2019.05.06 Monday

『鹿の王』続編『水底の橋』上橋菜穂子

鹿の王』の続編、『水底の橋』を読了。今回の『水底の橋』は、前作『鹿の王』以上に医療と人の命のありかたについて掘り下げられています。

『鹿の王』では、オタワル医術と清心教医術、次期皇帝選びなど、政権争い部分が未解決のままでしたので、続編で読めるのを楽しみにしていました。
『鹿の王』感想→



『水底の橋』あらすじ


帝国・東呼留の領土となった元アカファ王国。古き王国オタワル貴族の血をひく医術師のホッサルと恋人兼助手のミラルは、交流のある清心教医術師・真那から、故郷の安房那領に誘われる。

真那の姪は難しい病を抱えており、清心教医術よりも技術的に優れたオタワル医術で診察を受け、ホッサルとミラル、従者のマコウカンは安房那へと旅立つ。

一方、オタワルの情報機関「奥仕え」たちは、東呼留帝国の次期皇帝選びがオタワル医術の進退を左右するため、安房那へも探査の糸を巡らせてゆく。

安房那への旅でホッサルは、オタワル医術のライバルともいうべき清心教医術の源流を探ることになり、そのため次期東呼留皇帝選出にともなう政権争いに巻き込まれていく。



体を救う医術、心を救う宗教


清心教医術というのはチベット仏教の医術に似ているなあと思いました。チベットの医術も症状によって治療と薬が決まっていて、もう助からないという人には正直に死期を告げて、生きている間に功徳を積むよう諭します。

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助かる方法があるのなら、最後まであきらめないのがホッサルのオタワル医術で、緩和ケア的な治療と看護で安らかに逝かせるのが清心教医術なんですね。

ホッサルはこれまで技術の向上だけに力を注いで来ましたが、清心教の心を救おうとする治療について一目置くようになったのではないかな。

つらい治療を続けて少しの寿命を得るよりは、安らかに痛みのない余命を生きたいという人もいるはずですから。

医術と宗教というのは、どちらか一方でもだめで、両方がバランスよく並び立てればいいのですが、現実世界でも、この世界でも権力や政治がからむため、なかなかうまくいきませんね。

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『水底の橋』とは


このタイトル『水底の橋』とは、果たしてどんな意味がこめられているのでしょう。文中、ミラルの父で橋梁工事の職人・ラハルが「水底に沈んでも形を変えず、連綿とつながっている橋」として紹介しています。

それは、宗教と合体し、時代とともに変化するも、その魂は始祖から受け継がれている清心教医術を指しているようですが、私はホッサルとミラルの関係にも当てはまるのではないかな、と思うのです。

身分も立場も違う(おまけに初恋を引きずっている)ホッサルとミラルの不安定な関係、ですが、心の奥底でぎっちりとつながり離れることはないのだと。

まあ、今回思い切りがよかったのはミラルですね。彼女の行動が突破口を開いてくれます。男はいつも、一歩遅れるなあ、どの世界でも。

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