サクリファイスシリーズ『スティグマータ』近藤 史恵

2017.05.18 Thursday

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    自転車ロードレースの世界を描いた「サクリファイス」の続編「スティグマータ

    『スティグマータ』あらすじ


    自転車ロードレースの本場、ヨーロッパでアシストとして走り続ける白石誓(チカ)。今回は、以前に因縁のあったフランス人エース・ニコラと同じチームで彼のアシストとしてツール・ド・フランスに参加する。一方、日本のチーム・オッジ時代のエース伊庭もヨーロッパのチームで走り始める。

    レース前、チカは伊庭から彼と同じチームに所属するかつての英雄・メネンコを紹介される。メネンコは一度、ドーピングでロードレース界を追放されており、今回のツールで復活を果たすという。敵が多いメネンコは、チカと同じチームのアントニオから狙われている、彼を監視して欲しい、と依頼され…。

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    アスリートの業


    うーん。メネンコ非道。こういう俺様で、自分のためなら道具のように相手を使い捨てるし、人を人とも思わない。こういうアスリートがいる(のかもしれない)と思うと、正直ロードレース以外でもスポーツを観たいとは思えなくなるな。

    ただ、頂点を極めたアスリートというのは、どんなに非道でも人を引きつける力があるらしく、チカも最初、そんなカリスマのパワーにあてられ、走る姿に感銘を受けたりしています。

    今回も、アスリートの業というものがこれでもか、と描かれています。チカも昔はアシストとして走れればいい、という感覚だったのに、伊庭がスプリンターとして活躍し始めると、焦りと嫉妬を感じます。
    私は、チカは嫉妬とか羨望とか無縁で自分の能力を最大限に活かせたらそれでいい、と思っていたので、伊庭に嫉妬心を持つって、正直意外でした。

    しかし、スポーツで栄光を得る人って、みんなどこか普通と違いうのかもしれません。チカと同じチームになったニコラは前回無邪気すぎる気質が幸いして周りを混乱させていたし、今回のメネンコは、ほぼ犯罪者ですし。(レ○プ教唆、恐喝、詐欺など)突出した人物は、それだけ普通の人間と違うってことでしょうか…。

    しかし、それでは周りにいる人間は堪ったものではない。でも、それでも走りたいと思うのがアスリートなのかもしれません。

    最後に、メネンコの仕掛けた演出を、チカらしい形で収めてみせた時は、ああ、やっぱりこれがチカなのだなあ、とちょっと安心したというか。

    走り続けるということは「普通」からかけ離れていくと同意かもしれない。でも、チカはどこか「普通」をもって走っているから、読んでいると安心できるんです。

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    サクリファイスシリーズ


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    キアズマ→

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    「イニシエーション・ラブ」 乾くるみ

    2015.08.17 Monday

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      少し前に映画化され「ラスト2行のどんでん返し」に興味をひかれて読んでみた「イニシエーション・ラブ」。噂に違わぬラストのオチのインパクトに、他の読者同様、最後の2行を読んでから、最初から気になるところを読み返しました。

      「イニシエーション・ラブ」あらすじ


      鈴木は人数合わせで参加した合コンで、成岡繭子に一目惚れする。どうやら、繭子も好意をもってくれたらしく、電話番号を渡されたとこがきっかけで、2人は付き合うことに。(Side-A)

      やがて鈴木は静岡から東京に転勤になる。最初のうちはマユのために、足繁く静岡へ帰る鈴木だったが、同僚の女性・石丸から好意を寄せられるようになり…(Side-B)


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      恋愛小説が、どうミステリに化けるのか


      恋愛小説ではあるんです。殺人らしきものは起こらないし、探偵もでてこない。けれど、その張り巡らされたトリックが解き明かされた時、殺人とはまた違った怖さを感じました。

      「イニシエーション・ラブ」は、80年代後半が舞台で、前半と後半でSide-A、Side-Bと設定され、それぞれに70〜80年代に流行った音楽のタイトルがつけられています。

      実はこれが、この物語の最大のヒントだと思うのです。若い方はなじみがないかもしれませんが、昔、レコードというのは、A面、B面裏表があり、「ひっくり返さないと」裏の面が聞けないというしくみが、物語の軸となっています。

