八咫烏シリーズ外伝『ふゆきにおもう』(ネタバレ)

2018.02.07 Wednesday

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    八咫烏シリーズ外伝『ふゆきにおもう』。『烏は主を選ばない』の主人公・雪哉の出生にまつわる物語です。

    『烏は主を選ばない』から八咫烏シリーズの重要な役割を担ってきた雪哉。一見、明るく飄々としているけれど、俯瞰的に物事をみる目と、明晰な頭脳を持つ少年で、若君からの信頼も厚い。

    そんな彼の能力は、実は2人の母親から受け継いだものでした。

    『ふゆきにおもう』あらすじ


    北領・垂氷郷の郷長の下の息子2人が行方知れずになった。母親の梓は必死で探すものの見つからない。そんな時・息子雪哉とその母親・冬木の噂を耳にした梓は、北本家の姫・冬木のことを思い出す。

    梓は昔、冬木に仕えていた侍女だった。冬木は病弱ゆえ、意地のわるいところがあったが、梓のように気に入ったものや、小さく無垢なものにはやさしかった。そして、俯瞰的に物事を見る目と、明晰な頭脳を持っていた。

    ある時2人の前に垂氷郷の嫡男・雪正が現れた。健康的で誠実な雪正に惹かれた冬木をおもい、梓は雪正と冬木の縁談を申し出る。しかし、雪正が思っていたのは梓の方で…



    2人の母


    『烏は主を選ばない』では、雪哉の母は侍女だった梓と夫雪正へのあてつけとして、無理やりに雪哉を産み落として死んでいった、と語られました。

    けれども、そこには冬木の計算があったのです。ただ純粋に自分の子を生みたい。その思いと梓への信頼。自分が死んだあと梓が雪哉を守ってくれるだろうと。だから2人を恨む芝居を打って雪哉を産み落としたのでした。

    このふゆきの計算高さと、自分の評価より目的を優先する行動力、それが雪哉に受け継がれたのでしょうね。

    『しのぶひと』で雪哉が結婚相手の条件としてあげた「自分に何かあった時頼れる実家があり、夫婦間に恋愛感情を持ち込まないこと」という表現も若宮の影響もありますが、やはり冬木の遺伝なのでは。

    そしてもう一人の母、梓からは思いやりと思いやりを受け継いだ気がします。
    この母がのおかげで、雪哉は垂氷郷でなんとかやっていけたのだし、『黄金の烏』でも相手への思いやりについて教えられています。(その時は暴走しましたが…)



    いよいよ八咫烏シリーズ外伝『烏百花 蛍の章』の発売が決まりました。これまでの短編に加えて書き下ろしも。





    八咫烏シリーズ


    『烏に単衣は似合わない』
    『烏は主を選ばない』
    『黄金の烏』
    『空棺の烏』
    『玉依姫』
    『弥栄の烏』
    外伝『すみのさくら』
    外伝『しのぶひと』
    外伝『まつばちりて』
    外伝『あきのあやぎぬ』
    外伝『ふゆのことら』

    八咫烏シリーズ外伝『すみのさくら』

    2018.02.03 Saturday

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      八咫烏シリーズ外伝。第一巻『烏に単衣は似合わない』の系列物語。南家の姫・浜木綿の子供時代のお話です。

      『すみのさくら』あらすじ


      浜木綿は南家の姫でありながら、両親が政権争いに敗れて殺されたため山烏として育った過去があり、その際に若宮とも面識があった…というのが『烏に単衣は似合わない』で語られた過去で、では実際にどんな事情があったのか、浜木綿はどんな風に変わっていったのかが描かれます。

      南家当主の姫として何不自由なく育てられた浜木綿でしたが、ある日突然その身分を剥奪され、山寺で暮らすことになる。混乱の中、おじの融が両親を殺したとの噂を聞き、ひとり復讐に向かうのだがあえなく失敗。
      失意の中すごすうち、ある日上皇につれられ若君が寺にやってきて…

