ローマ・ブリテン第二作『銀の枝』ローズマリー・サトクリフ

2020.07.05 Sunday

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    ローマ後期のイギリスを舞台にした『第九軍団のワシ』。その主人公マーカス・アクイラの子孫たちが活躍するのが『銀の枝』の物語です。

    『銀の枝』あらすじ


    ローマ帝国の後期。外科医のジャスティンはローマからブリテンへ派遣される。そこで彼は百人隊長フラビウスと出会い、彼が同じイルカの紋章を持つ親族であることがわかり、親友となる。

    ジャスティンとフラビウスは、当時ブリテンを支配していた皇帝・カロウシウスにも目をかけられていたが、ある日、狩りに行った島で、アレクトス大臣が「海のオオカミ」と呼ばれるブリテンの男との密談を聞いてしまう。

    このことを皇帝に進言するものの、皇帝は受け入れず、反対に北の赴任地へ追いやられてしまう。やがて2人は、その後皇帝がアレクトスに暗殺されたことを知る。

    アレクトスに反旗を翻すため、彼らは行動を開始する。長い苦難の末、家の祭壇の下から軍団の旗印である「ワシ」を発見し、寄せ集めの軍団の旗印とするのだった…。




    史実とフィクションの融合


    サトクリフは、発掘されたローマの遺物から、歴史を絡めた壮大な物語を作りだしてくれます。遺跡に刻まれた「槍の人 エビカトス」という文字から、部族をお追われながらも、部族のために戦う孤高の狩人が描かれました。

    旗印となる「ワシ」も、実際に発掘された場所につながるように、物語のクライマックスで登場します。
    それがもう、本当かっこいい。まるで歴史が、その場で作られていくのを見ているようでした。

    また、敵から追われた2人がそこから仲間を集めて、よせあつめの軍団を形成していき、最後に先祖のマーカスに導かれるように「ワシ」を反撃の旗印していくところも痛快でした。

    逆境から立ち上がり、寄せ集めの軍団をつくる展開は最近読んだ『十二国記』でもありましたが、やはり胸が躍る展開です。

    ただ、エビカトスの名前が史跡にどう残っていったのか、そのあたりも描いてほしかったかな…。

    『第九軍団のワシ』感想→

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    散財で歴史に名を残した男『蕩尽王、パリをゆく 薩摩治郎八伝』

    2020.05.17 Sunday

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      政治や芸術で名を残す偉人は大勢います。けれど放蕩で世に名を残した人物というのは珍しく、薩摩治郎八がその筆頭ではないでしょうか。

      この人が何をやったかというとただひたすら、好きなことにお金を使っただけなんです。パリの一流ホテルで一晩一千万のパーティーをひらき、最先端の車を購入、日本ではフランス風の豪邸を建て、社交界で浮名を流す。


      リアル版・ヤングインディー・ジョーンズ


      90年代、若きインディー・ジョーンズの活躍を描いたドラマありました。ヤングインディー・ジョーンズが旅行先や入隊した外人部隊でシュバイツァー博士やアラビアのロレンス、マタハリなど当時のさまざまな有名人と交流する物語です。

      しかし、若き日の薩摩治郎八は「本当に」外人部隊に参加し、数々の有名人と邂逅をはたしています。コナン・ドイルにアラビアのロレンス、藤原直江(オペラ歌手)や藤田嗣治(画家)など、その交遊録の幅の広さといったら。

      パリでも有名な作家や芸術家たちと交流し、「金は出すが口は出さない」よきパトロンでもありました。
      戦後は瀬戸内寂聴さんや美輪明宏さんとも交流があったそうです。

      日本人にとって散財や放蕩は悪いイメージしかなく、そうした人はたいてい民衆から忌み嫌われるものですが、なぜか、治郎八は愛されていたんですね。

      薩摩治郎八と松方幸次郎


      国立西洋美術館のベースとなる松方コレクションを集めた松方幸次郎は、ありあまる資産を「後世のために」と使いましたが、薩摩治郎八は「自分の好きなことに」資産を使い、使い果たします。
      代表的な事業としてパリ日本館の建設がありますが、現代に換算するとなんと40億もの金をつぎこんだのだとか。

