八咫烏シリーズ第二部『楽園の烏』阿部智里(ネタバレ含む)

2020.09.04 Friday

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    いよいよ第二部がスタートした八咫烏シリーズ。『楽園の烏』は第一部『弥栄の烏』から20年後が舞台。
    若宮や浜木綿、そして雪哉は…?表紙に映る女性はいったい…?
    そんな期待とワクワク感は、読んでいくうち衝撃に変わりました。

    『楽園の烏』あらすじ


    安原はじめは、養父の遺産としてある山を相続する。父からは「どうして売っていいかわからない限り、売ってはいけない」と謎めいた遺言を残されたが、彼が相続人となった途端、山を売って欲しいという人物が押し寄せる。

    一体その山にはなにがあるのか。「幽霊」と名乗る美しい娘の案内で、はじめは山に向かい、そこで「楽園」のごとく存在する八咫烏の住まう土地「山内」を知ることになる。

    そこには博陸候と呼ばれる山内の統率者、雪斎が現れ、山内は八咫烏の住む土地だと説明をうける。



    『楽園』とはなにか


    はじめは、若い山内衆である頼斗とともに山内の観光にでかけ、「あんたにとって、ここは楽園か?」と問い続けます。そして誰もがみな「博陸候は慈悲深い。ここは楽園だ。」と答えます。

    博陸候は、かつて谷間とよばれた暗黒街を掃討し住民にも新しい仕事をあたえ慈悲を持って接していると

    安原はじめは、それがひっかかったんですね。全員が肯定する楽園なんて、楽園じゃないと。頼斗の語る博陸候への尊敬と理想も、怪しいの新興宗教のような、自分の理想を相手に押し付ける感じがするんですよね。

    そういえば、過去に某国が海外にいた国民に帰還を促すキャッチフレーズは「地上の楽園」でした。娼婦を女工場へ「公正」させるのも、某大国が革命後に行った事業でした。

    現在の山内には、それらに似た危うさを覚えます。

    そして、すべて読み終えると、「楽園」の意味にゾッとします。

    残酷で魅力的な作家


    阿部智里という作家さんは、『烏に単は似合わない』ではラブストーリーの定番を覆し、『玉依姫』では、せっかく長続きしそうなシリーズの世界観を早々にネタバレさせ、「この作家、何する気なん?(群馬弁)」と思ったものです。

    しかし、第二部ではさらに拍車をかけて、第一部の主要人物である雪哉を、第二部では冷徹で老獪な策士として登場させています。『弥栄の烏』で親友亡き後の雪哉がどうなっていくのか心配でしたが、まさかここまで冷徹になっているとは…

    読んでいて思わず、「雪哉がオーベルシュタインになっている…!」とつぶやきましたよ。こんな変化ってある…?

    さらに、これまでの登場人物たちが、どうやら悲惨な末路をたどったらしいと書かれていて、読み切った後に思わず「ちくしょうめ!(褒め言葉ですよ)」と口に出しましたよ。

    残酷であるのに魅力的で、ページを捲る手がとめられない。ほんとうに恐ろしい作家だ…

    ※「オーベルシュタイン」とは、田中芳樹先生の名作SF歴史絵巻『銀河英雄伝説』に登場する目的のためなら手段を選ばない軍師です。

    ここからネタバレ検証


    ・「幽霊」を紫苑の宮と仮定するなら、奈月彦、浜木綿はすでに死亡していることになる。

    そもそもなぜ、雪哉は紫苑の宮を追い落としたのかおそらくここが最大の謎。
    雪哉は「山内の状況を知った上で反旗を翻す貴族」を駆逐しようとしている。しかし、紫苑の宮が反対勢力(大紫の御前?)側というのは考えにくい。

    あるいは、傀儡の金鳥をたてて、紫苑の宮をわざと逃して反対勢力の掃討後に呼び戻すつもりとか…?

    ・文章中、雪哉は貴族を心底憎んでいる描写があり、雪哉がここまで変わったのは、反対勢力に誰か大切な人を殺された可能性も。

    ・雪哉の政策は「八咫烏が(人形をとる)八咫烏でいるためのもの」であり、弥栄の最後で浜木綿が言っていた「ただの(人形をとらない)八咫烏でいいじゃないか」と相反する。

    それが「幽霊」が語った「絶望的に意見が異なる」ことで、金鳥サイドと雪哉サイドとの対立の理由となり、雪哉が奈月彦たちを手をかけた…?

    ・金鳥の名前
    『弥栄の烏』で猿のオオキミが明かさなかった、八咫烏の神の名前。それがわかれば、力の衰えた山神の眷属ではなく、鳥神として存在することができる。
    しかし、その名前は永遠に失われてしまった。第二部ではそれが明らかになるのか…?

    私は、地方豪族が「金鳥が来る前からいた八咫烏」という描写に、もしかしたら地方に古い神の名前が、なにかのかたちで伝わっているのでは…?と考えているのですが…


    八咫烏シリーズ


    『烏に単衣は似合わない』
    『烏は主を選ばない』
    『黄金の烏』
    『空棺の烏』
    『玉依姫』
    『弥栄の烏』
    外伝『すみのさくら』
    外伝『しのぶひと』
    外伝『ふゆきにおもう』
    外伝『まつばちりて』
    外伝『あきのあやぎぬ』
    外伝『ふゆのことら』
    外伝『なつのゆうばえ』
    外伝『はるのとこやみ』
    外伝『ちはやのだんまり』
    外伝集『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
    コミカライズ『烏に単は似合わない』

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    コメント
    ツイッターから失礼します〜

    雪哉が若宮に手をかけたのはちょっと考えづらいと思うんですよね。
    それだったら長束がもっとバチ切れてると思うので。
    雪哉自身も絶対的な主従関係結んでるし。


    それにしても1冊で何も解決してないって生殺し感がすごいですね。
    全部気になる!全部!!!!!!
    • by かるちぇ
    • 2020/09/04 4:34 PM
    ありがとうございます。そうなんです、長束の立ち位置が気になっていたんですよ。

    あれだけ姪っ子溺愛していたのに、変わらないというのも怪しいですよね。

    とりあえず、疑わしいところをピックアップして推理していこうかなと思います。『烏は主を選ばない』も読み返さないと…
    • by 日月
    • 2020/09/04 11:59 PM
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