2019.10.02 Wednesday

ミュージカル風味のエンタメ時代劇[映画]引っ越し大名!

星野源さん主演の「引っ越し大名!」みてきました。もう単純に面白かった!

1スジ(脚本)、2ヌケ(技術)、3ドウサ(演技)
とは、日本映画の父である牧野省三が言った言葉ですが、「引っ越し大名」はそのすべてが揃ってます。

昔懐かしい時代劇映画の味がするものの、アレンジは現代風でテンポが良くて飽きがこない、面白い映画でした。

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引っ越し大名!あらすじ


越前松平家、書庫番の片桐春之介は「かたつむり」とあだ名される引きこもり侍。しかし突然、藩の引っ越し(国替え)の責任者、引っ越し奉行を任じられてしまう。おまけに今度の国替えは距離は増えるし石高は減少。

先代の引っ越し奉行の娘、於蘭、幼なじみで剣の達人、源右衛門、勘定方の監物などの協力の下、断捨離、スケジュール管理、費用の算出など、書物ヲタクの春之介の知恵で、なんとか引っ越し作業がすすんでいくのだが…


時代劇とミュージカル


劇中、なんと歌がでてきます。犬童監督「のぼうの城」で主演をつとめた野村萬斎さんによるコミカルな「引っ越し唄」や藩士の妾が歌う別れ唄など。時代劇に歌?と思われるかもしれませんが、これが案外合うんです。

昔はこうしたミュージカル調の時代劇がジャンルとしてあって「鴛鴦歌合戦」「狸御殿」などの傑作も作られました。だから一周回って新しくて面白い。主要な登場人物たちは歌えるひとたちですものね。高畑充希さんの伸びやかな歌声は本当に素晴らしかった。

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欲をいえばミッチー殿にも歌わせて欲しかった。なんたって殿は毎年ワンマンショーで歌って踊ってクルクルターンをなさっているので。

殿は現世でもキラキラしています…。

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魅力的な登場人物たち(ここからネタバレ)


とにかく、登場人物たちがみんな魅力的。引きこもりの書物オタクの春之介、その幼なじみでこちらは戦闘ヲタクの源右衛門、しっかりものだけど、ちょっとマイペースなヒロイン於蘭はその言動で春之介はドギマギさせます。

高畑充希さんの於蘭、かわいかったです。ちょっとツンデレで、意表を突く間のとり方が魅力的でした。

そして、殿!なんといっても及川光博さんの殿!実はミッチーさん、なよっとした(男色の)役って案外やってないのでファンとしては逆に新鮮でした。御手杵を振り回す源右衛門に駕籠のなかからキャーキャーいってるところが可愛らしかったww


全員がそろうまでが引っ越しです


物語のクライマックス、公儀隠密との大バトル(高橋一生が御手杵をぶん回すシーンは圧巻)を繰り広げて大団円かと思いきや、その後も少し物語は続きます。その後も引っ越しを繰り返す間に春之介は一児の父に。

あれ?まだ続くの?と思ったら、ほんとうの意味での「引っ越し」は終わってなかったんですね。
百姓として姫路に残した藩士たちを再び迎えるまでが「引っ越し」だったんです。何度も国替えをして、10数年後、ようやく石高が加増されて彼らを迎えることができることに。

最後に殿様が百姓として生きてきた山里の汚れた手を握るところは、本当に泣けた。約束を反故にすることもできた。けれども「かたつむり」と言われた男はあきらめず、少しずつ道を進めて目的の場所にたどり着いたのかもしれない。

2019.09.11 Wednesday

蓮丈那智フィールドファイルIV 『邪馬台』北森鴻

民俗学ミステリ・蓮丈那智フィールドファイル初にして最後の長編『邪馬台』読了。異端の民俗学者・蓮丈那智が邪馬台国の謎に挑むと同時に、謎の文書「阿久仁村遺聞」にまつわる滅びた村の秘密に迫ります。