      後に浜木綿は自分が生き残ったのは周囲の人達の情があったからこそだと知ります。なるほど確かにこの人の芯の強さは一度地獄をみたからでしょう。

      だからこそ、若君も伴侶として選んだんだろうな。



      いよいよ八咫烏シリーズ外伝『烏百花 蛍の章』の発売が決まりました。これまでの短編に加えて書き下ろしも。



      八咫烏シリーズ


      『烏に単衣は似合わない』
      『烏は主を選ばない』
      『黄金の烏』
      『空棺の烏』
      『玉依姫』
      『弥栄の烏』
      外伝『すみのさくら』
      外伝『しのぶひと』
      外伝『ふゆきにおもう』
      外伝『まつばちりて』
      外伝『あきのあやぎぬ』
      外伝『ふゆのことら』

      JUGEMテーマ:電子書籍



      八咫烏シリーズ外伝『しのぶひと』(ネタバレ)

      2018.01.31 Wednesday

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        人型をとる八咫烏の世界を描いた阿部智里先生の『八咫烏シリーズ』。2018年現在、第一シリーズが完結。さらに次のシリーズが予定されています。

        不思議な八咫烏の世界の描写と、先が読めないミステリ仕立てのファンタジーが魅力の、このシリーズは現在6巻まで刊行されていますが、それとは別に外伝として短編がいくつか出ています。ただし、今現在は電子書籍のみなので、電子書籍を扱うネットショップ等での購入、スマホやPCでの閲覧に限られます。
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        『しのぶひと』あらすじ


        若宮・奈月彦を守るため、地方豪族の次男坊・雪哉は王の護衛「山内衆」の養成学校、勁草院へ入学する。

        物語は雪哉が勁草院にいた第4シリーズ『空棺の烏』の頃のお話。
        端午の祭祀にみごとな弓射を披露した雪哉。若君の正妃・浜木綿の君に仕える女官・真赭の薄(ますほのすすき)は、そんな雪哉の成長を微笑ましく見つめていた。

        しかし、出家している身(実際に尼になるわけではない)とはいえ、かつては若宮のお后候補となるほどの美貌の真赭の薄は、祭祀の際に貴族たちから見初められて縁談が舞い込んできた。彼女の行く末を案じた若宮と浜木綿の君は、ある人物の助言から彼女の縁談の相手に雪哉を指名したのだが…。



        ここからネタバレ感想


        『玉依姫』に至る前のつかの間の平和な日々に、こんなことが起こっていたんですね。実は雪哉と真穂の薄の縁談を助言したのは若君の側近・澄尾でした。
        そのことが後に真赭の薄にバレてこっぴどく嫌われるのですが…。澄尾、不器用だなあ…。

        このあたりのストーリーが『弥栄の烏』へつながっていくわけですね。

        そして澄尾の気持ちを唯一察したのが真赭の薄の弟、明留だったとは。おぼっちゃんと思っていたけれど、なかなかどうして、人の気持ちを察することのできる子なのだな。

        結局、この縁談は真赭の薄が嫌がりお流れになりましたが、雪哉の妻に求める条件が「政治的な選択で裏切るかもしれない、夫婦間の恋愛感情は必要ない。」など、まるでどこかの主みたいな言い草なんですね。

        まあ、彼なりに相手を思っての言葉ではあるのですが、この主従似たもの同士だわ…。

        いよいよ八咫烏シリーズ外伝『烏百花 蛍の章』の発売が決まりました。これまでの短編に加えて書き下ろしも。


        おまけ


        八咫烏シリーズを読むと、阿部智里先生は本当に『十二国記』がほんとに好きなんだろうなあ、と感じます。若君たちが住む中央の山は十二国記の王たちが住む凌雲山に似ているし、今回出てきた端午の祭事で陶器の鹿を撃つ弓射は十二国記『丕緒の鳥』の鳥に見立てた陶製の的を射る儀式・大射を思わせます。

        同じモチーフを使っていても、アウトプットでは全く異なる話になるのがが面白いところですね。

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        八咫烏シリーズ


        『烏に単衣は似合わない』
        『烏は主を選ばない』
        『黄金の烏』
        『空棺の烏』
        『玉依姫』
        『弥栄の烏』
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        外伝『まつばちりて』
        外伝『あきのあやぎぬ』
        外伝『ふゆのことら』




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        『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』ほしおさなえ

