『評伝 柳宗悦』水尾比呂志

2020.08.11 Tuesday

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    原田マハさんの小説『リーチ先生』にも登場した民藝運動の創始者・柳宗悦。数々の美術、宗教、民芸の研究を行い、大正、昭和の工芸家たちを支援したアートプロデューサー。
    奥さまは声楽家、息子たちはそれぞれ、工芸デザイナー、美術史家、園芸家として活躍。

    そんな華麗な経歴を持つ柳宗悦とは、一体どういう人物なのか。いきなり専門書を読む前に、まずは柳宗悦の人となりを知ろうと『評伝 柳宗悦』を読んでみました。

    しかしこの本、『評伝』と言うものの、個人のエピソードよりも専門的な解説に重きをおいているため、かなり難しかったのです…。それでも辛抱強く読み解いてみると、柳宗悦の美に対する姿勢と、その人生を、少しですかわかったような気がします。

    美術的な解説の感想は、私のつたない文章では伝えづらいので、ここでは柳宗悦と彼を取り巻く人々のすごいエピソードを中心に感想を書きました。



    驚きのエピソード


    ・父親は海軍の技術士官でかなりのおぼっちゃま。母方の叔父はあの嘉納治五郎

    ・学習院を首席で卒業
    ※当時の主席卒業者は新聞に名前が載るのですが、その新聞『萬朝報』発行人はあの『幽霊塔』の黒岩涙香。それをのちの奥さま、兼子さんが読んでおり、そこで柳の名前を知ったそう。
    すごい歴史のつながりだわ…

    ・同人誌『白樺』を立ち上げ、武者小路実篤、志賀直哉、有島武郎、里見と交友を結ぶ(この時点で豪華すぎる友人関係…)

    ・『白樺』メンバーでロダンにファンレターとプレゼント(浮世絵)を贈ったら、返事とプレゼント(彫刻)が返ってきた。届いて武者小路実篤らと鑑賞。劇場に行ってる有島たちには、劇場に連絡して「ロ来る」と言う張り紙をしてもらった。

    ・声楽家の奥さまとは当時珍しい恋愛結婚。プラトニックに手紙で思いを伝え合い、周囲を説得して結婚。
    結婚したら家庭に入るのが当たり前の時代、奥さまの才能に惚れ込んでいたため、声楽活動を支援していたそうな。

    ・朝鮮の陶磁器にハマり、日韓併合に反対の文章を書いたら特高警察の監視がついた

    さらっと書いてあるけれど、すごいエピソードばかりです。

    顔が広いどころではない、交友関係


    濱田庄司、河井寛次郎、富本憲吉、バーナード・リーチという陶芸家をはじめ、棟方志功、芹沢圭介、他にも大原美術館の創始者・大原孫三郎とも親しく、日本民藝館設立時に寄付の申し入れもあったとか。

    変わったところでは、心理学者の式場隆三郎(奇っ怪な建築を紹介した『二笑亭奇譚』の作者)も民藝運動のメンバーですし、雑誌の写真撮影には若き日の土門拳も関わっていました。

    柳先生の交遊録、どこを切っても一流の人ばかり…。

    『リーチ先生』にも登場しましたが、柳宗悦の交友関係の中でもバーナード・リーチとのエピソードは、なんというか、ほっこりするのです。ふたりは激論の末大ケンカをすることがあっても、すぐ仲直りしたようです。

    我孫子の柳家の敷地にリーチは窯をつくり陶工に励むのですが、柳先生は「自分の仕事のように」日に何度も様子を見に行ったそうです。このふたりの友情も、長く長くづづくことになります。

    そのあたりは原田マハさんの『リーチ先生』に詳しく書かれています。

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    それにしても、個性豊かな芸術家や作家たちとの幅広い交遊には驚かされました。わがままでマイペースな芸術家たちをよくまとめ上げられたものです。その様子はさながら「芸術アベンジャーズの司令官」のようです。

    もっとも雑誌『工藝』の編集を行っていた青山二郎(装丁家、白洲正子の師匠)は、柳のワンマンな決定に嫌気が指して雑誌から手を引き、その後袂を分かったらしいですが…。

    新しい美をつくるひと


    『評伝 柳宗悦』を読んでみて、難しい記述はわからないのですが、柳宗悦というひとは、どうやら新しい美の価値観を作り出した人ではないか、と思うのです。

    顧みられることのなかった民衆の工藝や絵に、個性ばかりを追い求める美術とは全く違う価値観と美を見出して、それを伝え続けてきた、ということじゃないかと。

    日本民藝館に行くと、名もなき陶工の器や、ヘタウマだけれど、味がある民画に感動したものですが、この本によって、その収集と研究の詳細が垣間見れて、ますます民藝について知りたくなりました。

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