国芳の弟子たち『おもちゃ絵芳藤』谷津 矢車

2017.08.20 Sunday

0
    幕末から明治にかけて、激動の時代を生きた絵師たちの物語。『おもちゃ絵芳藤』は、歌川国芳の弟子・歌川芳藤の視点で国芳の4人絵師たちの生き様を描いた物語。

    『おもちゃ絵芳藤』あらすじ


    歌川国芳が死に、弟子の芳藤は師匠の葬式を出すため国芳の娘たちや兄弟子たちを訪ねる。喪主をつとめるよう声をかけるが。色好い返事はもらえない。
    しかたなく戻ると、そこには三味線をかき鳴らして大騒ぎする弟弟子たちがいた。

    繊細で臆病な月岡芳年、豪放磊落な落合芳幾(幾次郎)、圧倒的な個性で一時代をつくった河鍋狂斎(暁斎)、彼らと協力しなんとか師匠の葬式を出しせたものの、追善絵の代表を一門から選ぶにあたり、芳藤は狂斎から「あんたの絵には華がない」と言われてしまう。

    国芳の死を契機にして、時代は幕末の混乱から明治へと移り、芳藤ら絵師たちは苦境にたたされることになり…

    おもちゃ絵芳藤

    中古価格
    ¥617から
    (2018/7/15 12:17時点)





    絵師の生きざま


    芳藤の得意は「おもちゃ絵」という、双六など子供が使う玩具に使われる絵を得意とする絵師。国芳一門でも目立たない存在です。

    世の中が明治に変わっても、相変わらずおもちゃ絵と、国芳塾を守ることを生業としている芳藤。その姿はかたくなで、弟弟子たちが仕事を世話しても、頑として譲らない。

    読んでいて最初は、芳藤のあまりに平凡さ、時代にのれない頑固さを歯がゆくおもっていました。
    お互い憎からず思っていた国芳の娘さんとの縁談も、亡き妻や師匠に遠慮して身を引いてしまうし。

    けれど読み終わってみると、絵師という矜持を不器用なりに最後まで貫きとおしたその姿は、すごいもんだな、と感じずにはいられませんでした。どんな道でも、たとえ人から嗤われようとも最後まで貫き通す。
    芳藤が国芳から受け継いだのは、技でも画塾でもなく、「絵師としての生きざま」だったのかもしれません。

    でなければ暁斎が一世一代の仕事「枯木寒鴉図」を描くときに見届けてほしいとは思わなかったでしょう。

    ひらひら 国芳一門浮世譚』にも芳藤が登場します。こちらは眼鏡男子として描かれています。

    ひらひら 国芳一門浮世譚

    中古価格
    ¥1から
    (2018/7/15 12:17時点)




    幕末から明治期にかけて活躍した絵師・河鍋暁斎。幼いころ国芳一門に所属し、その後、狩野派絵師として活躍しましたが、一部の絵には国芳の影響がみられるのだとか。おそらく国芳のもとを離れても付き合いはあったのかもしれません。

    だから、『おもちゃ絵芳藤』で国芳一門と河鍋暁斎が絡んでいるのをみて、暁斎ファンとしてはうれしかったです。

    歌川国芳も若いころ、葛飾北斎のところに出入りしていたと杉浦日名子さんの「百日紅」にもかかれているので、案外、他流の絵師たちの交流は多かったのかもしれません。

    別太 河鍋暁斎 (別冊太陽)
    安村敏信 平凡社 (2008-04-04)売り上げランキング: 163,125



    おなじく、絵師の生きざまを描いた「眩」。こちらは葛飾北斎の娘・お栄(葛飾応為)の生涯を描いた物語です。

    眩
    posted with amazlet at 17.08.19
    朝井 まかて 新潮社 売り上げランキング: 40,027

    レビューポータル「MONO-PORTAL」

    関連書籍
    葛飾北斎の娘・お栄(葛飾応為)の生涯を描いた『眩』
    国芳一門を描いた漫画『ひらひら 国芳一門浮世譚』


    レビューポータル「MONO-PORTAL」

    JUGEMテーマ:最近読んだ本



    意外な取り合わせの、バディ時代小説 『さなとりょう』

    2017.03.17 Friday

    0
      本が好き!の献本でいただきました。『さなとりょう』(プルーフ版)