        2017.12.14 Thursday

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          思えば近頃、私たちの周りにはデジタルなもので溢れている。フィルムカメラはデジカメに、活版印刷はオフセットからデジタルに。アナログの機器は制限が多く、人はより便利に、きれいにするため技術を発達させてきたけれど、気がついたら私たちの周りからは質感が消えていました。

          さわり心地や重さ、匂いなど視覚以外の感覚。それらをもつのが「物体」なのかもしれない。
          逆に若い人たちの間では、物体として残せるフィルムカメラや活版印刷が流行っているのだといいます。

          『活版印刷三日月堂』は、そんな手に取ることができる「もの」を活字にたくして伝えているのかもしれません。

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          『チケットと昆布巻き』 大切な場所の話。


          観光雑誌「めぐりん」の記者・竹野は、友人の結婚式で再会した同級生たちと自分を比べ、仕事や収入将来について引け目を感じた。そんな時、取材時に紹介された三日月堂を取材することになり、竹野は弓子さんに「どうして活版印刷をはじめたのか」と質問をする。

          弓子さんが活版印刷をはじめた理由が語られます。家族が早くに亡くなってしまった弓子さんにとって三日月堂とは、弓子さんが家族とつながっていられる大切な場所だったんですね。
          三日月堂はお客さんとのつながりが深いし、三日月堂に集まる人が多くて気がつかなかったけれど、そういえばこの人は天涯孤独だったのだと思い出しました。

          この話を読んで、自分の大切な場所について考えてみました。私にとっての三日月堂は、実家の工場です。自営業だったので、家の裏に工場があり、入ると大きな機械の動く音や油の匂いがしていました。もう取り壊してしまったけれど、今でもときおり思い出します。

          この章に登場するレトロな雰囲気の市民シアター「シアター川越」は「川越スカラ座」がモデル。実際にイベントで使用したり、映画とのタイアップ企画などにも力をいれています。

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          『カナコの歌』家族の思い出


          「めぐりん」に掲載された三日月堂と弓子さんの記事をみつけた、弓子さんの母・カナコさんの同級生・聡子。カナコさんの生きていた思い出を伝えるため、彼女は三日月堂を訪れます。
          闘病のこと、死の恐怖から逃れるように書いていた短歌のこと。

          弓子さんはお母さんを早くに亡くしたため、思い出らしい思い出を持たなかったけれど、こうしてお母さんを知る人から伝えられることで、思い出を追加してゆくことができてよかったですね。聡子さんたちにとってもカナコさんのことを思い出せるいいきっかけになったようです。
          人は、思い出を作り出すことができるんですね。自分のためにも、誰かのためにも。


          『庭のアルバム』道を見つける


          母親がもっていたカナコさんの歌カード(弓子さんが印刷した)に興味をもった高校生の楓。学校生活に馴染めない彼女は三日月堂での活版印刷ワークショップをきっかけに、弓子さんからイベント用のカードのデザインを任されることに。

          楓がちょっと苦手な父方のおばあちゃんの家の庭で、カード用のスケッチをしていると、苦手だったおばあちゃんの意外な一面を垣間見ることができて…。おばあちゃんと孫の交流、「西の魔女が死んだ」を思い出しました。

          学生の時ってなにがきっかけか、自分でもわからない方向に行ってしまうことがありますよね。楓さんも弓子さんと活版印刷に出会うことで自分の進むべき道を見つけられたみたいです。

          『川の合流する場所で』新しい流れ


          弓子さんが活版印刷のイベント出会った岩手の印刷会社の会長とその親戚の青年・悠生。話を聞くと三日月堂にある大型印刷機械もあるという。弓子さんは機械をみるため岩手へ。それは機械の視察のほかにもうひとつ目的があって…

          今回ご縁ができた盛岡の本町印刷。そこでいよいよ大型機械を動かすことができました。そこには青年の祖父である前会長の込めた思いが活字に組まれていて、それをかたちにすることができたことで、悠生にも弓子さんにも新たな流れがきているのかもしれません。