      あと、繭子の部屋にあった「十角館の殺人」もヒントといえばヒントかも。ラストシーンはもちろん違いますが、ラストに至る過程とか、細密なトリックな感じが似ている気がします。「十角館の殺人」を知っているミステリファンが、それを踏まえて読めば、謎は溶けるんじゃないかな。

      残念だったのは、80年代に生きていたせいかその頃の恋愛描写が、なんかこう、痛痒い感じがして、感情移入ができなかったことですかね。
      あと、ラブシーンがエロくない。理系の童貞くんからの視点なので、生物化学のレポートを読んでるみたい。
      あくまでミステリの前振りとして読んでしまっているので、恋愛ターンに「ときめき」が感じられなかったのが残念。

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      八咫烏シリーズ『烏に単は似合わない』 阿部 智里

      2015.08.12 Wednesday

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        表紙絵と、奇妙なタイトルに惹かれて読んだ「烏に単は似合わない」、面白いです。八咫烏が支配する土地、「山内」を統べる金烏、その世継ぎの御子へ入内をめざす四家の姫が、宮中で遭遇する事件を軸に、不思議な八咫烏の世界が描かれます。

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        「烏に単は似合わない」あらすじ


        八咫烏の世界「山内」を統べる金烏、その世継ぎの若宮へ入内を果たすべく、貴族の頂点である東西南北を司る四家からそれぞれの姫が登殿する。

        東家の二の姫・あせびは病気の姉の変わりに登殿することになった。西家の真赭の薄、南家の浜木綿、北家の白珠、各家の姫たちそれぞれが競い合い、若宮の心を射止めようとする。

        実はあせびは幼いころ、一度若宮に会ったことがあり、それ以来、若宮への思いを募らせていた。

        しかし、やがて宮中でさまざまな事件が起こり、やがてそれは四人の姫たちを巻き込んでいく…。

        斬新な八咫烏シリーズの世界観


        モチーフとしては「十二国記」「後宮小説」「源氏物語」などの設定に共通点がみられるものの、八咫烏が支配する世界というのがなかなか斬新で、読んでいくにつれ、徐々に八咫烏の世界の謎が解かれるのが面白いですね。

        八咫烏の世界は、日本の平安時代に似ており、東西南北を司る四家を頂点にした「宮烏」と呼ばれる貴族は、人の姿をとり、烏の形になることはなく、一方庶民の「山烏」は烏の形へたびたび変化する。(烏の形をとらない=別の移動手段をもつことが、ステータスらしい)

        異世界恋愛ファンタジーかと思ったら、叙述トリックミステリだった


        幼いころ、心を通わせた少年少女が時を経て再会したとき、何が起こるのか。当然、読者は古典の「筒井筒」のような純愛をイメージします。

        それが、「普通」で、「通説」だったから。それに物語の構成が春夏秋冬、再びの春となっていて、これだけみたら、どうしたって純愛を期待してしまうのだけど、読んでいくうち、「?」「!」といった展開に。

        おもえばこの否定形のタイトル「烏に単は似合わない」にも、物語の本質が隠されているような気がします。

        このラストの展開は見事でしたが、私はちょっと後味の悪さを感じてしまったかな。でも、まともな展開じゃなかったからこそ面白いのですが。

        作者の阿部智里さん、この本を書かれた時は20代前半だったそうで、いやはや、異色の、そしてものすごい作家が誕生しました。それは、今後の展開を読んでいくとわかるのですが…。

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        『烏に単は似合わない』このたび漫画化され、期間限定でイラストとコミックつきの特別版が電子書籍で発売されています。

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        いよいよ八咫烏シリーズ外伝『烏百花 蛍の章』発売。これまでの短編に加えて書き下ろしも。

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        八咫烏シリーズ


        『烏に単衣は似合わない』
        『烏は主を選ばない』
        『黄金の烏』
        『空棺の烏』
        『玉依姫』
        『弥栄の烏』
        外伝『すみのさくら』
        外伝『しのぶひと』
        外伝『ふゆきにおもう』
        外伝『まつばちりて』
        外伝『あきのあやぎぬ』
        外伝『ふゆのことら』
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        極端に、短い物語集 「極短小説」スティーブ・モス ジョン・M・ダニエル

        2015.02.25 Wednesday

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          BSで放送中の「宮崎美子のすずらん本屋堂」のショート・ショート特集で紹介され、面白そうなので読んでみました。

