「ねむりねずみ」 近藤 史恵

2010.01.23 Saturday

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    ねむりねずみ」は歌舞伎(梨園)の世界を舞台にしたミステリ小説。
    歌舞伎の演目のように一幕目、二幕目とそれぞれに趣向が変わり、最後の幕ですべての謎が明らかにされてゆきます。

    一幕目は歌舞伎界の御曹司・女形の中村銀弥はある時から「ことばを忘れる」病にかかり、つぎつぎと言葉を忘れてゆく。銀弥の妻、一子は彼を心配して気遣うが、彼女には別に恋人がいて…

    二幕目は一転して歌舞伎の舞台中に起こった殺人事件を探偵・今泉文吾と彼の友人で大部屋の女形、瀬川小菊が事件の真相を調査する。殺された人物は中村銀弥の相手役・小川半四郎の婚約者だったため、犯人は当初、劇場関係者とみられていたが…

    三幕目ですべての謎が解ける。関係者が一同に会して、探偵が事件の真相を語る。

    ミステリのトリックや展開は目新しいものではありませんし、「死体のでき方」についても本当に劇場でそんなことができるのかいな?とちょっと疑問点はあるのですが、「梨園」という芸に生きる特殊な世界の、光と影が映し出されたようなお話は興味深かったです。芝居の世界とその芸を極めることを第一とするならば、たとえどんな犠牲をはらっても構わないという生き方にはあこがれもするし、「怖さ」も感じます。

    悲劇的な展開の中で、唯一明るく魅力的なのは、御曹司の女形でも主役の役者でもなくて大部屋の女形小菊さんです。
    わたしはこの人が登場人物の中で一番好きです。精進のために常に女言葉を使い、たとえ端役でも舞台を支えるというプライドをもって演じている。
    今泉の助手、山本くんが「家柄で主役が決まるのは不公平だな」とぼやくと、「じゃあ他の世の中は公平かい?」と切り返すセリフが潔くてかっこよかった。

    今度歌舞伎を見に行くことがあったら、主役たちを支える、こういう役者さんたちに目が行ってしまうだろうな。

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    ●近藤史恵作品感想
    自転車ロードレースを舞台にした名作
    サクリファイス→
    エデン→

    ビターな恋愛
    「スタバトマーテル」→
    「アンハッピードッグス」→

    かわいいくて切ないミステリ
    「ふたつめの月」→
    「賢者はベンチで思索する」→
    「あなたに贈るキス」→
    「天使はモップを持って」→
    「モップの魔女は魔法を知ってる」→

    下町のシェフが解き明かすおいしそうな日常ミステリ。
    「タルト・タタンの夢」→
    「ヴァン・ショーをあなたに」→

    梨園の世界を舞台にしたミステリ
    「ねむりねずみ」→

    本当は怖い、母性のはなし。「スタバトマーテル」 近藤 史恵

    2009.12.23 Wednesday

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      慈愛に満ちた聖母を讃える歌「スタバトマーテル」これは私が今まで読んだ本の中でも結構「怖い」物語だと思います。母親の持つ母性は、神様から与えられた中で一番純粋で強い力だとおもう。普通の母親はそれで子供を守り、慈しむ。けれどもし、その強い母性が「歪んで」いるとしたら…

      スタバトマーテル あらすじ


      りり子は才能をもちながらもある理由から声楽家の道をあきらめ、芸術大学の声楽科の助手に甘んじている。あるとき、代理で歌った「スタバトマーテル」が縁で、美術科の講師である版画家・瀧本大地と出会う。人前で極度に緊張して歌えなくなるりり子を大地は「神様のための声だ」と讃える。

      お互いにひかれあうふたりだが、大地の母親・瑞穂は異様なまでに大地に執着し、二人の仲を裂こうとする。りり子は暴漢に襲われたり、無言電話が続いたりと数々の嫌がらせを受けるけれど、気の強いりり子はひるまずに大地を愛し続けるのだが、大地の母親・瑞穂の失明の原因が大地への角膜移植だと聞かされる。歪んでしまった母をもつ者に救いの道はあるのか…


