2012.04.06 Friday

「三匹のおっさん ふたたび」 有川 浩

三匹のおっさん」の続編、「三匹のおっさん ふたたび」読了!
いやー、面白かった!(^^)今回もまた痛快でした。
キヨ、シゲ、ノリの幼馴染のアラ還三人のおっさんたちが、今回もご近所で起こる問題をが華麗に(?)解決。

今回、ノリさんに見合い話が浮上!
しかも三匹の偽物現る!
祭りは無事成功できるのか?
祐希と早苗の恋と受験の行方は?

前回は痴漢や小動物への虐待など悪質な犯罪行為が描かれていましたが、今回は万引き、違法ゴミ投棄などご近所トラブルが中心。しかし、身近な犯罪であればあるほど、ご近所の人間関係も関わってなかなかに解決が難しい問題なのです。

・ヘタレ親世代、がんばる


第一話では、キヨの息子の嫁であるお嬢さん育ちの奥様・貴子の、パート先でのトラブルが描かれています。パート先でハブにされる中で、親切にしてくれた人から「金を貸して」といわれたら、そりゃ断れないよね。(^^;) それでもなんとか自分で解決しようとする貴子さん、今回成長したと思います。

息子の健児さんもたよりない印象でしたが、お祭りの出資を引き受けてくれたのは、すごいことじゃないかな。下手すりゃ会社での立場が悪くなることもあるから。

人ってその気になれば、いくつになっても成長できるのだ、と実感。


・本屋での悪質万引き


これは、今回一番「痛い」事件でした。地元の本屋の万引き対策を買ってでた三匹のお話。
本屋で新品のマンガを万引きして、古本屋に売りさばく計画的な万引き。子供に「欲しければ万引きしろ」と教える親。作中、本屋の利益率について解説がありますが、本屋って薄利多売の商売なんですよ。

そんな中で自分のエゴのために万引きをする、ましてやそれを悪いと思わない。これは、本が好きな人間からすると、読んでいて悔しくなります。

でも、最後本屋の店長さんが万引き少年たちに行った行為はステキでした。ただ頭ごなしに叱ってもなにも変わらないだろうし。


・偽物三匹と非常識な年寄り世代


よく時代劇なんかで偽黄門様や偽暴れん坊将軍がでてきますが、三匹のおっさんにも偽物が登場するとは…( ̄ー ̄)ニ
おまけに偽三匹のリーダーは、初恋の人がキヨさんの奥さん!そのため、ことあるごとに三匹に対抗意識を燃やします。偽三匹のおっさんたちは、居丈高な態度のため、とうとうトラブルを起こしてしまうのですが…。

今まではどちらかというと若い世代の犯罪や常識のなさに、三匹たちが立ち向かう感じでしたが、今回は年寄りも世代にも平気でゴミを不法投棄したり、「最近の年寄りは」と言われるマナーの悪い連中と遭遇します。

確かにねえ、私の周りでも老人同士の揉めごとは結構聞きます。( ´Д`)=3 宴席で自分の席順が下だと怒ったり、ゲートボールの点数ごまかしたりとかは日常茶飯事らしいですから。


三匹のおっさん ふたたび
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2012.03.05 Monday

「困っているひと」 大野 更紗

大野更紗さんの「困ってるひと」読みました。
明るく、若い女の子らしい文章で綴ってありますが、読んでいくうちにこれは「地獄」だな、と感じました。

・ある日突然、難病を発症する
・身動きがとれない
・治療方法が見つからない
・麻酔なし、皮膚を切り取られる検査
・かさむ入院費
・専門家でさえ難解な福祉システムとの手続きバトル
・サポートに疲弊した友人たちからの別れ

まさか、まだうら若き女性が数年間ですさまじく壮絶な体験をすることになるとは…。
普通なら、こんなに若い難病の人間を社会や周辺の人間が手厚く保護されるかというと、そんなことはなく、
(私は日本の保証制度を信じていたのです、この本を読むまで。)
驚くことに彼女は、サポートが受けられないと認識すると、治療病院の選択から福祉システムの手続き、果ては通院可能な圏内への引越し作業、こういったことを一人で決めて実行していきます。(もちろん、人の助けを仰ぎつつですが)

