『また、桜の国で』 須賀しのぶ

2017.09.13 Wednesday

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    戦前のポーランドを舞台に、戦争の嵐のなかで、自らの思いを貫こうとした若者たち。その信念と友情を描いた『また、桜の国で』読了。須賀しのぶさんの近代(明治から昭和)作品はやっぱりすごい。激動の中に生きる人々の思いが詰まっています。

    『また、桜の国で』あらすじ


    日本大使館書記生・棚倉誠はロシア人の父をもつハーフ。誠はドイツからポーランドに向かう列車の中で、ドイツ人に暴力を振るわれているポーランド系ユダヤ人、ヤンに出会う。

    ポーランド大使館へ赴任した誠は、極東青年会の代表イエジ、マジェナらと出会う。極東青年会とは、かつて親を殺され、シベリアから日本へ逃れた孤児たちにより結成された組織。誠は彼らを通じ、こどもの頃に出会ったシベリア孤児のカミルを探していた。施設から逃げ出したカミルは誠に「母と妹を殺した。」と告白していた。

    ロシア系ハーフとして言われない差別を受け、日本を離れた誠、祖国ポーランドから見捨てられたユダヤ人のヤン、そしてアメリカ人ジャーナリストのレイ。自らのアイデンティティを求める3人の青年たちは、やがて戦争の渦中へその身を置くこととなる。

    また、桜の国で
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    嵐に抗う人々


    独断でユダヤ人にビザを発行し続けたカウナス領事・杉原千畝は有名ですが、当時の東ヨーロッパの外交官たちも、戦争を回避すべく、自らを省みず、現地の人々のために尽くす骨太な方々がいました。

    誠たちポーランド日本大使館もドイツとポーランドとの戦争を防ぐため、最後まで努力を続けますが、無情にもドイツはワルシャワへの攻撃をはじめ、ポーランドはドイツの支配下に。無差別の粛清、ゲットーのユダヤ人への虐待。それを黙ってみているしかないポーランド人…。

    読んでいてドイツ人のあまりの鬼畜ぶりに恐怖と怒りを覚えるのですが、「じゃあお前ら日本人はアジアで何やったんだよ。」と言われたらぐうの音もでません。戦争は一方の視線だけで考えてしまうと、どうしても辛くなってしまうので、できるだけニュートラルな視線で読まないと…。

    大事なのは、過酷な状況下でも道を見つけること。酒匂大使が去ったあと、あとを任された後藤副領事は、大使館の屋上に日の丸を描くことでポーランド人の職員を守ろうとします。(この時、ドイツは日本と同盟関係にあったので、日本大使館を攻撃できないから。)

    やがて戦争は激化する中、ヤンはアウシュビッツ収容所に、イエジはレジスタンスに。しかし、ポーランド大使館員は国外退去を命じられてしまう中、誠は極東青年会や旧知のポーランド人とともにあるため、ある決断をします。

    ロシア人と日本人の間に生まれ、日本人から拒絶されてきた誠は、「日本」がポーランドを裏切っても、自分だけは彼らを裏切るまい、それこそが彼の日本人としてのアイデンティティだったのかもしれません。

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    ドイツのポーランド侵攻で思い出すのはチャップリンの「独裁者」。この映画のすごいところは、「戦争後」ではなく、「戦争中」まだヒトラー政権を握っていた時に作ったってことですよ。

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