      歴史好きのひとならタイトルでお分かりになるでしょう。「さな」「りょう」は坂本龍馬の元婚約者千葉さな子と、龍馬の妻・おりょうのこと。なんと、この2人がタッグを組んで、龍馬暗殺の謎に迫る物語です。

      『さなとりょう』あらすじ


      坂本龍馬の元婚約者・剣の達人・佐奈は、鬼小町と呼ばれ、ゆすりまがいの元幕臣たちの訪問にも逆返り討ちにするほどの剣術の腕と度胸をもつ女性。しかし、元婚約者・坂本龍馬の死に、今でも心を痛めている。そんな佐奈の元に、龍馬の妻と名乗る・おりょうがやってきて、坂本龍馬を切った真犯人を探すと告げる。

      どうやら、りょうの元に、龍馬暗殺の真相を知る人物から手紙が届いたらしい。マイペースにことを進めていくりょうに、佐奈も巻き込まれていき、いがみ合いながらも真相を探っていく。やがて推理の糸を辿った先には、思いもよらない人物が…。

      さなとりょう

      中古価格
      ¥606から
      (2018/9/30 14:17時点)





      坂本龍馬の死によって、過去に思いをのこす佐奈とりょうが、この事件を通じて龍馬への思いにどう決着をつけていくのか、また、龍馬をめぐるふたりのバトルもみものでした。

      龍馬暗殺にまつわる事件も「もしかしたら、こんなこともあったんじゃないか。」と思わせてくれ、いい意味で、歴史の中に嘘を混ぜ込むのがすごくうまい話でした。

      ただ、歴史上の有名人の誰かが犯人、ということは見当がついてしまうので、謎解き的には今ひとつですが、物語のパワーが溢れていて、謎解きよりも、佐奈とおりょうが次にどんな行動をするのかが読んでいてワクワクしますね。

      私はこれまで、行動力があって勝ち気なおりょうさん派だったのですが、読んでいておりょうさんに振り回される佐奈さんがちょっとかわいそうに思えました。だって、元カレの奥さんが現れて事件に巻き込むし、勝手に形見の品を焼いちゃうし。

      ただでも、おりょうさんは龍馬のそばにいたから坂本龍馬を愛しぬくことの難しさと、龍馬の佐奈への秘めた思いを感じていたのでしょうね。(だから形見を焼いちゃったりしたのでしょう)

      しかし、そんな佐奈さんも、最後にひとつ、報われます。この一文でおりょうさんの態度の謎や、ひいては歴史の事件の意外な謎解きにもなっています。

      佐奈とおりょうが会っていたら…というのは、ほかにも里中満智子さんの『花影』でも描かれています。こちらはお互いの、龍馬への思いを吐き出していくといったお話です。

      花影-千葉佐那の愛-

      中古価格
      ¥500から
      (2018/9/30 14:17時点)





      おりょうさんのその後を描いた映画「龍馬の妻とその夫と愛人」

      竜馬の妻とその夫と愛人 [DVD]
      東宝 (2003-05-21)売り上げランキング: 2,686

      レビューポータル「MONO-PORTAL」

      『映画探偵: 失われた戦前日本映画を捜して』 高槻 真樹

      2017.02.20 Monday

      0
        映画探偵: 失われた戦前日本映画を捜して』読了。今は失われた戦前の映画を探す「探偵」たちを通して、映画黎明期から戦前までの映画の歴史と、幻の映画を追い求める人々の姿を追ったドキュメンタリー本です。


        幻の戦前映画を探して


        戦前、キネマ旬報などで名作と讃えられた作品は、いまではほとんど失われてしまい、見ることができません。それはどうも戦争の影響だけではなく、フィルムの性質(燃えやすい)、ずさんな上映体制など、複合的な理由によるものだそうです。

        映画探偵: 失われた戦前日本映画を捜して
        高槻 真樹 河出書房新社 売り上げランキング: 159,122


        現代では考えられない、戦前映画のトンデモな上映スタイル


        ・上映が終わったフィルムを、その場で裁断、販売することもあった。
        ・同じ脚本で違うタイトルの映画が撮られることがあった。
        ・上映側が勝手に編集、名前を変えて上映することもあった。