あとがきには作者・北森鴻氏の急死により途絶えた物語を、氏のパートナーだった作家の浅野里紗子氏があとを引き継ぎ完成させたとありました。

未完の、それも結末が残されていない作品を引き継ぐのは並大抵の覚悟ではなかったでしょう。
しかしこうして物語を世に出してくれた作者と関係者の方々には感謝しかありません。

今回、私が興味深かったのは「阿久仁村遺聞」よりも那智先生による邪馬台国の推理です。確かに、このように考えれば邪馬台国の位置についても説明がついてしまうのです。



邪馬台国とは何か


邪馬台国に関しては古くは江戸時代からその「場所はどこか」について論じられてきましたが、那智先生は「そんなものは考古学者にでもまかせておけ」と言い放ち、独自のアプローチを試みます。

それは「邪馬台国はどこか」ではなく「邪馬台国とは何か」、そんな国家であったかというものです。那智先生の推理によると、古代の国家は当時最強のテクノロジーである「鉄」の製造が密接に関わっているのだとか。

「鉄」は武器として持てば強大な軍事力となり、農具に使えば農業技術が向上することで食べること以外の余力、「酒」を作り出すこともできる。

邪馬台国とは、「鉄」と「酒」がキーワードとなるのではないか。
そこに、助手の三國くんが提唱する「滅びの民俗学」説を加えると…。もちろん、実証されない推理ではあるのですが、歴史外の視点から邪馬台国を捉えるとこんな風にも考えられのか、と改めて那智先生の思考力に驚かされました。

奇しくも有名な『銃・病原菌・鉄』でも、古代、鉄がもたらす生産性の向上と、その余力で国家が形成されると書かれていました。

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2019.08.27 Tuesday

アバンギャルドとロボット時代劇『戦前日本SF映画創世記: ゴジラは何でできているか』

昭和29年『ゴジラ』という前人未到のSF映画が完成するまで、日本映画はどのようにしてSFの表現を模索してきたか。

日本映画の黎明期の稚拙なトリック映画から、キングコングに影響を受けた和製映画、はたまたアマチュアの自主制作まで、さまざまなフィルム・資料を調査し、日本のSF映画のルーツに迫るドキュメントです。

マニアックなテーマではありますが、戦前映画、SF映画が好きな人にはたまらない内容です。



アバンギャルド映画「狂った一頁」


日本SF映画の黎明期は、SFの物語が一般的ではなく、撮影テクニックにその後のSF映画に通じる系譜をみています。
最初に挙げられるのは大正時代に作られた「狂った一頁」という実験映画。

精神病院を舞台にした幻想世界を、最新の撮影技法を使って作られたものですが、これが怖い。直接脅かす感じではないけれど、モノクロ、能面、狂人たちなど、見ているだけでゾッとします。

興味がある方はYou Tubeにもありますので見てみてください。夜見ると眠れなくなりますが…

この映画には多重露光やオーバーラップなど、当時革新的な技術が使われています。若き日の円谷英二(当時は英一)も参加していました。


なんでもありのSF時代劇


昭和に入るとようやくSFの概念が定着しつつあり、アメリカの「キングコング」が上映されると日本でも「和製キングコング」など亜流の作品が作られますが、着ぐるみをつかったチープな映画が量産されました。

当時、映画は花形産業だったため多くの映画プロダクションが乱立。中小の映画会社は予算もなく、チープさを逆手に取ってなかなかおもしろい映画を撮っていました。時代劇にロボットを登場させたり、侍と河童を戦わせたりと、チープなのですが、スチール写真を見るとなかなかおもしろく、ちょっと見てみたいと思うのですが、こうした戦前のB級映画は殆どが現存せず残念。

紛失やパクリは日常茶飯事。戦前の映画事情


しかし、こうした戦前映画の調査は大変に難しいのだとか。なぜなら『紛失やパクリは日常茶飯事』だったからです。

同じ著者の『映画探偵: 失われた戦前日本映画を捜して』を読むと、戦前は映画のフィルムを上映側が勝手に編集したり、パクったり、捨てちゃったりが普通に行われていたのだとか。もちろん、戦争による紛失も多いのですが、そうした事情で正確なストーリーもわからないSF映画が多いのは残念です。