          アメリカの週刊誌で募集した「55語小説」を集めたショート・ショート集。「SHORTEST STORIES」を、「極短小説」と訳したのは洒落がきいていますね。

          ショート・ショートとはいっても、SFからミステリ、恋愛小説まで幅広いジャンルの小説が揃っています。

          極端に、短い話。


          55語(語句?)という制約で、起承転結がしっかりとついていて、さくさく読めちゃいます。

          難点を言えば「玉石混交」。最後の行で見事にオチがついてあっと言わせるものから、正直「これどういう意味?」と首をひねってしまうものまで、面白いのとそうでないのとの差が大きい。

          あと、英語ならではの慣用句や、映画の知識がないとわかりづらいのもあるのですが、翻訳家の浅倉久志さんが巻末で解説をしてくれています。


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          「極短小説」は短い中でオチをつけるためか、どうしても内容がブラックなものが多いようです。読んでいて何かに似ているな、と思ったらこれでした↓

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          「ビブリア古書堂の事件手帖6 栞子さんと巡るさだめ」 三上 延

          2014.12.28 Sunday

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            ビブリア古書堂の事件手帖、今回は全編太宰治作品です。今回は「栞子さんと巡るさだめ」とあるように、彼女のルーツについて、驚くべき事実が判明します。

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            第一章 走れメロス


            前回の巻末、太宰治の希少本「晩年」に関する脅迫文が届き、大輔は第一巻「ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち」で、「晩年」を巡って栞子さんに怪我を負わせた犯人、田中俊雄に接触するものの、田中から逆に祖父が持っていた別の「晩年」を探して欲しいと依頼されます。

            真相をつかむためにも依頼を受けた栞子さんと大輔は、関係者へ聞き込みをはじめ、事件に巻き込まれていくのですが…。

            知己の同業者に事情を聞くと、栞子さんの祖父もまた、本に関する依頼を受けていたことを知ります。

            第二章 駆け込み訴へ


            太宰の書き込みがあったという(田中の祖父が持っていた)「晩年」を探し、富沢という人物に辿り着いたものの、田中の祖父が起こした蔵書盗難事件によって、疎遠になってしまった太宰研究会(ロマネスクの会)のメンバーと富沢氏の娘により、事件の真相解明を依頼されます。

            栞子さんは、50年近く前の盗難事件についても、明晰な推理をみせ、見事に解決したのですが、そこには田中の祖父と、大輔の祖母の秘密が関わっており、田中を利用して本を手に入れようとした人物は…。

            ここへきて、物語の鍵になる人物が出てきます。故人ではありますが、栞子さんの祖父の修行先の店主であり、希少本に異常な執着があり、強引な手段で手に入れる人物・久我山書房店主・久我山尚大。

            その久我山の行為そのものが、今もなお亡霊のように栞子さんたちの身に災いをもたらしていきます。

            この人物、これからも絡んできそうです。


            第三章 晩年


            栞子さんの「晩年」を奪おうとし脅迫文を送った、意外な犯人が判明します。確かに、最後まで読んでみると、一番しっくりくる動機をもっていますから。

            その他、大輔が気がついてしまった、篠川智恵子(栞子さんの母)の出生の秘密。それこそが「巡るさだめ」なのかもしれません。


            おまけ:ラブラブファイヤー


            正体のわからない脅迫者、祖父母の代までさかのぼった因縁、もうひとつの晩年の行方…と、深刻な内容が続きますが、ちゃんとラブ要素も、それも(2人にしては)すっごいのが出てきます。(*´∀`*) まさにラブラブファイヤーですね。ちなみにラブラブファイヤーは第一巻に登場した顧客の坂口しのぶさんの命名です。


            おまけ:栞子さんの母・智恵子が探している本についての考察


            ここまでわかっていることをまとめてみました。

            ・正気じゃ手に入らない、とんでもない古書である
            ・彼女はそれを探すため、家を出た
            ・「台湾」でに志田に再会
            ・篠川智恵子が大輔くんの病室で読んでいたのは「聖書」(HOLY BIBLE)
            ・栞子さんの祖父は「クリスチャン」で神父を目指していた
            ・ビブリア古書堂の名前の由来はラテン語の聖書を指すビブリアから

