八咫烏シリーズ6『弥栄の烏』阿部 智里(ネタバレあり)

2017.08.02 Wednesday

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    八咫烏シリーズ第一部完結編『弥栄の烏 八咫烏シリーズ6』読了。

    いやー、すごい。すごい物語でした。前作の『玉依姫』で八咫烏と山神の世界にいちおうの完結がなされたものの、八咫烏の世界の謎はもっと深く、恐ろしいものだったのです。
    弥栄の烏』は、前作『玉依姫』と対をなす物語で、山神と玉依姫のできごとを八咫烏側からの視点で描かれます。

    玉依姫

    正直、前作で世界の謎が明らかにされたたので、そんなに書くことがあるのだろうか?と思っていたら、同じ時間軸の同じ事件なのに八咫烏側からみると、こんな展開があったのかと。阿部智里先生の見せ方の巧みさに、今回もまた驚かされました。

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    『弥栄の烏』あらすじ


    人型をとる八咫烏が暮らす世界「山内」。そこへ人を喰らう猿が襲ってきた。参謀となった雪哉を中心に猿との戦いの準備をすすめる八咫烏だが、あるとき山神の怒りによって山内が大災害に襲われる。山神の怒りを鎮めるため、若宮・奈月彦は神域へと向かう。

    そこには人を喰らい、化け物と化した山神がいた。奈月彦は山神の怒りを鎮めるため、人身御供とされた人間の少女の世話を仰せつかる。その一方で山神を元に戻すために山神の正体を探ろうとするうち、自分自身、「金烏」とは何なのかを自問するようになる。

    一方、猿に調略された山神に仲間を殺された雪哉は、感情を抑え猿討伐に挑み…

    ネタバレ:玉依姫の対をなす物語


    『弥栄の烏』は、現世を舞台にした『玉依姫』と対をなす物語なので、起こる事件もそのまま、八咫烏側から見た視点で描かれます。山神と志穂との間の事件の合間に、なぜ真赭の薄が山神のもとへ行ったのかなど、細かい事象が語られます。また、「玉依姫」の物語が終わった後の、猿との最後の決戦が描かれていきます。

    そして今回、山神の怒りをかって殺された人物が誰なのかがわかります。

    茂さん、澄尾…(´;ω;`)ウッ…予想があたってしまった…。雪哉の親友、茂丸が山神の癇癪で命を落とし、澄尾も重体。茂さんは、時に辛辣にみえる雪哉の気持ちを、よく掬い取ってくれていたから、茂丸がいなくなった後の雪哉は、手段を択ばない冷徹な参謀と化してしまい、今後が心配だよ…。

    神とはいえ、子供のやることはえげつない…。そういや、この神も子供だけど、しれっと宇宙消しちゃうもんな…。

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    ネタバレ:金烏の正体


    八咫烏が敬うべき山神は、猿の甘言により人の肉を喰らって化け物と化してしまう。それでも山内への影響を考え、奈月彦は烏天狗とともに山神の正体(真の名)を探っていきます。その過程で真の金烏の意味を探ることにもつながっていき…。

    この、真の金烏の正体というのが、ミステリでいうところの犯人捜しにあたり、核心にいたるまで幾重にも謎が重なりあっていたのです。

    物語の終盤、奈月彦は金烏と山内の本当の意味を猿から告げられることになります。実は八咫烏と猿は、今の山神が来る前まで共同で山をおさめていた女神でした。八咫烏の女神が、山神の眷属とつがい、生まれたのが「宗家」だからこそ、真の金烏は「八咫烏の母であり父」だったのです。


