2017.12.14 Thursday

『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』ほしおさなえ

思えば近頃、私たちの周りにはデジタルなもので溢れている。フィルムカメラはデジカメに、活版印刷はオフセットからデジタルに。アナログの機器は制限が多く、人はより便利に、きれいにするため技術を発達させてきたけれど、気がついたら私たちの周りからは質感が消えていました。

さわり心地や重さ、匂いなど視覚以外の感覚。それらをもつのが「物体」なのかもしれない。
逆に若い人たちの間では、物体として残せるフィルムカメラや活版印刷が流行っているのだといいます。

『活版印刷三日月堂』は、そんな手に取ることができる「もの」を活字にたくして伝えているのかもしれません。

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『チケットと昆布巻き』 大切な場所の話。


観光雑誌「めぐりん」の記者・竹野は、友人の結婚式で再会した同級生たちと自分を比べ、仕事や収入将来について引け目を感じた。そんな時、取材時に紹介された三日月堂を取材することになり、竹野は弓子さんに「どうして活版印刷をはじめたのか」と質問をする。

弓子さんが活版印刷をはじめた理由が語られます。家族が早くに亡くなってしまった弓子さんにとって三日月堂とは、弓子さんが家族とつながっていられる大切な場所だったんですね。
三日月堂はお客さんとのつながりが深いし、三日月堂に集まる人が多くて気がつかなかったけれど、そういえばこの人は天涯孤独だったのだと思い出しました。

この話を読んで、自分の大切な場所について考えてみました。私にとっての三日月堂は、実家の工場です。自営業だったので、家の裏に工場があり、入ると大きな機械の動く音や油の匂いがしていました。もう取り壊してしまったけれど、今でもときおり思い出します。

この章に登場するレトロな雰囲気の市民シアター「シアター川越」は「川越スカラ座」がモデル。実際にイベントで使用したり、映画とのタイアップ企画などにも力をいれています。

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『カナコの歌』家族の思い出


「めぐりん」に掲載された三日月堂と弓子さんの記事をみつけた、弓子さんの母・カナコさんの同級生・聡子。カナコさんの生きていた思い出を伝えるため、彼女は三日月堂を訪れます。
闘病のこと、死の恐怖から逃れるように書いていた短歌のこと。

弓子さんはお母さんを早くに亡くしたため、思い出らしい思い出を持たなかったけれど、こうしてお母さんを知る人から伝えられることで、思い出を追加してゆくことができてよかったですね。聡子さんたちにとってもカナコさんのことを思い出せるいいきっかけになったようです。
人は、思い出を作り出すことができるんですね。自分のためにも、誰かのためにも。


『庭のアルバム』道を見つける


母親がもっていたカナコさんの歌カード(弓子さんが印刷した)に興味をもった高校生の楓。学校生活に馴染めない彼女は三日月堂での活版印刷ワークショップをきっかけに、弓子さんからイベント用のカードのデザインを任されることに。

楓がちょっと苦手な父方のおばあちゃんの家の庭で、カード用のスケッチをしていると、苦手だったおばあちゃんの意外な一面を垣間見ることができて…。おばあちゃんと孫の交流、「西の魔女が死んだ」を思い出しました。

学生の時ってなにがきっかけか、自分でもわからない方向に行ってしまうことがありますよね。楓さんも弓子さんと活版印刷に出会うことで自分の進むべき道を見つけられたみたいです。

『川の合流する場所で』新しい流れ


弓子さんが活版印刷のイベント出会った岩手の印刷会社の会長とその親戚の青年・悠生。話を聞くと三日月堂にある大型印刷機械もあるという。弓子さんは機械をみるため岩手へ。それは機械の視察のほかにもうひとつ目的があって…

今回ご縁ができた盛岡の本町印刷。そこでいよいよ大型機械を動かすことができました。そこには青年の祖父である前会長の込めた思いが活字に組まれていて、それをかたちにすることができたことで、悠生にも弓子さんにも新たな流れがきているのかもしれません。

願わくば、人をつなぐ手を持つ優しく孤独な女性に、幸せが訪れますように。


『活版印刷三日月堂』とコラボした作られた『大人の科学マガジン 小さな活版印刷機 (学研ムック 大人の科学マガジンシリーズ)』。

物語に登場した「テキン」での活版印刷が自分でもつくれます。ひらがなとカタカナだけですが、これからの季節、年賀状に活版印刷でひとこと添えるのにもいいですね。

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活版印刷三日月堂シリーズ


『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』
『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』
『活版印刷三日月堂 星たちの栞』
『活版印刷三日月堂 海からの手紙』
『活版印刷三日月堂 星たちの栞』
『活版印刷三日月堂』の舞台を訪ねて

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