この本を読んで、知れてよかった。児童養護施設のこと。「明日の子供たち」 有川 浩
2015.10.20 Tuesday
この本を読むまで、児童養護施設について、ほとんど何も知りませんでした。有川浩さんの「明日の子供たち」は児童養護施設を舞台にした小説で、ジーン・ウェブスターの「あしながおじさん」以来の名作だと思います。
児童養護施設「あしたの家」。新人職員の三田村は、着任早々、先輩の和泉から「かわいそうな」子供たちの乱雑な靴を直したことでとがめられる。親切心なのに、注意され納得がいかない。
しかし、部外者だった三田村の考えと、施設の現状は大きく違っていた。友達のこと、進路、親との関係。やがて三田村は子供たちを通じて彼らの成長と、本当の思いを知ることになる。悩みながら、ぶつかり合いながら、子供たち、そして職員たちも成長していく。
新人職員の三田村は最初、施設で暮らす子供たちのことを「親と暮らせない、かわいそうな子」として認識しています。それに対し、施設の子であるカナは憤ります。
「かわいそうな子どもに優しくしたいって自己満足」だと…。
カナは育児放棄の母親に学校に行かせてもらえず、幼いころから家事をやらされ、施設に入ってようやく幸せを手に入れます。
でも三田村も含め、読んでいる私にも偏見を持っていた「家族と暮らせない子どもは、かわいそう」だと思い込んでおり、そんな偏見をカナのことばはぶち破ってくれました。
「明日の子供たち」では、施設の子供たちが直面する問題についても描かれます。これらのこと、「明日の子供たち」を読むまで、全く知りませんでした。
・高校受験に失敗すると、中卒のまま、施設を退所しなければならない
・高校を卒業すると、自立を余儀なくされる
この現状には驚かされました。施設の子どもたちは不幸ではないけれど、普通の家の子に比べてハンデを背負っているのは確かなんですね。
ジーン・ウェブスターの「あしながおじさん」でも、高校を卒業したら何の社会訓練も行われぬままに世間に放り出されるのだと、ジュディが語っていましたが、子供たちが、100年前と同じ保証しか受けられないのが現状なんですね…
タイガーマスクで有名になったランドセル寄付は、ほんというとお金のほうがありがたい
「あしたの家」の施設長が語っていますが、ランドセルの購入代金は、予算としていただけるのです。だからランドセルそのものを贈られると、すでに購入してしまった後では、引き取り手を探さなければならないのだそう。
(そこで職員の仕事が増えたり、配送料もでてくるでしょうね)
下手な同情や思い込みで寄付の品々を贈る前に、きちんと、相手のニーズにあったものを贈るべきだと実感しました。
物語の中で、子供たちの高校卒業後の進路について書かれていて、その中でヒサの選択は「防衛大」でした。防衛大は無料で学べて、しかも手当がつくため、ほぼ天涯孤独のヒサは、当然の選択肢として防衛大を選びます。
最近、子どもの貧困、集団的自衛権などが問題とされています。読みようによってヒサの進学は、そうした問題を明示しているようにもおもえます。
「経済的に恵まれない子どもが自衛隊に行き、海外で殺される」のだと、一部の人たちは気炎を上げて反対するかもしれません。
私も、貧困→自衛隊→自衛権で海外で殺される→問題と、いった図式を考えたことがあります。
でもね、読んでいて、施設の子供たち、ヒサやカナ、杏里たち、ひとりひとりの子供たちを知ると、どうも違うんじゃないかなあ、と。確かにヒサには経済的ハンデがあって、防衛大を選んだけれど、それは彼の中で一番いい選択だったからだと思うんです。
確かに子どもの貧困、集団的自衛権は問題だけど、それこそ部外者が「かわいそう」で片付けてはいけないんじゃないかと。
じゃあ、私たちに何ができるか、と考えたら、やっぱり「知ること」なんじゃないかな。
「明日の子供たち」文庫版が出ていたので読んでみました。この物語は、児童養護施設の女の子が有川浩さんに書いた一通の手紙がきっかけでした。自分たちのことを、児童養護施設を知ってほしいという思いに有川さんが応える形でこの物語はできました。
文庫版の解説では、有川先生が「明日の子供たち」を書くきっかけとなった女の子(今は卒業して2018年現在大学生になっています)が手紙を贈った経緯を書いてくれています。
コップに水が半分入っていて、それを少ないか、多いか、ちょうどいいか、人によって様々ですが、私は児童養護施設にはいれて幸せだったと。
文章からは彼女のまっすぐな思いが伝わってきて、涙がとまりませんでした。彼女は運命を憎むよりも、幸せや喜びを伝えたいと書いていました。そしてそれは、有川先生がこれまで文章で伝えてきた思いと同じなんです。
嫌い、憎いをぶつけるよりも、喜びと幸せを伝える2人が出会ったからこそ、「明日の子供たち」という奇跡の物語が作られたのだと思います。
「続あしながおじさん」は、「あしながおじさん」の主人公ジュディの親友・サリーがジュデイの育ったジョン・グリア孤児院の院長と孤児院の改革に挑みます。当時の孤児院の状況がよくわかる描写です。
・空飛ぶ広報室
・旅猫リポート
・ほっと文庫 「ゆず、香る」
・クジラの彼
・ラブコメ今昔
・阪急電車
・海の底
・空の中
・レインツリーの国
・三匹のおっさんふたたび
・三匹のおっさん
・キケン
・ヒア・カムズ・ザ・サン
・シアター!
・シアター2!