たぶん、私だったら途方にくれて、途中で「どうにかなって」しまうだろう。

健康な私では、大野さんが体験した壮絶な闘病の本質なんて理解出来ないのでしょう。
でも、理解はできなくても、知りたいと思いました。
それが、私がこの本を読んで正直に思ったことです。

私にも難病の友人がいます。
彼女もまた、壮絶な闘病の日々の中にいます。
そして、そこには誰もわからない「もの」があるのかもしれない。

自分にできることは限られている。

だから、この本を読んで少しでも知りたい。私にできることを。

明るい文章ですが、難病のこと、医療、社会福祉制度の矛盾などの問題点に関しても鋭く、わかりやすく書かれています。
困ってるひと
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2011.12.21 Wednesday

美しくも残酷な自転車ロードレースの世界。『サヴァイヴ』 近藤 史恵

自転車ロードレース界を舞台にした名作「サクリファイス」、「エデン」のスピンオフ短編「サヴァイヴ」。「サクリファイス」や「エデン」前後の登場人物たちの様子が語られます。

レースでは強気の伊庭が家庭にめんどくさい問題を抱えていたり、一匹狼のエース・石尾に振り回されるアシストの赤城の姿だったり。長編二作より登場人物たちの性格や感情、家庭環境など意外な一面が明らかになっていました。

そして、レースに潜む「魔物」と戦う選手たち。彼らのなかにはプレッシャーに潰され自滅するものも多い。明日は我が身だと思い知らされながら、それでも彼らペダルを漕ぐことをやめない。ゴールの果てにあるものを目指しながら。

・老ビプネンの腹の中


「サクリファイス」以後。
フランスのチームパート・ピカルディに所属した白石誓(チカ)は、もとチームメイトの急死に際し、遺体確認をすることに。ドラッグ常用者だったというチームメイトの突然の死に動揺するチカ。チームのエースであるミッコはチカにフィンランドの昔話を聞かせ、「大切なのは生き延びること」だと告げる。


スピードの果て


「サクリファイス」以後。チカの海外移籍後、日本のエースとなった元チームメイト伊庭は、路上でバイクにあおられたことが原因で、交通事故に巻き込まれる。幸い、自身に怪我はなかったものの、バイクの持ち主の死が原因で、伊庭は以前の事件を思い出し、レース中にもフラッシュバックが起きてしまう。そのため思うような成績が残せなかった。そんな中、世界選手権に出場することになった伊庭は恐怖を抑えてレースに臨む。


プロトンの中の孤独


「サクリファイス」以前。
石尾がチーム・オッジに入りたての頃。まだオッジには別のエースがいたが、一匹狼の石尾はチームから快く思われず、孤立していた。赤城は監督からの要請で石尾に近づき、面倒をみるようになる。
しかし、レース中、チーム内からの妨害にあい、レースに嫌気がさした石尾に、赤城は「俺をツール・ド・フランス」へ連れて行けと言い放つ。


レミング


「サクリファイス」以前。
エースとして君臨するようになった石尾だが、相変わらずの一匹狼。赤城は、エースのために献身するアシストに対し、もう少し感謝の感情を伝えるよう諭すのだが、一向に効く気配をみせない。
石尾にとってはアシストもエースも役割のひとつとしてしか考えていないようで、状況によってはあっさりエースの立場を捨てて行動したりする。しかし、あるとき、レースで石尾への嫌がらせが相次ぎ…。


ゴールよりももっと遠く


「サクリファイス」以前。
今ではエースとして恐れられる存在になった石尾。しかし、あるレースが書類不備で出場停止となり、そこに、別チームのスポンサーのレース不正があった知る。石尾は赤城を誘い、レースの行われる山へ向かい、ひたすらにペダルをこぐ。不正への抗議行動として。
赤城は走ることだけを追求する石尾に寂しさを感じるが、一方で石尾は赤城と交わした昔の約束を覚えていて…


