「木暮荘物語」 三浦 しをん
2011.01.20 Thursday
「木暮荘物語」は東京の住宅地にある古い木造アパート、木暮荘に住む人々の物語。と、こうやって書くと、ハートフルでほっこりとした人情物っぽく思われますが、中身はまったく違います。
三浦しをんさんの作品はタイトルのイメージと中身がまったく違っていてよく騙されます。
でもそういった作品ほど面白いんです。「こうきたか!」って感じで。どこにでもいるフツーの人々の、誰にも言えないフツーじゃない「裏側」。一歩間違うとドロドロになりそうな題材を、さらりとした筆致で描いていて、傍から見るとしょーもない性の悩みを抱く人々が、なんだかあきれつつも愛おしく思えてしまいます。
花屋に勤める繭が恋人・晃生と過ごしているところへ、三年前にいなくなった元カレ、並木がやってきた。ずうずうしくも家に上がり込む並木と繭、そして晃生。3人の奇妙な共同生活がはじまった。
最初はずうずうしい並木に腹が立ちましたが、3人ともが微妙な関係ながら相手を思っている感じがいい。この話だけはちょっと純愛風です。
木暮荘の大家、木暮は死期の迫った親友の一言に刺激され「人生の最期に○○○○(スパムコメントがくるので自主規制)がしたい」と切実な思いにかられ、出張マッサージのサービスを呼ぶものの、そこへ妻がやってきて…老いらくの恋ならぬ性愛。情け無いような、切ないような。
トリマーの美禰は、毎朝駅のホームの木の柱を触るのが日課だったが、ある日、柱に水色のきのこ状のモノが生えてきて○○(また自主規制…)のかたちになるのに驚くが、もうひとり、そのモノに気づいたヤクザ・前田と出会う。
飼い犬のトリミングを通じて仲良くなるふたりだったが、あのモノは本当は美禰と前田にしか見えないのではないか、と思い始める。美禰とヤクザの前田の共通点、それは…
不倫もの。「シンプリーへブン」にでてきた繭の雇い主のフラワーショップ店主の佐伯と、喫茶店を営む夫。子どもはいないが夫婦仲も店もそこそこ順調。しかしある日、夫が入れるコーヒーが泥の味に変わる。そして夫が夜中家を抜け出すのに気づいた佐伯は、繭に協力を仰ぎ、夫の尾行を開始する…
昔は燃えるような情熱を持ってお互いに接していたが、そんな嵐も過ぎ、ゆるやかに老いに向かう四十を半ばの女の嫉妬やあせり。
ちょっと内容はドロドロですが、文章がやわらかいので痛い感じではありません。むしろ残るのは悲哀と情け無さ。でもなんだか共感するところも。
乱歩の「屋根裏の散歩者」を彷彿とさせるような、でもこちらはおかしな話。
木暮荘に住む神崎は神経質で音に敏感。他の住人へのストレスから、空き室に忍びこみ、下の部屋の女子大生の生活をのぞくようになる。最初はストレス解消や性的な目的だったが、徐々に女子大生への親しみが湧いてくるように…
その「穴」から覗かれていた女子大生・光子の話。実は神崎ののぞきには気づいていたが刺激になると放っておいた。今は「時々は覗いていいよ。」と公認したため、屋根板の上と下で奇妙な日常会話がかわされている。そんなある日、光子は友人から生まれたばかりの赤ん坊を預かることになる。でも、光子にはあるヒミツがあって…。
覗きを続ける神崎と、なんだかんだで信頼関係を築いていて、悲しむ光子を神崎が屋根裏からなぐさめるのが、いい。でも、それなら部屋行けよ!と突っ込んでみたくもなるんですが…
繭の元カレ、並木は実は繭の元を去った後も繭の働く花屋の近くで彼女を見守って(ストーキング?)していた。そんな時、花屋の常連客であるニジコと出会い、奇妙な共同生活を送ることに。
ニジコには、嘘を付いた人、浮気をした人の料理を食べると、砂や泥の味を感じる特技があり、そのため、一切外食はしない。裕福だが修行僧のようなニジコさんとの生活で並木は少しずつ繭のことを吹っ切っていき、ニジコに思いを寄せ始めるけれど…。
ふたりが食事をする場面が好きです。いつか並木の思いがニジコさんに届いて、孤独で静かな生活に変化が起きればと、願ってしまいます。並木の方も少しは大人になったようですし。(^^)
・「月魚」→
・「舟を編む」→
・「風が強く吹いている」→
・「きみはポラリス」→
・「星間商事株式会社社史編纂室」→
・「神去なあなあ日常」→
・「まほろ駅前番外地」→
・「まほろ駅前多田便利軒」→
・「三四郎はそれから門を出た」→
