャーナリスト。日本食についてのレポートをするため、3ヶ月の間北海道から沖縄まで調査・インタビューを行います。

                    そのため、普通の観光客では入れない、相撲部屋でのちゃんこ試食や、なんと、ビストロスマップの収録現場にまで潜入しています。わたしたちは普段何気なく見ているビストロスマップですが、実は若い男の人が料理することを日本に定着させた画期的な番組だったのだそう。これも、日本の外側から見てみないとわからないことかもしれません。

                    子どもたちの体験


                    ブース氏の日本食体験や関係者インタビューの間に、彼の2人の息子たち、アスガーとエミル、彼らの目を通した日本での体験がとてもほほえましくて、それがフードレポートではない、微笑ましい印象を読者に与えてくれます。
                    相撲部屋で把瑠都と立ち会い、彼を倒してびっくりするアスガーや、日本に来る前はひどい偏食だったエミルがすっかり鮨や天ぷらが食べられるようになったり、彼らの体験と成長も、読者を和ませてくれるのでした。(*´∀`*)


                    日本人の知らない日本食


                    この本の作者、ブース氏はイギリス人。失礼ながら「あの」(世界的にもまずいといわれる料理をつくる)国の方なので、日本食について多少の偏見や、思い込みが入っているのではないかと思っていたら、むしろ逆。

                    そうめんや冷や麦の違いから、食材の栄養価、力士の栄養摂取と持病についてなど、ほとんどの日本人でも知らないような日本食や食材、日本文化や、取材当時の日本のニュースついてまで、丹念に調べあげ、表現していることに驚きました。そしてなにより、だしの旨みというものを、ブース氏は、ヘタな日本人よりも味を理解していました。


                    英国一家、日本を食べる
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                    アニメにもなりました!
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                    かつて、林望先生は名エッセイ「イギリスはおいしい」で、イギリスのまずい食事と素材そのものの美味しさ、イギリス料理をつくる愛すべきイギリス人について、ウイットに富んだ文章に紹介されていました。

                    その20数年後、今度は日本が「おいしい」の対象としてイギリス人から紹介されるとは思いもよりませんでした。日本人からみたイギリス料理、イギリス人からみた日本料理、両方を読み比べてみるとまた面白いです。

                    イギリスはおいしい (文春文庫)
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                    JUGEMテーマ:オススメの本


                    「魔女のスープ 残るは食欲2」 阿川佐和子

                    2011.06.20 Monday

                    0
                      阿川佐和子さんの食にまつわるエッセイ「残るは食欲」の第二弾、「魔女のスープ 残るは食欲2」前回にひきつづき、おいしそうな食べ物の話がたくさんでてきます。

                      阿川佐和子さんは食通の小説家・阿川弘之さんのお嬢さんで、幼少の頃からおいしいものを食べているだろうに、その基本感覚は庶民派でつつましい。そういうところも勝手に親近感が湧いてしまいます。(^^)

                      いただき物の高級な果物を、ついつい取っておいて食べごろを逃してしまうとか、てんぷら屋や日本料理屋で最後に白いご飯がでるよりも、お料理と一緒に白いご飯を食べたいと思うとか、(高級な店では最後にごはんをいただくのがルール)、スープの最後はカレーにするとか、ものすごく共感できる内容がたくさんあって、読みながら「あるある、そういうこと!」と思わず頷いてしまったり。

                      普通、テレビにも出ている著名な方って、栄養管理をきっちりしていて、間違っても冷蔵庫の中の物を腐らせるようなことはない(もしくはそれを公表しない)と思っていたのですが、阿川さんは結構、冷蔵庫の中の物を腐らせたり、料理をつくってうまくいかなかったことをセキララに書いています。そのあたりもセレブやモデルなどのエッセイにくらべ庶民の感覚に近い。
                      もちろん、おいしそうな料理のほうが多いけれど。

                      今回はお父様の食エッセイ「食味風々録」にかかれた「なみちゃんひやむぎ」(アクのよい野菜の油炒めと醤油をだしにしたひやむぎ)も再現。とはいってももともとの文章のレシピに詳しい分量が載っていないため、読者の方からのご意見からレシピの再現を試みたそうですが、結局のところ正確な分量はわからず、阿川さん自身も試行錯誤中。でも、阿川レシピもおいしそうです。


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                      「残るは食欲」→
                      「スープ・オペラ」→

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