・トゥラーダ


「サクリファイス」「エデン」以後。
ポルトガルのチームに移籍したチカはルームメイト・ルイスの両親の家に下宿する。ルイスは以前、ドーピング疑惑をかけられた過去があるものの、移籍後は良い成績をおさめていた。しかし、ある日、ルイスからドーピング陽性反応が出たことを知らされる。


こうやって書きだしてみると、石尾と赤城は結構事件に巻き込まれていて、チカは仲間たちが落ちて行く姿を何度も目撃することになりました。
でも、それでも彼らは走ることをやめることはないのでしょうね。
このシリーズ、まだまだ続いてほしいです。もっと彼らの活躍と苦悩を読み味わいたい。
個人的にはサクリファイスで失恋(?)したチカに、色恋沙汰がちょっと起こって欲しい気も。

サヴァイヴ
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サクリファイスシリーズ


サクリファイス→
エデン→
キアズマ→スティグマータ→


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2011.11.28 Monday

ワケあり物件に住む、仕事。『東京ロンダリング』 原田 ひ香

『東京ロンダリング』、面白いテーマの小説でした。過去に賃貸物件で事件が起こった場合、客に提示する義務がありますが、その後、一度でも人が住んでしまえば、伝える必要がなくなる。そのため、「ワケあり物件に住む仕事(ロンダリング)」がある、らしい。

本当かどうかはわかりませんが、もし、そんな仕事をしている人がいたら、どんな暮らしをしているのだろうか。そんな社会の片隅に生きる人にスポットを当てた作品です。

東京ロンダリング あらすじ


主人公・りさ子は、行き場を失い、いわくつき物件に住む「ロンダリング」の仕事をはじめる。
家を追い出されたりさこは、不動産屋の相葉にすすめられ1年間、ロンダリングの仕事を続けてきた。

「いつもにこやかに愛想よく、でも深入りはせず、礼儀正しく、清潔で、目立たないように。」
りさこは、相葉からいわれた言葉に従い、淡々と気力のない生活を続ける。

その後、ロンダリング先の下町のアパートである変化が訪れる。大家の眞鍋夫人に強引に説得され、定食屋「富士屋」を手伝うことになり、富士屋の息子・亮や周りの人達と「関わり」がうまれる。亮はりさ子に「ずっとここにいてほしい。」と告げるが、りさこはまた、そこを立ち去らなければならない。

そんな折、仲間の菅が失踪。りさ子は急遽・菅の代役でロンダリングをしなければならなくなった。亮や眞鍋夫人に別れもいえないまま…。


ロンダリングの果てに


このままりさ子はまた、鬱屈をかかえながらロンダリングを続けていくのかな、それではあまりにも救いがないな、と思っていたら、亮たちとの出会いや事件をきっかけにして、りさこの中に変化が起ていきます。最後の展開は爽快感がありました。今自分がいる場所でなにができるのか考え、前向きに進んでゆくことができたのです。

実際にロンダリングという職業があるかはわかりませんが、寄る辺のない人達が、都市のかたすみで寄生しながらいきていく生活は、先行きの不安を感じさせる反面、どこか自由な気がします。

変死があった部屋に住むのはできそうもありませんが、知らない街で少しの間過ごし、また去っていく。そんな生活に少し憧れを感じました。

東京ロンダリング
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2011.09.17 Saturday

「映画が世界を結ぶ」 川喜多 かしこ

鎌倉を旅行したとき、川喜多映画記念館へ行って来ました。映画プロデューサーであった川喜多長政・かしこ夫妻の邸宅を改築してつくられた記念館は、名画の上映や映画ポスターなど資料の企画展示などを行っていて、小さいながらも内容の充実した記念館でした。

なにより、私が興味を惹かれたのは川喜多長政夫人・かしこさんです。
昭和初期、まだ女性が働くということに偏見があった時代にプロデューサーとして、夫長政氏の片腕として、洋画の選別・輸入業務をまかされ、戦後は数々の映画祭から審査員として招かれるまでになった人物です。

一体、どのようにして映画に携わることになったのか。とても興味を惹かれ、川喜多かしこさんの著書「映画が世界を結ぶ」を読みました。そこには、1本のドラマにできそうなくらいの波乱万丈な映画人生が綴られていました。

