ペルシャの女性婚制度・姉妹妻『乙嫁語り7』 森 薫

2015.02.17 Tuesday

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    『乙嫁語り』7巻は、語り部であるスミスの旅とともに、各地の乙嫁さんを紹介するのですが、今回のテーマは女性同士の結婚。でもイスラム教って同性愛禁じてるんじゃなかったっけ…?。

    『乙嫁語り7』あらすじ


    旅を続けるスミスがペルシャで滞在した館には、少女のような可憐な乙嫁、アニスがいた。やさしい夫と子宝にも恵まれ、何不自由ない暮らしでも心はどこか満たされない。

    そんなとき使用人から「姉妹妻」を持つべきだと勧められる。さっそく姉妹妻を探すべく、女性たちの社交場である風呂屋を訪れるアニスの前に、印象的な女性、シーリーンが現れる。
    立場も環境も違うアニスとシーリーンだが、どこか通じあうものを感じて姉妹妻の契りを結ぶのだか…




    ペルシャの姉妹妻制度とは


    「姉妹妻」(ハーハル・ハーンデ)と呼ばれるペルシャの女性同士の婚姻制度は、19世紀まで実在したのだそう。親友としての契りをむすび、普通の結婚のように式をあげたり、旅行にいったり、一緒のお墓にも入れるのだとか。

    姉妹妻は「家同士の結婚」に対し、ある種、恋愛結婚な役割があるような気がします。夫は選べなくとも、気のあったパートナーは選ぶことができるのですから。とはいうものの、同性愛的なつながりではなく、あくまでもプラトニックなもの。このへんは戦前の女学生の「エス」的なつながりと似ています。

    17世紀のペルシア女性の風習や文化を書き取った『ペルシア民俗誌』には、姉妹婚の詳細が載っています。



    今までと異なる画風がすごい


    乙嫁語りに限らず、森薫さんの漫画作品は、服や背景、動物など、これでもか!っていうほど細部が描き込みが特徴的なのですが、7巻の絵には驚かされました。最初「乙嫁語り」ってわからなかったほどです。

    しかし、描き込みがないわけではなく、ペルシャのモザイクや建物の装飾など、目立たないところでみっしりと描き込まれています。アラビアン・ナイトを思わせる、デザイン的な情景描写は斬新だし、動物の描写や細かい動きは、相変わらずの細かさがあります。

    人物はあっさりとしつつも、親子で顔のパーツを似せるなど、細かいところがすごいんです。

    『乙嫁語り』から学ぶイスラム社会


    いま、否が応でもイスラム社会に注目が集まってます。今回の乙嫁語りでは、珍しい姉妹妻や、一夫多妻制など、イスラムの風習について語られます。

    一夫多妻制は、決してハーレム的なものではなく、夫が亡くなり困窮した女性を、裕福な男性が救済するための制度だそうです。「乙嫁語り」のなかでも、アニスの姉妹妻、シーリーンの夫が亡くなり困窮したとき、アニスは夫に、シーリーンを第二夫人として迎えてほしいと頼みます。

    多数の妻を持つには、いづれの妻も、すべて公平に扱うことが条件といわれています。男女平等を謳っているイスラム教らしい制度なのでしょう。

    ただ、女性が自立して自ら働き、暮らせるという自由はないようです。でもそれは、異教徒の私側からの視点なのでしょうけれど。

    「乙嫁語り」12巻では、アニスとシーリーンのその後が描かれています。これまでもちょくちょく登場してそのラブラブっぷりを披露していた姉妹妻の2人ですが、ツンデレなシーリーンが面倒見の良いお姉さん、アニスがちょっと天然のお嬢さまポジションになっているのが面白かったです。



    森薫作品感想


    「乙嫁語り13」
    「乙嫁語り12」
    「乙嫁語り11」
    「乙嫁語り10」
    「乙嫁語り9」
    「乙嫁語り8」
    「乙嫁語り6」
    「乙嫁語り5」
    「乙嫁語り4」
    「乙嫁語り3」
    「乙嫁語り2」
    「乙嫁語り1」
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    言わずと知れた英国メイド物語
    「エマ(外伝)」→
    エマ以前のメイド物語「シャーリー」→
    「シャーリー2」

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