不思議で不可思議 『海に住む少女』 シュペルヴィエル

2016.09.13 Tuesday

0
    シュペルヴィエル『海の上の少女―シュペルヴィエル短篇選 (大人の本棚)』、不思議で不可思議。でも読んでいくとどんどん世界に潜っていく。そんな物語。

    私は普段、翻訳もの(ミステリや歴史以外)はほとんど読まないのですが、とあるきっかけから、偶然にもこの本を手に入れました

    シュペルヴィエルという人は、小説家でも詩人でもあり、「フランスの宮沢賢治」と例えられているそうです。確かに、宗教の物語をモチーフにした作品があるのは共通しているかも。でも、作風は宮沢賢治というより、レイ・ブラッドベリに近い気がします。救われない話もありますから。

    たったひとり、海の中にある街に住む少女、キリスト誕生につきそった牛の物語、ノアの方舟にまつわるお話。日常と少しだけ離れた不思議な世界は、読むものを深い世界へ誘ってくれます。

    海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)
    シュペルヴィエル 光文社 売り上げランキング: 311,031


    JUGEMテーマ:最近読んだ本


    レビューポータル「MONO-PORTAL」

    八咫烏シリーズ『玉依姫』 阿部 智里

    2016.08.04 Thursday

    0
      阿部智里さんの和風ファンタジー小説、八咫烏シリーズ『玉依姫』読了。こう言っちゃなんだが、阿部智里さんは読者の期待を裏切る作家だ。もちろん、いい意味でですけど。

      これまでは、人型をとる不思議な八咫烏の一族と、彼らの住む「山内」という世界で起こる物語でしたが、今回の舞台は人間の世界。いきなり神域へ連れてこられた人間の少女と、八咫烏が使える山神との物語が展開していきます。

      いや〜なんとも思い切ったものだ。

      山内の世界観なんて、引っ張ろうと思えば、いくらでも設定を継ぎ足して長い物語にできるだろうに、(下手な作家なら、この方式で必要以上に引っ張るのだが)たった5冊目で世界の謎が明らかにされ、物語はいったん完結してしまいます。

      玉依姫
      玉依姫
      posted with amazlet at 16.08.03
      阿部 智里 文藝春秋 売り上げランキング: 1,108


      『玉依姫』あらすじ


      高校生の志帆は、これまで音信不通だった伯父から誘われ、母の故郷である「山内」村へ向かう。祖母の実の息子である伯父に対する厳しい態度に訝しみながらも、祖母に内緒で山内村を尋ねると、そこでは山神に生け贄を捧げる儀式が今もとり行われ、志帆はその生け贄にされてしまう。

      山神のいる神域で、代替わりした、まだ幼い山神を育てる役目を担わされることになった志帆の前に「奈月彦」と
      いう山神の使いと、大猿が現れ…。

      いい意味で裏切られた展開


      一作目『烏に単は似合わない 』では、独自の世界観を見せつつ、宮中で起こるミステリを描き、二作目からは、奈月彦に使える雪哉という少年の視点で、八咫烏の世界の謎が徐々に明らかになっていきました。

      前作『空棺の烏』で大敵・猿との大戦が間近にせまる、というところで終わったので、てっきり最新作では猿との戦いが描かれるのかとおもいきや、まさかのラスボス、山神が登場し、彼をめぐる謎が物語の主軸になっていきました。

      これまでの作品では、山神は八咫烏の世界の創造主であり、敬うべき存在と思われていたのが、かんしゃくをおこす幼子のような山神に、八咫烏も、志帆も手を焼いていきます。

      山神が神たるためには、体を赤ん坊から生まれ変わらせる必要があり、志帆は彼を育てる母親役として人身御供にされたのでした。

      これまで書いてきた世界とは、真逆の視点から描く、というのは、実は勇気がいることなんじゃないかと。人気もあるシリーズなのに、成功パターンをあっさり捨てて、新しい物を書いていく。阿部智里さんの作家魂のすさまじさを感じるとともに、これからどんなものを書いていくのか、という期待にワクワクします。