      母性の恐ろしさ


      りり子と大地の恋の始まりは読んでいてもわくわくするし、美しい歌声や、版画の表現もすばらしいんだけれど、やはりこの作品で一番感じるのは「怖さ」ですね。

      とにかくもう「母親」の子供に対する粘着質な執着が恐ろしくて。じわじわと締められていく感じ。作中「母親」が「あの子は私が産んだ。だからわたしのものだ。」と当然のように言うのが本当に怖いんです。ホラー映画なら映画を見るのをやめればいいし、幽霊に悩まされたら霊媒師を頼めばいい。
      けれど「恐怖」がいちばん身近な愛すべき存在からだったとしたら、もう一生呪縛から逃れられないんですよ。

      物語のラスト。それが今後「希望」になるのか、「恐怖」になるのかわからないけれど、執着ではなく、愛情であってほしいと思いました。でもあの展開だったら十数年後にまた「母性」の因果が復活しそう…

      近藤史恵さんの作品はどれを読んでもはずれがない。

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      ドヴォルザーク:スターバト・マーテル
      クーベリック(ラファエル) マティス(エディット) モリソン(エルジー) レイノルズ(アンナ) トーマス(マジョリー) オフマン(ヴィエスワフ) ウィッチュ(ピーター) シャーリー=カーク(ジョン) コーン(カール・クリスティアン) バイエルン放送合唱団
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      ●近藤史恵作品感想
      自転車ロードレースを舞台にした名作
      サクリファイス→
      エデン→

      ビターな恋愛
      「アンハッピードッグス」→

      かわいいくて切ないミステリ
      「ふたつめの月」→
      「賢者はベンチで思索する」→
      「あなたに贈るキス」→
      「天使はモップを持って」→
      「モップの魔女は魔法を知ってる」→

      下町のシェフが解き明かすおいしそうな日常ミステリ。
      「タルト・タタンの夢」→
      「ヴァン・ショーをあなたに」→

      梨園の世界を舞台にしたミステリ
      「ねむりねずみ」→
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      レビューポータル「MONO-PORTAL」

      「京都魔界地図」 綾辻 行人 京都魔界倶楽部

      2009.12.13 Sunday

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        京都は有名な寺社の多い雅な都ですが、それらの多くは、怨霊やたたりなどを鎮めるためのものだということをご存知でしょうか。

        京都魔界地図」は、京都各地に存在する寺や神社にまつわる伝説を歴史的な視点から考察した京都の「裏」ガイドブックと言えるかもしれません。

        ただし、変にオカルトに走るのではなくあくまで歴史が伝える伝説に即した京都案内となっています。

        京都はその設立からして恨みやたたりが付きまとった都市です。
        平安京を作った桓武天皇は最初、長岡京に都を遷すものの、謀反の罪で殺された弟・早良親王の怨霊に悩まされ、とうとう10年足らずで平安京に遷ることになります。

        平安京は設立当初から怨霊やたたり対策として風水や五行思想が取り入れられた都市設計がおこなわれたのだとか。

        綾辻行人さんの京都を舞台にした不思議なホラー作品「深泥丘奇談」も収録。地蔵盆に関する地元の伝説にまつわるお話です。


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        こちらは江戸の魔界地図「平将門魔方陣」→

        レビューポータル「MONO-PORTAL」

        「容疑者Xの献身」 東野 圭吾

        2009.11.21 Saturday

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          いまさらですが「容疑者Xの献身」を読みました。今まで読んだ(といっても大した冊数ではないけれど)東野作品の中で一番好きかも。
          今まで読んだガリレオシリーズは、犯人も被害者も自己中でわがままなタイプが多くて、推理以外はあまり共感も感動もなかったのだけれど「容疑者Xの献身」は推理小説の形をとりながら、無償の愛や友情が描かれて、素直に物語に入り込めて楽しめました。また、天才数学者・石神の仕掛けたトリックも秀逸で、推理小説としても面白かった。さすがは直木賞受賞作。

