「最後のディナー」 島田 荘司

2008.12.29 Monday

0
    ミステリーランドの「透明人間の納屋」を読んでからずっと読みたかった島田荘司作品。御手洗潔という名探偵のシリーズがあることは知っていたのですが、どの作品から手をつけてよいのかわからなからず、正方形の装丁と「最後のディナー」という響きに魅かれて読んでみました。ちょうどクリスマスの時期で、季節もあっていたし。

    文中、「龍臥亭」という記述がでてくるので、どうやら「龍臥亭事件
    」後のお話らしく、物語の重要人物であろう犬坊里美という女性が、ワトソン役の作家・石岡のところを訪ねてくるところから始まります。
    石岡による過去の事件の述懐が入るものの、独立した短編ミステリなので、ほかの作品を知らなくても読めました。

    ●里美上京
    「龍臥亭事件」の関係者、犬坊里美が横浜の大学に編入し、石岡を訪ねてくる。お互いの近況を報告しつつ、横浜の街を散策するふたり。石岡は20年前に死んだ女性のことを思い出すが、不思議と痛みや恐怖を思い出すことはなかった。
    この話はミステリではないのですが、どうやら石岡さんは里美ちゃんのおかげで過去をふっきれたらしい。

    ●大根奇聞
    里美の大学の教授と話をする機会をもった石岡は、教授から幕末の
    薩摩藩士が書き残した「大根奇聞」という本の謎解きをたのまれる。その藩士・酒向は子供のころ旅の僧侶に従って薩摩をおとづれるが、その頃の薩摩は大飢饉の最中で、病気の僧侶と幼い矢七(酒向)は村の老婆に助けられるが、助けようにも老婆の家にも食べ物はなく、このままでは餓死する運命かとおもわれたが、老婆が御禁制の大根を盗み出して2人に食わせたため、命をつなぐことができた。しかし、盗んだら死罪と言われた大根を盗んだ老婆は罰せられず、3人とも飢饉後も生き延びていた。
    彼らはなぜ、罪に問われず、生き延びることができたのか?
    こちらはちょっと毛色の違ったお話。200年近く前のミステリを日本から遠く離れた地で御手洗潔が見事謎を解き明かします。

    ●最後のディナー
    里美の強引な影響で英会話教室に通うことになった石岡。
    一緒の教室になった老人・大田原と親しくなり、言葉を交わすようになる。大田原はキリスト教徒で、浮浪者の救済を行っており、以前の脳梗塞を患ったため、英語の発音がうまくできないが、懸命に教室に通っている。なにが、彼をそこまで英語習得に突き動かすのか…
    クリスマスイブの夜、大田原は石岡と里美をディナーに招待する。遠くへ行くのでお別れのディナーだと…
    その後、大田原の消息はとだえるのだが、年明け4日の朝、死体で発見される。切なくみじめな一生とだったが、でも彼はある目的のために英語をならい、命がけでそれを行っていたのだ。
    最後のセリフが、この孤独な老人に向ける最高のたむけになっている。

    どんなに格好悪くても、どんなに惨めでに、命をかけたひたむきさは、かならず相手に通じるのだと


    最後のディナー
    最後のディナー
    posted with amazlet at 08.12.27
    島田 荘司 原書房 売り上げランキング: 246756

    コメント
    コメントする
    トラックバック
    この記事のトラックバックURL