本当は怖い、母性のはなし。「スタバトマーテル」 近藤 史恵

2009.12.23 Wednesday

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    慈愛に満ちた聖母を讃える歌「スタバトマーテル」これは私が今まで読んだ本の中でも結構「怖い」物語だと思います。母親の持つ母性は、神様から与えられた中で一番純粋で強い力だとおもう。普通の母親はそれで子供を守り、慈しむ。けれどもし、その強い母性が「歪んで」いるとしたら…

    スタバトマーテル あらすじ


    りり子は才能をもちながらもある理由から声楽家の道をあきらめ、芸術大学の声楽科の助手に甘んじている。あるとき、代理で歌った「スタバトマーテル」が縁で、美術科の講師である版画家・瀧本大地と出会う。人前で極度に緊張して歌えなくなるりり子を大地は「神様のための声だ」と讃える。

    お互いにひかれあうふたりだが、大地の母親・瑞穂は異様なまでに大地に執着し、二人の仲を裂こうとする。りり子は暴漢に襲われたり、無言電話が続いたりと数々の嫌がらせを受けるけれど、気の強いりり子はひるまずに大地を愛し続けるのだが、大地の母親・瑞穂の失明の原因が大地への角膜移植だと聞かされる。歪んでしまった母をもつ者に救いの道はあるのか…


    母性の恐ろしさ


    りり子と大地の恋の始まりは読んでいてもわくわくするし、美しい歌声や、版画の表現もすばらしいんだけれど、やはりこの作品で一番感じるのは「怖さ」ですね。

    とにかくもう「母親」の子供に対する粘着質な執着が恐ろしくて。じわじわと締められていく感じ。作中「母親」が「あの子は私が産んだ。だからわたしのものだ。」と当然のように言うのが本当に怖いんです。ホラー映画なら映画を見るのをやめればいいし、幽霊に悩まされたら霊媒師を頼めばいい。
    けれど「恐怖」がいちばん身近な愛すべき存在からだったとしたら、もう一生呪縛から逃れられないんですよ。

    物語のラスト。それが今後「希望」になるのか、「恐怖」になるのかわからないけれど、執着ではなく、愛情であってほしいと思いました。でもあの展開だったら十数年後にまた「母性」の因果が復活しそう…

    近藤史恵さんの作品はどれを読んでもはずれがない。

    スタバトマーテル (中公文庫)
    近藤 史恵
    中央公論新社
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    ドヴォルザーク:スターバト・マーテル
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    ●近藤史恵作品感想
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    レビューポータル「MONO-PORTAL」
    コメント
    近藤史恵さんの作品にはずれがない、って私もそう思います。
    これも読んでみたくなりましたが、Amazonでは在庫がないようなので、図書館に予約しました。図書館も書架にはなくて、倉庫のほうに行ってるみたいです。
    いやもう、圧倒されます。表現力がすばらしいので余計に怖いです。
    ヒロインが強い中にも繊細さ、意地の悪さも持ち合わせていて、リアルで共感がもてます。石持浅海作品のヒロインは嫌いですが、近藤作品のヒロインとは友達になりたいです。
    • by 日月
    • 2009/12/24 10:47 PM
    こんばんは〜。
    ようやく「スタバトマーテル」読みました。確かに、怖〜い作品でした。

    近藤作品のヒロイン、共感できて応援したくなっちゃうところがありますね。
    牛くんの母さんへ
    ラストがまたちょっと怖くて。また何か始りそうな感じでしたよね〜(^^;)

    近藤作品のヒロインは潔くてかっこよくて、でもめちゃめちゃ繊細で、ちょっと意地悪。そんなところが共感できて好きです。
    • by 日月
    • 2010/01/07 9:29 PM
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