2008.11.09 Sunday

「新編懐古的洋食事情1」 市川 ジュン

アイスクリン強し」を読んでから、レトロな食べ物の話が読んでみたくなりました。

懐古的洋食事情シリーズは、市川ジュン先生の名作「陽の末裔」の登場人物や関連した人々を主役に、明治・大正・昭和の洋食事情をフィクションを交えて描いたマンガです。
もともとは順不同に発表されていたのですが、文庫化するにあたって年代別に再編成され、「新編」となりました。
新編懐古的洋食事情 (1)」では洋食の始まった明治初期から庶民に浸透しはじめた大正時代までの作品が掲載されています。

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血湧き肉躍る料理店


明治初期。深草子爵は年若い家老の息子(執事見習い)の小次郎をつれ、洋食店・開花亭を訪れる。
小次郎はてきぱきとはたらく店の看板娘・ゆきに恋をしますが、主である深草子爵も彼女を狙っていて…

この頃はナイフとフォークの使い方もわからない人が多く、フォークをそのまま口に入れてケガをしちゃう人とか、ステーキを切るのに力いれすぎて、肉が飛んでいってしまったり。まさに「血沸き肉踊る」わけです。

大夜会始末記


明治20年代。チャリティーの夜会を開催することになった望月伯爵家。とはいえ、屋敷も料理も和風の伯爵家では洋風パーティなど開いたことがなく、当主夫妻も投げ出す始末。

しかたなく若奥様・梅子さんが若い見習いコック・新(あらた)といろいろな料理を選べるブフェ・パーティを企画するが…

純和風の家での洋風パーティーを開くために悪戦苦闘。和洋折衷にしてしまう伯爵夫人のセンスがすてき。そりゃ料理人たちも惚れちゃいますよね(^^)

トマト―赤茄子―の作法


実業家・岡倉家に嫁入りが決まった和野さん。
料理裁縫などの花嫁修業を完璧にこなしてきたはずが、嫁ぐはずの家は洋風スタイルでまるきり役に立たない。
ある日花嫁修業で習っていない西洋野菜、トマトを使って料理をつくることになってしまった和野さんの運命は…

明治は生活スタイルが激変した時代。当時はおっかなびっくり、新しい食事のスタイルも洋風を取り入れつつ、自分の家流にしていったのでしょうね。

西洋野菜主義


地主の次男・銀次は深草子爵の寮(別荘)に美しい女が滞在していると聞き、野菜を届ける口実に女を見に行く。
ところが寮には灰をかぶったの女がいるだけだった。

実は彼女こそ美貌の女流画家・紹月(月絵)で、類まれな美貌と画才をもっているが、かまどの火もつけられないほどの料理下手だった。銀次は女ながら時代を切り開く彼女に惹かれて並び立つため、当時まだ珍しい西洋野菜の栽培を始めるのだが、紹月はたくさんの求愛者に囲まれていて…

セロリやアスパラガス、レタス(チシャ)など、今ではあたりまえの野菜も、昔は「西洋野菜」として珍しいものでした。

振り袖に氷菓子


氷菓子とは「アイスクリン」のこと。女学生の佐和子の家は高利貸し。家業にコンプレックスをもっているため、ひねくれていた。そのため学校では「アイスクリンの姫」(高利貸し→こおりがし→氷菓子→アイスクリン)と陰で呼ばれていたが、新任の英語教師・有馬の風変わりの授業のおかげですこしずつ彼女の氷もとけていく。

しかし有馬は佐和子の家とある因縁があり…

冷凍技術が発達していなかった昔、アイスクリンはそれは貴重なお菓子でした。横浜では明治時代のアイスクリンを再現しているお店もあるらしい。食べてみたいです。

千代古齢糖の恋


「千代古齢糖」とはチヨコレイトのこと。当時はまだチョコといえば、砂糖のクリームにチョコをかけたものだった。
革新的な家柄に育ったさつきは、チヨコレイトが好きで行動的な女学生。道で出会う男子学生・夏目に恋をして彼の注意をひくため、校則違反の髪型「束髪くずし」にチャレンジしたり、道で話すきっかけを探している。