            「台湾」というキーワードから、以前「戦前に日本国外で出版、または執筆された、日本人作家の小説」ではないかと推理しました。6巻では新たに「キリスト教」というキーワードが追加されました。

            「聖書」にからんだもので、たとえば「世界、または日本で最初に出版された聖書」というのも考えられますが、「聖書」については、以前、ギャラリーフェイクという漫画で取り上げていたので、できれば、違う結末だと嬉しいのですが…。

            もうひとつ、キリスト教がらみで思い出したのが戦前、上海にあった内山書店です

            内山書店は日中文化人のサロンとしての役割を持ち、魯迅など中国人作家や、谷崎潤一郎など日本の作家とも親交があり、彼らの訪中時には世話をしていました。(内山完造著「そんへえ・おうへえ」→

            そして、店主の内山夫婦は、敬虔な「クリスチャン」でした。古書好きの間で内山書店は有名ですし、もしかしたら、栞子さんの母親が探す本は、内山書店がからんでいる希少本なのでは…と私は想像しています。例えば、谷崎や芥川、魯迅に金子光晴など、有名作家の未発表原稿を集めた、幻の単行本が密かに発行されていただとか…。

            今後の展開で、智恵子が探していた本が何なのか、明かされていくといいのですが…。

            「ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち」
            「ビブリア古書堂の事件手帖2〜栞子さんと謎めく日常」
            「ビブリア古書堂の事件手帖3〜栞子さんと消えない絆」
            「ビブリア古書堂の事件手帖4〜栞子さん2つの顔」
            「ビブリア古書堂の事件手帖5〜栞子さんと繋がりの時」
            ビブリア古書堂シリーズで紹介された本が一冊に。「栞子さんの本棚」
            JUGEMテーマ:オススメの本

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            探偵役・折口信夫が古代の暗号を解く 「猿丸幻視行」 井沢 元彦

            2014.12.09 Tuesday

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              演劇集団キャラメルボックスの演出家にして読書家の、成井豊さんおススメの一冊、「新装版 猿丸幻視行」を読みました。

              柿本人麻呂と猿丸大夫同一説を軸に、旧家に伝わる暗号を折口信夫が解いていくミステリーなのですが、この物語のもうひとつの特色として、過去の人物の意識下へのタイムスリップがあります。

              パラドックスを生じないタイムトラベル


              主人公香坂明は、民俗学を先行する大学院生。ある日、製薬会社の実験台として、意識だけを過去の人物とシンクロすることができる「意識だけ過去へ飛べるタイムトラベル」を依頼される。最初は渋っていた香坂だが、シンクロする人物が民俗学の巨匠折口信夫だと聞き、自分の家に伝わる暗号にまつわる事実を確かめるべく、タイムトラベルを承諾する。

              この場合のタイムトラベルは、いわゆる普通のタイムトラベルとは異なり、様々な制限が生じますが、その分、タイムパラドックスを引き起こすことはないので、安全な時間旅行といえるかもしれません。

              ・行けるのは過去のみ
              ・シンクロできる人物に制限がある
              ・シンクロした相手の意識を乗っ取ることはできない(ただ観ているだけ)

              こうして香坂は折口信夫の意識に入り込み、折口信夫の友人・柿本の家に伝わる人麻呂の暗号を解いている、まさにその場面に遭遇することになるのですが…。

              探偵・折口信夫


              折口信夫については「民俗学の権威で、天才」というくらいの認識しか持っていませんでした。この本を読もうと思った理由のひとつに折口信夫のことが少し学べると思ったからです。

              この物語にでてくる若き日の折口信夫は、人並み外れた知識を持つものの、引っ込み思案でどもり気味の内気な青年として描かれています。憧憬を抱いている友人・柿本のために、彼の家に伝わる人麻呂と猿丸の和歌の謎を解き明かそうとします。

              和歌の知識があればより一層面白いのでしょうが、なくても十分楽しめます。暗号解読表が出てくるミステリはやはりワクワクします。

              やがて、暗号の一部を解読した信夫は、柿本の故郷へ招かれるものの、そこでまた思いもかけない事件に遭遇することになります。

              後半は、タイムトラベルものというよりは、完全に探偵役となった折口信夫が暗号や殺人事件の謎を解いていく展開になっていって、タイムトラベルの内容が薄くなってしまったのがちょっと残念だったかな。

