活版印刷がつなぐ物語『活版印刷三日月堂 海からの手紙 』
2017.04.18 Tuesday
前作『活版印刷三日月堂 』を読んで、すぐに読みたくなって続編を手に入れました。
『([ほ]4-2)活版印刷三日月堂: 海からの手紙 (ポプラ文庫)』は、川越で活版印刷所を営む若き店主・弓子さんと、お客さんとの物語。
弓子さんはお客さんとのやりとりから、お客さんが本当に求めている文字のかたちを探し出してくれます。4つの物語がでてきますが、登場人物は前の物語の登場人物と少しずつつながっています。そのつながりが、三日月堂が広がっていくようで、読んでいる方もうれしい。
朗読講座を受ける小穂たち4人は、先生に薦められ、あまんきみこさんの童話「車のいろは空のいろ 白いぼうし」朗読会を開くことに。パンフレットも同時につくることになり、小穂は同僚の結婚式で配られた活版印刷を思い出し、三日月堂を訪ねる。
弓子さんのアドバイスで、パンフレットのイメージも決まり、朗読の練習に励む4人だったが、小穂だけは自分の朗読に自信が持てず…。
朗読と活版印刷、どちらも言葉を伝えるものだけど、それ自体が目立ちすぎてもいけなくて、透明できれいで、相手に伝わらなければいけない。朗読も、読んでいる声に個性が出すぎると、物語がおろそかになるのでしょうね。
小学生の広太は、先生の朗読会でパンフレットを作った三日月堂に興味を持ち、時々店を覗き込んでいた。ある日、父親から生まれてすぐ、死んでしまった姉・あわゆきがいたこと、その骨が今もうちにあること、今度の法事であわゆきをお墓にいれる決心をしたことを知らされる。
わずか3日で死んでしまった姉のこと、死ぬということ、父や母の思いを考えはじめた広太は、三日月堂で知った「ファースト名刺(赤ちゃんに贈る、名前だけの名刺)」をあわゆきと、両親のために作ろうとする。
広太くんくらいの年頃って、死というものを初めて意識する時期だと思うんです。怖がったり、相談したり、たいていは忘れようとしてやり過ごすのだけど、広太くんはまず、あわゆきのことを考えるんですね。ただ怖がったりせずに、家族のためになにができるか考えるのって、すてきな子だなあと思います。
そして、ファースト名刺、すてきですね。赤ちゃんは最初に名前だけがあり、そこから成長して自分を表す言葉を加えられていくんですね。
川越に住む昌代は、親戚の子供・広太からもらった「あわゆき」の名刺に惹かれ、三日月堂へ。学生時代、銅版画と製本を学んでいた昌代は、貝をモチーフにした銅版画を好んで作っていた。恋人と別れたことで銅版画から離れていたけれど、弓子さんと話すうちに銅版画への情熱を思い出し、また、彫り始めるようになる。やがて弓子さんの活版印刷と、銅版画で、貝殻の豆本をつくることになり…
この、豆本制作の過程がワクワクするんです。新しい情熱に突き動かされてニードル(銅版画の彫刻刀みたいなもの)を動かす。描くことによって、昌代さんは過去の傷を癒やしていきます。本当に、ものを作るって楽しくてワクワクします。私も、なにかしんどいことがあると、手芸やてづくりをすると、心が楽になります。
川越の町で偶然、貝の豆本を手にした片山隆一は、活版印刷三日月堂が今も営業していることを知る。片山の父はライターで、三日月堂の先代で弓子さんの祖父とも交流があった。
片山は、奔放でわがままな父が嫌いだった。父のようにならないため懸命に生ききてきたが、心臓病でリタイアすることになり、家族ともぎくしゃくしはじめる。そんな中、父の仲間から映画同人誌の最後の原稿のことを聞かされ…
今回のテーマは父と息子ですね。永遠のライバルで確執を抱えてしまうとやっかいな存在。主人公も父親の最後の原稿を巡って、父と自分、自分と息子との関係を見つめ直していきます。
それにしても、同人誌の版がまだ残っていたなんて、弓子さんのおじいさん、よほど片山さんの父親とその雑誌に思い入れがあったのでしょうね。
活版印刷が人と思いをつないでいく三日月堂。三日月堂に来たお客さんは、弓子さんとの出会いによって、自分の進むべき方向を見出していきますが、弓子さん自身にも、なにかいいことが起こってほしいな、と読者としては思うのです。
・『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』
・『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』
・『活版印刷三日月堂 星たちの栞』
・『活版印刷三日月堂 海からの手紙』
・『活版印刷三日月堂 星たちの栞』
・『活版印刷三日月堂』の舞台を訪ねて
『([ほ]4-2)活版印刷三日月堂: 海からの手紙 (ポプラ文庫)』は、川越で活版印刷所を営む若き店主・弓子さんと、お客さんとの物語。
