「天と地の守り人」 上橋菜穂子 −戦いの描写と、人の醜さ・強さについて

2007.10.07 Sunday

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    精霊の守り人」から続く守り人シリーズの最終章。
    とはいえ、新ヨゴ皇国の皇太子チャグムが主人公の旅人シリーズのラストから話は続くので、「虚空の旅人」、「蒼路の旅人」をよんでから、この3部作を読むことをオススメします。

    南の大国・タルシュ帝国の侵攻を防ぐため、
    隣国ロタとカンバルに同盟を求め、
    チャグムは決死の旅に出ます。
    女用心棒バルサは、新ヨゴの海士からチャグム生存の話を聞き、
    彼を助けるためロタ王国へ向かいます。
    クモの糸を手繰るようなあやうい冒険をくりかえし
    ようやく故国へたどりついたものの、そこでチャグムを待ち受けるのは、自分を暗殺しようとした父親との対面でした。
    一方、バルサの幼馴染の薬草師・タンダは、
    草兵(民から集める兵)としてタルシュとの激戦に
    駆り出されてしまいます。

    この物語のすごいところは、一応こども向けの物語なのにも関わらず、戦争の描写がすごくリアルに描かれているところです。

    タルシュとの戦の場面では、焼け焦げたたくさんの屍を
    馬で踏みながら進まねばならない場面や、
    投石器で下敷きになった兵の肉片が飛び散るなど、
    こども向けとは思えぬ壮絶な描写が続きます。
    大人でも思わず読むのに躊躇するような場面です。

    けれど、こどもたち、どうか目をそらさずに読んでください。
    これは、架空の国・新ヨゴで起こった戦ですが、
    こちらの世界でも戦いは決してカッコイイだけのものでは
    ないのですから。

    「天と地の守り人」シリーズは、「精霊の守り人」のようにファンタジー色は少なく、南の帝国・タルシュとの戦に巻き込まれる人々の思惑や、戦のなかでの人の醜さや、立ち向かう強さが描かれている物語だと思います。


    天と地の守り人〈第1部〉 (軽装版偕成社ポッシュ)
    天と地の守り人〈第1部〉 (軽装版偕成社ポッシュ)

    天と地の守り人〈第2部〉 (軽装版偕成社ポッシュ)
    天と地の守り人〈第2部〉 (軽装版偕成社ポッシュ)

    天と地の守り人〈第3部〉 (軽装版偕成社ポッシュ)
    天と地の守り人〈第3部〉 (軽装版偕成社ポッシュ)

    上橋作品感想


    「物語ること、生きること」→
    「精霊の守り人」→
    「闇の守り人」→
    「夢の守り人」→
    精霊の守り人シリーズ外伝「流れ行く者」→
    精霊の守り人シリーズ外伝「炎路の旅人」→
    精霊の守り人レシピ集「バルサの食卓」→
    「獣の奏者 闘蛇編・王獣編」→
    「獣の奏者掘|亀翳圈廣
    「獣の奏者検ヾ扱詈圈廣
    「獣の奏者 外伝 刹那」→
    「<守り人>のすべて 守り人シリーズ完全ガイド」→
    守り人レシピ「バルサの食卓」→
    狐笛のかなた→
    JUGEMテーマ:オススメの本


    「グアテマラの弟」 片桐はいり

    2007.09.02 Sunday

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      「わたしのマトカ」に続き、女優・片桐はいりさんのエッセイ第2弾『グアテマラの弟』。

      セリフをしゃべる職業のせいか、彼女の書く文章はここちよいリズムで、するすると脳にすべりこんでゆく。気が付くと、グアテマラの空気にひきこまれてしまう。
      片桐はいりの才能をまたひとつ見せ付けられた<極上のエッセイ。かなりの勢いでおすすめ致します。

      グアテマラに住む弟


      今回は、弟さんの住むグアマテラへの旅の様子と、はいりさんの家族の話を中心に書かれている。グアテマラでスペイン語学校を営む弟さんとその家族のこと、ラテンの人々のおおらかな暮らしぶりのことなど。

      特に、はいりさんの描く食べ物の話が好きだ。美食家の父親の影響か、はいりさん自身も食べ物への愛情と類まれなる好奇心はハンパではない。だから彼女の書く食事のシーンはどれもおいしそう。