              でも、ミステリとしてはとても面白い作品でしたし、古典を題材にしたミステリって読んだことがなかったので新鮮でした。これからも古典ミステリ読んでみようかな…。

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              相棒脚本家が描く社会サスペンス『犯罪者 クリミナル』太田愛

              2014.07.30 Wednesday

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                相棒脚本家が描く社会サスペンス「犯罪者 クリミナル」を読了。いやー、すごかった。

                現代の社会問題をベースに、利権のために一般の人々の命を奪う側と、それを守ろうとする男たちの戦い。乱立するいくつもの事件と社会問題が、読み進めていくうちに一つの線につながっていきます。

                「犯罪者 クリミナル」 あらすじ


                建設作業員の繁藤修司は、クラブで知り合った女性・亜蓮と待ち合わせをした駅前広場で「偶然」通り魔に襲撃される。警察は死亡した覚せい剤常用者を犯人として捜査を進めるが、刑事の相馬は事件に不信感を抱く。

                一方通り魔事件の生き残りである修司は、病院で見知らぬ男から「4月4日まで生き延びてくれ。君が最後の一人なんだ。」と謎の言葉をかけられ…。

                犯罪者【上下 合本版】 (角川文庫)




                見事なまでの伏線回収


                通り魔事件、乳幼児の謎の発病、大手食品メーカーの恐喝事件、政治家の秘書、プロの殺し屋…。

                これらがいったい、どうつながっていくのか、最初のうちは、これらのピースがあまりにもかけ離れすぎて、想像もつかなかったのが、読み進めていくうちに、意外な部分でつながっていき、前半最後まで読むと、この多すぎる謎がひとつの事件になっていきます。


                社会の闇


                乳幼児の顔を腐らせる謎の病気の原因、それはタイタスフーズが政治家との癒着でゴリ押ししたベビーフードサンプルが原因だった。上部からサンプルの処分を言い渡された課長・中迫は、知人である産廃業者・真崎に協力を依頼する。その後、真崎は中迫の知らないうちにメディアへの告発、タイタスフーズへの恐喝を行うようになり…。

                実は、真崎には心のうちに大きな悲しみと彼なりの正義があって、それで中迫を裏切り単独犯として動いていきます。

                しかし、彼が犯罪者というなら、自分の利益のため事実をもみ消そうとしたフーズの人間や、掃除屋(殺し屋)を雇って事態の収拾を図ろうとする政治家の方がよほど「犯罪者」の資格があると思うのですが。

                その他にも産廃問題やテレビ報道の裏側、社会の闇部分が描かれていて、こんな社会に住んでいるんだと実感して恐ろしいです。


                行き詰まる頭脳戦


                唯一の証人である修司を、政治家の雇った掃除屋から匿うため、相馬は友人、鑓水を頼ります。

                この鑓水という男、元テレビマンで多くの人脈をもち、推理力にも長けている人物です。彼が後半探偵役となり、ある計画を実行しようとするのですが、そこには政治家が雇った掃除屋が立ちふさがり、彼らを排除しようとします。その行き詰まる頭脳戦が後半の読みどころです。

                またこのプロの掃除屋の滝川という男、ターミネーターのT2000並におっかないんですわ…((((;゜Д゜)))

                勧善懲悪ではない


                相棒の脚本家さんですから、そこいらの勧善懲悪のようにはいきません。悪は滅びないし、罰せられない。無辜の民の命は救われない。本当の犯罪者は反省なんかしない。

                悔しくて切ないけれど、けれどもその中でも、なんとかしてあがいて、状況を変えようとする人たちがいます。

                それが小さいながらも希望につながっていくんですね。前に読んだ「幻夏」よりは痛快感があったかな、と思います。

                鑓水と相馬、修司が活躍するシリーズ第二弾
                「幻夏」

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                レビューポータル「MONO-PORTAL」

                相棒の脚本家が描く、切ないミステリ 『幻夏』 太田愛

                2014.04.02 Wednesday

                0
                  人気ドラマ「相棒」の脚本家・太田愛さんの本格クライムミステリ『幻夏』を読みました。

                  読み終わって、なんとも言えない気持ちになりました。ある家族を襲った冤罪事件、それに連鎖するようにどんどんと悪い方向へ転げ落ちていく。そして、その家族を不幸へ陥れたのは、本来、市民を守るべき警察や法曹界の人間たちだったのです…。





