2018.08.12 Sunday

夢を組む人。『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』ほしお さなえ

川越を舞台にした活版印刷三日月堂シリーズもいよいよ完結。これまで三日月堂に関わった人々も登場し、主人公の弓子さん本人の物語が組まれていきます。

私は前回の感想で「弓子さんが幸せになりますように」と書いたのですが、今回その答えがでます。それは嬉しいような、もう三日月堂の人々と会えないのが少し切ないような、そんな気持ちです。

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『星をつなぐ線』


本町印刷の長田はプラネタリウム星空館のリニューアルに際し、創業時の星空早見盤を復刻したいと相談される。印刷に詳しい後輩の悠生のとともに三日月堂を訪れる。

その星座早見表は表の原版しか残っていない状態だったが、弓子さんが偶然が昔の星座盤をもっていたため、なんとか復刻にこぎつけることに。

『星をつなぐ線』て、すてきなタイトルです。星座を表した言葉ですが、三日月堂も活版印刷で人と人とをつなげていきますね。そして弓子さんもまた、星が好きだったお父さんとの思い出のプラネタリウムの仕事をすることになりました。星も人も、線がむすばれ、つながっていくのは読んでいるこちらも嬉しくなります。

星座早見盤とは月日のや経度の目盛りにあわせて回転させ、その日、その方角の空に浮かぶ星座をみることができるグッズ。天体観測にも利用されます。

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そして前作でも登場した悠生くんが再登場。長田さんとの会話でどうやら悠生くんは弓子さんのことが好きらしい。うまくいくといいなあ。(●´ω`●) あ、でもデザイナーの金子さんはどうなるの?彼はちがうの?

『街の木の地図』


大学生の豊島つぐみはゼミで「川越の街をテーマにした雑誌」の製作・販売を行うのだが、自己中の男子、草壁くんと、引っ込み思案の女子・安西さんと同じグループになり先行きに不安を感じつつも川越に取材にいくことに。

アルバイト先である星空館の星座早見盤がきっかけで、3人は三日月堂に見学に行き、三日月堂での体験をきっかけに「活版印刷でつくる街の木の地図」をテーマに雑誌をつくることになるのだが…。

一緒に作業をしていくうち、草壁くんも、安西さんにも最初の印象とは違う一面がみえてきて、つぐみたちはなにかひとつ、自分の中に確かなものをみつけたようです。

また、この章では以前『庭のアルバム』で登場した高校生の楓さんも登場します。
彼女もまた進むべき道がわからず、あがいていた頃からだいぶ成長していました。若者たちが成長していく姿は読んでいて楽しいなあ。

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そしてここで驚き情報。三日月堂と懇意のデザイナーの金子さんには別に恋人がいるとのこと。お相手も以前登場した(『海からの手紙』)司書の小穂さんなんですって。このふたりのなれそめも、外伝とかで書いてほしい…。

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『雲の日記帳』


大学生たちがお世話になった古本屋『浮雲』の店主・水上さんのお話。彼は古本屋を営みながらひっそりと暮らしていた。彼はかつて将来を嘱望された作家候補だったが、自分の言葉が人を傷つけてしまった経験から筆を折ってしまった。ただ、店の冊子に書いている『雲日記』は評判が高く、三日月堂の弓子さんもスクラップしているほどだった。

あるとき、大学時代の友人・岩倉が訪ねてきたことで、水上の言葉を本にしたいと提案され、水上は自分の過去と向き合うことになる。

壮絶な過去を経験し、静かに人生を終わろうとしていた水上さん。彼もまた、三日月堂と出会ったことで過去を振り返り、自分の人生を見つめ直そうと考えます。水上さんは、亡くなった弓子さんの父親に状況が似ていて、2人が話すことですこし、お互いの悲しみや苦しみが昇華できたのでは、と私は思います。

この水上さんの「雲日記」を書籍化することが物語の最後の流れにつながります。

おまけ:古書店主の文章


古書店主は昔から文章が巧みな人が多く、この「昔日の客」は、かつて東京・大森で古書店『山王書房』を営んでいた関口良雄氏の随筆集。古書にまつわる日常や作家たちとの交流が洒脱な文章が多くの本好きに愛されています。

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『三日月堂の夢』


これまでたくさんの人の思いを活字に組んで、手渡してきた三日月堂の弓子さん。そのおかげで多くの人が救われたり、自分の道をみつけることができたのですが、最終話は弓子さん自身の物語です。

『雲の日記帳』で登場した水上さんの文章を活版印刷で本にすることになった。実は水上さんは余命わずか。彼が生きている間に本を作らなければならない。

けれどそのためには今の仕事をこなしつつ、印刷機を動かせる悠生さん、アルバイトの楓さんにも無理をさせることにもなり、弓子さんは三日月堂の今後と、じぶんの人生の岐路に立つことに。

現代の活版印刷は


「活版印刷で本をつくる」作業は現代のDTPとは比べ物にならない大変な作業。文字一つ直すにも活字を入れ替えなければならず、文字がページを挟むとその修正作業は膨大に。

だけど、古いやりかたのまま作業をするのではなく、校正、校閲までをデジタルで行い、文章の最終版を活版印刷で組めば作業時間の短縮につながるとアルバイトの楓さんが提案したことで作業は少しラクなりました。とはいえ、大変な作業にはかわりはないのですが。

古い技術と現代のシステムが合わさって「現代の新しい活版印刷」ができるのってすてきなことですね。古いばかりにしがみつくのではなく、便利なものは使っていく。これこそ温故知新の最たるものだと思うのです。

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そうしてできあがった三日月堂のはじめての本。余命の少ない水上さんは、本のお礼にと店をを若者たちに託し、弓子さんにちょっとした魔法をかけて去っていきました。

すべてが終わった後、弓子さんは悠生くんに思いをつたえようと…。

このあとはぜひ、読んでみてください。こころがほっこりあたたかくなります。

活版印刷三日月堂シリーズ


『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』
『活版印刷三日月堂 星たちの栞』
『活版印刷三日月堂 海からの手紙』
『活版印刷三日月堂 星たちの栞』
『活版印刷三日月堂』の舞台を訪ねて

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