      それも、人のためにではなく、自分のパリ社交界での地位を確立するためだというのですから、すごいものです。

      松方幸次郎と松方コレクションをめぐる物語。原田マハさんの「美しき愚かものたちのタブロー」


      生活芸術家


      薩摩治郎八の妻、千代子は当時ヴォーグの表紙を飾り、パリ社交界の花形でした。そんな華やかな女性なので、てっきり白洲次郎・正子夫妻のようにお互いに自立した関係なのかとおもいきや、どうも夫人は薩摩治郎八の手によって生み出された「作品」であったらしいのです。

      嫁入り前は野暮ったくおとなしい娘であったのを、治郎八のエレガンス教育と、流行のファッションを身に着けさせることでマイ・フェア・レディのごとく仕立てていったのだとか。

      千代子さんは早死したため、彼女側のコメントは子
      のっていないのですが、この「紫の上」はそんな人形のような(でも最高級の)生活をどう思っていたんでしょうね。

      治郎八自身、直接的に芸術を生みだすわけではなかったのですが、夫人への教育自体が「作品」であり「芸術活動」だったそうです。

      富豪でも貧乏でも変わらない


      フランスを愛した薩摩治郎八は戦争中もフランスにとどまり、在留邦人やドイツ軍に虐げられた人々を救う行動も行っていたようです。

      けれどもやはり、そうした活躍よりも戦後、莫大な財産を散財しつくして「すっからかん」になって帰国。しかしその後もも己の美学を貫いて生き、永井荷風のごとくストリップ舞台に通い、若い踊り子と再婚します。

      文章を読むと、どうも豪奢な生活をしていたときと、貧乏暮らしの時も治郎八は治郎八のままなんですね。放蕩紳士といった感じで。

      戦時中、尋問された折に罪の覚えがあるかと聞かれ、こう答えた薩摩治郎八。
      「自分の犯した大罪があったとしてら、仏蘭西を愛しすぎたという一言につきましょう」


      自分の好きなものに全力で放蕩を行った薩摩治郎八。後にも先にも、これほど豪快で面白いお金の使い方をした人はいないでしょうね。


      JUGEMテーマ:最近読んだ本



      幕末、武士の娘の日常「諫早菖蒲日記」 野呂邦暢

      2019.05.27 Monday

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        古書店を舞台にした小説「森崎書店の日々」。この本が縁となり、野呂さんの本を知ることになりました。
        読書三昧の青春を綴った随筆「小さき町にて」から「諫早菖蒲日記」へ。本の縁が続いていきました。

        諌早菖蒲日記」は幕末、九州諫早藩の砲術指南役の娘、志津の視点から語られる物語です。



        幕末、藩の砲術指南役とくれば、「八重の桜」の八重さんのように、幕末の動乱に活躍する話かと思っていましたが、まったくそんなことはなく「諫早菖蒲日記」では、彼女の周りの日常が綴られているだけで、さしたる大事件は起こりません。

        けれども、読み始めると夢中になってしまいました。

        戊辰戦争のような、国を巻き込む大事件はありませんが、その当時、諫早で起こった大小の事件が綴られていきます。本明川の氾濫、主筋に当たる佐賀藩からの圧政、志津の家とライバル関係にある砲術家の台頭…。

        淡い恋心、新しい矢絣の着物が欲しくて駄々をこねたり、母親に内緒で河岸を観に行ったりと、ちょっとおてんばな様子や、大砲の影響で耳の遠い父親の耳がわりとして、来客の対応をするうちに、世情にもたけていくようすなど、志津の姿がいきいきと描かれます。

        考えてみれば、日本中の武士のだれもが、幕末の世情に関わって戦や暗躍をしていたわけではないんですよね。

        大きな出来事はおきないけれど、なんだかとても愛おしい物語でした。




        そういえば、「武士の家計簿」も幕末だけど、大きな事件が起こるわけではなかったっけ。

        JUGEMテーマ:オススメの本


        レビューポータル「MONO-PORTAL」

        カリスマ女性作家同士の、知的ガチトークバトル「古典夜話: けり子とかも子の対談集」

        2019.04.04 Thursday

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          名随筆家であり、骨董収集家で目利きの白洲正子、古典文学に造形の深い小説家・円地文子。この博識な女流文学者2人が語る古典・芸術よもやま話『古典夜話: けり子とかも子の対談集』読了。