          でも、容疑者Xこと天才数学者・石神が無償の愛を注ぐ女性・靖子さんはちょっとふらふらしているんだよなあ。
          石神に感謝しつつも、言いよってきた工藤と娘を残してごはんを食べにいっちゃうし。普通あんなことが起こったあとに中学生の娘を一人きりにさせるのはどうなんだろう。彼女が一番の当事者なのに、事件からもっとも離れた場所にいたような気がします。
          だから最後あんなことになっちゃうんだよ…(´Д`)=3

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          映画 容疑者Xの献身→
          「ゲームの名は誘拐」→
          「容疑者Xの献身」→
          「ナミヤ雑貨店の奇蹟」→

          JUGEMテーマ:ミステリ

          「重力ピエロ」 伊坂 幸太郎

          2009.10.11 Sunday

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            伊坂幸太郎さんの「重力ピエロ」を読みました。
            遺伝子関連の会社につとめる泉水、その弟の春。
            仙台市内に頻発する放火事件。
            その放火現場には必ず落書きが描かれている。
            落書きに描かれた言葉の意味を探るうち、放火事件の真相を突き止めることになるが…

            読んでみてまず印象に残ったのは独特で印象深いセリフ。
            特に春と泉水、二人の兄弟の父はその言葉で家族の危機を何度も救ってくれるのです。
            「俺達は最強の家族だ」
            「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」

            弟・春は、生まれながらにして重い遺伝子の十字架を課せられていて、それと闘うために様々な知識をみにつけていく。
            「自分は何者なのか」を突きつけられて、戦いをいどむのは「GO」の杉原に似ていますね。

            「重力ピエロ」はかなり重いテーマです。春は昔母親が○○○
            (書くのもムカつく言葉なので伏せ字)され、できた子供です。
            でも家族は全員、強い絆で結ばれています。
            しかし、どうしても○○○犯の遺伝子上の「父親」の存在が春に大きくのしかかっていて、そいつがまた反省もせずに反吐がでるような人生を送っている。最後に春はその「父親」と対峙しますが、彼の判断は正しかったと私は思います。

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            ●伊坂 幸太郎作品
            バイバイ、ブラックバード→
            陽気なギャングが地球を回す→
            JUGEMテーマ:ミステリ

            Story Seller (ストーリー セラー) Vol2

            2009.09.20 Sunday

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              近藤史絵さんの「サクリファイス」の外伝目当てでStory Seller Vol2を読んでみました。

              近藤史絵さんの「レミング」は「サクリファイス」に出てくる事件以前のお話で、自転車ロードレースチーム・オッジのエース、石尾とアシスト赤城が遭遇する事件について、エースとアシストの関係などが描かれています。Story Seller Vol1にも「サクリファイス」の外伝が載っているということなので、こんどはこちらもよんでみよう。(^^)

              もうひとつ、有川浩さんの短編「ヒトモドキ」も興味深かった。
              妖怪ヒトモドキに魅入られてしまった家族の物語。
              妖怪と言っても実は人間で、人に迷惑をかけることをまったく頓着しない叔母と同居することになったある家族。叔母はゴミ置場をあさっては「もったいないから」といって衣服やゴミを集めてくる。カビの生えたようなパンの耳を後生大事にもちあるき、子供たちにわけようとする。怖い、怖いです。(((; ゚д゚)))
              ゴミ屋敷を形成する妖怪ヒトモドキ。
              身内だから、迷惑をかけられてもなかなか縁を切ることができないのが怖いですね。日本て役にも立たない親族を後生大事にするところがあるから。注意も勧告も聞く耳を持たない妖怪ヒトモドキ。
              ある意味幽霊よりも恐ろしい存在です。有川さんはべた甘や自衛隊ものの他に、時々恐ろしい人間像を描くことがあるんですよね。「海の底」に出てくる圭介の母親もそうでした。ニュータウン内を支配していて、人を差別したりハブにしたりと平気でやってのける人間で、人の気持ちを理解できないというのは「ヒトモドキ」と共通する部分があって、こういう人間こそが世の中でもっとも恐ろしいんじゃないかと思います。