      それにしても、山神の癇癪で殺された八咫烏は誰なんだろう…?茂丸?千早?それとも、雪哉…?思い切ったことをする阿部さんのことなので、雪哉をあっさり死なしてしまうことは十分考えられるので怖い。
      それは次の『弥栄の烏』で明かされることになるのですが…
      『弥栄の烏』

      弥栄の烏 八咫烏シリーズ6

      新品価格
      ¥1,620から
      (2018/4/15 21:54時点)





      いよいよ八咫烏シリーズ外伝『烏百花 蛍の章』の発売が決まりました。これまでの短編に加えて書き下ろしも。

      烏百花 蛍の章 八咫烏外伝

      新品価格
      ¥1,512から
      (2018/5/2 01:00時点)




      八咫烏シリーズ


      『烏に単衣は似合わない』
      『烏は主を選ばない』
      『黄金の烏』
      『空棺の烏』
      『弥栄の烏』
      外伝『すみのさくら』
      外伝『しのぶひと』
      外伝『ふゆきにおもう』
      外伝『まつばちりて』
      外伝『あきのあやぎぬ』
      外伝『ふゆのことら』
      レビューポータル「MONO-PORTAL」

      八咫烏シリーズ『空棺の烏』 阿部智里

      2016.06.13 Monday

      0
        阿部智里さんの『空棺の烏』読了。今回もまた、面白くて一気読み。今までと違って、謎解きよりも、学生生活に重きが置かれています。いや、意外なところに謎解きはあったのですが。

        でも、この本での主人公・雪哉が体験する勁草院での学生生活と、そこで出会う友人たちとの友情こそが、この本の読みどころではないかと思うのです。

        『空棺の烏』あらすじ


        前回、人の姿を持つ八咫烏の世界「山内」に、外敵・猿が結界を破って八咫烏を襲う事件が発生した。山内の危機を救う「真の金烏」である若宮・奈月彦を守るため、彼に忠誠を誓った地方豪族の次男坊・雪哉は金烏を守護する「山内衆」の養成学校、勁草院へ入学する。

        平民出身の茂丸、西領本家の貴族・明留、ワケありな南領出身・千早など、個性的なメンバーに囲まれ、厳しい課題に向き合いつつ、彼らとの間に友情が生まれるが、勁草院では、若宮派と、その兄・長束派に分かれての対立がエスカレートしていき…。

        空棺の烏
        空棺の烏
        posted with amazlet at 16.06.12
        阿部 智里 文藝春秋 売り上げランキング: 2,244


        八咫烏版、ホグワーツ


        今回の読みどころは、雪哉が入学する勁草院の学生生活です。若宮をはじめ、金烏の一族を守る優れた武官を養成するために、その授業は格闘や剣術などの他、法律や医術といった座学、「馬」と呼ばれる鳥形の八咫烏を乗りこなす御法、戦術シュミレーションを行う兵学など、その授業は多岐にわたり、進級試験に合格しなければ、身分にかかわりなく退学と実力社会です。

        そんな中でもご飯を食べたり、語り合ったり、時には喧嘩したり、ハリー・ポッターの魔法学校、ホグワーツを思い出しました。

        最初は貴族の明留と平民(雪哉も平民より)の生徒たちとの軋轢があったりするのですが、それを乗り越えて行くところが胸熱で。青春ていいな(*´∀`*)

        こうした学生時代に培った友は、これから命がけの任務につく彼らにとって、貴重な財産となるのでしょうね。

        空棺の烏とは


        雪哉たちの学生生活と平行して、若宮の方で起こる新たな問題も描かれます。若宮が先代の「真の金烏」の記憶を持たないことが原因で、神官が若宮の即位に待ったをかけたため、若宮は先代の金烏の情報を調べていくうち、意外なことが判明してゆくのですが…