        …もう、現代では考えられないですね。(;´・ω・)こうしたことが、映画を探すことを困難にしているのです。

        海外で発見される日本映画


        しかし、それでも少しずつですが、失われた映画が発見されていきます。名作「忠次旅日記」は父親の遺品の中から、「何が彼女をさうさせたか」は、ロシアで見つかりました。このロシアでの映画の売買に関しても、ソ連崩壊直後だからできた、ドラマチックな話がでてきます。

        「何が彼女をさうさせたか」
        何が彼女をそうさせたか クリティカル・エディション [DVD]
        紀伊國屋書店 (2008-03-29)売り上げランキング: 60,969


        戦前の日本映画が海外で発見されるのは、当時日本が植民地化していた台湾、満州、朝鮮、満州や、移民の多いアメリカへ輸出されたり、植民地へ侵攻してきたロシア(ソ連)などに接収された可能性があるからだとか。

        確かに、アメリカ人と日系女性の恋を描いた映画「愛と哀しみの旅路 [DVD]」でも劇中で戦前の名オペレッタ「鴛鴦歌合戦」が使われていました。




        映画探偵たち


        今では幻となった戦前映画を探し出し、修復保存をおこなうフィルムセンターなどの公的機関から、民間で資金を募り収蔵、上映をづづける団体。映画のフィルムコレクターなど、一口に映画探偵といってもさまざまなタイプの探偵たちがいます。
        無声映画の解説をおこなっていた活動弁士たちもコレクターだったんだそうで、これは、興行用のフィルムを自前で用意しなければならなかったための苦肉の策だったらしいのですが。

        そして興味深かったのが、収集欲が過ぎて狂気的ですらあるコレクターたち。ときには人を騙してでもフィルムを手に入れたり、自分が貴重なフィルムを持っているかのごとく吹聴したり。

        こうしたコレクターの闇はどのジャンルにも共通しているようで、前に読んだ古書コレクターの小説『せどり男爵数奇譚 (ちくま文庫)』を思い出しました。

        これからもまだまだ、映画探索は続いてゆくのでしょうから、意外な場所で貴重な日本映画が発見されるかもしれません。
        レビューポータル「MONO-PORTAL」

        北斎の娘、その一生。『眩 くらら』朝井 まかて

        2017.02.19 Sunday

        0
          北斎の娘、お栄。北斎の弟子にして、女絵師、葛飾応為。彼女の一生を描いた朝井 まかて「」。

          お栄を描いた話としては、江戸文化研究家の杉浦日向子さんの「百日紅」が有名ですが、「」は、百日紅のその後、お栄が嫁に行ったところからはじまります。

          百日紅~Miss HOKUSAI~ [DVD]
          百日紅~Miss HOKUSAI~ [DVD]
          posted with amazlet at 17.02.19
          バンダイビジュアル (2015-11-26)売り上げランキング: 7,332



          一本の映画をみたような読了感


          眩
          posted with amazlet at 17.02.19
          朝井 まかて 新潮社 売り上げランキング: 13,210

          JUGEMテーマ:最近読んだ本



          物語の冒頭、お栄は夫との暮らしに辟易し、外に出たついでに、ふらっと婚家を逃げ出してしまう。そこから北斎のもとに戻り、北斎を助けながら、ひたすら絵の道を極めて行きます。

          北斎のもとに出入りしていた浮世絵師、善次郎(渓斎英泉)との絆とひとときの情、甥・時太郎の不行状に悩まされ、母を看取り、最愛の盟友・善次郎との別れ、そして北斎を看取り、自らも晩年を迎える…。

          善次郎の野辺送りを、足を怪我しながら追いかけて見送る場面が、お栄の思いを移していて。とても好きです。善次郎は男女の仲を超えた、絵の道を目指した盟友でもあったのでしょうから。

          やがて、老年の北斎を看取ったあとは養子にいった武家の弟の家にやっかいになるのですが、やがてそこもふらっと出ていき、新たに人生を始めていくところで終わります。最初と最後が同じ行動で、物語が完結しているんですね。

          年をとっても新たな世界へ挑戦していく、心の赴くままに。豪胆で繊細、まさに自らの絵のような人生でした。

          絵を傍らに読みたい本


          『眩』には、北斎とお栄の描いた浮世絵や肉筆画がでてきて、その制作の様子が描かれます。まるで、本当に絵が描かれている様子を垣間見ているような、息を呑む制作風景。お栄や北斎が、いのちをかけて描いたものが、今、現代の私達が見ることができるのって、本当にすごいことだ、と思います。