          対談ではおふたりとも何気なく話しているようですが、内容はかなり高レベル。これはお互いが深い知識を持っていないと成立しない。相手の質問に対して「わからない」ってことがあまりない。

          必ず何かしらの応えを返しているんです。「知識がない」と言いつつも、会話の中に膨大な知識量を感じさせる。

          なんだこの知的ガチトークバトルは(笑)



          高貴な女性、下世話な話で盛り上がる


          「悪口」や「こきおろし」は女性の会話に必要不可欠なアイテムですが、かたや伯爵令嬢、かたや大学教授令嬢という、やんごとなき女流作家でも、下世話な話は好きなようで…

          役者の品定めや演技のダメ出し、男色(BL)など、話題多岐にわたって盛り上がっています。しかしそこは知識と教養で裏打ちされている、それほど下世話には感じないんですね。
          男色にしても歴史や文学、芸術性の高い高尚なものとして語られています。

          おまけ:能とBL


          能に詳しい白洲正子さんは世阿弥と足利義満の関係について語られています。こちらの「夢幻花伝」も少年時代の世阿弥が足利義満の寵愛を受け、芸の道を極めていく姿が描かれます。木原敏江先生の絵が美しいです。



          役者批評では18代目中村勘三郎(その頃は勘九郎)を「あの坊やは名優になる」と、その才能を評しています。果たして彼女たちの予言(?)は当たり、勘三郎は歌舞伎ファン以外でもその名が知られる名優となりました。

          歴史、宗教、能、源氏物語


          能に造形の深く、日本各地をフィールドワークで飛び回る白洲正子と、源氏物語深い知識を持ち、歌舞伎の戯曲もてがける円地文子。

          実際に研究、体験した教養人が紡ぎ出す話題は、ユーモアにあふれてわかりやすく、一般の知識のない私のような読者にもわかりやすく噛み砕いて教えてくれます。

          たとえば「能」という古典芸能は難しくて近寄りがたいと感じていたのだけど、白洲正子さんによると「能には幽霊とか人外しかでてこないし、生身の人間があちらの世界に行くためにはまず酒盛りをする」って書いていて、ちょっと親しみが持てました。

          まんまことシリーズ『かわたれどき』畠中 恵

          2019.03.05 Tuesday

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            まんまことシリーズももう7冊目。『かわたれどき』では以前女房のお寿々を亡くした、やもめの麻之助にもいよいよ新しいご縁が…

            畠中恵さんのもう一つのシリーズもの、「しゃばけ」シリーズは、あやかしたちが相手のせいか、時の流れはゆっくりですが、『まんまこと』ではどんどん時が流れていきます。

            麻之助の友人、清十郎は結婚し子供が生まれ、同心見習いの吉五郎にも縁談がもちこまれたりと、麻之助の周囲の人々は前に進んでいきます。そんな中、麻之助の前に縁談の相手というおなごが現れ…。


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            今回のテーマは「縁談」と「噂」いうところでしょうか。

            江戸時代の結婚


            江戸時代の結婚は家を背負うわけですから、今よりも重要な役割を担っています。

            お気楽ものの麻之助でさえ、後添いをもらうことを納得しているのは、町名主を担う責任を当たり前のことと認識しているからです。町名主の妻というのは、相撲部屋の女将さん、歌舞伎役者の奥様のように、一つの職業ですから、それをになう女性を後添いにしなければ家が成り立たないんですね。

            江戸時代は本当に結婚したくなければ家を捨てるくらいの覚悟が必要だし、若い時、初恋のお由有を守れなかったのも、麻之助自身が家を捨てられなかったからでしょう。

            江戸時代の噂


            現代でもフェイクニュースなどネットの噂は危ういものが多いですが、江戸時代は特に人と人との交流が活発だったためか、さまざま噂が短期間で伝播していきます。

            中にはそんな噂を逆手に取り、人を惑わせたり、特定の人をあぶり出そうとしたり、自分の利益のために使う人も。
            『きみならずして』では、自分に都合のいい噂を流して人を傷つける無邪気な人がでてきますが、実はこういうのが一番質が悪い。案の定というか、その後手ひどいしっぺ返しをくらいました。