        タイトルにもなった「空棺の烏」とは、行方不明になった先代の金烏のこと。彼の行動にどんな意味があるのか、そして八咫烏を襲う猿との対決も間近にせまり、次回の話が待ち遠しいです。


        いよいよ八咫烏シリーズ外伝『烏百花 蛍の章』の発売が決まりました。これまでの短編に加えて書き下ろしも。

        烏百花 蛍の章 八咫烏外伝

        新品価格
        ¥1,512から
        (2018/5/2 01:00時点)




        八咫烏シリーズ


        『烏に単衣は似合わない』
        『烏は主を選ばない』
        『黄金の烏』
        『空棺の烏』
        『玉依姫』
        『弥栄の烏』
        外伝『すみのさくら』
        外伝『しのぶひと』
        外伝『ふゆきにおもう』
        外伝『まつばちりて』
        外伝『あきのあやぎぬ』
        外伝『ふゆのことら』
        レビューポータル「MONO-PORTAL」

        八咫烏シリーズ『黄金の烏』 阿部 智里

        2016.04.19 Tuesday

        0
          八咫烏シリーズ『黄金の烏』読了。面白くて一気読み。相変わらず阿部智里さんの書く世界観は独特で面白いのです。

          『黄金の烏』あらすじ


          人の姿をとれる八咫烏の住まう世界「山内」、その世界を統べる特別な烏を「金烏」という。

          金烏は、あらゆる烏の父であり、母でもある。山内が危機に瀕したときに生まれ出るとされ、現在では、若君の奈月彦が金烏であると言われている。

          地方豪族の次男坊・雪哉は以前、日嗣の皇子である若君に仕えていたが、現在は故郷の垂氷にもどっていた。ある日、「仙人蓋」と言われる危険な薬物を使用し、暴れていた者と遭遇する。

          雪哉はお忍びで垂氷へ来ていた若君と共に、薬の調査を開始するが、調べの途中で立ち寄った辺境の村で、全ての村人が「猿」に喰われるという異常事態に遭遇する。

          生き残ったのはたった一人、行李に入れられ、難を逃れた小梅という少女だけだった。

          やがて、人喰い猿を山内へ引き込んだものがいることがわかり、そしてそれは、小梅が鍵をにぎっているらしいのだが…

          黄金の烏
          黄金の烏
          posted with amazlet at 16.04.06
          阿部 智里 文藝春秋 売り上げランキング: 17,481



          八咫烏の住む世界について


          今回は、「山内」の世界の謎、外の世界との関わり、そして、真の金烏とは何か?と言う謎が少し明かされます。
          山内は、言わば大きな結界であり、そこからの出入りは(とくに、入ることが)容易ではありません。

          今までの敵は、宮中内の同じ烏同士でしたが、今回は新たな敵「猿」が登場します。また八咫烏の世界と何らかの関わりがある「人間」の存在も。今まで、独立した異世界だと思っていた「山内」が実はいろいろな世界とつながり、影響を与えているらしいことがわかってきます。


          でも今回、雪哉は、金烏である若君が、世界を救う力を持つことに懐疑的でしたが、今回、若君の力を目の当たりにしたことで、若君のマイペースな行動の裏にある思いに、触れることになります。

          それが、どんな結果を若君や雪哉にもたらすのでしょう。これからの展開が楽しみです。


          烏に単は似合わない (文春文庫)
          阿部 智里 文藝春秋 (2014-06-10)売り上げランキング: 55,321



          黄金の烏 (文春文庫)
          黄金の烏 (文春文庫)
          posted with amazlet at 16.06.22
          阿部 智里 文藝春秋 (2016-06-10)売り上げランキング: 687



          いよいよ八咫烏シリーズ外伝『烏百花 蛍の章』の発売。これまでの短編に加えて書き下ろしも。

          烏百花 蛍の章 八咫烏外伝

          新品価格
          ¥1,512から
          (2018/5/2 01:00時点)