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そんな中、お金持ちの趣味で撮影したアマチュア映画の方が商業映画より保存がよく、クオリティが高い映画があるのだそう。


円谷英二がゴジラを創るまで


円谷英二の師匠・枝正義郎がつくった幻の映画「大仏徘国」は、大仏が起き上がり街を歩くというただそれだけの映画なのですが、スチール写真はインパクトが強く、見てみたくなります。ただこれもフィルムが残っていません。2018年にリメイクされましたが、映像をみると牛久大仏が歩いたらこんな感じではないかと。

大きな存在が徘徊する、というのは「ゴジラ」と通じるものがある気がします。



円谷英二は「ハワイ・マレー沖海戦」という戦争映画であまりに精巧な模型を作ってしまったがために、GHQが本物だと信じ込み公職追放なったり苦労したけれど、ちゃくちゃくと特撮技術を磨き「ゴジラ」を作り出しました。

こうしてみると、SF映画の黎明期は試行錯誤、遅い歩みではありましたが、その遺伝子は少しずつ蓄えられ、やがて「ゴジラ」でカンブリア紀の生物のごとく大爆発をおこした、そんな風に感じました。

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2019.08.19 Monday

もしかしたらこれは、新しい世界の新しい神話なのかもしれない。[映画]天気の子

新海誠監督の映画「天気の子」鑑賞。「君の名は。」はラブストーリーでしたが、「天気の子」はラブストーリーだけじゃなくて、世界のあり方について考えさせられる物語でした。

さて「天気の子」のストーリーですが、クライマックス以外は、ほぼ予告編や紹介映像のとおりです。ただ劇中の「世界の形を決定的に変えてしまったんだ」の本当の意味を知ったときは衝撃でした。

「若さ」は無謀


正直、この話は世代によって見どころが違うかもしれません。中年の私が見ると若者たちの無謀さが心配になりました。家出少年の帆高は、「東京に来たらなんとかなる!」と甘い考えですぐ行き詰まってしまったし。

帆高くんの家出の理由も映画では明確にされていません。小説だとそのあたりのことも書かれているらしいので読んで補完したい。


困窮する陽菜を助けようと、「晴れ女ビジネス」初めたときも「おいおい、これじゃあいつか、しっぺ返しをくらうぞ」とおばちゃんは心配してしまったのです。

だって、神との契約には古今東西、「代償」が必要なのだから…

神なき世界の新しい神話(ここからネタバレ)


雨乞いや洪水、地鎮など、神との契約の代償として、昔から人は神へ供物を捧げてきました。民俗学や歴史学によると、それらはたいてい「人柱」、人の命です。

諸星大二郎のマンガ「詔命」は、地震を抑えるため人柱に選ばれてしまった男の話ですし、泉鏡花の「夜叉ヶ池」は、神との契約を守る娘が、村人の間違った生贄信仰によって辱めを受けそうになります。

天候をコントロールできる陽菜もまた、巫女であり神への生贄となる運命でした。それを帆高は奪い返してしまいます。普通の神話ならば「人柱」を助けたものは「英雄」となるのですが、帆高はクシナダヒメを奪い返し、ヤマタノオロチを退治したスサノオのような神でも、英雄でもない。

だから、ふたりは世界の形を決定的に変えてしまうのです。その代償として、雨が続いた東京都心は水没してしまう。

彼らはもう神の助けを得ることはできず、自分たちが変えてしまった世界を受け入れ、新しい世界の、新しい神話をつくっていくのかもしれない。

沈んでしまった東京と、そこで現実を受け入れて生きる人々は、近年頻発する災害を暗示しているようにもとれました。

世界が変わってしまったら、自分たちはどう生きるのか。
そんなメッセージを投げられた気がして、映画を見終わったあとも、世界のあり方を私は今も考えています。


泉鏡花の「夜叉ヶ池」も、神との契約よりも恋人を選んだ男女が描かれます。封建的な明治時代では契約を破ったことで悲劇的な結末を迎えてしまいます。
令和時代の「天気の子」では、神よりも人を選んだ主人公たちがはき残ります。そこが現代的な夜叉ヶ池みたいだなと思いました。