          願わくば、人をつなぐ手を持つ優しく孤独な女性に、幸せが訪れますように。


          『活版印刷三日月堂』とコラボした作られた『大人の科学マガジン 小さな活版印刷機 (学研ムック 大人の科学マガジンシリーズ)』。

          物語に登場した「テキン」での活版印刷が自分でもつくれます。ひらがなとカタカナだけですが、これからの季節、年賀状に活版印刷でひとこと添えるのにもいいですね。

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          活版印刷三日月堂シリーズ


          『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』
          『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』
          『活版印刷三日月堂 星たちの栞』
          『活版印刷三日月堂 海からの手紙』
          『活版印刷三日月堂 星たちの栞』
          『活版印刷三日月堂』の舞台を訪ねて

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          珠玉の短編とエッセイ『男どき女どき』向田 邦子

          2017.11.29 Wednesday

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            『父の詫び状』を読み、すっかりハマった向田邦子。続いて読み始めたのが『男どき女どき』。小説とエッセイが収録されている短編集。向田さん最後の作品集。

            大人になるということは、秘密を抱えながら生きることなのだ


            『男どき女どき』の小説は、家族には言えない秘密を、静かに淡々と隠しながら日常を過ごす人たちの話が描かれます。小さいころに向田ドラマを見た時、大人とはこんなにも秘密が抱え、それを隠しながら生きているものなのか、と感じたものです。

            大人になるということは、そんな、人に言えない秘密を抱えながら生きることなのだ。それがとても恐ろしいような、ドキドキするような。

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            しかし、いざ大人になってみたものの、そんなな秘密とは無縁で平々凡々たる日々を過ごしております。向田ドラマに登場するような大人の秘密は実は選ばれた人間しか持ちえないものなのだ、とようやく気がつきました。(そりゃそうか。)

            思えば向田作品は、私にとって大人になる通過儀礼だったのかもしれません。今ではあまりテレビで向田作品を目にすることは少なくなりましたが、こうやって本を手に取ると、なんだか子どもの自分が人の秘密を垣間見たような、そんなドキドキと落ち着かない気持ちになります。

            最初に掲載された短編「鮒」は、まさにそんな「大人の秘密」がつまった話。読むと心がざわざわします。

            平凡な家庭の団欒に突如おかれた鮒。どうやら男の浮気相手が飼っていた鮒のようだ。捨てようとしたが幼い息子が育てると言い出し、家で飼うことになった。不安になった男は息子をつれ、かつての女のアパート付近を訪ねてみるが女はおらず、帰ると鮒が死んでいた。どうやら妻は感づいていたらしい。息子は母が殺したのではと疑い…

            男は秘密を隠し、女は秘密を知っていることを隠す。これを家庭で普通にやっているのだから、恐ろしい。

            久しぶりにみた向田邦子新春シリーズは、やはり秘密の匂いがした。

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            向田邦子新春シリーズドラマ「男どき女どき」

            ○の書かれた葉書


            後半はエッセイで、猫好きとして知られていた向田さんの飼い猫の話や、日々のこと、家族の話などが語られます。
            なかでも印象的だったのが、「○の書かれた葉書」にまつわる話です。

            戦争中、向田さんの末の妹が疎開することになり、まだ字がかけない妹に、父親は自宅の住所を書いた葉書をたくさんもたせ、「元気なら○を書いて送ること」と言って送り出します。しかし、最初は大きかった葉書の○が次第に小さくなっていき、☓が書かれ、最後は葉書も届かなくなり、病気でやせ細って帰ってきた妹を、父親が抱きしめて号泣する…というお話です。

            このエピソードは、他の漫画などでもモチーフとして使われていたので知っていたんですが、元ネタが向田さんだったんですね。こんな細やかな愛情を見せられたら、どんなに頑固で独裁的な父親でも憎めないでしょう。

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            「書店員 波山個間子」ブックアドバイザーの波山さんがお客さんからの漠然とした要求をうけ、膨大な知識と経験で、みごとお客さんが読みたかった本が向田邦子作品だということにたどり着きます。


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            年の離れた男女の恋愛を描いた『娚の一生』では、主人公の海江田とつぐみが親に捨てられた遠縁の子どもを預かり、一緒に暮らすうちに情がうつって家族として暮らそうと思った矢先、反省した親が迎えに来る。海江田はその子に住所を書いた葉書を渡して、元気なら○を書いてポストに入れろと言って送り出します。

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            案の定、はまってしまった向田邦子『父の詫び状』