          八咫烏シリーズ


          『烏に単衣は似合わない』
          『烏は主を選ばない』
          『黄金の烏』
          『空棺の烏』
          『玉依姫』
          『弥栄の烏』
          外伝『すみのさくら』
          外伝『しのぶひと』
          外伝『ふゆきにおもう』
          外伝『まつばちりて』
          外伝『あきのあやぎぬ』
          外伝『ふゆのことら』
          レビューポータル「MONO-PORTAL」
          JUGEMテーマ:オススメの本


          江戸時代の猫ばなし 『猪吉とたま』 くるねこ 大和

          2016.04.06 Wednesday

          0
            江戸時代の猫と侍のほのぼの話を描いたくるねこ大和さんの『殿様とトラ 』シリーズの外伝『猪吉とたま 殿様とトラ (一般書籍)』。

            殿様とトラ 』に登場し、後に猫のトラと仔をもうけるメス猫の「たま」と、ちょっとどんくさい雉のキジ夫、飼い主の猪吉の日常。

            たまは、顔に3本の傷があり(実はそれはキジ夫がつけた)とてもいかつい風貌なのだけど、心根はけっこうやさしく、面倒見がよい。

            偶然、たまを飼うことになった猪吉は、いかついたまを可愛がり、仔猫が生まれると畑仕事そっちのけで溺愛。心配した近所の正吉どん(猫好き)とセンセー(トラの飼い主・寺子屋先生)が相談して、猪吉っつあんに嫁をとらせようと画策する。

            ものがたりの途中に「セン」という娘の物語も同時進行で描かれ、やがてそのセンが猪吉と出会うというストーリーになっています。

            センは山芋堀りが好きな一風変わった娘ですが、そこは、たまやキジ夫など、クセのある動物たちにも愛情をそそぐ猪吉さんのこと。そんなセンさんを気に入り、仲人の正吉さんとセンさんの家に向かうところで離しは終わります。

            センさんなら、猪吉ファミリーにもきっと愛されて、幸せになりそう。

            読んでいてほっこりする話でした。(*´∀`*)

            猪吉とたま (バーズ エクストラ)

            中古価格
            ¥1から
            (2018/7/14 22:02時点)




            殿様(飼い主のセンセーのことを、トラはこう呼ぶ)にも、良いお相手がくるといいのだけど…

            『殿様とトラ』→

            殿様とトラ (バーズ エクストラ)

            中古価格
            ¥1から
            (2018/7/14 22:03時点)




            『殿様とトラ 幼少編』→

            殿様とトラ 幼少篇 (書籍扱いコミックス)

            中古価格
            ¥1から
            (2018/7/14 22:03時点)




            JUGEMテーマ:おすすめの漫画

            レビューポータル「MONO-PORTAL」

            『ケルトとローマの息子』ローズマリー・サトクリフ

            2016.03.20 Sunday

            0
              「精霊の守り人」の作者、上橋菜穂子先生が影響を受けたイギリスの作家、ローズマリー・サトクリフの『ケルトとローマの息子』読了。これは、子どもに読ませるのがもったいないほど、骨太な歴史ファンタジーです。

              ローマとケルトの息子 あらすじ


              ローマ人でありながら、ケルトの氏族に育てられたベリック。周りからは「赤いたてがみ」(ローマの司令官がつける兜の色から)と差別されるが、鍛錬をつんで立派な戦士となる。しかし、村に不作と病が襲い、ベリックは災厄を連れてきたとして、村から追放されてしまう。ベリックはローマ軍に入るため旅にでるが、よこしまな商人に騙され奴隷に身を落とす。

              ブリタニア(イギリス)からローマ、ゲルマニア(ドイツ周辺)、そしてまたブリタニアへ。過酷な運命に翻弄されるベリックのたどり着いた場所は…



              被支配者からの視点


              サトクリフの名作『第九軍団のワシ』は、ローマ人の青年マーカスと、元奴隷のエスカの冒険譚で、征服者側のマーカス視点で描かれます。反対に、『ローマとケルトの息子』は、征服されたブリタニアの氏族の少年、ベリックからローマ側をみています。