            やはり、噂を使うのは剣呑。やるならばそれ相応の覚悟が必要です。


            かわたれどき


            『君の名は』で有名になった『かたわれどき』は夕方、その対となるような言葉が『かわたれどき』でこちらは朝方を指す言葉だそうです。

            麻之助の知り合いの娘、お雪が洪水に巻き込まれて行方不明に。その後、なんとか助け出されるものの、悪夢にうなされ、数年間の記憶を無くしてしまう。

            お雪の祖母に頼まれた麻之助は、原因をさぐるべくお雪を助けてくれた矢田屋に向かう。矢田屋では跡取り娘のお市がなくなり、婿の八三郎は微妙な立場に追い込まれ、奉公人たちも彼をよく言わないため、八三郎がお市を殺めたのではないかと麻之助は考えるのだが…。


            物語の終わりに、麻之助は縁談についてある決断をします。皆が前へすすみはじめた「まんまこと」シリーズ、これからどんな展開になっていくのでしょうか…。


            収録
            『きみならずして』
            『まちがい探し』
            『麻之助がつかまった』
            『はたらきもの』
            『娘四人』
            『かわたれどき』

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            まんまことシリーズ


            「まったなし」
            「ときぐすり」
            「こいしり」
            「こいわすれ」
            「まんまこと」

            JUGEMテーマ:最近読んだ本



            『明治大正 翻訳ワンダーランド』鴻巣 友季子

            2018.10.14 Sunday

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              以前、黒岩涙香の『幽霊塔』の感想に「物語は大変面白かったものの、明治のトンデモ翻訳、英国なのに日本人名やら歌舞伎のような台詞回しに難儀した」と書きました。

              ところが翻訳家・鴻巣友季子さんの『明治大正 翻訳ワンダーランド』を読んでみたら、明治時代の翻訳者の功績について書かれており、先人たちが創意工夫・悪戦苦闘の末、海外文学の翻訳を行っていた姿を知り、失礼なことを言って、も申し訳ない気持ちに…(そうは言っても、やはりわかりづらいけれど…)

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              悲劇がハッピーエンドに?明治のトンデモ翻訳事情


              明治は言文一致運動(それまで書き言葉と話し言葉がちがっていたので一緒にしよう、という運動)が始まったばかりの時代。その中で外国語の知識と、読者に伝わる日本語センスをもった翻訳者は希少な存在であり、突出した才能の持ち主たちでした。

              そして、明治大正の翻訳者は、その才能ゆえか、作品も人生もかなり個性的なのでした…。

              奇想天外・黒岩涙香


              個性的な翻訳と、奇想天外な展開で人気を博した黒岩涙香。そんな黒岩涙香が手がけた「レ・ミゼラブル」は「あゝ無情」、「モンテ・クリスト伯」を「巌窟王」と日本名にわかりやすくしたのは涙香の功績なのだとか。

              黒岩涙香は英語小説を毎日読むことを自らに課し、「百冊に一冊」翻訳に値する小説を探しては日本の読者にわかりやすく、面白い小説を提供してきましたが、中には「翻訳」の域を超えてしまった作品も。

              著作権や版権の感覚が現代とは違う明治時代、なんと涙香は小説の結末をも変えてしまったのです…!
              「鉄仮面」という小説ではそもそも主人公は鉄仮面をかぶっていなかった!そしてアンハッピーで終わるはずのラストを大胆にも大団円に書き換えてしまったのです…。さすがは「翻訳」ならぬ「翻案」と呼ばれた黒岩涙香…。

              『幽霊塔』感想→

              幽霊塔

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              その他にも、トルストイやドストエフスキーが好きすぎて翻訳してしまった翻訳家の話、日本語に翻訳されたことで、忘れられた原作が再び注目された話など、翻訳黎明期の翻訳者にまつわるさまざまなエピソードが満載です。

              ちなみに、日本でよく知られている『フランダースの犬』の最初の翻訳ではネロは清、パトラッシュは斑(ぶち)と訳されていたそうな…

              フランダースの犬 (新潮文庫)

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              こちらもおすすめ『翻訳百景』

              翻訳百景 (角川新書)