            2017.11.17 Friday

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              昔、向田邦子新春ドラマシリーズをみたことがあります。お正月に放送されたそのドラマは、たいてい戦争前の時代で、女系家族の穏やかで静かな生活が描かれる一方で、その家の長女(もしくは母親)が人に言えない相手との道ならぬ恋に落ちるストーリーに、こどもごころにスリルとエロさを感じました。

              淡々とした日常と、そこに潜む秘密。そんな艶っぽいドラマを描いた脚本家・向田邦子さんの名エッセイ『父の詫び状』。読むと絶対にハマってしまうだろうと、今まで読まなかったのですが、手に取る機会があり読んでみたところ、案の定でした。また読みたい本が増えてしまった…。

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              昭和の暮らし


              向田邦子新春ドラマだったと思いますが、空襲のあと家族が生き延び、家も無事だったとき、隠しておいた食材を使って、お芋の天ぷらや砂糖入りの紅茶といった、ささやかで豪華な晩餐をひらくシーンが印象的でした。

              実はこれって、向田さんご自身のエピソードだったんですね。『父の詫び状』を読んで初めて知りました。空襲のあと、とっておいた食料で同じように晩餐をひらいています。

              向田さんのエッセイには、ほかにも子供の頃のおやつの思い出、子どもたちが寝静まったあと、大人だけで食べる果物、それを時々わけてもらったこと。そんな、食べ物にまつわる話が多く出てきます。

              戦前の暮らしはとても静かで淡々としているけれど、時計のコチコチとした音や、母親が鉛筆を削る音、優しい生活の音に囲まれてとても美しいものでした。

              また、『父の詫び状』の中には、タクシー運転手にお金と間違えて家の鍵を渡して誤解されたり、留守番電話をつけたら黒柳徹子さんが何度もかけてきて喋り倒した挙句、用事を言わなかった、というエピソードはドラマ「トットテレビ」でも描かれています。

              向田邦子さん役はミムラさん。いい雰囲気でした。

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              懐かしい昭和の父親


              エッセイの中に出てくる向田さんの父親は、典型的な昭和の父親でした。見栄張りで家族には居丈高で尊大。気に入らないことがあれば怒鳴り散らす。子供である向田さんにも、正月客の宴を手伝わせたりしていました。

              ただ、そんな居丈高な父親でも、時折ふとみせるやさしさや弱さを、向田さんはその鋭い感性で拾い上げて描き出しています。思えば昭和という時代には多かれ少なかれ、向田家のような頑固で強い父親がいたものです。
              私の父もそうでした。

              『父の詫び状』は向田さんの家族の思い出であるとともに、昭和の父親を持つ読者にも、自分の父親を懐かしむことのできるエッセイでした。

              『父の詫び状』はドラマ化もされているようで、過去作品はプライムビデオで視聴可能です。

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              部屋にまつわる謎、あります。『物件探偵』乾くるみ

              2017.10.25 Wednesday

              0
                最後のページですべてをひっくり返したすごいミステリ『イニシエーション・ラブ』の乾くるみさんがの『物件探偵』。物件にまつわる謎を風変わりな不動産探偵、不動尊子が解き明かしていく短編集です。

                各章のタイトルがそのまま物件情報と間取り図になっているのが面白い趣向です。

                異色の探偵・不動尊子


                これまでも『東京ロンダリング』など不動産に関わる小説は読みましたが、『物件探偵』が扱うのは主に不動産。
                部屋の借り主や持ち主が(そうとは知らずに)抱えることになったトラブルを勝手に解決していきます。

                彼女は毎回宅建認定証を印籠がわりに、トラブルを抱える物件に乗り込み勝手に推理を始めてしまいます。どうやら多くの不動産を扱ううちに、その家の気持ちがわかるようになったらしいのです。
                部屋の借り主や持ち主のもとを訪れては「部屋が泣いています。」などと、部屋の気持ちを代弁し強引にあるべき姿に整えていく。しかし、その経歴は(宅建資格)以外はほとんど謎に包まれています。

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                身近なのに難解な不動産業界


                家を借りたり、買ったりという行為、私たちは普段当たり前に行っていますが、とても大きな金額を扱うのに、そうした契約時の手続きは正直よくわからないことが多く、不動産屋さんの言うとおりに書類を書いて捺印してしまっています。

