八咫烏シリーズ6『弥栄の烏』阿部 智里(ネタバレあり)

2017.08.02 Wednesday

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    八咫烏シリーズ第一部完結編『弥栄の烏 八咫烏シリーズ6』読了。

    いやー、すごい。すごい物語でした。前作の『玉依姫』で八咫烏と山神の世界にいちおうの完結がなされたものの、八咫烏の世界の謎はもっと深く、恐ろしいものだったのです。
    弥栄の烏』は、前作『玉依姫』と対をなす物語で、山神と玉依姫のできごとを八咫烏側からの視点で描かれます。

    玉依姫

    正直、前作で世界の謎が明らかにされたたので、そんなに書くことがあるのだろうか?と思っていたら、同じ時間軸の同じ事件なのに八咫烏側からみると、こんな展開があったのかと。阿部智里先生の見せ方の巧みさに、今回もまた驚かされました。





    『弥栄の烏』あらすじ


    人型をとる八咫烏が暮らす世界「山内」。そこへ八咫烏を喰らう猿が襲ってきた。参謀となった雪哉を中心に猿との戦いの準備をすすめる八咫烏だが、あるとき山神の怒りによって山内が大災害に襲われる。山神の怒りを鎮めるため、若宮・奈月彦は神域へと向かう。

    そこには人を喰らい、化け物と化した山神がいた。奈月彦は山神の怒りを鎮めるため、人身御供とされた人間の少女の世話を仰せつかる。その一方で山神を元に戻すために山神の正体を探ろうとするうち、自分自身、「金烏」とは何なのかを自問するようになる。

    一方、猿に調略された山神に仲間を殺された雪哉は、感情を抑え猿討伐に挑み…

    ネタバレ:玉依姫の対をなす物語


    『弥栄の烏』は、現世を舞台にした『玉依姫』と対をなす物語なので、起こる事件もそのまま、八咫烏側から見た視点で描かれます。山神と志穂との間の事件の合間に、なぜ真赭の薄が山神のもとへ行ったのかなど、細かい事象が語られます。また、「玉依姫」の物語が終わった後の、猿との最後の決戦が描かれていきます。

    そして今回、山神の怒りをかって殺された人物が誰なのかが判明します。

    茂さん、澄尾…(´;ω;`)
    予想があたってしまった…。雪哉の親友、茂丸が山神の癇癪で命を落とし、澄尾も重体。茂さんは、時に辛辣にみえる雪哉の気持ちを、よく掬い取ってくれていたから、茂丸がいなくなった後の雪哉は、手段を択ばない冷徹な参謀と化してしまい、おばちゃん今後が心配だよ…。

    第二部『楽園の烏』では悪い予想があたり、雪哉があんなことになるなんて…



    ネタバレ:金烏の正体


    八咫烏が敬うべき山神は、猿の甘言により人の肉を喰らって化け物と化してしまう。それでも山内への影響を考え、奈月彦は烏天狗とともに山神の正体(真の名)を探っていきます。その過程で真の金烏の意味を探ることにもつながっていき…。

    この、真の金烏の正体というのが、ミステリでいうところの犯人捜しにあたり、核心にいたるまで幾重にも謎が重なりあっていたのです。

    物語の終盤、奈月彦は金烏と山内の本当の意味を猿から告げられることになります。実は八咫烏と猿は、今の山神が来る前まで共同で山をおさめていた女神でした。八咫烏の女神が、山神の眷属とつがい、生まれたのが「宗家」だからこそ、真の金烏は「八咫烏の母であり父」だったのです。

    ネタバレ:猿の憎しみ


    しかし、神から神の使いになった八咫烏に恨みを抱き、己の血族をも巻き込んだ猿神の復讐劇は『黄金の烏』で猿を引き込んだ犯人の独白に似ているなと思いました。

    土地神としての誇りを奪われ、盟友に裏切られた恨みをずっとひきずって、念入りに山神と玉依姫の仲を裂き、八咫烏を襲い、奈月彦を追い詰めます。

    謎は解かれたものの、猿の呪いにより山内はいづれ滅びの道をすすむことが運命づけられてしまいます。

    ネタバレ:女性の活躍


    『烏に単衣は似合わない』以外、八咫烏がシリーズは男性中心の物語でしたが、今回はいろいろなところで彼女たちの物語も大きく展開していきます。『玉依姫』で志穂の世話役として登場した真赭の薄と奈月彦の妻、浜木綿。浜木綿は奈月彦のこどもを身ごもったものの、ほどなく流産してしまい、真赭の薄に側室になるように勧めます。

    真赭の薄は、いがみあっていた澄尾が自分を思っていたのを知り、彼を助けるために山神のもとで玉依姫の世話役をかってでます。今回はお嬢様だった真赭の薄の成長が目立ちました。

    浜木綿も、最終的には真赭の薄の気持ちを優先させたり、滅びの道をたどる山内を背負う奈月彦に「ただの烏になったっていいじゃないか」と勇気づけます。

    浜木綿と真赭の薄の友情がとてもいい。大好きだわ、このふたり。

    八咫烏シリーズ外伝『しのぶひと』は真赭の薄、『すみのさくら』は浜木綿のお話です。




    そして気になるのが、奈月彦と浜木綿の子が女の子だったこと。姫宮だということは、土地神時代の八咫烏が女神だったことと関係するのでは…?

    旧単行本の表紙の絵は土地神時代の八咫烏ではないでしょうか。平安風の衣装は山神時代のものですから。裏面には赤ん坊をだく奈月彦らしい人物が描かれ、その足元には青い朝顔が。

    青い朝顔は浜木綿が奈月彦に話した「ただの八咫烏になったって生きていける」とい話とリンクする花です。
    さて、これから山内の世界はどうなるのか…?第二部が楽しみです。

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    八咫烏シリーズ


    『烏に単衣は似合わない』
    『烏は主を選ばない』
    『黄金の烏』
    『空棺の烏』
    『玉依姫』
    『弥栄の烏』
    外伝『すみのさくら』
    外伝『しのぶひと』
    外伝『ふゆきにおもう』
    外伝『まつばちりて』
    外伝『あきのあやぎぬ』
    外伝『ふゆのことら』
    外伝『なつのゆうばえ』
    外伝『はるのとこやみ』
    外伝『ちはやのだんまり』
    外伝集『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
    コミカライズ『烏に単は似合わない』
    第二部『楽園の烏』
    レビューポータル「MONO-PORTAL」
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