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              『リーチ先生』原田 マハ

              2018.09.03 Monday

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                「リーチ先生」読了。明治から昭和初期にかけて新しい芸術運動として発達した「民藝運動」、その担い手として名を連ねたイギリス人バーナード・リーチ。身一つで日本へやってきたリーチと、彼を「先生」と慕う主人公との師弟愛、西洋と日本の陶芸をつないだリーチの半生を描いた作品です。

                陶芸という火と土の芸術の美しさと難しさ、それに魅入られた男たちの物語が熱い物語でした。

                『リーチ先生』あらすじ


                滝亀之助は、高村光太郎の紹介で彼の父親・高村光雲の書生として働いていた。そこへ、光太郎がロンドン留学中に知り合ったというイギリス人青年・バーナード・リーチが訪ねてくる。幼い頃、日本で育ったというリーチは西洋と東洋の美術の架け橋になろうと、身ひとつで来日してきたという。

                リーチの思想に感銘を受けた亀之助は、リーチの弟子となり共に日本での芸術活動を手伝っていくことに。リーチの活動に感銘をうけた芸術家たちが集まるようになる。

                やがてリーチは自分の生涯をかけるべき仕事「陶芸」に出会う。亀之助もまた陶芸に魅せられ、リーチとともに陶芸の道を歩んでいく。日頃使う器の中に美しさを見出す「用の美」をもとめ、ついにはイギリスに窯をひらくことになる。

                リーチ先生

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                私は学生時代、民藝運動に興味を持ち、日本民藝館や河井寛次郎記念館を訪れたものです。そうした民芸運動の偉人たちが出会い、芸術論を交わし、作品を作り、交流していく様子は読んでいてワクワクしました。

                リーチ先生が出会ったのは、留学時代の高村光太郎、最初は口論するものの、後に盟友になる民芸運動の中心人物・柳宗悦、白樺派の志賀直哉や岸田劉生、それに同じく陶芸を志した富本憲吉、濱田庄司、河井寛次郎など。

                そんな「芸術家アベンジャーズ」と言ってもいいほどの偉人たちも、悩んでもがきながら新しい創造への道を切り開いていった「青の時代」があったのですね。

                バーナード・リーチ日本絵日記 (講談社学術文庫)

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                日本民藝館へいきたくなる


                「リーチ先生」を読んだら実際にリーチ先生の作品がみたくなりました。都内では柳宗悦が開いた日本民藝館でリーチ先生のほか、さまざまな民藝運動の芸術家たちの作品もみられます。

                収蔵品の中には名もなき陶工たちがつくった「用の美」の陶器が多数展示されています。おそらく、そのなかにはカメちゃんの作品があるかもしれません。

                日本民藝館へいこう (とんぼの本)

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                『少女の友とその時代』遠藤 寛子

                2018.06.12 Tuesday

                0
                  『少女の友』をモチーフにした伊吹有喜さんの小説『彼方の友へ』を読んでから、伝説の少女雑誌『少女の友』への興味が俄然わいてきました。

                  『少女の友とその時代』は、作家であり『少女の友』の愛読者であった遠藤寛子さんが雑誌関係者や愛読者たちへの丹念な取材をもとに書かれた研究本。『少女の友』伝説の主筆・内山基氏にスポットを当て、彼の業績についても紹介しています。

                  内山基氏は『彼方の友へ』で主人公が憧れる有賀主筆のモデルとなった人物。中原淳一氏とタッグを組み、上質な小説や詩、美しい付録、少女たちへの啓蒙など、雑誌を通じて次世代の少女たちの感性を育てたいと信念をもっていました。

                  「友ちゃん会」と呼ばれた読者の集いは、運営は少女たち自身が行っていたそうです。女が働くことが蔑まれていた昭和時代に自ら会場を手配し、人数を集めて会を進行する。こうした「少女たちが自ら考え行動すること」こそが内山主筆が『少女の友』で目指したことでした。

                  当時の投稿ページには作家の田辺聖子さんなどが名を連ねていたそうです。
                  少し文章が硬くて読みにくい面もあるけれど、当時の『少女の友』の雰囲気が伝わってきます。

                  『少女の友』とその時代―編集者の勇気 内山基

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                  『彼方の友へ』で登場した美しい付録「フローラゲーム」のモデルとなった「フラワー・ゲーム」や「啄木かるた」など、当時の付録への制約を逆手にとった、今見ても美しい付録の数々。この伝説の付録は近年復刻されましたが、今やおとなになった女性の「乙女心」をくすぐります。これはほしい…!

