『ジョゼと虎と魚たち』 田辺 聖子

2009.09.07 Monday

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    田辺聖子さんの描く女性たちはみな、自立している。
    精神的にも、生き方にも。
    中には悩んだり問題を抱えている人もいるのだけれど、生き方にぶれがくて潔い。

    タイトルにもなった「ジョゼと虎と魚たち」は犬堂一心監督で映画化もされています。

    『ジョゼと虎と魚たち』あらすじ


    足の不自由なクミと、彼女に魅かれる恒夫。クミは自分のことをジョゼと呼ばせたり、自分のことを「アタイ」といったり、恒夫に対して高飛車な態度にでたりする。ジョゼの面倒をみていた祖母が亡くなり、一人ぼっちになってしまった。恒夫はそんなジョゼを放っておけず「管理人」となって共に暮す。

    ある日、ジョゼは恒夫と、動物園に虎を見に行く。
    好きな人ができたら一番怖いものが見たい。
    怖うてもすがれるから。
    もしできへんかったら一生、ほんものの虎は見られへん。


    エロティックな場面もあるのだけど、この作品で感じるのは先の見えない不安と幸福。この作品が描かれた1985年では、まだまだバリアフリーへの偏見も残っていたので、ジョゼの感じる諦念は現代よりも強かったかもしれない。

    だからこそジョゼは、今の幸福を続くものとは思わず、完全無欠な幸福は死と同じだと考えたのかもしれない。この潔い生き方に、読むたびパワーをもらってます。



    他の短編も面白い


    『ジョゼと虎と魚たち』以外にも非常に素晴らしい恋愛短編が収録されています。特に私がすきなのが『恋の棺』『雪の降るまで』で、『恋の棺』は、年下の親類の男子とひと夏、一夜をともにする女性が描かれ、『雪の降るまで』は、大人の性愛を「趣味」とする女性のお話です。

    『雪の降るまで』の主人公は、見た目は地味なおばさんなのに、「その道」に関しては道を極めていて、同じ匂いのする同士を見つけては…という話。エロティックで自堕落に見えて実は、筋が通ったその生き様はとてもかっこいい。

    アニメ映画化


    犬童一心監督によって映画化された『ジョゼと虎と魚たち』ですが、2020年にはアニメ映画にもなりました。
    映像はともかく、アニメにして受けるのか…?ライトノベルを読み慣れた若い世代に、この作品のフェチっぽさとか、愛とか不安とかが通じるのだろうか…?

    しかし、キャラクターは今っぽくなっているものの、映像を見る限り原作のスピリットは生かされているよう。確かに田辺作品は、風俗描写や言い回しは古くとも、逆にそれが今では新鮮に映るし、男と女にまつわるテーマは、いつ読んでも色褪せないものな…。

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    田辺聖子作品感想


    「薔薇の雨」→
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