    ネタバレ:猿の憎しみ


    しかし、神から神の使いになった八咫烏に恨みを抱き、己の血族をも巻き込んだ猿神の復讐劇は『黄金の烏』で猿を引き込んだ犯人の独白に似ているなと思いました。

    土地神としての誇りを奪われ、盟友に裏切られた恨みをずっとひきずって、念入りに山神と玉依姫の仲を裂き、八咫烏を襲い、奈月彦を追い詰めます。

    謎は解かれたものの、猿の呪いにより山内はいづれ滅びの道をすすむことが運命づけられてしまいます。

    ネタバレ:女性の活躍


    「烏に単衣は似合わない」以外、八咫烏がシリーズは男性中心の物語でしたが、今回はいろいろなところで彼女たちの物語も大きく展開していきます。『玉依姫』で志穂の世話役として登場した真赭の薄と奈月彦の妻、浜木綿。浜木綿は奈月彦のこどもを身ごもるものの、流産してしまい、真赭の薄に側室になるように勧めます。

    真赭の薄は、いがみあっていた澄尾が自分を思っていたのを知り、彼を助けるために山神のもとで玉依姫の世話役をかってでます。今回はお嬢様だった真赭の薄の成長が目立ちました。


    また、浜木綿も、最終的は真赭の薄の気持ちを優先させたり、滅びの道をたどる山内を背負う奈月彦に「ただの烏になったっていいじゃないか」と勇気づけます。

    八咫烏シリーズ外伝「しのぶひと」は真赭の薄。「すみのさくら」は浜木綿のお話です。





    そして気になるのが、奈月彦と浜木綿の子が女の子だったこと。姫宮だということは、土地神時代の八咫烏が女神だったことと関係するのでは…?

    表紙の絵は土地神時代の八咫烏ではないでしょうか。平安風の衣装は山神時代のものですから。裏面には赤ん坊をだく奈月彦らしい人物が描かれその足元には青い朝顔が。

    青い朝顔は浜木綿が奈月彦に話した「ただの八咫烏になったって生きていける」とい話とリンクする花です。
    さて、これから山内の世界はどうなるのか…?第二部が楽しみです。

    いよいよ八咫烏シリーズ外伝『烏百花 蛍の章』の発売が決まりました。これまでの短編に加えて書き下ろしも。



    八咫烏シリーズ


    『烏に単衣は似合わない』
    『烏は主を選ばない』
    『黄金の烏』
    『空棺の烏』
    『玉依姫』
    外伝『すみのさくら』
    外伝『しのぶひと』
    外伝『ふゆきにおもう』
    外伝『まつばちりて』
    外伝『あきのあやぎぬ』
    外伝『ふゆのことら』
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    心にしみこむ癒しのことば『マインドフルな毎日へと導く108の小話』アジャン・ブラム

    2017.07.26 Wednesday

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      これまでにも心理関係の本は読んできましたが、この本がいちばん、すっと心に入ってきました。なんというか、いちばんしっくりくるのです。

      例えるなら、水のようなものでしょうか。読むとするっと体に入ってきます。そこで初めて、今まで自分の心がが渇いていたかがわかりました。

      マインドフルな毎日へと導く108つの小話』は、テラヴァダ派のイギリス人僧侶・アジャン・ブラム師の説法集です。説法といっても堅苦しくはなく、人が感じる痛み、恐れ、怒りなどを収める方法として、ブラム師自身の体験や仏教の説話をもとにして説き聞かせてくれます。

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      宗教の説法にありがちの、自分の意見を押しつける感じが一切なく、ユーモアを交えて語ってくれます。その中には、「こんな考え方があるんだ!」と、目からウロコの話も多く、新しいものの考え方、とらえ方を教えてもらいました。

      その中で印象にのこった話を、書き出してみます。

      悲劇は大量の糞


      まず、お堅い宗教で不浄な糞を例えに出すのに驚きました。アジャン・ブラムは自分の身に起きた悲劇を「家に積まれたトラック一杯の糞」だと教えます。

      自分の責任ではなくとも、家の糞を片付けず、ただ嘆いているだけではひどい臭いもするし、虫だって湧くでしょう。それなのに人は時々、糞ポケットに入れて持ち歩いてしまいます。

      それはつまり、「悲劇」という糞を、他人になすりつけようとする行為なのだと。もちろんそんなことをすれば、家族や友人、周りの人に不快な思いをさせることになり、人は自分から去っていきます。

