2018.05.30 Wednesday

戦前の少女雑誌の美しさ『彼方の友へ』伊吹有喜

戦前、中原淳一や少女たちに絶大な人気を誇った雑誌『少女の友』をモチーフとした伊吹有喜さんの『彼方の友へ』

昭和十二年、憧れの雑誌『乙女の友』で働くことになった少女・波津子の成長と、憧れの編集部の人々や当時の雑誌づくりの様子が戦争へと向かう当時の情勢とともに描かれていきます。

彼方の友へ
彼方の友へ
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『彼方の友へ』あらすじ


卒寿を超え、老人福祉施設で暮らす佐倉ハツ(波津子)。ある日彼女に美しいカードの贈り物が届く。それはかつての少女雑誌『乙女の友』の付録『フローラ・ゲーム』だった。

昭和十二年。行方不明の父に変わり家計を支えるため、波津子は音楽家の女中をしていた。密かな楽しみは印刷所につとめる幼なじみが内緒で持ってきてくれる『乙女の友』だけだった。
ある時遠縁のおじから『乙女の友』編集部での仕事を紹介される。しかし、男子社員を望む有賀主筆からも編集部からも疎まれ、波津子は途方に暮れるが、憧れの挿絵画家・長谷川純純司だけは彼女をかばってくれた。

波津子は編集部で働くため、おさげ髪を切り落とし、自転車を駆り、有賀たちの役に立つため奮闘する。

昭和十五年、雑誌の人気挿絵画家であり、波津子の理解者でもある長谷川純司が「(戦争の)時流にそぐわない」と雑誌を降板することになる。

昭和十八年、戦争が激化するにつれ、仲間や友人、美しい詩や絵が波津子の周りから消えてゆき、さらに憧れの有賀も出征することになり…

『少女の友』


モデルとなった『少女の友』は、吉屋信子、川端康成など、当時一流の作家が寄稿し、少女雑誌の枠を超えた文化レベルの高い雑誌でした。作家の田辺聖子さんも愛読していたそうです。

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シンデレラも楽じゃない


波津子の人生は、貧しい女の子が苦難を乗り越えて幸運を掴む、シンデレラストーリーではあるのですが、実は憧れの人と働ける幸運を手にしてからのほうが大変でした。

女の子だと舐められて原稿を渡してもらえないし、有賀を慕う女流作家からは疎まれるし、学歴がないため恥ずかしい字の間違いしたりと波津子の編集部での仕事は前途多難、悪戦苦闘の連続です。

遊びで書いた物語が採用されて雑誌連載を依頼されてもプレッシャーで原稿を落としたり、周りからは批判されてしまいます。現代とは違い、働くことになれていない昭和初期の女の子ですから、かなりの重圧だったでしょう。

けれども、波津子はがんばります。それは支えてくれた有賀主筆のため。有賀が戦争に行ってからは雑誌の灯火をけさないよう、必死で雑誌を守り続けます。

最後はちょっと報われたかな。それにしても戦争は美しいものを根こそぎに奪い取っていきますね。
戦争によって文化奪われていく恐怖、不安感が読んでいてひしひしと伝わってきます。

美しい昭和の雑誌付録


戦前の『少女の友』付録を復刻した『少女の友』中原淳一 昭和の付録 お宝セットは、『彼方の友へ』に登場する「フローラ・ゲーム」のモデルとなった「フラワーゲーム」のほか、花言葉のしおり付きカード、すごろくなど。

当時の少女たちは、たとえ美しいものが禁止されても、隠したり、疎開させたりして雑誌を守り通していたそうです。

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欲を言うなら、「男装の麗人」はいらなかった


伊吹有喜さんは大好きな作家なのですが、モデルとなる人物が実在する場合、モデルの個性に登場人物が引っ張られているように感じ、そこがちょっと引っかかってました。(『カンパニー』のE○ILEとか、熊○哲也とか)

でも、今回は中原淳一や川端康成という実在の人物をモデルとしていても、違和感なく物語に入ることができました。

あえて言うなら「男装の麗人・翡翠」はいらなかったかも。あの当時男装の麗人といえば女スパイ川島芳子しか思い浮かびませんし、彼女は個性が強すぎるので扱いが難しい。登場も中途半端な気がします。スパイ云々の描写がなくても、「乙女の友」の編集部の物語だけで十分だったのではと思うのですが。

男装の麗人・川島芳子


川島芳子は清朝の王族で日本人の養女となり、清朝復活のため日本のスパイとなった有名な人物。その人生は何度もドラマ、映画、舞台で演じられています。

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有賀主筆のその後についても気にかかるところですし、ぜひ別の視点でスパイ仕立ての「彼方の友へ」続編を書いてこのモヤモヤをすっきりさせていただければと思います。

JUGEMテーマ:オススメの本



伊吹有喜作品 感想


『彼方の友へ』
『今はちょっと、ついてないだけ』
『BAR追分』
BAR追分シリーズ2『オムライス日和』
BAR追分シリーズ3『情熱のナポリタン』
『ミッドナイト・バス』
『なでし子物語』
『風待ちのひと』

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