普通って、なんだろう?『彼らが本気で編むときは』 荻上 直子 百瀬 しのぶ

2017.02.26 Sunday

0
    かもめ食堂」「めがね」で知られる荻上直子監督が、トランスジェンダーや育児放棄をテーマにした映画『彼らが本気で編むときは』のノベライズ。

    これを読むと「普通」ってなんだろうって、改めて考えされられます。

    『彼らが本気で編む時は』あらすじ


    小学五年生のトモは母親とふたり暮らし。しかし、母親のヒロミはトモに構わず、恋人ができるとトモのことを置いてでていってしまう。今回も母親に置いて行かれたトモは、叔父のマキオのもとへ。しかし、そこにはマキオと暮らす恋人、リンコがいたが、リンコは元は男性だった女性。

    トモは最初は驚いたものの、料理上手なリンコに料理を作ってもらったり、髪の毛を編んでもらったり、時に喧嘩もしながら3人は徐々に仲良くなっていった。

    しかし、やがて、3人の生活も、ヒロミが帰ってきたことで終わりをむかえてしまう…

    彼らが本気で編むときは、
    荻上 直子 百瀬 しのぶ パルコ 売り上げランキング: 2,386



    「普通」ってそんなに偉いのか


    私もリンコほどではないけれど、「夫婦と子どもは1人以上」という、世間が求める「普通」にはなれなかったし、小さい頃にいじめもうけていたから、リンコやトモの気持ちが沁みるんです。

    物語の中で、自分勝手で育児放棄のヒロミがリンコに向かって母親であるこ優越感から「あんたは、母親にはなれないの。母でも女でもないくせに。」と言い放ちます。これはもう、武器ですね、確実にリンコを傷つける鋭利な武器。

    なんで、人は自分を棚に上げて、自分より「普通じゃない」と感じる相手にはこうも残酷になれるのか。だって、ヒロミより、リンコのほうがよっぽど母親に向いているのに、ただ母親ってだけでこんなひどいこと言えるのだろう。

    そんな、周囲の無理解の中で救いだったのが、リンコの母・フミコのおおらかな優しさです。フミコは、自分の息子が「おっぱいが欲しい」と告白したとき、そんなリンコをちゃんと受け止めて娘として接していきます。

    フミコが編み物で編んだ偽のおっぱいがあったから、リンコは辛くてもちゃんと生きられたし、編み物に気持ちをぶつける方法を見いだせたのでしょうね。


    編み物の力


    リンコは
    『すっげー悔しかったこととか、死ぬほど悲しかったりすることを、全部チャラにする。』
    といって、辛いことがあると編み物をします。

    実は編み物って、目の前の手をひたすら動かすことで、嫌なことを忘れられる、癒やしの効果があるんです。東日本大震災後、被災地で仕事を失った女性たちがはじめた編み物や縫い物は、辛い現実をいっとき忘れさせてくれ、
    その売上が彼女たちの収入をいまも支えています。

    ハートフルなさき編み 東北の地から届いた
    文化出版局編 デザイン・製作 野田治美+Tsubomi 文化出版局 売り上げランキング: 751,980



    私の「普通」じゃない体験


    果たして、普通とはなんなのでしょう。世間が求める普通(マジョリティ)って「夫婦と子ども1人以上が望ましい」だと思います。そこから外れると、「普通じゃない」んです。普通の人からみたら。

    ある時、知人(既婚者・子どもあり)の女性から、別の知人のことを聞かれました。「ねえ、あの人彼氏がいるのに、どうしていつまでも結婚しないの?」と。私は別に、結婚しようとしまいと、それは本人が決めたことだから、他人がどうこう言うべきじゃないと思うのですが、聞いてきた女性は、相手が「普通じゃないから心配」しているのだと。

    どうして、自分と同じ(結婚して子どもがいる)じゃないと、「普通じゃないから、幸せじゃない」と思ってしまうのでしょう。他にも結婚をしてない人が周りにいますが、みんな、楽しそうですし、それは他人がどうこういう問題じゃないと思うのですが。

    もちろん、理解のある人が大部分ですが、どうも、一部のマジョリティの人たちは、「普通じゃないひとはかわいそうだから、普通にしてあげなくちゃ。」という「善意」が働くことがあるようです。自分がいいと思ったことが(多数派だし)人にもいいに違いないと押し付けるのは、わたしもつい、やってしまいそうになる危険な「善意」です。

    だから、自分のおすすめを話す前は一旦冷静になって伝えるようにしています。自分にとっていいものが、他人にとってもいいかどうかは、当たり前だけど相手が決めることですから…。
    レビューポータル「MONO-PORTAL」
    コメント
    コメントする
    トラックバック
    この記事のトラックバックURL