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2019.08.18 Sunday

「夏」が舞台の小説いろいろ

避暑地の出来事、真夏の逃避行、夏休みの子どもたちの冒険、夏の悲しい失踪事件、傷ついた大人の夏休み…など、さまざまな夏の小説を集めてみました。


桃源郷の短期滞在客


100年前のニューヨーク。避暑地の混雑を避け、都会のホテルで過ごす上流階級の婦人と紳士のお話。どんでん返しあり。


エルニーニョ


暴力を振るう彼氏から逃げだした主人公が、逃亡先で不思議な少年・ニノと出会う。ニノもまた誰かに追われていた。二人の逃避行と非日常が交錯する不思議なお話。



くらのかみ


耕介は、夏休みに田舎の大叔父の家を訪れたとき、いとこたち4人と遊んでいると、いつの間にか一人子どもが増えていることに気がつく。旧家で起こる事件と、座敷わらし、ミステリとホラーが両方楽しめる本です。




幻夏


ドラマ「相棒」の脚本家・太田愛さんが描くクライム・サスペンス。小学6年の夏、相馬は近くに引っ越してきた尚と拓という兄弟と友だちになった。しかし、二学期の始業式の日、尚は忽然と姿を消してしまった…。

それから23年後。相馬の友人、私立探偵の鑓水のもとに、23年前に失踪した息子・尚を探して欲しいという風変わりな依頼が尚の母親から舞い込む。

権力に翻弄される家族と、その復讐劇。せつない話です。



風まちのひと


妻の不倫や母の死で心に傷を追った須賀は、母の家で風変わりなおばちゃんと出会う。「福の神のペコちゃん」と呼ばれる喜美子の献身的な世話で須賀は徐々に生きる力を取り戻しくのだが…。

心が疲れた大人の夏休みの物語。



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2019.08.17 Saturday

蓮丈那智フィールドファイルIII 『写楽・考』 北森鴻

美貌の民俗学者・蓮丈那智が殺人と歴史の謎を解く、蓮丈那智フィールドファイル『写楽・考』

前作『触身仏』から新たに研究室の助手となった佐江由美子が加わったり、これまで名前が伏せられていた教務の元民俗学者の名前が判明するなど新たな変化があったものの、助手兼ワトソン役の内藤くんは相変わらず蓮杖先生に振り回されています。

優秀な佐江さんが加わったことで戦々恐々としたり、ちょっと狂言回し的な役割が強くなってきたのはちょっとかわいそうな気も…



写楽・考─蓮丈那智フィールドファイルII あらすじ



憑代忌


「憑代」とは神をその中に宿す器物のこと。お祭りのお神輿なども「憑代」の一種ですね。
那智先生に依頼され、内藤と佐江だけである旧家にある憑代の人形の調査に向かうものの、そこで殺人事件に巻き込まれてしまう。
また、大学内では単位を落とさぬおまじないとして、学生の間に内藤の写真を撮ってそれを破損する行為が流行っていて…。

那智先生の写真は手に入らないし、怖い。なので代替品として内藤くんの写真が使われたらしいのだけど、それが「憑代の変遷」という事件のヒントにつながっていきます。

湖底忌


湖の底に沈む鳥居とそれにまつわる事件。そもそも鳥居とは何なのか、一節には神が変化した鳥のとまる場所とも言われますが、ここでは、鳥居そのものが信仰の対象であり、現実と非現実を分けるモノという説を唱えています。

神社も鳥居も私達の身近にあるけれど、説明をしろと言われたらよくわからないものですね。

棄神祭


那智先生が学生の頃、フィールドワークで訪れた旧家で起こった殺人事件。過去に決着をつけるべく那智先生が再度謎を解くという展開。その家には神像を壊すという一風変わった行事があり、それを撮影したビデオに謎をとく鍵があるらしい。