                しかし世の中には悪質な悪質不動産屋もいて、物語ではそんな詐欺事件も扱っています。投資用に物件を相場より高く売りつける詐欺や、自分の横領を隠すために住人を追い込んだりと、恐ろしい不動産業界の裏側が見えてきます。

                そんな悪質な被害をうけないためには、やはり私達も勉強が必要ということですね。

                ところでこの「物件探偵」読みながら不動産の勉強にもなります。バルコニーとベランダのの違い、心理的瑕疵物件とはいわゆる事故物件で借り主に告知の義務があるなど、実際に役立つ知識も。

                『イニシエーション・ラブ』でも感じたけれど、乾くるみさんはこうした理系の解説がとてもうまくてわかりやすいですね。

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                大泉洋あてがき、出版界の陰、騙し絵の意味『騙し絵の牙』 塩田 武士

                2017.09.27 Wednesday

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                  罪の声」の塩田武士さんが、大泉洋のためにあてがきしたミステリ小説『騙し絵の牙』読了。
                  話術に長け、人を惹き付ける魅力を持つ編集長・速水が自身の雑誌「トリニティ」の廃刊を聞かされ、奮闘するのですが、実はもうひとつ、この話には「騙し絵」のような裏があり…

                  騙し絵の牙
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                  出版界の陰


                  出版に携わる人々が一致団結して漫画をつくる出版界の光の部分が「重版出来!」だとしたら、『騙し絵の牙』は出版界の陰の部分を描いた作品でしょう。

                  ネットに時間を奪われ、風前のともしびと化した出版界。作家の発表の場であり、収入源である文芸雑誌を廃刊に追い込む出版社。読者よりも話題性と売上を求める会社上部、売上重視で中身のない媒体なりつつある出版に、作家も編集も疲弊していく。しかし、作り手側も「今までのやり方がいい」と唱えるだけで、なんの進展もない。

                  今までの編集気質では、本や雑誌は他のメディアに太刀打ちできない状況にまで追いやられている現状にぞっとしました。有川浩さんも著作で「活字を読む人は希少種(になっている)」「これまでの伝統を守っているだけでは、活字は他のコンテンツに勝てない。」とおっしゃっていました。

                  せめて、本好きにできることとして、「好きな作家の本だけでも単行本で購入する」くらいのことはしないと…

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                  倒れるときは前のめり
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                  大泉洋あてがき小説


                  主人公・速水は大泉洋さんに似せて、宛書で描かれているため、話すセリフも大泉さんが実際にしゃべっているような口調なんですよ。、水曜どうでしょうファンには「ペ・ヨンジュンからの田中真紀子、鈴木宗男のモノマネ」など、懐かしいフレーズがでてくるのもうれしい。

                  大泉さんが演じているかのような速水に引きずられて、他の登場人物たちもついついどうでしょう班やチームナックスのメンバーで「あて読み」してしまい、まったく違うキャラなのに速水の上司を「じゃじゃじゃじゃじゃあ、トリニティ、廃刊にするから!」と藤村Dに変換して読んでました…。




                  「騙し絵」の持つ意味


                  速水は雑誌の廃刊を阻止すべく、作家へのアプローチ、メディアミックスが期待できる女優の小説掲載、テレビ局への根回し、果てはパチンコ産業とも手を組み、あの手この手で雑誌の売上を伸ばそうと奮闘します。
                  しかし、そのどれもが後手にまわってしまい、上司、部下にまで裏切られてしまいます。

                  最後に速水は労働組合の会合で相沢と専務に自分の編集への思いを吐露しますが、それも空振りに終わってしまう。

                  そんな展開が第一章から第六章まで続きます。速水はこのまま負け組で終わってしまうのか…と思ったら、最後の最後に文字通り「騙し絵」のもうひとつの顔が浮かび上がってくるんです。

                  これだけでもネタバレになりそうなので、ぜひ読んでみてください。出版界を支えるためにも、できれば単行本で、正規の値段で。


                  男としては最高、家庭人としては最低


                  最後に一つ、気になったところを。
                  容貌も話術も、人を惹き付ける魅力を持つ速水。もちろん女性にもモテるのですが、私がいまひとつ彼にのめり込めなかったのは、不倫ではなく、妻を人間扱いしなかったこと。速水にとって娘だけが家族であり、愛すべき対象なんです。