                  『少女の友』中原淳一 昭和の付録 お宝セット

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                  『少女の友』創刊100周年記念号 明治・大正・昭和ベストセレクション

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                  遠藤寛子さんの著作を調べたら、「算法少女」を書かれた方だったんですね。

                  算法少女 (ちくま学芸文庫)

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                  磯田センセイ、東奔西走『日本史の内幕 - 戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで 』

                  2018.05.04 Friday

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                    東に面白い古文書があれば新幹線に飛び乗り解読し、西に古墳や遺跡があれば行って発掘する。それが磯田道史センセイです。

                    「武士の家計簿」以来、磯田先生のファンになり著作を読んでいるのですが、磯田センセイがほかの学者さんと異なるのは、そのたくみな文章力と、類まれな好奇心だと思います。

                    歴史のことになると、たとえテレビであっても喋り倒す、興味がある遺跡には勝手にフレームアウトして見に行っちゃう。そんな磯田先生がまさに東奔西走して集めた歴史秘話を綴るこの一冊。『日本史の内幕』は、貴重な古文書から読み解いた歴史の内幕が、軽快な文章で綴られています。

                    日本史の内幕 - 戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで (中公新書)
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                    徳川埋蔵金のてがかり?


                    とにかく磯田先生、古文書をみつけだす嗅覚がすごい。日本全国を駆け回り独自の古文書ネットワークから貴重な資料を読み解いていき、それが時に重大な発見につながることもしばしば。

                    TBSがやっている徳川埋蔵金発掘事業(もう事業といってよい)、埋蔵金を埋めた張本人と言われる小栗上野介に関する古文書から「小栗が弐分銀を群馬の領地に埋めた」との一文を発見します。

                    しかしセンセイ自身は埋蔵金について「出る可能性は低いが、出るなら弐分銀」と書いてます。ええっ!(;・∀・)テレビでは出るっていってたじゃないすか!

                    行動する歴史学者


                    歴史家学者って文献をよんだり、遺跡を発掘するイメージですが、磯田センセイはそこにもうひとつ「行動」が加わります。

                    浜松にいらしたときは、遺跡発掘を市長に直談判、市民をまきこんだイベントにするわ、戯曲をかいてみたり、兜に香を焚きしめたりと、古文書にある記述を実際にやってみないと気が済まない。それが磯田センセイの魅力ですね。

                    ちなみに大河ドラマ「おんな城主直虎」も磯田センセイが制作側に(頼まれないのに)アドバイスを出したことで実現したらしいです。「直虎」を地元の人にもしってもらうため、野外劇をしかけたりと、まあとにかく動きます。




                    著作の映画化


                    「武士の家計簿」に続き、著作「無私の日本人」の短編が「殿、利息でござる!」として映画化された磯田センセイ。映画制作に関するエピソードを紹介しています。

                    「殿、利息でござる!」のあらすじは、仙台の貧しい宿場町の人々が金を出し合い、殿様相手の金貸し業をすることで町を救おうとする物語。あの手この手で節約をしてお金をためていきます。

                    映画化にあたり、当時の仙台藩主を誰にするかで制作側は悩んだらしい。主演・妻夫木聡、阿部サダヲという存在感のある役者に負けない「殿」として、フィギュアスケートの羽生結弦さんに白羽の矢が。確かに、羽生選手なら個性は揃いの役者を無効に回しても負けないですしね。羽生選手は故郷のためになるならと、この役を快諾してくれたそうです。

                    磯田センセイもカメオ出演されているそうですが、文書を夢中で読むのに夢中になってる姿が全く違和感なかったとか…。

                    DVD特別版「殿様版」には羽生結弦選手のメイキングもおさめられています。

                    殿、利息でござる! 殿様版
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                    ところで磯田センセイ、映画「武士の家計簿」が縁で主演俳優・堺雅人さんと親友になったのだとか。いつの間に…そういえば堺雅人さんも歴史好きだし変わり者なのでウマがあったのかもしれませんね。

                    [映画]武士の家計簿の感想
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                    古文書はカビの生えた昔の記録ではなく、現代に生きる知恵がつまっている