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              謎の老人、ふたたび。「ふたつめの月」 近藤 史恵

              2009.09.17 Thursday

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                久里子はバイト先のファミレスにくる不思議な老人、国枝と公園で言葉を交わすようになり、悩みごとや身の回りで起こった事件を相談するようになっていった。

                しかし、国枝老人はある日子供を誘拐した罪で警察に追われることに。警察から国枝老人は実は赤坂という名で、詐欺師としてマークされていると聞かされる。事件後、忽然と姿を消した赤坂。彼はいったい何者だったのだろうか…

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                たったひとつの後悔


                事件のあと、久里子は念願の雑貨会社に就職し、友達以上恋人未満の弓田くんともいい感じになっていたのですが、弓田くんは料理の勉強のためにイタリアへ行ってしまうし、好きだった会社もリストラされてしまう。落ち込んでいる久里子の前に、偶然、歩道橋にたたずむ赤坂老人の姿が。

                実は久里ちゃんの退職は、慕っていた会社の先輩が自分の失敗を見られたくなくて久里ちゃんの退社を仕組んだのです。これ読んだとき、人間て、ほんと怖えなと思いました。

                先輩も罪悪感は一応持っているのですが、それでも、自分のミスをぬぐうために人の人生を変えてしまうって発想が怖い。私だったら自分が辞めるけれど。


                パレードがやってくる


                久しぶりに帰ってきた弓田くんの家に遊びに行く久里ちゃんですが、そこには弓田くんの幼なじみ、明日香がいた。
                弓田君から「明日香の相談にのってやってくれ」と頼まれてしまうのですが、この明日香って子が超生意気でいろいろと久里ちゃんを振りまわします。

                「絶対分からない方法で人を殺す」と打ち明けられ、必死で止めようとする久里ちゃん。ベタな少女マンガのパターンですが、それでも久里ちゃんは弓田くんから頼まれたからと明日香の事件を赤坂老人に相談し、親身になって世話をします。

                久里ちゃんはほんと、いいこだなあ。


                ふたつめの月


                就職は決まったものの、好きだったアパレル系への未練が残っていて「このままでいいのか」と悩む久里ちゃん。赤坂老人へ相談をしにまた歩道橋へ。赤坂老人はいつもこの歩道橋で見かけるから。

                赤坂老人は下の車を眺めたり、公園から月が見づらいといって街頭を外してしまったりと、一見奇妙な行動をしているが、彼の行動にはいつも「理由」があった。

                赤坂老人と別れたあと、白いバンが老人をひき逃げする場面を目撃してしまう。実は、実はあの歩道橋の上から窃盗団の車を撮影していたらしい。赤坂の見舞にいくと「歩道橋の街頭を壊してくれ」と意外な頼みごとをされる…

                主人公の久里ちゃんがほんとにいいこで、思わず「久里ちゃん」と呼びかけてしまいそうな女の子なんです。本人はそんなにやさしくないと文中で語ってますが、今どきの女の子っぽさも持ち合わせつつ、困った身近な人間のために働くけなげさもある。

                赤坂老人との交流を通じて、久里ちゃん自身も成長してゆくのを、読んでいるこちらも応援したくなりました。


                前作『賢者はベンチで思索する』
                賢者はベンチで思索する (文春文庫)
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                近藤史恵作品感想


                自転車ロードレースを舞台にした名作
                サクリファイス→
                エデン→

                ビターな恋愛

                「スタバトマーテル」→
                「アンハッピードッグス」→

                かわいいくて切ないミステリ
                「賢者はベンチで思索する」→
                「あなたに贈るキス」→
                「天使はモップを持って」→
                「モップの魔女は魔法を知ってる」→