あるとき落とした本をきっかけに夏目と会う約束をするのだが、社会主義に傾倒している夏目は、さつきを女性の同志としてしか見ていなかった…

好きな人としゃべれた記念に、おこずかいでチヨコレイトを買うさつきがかわいらしいです。昔も今も、女学生が好きなものはあまり変わらないですね。

コロッケに明日はない


ここからは大正時代のお話。高島財閥の天然お嬢様・緑に縁談が。「結婚相手に会いに行く」という当時としては大胆な行動に出た緑お嬢様。

ところが当の婚約者は忙しく、話をする暇もなかったが、すきな料理を訪ねたところ、「コロッケ」と答えた。その日から緑はコロッケ作り精を出すことに。

なにせお嬢様のなさることですから、ちょっとずれているというか、毎日毎日コロッケを作っては婚約者に届けにいきます。いくら好きでもそう毎日は食べられないと思うんですが…(^^;)物語のラストに大正時代に流行った浅草オペラ「コロッケの唄」が印象的に使われています。

花咲ける かすてーら


内務大臣の長女・大日子(おおこ)さんは美食家でほんわりとした性格のお嬢様。昔なじみの菓子職人、至(いたる)ともいい関係だが、妹・高子の至への思いを知り、お見合いを受けることに。一方、至は懸案だったカステーラづくりに精をだしていたが高子から大日子さんの見合いの話を聞くと…

アイスクリン強し」でもそうでしたが、菓子職人とお嬢さまというのは、やはり魅かれあうものなのでしょうか。

ビアザケは歌う


女性記者の操さんはビアザケ(ビール)職人だった祖父の薫陶でかなりの「のんべい」に育ってしまった。
それを隠していたのだが、ひょんなことからカフェーの女給・はま子と知り合い、彼女の勤め先・グラン・カフェーに招かれる。

実はそこの支配人は祖父が昔、口約束で決めた操の許婚だったのだが…

当時のカフェーは今とは違い、アルコールも出していて男性客が大半。店にはお酌をしたり接客をする女給さんたちがいたのです。

明治・大正・昭和のレトロでロマンチックな食べ物のお話。
お気に召されたならばぜひお召し上がりください。

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●大正時代後半から昭和初期まで、ライスカレーやオムライスが一般的になりつつある「新編懐古的洋食事情2」の感想はこちら→

●昭和初期から戦後まで、洋食が庶民に浸透した
「新編懐古的洋食事情3」の感想はこちら→

幕末の洋食事始め「慶応三年のフルコース」→



レビューポータル「MONO-PORTAL」

Comment
こんにちは。
現在帰省中なんですが、こちらの本が帰省先の本屋さんに売っていて、以前、お勧めいただいたこともあり、三冊大人買いしてきました♪
また読みましたら感想書かせていただきます。
小夜さん
気に入っていただけたらうれしいです。
( ̄▽ ̄)
感想楽しみにしてますね。
  • 日月
  • 2009/01/02 02:14
こんにちは。読みました!
本当にお勧めいただいてありがとうございました。

市川先生の描かれる女性は、どの時代の女性も活動的で、活発だなぁ、と思いました。
料理もおいしそうで、文化も垣間見えて。
本当にありがとうございました(^^)
小夜さん
気に入っていただいてうれしいです( ̄▽ ̄)
実際の時代ではここまで行動的にはできなかったと思うのですが、市川ジュンさんの書く女性たちはいつも凛としていてすきなんです。そして当時の文化の雰囲気がすごくよくでていますよね。
昔のレシピで料理をつくってみたくなります。
  • 日月
  • 2009/01/25 23:30





   
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日月さんにお勧めをいただき読んだ漫画です。 日月さん、いつも素敵な本の紹介、ありがとうございます。 『陽の末裔』というシリーズの登場人物が登場するらしいのですが、私はそのシリーズを読んでいないのでわかりません(~_~)
  • 月の舟
  • 2009/01/23 10:04 AM
『陽の末裔(ひのまつえい)』の、番外編的な読み切り短編集?でしょうか。 懐古的洋食事情(1)昭和元年のライスカレー(1990/02)市川 ジュン商品詳細を見る 東京ハヤシライス異聞 (YOUコミックス)(1992/01)市川 ジュン商品詳細を見る キャベツ巻き次第 (YOUコ
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