2018.12.07 Friday

守り人シリーズ 外伝『風と行く者』

転生したら人生が逆転し、現実では得られない力で異世界で活躍するファンタジーが流行っていますね。現実の鬱屈を異世界で晴らす、こうした「異世界もの」は私も好きで、読んでいて痛快な気分を味わえます。

しかし、「精霊の守り人」はそんな「ご都合主義」のファンタジーとは一線を画する重厚な物語です。ファンタジーの要素はありますが「不思議なものが現実より少し身近にある」くらいで、あとは土地の風俗や歴史、宗教など人々の暮らしの描写が大半を締めています。

超常的な力は存在しますが、それを使って世界を変えることはできません。変えるのはいつだって人間なんです。弱い存在の人間が運命に抗い、必死に生きる姿。それこそが上橋作品の読みどころではないでしょうか。

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『風と行く者』あらすじ


『天と地の守り人』での戦から1年余り。バルサはつれあいのタンダと隣国ロタに近い草市へ。そこで昔、共にした旅芸人サダン・タラムたちと再会する。奇妙な縁に惹かれるようにバルサは再びサダン・タラムの護衛となり、彼らが鎮魂の儀式を行うロタ北部の聖地エウロカ・ターンへ旅をすることになる。

かつて養父ジグロと護衛したサダン・タラムは、旅芸人でありながら、鎮魂儀礼を行う集団でもあった。彼らが供養するのはロタとターサ、2つの氏族が昔争った戦場。旅を続けるうちサダン・タラムの美しい頭領サリと、ジグロとの間には親密な関係があった。バルサはサリの娘、エオナがジグロの子ではないかと考えるのだが…

過去と現在が交錯し、死者は生者の思い出の中で蘇る


物語は20年前と現在が交錯しながら進んでいきます。かつて命を狙われたサダン・タラムの頭サリを助けた縁でジグロと少女だったバルサはそのままサダン・タラムの護衛士となります。

まだ若いバルサは短編『十五の我には』のときから少し落ち着きましたが、まだまだ未熟で、そんなバルサをジグロは厳しく、ときにやさしく指導していきます。追っ手に追われ、命がけの仕事の中ですがジグロの恋(と呼べるかは微妙だけれど)やバルサの成長が読んでいてうれしい。

過去として語られるけれど、この瞬間、確かにジグロは生きています。今は亡き懐かしい人も、生者の思い出の中で行き続けているのです。

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「送り」の物語


上橋先生は「子供向けに物語を書いているわけではない」と語っておられます。確かに『風と行く者』は子供にはまだ理解しがたい描写も数多く、大人が読んでこそ作者の思いが伝わるのではと、思います。

でも、子どもたちも読んでほしい。そうして、おとなになってから読み返してほしい。きっと後から「そういうことだったのか」と理解できると思うから。

精霊の守り人の主人公・バルサは理不尽な王の陰謀により、養父のジグロと故郷を追われた過去があります。『闇の守り人』では過去の因縁や複雑なから思いからの解放で、ほんとうの意味で亡き人を懐かしみ、偲ぶのができたのが『風と行く者』だと思うのです。

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この物語を書く前に、上橋先生は最愛のお母様と、長年『精霊の守り人』シリーズの挿絵を努めた二木真希子さんを亡くされています。
ジブリ作品に携わったアニメーター二木真希子さんが死去

特に、お母様は上橋先生のエッセイにも登場しますが、好奇心旺盛な方で、さまざまなインスピレーションを上橋先生に与えてくださった存在でした。

愛する人を送り、自らの生き方を考える。そんな人生の半ばに差し掛かった中年の私が読むと、またぐっとくるものがあります。バルサのこのセリフこそが、愛しいものを送った経験をもつ上橋先生の言いたかったことなんじゃないかな、と思うのです。

思いは血に宿っているわけじゃなくて、生きてきた日々のあれこれに宿っているものなんでしょう


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おまけ


ジグロの恋人であったサリの娘エオナは母親譲りの美しさを受け継いでますが、もし、エオナがジグロの娘でジグロ似だったら、おそらくこんな感じになるんじゃないかと想像しちゃって…すみませんほんとすみません…

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上橋作品感想


「物語ること、生きること」→
「精霊の守り人」→
「闇の守り人」→
「夢の守り人」→
「天と地の守り人」→
外伝「流れ行く者」→
外伝「炎路を行く者」→

精霊の守り人レシピ集「バルサの食卓」→
「<守り人>のすべて 守り人シリーズ完全ガイド」→

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