「破壊される神」とは何を表しているのか。日本神話で殺されることで食物を生み出した大気都比売神を例に取り、崇めるべき神が破壊される謎に迫ります。

写楽・考


民俗学的モチーフではなく、地方の資産家の失踪事件と、資産家の持つ美術品についての謎を、蓮丈那智研究室と元民俗学者の教務職員・高杉が追っていきます。

タイトルに写楽がついているのに、実は写楽は最後まででてきません。最後でようやく謎が解けるのですが、これだけ少し毛色の違う感じがしました。



JUGEMテーマ:最近読んだ本

2019.07.26 Friday

民俗学とミステリはよく似ている『触身仏』北森 鴻

美貌でクールな民俗学者が解き明かすのは、昔も今も変わらない人間の「業」かもしれない。蓮丈那智フィールドファイルも2冊め。このシリーズの面白いところは現実の事件と、民間伝承の中に埋もれた事件、その両方の謎が明らかになるところです。

民俗学は正規の歴史書に書かれないような地方で「その時そこで何があったか、なぜこうして残ったか」を検証し、推理していく学問です。

昔の農村では生存それ自体が難しいため、生き延びるために村人たちは間引きや姥捨て、人柱など、現代の感覚では考えられないような壮絶な虐殺が行われていました。

それを残したい思いと、知られたくない思いが相反し、時に人や現象を変化し逆転させ、元とは異なる伝承として伝わる。それを解き明かしていく作業が民俗学はミステリのようでもあるわけです。




触身仏─蓮丈那智フィールドファイルII あらすじ



「秘供養」


人里離れた場所に作られた五百羅漢の謎。「なぜ、この場所に、こうした形で残るのか」には理由があり、これが解かれたときの恐ろしさといったら…!

「大黒闇」


大学に潜む恐怖を描いた話。大学内のカルト宗教、催眠術のように相手を操る教主のおそろしさといったら、助手の三國くんまで危うく入りそうになるほど。でもそれを制した蓮杖先生の「無用!」の一言かっこよかったですねえ。

「死満瓊」


学者同士のディスカッションの場で殺人事件が発生。死体の隣には蓮杖先生が意識不明で発見されてしまう。「三種の神器」のひとつ、勾玉についての考察が語られます。

鏡は鬼道(占い)、剣は軍事力、勾玉は日本神話にでてくる海の満ち引きを支配する玉から、治水事業であると考える説が興味深いです。ヤマタノオロチ退治も、水に住むオロチを川の氾濫に見立てた治水事業という説もあるのだとか。神話に秘められた歴史的な解釈、面白いですね。

「触身仏」


即身仏とは食を少しずつ絶ちながら絶命するまで念仏を唱え、その亡骸を仏として祀る修行。その即身仏にまつわる物語。本来里の近くに祀るべき仏が集落と異なる場所に安置された意味とは…。実際にフィールドワークでその場所や地形を見ることで、全く違った側面がみえてきます。

「御蔭講」


わらしべ長者の物語と「講」と呼ばれる昔の相互扶助システム(沖縄にはまだ残っている)との関連性。わらしべ長者のように、より多くを得るために狂ってしまった男の話とリンクしています。



蓮丈那智フィールドファイルシリーズ


「凶笑面」

2019.07.19 Friday

八咫烏シリーズ外伝「なつのゆうばえ」阿部 智里

八咫烏シリーズ外伝「なつのゆうばえ」読了。八咫烏の帝「金鳥」の皇后である「大紫の御前」の物語です。
この外伝が始まってからせひとも「大紫の御前」の物語がよみたいと思っていました。

なぜなら、八咫烏シリーズの「大紫の御前」といえば、主人公の若宮と敵対するラスボス的な女性だから。そんな敵役の彼女を、別の角度から見たらどんな物語が潜んでいるのだろうか…と思っていたんです。

この外伝シリーズは、本編では描かれなかった登場人物のバックボーンや心情を細やかに描いてくれるため、外伝を読んでからまた本編を読むことで物語をより深く感じることができるんです。