      私の知り合いにも、家が埋まるほどの一杯の糞をかぶせられた人がいました。彼女は最初のうち自分の糞をまき散らすことに熱心で、私たちもその悲劇の汚臭にやられて、一時期遠ざかるしかありませんでした。
      しかし、そのうち落ち着いて、自分の家の糞を片付けるようになりました。(それでも時々、まき散らしますけど)

      自分の身に起こった悲劇は、自分にしか片付けられない、そして、それを片付けられたら、庭には美しい花が咲き誇るのだと、アジャン・ブラムは教えてくれました。

      そういえば、禅宗の禅問答にも「仏とは?」「糞かきベラ(紙がない時代にトイレで使ったヘラ)だ!」というのがありますし、不浄のものの中にも、真理があるのかもしれませんね。



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      『天と地の守り人 ロタ王国編』上橋 菜穂子

      2017.07.03 Monday

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        『精霊の守り人』シリーズの完結編『天と地の守り人』、ロタ王国編、カンバル編、新ヨゴ編、3部作からなる壮大な物語です。

        『天と地の守り人 ロタ王国編』あらすじ


        南の強国・タルシュの侵攻に備え、国境を封鎖する新ヨゴ皇国。女用心棒バルサは、国外に取り残された人々を国に返すため山越えの用心棒をしていた。ある時皇太子チャグムとともに海に出た新ヨゴの海士から、チャグムの手紙を渡される。海に落ちて死んだとされていたチャグムが生きていた。タルシュに対抗すべく、ロタ王国に同盟を求めにひとり旅立ったらしい。

        バルサはチャグムの足取りを追ってロタ王国の港、ツーラムで情報を集めるが、国や組織のさまざまな思惑が入り交じったロタでチャグムの命は危険にさらされていた。果たしてバルサは、チャグムに出会うことができるのか。

        一方、タンダはタルシュの戦のため徴兵され、戦地へ赴くことに…。

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        』は、チャグムが主役の『旅人シリーズ』、この物語のラストから、『天と地の守り人』につながります。

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        『ロタ王国編』みどころ


        精霊の守り人シリーズでは、勧善懲悪という概念はありません。悪役であるタルシュ帝国側ですら、完全な悪とはいい難い。ひとつの立場から見れば正義でも、別の立場から見れば悪にもなりうる。そのため敵の中にも味方があらわれ、味方の中には敵の内通者がいる。

        物語の舞台となるロタ王国は、北と南で格差が大きく、自らの利権を保持するため南の領主たちはタルシュと結んで王を倒そうとします。そのため、ロタとの同盟を求めるチャグムを殺そうとする一方で、ロタ王の密偵・カシャルは、王を守るためチャグムを逃します。

        そんな中でチャグムだけは「みんなを救いたい。」というまっすぐな思いだけをもって進んでいきます。その思いは、敵方の密偵ヒュウゴの心を動かし、ロタ王子イーハンも、国が大変な中でもチャグムに出来る限りのことをしてあげようとします。

        バルサが「もう、自由に生きたらどうだい?」と言っても、「その道に行っても楽になれない」と返します。
        そこにはもう、小さかったチャグムの姿はなくて、自分の運命から逃げずに立ち向かう青年の姿がありました。このあとバルサとチャグムは、かすかな可能性をかけて、また旅を続けることになります。

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        『天と地の守り人』は一度読んで内容を知っているのに、バルサとチャグムが危機に陥るとハラハラしながら読んでいます。それだけ、この作品は物語の中に惹き込んでいく力があると思うのです。

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        ドラマ「精霊の守り人悲しき破壊神」では、『天と地の守り人 ロタ王国編』までが映像化されています。
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        活版印刷がつなぐ物語『活版印刷三日月堂 海からの手紙 』

        2017.04.18 Tuesday

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          前作『活版印刷三日月堂 』を読んで、すぐに読みたくなって続編を手に入れました。