      弟の奥さん、ペトラさんのつくるお昼のごちそうや、バックパッカーが集まる弟さんの家で、毎週日曜日にふるまわれる現地食材の日本料理。

      「食」にこだわるはいり家の家庭料理。


      『グアテマラの弟』は、読んでいるこちらまで、ごちそうになっている気分になる。おもしろかったのは、弟さんがグアテマラ人の奥さんと子供(フェルナンド)君を日本に連れて来たときのこと。

      食通のはいりさんの父上は、フェルナンド君の食べっぷりが気に入り、滞在中、すきやきや天ぷらなど日本の「ごちそう」を食べさせた。そして、あらかたごちそうを食べさせたあとに父上が、「何がいちばん美味しかったか?」と聞くと、フェルナンド君、目を輝かせて一言、「サンマ!」と答えたのだ。
      それは、はいりさんのお母さんがつくるサンマの梅干煮だった。父上撃沈orz。

      どんな「ごちそう」よりもおかあさんのゴハンが一番なのは、どこの国でも一緒だし、普段食べるご飯が一番美味しいのも同じなのかもしれない。

      グアテマラの弟」には、こんなおもしろくもほっこりするエピソードがたくさんつまっている。また、はいりさんの文章が粋で魅力的だ。

      ●その後はいりさんがペトラさんから習った料理レシピがNHK食彩浪漫で掲載されました。

      「わたしのマトカ」→
      「もぎりよ今夜もありがとう」→

      グアテマラの弟
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      わたしのマトカ
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      グアテマラの弟によると、コーヒーの産地として名高いグアテマラの人は現地産の良いコーヒーをほとんど飲んでいないのだとか。良いコーヒーは殆どが輸出用らしい。



      レビューポータル「MONO-PORTAL」

      「獣の奏者 闘蛇編・王獣編」 上橋菜穂子

      2007.08.19 Sunday

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        獣の奏者」は、決して人に慣れることのない猛獣と少女の物語。

        まず、圧倒されるのがこの物語の核となる架空の獣、「闘蛇」と「王獣」の生態描写。
        まるで、この生き物が世界のどこかに存在するのではないかと思うくらい、リアルに読み手に伝わってくる。
        「闘蛇」は名の通り、主に水中に住み、蛇状の体に、鋭い爪と角を持つ。頑丈なうろこは弓矢も弾く。
        それに対し、「王獣」は、銀白の羽を持ち、狼のような顔、鋭い爪を持ち、「闘蛇」の天敵として「闘蛇」を喰らう。

        この物語の舞台、リョザ神王国では「王獣」は真王(ヨジェ)の王位の象徴として保護され、「闘蛇」はを戦いの武器として大公(アルハン)に利用される。

        「闘蛇」の世話をする闘蛇衆で獣の医師を母に持つ主人公エリン。
        物語の冒頭、彼女の母は「闘蛇」が死んだ責任を問われ、生きたまま野生の闘蛇に食い殺される死罪となり、いきなりつらい運命に翻弄させてしまう。それは彼女の母が放浪の民(アーリョ)であることも関係しているらしい。

        天涯孤独となったエリンは、蜂飼いのジョウンに助けられ育てられる。そこでエリンは野生の王獣に出会い、生き物のあり方に疑問を持つようになる。

        やがてエリンは獣の医者になるため、ジョウンの紹介でガザルム王獣保護区で勉強をはじめるが、王獣と心を通わせるすべを身につけてしまったため、真王(ヨジェ)と大公(アルハン)の政権争いにまきこまれてゆく。

        人がただ人であり、獣がただ獣として存在したいだけなのに、
        人はその役割や立場で獣や人を動かそうとする。

        作者・上橋菜穂子先生は、
        「いちばん怖いのは(人のためにならない)人の善意」だとおっしゃっていた。

        確かに、争いをする真王(ヨジェ)側も大公(アルハン)側にも、
        放浪の民(アーリョ)にも、それぞれ立場や守るべきものがある。そのために意見を押し付け合い、争いがおこってしまう。
        (いちばんの黒幕は、自分の権威を伸ばすためだけに人を利用しているが(^^;))

        自分の立場や周りでしか物事を推し量ることのできない人たちのために、他の(下々の人々)を巻き込んでしまうのは、悲しい事だ。
        そんなことがなければ、エリンの母も死なずにすんだかもしれない。

        権力への憤りを感じながらも、エリンはまっすぐに、
        時には傷つきながらも人と獣のあり方について
        自分の信念を貫き通す。
        物語が終わってしまってからも、
        その後のエリンが王獣と幸せに過ごしてほしいと
        願わずにはいられない。