                下町のシェフが解き明かすおいしそうな日常ミステリ。
                「タルト・タタンの夢」→
                「ヴァン・ショーをあなたに」→

                梨園の世界を舞台にしたミステリ
                「ねむりねずみ」→

                「ミステリー通り商店街」 室積 光

                2009.09.01 Tuesday

                0
                  都立水商!」では水商売、「ドスコイ警備保障」では力士、を描いた室積さんがこんどは「ミステリー」をテーマにまたまた奇想天外な話を書いてくれた「ミステリー通り商店街」 。

                  家業を継ぐため出版社を退職した鳥越は、後輩から作家三井大和が行方不明になっていると相談される。当初は気ままな旅行かと思われたが、三井が気にしていたサイト批評家・岩田が気にかかり、岩田の住む温水町を訪れる鳥越。そこは「ミステリー」町おこし事業とする「ミステリー商店街」だった。
                  聞き込みの結果、三井がこの町を訪れていたことがわかったが、鳥越を協力する姿勢をとりつつも、興味本位で好き勝手な推理を展開する町の人たち。
                  いったい三井はどこにいるのか、岩田は三井失踪に絡んでいるのか…

                  「ミステリー」と名前がついているのだから、さぞかしどんでん返しの展開が待っているのかと思いきや、「ミステリーを思いっきりいじりたおした」作品でした。ミステリーの定番、探偵が推理をしようとすると他の面々が好き勝手に推理を話し出すし、かっこいい死体の隠し方も見つからない。なぜか最後は崖の上で犯人が語っちゃったり、これでもかというほどミステリを茶化しています。

                  この作品に出てくる岩田さんは権威大好きで上から批評するようなやな奴だったのですが、主人公がサイト批評家への無責任さを指摘するところは、ブログで読書感想を書いている私もちょっと考えさせられました。「おもしろかった」「つまらなかった」はあくまで私個人の感想ですし、批評をするつもりはさらさらないのですが、
                  それでも無責任な批評といわれれば否定はできないんですよねぇ。


                  ミステリー通り商店街
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                  都立水商(おみずしょう)!
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                  ドスコイ警備保障 (小学館文庫)
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                  『賢者はベンチで思索する』 近藤 史恵

                  2009.08.27 Thursday

                  0
                    近藤史恵さんによる日本版『隅の老人』。『賢者はベンチで思索する』は、主人公の少女が出会った不思議な老人が日常に起こる謎を推理していく物語です。

                    『賢者はベンチで思索する』


                    久里子のバイト先のファミレスには、週に3回ほどやってきては、いつもきまった隅の席に座る老人がいた。国枝というその老人は、いつもコーヒーをたのみ、古い日付の新聞を読んだり、窓から外を眺めたりして長い時間を過ごしてゆく。

                    ある日、公園で国枝老人に会った久里子は、その印象の違いに驚いてしまう。「軽度の痴呆」があるはずの国枝さんは、口調も理路整然としていてとてもボケているようには見えない。

                    飼い犬が毒団子を食べてしまったとき、偶然居合わせて助けてくれた国枝老人は、明晰な頭脳で犬殺しの犯人を見つけ出してくれた。その後も久里子は国枝老人の家でお茶をごちそうになったり、周りで起こる事件や問題にアドバイスをもらったりと、不思議な交流が続いてゆく。しかし、久里子と親しくしていることをファミレスでは内緒にしてほしいという。

                    仙人のような、賢者のような国枝老人はいったい何者なのだろう。

                    そんなとき、ファミレスの近所のこどもが誘拐され、国枝老人が容疑者に。信じられない久里子だが、実際に国枝老人は行方不明になっており、目撃証言も出た。ほんとうに、あの人は悪い人なのだろうか…

                    賢者はベンチで思索する (文春文庫)

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                    賢者はベンチで思索する」を読んで頭に浮かんだのはパロネス・オルツィの「隅の老人」でした。「隅の老人」は謎の老人が解決困難な事件の推理をカフェの隅の席で若い女性記者に聞かせるという、安楽椅子探偵の元祖ともいうべき作品です。