映画配給会社への就職


フェリス女学院出身のかしこさんは、関東大震災で父親を亡くしたため、働いて家族の生活を支えることになります。得意の英語力をいかして採用された「東和商事合資会社」で映画の輸入の仕事に携わります。

やがて社長である長政氏とのロマンスが芽生え、結婚。新婚旅行先で訪れた欧州で見た映画「制服の処女(おとめ)」が気に入り、日本に輸入すると大ヒット。それ以降、彼女の洋画の鑑定眼のおかげで、良質な映画が日本に輸入されることになります。

李香蘭を救った夫婦


戦中は大陸に渡った夫とともに、中国での映画産業に携わります。川喜多長政氏は、李香蘭が裏切り者として中国で処刑されそうになったとき、彼女の日本国籍を証明し、釈放に助力したことでも有名です。(このあたりのことは、ドラマ李香蘭に詳しい)また映画政策の方針から、満映の甘粕正彦に睨まれ、暗殺の対象になったことも!(((; ゚д゚))) それでも中国を離れなかった夫を支え、送り出したかしこさんの心痛は計り知れません。

戦後の混乱、そして映画祭へ


戦後は軍に関わったとして長政氏は公職追放となりましたが、それを救ったのは、欧州や中国で一緒に仕事をした映画人たちだったそうです。川喜多夫妻は単に映画をビジネスとしてだけではなく、優れた映画を欧州と日本とで紹介しあうことで、文化的な交流を図ることを基本理念としていました。

戦後、かしこさんはその確かな映画鑑定眼から、数々の映画祭に審査員として参加することになります。
出会った映画人たちのエピソードも興味深く、当時日本人にとって雲の上の存在だったチャップリンやオードリー・ヘップバーンなど著名な映画人たちと実際に言葉を交わし、友人となっていくのはすごいですね。
華やかな映画界の裏側をささえていた日本人、それも女性が活躍していたというのは、この本を読むまでまったくしりませんでした。

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2011.06.29 Wednesday

日常と非日常が入り交じる、南国への逃避行『エルニーニョ』 中島 京子

直木賞を受賞した中島京子さんの「小さいおうち」後、初の書き下ろし小説「エルニーニョ

「エルニーニョ」あらすじ


恋人ニシムラのDVに悩まされていた小森瑛は、とうとうニシムラの金を盗みだして逃亡する。誰ひとり知り合いのいない南へ逃れた瑛は、そこで褐色の肌をしたちょっと不思議な少年ニノと出会う。

ニノが居候していた古い商店街の石松砂糖販売でしばらくやっかいになっていた瑛とニノだったが、砂糖販売店が評判になったことでニノを追っている「灰色」(ニノを外国へ連れて行くらしい)が追ってきてしまい、ふたりはまた、あてのない旅に出ることに。

旅先で様々な人々との出会いがあり、楽しいこともあったけれど、やがて「灰色」だけでなくニシムラまでも瑛とニノを追ってきてしまい…


旅という非日常、伝承という非日常


南国の明るいひざしの中、先行きの不安や、追っ手に怯えながらも旅をする場面がすごく印象的で、瑛やニノが不安を抱えながら旅をしていく感じがすごく伝わって、ああ、逃亡するってこんな感じなのだな、と思いました。

また、瑛とニノの逃亡劇の合間に、その土地の伝承や言い伝えのお話が印象的に配置されています。瑛のように小さな男の子をつれて写真に写ったからゆきさん、日本に残る息子のために高級砂糖を残したオランダ商人、石松砂糖販売の地元に伝わる小守地蔵の話…。

どれも印象的で不思議な話で、それらは少しずつ現代の瑛とニノにも関係するようになっています。この不思議な話たちとのリンクが好きでした。

読みおわった後、じわじわと染みこんでいくような、印象的なお話でした。


だた、苦手だったところも。、私は女性が暴力や暴行を受けるシーンが苦手なので、ニシムラが瑛に暴力をふるうシーンを読むのは正直つらかったからです。

「エルニーニョ」に登場する男達は、DV男ニシムラを筆頭に、浮気をしても母に謝罪しない瑛の父、ニノを無理やり連れ戻そうとする「灰色」、ニシムラの上っ面にまんまと騙されてしまう鯨谷くんも、みんな、しょうもない。

