ジョーカー・ゲームシリーズ 『ラスト・ワルツ』 柳 広司
2015.02.14 Saturday
旧日本軍のスパイ組織、D機関を描いた「ジョーカー・ゲーム」、その新作「ラスト・ワルツ」を読了。今回もまた、見事なまでのどんでん返しに、読んでいて鳥肌が立ちました。
中国・満州を縦断する満州鉄道の特急・あじあ号。D機関のスパイ・瀬戸は、ソ連側の情報提供者モロゾフと接触するため、あじあ号に乗車する。しかし、モロゾフは洗面所で死体となって瀬戸に発見される。次の停車駅まであと2時間。その間に暗殺者を見つけ出し、情報を回収することはできるのか…。
列車内という走る密室での殺人事件。犯人はどうやってモロゾフに近づいたのか、文書の行方は?ページを進めるたびに、二重三重に張り巡らされた「しかけ」が明らかになっていきます。
あじあ号に関する描写も詳細で、最新式の空調システムや、ロシア人少女の給仕など、あじあ号がいかに技術とお金をかけて作られたことがわかります。この技術が後に新幹線開発につながっていったのだとか。
瀬戸が車内でたいくつしていた少年たちを使って、少年探偵団のごとく任務にさせたエピソードが印象的でした。
結城中佐と因縁を持つ女性との、ロマンスの香り漂う物語。陸軍エリートの妻である加賀美顕子は仮面舞踏会の夜、ある男を探していた。それは、二十年前、家を抜けだした夜の街で愚連隊に絡まれていたのを助けてくれた男。
顕子はその男とダンスの約束を交わしたものの、その後、彼は行方不明に。
やがて男を探す顕子の前に、ダンスに誘う男性が現れて…。
ラストダンスはワルツ。開戦前のひとときの舞踏会の華やかさが、花火のように鮮やかに描かれます。
もちろん、ここでも単なるロマンス以上のスパイの駆け引きがあるのですが、それでも結城中佐が昔の約束を覚えているのではないかと、女性側としては期待してしまうのです。
ドイツ日本大使館の防諜対策をのため赴任してきた「日本のスパイ」雪村は、大使館にしかけられた盗聴器、ドイツ大使と親しい俳優・逸見五郎の招待で訪れた撮影所で耳にした「幽霊」の噂から、大使館に匿われているある人物を見つけ出す。
ナチスから追われるその男を逃がすため、撮影費を使い込んで進退窮まった逸見五郎を巻き込み、雪村は大胆不敵な作戦を立てるのだが…。
雪村の行動が、D機関にしてはちょっと危うい感じがするな、と思ったら、最後に意外なプロフィールが明かされ、読み返してみるとその伏線の貼り方の見事さに驚きました。
単行本では、書きおろし短編「パンドラ」を掲載。
「ワルキューレ」は、当時の映画制作現場が物語に関わってくるため、当時の映画関係者が多数がでてきます。
実在の人物としては「オリンピア」の女性監督レネ・リーフェンシュタールやナチス宣伝大臣ゲッベルス。
金と女にだらしのない俳優・逸見は戦前のハリウッド俳優の早川雪洲、フィリップ・ランゲは実際のユダヤ系ドイツ人監督フリッツ・ラング(「メトロポリス」を製作)。
作中に出てきた日独合作映画「サムライの娘」は原節子主演の「新しき土」なのでしょうね。ここらへんの人物は物語にからむので、架空の人物に変えているのでしょう。古い映画が好きな人間は思わずニヤリといしてしまうのではないでしょうか。
奇しくも現在、ジョーカー・ゲームが映画化されています。
ワルキューレの中で「スパイは目立たない男でなくてはならない」という一文がでてきます。また逸見が出演した、スパイ映画では、実際のスパイとは程遠いハンサムな俳優による、派手なアクションが繰り広げられます。
これ、深読みをするとあの映画化への寓意、というか、ちょっとした皮肉ともとれます。
ただ原作のD機関のメンバーは目立たないように見せてるだけで、実際はハンサムな人が多いらしいし、映画というメディアでスパイを描くなら、どうやっても派手にならざるを得ないですから…。
『ジョーカー・ゲーム』は2016年アニメ化、NHKのベストアニメ100で12位に選出された、原作を生かしてクオリティの高いアニメとなっています。
D機関シリーズ
・「ジョーカー・ゲーム」→
・「ダブル・ジョーカー」→
・「パラダイス・ロスト」→
レビューポータル「MONO-PORTAL」
アジア・エクスプレス
