2017.04.05 Wednesday

思いを汲んで、文字を組む『活版印刷 三日月堂』ほしお さなえ

昔の町並みが残る街・川越の小さな活版印刷所、三日月堂。「活版印刷三日月堂」は、若き店主・弓子さんと、お客さんたちのお話です。

弓子さんが活版印刷を通じて、お客さんたちの心の機微をすくい取って、かたちにしていく。物語ひとつひとつは本当に小さな、でもとてもあたたかくて、深い。

世界は森


川越の運送会社に務めるハルさんは、一人息子、森太郎が遠くの大学に行くことに寂しさを感じていた。

そんな時、活版印刷三日月堂の孫娘・弓子さんが川越に戻ってきた。店主である祖父がなくなってから店を閉めていたが、事情があってこちらに住むという。

三日月堂で印刷された名前入りのレターセットは、娘時代のハルさんの宝物だ。ハルさんは息子へな卒業祝いにレターセットを贈ることにして、弓子さんに依頼する。

これが、活版印刷三日月の最初の物語です。自分の名前入りのレターセットが、活版印刷で刻まれるなんて、すてきですね。私も欲しくなりました。


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八月のコースター


喫茶店・桐一葉の若き店主は、伯父から引き継いだ店を、どう変えてべきか悩む。知り合いのハルさんから三日月堂を紹介されてショップカードをつくることにして、店主の弓子さんと一緒に、新しい店の姿を探しはじめた。
弓子さんは、彼の話と店の雰囲気から、透ける桐の葉を印刷したデザインを提案する。

そこから、店名の由来となった高浜虚子の句、桐一葉をモチーフに、コースターに俳句を印刷することに。

弓子さんと話し合うことで、彼は自分悩みや、本当にもとめていたものを認識することができます。それにしても、俳句の世界って奥深いのですね。物語にでてくる俳句は高浜虚子の作品だそうです。




星たちの栞


高校教師の真帆は、喫茶店・桐一葉のコースターで活版印刷三日月堂の事を知り、顧問をしている文芸部の生徒たちと見学にいくことにした。文化祭でのワークショップで活版印刷を使うことをも決まり、「銀河鉄道の夜」をモチーフにした展示内容も決まった。

あとは、文芸誌の発行だけだが、侑加の作品が遅れている。侑加は他にはないセンスがあるものの、ムラが多く、家庭でも問題があるらしい。作品は間に合ったものの、侑加は学校に来なくなり…。

女子高生が活版印刷に触れるシーンが印象的でした。三日月堂にあった本をみて、すべてに活字が組まれて印刷される。そこには質感があって、物語を書いた人がいるということを体感する、と。
デジタル印刷は、美しく均整が取れていて、活版印刷の理想形であるはずなのに、質感がなくなったことで、物語の背景が感じづらいのかもしれません。

銀河鉄道の夜
銀河鉄道の夜
posted with amazlet at 17.04.04
(2016-04-19)



ひとつだけの活字


図書館司書の雪乃は、祖母が残した活字を結婚式の招待状に使えないかと三日月堂を訪ねてきた。その活字は、祖母の父親が営んでいた活字店(活版印刷所に活字を売る店)のものらしい。雪乃の祖母(故人)は毎年その活字で孫の名前をにお年玉袋にスタンプしていた。しかし、のこっている活字はひらがなだけ。

婚約者の友明は強引に後輩のデザイナーの金子くんにデザインを頼んでしまっているらしく、活字の招待状づくりは頓挫するかと思われたが…

作中、金子くんも興味を示してましたが、活版印刷のレトロで不便なところが、デジタル世代の若い人たちに受けているそうです。けれど、不器用さをほめられるのは、職人たちとっては複雑な気持ちのだとか。

昔の職人たちが目指したのは、今のデジタル印刷のような美しく均等な印刷。それを、凹んだり曲がったりがいい、と言われたら、そりゃ、嫌な気持ちになりますよね。

昔は活字を彫り、それを組んで紙をすり、直しがでればばらしてまた組む…。そうやって人の手が入っていたのですね。デジタルの印刷技術は印刷の最高のかたちかもしれないけれど、人の手が入っていないことで、かえって作者や物語から遠くなってしまったのかもしれません。

かといって、古いものがすべて良いわけではなくて、弓子さんはそんな現代の活版印刷の活かし方を探しているように思えます。

雪乃さんの祖母の活字の思い出と、弓子さんの祖父との活版印刷の思い出。似た境遇の2人が語りあうことで、弓子さんの秘められた悲しい過去が、自分の感情に向き合うことができるようになるのです。弓子さんもまた、お客さんによって過去にけじめをつけ、進むべき道を見出していきます。

これからの三日月堂、どんな物語が刻まれていくのでしょうか。

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『活版印刷三日月堂』の舞台を訪ねて→
レビューポータル「MONO-PORTAL」

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