              ローマの支配は、インフラを整備し、現地の暮らしを向上させ、現地人との混血も進んだものの、やはり、支配者と、被支配者の間には、大きな隔たりがあり、

              しかし、ベリックは本当はローマ人の血をひいているので、物語はより複雑で、ローマとケルト、どちらにも疎まれ、裏切られたベリックは孤独と疎外感に苛まれます。

              様々な人間に裏切られ、手負いの狼のように傷ついたベリックが最後にたどり着くのが、ブリタニアで干拓事業を行うローマ軍人・ユスティニアス。彼もまた、つらい過去を背負った人間で、だからこそ、傷ついたベリックを家族として迎え入れてくれます。


              大人が読みたい、骨太な歴史ファンタジー


              ベリックが追い込まれていく様子が、とても生々しく描かれています。中でも恐ろしいのは、奴隷となってからの描写で、奴隷の生活はベリックの自由を奪うだけでなく、徐々に奴隷生活が当たり前として、何も感じなくなっていくのです。

              そして、その後のガレー船での描写は、本当にひどい。奴隷になると、人間だったものがどんどんと獣のように本能むきだしになっていくんです。

              サトクリフはよくもまあ、こんな過酷な物語を、子供向けに書いたものです。しかしこれは、読んでおくべき話だと思います。そして、大人が読んでも十分読み応えのある物語です。

              おまけ:食べ物表現


              サトクリフは、食べ物の表現が非常に豊か。ブリタニアの丸焼きのイノシシや大鍋のシチュウ、ローマの子ヤギのミルク煮、アーモンドケーキなどの豪華料理。どれも歴史や当時の風俗を反映したごちそうがどれも美味しそう。

              歴メシ! 世界の歴史料理をおいしく食べる』古代メソポタミヤやローマ時代の料理が再現されています。メソポタミアは塩がないので野菜で出汁をとるしかなく、反対にローマの料理は現代でも食べたくなる豪華さです。

              歴メシ! 世界の歴史料理をおいしく食べる

              中古価格
              ¥1,063から
              (2020/5/7 13:45時点)




              サトクリフ作品感想
              『ケルトの白馬』→
              『第九軍団のワシ』→

              レビューポータル「MONO-PORTAL」
              JUGEMテーマ:オススメの本

              可愛い墨の妖怪のお話 「墨妖」 添田 健一

              2015.10.06 Tuesday

              0
                西荻窪の古本屋さんでみつけた「墨妖」は、中国・北宋の時代を舞台にした、墨の妖怪のお話です。

                古本屋さんで扱っているからといっても、古本ではありません。発行部数はすくないけれど、れっきとした文庫本で、幻想小説専門の出版社・密林社から発行されています。一般の出版社の作品とは、ちょっと趣が異なる感じの物語でした。

                墨妖

                新品価格
                ¥1,080から
                (2019/3/26 14:16時点)





                「墨妖」あらすじ


                北宋時代、最高の詩人と謳われた蘇軾(東坡先生)は、文人としても官吏としても高名だが、ひとつだけ、こまった癖があった。良い墨と出会うと、それがたとえ人の持ち物だとしても、強引な手段で奪い取ろうとすることだ。(といっても、刃傷沙汰を起こすわけではないけれど。)

                今回も、弟子の山谷先生の墨を強引に奪いとってしまった。東坡先生の秘書兼、女弟子(侍妾でもある)子霞は、なんとか先生の悪い癖をやめさせようと、いったん墨をあずかるのだが、子霞が墨を持つと、不思議なことに、墨一色のちょうちょや猫の姿が浮かび上がる。変異を察知した彼女は、思わず墨に呼びかけると、そこには12歳ほどの少女が現れた。

