江戸川乱歩著、宮崎駿解説『幽霊塔』

2020.07.13 Monday

0
    以前、黒岩涙香版の『幽霊塔』を読み、明治の独特な筆記体に苦しみつつも、物語の面白さに引き込まれたことを感想に書きました。

    こちらの『幽霊塔』は、涙香版をベースに江戸川乱歩がリライトをした、現代版(といっても昭和初期)の『幽霊塔』です。



    『幽霊塔』のざっくりとしたあらすじ


    北川光雄は叔父児玉丈太郎が買い取った『幽霊塔』と呼ばれる古い屋敷を視察に行った際、そこで不思議な美女と出会う。彼女は時計塔の秘密を解き明かすよう、光雄に言い残し去っていく。

    『幽霊塔』は幕末、渡海屋という商人がつくり、秘密の隠し場所へ財宝を隠したものの、そのまま行方不明となった伝説が残っていた。その後も、塔を所有した長田鉄という老婆が養女に殺され、その幽霊が出るといういわくつきのたてものであった。

    はたして、北川光雄のまわりでも奇怪な事件が起こり、その謎の中心にあの美女三浦栄子がいたのだった…。

    江戸川乱歩版『幽霊塔』のおもしろさ


    黒岩涙香版は、登場人物が日本名なのに舞台はイギリスだとか、時代がかった言い回しなど、現代の私たちが読むと混乱する文章が多々ありました。

    いっぽう、乱歩版は現代語で書かれているし、時代も下っているので現代の言い回しに近く(盆栽室→温室など)、混乱することなく読みすすめることができました。ありがとう乱歩先生…

    涙香版は新聞小説だったので、一話ごとに派手な展開が「盛って」あるのですが、乱歩版は盛られすぎた部分を削ったことで、読みやすく、恐ろしさや謎に集中することができました。

    涙香版が弁士が語る活動写真だとすれば、乱歩版はヒッチコックのサスペンス映画のような雰囲気です。

    涙香版『幽霊塔』の感想

    幽霊塔

    新品価格
    ¥0から
    (2020/7/13 18:56時点)




    まんがあり、絵コンテあり、超豪華な宮崎駿の解説


    岩波書店から出版された『幽霊塔』は、宮崎駿の口絵と解説がついています。ただ解説といっても、全ページカラーの幽霊塔の歴史と解説、原作『灰色の女』と涙香の『幽霊塔』、乱歩版への流れ、時計塔のデザインと断面図まで、とにかくもりだくさん。

    しまいには、ヒロインと主人公の出会いのシーンを絵コンテに起こしてあって、映画のビジュアルブックのような豪華さです。

    原作『灰色の女』から涙香版、乱歩版の『幽霊塔』へ、そしてカリオストロへ。通俗文化とよばれるエンターテインメント作品一連の流れが紹介されています。

    灰色の女 (論創海外ミステリ)

    中古価格
    ¥2,150から
    (2020/7/13 18:55時点)




    面白いのは、宮崎監督は幼い頃に乱歩の『幽霊塔』を読んで影響を受け、その江戸川乱歩もまた、幼い頃に黒岩涙香の『幽霊塔』を夢中になって読んでいたそうです。(そこの再現まんがが面白い)

    その黒岩涙香はというと、イギリスの小説を勝手に翻訳と脚色を加えまくり(当時著作権なんてものは無視されていた)大衆に受けそうな小説をジャンジャン量産していたのだとか。

    明治のはじめは西洋文化がどっと押し寄せてきたものの、まだ江戸文化が根強かったので、涙香版の幽霊塔は当時の読者にわかりやすいよう「外国が舞台で、日本人名の登場人物」という、今読むとねじれた構造になっていたのだそうです。

    こうして通俗文化の流れが、人から人へ、小説家からアニメ監督へと伝わっていき大きな流れになっているのは感慨深いものがあります。

    それにしても宮崎監督、よほど時計塔が好きなのか、涙香版、乱歩版の時計塔に加え、自らデザインした時計との間で何パターンもの時計塔を描いています。

    もういっそ、映画化してほしい…。

    コメント
    コメントする