2019.07.06 Saturday

民俗学とミステリはよく似合う『 凶笑面ー蓮丈那智フィールドファイル』北村鴻

偶然にもツイッターのフォロワーさんのご縁で知った『蓮丈那智フィールドファイル 凶笑面』読了。歴史好き、民俗学好き、ミステリ好きの私にはたまらい小説でした。おまけに探偵役は美貌で才知に長けた民俗学者!これはシリーズをすべて読まずにはいられません。

もともと栗本薫のミステリ『鬼面の研究』を読んだときから、民俗学とミステリは親和性がある、と感じていました。民俗学は地方独特の文化や風俗を研究する学問なので、僻地での「嵐の山荘」を作り出したり、動機や凶器の演出に効果的なのかもしれません。

横溝正史のミステリも人里離れた旧家の風習が関係していますしね。



民俗学が楽しめるミステリ


大学で民俗学の講義をとっていたのですが、先生が個性的で独善的な物言いの人で若い頃はそれを苦手に思い、最後まで履修しませんでした。あの時マジメにやっておけばと後悔したのですが、まさか大人になりミステリ小説で本格的な民俗学に出会うことができるなんて…!

民俗学には興味があるけど折口信夫や柳田國男などの本も読んでみたいのですが、専門書は素人には敷居が高いので、小説の中で民俗学の知識が多少なりとも学べるのはありがたいです。

鬼の話




タイトルの秀逸さ


本タイトルとなった「凶笑面」をはじめ「双死神」「不帰屋」など意味深で、なにかがおこりそうな気配を感じるタイトルがつけられています。

話を読み進めることで、それが事件のモチーフである土地の風習とうまくリンクしており、そこではじめてタイトルに込められた意味がわかり、ゾッとするのです。

歴史とフィクションの絶妙な融合


「マレビト」「蘇民将来」「女の家」など、民俗学の用語や伝承をモチーフに、そこに独特の解釈を加えたオリジナルの、でも「ありえそう」と思わせてくれるリアルさをかねそなえた蓮丈那智シリーズです。

特に「明治時代の県令(知事)が立場を利用して古墳を盗掘したかもしれない」という実際の噂を「税所コレクション」という謎の、しかも恐ろしい物語の重要な因子して仕立ててしまう。それが歴史と現実のすき間をうまく編み込んでいて、絶妙というほかありません。

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蓮丈那智という「探偵」


人里離れた古い家が舞台なのに、横溝正史作品のようなおどろおどろとした情念があまりないのが新鮮でした。それは、美貌で冷徹な蓮丈那智という人物が、俯瞰的な視点で状況を判断し、冷静に推理し結果を導き出す姿が、探偵というより学者のアプローチで事件に向かうからなのかもしれません。

ワトソン役の助手、内藤三国からみた蓮丈那智の描写も魅力的です。その美貌のために下卑た態度をとる連中には「周りの空気を硬化させ、冷却するほどの能力」を遺憾なく発揮して心を打ちのめす。

剛気にして異端の学者。でもその魅力にはまったら(三国のように)は抗えない。そして、読者となった私も、彼女の魅力に取り憑かれてしまったひとりです。これからシリーズを読むのが楽しみです。


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