JUGEMテーマ:気になる書籍
レビューポータル「MONO-PORTAL」
三浦しをんさんの作品はタイトルのイメージと中身がまったく違っていてよく騙されます。
でもそういった作品ほど面白いんです。「こうきたか!」って感じで。どこにでもいるフツーの人々の、誰にも言えないフツーじゃない「裏側」。一歩間違うとドロドロになりそうな題材を、さらりとした筆致で描いていて、傍から見るとしょーもない性の悩みを抱く人々が、なんだかあきれつつも愛おしく思えてしまいます。
シンプリーヘブン
花屋に勤める繭が恋人・晃生と過ごしているところへ、三年前にいなくなった元カレ、並木がやってきた。ずうずうしくも家に上がり込む並木と繭、そして晃生。3人の奇妙な共同生活がはじまった。
最初はずうずうしい並木に腹が立ちましたが、3人ともが微妙な関係ながら相手を思っている感じがいい。この話だけはちょっと純愛風です。
心身
木暮荘の大家、木暮は死期の迫った親友の一言に刺激され「人生の最期に○○○○(スパムコメントがくるので自主規制)がしたい」と切実な思いにかられ、出張マッサージのサービスを呼ぶものの、そこへ妻がやってきて…老いらくの恋ならぬ性愛。情け無いような、切ないような。
柱の実り
トリマーの美禰は、毎朝駅のホームの木の柱を触るのが日課だったが、ある日、柱に水色のきのこ状のモノが生えてきて○○(また自主規制…)のかたちになるのに驚くが、もうひとり、そのモノに気づいたヤクザ・前田と出会う。
飼い犬のトリミングを通じて仲良くなるふたりだったが、あのモノは本当は美禰と前田にしか見えないのではないか、と思い始める。美禰とヤクザの前田の共通点、それは…
黒い飲み物
不倫もの。「シンプリーへブン」にでてきた繭の雇い主のフラワーショップ店主の佐伯と、喫茶店を営む夫。子どもはいないが夫婦仲も店もそこそこ順調。しかしある日、夫が入れるコーヒーが泥の味に変わる。そして夫が夜中家を抜け出すのに気づいた佐伯は、繭に協力を仰ぎ、夫の尾行を開始する…
昔は燃えるような情熱を持ってお互いに接していたが、そんな嵐も過ぎ、ゆるやかに老いに向かう四十を半ばの女の嫉妬やあせり。
ちょっと内容はドロドロですが、文章がやわらかいので痛い感じではありません。むしろ残るのは悲哀と情け無さ。でもなんだか共感するところも。
穴
乱歩の「屋根裏の散歩者」を彷彿とさせるような、でもこちらはおかしな話。
木暮荘に住む神崎は神経質で音に敏感。他の住人へのストレスから、空き室に忍びこみ、下の部屋の女子大生の生活をのぞくようになる。最初はストレス解消や性的な目的だったが、徐々に女子大生への親しみが湧いてくるように…
ピース
その「穴」から覗かれていた女子大生・光子の話。実は神崎ののぞきには気づいていたが刺激になると放っておいた。今は「時々は覗いていいよ。」と公認したため、屋根板の上と下で奇妙な日常会話がかわされている。そんなある日、光子は友人から生まれたばかりの赤ん坊を預かることになる。でも、光子にはあるヒミツがあって…。
覗きを続ける神崎と、なんだかんだで信頼関係を築いていて、悲しむ光子を神崎が屋根裏からなぐさめるのが、いい。でも、それなら部屋行けよ!と突っ込んでみたくもなるんですが…
嘘の味
繭の元カレ、並木は実は繭の元を去った後も繭の働く花屋の近くで彼女を見守って(ストーキング?)していた。そんな時、花屋の常連客であるニジコと出会い、奇妙な共同生活を送ることに。
ニジコには、嘘を付いた人、浮気をした人の料理を食べると、砂や泥の味を感じる特技があり、そのため、一切外食はしない。裕福だが修行僧のようなニジコさんとの生活で並木は少しずつ繭のことを吹っ切っていき、ニジコに思いを寄せ始めるけれど…。
ふたりが食事をする場面が好きです。いつか並木の思いがニジコさんに届いて、孤独で静かな生活に変化が起きればと、願ってしまいます。並木の方も少しは大人になったようですし。(^^)
・「月魚」→
・「舟を編む」→
・「風が強く吹いている」→
・「きみはポラリス」→
・「星間商事株式会社社史編纂室」→
・「神去なあなあ日常」→
・「まほろ駅前番外地」→
・「まほろ駅前多田便利軒」→
・「三四郎はそれから門を出た」→
JUGEMテーマ:気になる書籍
JUGEMテーマ:小説全般
JUGEMテーマ:恋愛小説
レビューポータル「MONO-PORTAL」