          ([ほ]4-2)活版印刷三日月堂: 海からの手紙 (ポプラ文庫)』は、川越で活版印刷所を営む若き店主・弓子さんと、お客さんとの物語。

          弓子さんはお客さんとのやりとりから、お客さんが本当に求めている文字のかたちを探し出してくれます。4つの物語がでてきますが、登場人物は前の物語の登場人物と少しずつつながっています。そのつながりが、三日月堂が広がっていくようで、読んでいる方もうれしい。

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          ちょうちょうの朗読会


          朗読講座を受ける小穂たち4人は、先生に薦められ、あまんきみこさんの童話「車のいろは空のいろ 白いぼうし」朗読会を開くことに。パンフレットも同時につくることになり、小穂は同僚の結婚式で配られた活版印刷を思い出し、三日月堂を訪ねる。

          弓子さんのアドバイスで、パンフレットのイメージも決まり、朗読の練習に励む4人だったが、小穂だけは自分の朗読に自信が持てず…。

          朗読と活版印刷、どちらも言葉を伝えるものだけど、それ自体が目立ちすぎてもいけなくて、透明できれいで、相手に伝わらなければいけない。朗読も、読んでいる声に個性が出すぎると、物語がおろそかになるのでしょうね。

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          あわゆきのあと


          小学生の広太は、先生の朗読会でパンフレットを作った三日月堂に興味を持ち、時々店を覗き込んでいた。ある日、父親から生まれてすぐ、死んでしまった姉・あわゆきがいたこと、その骨が今もうちにあること、今度の法事であわゆきをお墓にいれる決心をしたことを知らされる。

          わずか3日で死んでしまった姉のこと、死ぬということ、父や母の思いを考えはじめた広太は、三日月堂で知った「ファースト名刺(赤ちゃんに贈る、名前だけの名刺)」をあわゆきと、両親のために作ろうとする。

          広太くんくらいの年頃って、死というものを初めて意識する時期だと思うんです。怖がったり、相談したり、たいていは忘れようとしてやり過ごすのだけど、広太くんはまず、あわゆきのことを考えるんですね。ただ怖がったりせずに、家族のためになにができるか考えるのって、すてきな子だなあと思います。

          そして、ファースト名刺、すてきですね。赤ちゃんは最初に名前だけがあり、そこから成長して自分を表す言葉を加えられていくんですね。


          海からの手紙


          川越に住む昌代は、親戚の子供・広太からもらった「あわゆき」の名刺に惹かれ、三日月堂へ。学生時代、銅版画と製本を学んでいた昌代は、貝をモチーフにした銅版画を好んで作っていた。恋人と別れたことで銅版画から離れていたけれど、弓子さんと話すうちに銅版画への情熱を思い出し、また、彫り始めるようになる。やがて弓子さんの活版印刷と、銅版画で、貝殻の豆本をつくることになり…

          この、豆本制作の過程がワクワクするんです。新しい情熱に突き動かされてニードル(銅版画の彫刻刀みたいなもの)を動かす。描くことによって、昌代さんは過去の傷を癒やしていきます。本当に、ものを作るって楽しくてワクワクします。私も、なにかしんどいことがあると、手芸やてづくりをすると、心が楽になります。

          俺達の西部劇


          川越の町で偶然、貝の豆本を手にした片山隆一は、活版印刷三日月堂が今も営業していることを知る。片山の父はライターで、三日月堂の先代で弓子さんの祖父とも交流があった。

          片山は、奔放でわがままな父が嫌いだった。父のようにならないため懸命に生ききてきたが、心臓病でリタイアすることになり、家族ともぎくしゃくしはじめる。そんな中、父の仲間から映画同人誌の最後の原稿のことを聞かされ…

          今回のテーマは父と息子ですね。永遠のライバルで確執を抱えてしまうとやっかいな存在。主人公も父親の最後の原稿を巡って、父と自分、自分と息子との関係を見つめ直していきます。
          それにしても、同人誌の版がまだ残っていたなんて、弓子さんのおじいさん、よほど片山さんの父親とその雑誌に思い入れがあったのでしょうね。