                  もちろん、妻の方にも問題はあるのですが、速水は徹底して妻に「愛する娘を世話する人」以外の役割を与えなかった。これは、夫が一番やってはいけないことだと思います。

                  娘にとっても「愛する母」をないがしろにするのが「愛する父」だった場合、ふたつに引き裂かれるわけです。心が。私自身も父が私を溺愛してくれたその口で、母を罵るのを聞いて、どれだけ辛かったか。

                  速水も娘を傷つけたことを深く後悔はするのですが、そのベクトルは最後まで娘にだけ向いています。この人は結局、娘を通じて、自分自身しか愛せないんじゃないかとも感じました。

                  映像化するなら奥さんを鼻持ちならないくらいに描かないと、女性からは支持を得られないでしょうね。

                  レビューポータル「MONO-PORTAL」

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                  『陸王』池井戸 潤

                  2017.08.26 Saturday

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                    池井戸潤作品『陸王』読了。初めての池井戸作品だったのですが、テンポがよく、読みやすい文章と、巨悪…じゃなかった、大企業に立ち向かう弱小チームの活躍に、ページをめくる手が止まりませんでした。

                    陸王
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                    『陸王』あらすじ


                    百年続く足袋製造業「こはぜ屋」の社長、宮沢は、先細る足袋の需要に会社の存続をかけ、足袋づくりのノウハウを生かしてランニングシューズ「陸王」開発の新規事業を立ち上げる。
                    しかし、そこには問題が続出。シューズの知識も乏しいまま、開発は難航し、親身になってくれた取引銀行の担当者の左遷、銀行の横暴(貸し渋り)、ようやく、ほかにはないソール(靴底部分)素材を探し、新素材の開発者、飯山をみつけるものの、飯山は法外な特許使用料を要求し…

                    一方、ダイワ食品の陸上選手・茂木はケガによる不調から、大手メーカー、アトランティスからシューズの提供を拒まれ、アトランティスのカリスマシューフィッター・村瀬は、選手よりも業績を重視する上司の小原のやり方に反発し、退職に追い込まれてしまう。

                    宮沢は村瀬や飯山に協力を仰ぎ、「陸王」の開発に取り組むが…

                    物ではなく、物に込められた魂を買う


                    『陸王』の中でこんなセリフがありました。

                    「陸王」に秘められているのは、シューズとしての性能だけではない。この開発にかかわってきた者たちの夢だ。

                    その夢と情熱がやがて人の心を動かし、仲間を増やしていきます。最初はまったく取り合わなかった茂木選手も、辛いとき支えてくれた宮沢や村瀬の気持ちにこたえ、アトランティスをけって陸王をはき続けることを選びます。

                    一方で大手企業のアトランティスは、卑劣な手段でこはぜ屋を陥れようとしたり、銀行は尊大な態度で貸し渋るし、弱者である陸王チームを見下す態度をとります。(このへんは、池井戸作品の定番ですね…)

                    商売は夢と情熱だけでは成り立たないけれど、最後に勝つのはビジネスよりも思いなんじゃないかな、と私は思うのです。『陸王』メンバーたちを見ていると、近江商人の「三方良し」の精神を思い出しました。
                    「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」
                    商売は売り手も買い手も満足し、地域社会にも貢献できるといった意味のこの言葉は、まさに陸王の精神を体現しているのではないでしょうか。だからこそ、人は惹かれるんでしょうね。

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                    こはぜ屋を守るには、着物業界の裏側


                    創業100年を超えるこはぜ屋の経営が立ちいかなくなるのは、経営側だけの問題ではないなと思います。私は、和装が趣味ですが、着物を着ない日本人にとって足袋はほとんど必要のないものです。

                    また、着物を着る人でも、私のようなかけられるお金が少ない人間だと、安い量産品の足袋ですませてしまうことが多いです。それには一部の悪徳着付け教室や呉服屋が、着物を高く強引に売りつけることで一般のユーザーが敬遠してしまうという裏事情もあるのではないかと思っています。