瑛とニノの気持ちを無視して事を運ぼうとするけれど、唯一、まだ少年のニノだけがかっこいい「男」でした。
小さな体で瑛をニシムラから守ろうとするのです。きっとこの子は将来、いい男になるでしょうね。(^^)

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小さいおうち
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中島京子作品


「のろのろ歩け」→
「小さいおうち」→
「女中譚」→
「冠・婚・葬・祭」→
「花桃実桃」→
「FUTON」→

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2011.05.14 Saturday

「小暮写真館」 宮部 みゆき

小暮写真館」は、もと写真館だった家を買った家族が遭遇する、ちょっと不思議な物語。
約700ページの分厚さにも関わらず、1日半で一気に読んでしまいました。

小暮写真館


もと写真館の古い家を居抜きで購入した花菱家。花菱家の長男・英一は小暮写真館のあととりと勘違いされ、女子高生から不思議な写真を押し付けられる。そこには家族のスナップの中に泣いている女性の顔が写っていた。

怖いという感情というより、「なぜ映っているのか」という原因について気になった英一は、写真の謎を解明しようとする。やがてその写真の女性の正体がわかるのですが…

世界の縁側


前回の心霊写真事件の解決が一部で噂になり、英一は一年上の女子から強引に写真の謎の解決を依頼される。
親友テンコの部活仲間・コゲパン(女子)も加わり、調査を始める。依頼されたのは婚約者が写したというOGの女性の家族写真。笑顔の写真の奥、家の縁側では家族全員が泣いている。

その後女性の家では婚約破棄や会社の倒産といった悲しい出来事が起こった。はたしてこの写真はなにかの予兆なのか…

カモメの名前


写真の解明でお世話になっている不動産屋の社長からまたも謎の写真が舞い込んでくる。フリースクールに通う生徒たちの写真に、不恰好なカモメのぬいぐるみが写りこんでいる奇妙な写真。それには家庭内の不和に悩む小学生が父母にあてたメッセージをだった…

鉄路の春


英一は不思議写真の謎解明で知り合いになった、不動産屋の事務員、垣本順子のことが気になり始める。垣本さんは不遜な態度でいつも不機嫌だけど、なにか暗いものを背負っているらしく、時々自殺未遂を企てる。

そんな垣本を放っておけない英一やテンコとの交流で少しずつ変わっていくが、逃げていた彼女の母親が現れたことで、また彼女の様子がおかしくなってしまい…

ストーリーだけざっくり書きだすと、高校生のゴーストハント話にみえますが、幽霊や心霊写真はきっかけにすぎず、その裏にある人間の悲しみや、どうにもならないことへの憤り、そんな切なる感情が写真によってつまびらかにされていきます。

花菱家にも、4歳の娘風子を病気でなくすという悲しい過去があります。そしてそのことを家族全員が自分に責任があると感じています。小さな弟・ピカは花菱家の元家主・小暮老人の幽霊がでるときき、なんとか接触をこころみようとするのですが、それは好奇心からではなく「風ちゃんにあやまりたいから小暮さんに頼む」という理由からでした。

生きている者には、時々死者が必要になるんだ。」という不動産会社の社長の言葉が深いです。

宮部みゆきさんの時代物、「ぼんくら」や「日暮らし」など江戸の庶民のくらしと不思議な事件を描いた作品と、現代の作品とでは設定も時代も違うのに、同じ糸でつながっているような感じがします
きっとどちらも「不思議なこと」のなかにある人間の悲しみや絆を描いているからなのかもしれません。

小暮写眞館 (100周年書き下ろし)
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2011.04.12 Tuesday