          北斎娘・応為栄女集
          北斎娘・応為栄女集
          posted with amazlet at 17.02.19
          久保田 一洋 藝華書院 売り上げランキング: 104,943


          レビューポータル「MONO-PORTAL」

          戦国のプロジェクトX 『家康、江戸を建てる』

          2017.01.15 Sunday

          0
            『家康、江戸を建てる』。タイトルは、「家康」ですが、本当に江戸をつくったのは、直接現場に携わる名も無き職人たちや現場を監督する奉行たち。彼らが困難なプロジェクトに挑む姿はまさに、戦国版のプロジェクトXの趣があります。

            困難や悲劇はあるものの、土地を整え、水を引き、新開地江戸を建てていく過程は、新しい希望に満ちています。まだ海の物とも山の物ともつかない田舎が、やがて世界になだたる都市になっていくとは、家康も想像していなかったでしょう。

            家康、江戸を建てる
            家康、江戸を建てる
            posted with amazlet at 17.01.14
            門井慶喜 祥伝社 売り上げランキング: 11,348


            以下、特に気になった物語について。

            流れを変える


            今の利根川は、東京の東側を流れていますが、実はこれは、人の手によるもの。その利根川東遷事業に関わった伊奈氏三代の奮闘が描かれます。江戸に入府した家康はまず、湿地だった江戸を変えるべく、氾濫を繰り返す利根川の流れを変えるプロジェクトを立ち上げます。

            このプロジェクト、数十年に渡って、伊奈氏が代々工事にたずさわってきました。大変な工事だったとはなんとなく知っていましたが、ここまでとは。バトンを受け継ぐ伊奈の男たちがかっこいい。

            余談ですが、畠中恵さんもしゃばけシリーズの中で利根川東遷を描いています。こちらは、坂東太郎(利根川)の化身が工事を行う侍たちを妨害するもの。そこへ河童の総大将・禰禰子が人間に力を貸すことになる物語です。

            えどさがし (新潮文庫)
            畠中 恵 新潮社 (2014-11-28)売り上げランキング: 12,262


            天守を建てる


            これは職人ではなく、二代将軍秀忠が主人公の物語。江戸城天守の着工をを任された秀忠。家康から戦のない時代の天守の意味について問いかけられます。家康はなぜ、戦のない世に、あえて物見の役割を持つ天守を創造しようとしたのか。それも、大阪城や安土城の黒漆天守とは違い、白い漆喰の天守を。

            家康の命題に答えようと、秀忠は必死で、答えを探していくのですが…。

            歴史家の磯田道史先生が「秀忠が嫌いな日本人はいないでしょう。」とコメントされていましたが、家康のように戦国武将としてのカリスマ性はないものの、合理的で実直な秀忠は、現代の日本人の感覚に近いのかも。

            家康が建てた江戸という街を、秀忠が発展させていく。為政者も職人も、そうやって次の世代にバトンが渡されていく。それは昔も今も、変わらないのかもしれません。

            家康、江戸を建てる
            家康、江戸を建てる
            posted with amazlet at 17.01.12
            門井慶喜 祥伝社 売り上げランキング: 9,387



            今も昔も、プロジェクトに携わる職人たちは、困難に遭遇すればするほど、燃えるようです。それは、現代の名も無き職人たちたちにも受け継がれています。


            JUGEMテーマ:最近読んだ本



            レビューポータル「MONO-PORTAL」

            大正時代の不良少女たち『くれなゐの紐』 須賀 しのぶ

            2016.08.13 Saturday

            0
              大正時代の不良少女たちを描いた『くれなゐの紐』読了。須賀しのぶさんの作品は『芙蓉千里』以来だったのですが、彼女の描く少女たちは強くて弱くて、痛くて切ない。

              『くれなゐの紐』あらすじ


              失踪した姉をさがすため、日本最大の歓楽街、浅草六区へやってきた仙太郎は、生き延びるため少女の姿に変装し、スリに身をやつす。

              ある日、姉からの絵葉書に写った浅草十二階の展望台で、1人の男と出会う。操と名乗る「彼」は、実は浅草六区を仕切る少女ギャング団「紅紐団」の団長であり、入団するなら姉の行方を教えるという。