                子霞はそのかわいい墨の妖怪に「窈」と名をつけ、友となる。

                しかし墨は使ってこそのもの。墨が終われば、窈の姿も消えてなくなる。子霞のだした結論は…。


                不思議でかわいく、少しせつないお話


                主人公の子霞は、東坡先生の女弟子として愛情と薫陶を一身にうけ、家族からも愛されているけれど、過去の悲しい出来事もあり、親しく交わる友人がいませんでした。そんな時に現れたのが、可愛い墨の妖怪である「窈」。

                幼い頃に東坡先生の元に来てから家の中で、書や琴に親しむだけだった子霞にとって、ともだちと呼べる存在がいなかったのです。(東坡先生が度々左遷をくらって、引っ越しも多かったし)

                子霞は、美しく聡明なのですが、どこか「おさなごころ」を残しているひとなので、少女の姿をした墨妖と、童心に帰ったようにして遊びます。そのシーンがとても可愛らしい。

                墨は、使えば減り、やがてなくなってしまうもの。貴重な墨をコレクションする人もいますが、東坡先生も子霞も、「墨は使ってこそ」という考えを持っているので、子霞はあえて、友の命を削り、書として次の世に残すことを選びます。

                中国の、墨や書、文人たちの姿がいきいきと描かれていて、とてもおもしろかった「墨妖」。また子霞と東坡先生のシリーズで続編を書いてほしいです。

                そえぶし 添田健一武侠志怪小説集

                新品価格
                ¥540から
                (2019/3/26 14:17時点)





                JUGEMテーマ:オススメの本


                レビューポータル「MONO-PORTAL」

                八咫烏シリーズ『烏は主を選ばない』 阿部 智里

                2015.09.30 Wednesday

                0
                  2作目にして、人型をとる八咫烏(やたがらす)の世界が広がり、これは「精霊の守り人」「十二国記」と同く、名ファンタジーシリーズになりそうな予感がします。また、「烏は主を選ばない」は、ファンタジーの形を借りたミステリでもあるので、謎解きの面白さもあるのです。

                  烏は主を選ばない あらすじ


                  八咫烏がくらす世界「山内」の中の北領、その地方豪族のぼんくら次男、雪哉は、ある事件がきっかけとなり、日嗣の御子の側仕えとして宮中へ出仕するハメになる。

                  雪哉がつかえることになった若宮・奈月彦は、その美しい容姿とは裏腹に、とてつもなくマイペースで、破天荒。たったひとりの側仕えとして、無茶振りをこなすほか、若宮の妓楼通いにつきあったり、博打のかたに下働きをさせられることに。雪哉は父親と約束した1年の条件で、嫌がりながらも、若宮の近習をつとめることになる。

                  若宮は、兄君・長束を差し置いて金烏(この世界での最高権力者)に指名されていたため、常に暗殺の危機を抱えていた。誰が味方で、誰が敵か。若宮の暗殺事件をめぐって宮中の権力が交錯する。

                  烏は主を選ばない 八咫烏シリーズ 2 (文春文庫)

                  中古価格
                  ¥128から
                  (2018/6/30 23:46時点)





                  若宮暗殺を巡る、宮廷ミステリ


                  前回の「烏に単は似合わない」では、この若宮のお后候補として、4人の姫君が登殿し、若宮を待ち焦がれる間に様々な事件が起こるのですが、若宮はラストまで姿を表しません。

                  じゃあ、何をしていたかというと、その理由がこの「烏は主を選ばない」で語られます。なにせ、信頼できる味方が護衛の「山内衆」澄尾と雪哉しかいないという状態なので、敵を炙りだしたり、暗殺を阻止したりと忙しかったんですね。

                  姫たちのもとに通わなかったのも、姫たちに下手に期待を持たせたくなかったのと、暗殺の危険性があるからだったんですね。じゃあちゃんと説明しろよ、と思うのですが、どうもこの若宮、「言葉が圧倒的に少ない」(雪哉談)らしいのです。おそらく賢すぎて、相手も言わなくてもわかるだろ、わからない奴はいいや、と思っているフシがあります。