          活版印刷が人と思いをつないでいく三日月堂。三日月堂に来たお客さんは、弓子さんとの出会いによって、自分の進むべき方向を見出していきますが、弓子さん自身にも、なにかいいことが起こってほしいな、と読者としては思うのです。

          活版印刷三日月堂シリーズ


          『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』
          『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』
          『活版印刷三日月堂 星たちの栞』
          『活版印刷三日月堂 海からの手紙』
          『活版印刷三日月堂 星たちの栞』
          『活版印刷三日月堂』の舞台を訪ねて

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          思いを汲んで、文字を組む『活版印刷 三日月堂』ほしお さなえ

          2017.04.05 Wednesday

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            昔の町並みが残る街・川越の小さな活版印刷所、三日月堂。「活版印刷三日月堂」は、若き店主・弓子さんと、お客さんたちのお話です。

            弓子さんが活版印刷を通じて、お客さんたちの心の機微をすくい取って、かたちにしていく。物語ひとつひとつは本当に小さな、でもとてもあたたかくて、深い。

            世界は森


            川越の運送会社に務めるハルさんは、一人息子、森太郎が遠くの大学に行くことに寂しさを感じていた。

            そんな時、活版印刷三日月堂の孫娘・弓子さんが川越に戻ってきた。店主である祖父がなくなってから店を閉めていたが、事情があってこちらに住むという。

            三日月堂で印刷された名前入りのレターセットは、娘時代のハルさんの宝物だ。ハルさんは息子へな卒業祝いにレターセットを贈ることにして、弓子さんに依頼する。

            これが、活版印刷三日月の最初の物語です。自分の名前入りのレターセットが、活版印刷で刻まれるなんて、すてきですね。私も欲しくなりました。


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            八月のコースター


            喫茶店・桐一葉の若き店主は、伯父から引き継いだ店を、どう変えてべきか悩む。知り合いのハルさんから三日月堂を紹介されてショップカードをつくることにして、店主の弓子さんと一緒に、新しい店の姿を探しはじめた。
            弓子さんは、彼の話と店の雰囲気から、透ける桐の葉を印刷したデザインを提案する。

            そこから、店名の由来となった高浜虚子の句、桐一葉をモチーフに、コースターに俳句を印刷することに。

            弓子さんと話し合うことで、彼は自分悩みや、本当にもとめていたものを認識することができます。それにしても、俳句の世界って奥深いのですね。物語にでてくる俳句は高浜虚子の作品だそうです。

            高浜虚子句集【700句イラスト付】





            星たちの栞


            高校教師の真帆は、喫茶店・桐一葉のコースターで活版印刷三日月堂の事を知り、顧問をしている文芸部の生徒たちと見学にいくことにした。文化祭でのワークショップで活版印刷を使うことをも決まり、「銀河鉄道の夜」をモチーフにした展示内容も決まった。

            あとは、文芸誌の発行だけだが、侑加の作品が遅れている。侑加は他にはないセンスがあるものの、ムラが多く、家庭でも問題があるらしい。作品は間に合ったものの、侑加は学校に来なくなり…。

            女子高生が活版印刷に触れるシーンが印象的でした。三日月堂にあった本をみて、すべてに活字が組まれて印刷される。そこには質感があって、物語を書いた人がいるということを体感する、と。
            デジタル印刷は、美しく均整が取れていて、活版印刷の理想形であるはずなのに、質感がなくなったことで、物語の背景が感じづらいのかもしれません。

            銀河鉄道の夜

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            ひとつだけの活字


            図書館司書の雪乃は、祖母が残した活字を結婚式の招待状に使えないかと三日月堂を訪ねてきた。その活字は、祖母の父親が営んでいた活字店(活版印刷所に活字を売る店)のものらしい。雪乃の祖母(故人)は毎年その活字で孫の名前をにお年玉袋にスタンプしていた。しかし、のこっている活字はひらがなだけ。

            婚約者の友明は強引に後輩のデザイナーの金子くんにデザインを頼んでしまっているらしく、活字の招待状づくりは頓挫するかと思われたが…

            作中、金子くんも興味を示してましたが、活版印刷のレトロで不便なところが、デジタル世代の若い人たちに受けているそうです。けれど、不器用さをほめられるのは、職人たちとっては複雑な気持ちのだとか。

