「無伴奏ソナタ」 オースン・スコット・カード

2014.09.28 Sunday

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    2014年秋、演劇集団キャラメルボックスが公演する舞台「無伴奏ソナタ」。その原作の「無伴奏ソナタ」は、SF短編集で、今まで読んだどのSF作家とも違う、ホラーのようであり、哲学や詩のようでもある、独特の世界観を持つ物語でした。

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    印象深かった短編の感想をいくつか書いてみました。

    王の食肉


    原題「Kings meat」を「食肉」と翻訳したことで、テーマがより強調された気がします。
    ある植民惑星では、人間が異星人の王たちの食肉として生かされている。「羊飼い」と呼ばれる狩人は、王と王妃の気分によって、王たちの食材を村人たちの体から切り取っていく。

    …そのショッキングな内容におどろきました。こんなSFもあるのだな、と。

    ラストでの羊飼いの運命は、キリスト教の要素が反映されていて、残酷な使い魔と思われていた羊飼いが、実は罪を背負い、人々の命を守る存在だったという。

    ブルーな遺伝子(ジーンズ)を身につけて


    移民星から地球へ調査船が送り込まれる。地球に残る「アメリカ人」たちは、ロシアとの戦争の影響で細菌やウイルスなど、独自の科学を発達させ、とうとう遺伝子をいじり、まったく別の子孫をつくろうとしていた…。

    読んでいて「彼方より―諸星大二郎自選短編集」や「食事の時間」を思い出しました。微生物をうえつけ、ゴミや排泄物を食事とし、新たな形状の人類がつくりだされるところに恐怖を感じました。


    無伴奏ソナタ


    音楽の天才クリスチャンは、世間との接触を禁じられ、森に住み自然を教師に音楽を作り続けていた。ある時、ある男が彼に音楽を手渡した。バッハという男の音楽を。その日から彼の運命は大きく動いていく…。

    禁を破った彼は音楽活動から追放され、別の仕事につく。けれども、音楽を忘れられないクリスチャンは、禁を破りふたたび音楽を奏でてしまう。

    音楽をつくるたび、過酷で、残酷な罰がクリスチャンを襲います。「王の食肉」でも同じ表現がありましたが、罰を受けるクリスチャンの拷問シーンは血こそでないものの、淡々としていて恐ろしいのです。

    それでも、クリスチャンから音楽を離すことはできませんでした。
    無伴奏ソナタの世界では、人の仕事や生活が政府(おそらくはコンピュータ)により定められています。そのおかげで人々は才能や性質にあわせた一番いい人生が与えられますが、システムのミスがあったり、少しでもルールを破ると、人生がまったく変わってしまうのは怖い世界だと思いました。

    どんなに残酷な運命でも、誰もクリスチャンから音楽を引き離すことができないのです。きっと彼にとっての音楽は彼そのものだと思うのです。

    無伴奏ソナタは演劇集団キャラメルボックスで舞台化されています。役者さんたちの演技はもちろん、オリジナル楽曲やクリスチャンの奏でる楽器のデザインもすばらしいです。

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    演劇集団キャラメルボックス公演
    「無伴奏ソナタ」2014
    「無伴奏ソナタ」2018

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    コメント
    トラックバックありがとうございます。読んでから随分になりますが、今でも「無伴奏ソナタ」の印象は強く残っています。
    • by kazuou
    • 2018/03/28 9:18 PM
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    無伴奏ソナタ (ハヤカワ文庫 SF (644))オースン・スコット・カード早川書房 1985-12by G-Tools オースン・スコット・カードの短編集『無伴奏ソナタ』(野口幸夫訳 ハヤカワ文庫SF)の収録作品に共通するのは、人間の醜い部分、暗部が描かれているところでしょうか
    • 奇妙な世界の片隅で
    • 2018/03/28 9:16 PM
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