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        上橋作品感想


        「物語ること、生きること」→
        「精霊の守り人」→
        「闇の守り人」→
        「夢の守り人」→
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        精霊の守り人シリーズ外伝「流れ行く者」→
        精霊の守り人シリーズ外伝「炎路の旅人」→
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        「わたしのマトカ」 片桐はいり

        2006.05.15 Monday

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          わたしのマトカ (幻冬舎文庫)
          』は、片桐はいりさんの旅にまつわる初エッセイ。
          映画「かもめ食堂」のロケで訪れたフィンランドで出会った食べ物と人。舞台公演で行った地方のホテルのマッサージ師たちの話。プライベートで行ったカンボジアで、現地の友達のバイクにまたがって夜遊びにくりだす話など。

          片桐はいりさんの「旅」にまつわる話はどれも面白く、たのしいエピソードばかりだ。中でも私が「いいな」と思ったのは、彼女は旅に出るときに安物の時計を購入して現地の時間に合わせ、帰ってきてからもその時計を現地の時間のままにしておくのだそうだ。

          それを眺めるたび、わたしの時間も少しだけ優雅になる。


          たくさんの旅の時間に囲まれていると、その時計を見るたびに現地の状況が浮かんでくるのだろうな。こんな時間の見方も、悪くない。


          今まで「インパクトのある女優さん」というのがわたしの印象だったが、この本で片桐はいりさんの新しい顔を見せてもらった気がする。あんな細身で実はかなりの食いしん坊。料理上手。好きな街の匂いたどりながら、夜の街を徘徊する旺盛な好奇心。そして、綴られた文章はとてもやわらかく、やさしい。

          「マトカ」とはフィンランド語で「旅」のこと。どこか遠くへ出かけたくなる。けれども諸般の事情でそれがかなわぬときはビールを片手に「わたしのマトカ」を読みながらはいりさんの旅を追体験してみよう。

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          ↓かもめ食堂が好きな方には「絶対」、オススメです。
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          広告代理店で働く高校生を描いた「ブレーンストーミング・ティーン」 いまい まさこ

          2006.04.30 Sunday

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            2006年1月にドラマ化されたブレスト!の原作。
            ドラマがとても良かったので、原作本を読んでみたのだが、これがまた面白かった。

            高校生を対象にした広告コンペがきっかけで広告代理店・Mエージェンシーの「高校生ブレーン」となった摩湖。

            お嬢様で頭も切れる雛子、ギャルで人気者・操とともにチョコ、コスメ、ケイタイなど、商品のプロモーション企画をブレーンストーミング(アイデア発想法)によって次々にアイデアを生み出してゆく。

            ブレーン・ストーミング・ティーン / Brain Storming Teens
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            最初は個性派ふたりに圧倒され、コンプレックスを抱いてうまく立ち回れないでいるいるがブレストを重ねるうちに徐々に能力を発揮していく。

            反対する両親を説得するため、ブレストを続けるためには勉強も頑張ったり、時には好奇心による失敗(この失敗が元でドラマでは大変なことになったのだが)
            を重ねながら成長してゆく摩湖。
            最後には彼女は三原さんが言うところの「自分の中にある宝物」を手にする。


            この作品もう一つの魅力は広告代理店、Mエージェンシー。
            横文字が氾濫し、猛スピードで企画が進行する広告代理店の様子がリアルに描かれている。

            作者・いまいまさこさんは実際に広告代理店に勤務の経験があるので、どの案件も「現実にありそう」と思わせる広告戦略ばかり。


            また、三国さん、三原さん、健さんなど、Mエージェンシーの大人たちも彼女達に助言を与えたりはするが、高校生ブレーンたちのアイデアを尊重し、「対等の人間」として接している。こんな大人ってなかなかいない。

            理解があるという顔をして、実際には子供の話なんか聞いていない大人が多いもの。私はもういい歳なのだが、こんな大人になりたいと思う。
            いまでも。


            読んで感動する本はたくさんあるけれど、出会えてよかったと思える本は案外少ない。

            「ブレーンストーミング・ティーン」は本当に出会えてよかったと思える1冊だ。

            ブレーンストーミングとは、直訳すると頭の中で嵐を起こすこと。
            これを読んで摩湖といっしょにブレストのドキドキ・ワクワク感を楽しんでください。

            頭とココロに嵐が嵐が起こるから。


            JUGEMテーマ:気になる書籍



            ブレーン・ストーミング・ティーン / Brain Storming Teens
            • いまいまさこ
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            • 1296円
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