                  まあ、そんな手のかかる若宮ですが、雪哉も怒りながらも徐々に仲良くなっていくんですね。時々、若宮が投げてよこす「金柑の砂糖漬け」の描写が、若宮の、雪哉に対する信頼を表現しています。


                  前作「烏に単は似合わない」感想→

                  烏に単は似合わない? 八咫烏シリーズ 1 (文春文庫)

                  中古価格
                  ¥1から
                  (2018/6/30 23:47時点)



                  いよいよ八咫烏シリーズ外伝『烏百花 蛍の章』の発売が決まりました。これまでの短編に加えて書き下ろしも。

                  烏百花 蛍の章 八咫烏外伝

                  新品価格
                  ¥1,512から
                  (2018/5/2 01:00時点)




                  八咫烏シリーズ


                  『烏に単衣は似合わない』
                  『烏は主を選ばない』
                  『黄金の烏』
                  『空棺の烏』
                  『玉依姫』
                  『弥栄の烏』
                  外伝『すみのさくら』
                  外伝『しのぶひと』
                  外伝『ふゆきにおもう』
                  外伝『まつばちりて』
                  外伝『あきのあやぎぬ』
                  外伝『ふゆのことら』
                  レビューポータル「MONO-PORTAL」
                  JUGEMテーマ:オススメの本


                  しゃばけシリーズ 「なりたい」 畠中恵

                  2015.08.10 Monday

                  0
                    しゃばけシリーズ「なりたい」は、若だんなの将来、「なりたいもの」の話を軸に、いろんなあやかしたちが「なりたい」ことに巻き込まれていくお話です。

                    なりたい
                    なりたい
                    posted with amazlet at 15.08.02
                    畠中 恵 新潮社 売り上げランキング: 147


                    妖になりたい


                    病のため、普通の人のような働き方はできないと考えた若だんなは、妖たちと協力して新しい薬を考えます。

                    その薬には蜜蝋が必要で、長崎屋と取引のある名主の甚兵衛さんに頼んだものの、甚兵衛さんから蜜蝋取引の条件として「妖になりたい」と言われ、一方では羽をなくし、坊主となった黒羽坊の友人赤山坊は、黒羽坊をもとにもどせと若だんなにせまり…

                    人になりたい


                    出入りの日限の親分から、親友の修行先の親方が殺人事件に巻き込まれたときき、調査を開始する若だんな。

                    ところが殺されたはずの菓子職人、勇次は生きており、おまけに出自は元道祖神だという。元のように菓子職人として暮らしたいと頼まれる若だんなが、殺人(未遂)事件の謎を解きます。


                    猫になりたい


                    猫又のおしろから、元人間の猫又・春一を紹介される若だんな。春一は猫又になりながらも、傾きかけた弟と店を守る思いが強く、猫又になった。

                    ちょうど、縁のあった戸塚の猫又・虎と藤沢の猫又、熊一が猫又の頭を決めるため、若だんなの元へ。裁定人として春一が選ばれ、無事勤めれば猫又たちと取引することができる。
                    けれど、そこへ、長崎屋の大福帳が盗まれる事件が起き…。


                    親になりたい


                    長崎屋の奉公人・おようが見合いをすることになるが、相手のもらい子・三太が急に暴れ出してしまう。

                    どうやらその子は妖らしく、若だんなは縁談をまとめるべく三太のもとの居場所を探そうとする。ところが、三太には別の父親をなのる人物があらわれ…。


                    りっぱになりたい


                    長崎屋とも取引あった古川屋の若だんな万之助が亡くなり、通夜に参列した若だんなだったが、幽霊となった万之助からある頼み事をされる。

                    一方、通夜の騒ぎで万之助の妹が行方しれずになり、身代金の請求が。若だんなは、野辺送りまでに万之助の願いと、妹の救出、どちらも解決しなければならなくなり…。


                    実は、最後に、若だんなのなりたいものがきまるのですが、それは外伝「えどさがし」の話に繋がっているのです。

                    大妖の血を継いでいるとはいえ、若だんなは普通の、それもめっぽう体の弱い人間なので、いつかはあやかしたちとも別れなければならない。どうやら、それは、避けられないようです…。