                    こはぜ屋を存続させるためには、宮沢さんのように新しい事業に挑んでいくのも大事ですが、ユーザー側も、
                    なんでも安く済ますのではなく、職人さんたちがつくった性能の高い製品にはきちんとした対価を支払うことが大事なのだなと感じました。


                    着物展示会で見つけた「陸王」のモデル「きねや」のMUTEKI(無敵) ランニング足袋 メンズ 黒 26.5cm

                    MUTEKI(無敵) ランニング足袋

                    「きねや」さんのデザイン足袋。白以外にもさまざまデザインがあります。

                     



                    『陸王』を読んでいて、「あれ?行田って『のぼうの城』の舞台の忍城があるところだわ。」と気づきました。

                    この地は昔から弱小と蔑まれる集団が、知恵と団結力で巨大組織に立ち向かってた気質があるのかもしれない。


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                    『アンマーとぼくら』有川浩

                    2017.08.08 Tuesday

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                      有川浩さんのアンマーとぼくら読了。

                      沖縄を舞台に描かれる、家族の物語。リョウは休みをとって沖縄のおかあさんと3日間過ごすことになった。おかあさんと家族の思い出の場所をいくつもをめぐるうち、北海道から沖縄に来たばかりの小学生の頃の自分と出会う。

                      リョウの父はカメラマンで、まるで子供のような人だった。実の母が亡くなり、一年もしないうちに晴子さんと結婚するため、むりやり移住されられてから、リョウと「おかあさん」、そして父親の沖縄暮らしが始まったのだ。

                      家族の思い出の場所をめぐるうち、リョウは沖縄も晴子さんも嫌いだったころのことを思い出す。その頃のぼくといまのぼくは、過去の後悔をとりもどすことができるのか。

                      アンマーとぼくら
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                      ごめんなさい、有川先生


                      この物語は、主人公の父親を許せるかに否にかかっているのだと思います。そして私は許すことができませんでした。いい物語を書いてくださったのに、有川先生に申し訳ないです。

                      すごく素敵な物語なんです。沖縄の日常風景や、聖地の御嶽(ウタキ)、竜に見える海の波、大切な家族の思い出の場所をめぐる旅の、楽しさの中にある切なさと悲しみ。「お母さん」と「おかあさん」の大きな愛、主人公との絆、今思い出しても涙がでます。

                      ただ、私はどうしても、あの父親を受け入れることができませんでした。

                      リョウが母親を亡くしてまだ1年たらずなのに、沖縄に移住するぞ!、晴子さん(おかあさん)と結婚するぞ!晴子さんをお母さんと呼べ!(実の)お母さんのことは忘れろ!というのは無茶苦茶すぎる。子供にとって、住む場所が変わるだけでもストレスなのに。

                      お父さんサイドから見れば、リョウのことを思ってはいて、理にかなった答えなのかもしれないけれど、リョウ気持ちを一切考慮せずに説明せず、子供のようにわがままを通す。

                      読んでいて私は、怒りや悲しみで、まるで腹に石をのまされたように気持ちがが重くなり、しばらく立ち直れませんでした。

                      物語は自分を映す鏡


                      きっとお父さんは、自分とリョウの気持ちが違うなんて想像がつかなかったんでしょうね。特に私は、HSP気質なので、あんな風に父親に振り回されたら、一生父親を許せないと思う。そしてなぜ、お母さんも、おかあさんも、あんな父親をとことん愛しぬくのか、どうしても理解できませんでした。

                      それは私が、父親とおなじく、自分の気持ちが一番大事で、わがままで、傷つきやすい子供だからなのかもしれません。
                      私は、いじめにあったりして、人に嫌われるのが怖くて、わがままを極力我慢して常に気をまわしながら生きているのに、なんでこの人は、なんでもかんでも好き勝手をして許されるのか。

                      そんな羨ましさとも、憎さともつかない思いが渦巻いてしまい、うまく読むことができなかった。それは、きっと、私の器の小ささ、心の狭さ、ものの見方の偏りによるものでしょう。

                      登場人物の言動に自分の感情を映すことで、普段意識できない自分の思考や考え方をとらえることができるし、別の登場人物に寄り添えば、また違った感情を発見する。もしかしたら、物語というのは、鏡のようなのかもしれません。

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                      アンマー
                      アンマー
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