「県庁おもてなし課」 有川 浩

県庁おもてなし課」は、高知県の観光事業の一環として発足した部署・おもてなし課の奮闘を描いた物語。ちくしょう、読んだら高知に行きたくなっちゃったよ。

「県庁おもてなし課」あらすじ


高知県庁に新しく発足した「県庁おもてなし課」。しかし、何をするにも「お役所意識」が抜けず、見切り発車で指導した観光特使に名刺を配ってもらう企画は難航する。そんな折、主人公・掛水は特使の作家・吉門喬介から辛辣な言葉を浴びせられる。

しかし、彼のアイデアと郷土愛をたよりにアドバイザーを依頼するが、吉門の条件は「民間感覚」をもつ女性スタッフの採用と、20数年前に提案された大胆な観光プラン「パンダ誘致論」の調査だった。

お役所仕事から、本当のおもてなしへ


最初の方はお役所根性まるだしで、読んでいてイライラしましたね。ユーザーに分かりづらくなってしまうのに、各部署を調整を優先させてしまうのが当たり前で、名刺のクーポンに有効期間を後付したことで観光特使からクレームがくるまで気づかないし、それが予算の無駄になることもわかっちゃいるけどやめられない。

主人公の掛水くんも最初はほんとに頼りなくて、彼の前半の功績は、「民間感覚」を持つ、しっかりものの女性・多紀ちゃんをスタッフとして引きぬいたのと、吉門のキツい意見を受け止めることだけでしたもん。(それだけでも役所にしちゃ上等だけど)結局、その多紀ちゃんに頼りっぱなしだったり、多紀ちゃんの気持ちに気づかずに吉門の義妹・佐和への態度で誤解させてしまったり。なんとも頼りない(^^;)

後半は吉門が推薦した観光のアイデアマン・清遠の指導もあり、掛水の成長とともに、「おもてなし課」自体も少しずつ意識改革がなされていきます。でもお役所ですので一長一短にはなかなか変われない、壁にぶち当たりながらも進み続けるのは読んでいて気持ちがいいです。「フリーター、家を買う」のお役所版な感じ。

大分しっかりしてきた掛水くんに対し、今度は吉門が血の繋がらない義妹・佐和への思いを伝えられずにウダウダしていたり。掛水は吉門に認められたくて、吉門は掛水の成長を喜びながらも素直になれない。こういう友情とも師弟愛ともつかない関係もまた、恋愛以外で面白い関係性でした( ̄ー ̄)

高知の名産。観光スポットも


高知県の観光を扱ってる小説ですので、高知県の観光のいいところがたくさん出てきます。美味しそうな郷土料理も。馬路村のゆず、鯖寿司、ツガニ汁、イモ天など、郷土にしかない美味し物って、県外の人間からみるとすごく新鮮。食べてみたいなあ。

地方を描いた小説だから、地方を助けたいとの、作者・有川浩さんの思い


「県庁おもてなし課」は、単行本印税をすべてを東北地方太平洋沖地震の被災地に寄付されます。
詳しくは有川浩さんのブログ「有川日記:それぞれにできること」を御覧ください。

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2011.04.09 Saturday

「レヴォリューションNo.0」 金城 一紀

「何度でも、ゼロに、戻れ」


南方、萱野、舜臣、ヒロシ、山下。愛すべきザ・ゾンビーズの仲間たちが帰ってきた!
レヴォリューションNo.0」はザ・ゾンビーズの初めての冒険譚。伝説の始まりです。

高校入学当初、南方は自分を取り巻く環境に息苦しさを感じていた。
かといって、退屈のけちらし方を見つけ出せない。

そんな時、学校側が行う団体訓練(という名のシゴキ)が行われる。
イジメのような訓練と暴力が繰り返される合宿に、南方たちは脱走計画を企てる。
部屋からの脱出に成功し、門扉にむかうメンバーたちだったが、そこには門のドアの他に南京錠が…
後ろには体罰教師たち。そんな時、仲間たちが「俺たちを超えていけ」と、踏み台になろうとする。
なんてベタな展開なんだ!と思うのに、この場面、涙腺が破壊されます。胸が熱くなります。