                    えどさがし (新潮文庫)
                    畠中 恵 新潮社 (2014-11-28)売り上げランキング: 4,133



                    しゃばけシリーズ感想


                    「しゃばけ」感想→
                    「ぬしさまへ」感想→
                    「おまけのこ」感想→
                    「うそうそ」感想→
                    「いっちばん」感想→
                    しゃばけ絵本「みぃつけた」感想→
                    「ころころろ」感想→
                    「ゆんでめて」感想→
                    「やなりいなり」感想→
                    「ひなこまち」感想→
                    「たぶんねこ」感想→
                    「すえずえ」感想→
                    外伝「えどさがし」感想→
                    「しゃばけ読本」→
                    2007しゃばけドラマ感想→
                    2008しゃばけドラマ感想→

                    JUGEMテーマ:オススメの本

                    僕僕先生シリーズ 「仙丹の契り」 仁木 英之

                    2015.02.10 Tuesday

                    0
                      僕僕先生シリーズ、今回は叶藩(チベットを)へ向かう僕僕先生たちですが、今までずっと共に旅をしてきた薄妃と、蒼芽香が旅から外れます。

                      ずっと一緒に旅をしてきた仲間が去るのは寂しい王弁ですが、僕僕先生とふたりきりの時間が多くなり(もうひとりの仲間、劉欣はほぼ別行動)、先生から新たな医術・経絡(ツボ)を習えるのはまんざらでもないらしく、そんなところを僕僕先生にからかわれています。

                      しかし、前回知り合った医師・ドルマが吐藩の王子だったことで、吐藩の内乱に巻き込まれていきます。おまけに、白塗りの異形の祈祷師デラクというものも現れ、僕僕一行に立ちはだかります。その裏ではある人物が糸をひいているようなのですが…。

                      王弁の力


                      僕僕先生からは無能と脳天気さをからかわれ、元暗殺者・劉欣からは、苦労知らずを疎まれる王弁ですが、実は、王弁、こうみえてすごいんです。

                      もっとすごいのが周囲にいるから気が付かないだけで、ドルマのピンチには機転をきかせたり、時には僕僕先生が驚くほどの包容力を発揮したりします。ま、普段は正直すぎて周りに迷惑をかけたりするんですけどね。

                      仙丹の契りと新たな道


                      内乱に揺れる吐藩では、ドルマの父であるテムジン王が病に伏していた。王を助けるためには仙丹と言われる特別な薬を調合しなければならず、それには僕僕先生と王弁が「契る」必要があるという。

                      心の準備ができていないと拒む王弁でしたが、どうやらふたりの「契り」とは、私達の(王弁も)考えるものとはちょっと違うようで…。

                      それでも、2人のこころが重なりあい、もっと深いところでつながったようでした。
                      しかし、ここでもいろいろと邪魔が入り、二人の旅はいよいよ長安へ。そこで僕僕一行を待ち構えているのでしょうか…。


                      仙丹の契り 僕僕先生
                      仙丹の契り 僕僕先生
                      posted with amazlet at 15.02.08
                      仁木 英之 新潮社 売り上げランキング: 226,051


                      僕僕先生シリーズ
                      「僕僕先生」→
                      「薄妃の恋」→
                      「胡蝶の失くし物」→
                      「さびしい女神」→
                      「先生の隠し事」→
                      「鋼の魂」→

                      JUGEMテーマ:ファンタジー小説

                      レビューポータル「MONO-PORTAL」