八咫烏シリーズ5『玉依姫』 阿部 智里

2016.08.04 Thursday

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    阿部智里さんの和風ファンタジー小説、八咫烏シリーズ『玉依姫』読了。こう言っちゃなんだが、阿部智里さんは読者の期待を裏切る作家だ。もちろん、いい意味でですけど。

    これまでは、人型をとる不思議な八咫烏の一族と、彼らの住む「山内」という世界で起こる物語でしたが、今回の舞台は人間の世界。いきなり神域へ連れてこられた人間の少女と、八咫烏が使える山神との物語が展開していきます。

    いや〜なんとも思い切ったものだ。

    山内の世界観なんて、引っ張ろうと思えば、いくらでも設定を継ぎ足して長い物語にできるだろうに、(下手な作家なら、この方式で必要以上に引っ張るのだが)たった5冊目で世界の謎が明らかにされ、物語はいったん完結してしまいます。



    『玉依姫』あらすじ


    高校生の志帆は、これまで音信不通だった伯父から誘われ、母の故郷である「山内」村へ向かう。祖母の実の息子である伯父に対する厳しい態度に訝しみながらも、祖母に内緒で山内村を尋ねると、そこでは山神に生け贄を捧げる儀式が今もとり行われ、志帆はその生け贄にされてしまう。

    山神のいる神域で、代替わりした、まだ幼い山神を育てる役目を担わされることになった志帆の前に「奈月彦」と
    いう山神の使いと、大猿が現れ…。

    いい意味で裏切られた展開


    一作目『烏に単は似合わない 』では、独自の世界観を見せつつ、宮中で起こるミステリを描き、二作目からは、奈月彦に使える雪哉という少年の視点で、八咫烏の世界の謎が徐々に明らかになっていきました。

    前作『空棺の烏』で大敵・猿との大戦が間近にせまる、というところで終わったので、てっきり最新作では猿との戦いが描かれるのかとおもいきや、まさかのラスボス、山神が登場し、彼をめぐる謎が物語の主軸になっていきました。

    これまでの作品では、山神は八咫烏の世界の創造主であり、敬うべき存在と思われていたのが、かんしゃくをおこす幼子のような山神に、八咫烏も、志帆も手を焼いていきます。

    山神が神たるためには、体を赤ん坊から生まれ変わらせる必要があり、志帆は彼を育てる母親役として人身御供にされたのでした。

    これまで書いてきた世界とは、真逆の視点から描く、というのは、実は勇気がいることなんじゃないかと。人気もあるシリーズなのに、成功パターンをあっさり捨てて、新しい物を書いていく。阿部智里さんの作家魂のすさまじさを感じるとともに、これからどんなものを書いていくのか、という期待にワクワクします。

    それにしても、山神の癇癪で殺された八咫烏は誰なんだろう…?茂丸?千早?それとも、雪哉…?思い切ったことをする阿部さんのことなので、雪哉をあっさり死なしてしまうことは十分考えられるので怖い。
    それは次の『弥栄の烏』で明かされることになるのですが…
    『弥栄の烏』



    『玉依姫』で残る謎


    山内創生の秘密が開示されたと思うと、登場人物たちの衝撃の死が次々と襲ってくる怒涛の展開だった『玉依姫』ですが、何度か読み直すと、いくつか謎が残っていました。

    ・山内村に伝わる儀式の手引書の行方
    山神の真名が書かれているかもしれない、村の儀式の手引書は、最初、志保の祖母久乃と、大天狗の潤天が盗み出す算段でしたが、途中で久乃が亡くなってしまったため、手引書の行方については書かれていません。

    もし、この時点で潤天が手引書を手に入れていたとしたら、第二部の展開にも関わってくるかもしれませんね。


    八咫烏シリーズ外伝『烏百花 蛍の章』。これまでの短編に加えて書き下ろしも。



    八咫烏シリーズ


    『烏に単衣は似合わない』
    『烏は主を選ばない』
    『黄金の烏』
    『空棺の烏』
    『玉依姫』
    『弥栄の烏』
    第二部『楽園の烏』
    第二部『追憶の烏』
    外伝『すみのさくら』
    外伝『しのぶひと』
    外伝『ふゆきにおもう』
    外伝『まつばちりて』
    外伝『あきのあやぎぬ』
    外伝『ふゆのことら』
    外伝『なつのゆうばえ』
    外伝『はるのとこやみ』
    外伝『ちはやのだんまり』
    外伝『おにびさく』
    外伝集『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
    外伝集『烏百花 白百合の章 八咫烏外伝』
    コミカライズ『烏に単は似合わない』
    コミカライズ『烏は主を選ばない1』
    『羽の生えた想像力 阿部智里BOOK(電子書籍)』
    『八咫烏シリーズファンブック』(電子書籍)
    レビューポータル「MONO-PORTAL」
    コメント
    こんばんは^^
    今回の新刊はよく出されたなぁ〜とまずビックリしました。
    賛否両論あるだろうなーと思いましたが実際レビューを見ると分かれているみたいですね。
    それでも今回の作品は、この世界を知る上で必要なものだったんだなとも思います。
    来年刊行される作品で第一部が終了ということで、寂しいような早く読みたいような、気持ちは複雑です。
    楽しみですね^^
    • by 苗坊
    • 2016/10/01 10:12 PM
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