              はからずも、少年でありながら少女ギャング団へ加入することとなった仙太郎。紅紐団には、花売り娘のあや、副団長で売春元締めの倫子など、個性豊かな少女たちがいた…。

              くれなゐの紐
              くれなゐの紐
              posted with amazlet at 16.08.06
              須賀 しのぶ 光文社 売り上げランキング: 98,709


              痛快小説だけじゃない、少女たちの痛み


              不良少女たちが、才覚と度胸で少年ギャング団や、ライバルたちを席捲していく様は実に痛快でした。けれど、それは物語の中盤。さて、ラストにはどんな結末が待っているのか、と読み進めたら、結末は少し意外なものでした。

              世間や大人たち対する復讐、ではあるのですが、そこにはかっこいい少女ギャングの姿はなく、紅紐団しかよりどころもたず、虚しくあがき、居場所を見つけられない少女たちがいました。

              それは、カリスマ的魅力をもつ団長の操も同じで、みんなあがいている。そして、少年である仙太郎は外の目線から彼女たちの痛みを知るのですが、彼女たちに何もしてあげることができないのです。

              こうした少女たちの姿は、今の少女たちにも通じるものがあります。あるいは「少女」とは、普遍的な存在なのかもしれません。




              大正時代、物語に登場した少女ギャング団は東京各地に存在しており、丸ビルのタイピストが、売春斡旋で捕まったりしていたそうです。

              明治 大正 昭和 不良少女伝---莫連女と少女ギャング団
              平山亜佐子 河出書房新社 売り上げランキング: 112,616


              物語の出てきた浅草十二階(凌雲閣)は、明治二十年代に作られた浅草のランドマーク。物語の最後の2行に関わってきます。
              浅草十二階 塔の眺めと〈近代〉のまなざし
              細馬 宏通 青土社 売り上げランキング: 633,776


              須賀しのぶ関連
              芙蓉千里

              JUGEMテーマ:オススメの本



              レビューポータル「MONO-PORTAL」

              『若様とロマン』畠中恵

              2016.07.26 Tuesday

              0
                畠中恵さんの若様シリーズ第三段『若様とロマン』今回は若様組にたくさんの縁談が舞い込んできます。

                『若様とロマン』あらすじ


                明治20年代。戦争の足音が迫る中、実業家・小泉家の当主は、開戦の反対勢力を集めるため、元旗本の巡査たち「若様組」に見合いを強要し、西洋菓子職人の皆川真次郎(ミナ)には渡米を薦める。

                世話になっている御当主に逆らえず、しぶしぶ見合いを引き受ける若様組だったが、見合い相手の家から捜査を頼まれたり、見合い相手は入れ替わり、おまけに横恋慕の相手が現れるなど、前途多難。

                果たして、彼らの見合いは成功するのか…?

                若様とロマン (講談社文庫)

                中古価格
                ¥296から
                (2018/9/23 00:00時点)




                子ども時代の終わり


                小泉家の娘、沙羅と幼なじみの菓子職人の真次郎、若様組の長瀬。この3人は幼なじみであり、真次郎も長瀬も、沙羅に思いを寄せていました。けれども今回、彼らの関係には終止符が打たれます。といっても悲恋、という感じではなく、真次郎も沙羅も自分の道を見つけて旅立っていきます。

                本当は、2人が恋を実らせれば一番いいのでしょうが、それはまだ、先の話かもしれません。この中で、一番思い切りがよかったのは、やっぱり沙羅です。男二人は、沙羅の決断に引っ張られる形で進む道を決めねば、と思い立ったのですから。

                おっとり強い明治女性


                他の若様組のお見合い相手の女性たちも、明治時代のおとなしい女学生かとおもいきや、案外冷静に、若様組をみていたり、沙羅ほどではないにしろ、思い切った行動に出たりします。まあ、それくらいの女性じゃないと、若様組の奥様はつとまらないでしょう。

                昔の女性は、結婚相手に、その後の自分の人生を賭けなければならなかったのですから。

                若様組まいる (講談社文庫)

                中古価格
                ¥1から
                (2018/9/23 00:01時点)




