不良女中の体験記。「女中譚」 中島 京子

2010.08.29 Sunday

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    戦前の女中さんを主人公にした「小さいおうち」の中島京子さんが描く、もう一つの女中話「女中譚」。

    永井荷風・林芙美子・吉屋信子などの作家が書いた、女中が出てくる小説をベースにした連作集で、秋葉原のメイドカフェの常連、90歳を超えたおすみばあさんが当時の思い出を若者たちに(勝手に)話はじめる、といった物語です。

    不良女中


    同じように女中を主人公にした「小さいおうち」のタキさんは、当時の上流家庭に仕えた、勤勉な家事のプロフェッショナルでしたが、「女中譚」にでてくるおすみばあさんは、ひとことでいうなら「すれっからし」です。(^^;)


    おすみさんはもともと女給(現代でいうとホステスみたいなもの)で、たちの悪い男と組んで、男が女中に売った女から金を引き出す手紙を書いてみたり、奉公先を飛び出したり、夜にダンス練習所に通ってダンサーを志してみたりと、行動に一貫性がなく、浮草のような暮らしをしています。


    小さいおうち」とくらべると、やはり面白さには欠けるかもしれません。年を取った元女中が、昔を回想するという手法はかわらないけれど、歴史的事件の取り上げ方も「小さいおうち」のように当時の面白いエピソードでうまく物語を包むのではなく、ちょっと強引のからめている感じがします。あとは主人公のおすみさんの性格や行動にまったく共感ができなかったのも原因かな。

    ただまったく面白くないというわけではなくて、「小さいおうち」の女中像を捨てて、ひとりの女性の女中体験記として読めばいいのかもしれません。


    唯一、秋葉原のメイド「りほっち」とおすみばあさんの年齢を超えた友情の話は好きでした。リボンやレース、ボタンなど、「可愛い、きれいなもの」が好きというセンスを共有しているふたり。りほっちは、おすみばあさんと同じ古アパートに住んでいて、世話をやいたり、ご飯を食べながら、ばあさんがせがまれて昔の話をするところなどは、読んでいて唯一ほっとできました。


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    コメント
    こんばんは。
    「小さいおうち」は直木賞でしたっけ?最近知ったのですが中島さんは様々な形で高い評価を得てる方のようですね。「女中譚」ではう〜ん、な感じだったのですが、こちらで感想を読んだ「小さいおうち」は胸を打つ何かしらのオチもありそうなので興味深い1冊になりました^^
    すももさんへ
    「小さいおうち」を先に読んでしまったのでどうしても「女中譚」のアラが目立つ形になってしまいました。
    もともと性格の違う3つの物語を、一つにまとめてしまったために無理が生じている部分があるような気がします。
    「小さいおうち」は、文句なしに面白い作品ですので、よかったら読んでみてください。
    • by 日月
    • 2010/08/29 11:08 PM
    トラックバック、二つありがとうございました。
    中島京子さんはほとんど読んでいないんです。(*_*)
    これも、桜庭一樹さんの読書案内で、見つけたもの。私はドイツ人の奥さん、ハーフの御嬢さんのお話が気に入りました。
    • by ほっそ
    • 2014/01/14 2:39 PM
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    • いつも読書人 
    • 2010/08/29 11:01 PM
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