「なつのゆうばえ」あらすじ


小さい頃から「南本家の姫」として、誇りと振る舞いを叩き込まれてきた夕蜩は、やがて「金鳥」となる若宮に嫁ぎ、皇后となるため運命づけられていた。しかし、夫となる若宮は愚鈍で彼女を嫌い、唯一彼女を愛してくれた両親もなくしてしまう。

生きる意味さえ失いかけた中で、彼女が見つけたのは…


彼女の行動原理は意外なところにあったのですね。誰も信用ができない、だれも愛せない世界で、彼女が手に入れた行動原理ははたから見ると歪んでみえるかもしれませんが、それこそがたったひとつ、彼女に残された「自由」だったのでしょう。

そんな複雑な人間模様と対をなすように、夏の庭、ゆうばえの描写がとても美しくて、匂いまでも感じられるようでした。

「愚鈍な皇帝に賢い皇后」という構図に、ロシアのエカテリーナ2世を思い出しました。ダンナがアホだと権力と別の愛人くらいしか頼るものないものなあ…




『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』は、電子書籍版の短編と書き下ろし2編を加えた外伝集



八咫烏シリーズ


『烏に単衣は似合わない』
『烏は主を選ばない』
『黄金の烏』
『空棺の烏』
『玉依姫』
『弥栄の烏』
外伝『すみのさくら』
外伝『しのぶひと』
外伝『ふゆきにおもう』
外伝『まつばちりて』
外伝『あきのあやぎぬ』
外伝『ふゆのことら』

2019.07.18 Thursday

国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展

「なんだかわからんが、美術館てのは、こう…、たまらなく、わくわくするものじゃないか」(原田マハ「美しき愚か者たちのタブロー」より)

国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展
国立西洋美術館の収蔵品のベースとなった「松方コレクション」。散逸や焼失、フランス政府による没収、数々の困難を経て今回、貴重な歴史資料とともに松方コレクションが一堂に会することになりました。

松方コレクション展…2019年6月11日(火)〜2019年9月23日
2019年国立西洋美術館の松方コレクション展

印象派を中心に、絵画、彫刻、デッサン、タペストリーなど、そのコレクションは多岐にわたります。それらはすべて松方幸次郎氏が「日本の若者のために」美術館創設を夢見て集めたものでした。

「アルルの寝室」フィンセント・ファン・ゴッホ


今回の目玉はなんといってもゴッホの「アルルの寝室」でしょう。ゴッホの絵は戦後、「敗戦国の財産」としてフランス政府に没収されてしまい、現在はオルセー美術館の所蔵となっています。

フランスが「ずるい」といえばそうかもしれませんが、日本軍も他の国の財産を奪っていたし、どちらが悪いとはいえません。戦争というものは理不尽なものです。ただ今は文化で世界がつながれるのはいいことです。うん。絵の貸し借りもけっこう盛んですしね。

松方コレクションを描いた原田マハさんの小説「美しき愚か者たちタブロー」の中で「アルルの寝室」をこう表現しています。

その部屋は(中略)まるで咲き誇るひまわりのごとく、黄色く燃え上がっているように見えた。


小説を読んでから展覧会を見たので、絵の描写や歴史的背景を確認しながら鑑賞することができました。



北方への旅とスパイ活動


松方コレクションについては印象派絵画のコレクションだとおもっていましたが、ブリューゲルやムンクなどドイツや北欧の絵画も買っていたのは初めて知りました。実はこの買い付け旅には裏の目的(ドイツの潜水艦設計図を手に入れる)があったそうです。

残念ながらスパイ活動の詳細は記されていませんでしたが、戦争があった時代にはこんなスリリングな展開もあったんですね。

睡蓮・柳の反映


展覧会の最後を飾るのはモネの「睡蓮・柳の反映」。戦時中、疎開先にあったこの絵は欠損がひどく、絵の上半分が失われています。

国立西洋美術館では欠損部分をあえて展示しています。それは、松方コレクションが辿った運命そのものを表しているようです。また、絵の全体像は残されたモノクロ写真からデジタルでの復元が行われました。