・フリーター、家を買う。
・植物図鑑
・県庁おもてなし課
レビューポータル「MONO-PORTAL」
「明日の子供たち」あらすじ
児童養護施設「あしたの家」。新人職員の三田村は、着任早々、先輩の和泉から「かわいそうな」子供たちの乱雑な靴を直したことでとがめられる。親切心なのに、注意され納得がいかない。
しかし、部外者だった三田村の考えと、施設の現状は大きく違っていた。友達のこと、進路、親との関係。やがて三田村は子供たちを通じて彼らの成長と、本当の思いを知ることになる。悩みながら、ぶつかり合いながら、子供たち、そして職員たちも成長していく。
「かわいそう」なんかじゃない
新人職員の三田村は最初、施設で暮らす子供たちのことを「親と暮らせない、かわいそうな子」として認識しています。それに対し、施設の子であるカナは憤ります。
「かわいそうな子どもに優しくしたいって自己満足」だと…。
カナは育児放棄の母親に学校に行かせてもらえず、幼いころから家事をやらされ、施設に入ってようやく幸せを手に入れます。
でも三田村も含め、読んでいる私にも偏見を持っていた「家族と暮らせない子どもは、かわいそう」だと思い込んでおり、そんな偏見をカナのことばはぶち破ってくれました。
明日の子供たちの現状
「明日の子供たち」では、施設の子供たちが直面する問題についても描かれます。これらのこと、「明日の子供たち」を読むまで、全く知りませんでした。
・高校受験に失敗すると、中卒のまま、施設を退所しなければならない
・高校を卒業すると、自立を余儀なくされる
この現状には驚かされました。施設の子どもたちは不幸ではないけれど、普通の家の子に比べてハンデを背負っているのは確かなんですね。
ジーン・ウェブスターの「あしながおじさん」でも、高校を卒業したら何の社会訓練も行われぬままに世間に放り出されるのだと、ジュディが語っていましたが、子供たちが、100年前と同じ保証しか受けられないのが現状なんですね…
ランドセルより、現金
タイガーマスクで有名になったランドセル寄付は、ほんというとお金のほうがありがたい
「あしたの家」の施設長が語っていますが、ランドセルの購入代金は、予算としていただけるのです。だからランドセルそのものを贈られると、すでに購入してしまった後では、引き取り手を探さなければならないのだそう。
(そこで職員の仕事が増えたり、配送料もでてくるでしょうね)
下手な同情や思い込みで寄付の品々を贈る前に、きちんと、相手のニーズにあったものを贈るべきだと実感しました。
明日の子供たちの進路
物語の中で、子供たちの高校卒業後の進路について書かれていて、その中でヒサの選択は「防衛大」でした。防衛大は無料で学べて、しかも手当がつくため、ほぼ天涯孤独のヒサは、当然の選択肢として防衛大を選びます。
最近、子どもの貧困、集団的自衛権などが問題とされています。読みようによってヒサの進学は、そうした問題を明示しているようにもおもえます。
「経済的に恵まれない子どもが自衛隊に行き、海外で殺される」のだと、一部の人たちは気炎を上げて反対するかもしれません。
私も、貧困→自衛隊→自衛権で海外で殺される→問題と、いった図式を考えたことがあります。
でもね、読んでいて、施設の子供たち、ヒサやカナ、杏里たち、ひとりひとりの子供たちを知ると、どうも違うんじゃないかなあ、と。確かにヒサには経済的ハンデがあって、防衛大を選んだけれど、それは彼の中で一番いい選択だったからだと思うんです。
確かに子どもの貧困、集団的自衛権は問題だけど、それこそ部外者が「かわいそう」で片付けてはいけないんじゃないかと。
じゃあ、私たちに何ができるか、と考えたら、やっぱり「知ること」なんじゃないかな。
「明日の子供たち」文庫
「明日の子供たち」文庫版が出ていたので読んでみました。この物語は、児童養護施設の女の子が有川浩さんに書いた一通の手紙がきっかけでした。自分たちのことを、児童養護施設を知ってほしいという思いに有川さんが応える形でこの物語はできました。
文庫版の解説では、有川先生が「明日の子供たち」を書くきっかけとなった女の子(今は卒業して2018年現在大学生になっています)が手紙を贈った経緯を書いてくれています。
コップに水が半分入っていて、それを少ないか、多いか、ちょうどいいか、人によって様々ですが、私は児童養護施設にはいれて幸せだったと。
文章からは彼女のまっすぐな思いが伝わってきて、涙がとまりませんでした。彼女は運命を憎むよりも、幸せや喜びを伝えたいと書いていました。そしてそれは、有川先生がこれまで文章で伝えてきた思いと同じなんです。
嫌い、憎いをぶつけるよりも、喜びと幸せを伝える2人が出会ったからこそ、「明日の子供たち」という奇跡の物語が作られたのだと思います。
「続あしながおじさん」は、「あしながおじさん」の主人公ジュディの親友・サリーがジュデイの育ったジョン・グリア孤児院の院長と孤児院の改革に挑みます。当時の孤児院の状況がよくわかる描写です。
有川作品感想
・空飛ぶ広報室
・旅猫リポート
・ほっと文庫 「ゆず、香る」
・クジラの彼
・ラブコメ今昔
・阪急電車
・海の底
・空の中
・レインツリーの国
・三匹のおっさんふたたび
・三匹のおっさん
・キケン
・ヒア・カムズ・ザ・サン
・シアター!
・シアター2!
・フリーター、家を買う。
・植物図鑑
・県庁おもてなし課
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