                    東日本大震災以来、古文書に記された地震と津波の研究を(忍者研究をなげうって)続けてきた磯田センセイ。第七章では、古文書から読み解く災害時の人々の様子や復興について先人の知恵を書かれています。

                    昔の自社は先人たちの経験値によって地震や津波の影響の少ない場所に建てられていることが多く、また、津波の塩害で枯れた参道の木を寺社の再建に使っていたそうです。

                    復興の中心はこうした公共の施設が率先して行うことで、当時の被災者に仕事の提供を行う意味もあったそうですし、なにより「シンボル」が復興することが被災地に希望をもたらすのでしょう。

                    こうした先人たちの経験値を古文書から学び、明日の災害対策に用いねば…と思います。

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                    『また、桜の国で』 須賀しのぶ

                    2017.09.13 Wednesday

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                      戦前のポーランドを舞台に、戦争の嵐のなかで、自らの思いを貫こうとした若者たち。その信念と友情を描いた『また、桜の国で』読了。須賀しのぶさんの近代(明治から昭和)作品はやっぱりすごい。激動の中に生きる人々の思いが詰まっています。

                      『また、桜の国で』あらすじ


                      日本大使館書記生・棚倉誠はロシア人の父をもつハーフ。誠はドイツからポーランドに向かう列車の中で、ドイツ人に暴力を振るわれているポーランド系ユダヤ人、ヤンに出会う。

                      ポーランド大使館へ赴任した誠は、極東青年会の代表イエジ、マジェナらと出会う。極東青年会とは、かつて親を殺され、シベリアから日本へ逃れた孤児たちにより結成された組織。誠は彼らを通じ、こどもの頃に出会ったシベリア孤児のカミルを探していた。施設から逃げ出したカミルは誠に「母と妹を殺した。」と告白していた。

                      ロシア系ハーフとして言われない差別を受け、日本を離れた誠、祖国ポーランドから見捨てられたユダヤ人のヤン、そしてアメリカ人ジャーナリストのレイ。自らのアイデンティティを求める3人の青年たちは、やがて戦争の渦中へその身を置くこととなる。

                      また、桜の国で
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                      嵐に抗う人々


                      独断でユダヤ人にビザを発行し続けたカウナス領事・杉原千畝は有名ですが、当時の東ヨーロッパの外交官たちも、戦争を回避すべく、自らを省みず、現地の人々のために尽くす骨太な方々がいました。

                      誠たちポーランド日本大使館もドイツとポーランドとの戦争を防ぐため、最後まで努力を続けますが、無情にもドイツはワルシャワへの攻撃をはじめ、ポーランドはドイツの支配下に。無差別の粛清、ゲットーのユダヤ人への虐待。それを黙ってみているしかないポーランド人…。

                      読んでいてドイツ人のあまりの鬼畜ぶりに恐怖と怒りを覚えるのですが、「じゃあお前ら日本人はアジアで何やったんだよ。」と言われたらぐうの音もでません。戦争は一方の視線だけで考えてしまうと、どうしても辛くなってしまうので、できるだけニュートラルな視線で読まないと…。

                      大事なのは、過酷な状況下でも道を見つけること。酒匂大使が去ったあと、あとを任された後藤副領事は、大使館の屋上に日の丸を描くことでポーランド人の職員を守ろうとします。(この時、ドイツは日本と同盟関係にあったので、日本大使館を攻撃できないから。)

                      やがて戦争は激化する中、ヤンはアウシュビッツ収容所に、イエジはレジスタンスに。しかし、ポーランド大使館員は国外退去を命じられてしまう中、誠は極東青年会や旧知のポーランド人とともにあるため、ある決断をします。

                      ロシア人と日本人の間に生まれ、日本人から拒絶されてきた誠は、「日本」がポーランドを裏切っても、自分だけは彼らを裏切るまい、それこそが彼の日本人としてのアイデンティティだったのかもしれません。

                      杉原千畝: 情報に賭けた外交官 (新潮文庫)
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                      ドイツのポーランド侵攻で思い出すのはチャップリンの「独裁者」。この映画のすごいところは、「戦争後」ではなく、「戦争中」まだヒトラー政権を握っていた時に作ったってことですよ。

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                      レビューポータル「MONO-PORTAL」