この絵を見た時、「美しき愚か者たちのタブロー」の言葉がうかびました。流転の松方コレクション、今では戦争ではなく文化交流によって見ることができる。それこそが松方さんの目指したところなのでしょう。

艦隊ではなく、美術館を。戦争ではなく、平和を。




JUGEMテーマ:美術鑑賞

2019.07.15 Monday

美術版プロジェクトX『美しき愚かものたちのタブロー』原田マハ

「取り返そうじゃないか、あのコレクションをーこの国に。」このセリフを読んだ時、涙が溢れました。絵画(タブロー)を買い集め、日本に西洋美術館をつくろうとした男と、その志を継いだ男たちの思いに、胸が熱くなりました。

『美しき愚かものたちのタブロー』あらすじ


かつて実業家・松方幸次郎が日本での西洋美術館建設ためにと、私財をなげうち集めた3000点にも渡る西洋美術。「松方コレクション」と呼ばれたこれらの美術品は焼失や散逸という憂き目に会い、その後、わずかに残った数百点の作品も「敗戦国の財産として」フランス政府が没収され、日本側に通達される。

それを聞いた当時の首相・吉田茂はコレクションの返還交渉のため外交官、官僚、美術関係者をフランスへ送る。その中にはかつて松方コレクションのブレーンをつとめた美術史家、田代雄一がいた。

田代はかつて、松方幸次郎と印象派の巨匠・クロード・モネのアトリエをたずね、そこで描かれた「睡蓮・柳の反映」を目にしていた。しかし、フランス側は「睡蓮」をはじめ、ゴッホの「アルルの寝室」、ルノアールの「アルジェリア風のパリの女たち」コレクションの中枢をなす名画の返還を頑なに認めなかった。



タブローに魅せられた愚か者たち


敗戦国という負け組が、巨大権力を持つな戦勝国相手に困難な交渉をおこなう、と聞くと、池井戸潤風のの逆転劇を想像しますが、さすがは原田マハさんというべきか、重きを置くのは「ビジネス」ではなく「タブロー」なんです。

あるいは松方のタブローへの情熱と言い換えてもいい。
松方は「わしは絵のことはわからん」と生涯言いながらも、「絵でなく人を見て買う」と言われたように、自分の信頼する人物の意見と、自らの直感で名作を探り当てていきます。

特に、印象派の巨匠、クロード・モネの絵に感銘を受けたシーンの言葉が彼の人柄があられてています。
私は絵のなんたるかを知りません。何もわからない。お恥ずかしい話です。けれど、私は…なんというか、先生の作品が好きです。

この言葉は、気に入った絵は売らないことで有名だったモネの心を動かしました。

松方のタブローへの情熱は、周囲の人々にも受け継がれていき、彼の役に立ちたいとタブローの返還に尽力する美術史家の田代、戦争中、フランスにとどまり絵を疎開させた松方の部下の日置。特に後半、日置がコレクションを守るために敵国フランスで苦闘する様子が切々と描かれています。

絵を描いた者、その絵を後世のために購入した者、そしてそれを守り抜いた者、そんな愚か者たちがバトンのようにタブローを伝えてくれたから、今の私達は絵を「普通に」見ることができるのです。

2019年に開催された国立西洋美術館の松方コレクション展


返還されなかったゴッホの「アルルの寝室」のほか、他の美術館にあるタブローのほか、コレクションに関する資料や修復された「睡蓮」が展示されています。
国立西洋美術館の松方コレクション展

おまけ:やがて日本の美術館はフランス人がときめく存在に


松方が開拓した美術館創設の道は後の世で花開き、現在日本には数千もの美術館、博物館がつくられており、今では本場フランス人が「ときめく」ほどのクオリティを誇っています。

フランス人がときめいた日本の美術館

 



原田マハ作品感想
「リーチ先生」
「たゆたえども沈まず」


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