『菓子屋横丁月光荘 文鳥の宿』ほしおさなえ

2020.06.26 Friday

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    川越を舞台にした菓子屋横丁月光荘シリーズ『文鳥の宿』。ほしおさなえさんの本を読むと、ほっとします。

    特に今年、2020年はコロナ禍のため行きたいところに行けず、会いたい人に会えないつらい時期。

    そんなときに「菓子屋横丁月光荘」をよむと緊張がほぐれて、なんだか自分も守人のように、やさしい人達に囲まれている気がして、こころが温かくなるんです。



    主人公の守人は、両親を早くに亡くし、厳格な祖父と折り合いが悪く孤独を抱えていた青年ですが、月光荘の管理人を任され、川越の人たちと関わることで少しずつ絆が芽生えていく姿が、読んでいて応援したくなります。

    また、守人は「家の声を聞くことができる」不思議な能力も孤独と同様に抱えていたわけですが、月光荘と言葉を交わすうちに、不思議なことだけれど、それを受け入れ、生きていくことでまた新しい縁が生まれた気がします。

    雛の家


    前作浮草の灯で関わることになった「二軒家」の整理を手伝うことになった守人は、大事にしまわれた雛人形をみつける。

    二軒家の整理が終わるまで月光荘で雛人形を飾ることになったが、なぜか三人官女の一体だけが見当たらない。家主の和田さんに確認しても、雛人形の存在自体知らないという。
    しかしある日、「二軒家」の三人官女を返しに来たという女性が月光荘に訪ねてきて…

    子どもの死亡率が高かった昔、ひな祭りは女の子の成長を願うものでした。和田さんのお母様の、亡くなった娘への思いと、その思いを託された女性。二人の女性をまもってきた雛人形。読んでいて涙があふれました。


    オカイコサマ


    大学時代の友人・田辺の誘いで川越の隣、川島町を訪れた守人。近代和風建築の遠山記念館を訪れた時、家から「モリアキ」と声をかけられる。最初は人違いだと思っていたが、田辺の祖父母の家を訪ねた時、また声がした。

    紹介された田辺の祖母は不思議なひとで、彼女もまた家の声を聞くことができる人だった。そして、「モリアキ」と守人とのつながりも…

    蚕のいる家


    関東近郊の農家の2階は、かつて蚕を飼育していました。私の親戚も養蚕をやっていたので、蚕が桑の葉を食べる雨のような音の描写を懐かしく読みました。

    田辺くんのおばあさまのやさしく、どこか浮世離れした雰囲気がかわいらしい。おばあさまとの出会いによって、秘密を抱えていた守人の心が軽くなって、なおかつ先祖とのつながりもわかったのは、読んでいるこちらもうれしくなりましたね。

    出会いはみんな縁になり、僕たちはつながりの中で生きている。


    文鳥の宿


    守人は大学院を終えた後の進路を考えるようになる。そんなとき、懇意にしている古書店「浮草」のスタッフから、元料亭だった旅館のリーフレットづくりの手伝いを頼まれることに。

    守人が浮草のスタッフとべんてんちゃん、宿のオーナー美里さんと話し合い、いろいろな企画やアイデアを実現していくようすが、ワクワクします。こちらも参加している気分になれる。

    将来のことについて、まだ悩みはつきない守人ですが、せっかくできた川越での縁を活かす仕事についてほしいなと思います。

    実際に川越では古民家を利用した宿やゲストハウスが増えていて、宿泊だけではなく、地域やお客さんとの絆を大事にしています。また、川越の夜の風景は昼間と違ってしずかできれいなので興味のある方は行ってみてはいかがでっしょう。

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    菓子屋横丁月光荘シリーズ


    『菓子屋横丁月光荘 歌う家』
    『菓子屋横丁月光荘 浮草の灯』
    『菓子屋横丁月光荘 丸窓』

    レビューポータル「MONO-PORTAL」
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