                アイスクリン強し (講談社文庫)
                畠中 恵 講談社 (2011-12-15)売り上げランキング: 114,262


                『アイスクリン強し』
                『若様組まいる』

                レビューポータル「MONO-PORTAL」

                『世界の辺境とハードボイルド室町時代』 高野 秀行 清水 克行

                2016.02.18 Thursday

                0
                  面白い本を見つけました。『世界の辺境とハードボイルド室町時代』。女優の杏さんがラジオでおすすめしていた本。杏さんのセレクト本は、やっぱりはずれがない(^^)。

                  世界の辺境とハードボイルド室町時代』は、アフリカのソマリランドに詳しいノンフィクション作家と、日本中世史の専門家。何のつながりもないように見えるこの2人が出会い、話すことで、全く新しい世界が見えてきます。

                  対話形式で書かれているので、難しいテーマでも、さくさく読めます。

                  世界の辺境とハードボイルド室町時代
                  高野 秀行 清水 克行 集英社インターナショナル 売り上げランキング: 11,029


                  「独裁者は平和がお好き」奇妙なタイトルの理由


                  世界の辺境とハードボイルド室町時代』タイトルからして、なんじゃこりゃ?と好奇心を刺激されます。でも、中身の目次もタイトルに負けず劣らず、面白い。

                  けれど、読んでみると実に理にかなってるんですね。この「独裁者は平和がお好き」でも、麻薬栽培に携わる権力者は、支配する農民たちにアヘンを吸わせないし、揉め事を解決したりするそうです。麻薬の生産能力が落ちるから、支配地域では平和がいちばんなのだとか。


                  作家と学者の、異種交流譚


                  世界の辺境とハードボイルド室町時代』を読んで、『銃・病原菌・鉄』を読んだ時とおなじ感覚だな、と思いました。

                  『銃・病原菌・鉄』も、今まで縦割りだった歴史を、横から、人間の食料生産と環境という「地理的な解釈」をくわえて、新しい世界を私たちに見せてくれた本ですが、この『世界の辺境とハードボイルド室町時代』もそうです。

                  ノンフィクション作家と歴史学者という、まったくの異業種同士が話すことによって、意外な、新しい発見を見せてくれます。、一見、異分野の知識が組み合わさることで、歴史、辺境への理解がより深まるようになっています。

                  異なる世界への認識と理解


                  上橋菜穂子さんの著書『明日は、いずこの空の下』によると、「辺境」とは、英語で「フロンティア」の意味があるそうです。そして、「フロンティア」は「異文化と出会う最先端」でもあるわけです。

                  アジア・アフリカの辺境と、室町時代、現代日本とは環境も行き方も考え方も違う「異世界」と交流し、文書を読み解き、認識することで、自分たちが生きている世界だけがいいわけじゃないと感じることは、私達の周りの問題に対しても解決のヒントにもなるのじゃないでしょうか。

                  とはいえ、「客になったらやりたい放題にしてよい」ってソマリアのルールはちょっと受け入れるのに時間がかかりそうだな…(;´・ω・)

                  高野秀行さんと清水克行さんは、そんな「フロンティア」を、フィールドワークや古文書から発見・発掘して私達にみせてくれる、冒険家のような存在なのかもしれません。

                  お二人の書いた本も、読んでみたくなりました。

                  謎の独立国家ソマリランド
                  高野 秀行 本の雑誌社 売り上げランキング: 4,939


                  喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)
                  清水 克行 講談社 売り上げランキング: 10,228



                  高野秀行さんの奥様って『北里大学獣医学部 犬部!』を書いた片野ゆかさんなんですね。夫婦揃って、良い本書くなあ。

                  犬部!
                  犬部!
                  posted with amazlet at 16.02.17
                  片野ゆか ポプラ社 売り上げランキング: 328,670

                  レビューポータル「MONO-PORTAL」

                  『植民地時代の古本屋たち』 沖田 信悦

                  2016.01.31 Sunday

                  0
                    興味深い本を見つけました。『植民地時代の古本屋たち―樺太・朝鮮・台湾・満洲・中華民国 空白の庶民史』は現役の古本屋さんが書いた、戦前、日本の植民地だった地域での古本店ネットワークの記録です。

                    資料としての意味あいが強く、私のような素人が読むものとしては若干難解ではありますが、それでも当時の「外地」で、どんな風に書店が開かれ、何が売れたのか、当時の証言をもとに検証されています。