弓子さんはお客さんとのやりとりから、お客さんが本当に求めている文字のかたちを探し出してくれます。4つの物語がでてきますが、登場人物は前の物語の登場人物と少しずつつながっています。そのつながりが、三日月堂が広がっていくようで、読んでいる方もうれしい。
([ほ]4-2)活版印刷三日月堂: 海からの手紙 (ポプラ文庫) 中古価格 |
ちょうちょうの朗読会
朗読講座を受ける小穂たち4人は、先生に薦められ、あまんきみこさんの童話「車のいろは空のいろ 白いぼうし」朗読会を開くことに。パンフレットも同時につくることになり、小穂は同僚の結婚式で配られた活版印刷を思い出し、三日月堂を訪ねる。
弓子さんのアドバイスで、パンフレットのイメージも決まり、朗読の練習に励む4人だったが、小穂だけは自分の朗読に自信が持てず…。
朗読と活版印刷、どちらも言葉を伝えるものだけど、それ自体が目立ちすぎてもいけなくて、透明できれいで、相手に伝わらなければいけない。朗読も、読んでいる声に個性が出すぎると、物語がおろそかになるのでしょうね。
車のいろは空のいろ 白いぼうし (新装版 車のいろは空のいろ) 中古価格 |
あわゆきのあと
小学生の広太は、先生の朗読会でパンフレットを作った三日月堂に興味を持ち、時々店を覗き込んでいた。ある日、父親から生まれてすぐ、死んでしまった姉・あわゆきがいたこと、その骨が今もうちにあること、今度の法事であわゆきをお墓にいれる決心をしたことを知らされる。
わずか3日で死んでしまった姉のこと、死ぬということ、父や母の思いを考えはじめた広太は、三日月堂で知った「ファースト名刺(赤ちゃんに贈る、名前だけの名刺)」をあわゆきと、両親のために作ろうとする。
広太くんくらいの年頃って、死というものを初めて意識する時期だと思うんです。怖がったり、相談したり、たいていは忘れようとしてやり過ごすのだけど、広太くんはまず、あわゆきのことを考えるんですね。ただ怖がったりせずに、家族のためになにができるか考えるのって、すてきな子だなあと思います。
そして、ファースト名刺、すてきですね。赤ちゃんは最初に名前だけがあり、そこから成長して自分を表す言葉を加えられていくんですね。
海からの手紙
川越に住む昌代は、親戚の子供・広太からもらった「あわゆき」の名刺に惹かれ、三日月堂へ。学生時代、銅版画と製本を学んでいた昌代は、貝をモチーフにした銅版画を好んで作っていた。恋人と別れたことで銅版画から離れていたけれど、弓子さんと話すうちに銅版画への情熱を思い出し、また、彫り始めるようになる。やがて弓子さんの活版印刷と、銅版画で、貝殻の豆本をつくることになり…
この、豆本制作の過程がワクワクするんです。新しい情熱に突き動かされてニードル(銅版画の彫刻刀みたいなもの)を動かす。描くことによって、昌代さんは過去の傷を癒やしていきます。本当に、ものを作るって楽しくてワクワクします。私も、なにかしんどいことがあると、手芸やてづくりをすると、心が楽になります。
俺達の西部劇
川越の町で偶然、貝の豆本を手にした片山隆一は、活版印刷三日月堂が今も営業していることを知る。片山の父はライターで、三日月堂の先代で弓子さんの祖父とも交流があった。
片山は、奔放でわがままな父が嫌いだった。父のようにならないため懸命に生ききてきたが、心臓病でリタイアすることになり、家族ともぎくしゃくしはじめる。そんな中、父の仲間から映画同人誌の最後の原稿のことを聞かされ…
今回のテーマは父と息子ですね。永遠のライバルで確執を抱えてしまうとやっかいな存在。主人公も父親の最後の原稿を巡って、父と自分、自分と息子との関係を見つめ直していきます。
それにしても、同人誌の版がまだ残っていたなんて、弓子さんのおじいさん、よほど片山さんの父親とその雑誌に思い入れがあったのでしょうね。
活版印刷が人と思いをつないでいく三日月堂。三日月堂に来たお客さんは、弓子さんとの出会いによって、自分の進むべき方向を見出していきますが、弓子さん自身にも、なにかいいことが起こってほしいな、と読者としては思うのです。
活版印刷三日月堂シリーズ
・『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』
・『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』
・『活版印刷三日月堂 星たちの栞』
・『活版印刷三日月堂 海からの手紙』
・『活版印刷三日月堂 星たちの栞』
・『活版印刷三日月堂』の舞台を訪ねて
JUGEMテーマ:オススメの本
どの作品も好きですが私は特に「あわゆきのあと」が印象的でした。
広太君はちゃんと「死」というものに向き合って、いい子でしたよね。きっとお姉ちゃんも、両親もとても喜んでくれていると思います。
連作短編集で少しずつ登場人物が繋がっているのも良かったです。
余談ですが、「我らの西部劇」の主人公のお父さんの雰囲気は読んでいて「アンマーとぼくら」のお父さんを思い出しました^^;