手に汗握る、スパイゲーム。「ダブル・ジョーカー」 柳 広司

2012.09.17 Monday

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    旧日本陸軍のスパイ養成所・D機関を舞台にした「ジョーカー・ゲーム」の続編「ダブル・ジョーカー」今回もまた、手に汗握る展開にワクワクしながら読んでいました。いよいよ大戦の影が近づく昭和10年代の世界を舞台に、D機関のメンバーたちが活躍します。

    「ダブル・ジョーカー」


    D機関の活躍を快く思わない陸軍は、あらたなスパイ組織「風機関」をたちあげ、双方を競わせようとします。
    英国とのスパイ活動が噂される、白旗元外交官を調査・逮捕するため、白旗の書生を脅して情報を得た風機関でしたが…。

    風機関は、スパイ活動に必要なものはとことん利用し、終わったら殺すことも厭わない。殺人は「目立つ」ため、もっとも忌み嫌うD機関とは対局に位置します。

    でも今回一番すごかったのは、一般人に変装した風機関の正体を見破った女中さんでしょう。風戸中佐は、自分が見下した人間に油断し、まんまとそれをD機関に利用されてしまったわけです。しょせん軍人の凝り固まった価値観では、D機関の敵ではなかったようです( ̄ー ̄)ニヤリ

    「蝿の王」


    前線の部隊付き軍医・脇坂は、一方でソ連のスパイとして活動している。ある時D機関によるスパイ狩りの情報をつかみ、逆にスパイ・ハンターを追い詰めようと、慰問の「わらわし隊」の関係者に目を光らせるが、D機関のスパイは意外な場所にいて…。

    完璧、と思えた脇坂のスパイ活動も、D機関にはすべてお見通しなんですね。さすが。
    文中、脇坂がソ連のスパイとなった原因が記されていますが「格差社会、政治家の癒着、官僚の保身、真実を語らない新聞」など、現代の問題とほとんど変わらないのに驚きました。戦争と娘の身売り以外は全然変わってないのだなあ…。


    「仏印作戦」


    仏印(現在のベトナム)で陸軍の視察に同行した暗号通信技師がD機関の人間と接触し、陸軍にも内密に暗号通信を打つことを依頼される。西欧風な街並み、多国籍な人々、戦前のベトナムは金子光晴の「マレー蘭印紀行」のように、ノスタルジックな雰囲気に満ちあふれていていました。それが緊迫するスパイ合戦の清涼剤のような役割をになっています。

    また当時の陸軍と海軍の仲の悪さを描写した一幕もあり、それが事件につながっていくわけですが、もう少し双方があゆみよっていれば、もっと戦争が早く終わっていたでしょうに…。

    「棺」


    ヒットラー政権下のドイツ。スパイ・ハンターのヴォルフ大佐は列車事故で急死した日本人を調べるうちに、彼にスパイの匂い、それも20数年前「魔術師」と呼ばれた優秀な日本のスパイの感触を感じ、調査を行う。

    結城中佐が過去、どのようにスパイ活動を行ったかが描かれます。優秀なスパイだった結城中佐が捕まった理由が、本国陸軍からのチクリだったとは。その頃から陸軍て腐ってたんだな!ヽ(`Д´)ノプンプン


    「ブラックバード」


    アメリカでのスパイ活動を行うD機関の「仲根」はアメリカ人実業家の娘と結婚し、地域に根づくことに成功する。しかし、日毎につのる日本人排斥の激化、二重スパイの活動など、さまざまな困難が襲う。仲根はそれらの事態にも冷静に対処し、二重スパイの情報漏えいを防ぐことに成功するものの…。
    戦争の大きな流れは、たとえ結城少佐率いるD機関としても留めることはできなかったのですね…。

    太平洋戦争勃発後のD機関には、どんな運命が待っているのでしょう。D機関のモデルとなった「中野学校」は戦争末期はスパイ活動よりもゲリラ活動に移行していったようですが。

    「眠る男」


    「ジョーカーゲーム」の「ロビンソン」の外伝的なエピソード。「スリーパー」といわれる敵国に潜む工作員、その工作員側からの視点で描いた短編です。
    自国を裏切ってまで敵国スパイを助けるスリーパー側の事情が語られ、興味深かったです。


    ダブル・ジョーカー (角川文庫)
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    D機関シリーズ


    「ジョーカー・ゲーム」
    「パラダイス・ロスト」
    「ラスト・ワルツ」

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    コメント
    日月さん☆こんばんは
    D機関の方達は、いろんな技術を身に着けてらっしゃいますが、その中でも凄いなと思うのが「相手に印象を残さない」という点なんです。
    今の世の中だと「相手にいかに覚えてもらうか」の技術を学ぶ事が多いのですが、その逆ってイメージが湧きません。
    そういう意味でも、形あるものを残してしまう死というのは、一番やってはいけない事だったのでしょうね。
    • by Roko
    • 2012/09/18 8:27 PM
    Rokoさんへ
    気配を消して「見えないもの」になるというのは、きっと周囲の状況をよく見ていないとできないんでしょうね。

    文中、時々ちらつく戦争の影は不快ですが、D機関の活躍と場所の描写(上海など)がすばらしいので、惹きこまれてしまいますね。
    • by 日月
    • 2012/09/19 11:17 PM
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    ダブル・ジョーカーposted with amazlet at 10.10.07
    • Roko's Favorite Things
    • 2012/09/18 8:12 AM
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    • itchy1976の日記
    • 2012/09/20 12:21 PM
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    • ナナメモ
    • 2012/11/12 10:22 AM
    ダブル・ジョーカー  大好きな推理小説  「ジョーカー・ゲーム」に続く、最高&最強のスパイ・ミステリー!  結城率いる異能のスパイ組織”D機関”に対抗組織が。  その名 ...
    • ベテランママは小説、エッセイ、ビジネス本大好き。あらすじ、ネタバレ注意
    • 2015/02/07 7:24 PM
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