中国・満州を縦断する満州鉄道の特急・あじあ号。D機関のスパイ・瀬戸は、ソ連側の情報提供者モロゾフと接触するため、あじあ号に乗車する。しかし、モロゾフは洗面所で死体となって瀬戸に発見される。次の停車駅まであと2時間。その間に暗殺者を見つけ出し、情報を回収することはできるのか…。
列車内という走る密室での殺人事件。犯人はどうやってモロゾフに近づいたのか、文書の行方は?ページを進めるたびに、二重三重に張り巡らされた「しかけ」が明らかになっていきます。
あじあ号に関する描写も詳細で、最新式の空調システムや、ロシア人少女の給仕など、あじあ号がいかに技術とお金をかけて作られたことがわかります。この技術が後に新幹線開発につながっていったのだとか。
瀬戸が車内でたいくつしていた少年たちを使って、少年探偵団のごとく任務にさせたエピソードが印象的でした。
舞踏会の夜
結城中佐と因縁を持つ女性との、ロマンスの香り漂う物語。陸軍エリートの妻である加賀美顕子は仮面舞踏会の夜、ある男を探していた。それは、二十年前、家を抜けだした夜の街で愚連隊に絡まれていたのを助けてくれた男。
顕子はその男とダンスの約束を交わしたものの、その後、彼は行方不明に。
やがて男を探す顕子の前に、ダンスに誘う男性が現れて…。
ラストダンスはワルツ。開戦前のひとときの舞踏会の華やかさが、花火のように鮮やかに描かれます。
もちろん、ここでも単なるロマンス以上のスパイの駆け引きがあるのですが、それでも結城中佐が昔の約束を覚えているのではないかと、女性側としては期待してしまうのです。
ワルキューレ
ドイツ日本大使館の防諜対策をのため赴任してきた「日本のスパイ」雪村は、大使館にしかけられた盗聴器、ドイツ大使と親しい俳優・逸見五郎の招待で訪れた撮影所で耳にした「幽霊」の噂から、大使館に匿われているある人物を見つけ出す。
ナチスから追われるその男を逃がすため、撮影費を使い込んで進退窮まった逸見五郎を巻き込み、雪村は大胆不敵な作戦を立てるのだが…。
雪村の行動が、D機関にしてはちょっと危うい感じがするな、と思ったら、最後に意外なプロフィールが明かされ、読み返してみるとその伏線の貼り方の見事さに驚きました。
単行本では、書きおろし短編「パンドラ」を掲載。
ラスト・ワルツ (角川文庫)
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・当時の映画へのオマージュ
「ワルキューレ」は、当時の映画制作現場が物語に関わってくるため、当時の映画関係者が多数がでてきます。
実在の人物としては「オリンピア」の女性監督レネ・リーフェンシュタールやナチス宣伝大臣ゲッベルス。
金と女にだらしのない俳優・逸見は戦前のハリウッド俳優の早川雪洲、フィリップ・ランゲは実際のユダヤ系ドイツ人監督フリッツ・ラング(「メトロポリス」を製作)。
作中に出てきた日独合作映画「サムライの娘」は原節子主演の「新しき土」なのでしょうね。ここらへんの人物は物語にからむので、架空の人物に変えているのでしょう。古い映画が好きな人間は思わずニヤリといしてしまうのではないでしょうか。
目立たないスパイを映画化
奇しくも現在、ジョーカー・ゲームが映画化されています。
ワルキューレの中で「スパイは目立たない男でなくてはならない」という一文がでてきます。また逸見が出演した、スパイ映画では、実際のスパイとは程遠いハンサムな俳優による、派手なアクションが繰り広げられます。
これ、深読みをするとあの映画化への寓意、というか、ちょっとした皮肉ともとれます。
ただ原作のD機関のメンバーは目立たないように見せてるだけで、実際はハンサムな人が多いらしいし、映画というメディアでスパイを描くなら、どうやっても派手にならざるを得ないですから…。
『ジョーカー・ゲーム』は2016年アニメ化、NHKのベストアニメ100で12位に選出された、原作を生かしてクオリティの高いアニメとなっています。
D機関シリーズ
・「ジョーカー・ゲーム」→
・「ダブル・ジョーカー」→
・「パラダイス・ロスト」→
JUGEMテーマ:オススメの本
レビューポータル「MONO-PORTAL」
「スパイは目立たない男でなくてはならない」は、実に名言ですね。歴史に貢献しながらも、足跡を残してはならないことに重きを置いた結城中佐のダンス、見てみたいなぁ!
逸見のモデルは早川雪洲ですか、あらゆる意味で日本人離れした人だったんだろうなぁってイメージが広がりました。ありがとうございます。