                  『幻夏』あらすじ


                  23年前の夏休み。刑事の相馬は小学6年の時、近くに引っ越してきた尚と拓という兄弟と友だちになった。3人でいろいろな冒険をした素晴らしい夏休みだった。しかし、二学期の始業式の日、尚は忽然と姿を消してしまった…。

                  それから23年後。相馬の友人、私立探偵の鑓水のもとに、23年前に失踪した息子・尚を探して欲しいという風変わりな依頼が尚の母親から舞い込む。

                  時を同じくして、警察関係者の孫娘の誘拐事件が発生。その現場には「//=|」というなぞの記号が残されていた。その記号は、23年前、尚が失踪した河原の石に刻まれたのと同じものだった。

                  時間も状況も異なる3つの事件は、やがて意外な方向から結びつき始め、鑓水たちは、そのはじまりが尚の父親の冤罪事件だったことを突き止めるのだが…

                  なんとも魅力的で、悲しいストーリー


                  すべてを奪われた人間の、悲しく切ない復讐劇


                  大きな力によって、肉親を奪われた犯人が、明晰な頭脳で事件関係者の孫(小生意気なガキ)を誘拐し、身代金を要求する、といった痛快なストーリーは、岡嶋二人の名作ミステリ「99%の誘拐」を彷彿とさせます。

                  こちらもおすすめ、誘拐ミステリ
                  『99%の誘拐』。30年以上前パソコン黎明期に起きた誘拐事件をベースに、過去の事件との関連が描かれていきます。



                  しかし、読み進めていくと痛快どころか、どうにもならない過酷な状況に陥った人々の悲哀をこれでもか、と見せつけられます。正義は勝たず、警察は沈黙し、力のないものは抗うことができない。


                  冤罪の恐怖


                  自白を強要されても、立件してしまえば殆どの場合罪が覆されない現実、犯人を落とすためには証拠を握りつぶし、家族までも追い込む警察、激務に追われ、充分な調査を行わない検察や裁判官…。

                  恐ろしかったのは、彼らはたとえ冤罪であろうとも、組織を守るためには多少の犠牲はつきものと感じ、自分の仕事でたくさんの人を犠牲にしていることに、あまりにも頓着していないことでした。
                  本来市民を守るべき警察、法曹界に一度「犯人」と認識されてしまったら…
                  そんな恐怖を感じずにはいられませんでした。

                  こうした警察、法曹界の人間たちに「相棒」の右京さんだったらきっとこう言うでしょうね。「恥を知りなさい!」と…


                  おまけ:鑓水のキャスティング


                  本を読む時はよく、登場人物を頭の中でキャスティングするのですが、探偵・鑓水の「派手な柄シャツが似合う」って描写に、もう、この人以外のキャスティングが思いつきませんでした…

                  「幻夏」映像化の際はぜひ、及川光博さんにお願いしたいものです。

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                  鑓水と相馬、修司が活躍するシリーズ第一弾『犯罪者 クリミナル』
                  「犯罪者 クリミナル」感想

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                  『ビブリア古書堂の事件手帖5 栞子さんと繋がりの時』 三上 延

                  2014.02.06 Thursday

                  0
                    ビブリア古書堂の事件手帖 (5)~栞子さんと繋がりの時』を読みました。

                    北鎌倉のビブリア古書堂で、本に関わる謎を解く才能をもつ店主・栞子さんと、彼女を愛する店員の大輔。
                    栞子さんには、本を求めて失踪した母親がいますが、恐ろしく頭のきれる母親は、栞子さんと大輔を引き離し、自分のパートナーとして連れ去ろうとしています。

                    前回、大輔は栞子さんに告白したのですが、返事は保留。悶々としながらも素直に返事を待つ大輔。実は栞子さんは、返事をする前に、母親に会う決心をします。
                    しかし、母親の仲介役の人物から、会う条件として、ある謎を解くように指示を受け…。


                    『ビブリア古書堂の事件手帖5 栞子さんと繋がりの時』の物語構成


                    プロローグ 『愛のゆくえ』リチャード・プローティガン
                    第一話 『彷書月刊』
                    第二話 『ブラック・ジャック』
                    第三話 『われに五月を』
                    エピローグ 『愛のゆくえ』リチャード・プローティガン