「史上最悪のヒキをもつ男」山下。いつもトラブルに巻き込まれる、愛すべき男だけれど、前作ではそんなにすきではなかった。(ごめん、山下…)でも泣きじゃくりながら腹をへらした野口に、山下がとっておいたおにぎりを渡すところにグッときた。こういう所がザ・ゾンビーズたちが山下を大好きな理由のひとつなんだろうな。

アギーも1年の頃からアギーだっだんだな。地獄のシゴキをどうやって切り抜けるのかとおもったら、施設の女医さんを味方につけて、ちゃっかり優雅なモーニングをいただいています。(^^)
アギーの台詞がまたかっこいいの。
「俺はお前たちにボーダーの超え方を教わったよ」

ザ・ゾンビーズシリーズが普通の小説と違うのは、読んでいる人間もいつのまにかザ・ゾンビーズの一員になり、冒険をしている感覚に陥ってしまうところです。本を開くといつもそこには舜臣や南方やヒロシがいて、山下は相変わらずドジを踏んでいて…と、そんな様子を見ながらまた冒険に出かけることができる。
「レヴォリューションNo.0」青春を懐かしむのではなく、青春を体感することができる、そんな物語なんです。

金城作品はいつも、ラストの言葉がかっこいい。
まるで映画のラストシーンのようなんです。今回も鳥肌もののラスト。
興味がある方はぜひ。

レヴォリューションNo.0
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●ザ・ゾンビーズシリーズ
ここからゾンビーズの冒険がはじまります。
レヴォリューション No.3→
舜臣と中年サラリーマンの奇妙な師弟関係。
フライ,ダディ,フライ→ゾンビーズと一緒に冒険する女の子が主人公の物語。
SPEED→

●その他の金城作品
GO→
対話篇→
映画篇→
漫画 映画篇1、2→

2011.03.17 Thursday

「もぎりよ今夜も有難う」 片桐 はいり

わたしのマトカ」、「グアテマラの弟」など、ぐっとくるエッセイを書かれる片桐はいりさん。
第三弾「もぎりよ今夜も有難う」は、かつて片桐はいりさんがもぎり嬢をしていた銀座文化劇場(シネスイッチ銀座)の思い出と、各地に残るなつかしい映画館についてのエッセイです。

映画館の思い出


映画館の思い出をもつ人は幸せだと思います。現在のシネコンと映画館は映画を上映するという目的は同じでも、決定的に違う。

おそらく映画だけでなく「映画を観る場所」そのものが思い出に残るのが映画館なのだと思います。わたしの田舎にも小さな映画館があり、ガラス張りの売店に飾られたパンフレットやお菓子、ほこり臭いロビーの椅子、トイレに向かう廊下のほの暗さに怖かったこと、開場前の順番待ちのワクワク感…今でも思い出すことがあります。

そういった映画館では観た映画まで思い出すことができるのです。はいりさんの語る銀座文化劇場は、そんななつかしい映画館の匂いがします。

そしてわたしもはいりさんと同じく、場内飲食厳禁のミニシアターに腹を立てたクチです。物を食わんで観る映画館で何を見ろというのか!(# ゚Д゚)

今のシネコンは飲食自由ですが、クソでかくてまずいファストフードとくそまずい飲料で高い金をとるフードコートは未だに納得できません。

旅と映画館


後半は、はいりさんが旅先で出会った映画館について書かれているのですが、シネコン全盛のおり、昭和の映画館というものは絶滅したものと思っていたら、案外まだ残っているらしいのです。役目を終えて撮影場所としてつかわれたり、まだまだ現役で活躍している映画館もあるんですね。

これはぜひ、訪ねてみなければ。

かつて、映画はただ見るだけじゃなく、映画を観る行為そのものがイベントでした。
ワクワクしながら並んだり、おいしいものを持ち込んだり。
そんな映画の楽しさを久しぶりに思い出しました。

今度映画を観るときは、シネコンじゃなく、映画館に見に行きたいです。

もぎりよ今夜も有難う
片桐はいり
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片桐はいりさん名エッセイ
わたしのマトカ→
グアテマラの弟→


映画館のある風景 昭和30年代盛り場風土記・関東篇
キネマ旬報社
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