                    植民地時代の古本屋


                    樺太、台湾、朝鮮、中国大陸などで、日本人が進出していった土地には必ず書店や古書店があったらしいです。その土地ごとに売れ筋の本が異なり、朝鮮では教科書や思想、経済本が、台湾では実用書、絵本が喜ばれ、中国大陸では、日本と同じような本が好まれていたのだとか。

                    台湾や朝鮮では強制的な日本語教育がなされていたので、現地の人にも販売されたのかもしれません。

                    樺太の南半分は日本の領土で、水産やパルプなどに携わるたくさんの人々が暮らしていたそうです。古書店も各都市に存在したのだとか。

                    内地(日本国内)の古書店とも独自のネットワークがあったらしく、内地の古書店主がよく植民地へ買い付けに行ったそうで、この本の中にそれらの手記が載せられています。

                    引き上げの苦労


                    ソ連の侵攻時には、貴重な本は焚き付け代わりにされ、辞書はタバコの巻紙に、引き上げでは貴重な本を泣く泣く手放すことになった引き上げの苦労が語られます。


                    失われた町


                    古本屋巡りをしながら、いまはもう、失われた都市を探訪する。厳密にいえば、都市は今でも存在するのだけど、底はもう、日本人がすんでいた頃とはちがう町、外国にになってしまっているから。

                    決して、植民地を肯定するつもりはないのだけれど、「失われた地名」というのは、えらく懐古趣味を刺激されるのです。

                    『ノスタルジック・ホテル物語』は、日本国内はもとより、朝鮮や台湾、上海の日本人経営のホテルの歴史について綴られた1冊。こちらは当時のパンフレットや絵葉書が掲載され、読みやすい内容です。

                    ノスタルジック・ホテル物語 (コロナ・ブックス)
                    富田 昭次 平凡社 売り上げランキング: 737,823


                    おまけ・ビブリア古書堂の事件手帖について


                    『植民地時代の古本屋たち』の記述から、日本国内の古本屋とも売買ネットワークがあったそうです。当時の植民地出身の芥川賞作家も現れ、植民地時代にはずいぶん本の流通が盛んであったらしい。

                    古書ミステリ「ビブリア古書堂の事件手帖」。主人公栞子さんの母親・智恵子(えらく頭がきれる)は、ある珍しい本を探すために家族を捨て、旅に出ています。行動や軌跡から、もしかしたら、彼女の探す本は戦前の「外地」が関わっているのでは?と私は考えているのですが…。

                    ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ~ (メディアワークス文庫)
                    三上 延 KADOKAWA/アスキー・メディアワークス (2014-12-25)売り上げランキング: 6,012



                    JUGEMテーマ:歴史


                    レビューポータル「MONO-PORTAL」

                    「荒神絵巻」 こうの史代 宮部みゆき

                    2015.11.02 Monday

                    0
                      宮部みゆきさんの小説「荒神」は、江戸時代、架空の村を舞台にした、時代小説と、ホラー、ファンタジーの要素を合わせ持つ不思議な物語。

                      もともと『荒神』は新聞に連載されていた小説なので、毎回あらすじに沿ってこうの史代さんによるすてきな挿絵がつけられていました。

                      しかし、単行本化するにあたり、そうした挿絵は文と切り離されてしまいます。

                      それは、あまりに残念だということでしょうか。『荒神絵巻』は『荒神』の別冊のようなかたちで、こうの史代さんの絵と『荒神』の抜粋された文章が楽しめます。

                      江戸時代の和綴じ本のような表紙イラストも凝っています。物語の重要な鍵をにぎる女性・朱音が「荒神絵巻」というタイトルに寄りかかっているイラストは、鏑木清方の「一葉女史の墓」を思い起こさせます。「荒神」の悲しい物語性にもあっていますね。

                      荒神絵巻
                      荒神絵巻
                      posted with amazlet at 15.06.27
                      こうの史代 宮部みゆき 朝日新聞出版 (2014-08-20)売り上げランキング: 26,773



                      鏑木清方画集
                      鏑木清方画集
                      posted with amazlet at 18.02.06
                      鏑木 清方
                      ビジョン企画出版社
                      売り上げランキング: 1,848,741




                      「荒神」感想→
                      荒神
                      荒神
                      posted with amazlet at 15.06.27
                      宮部みゆき 朝日新聞出版 (2014-08-20)売り上げランキング: 30,305


                      レビューポータル「MONO-PORTAL」