2019.07.15 Monday

美術版プロジェクトX『美しき愚かものたちのタブロー』原田マハ

「取り返そうじゃないか、あのコレクションをーこの国に。」このセリフを読んだ時、涙が溢れました。絵画(タブロー)を買い集め、日本に西洋美術館をつくろうとした男と、その志を継いだ男たちの思いに、胸が熱くなりました。

『美しき愚かものたちのタブロー』あらすじ


かつて実業家・松方幸次郎が日本での西洋美術館建設ためにと、私財をなげうち集めた3000点にも渡る西洋美術。「松方コレクション」と呼ばれたこれらの美術品は焼失や散逸という憂き目に会い、その後、わずかに残った数百点の作品も「敗戦国の財産として」フランス政府が没収され、日本側に通達される。

それを聞いた当時の首相・吉田茂はコレクションの返還交渉のため外交官、官僚、美術関係者をフランスへ送る。その中にはかつて松方コレクションのブレーンをつとめた美術史家、田代雄一がいた。

田代はかつて、松方幸次郎と印象派の巨匠・クロード・モネのアトリエをたずね、そこで描かれた「睡蓮・柳の反映」を目にしていた。しかし、フランス側は「睡蓮」をはじめ、ゴッホの「アルルの寝室」、ルノアールの「アルジェリア風のパリの女たち」コレクションの中枢をなす名画の返還を頑なに認めなかった。



タブローに魅せられた愚か者たち


敗戦国という負け組が、巨大権力を持つな戦勝国相手に困難な交渉をおこなう、と聞くと、池井戸潤風のの逆転劇を想像しますが、さすがは原田マハさんというべきか、重きを置くのは「ビジネス」ではなく「タブロー」なんです。

あるいは松方のタブローへの情熱と言い換えてもいい。
松方は「わしは絵のことはわからん」と生涯言いながらも、「絵でなく人を見て買う」と言われたように、自分の信頼する人物の意見と、自らの直感で名作を探り当てていきます。

特に、印象派の巨匠、クロード・モネの絵に感銘を受けたシーンの言葉が彼の人柄があられてています。
私は絵のなんたるかを知りません。何もわからない。お恥ずかしい話です。けれど、私は…なんというか、先生の作品が好きです。

この言葉は、気に入った絵は売らないことで有名だったモネの心を動かしました。

松方のタブローへの情熱は、周囲の人々にも受け継がれていき、彼の役に立ちたいとタブローの返還に尽力する美術史家の田代、戦争中、フランスにとどまり絵を疎開させた松方の部下の日置。特に後半、日置がコレクションを守るために敵国フランスで苦闘する様子が切々と描かれています。

絵を描いた者、その絵を後世のために購入した者、そしてそれを守り抜いた者、そんな愚か者たちがバトンのようにタブローを伝えてくれたから、今の私達は絵を「普通に」見ることができるのです。

2019年に開催された国立西洋美術館の松方コレクション展


返還されなかったゴッホの「アルルの寝室」のほか、他の美術館にあるタブローのほか、コレクションに関する資料や修復された「睡蓮」が展示されています。
国立西洋美術館の松方コレクション展

おまけ:やがて日本の美術館はフランス人がときめく存在に


松方が開拓した美術館創設の道は後の世で花開き、現在日本には数千もの美術館、博物館がつくられており、今では本場フランス人が「ときめく」ほどのクオリティを誇っています。

フランス人がときめいた日本の美術館

 



原田マハ作品感想
「リーチ先生」
「たゆたえども沈まず」

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