                    目次に書かれているのは、これらの項目だけですが、読んでいくと「断章」という短編がはさまれています。これがちょっとした謎解きの「しかけ」につながっていきます。

                    プロローグとエピローグ


                    プロローグを読んでいて、ちょっとひっかかりを感じました。栞子と大輔のことを書いているようで、実は…。
                    そのプロローグのひっかかりが、エピローグで明かされる仕掛けになっています。

                    今回の『ビブリア古書堂の事件手帖』は、本の謎解きも面白いのですが、こうした本のなかの「しかけ」でも楽しませてくれます。


                    母と恋、娘の恋


                    今回は、栞子さんと大輔以外に、栞子さんの両親の恋も、物語にはさまれてきます。

                    知識へ欲求のまま、家族を捨てることになる母に、父親は、待つことを選びます。

                    栞子さんは、いつか自分も母と同じ道を辿るのではないか、という不安を大輔にぶつけますが、大輔から返ってきた答えは、意外でなものでした。

                    それは古書という深い世界の、外側にいる大輔ならではの素直な答えだったから、栞子さんの心も打ったのでしょうね。この答えが、すごくシンプルでいいんです。


                    ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~ (メディアワークス文庫)
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                    「ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち」
                    「ビブリア古書堂の事件手帖2〜栞子さんと謎めく日常〜」
                    「ビブリア古書堂の事件手帖3〜栞子さんと消えない絆〜」
                    「ビブリア古書堂の事件手帖4〜栞子さん2つの顔」
                    「ビブリア古書堂の事件手帖6 栞子さんと巡るさだめ」
                    ビブリア古書堂シリーズで紹介された本が一冊に「栞子さんの本棚」
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                    「バイバイ、ブラックバード」 伊坂 幸太郎

                    2013.10.16 Wednesday

                    0
                      久々に伊坂幸太郎作品を読みました。「バイバイ、ブラックバード」は、主人公の星野一彦が、トラブルに巻き込まれて「あのバス」という謎のバスにのせられることになり、星野は「あのバス」に乗る前に、愛する5人の女達に別れを告げに行けるように頼み込み、かくして毒舌で粗暴な大女、繭美が監視役として、奇妙な旅が始まります。


                      星野は、カッコイイわけじゃないのに、愛嬌があって、お人好しで女にモテるんですが、私はこういう男が大嫌いで、五股をしてるって時点で正直ドン引きなのですが、繭美が毒舌で一彦を貶めている構図があるから、安心して(?)読み進めることができました。

                      繭美が、私のような読者の気持ちを代弁してくれるんですね。

                      繭美に言わせると、星野の恋愛は子どものサッカーと同じで、計画性もなくただ目の前のボール(女性)が現れると夢中になって追ってしまうから、結果的に五股という状況になってしまったのだとか。

                      普通に描くと、愛憎と死がドロドロになりそうな設定なのですが、警察の追跡捜査に車を奪われた話や、デパートにロープで侵入してバーゲンに備える女など、伊坂さんらしいユニークなエピソードが満載で楽しかったです。

                      5人の女達に別れを告げ、そのたびにいろいろな事件に巻き込まれたりするのですが、その旅も終わり、いよいよ「あのバス」に乗ることになり、星野と繭美の奇妙なバディ旅も終わりを告げることになるのですが…。

                      ラストの数行が、ものすごくかっこいい。このラストのために、物語が存在するといってもいいかもしれない。

                      このお話のベースは、太宰治の未完の小説「グッド・バイ」をモチーフに書かれた小説だそうです。


                      映像化するなら、星野は定番の濱田岳、繭美はマツコ・デラックス、不思議ちゃんの如月ユミは剛力彩芽がいいな。

                      バイバイ、ブラックバード (双葉文庫)
                      伊坂 幸太郎 双葉社 (2013-03-14)売り上げランキング: 5,005



                      グッド・バイ」は山崎まさよし、水川あさみで映像化されてます。山崎まさよしのヘタレっぷりが面白かったなあ。

                      BUNGO-日本文学シネマ- グッド・バイ [DVD]
                      アニプレックス (2010-06-19)売り上げランキング: 79,154


                      伊坂作品感想
                      重力ピエロ
                      陽気なギャングが地球を回す

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