                    「隅の老人」ラストは、老人自らが犯罪者であることを示唆しつつ、多くの謎を残しながら読者の前から姿を消してします。


                    国枝老人も姿を消してしまうのですが、「隅の老人」と違うのは、国枝さんと久里子の間には信頼や友情のようにちゃんとした絆が存在していたこと。だから久里子は国枝さんを信じることができたし、真相を知ることができたんじゃないだろうか。


                    やはり近藤史恵さんの本ははずれがない。久里子の煮え切らない生活や、片思い、家族の関係など20代の女の子のリアルな日常と、ほんの少しの非日常がうまく重なり合った面白い日常ミステリでした。

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                    「隅の老人」→

                    ●近藤史恵作品感想

                    自転車ロードレースを舞台にした名作

                    「サクリファイス」→
                    「エデン」→
                    「スタバトマーテル」→
                    「アンハッピードッグス」→
                    「ふたつめの月」→
                    「あなたに贈るキス」→
                    「天使はモップを持って」→
                    「モップの魔女は魔法を知ってる」→
                    「タルト・タタンの夢」→

                    「ヴァン・ショーをあなたに」→
                    「ねむりねずみ」→


                    JUGEMテーマ:ミステリ

                    「T型フォード殺人事件」 広瀬 正

                    2009.07.28 Tuesday

                    0
                      昭和40年代。コレクター泉氏の家でクラッシックカー「T型フォード」のお披露目として同好の士を招いたパーティーが開かれた。作家の白瀬、大学教授の早乙女、自動車整備士の二郎、そしてT型フォードの提供者疋田医師が招かれ、その他、泉の娘ユカリとその婚約者ロバートが加わる。
                      宴の途中、疋田医師からこのT型フォードにまつわる過去の事件が明かされる。それは45年前、疋田医師の叔母、麻利子が因縁となった殺人事件だった…

                      T型フォード殺人事件―広瀬正・小説全集〈5〉 (集英社文庫)
                      T型フォード殺人事件―広瀬正・小説全集〈5〉 (集英社文庫)


                      今まで広瀬さんの作品はSFだけだと思っていたのですが「T型フォード殺人事件」は本格的なミステリでした。45年前疋田医師の叔母、麻利子のついた嘘が波紋を呼び、彼女の婚約者がカギのかかったT型フォードの中で死体で発見される事件が起こります。
                      それにしても広瀬さんの描写力はすごい。T型フォードの走る様子や昭和初期のフィルム映像が浮かぶようです。

                      ・殺そうとした
                      こちらも車にまつわるミステリ。
                      自動車教習所の講師と若い人妻が愛し合うようになる。彼女は冗談半分に車を使った完全犯罪のトリックは無いかと尋ね、二人は遊び半分で殺人計画を話し合うが…

                      立体交差
                      こちらはSF。1964年、オリンピックを控えた道路工事現場で立ち退きに応じない家の強制執行を行う工事責任者。その時、家の中に現れたのは1984年の自分で、彼はこの家を避ける設計の道路「立体交差」の設計を促すのだが…
                      マイナス・ゼロ」でもそうでしたが、広瀬さんのSFでは未来の自分と過去の自分が影響しあうんですね。過去の自分と未来の自分は同じ空間に存在してはいけないという説が多いのですが。
                      でも、実際にだれも経験したことがないわけだから、どんなことになるかなんて誰にもわからないですしね。
                      1984年ではサンマが高級食材で、自動発火装置のついたタバコ、派手な色に髪を染める女性など小さな未来描写も面白かった。
                      ここまで極端ではないけれど、広瀬さんの予測は現代で的中しつつあるのもすごい。

                      T型フォードの映像。今でも愛好者がいるんですね。


                      マイナス・ゼロ→
                      ツィス→
                      エロス→
                      鏡の国のアリス→
                      タイムマシンのつくり方→