            昔の職人たちが目指したのは、今のデジタル印刷のような美しく均等な印刷。それを、凹んだり曲がったりがいい、と言われたら、そりゃ、嫌な気持ちになりますよね。

            昔は活字を彫り、それを組んで紙をすり、直しがでればばらしてまた組む…。そうやって人の手が入っていたのですね。デジタルの印刷技術は印刷の最高のかたちかもしれないけれど、人の手が入っていないことで、かえって作者や物語から遠くなってしまったのかもしれません。

            かといって、古いものがすべて良いわけではなくて、弓子さんはそんな現代の活版印刷の活かし方を探しているように思えます。

            雪乃さんの祖母の活字の思い出と、弓子さんの祖父との活版印刷の思い出。似た境遇の2人が語りあうことで、弓子さんの秘められた悲しい過去が、自分の感情に向き合うことができるようになるのです。弓子さんもまた、お客さんによって過去にけじめをつけ、進むべき道を見出していきます。

            これからの三日月堂、どんな物語が刻まれていくのでしょうか。

            活版印刷三日月堂シリーズ


            『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』
            『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』
            『活版印刷三日月堂 星たちの栞』
            『活版印刷三日月堂 海からの手紙』
            『活版印刷三日月堂 星たちの栞』
            『活版印刷三日月堂』の舞台を訪ねて
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            BAR追分シリーズ3『情熱のナポリタン』 伊吹有喜

            2017.04.02 Sunday

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              BAR追分シリーズ、その続編『情熱のナポリタン―BAR追分 (ハルキ文庫)
              』。

              新宿三丁目にある「ねこみち横丁商店街」その路地の一番奥にあるのが「BAR追分」。昼間は、おいしいごはんを提供する「バール」夜は本格的な「バー」。ふたつの顔をもつBAR追分に集まる、人々の物語。

              情熱のナポリタン―BAR追分 (ハルキ文庫)
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              お好み焼き大戦


              ねこみち横丁の管理人兼脚本家志望の宇藤くんの脚本完成祝いと称して、追分メンバーが集まっての飲み会。そこで、パンケーキやホットケーキ、お好み焼きなど、「粉もん」論争が繰り広げられる。
              それに加わったお客さんの、幼い頃食べた浜松のお好み焼きの味から、祖父の思い出につながっていき…。

              食べ物の思い出は、それをつくってくれた人への思い出でもあるんですね。浜松ではお好み焼きにたくあんを入れることもあるのだとか。食って土地土地によって変わるんだなあ。

              秋の親子丼


              Bar追分のバーテンダー見習いの純は、人気の元劇団員。けががもとで役者を辞めた彼の元に、劇団の主宰・桜井ギシュウが訪ねてくる。

              強引なギシュウは、純を待つ間に宇藤の脚本を読み、けちょんけちょんにしたかと思えば、帰ってきた純に劇団に戻れと言ったり、宇藤くんに劇団の脚本部に来い、と言ってみたり、とにかく強引。

              モモちゃんに怒られて退散するも、全く悪びれない。

              こういうギシュウさんみたいな人がいると、演劇に関わる人がすべて自己中にみえちゃうんだよね。
              観劇好きとしては、演劇の世界は、ただでさえ玉石混淆で閉鎖的なコンテンツだから、あまり誤解して欲しくないかな。ま、演劇に限らず、どの世界にもひどいのいるけどね。

              実はこの話のメインは宇藤くんじゃなくて、お客さんの兄弟のお話です。両親の離婚で別々に暮らしていた兄弟が久々にあってお互いの距離を縮めていく、しみじみとしたいい話なんです。

              蜜柑のこども


              前回、劇団主宰のギシュウに脚本をけなされ、落ち込む宇藤くん。そんなとき、遠藤会長が知り合いの子ども・柊くんをバール追分につれてくる。シングルマザーの母親が入院する間、預かることになったらしい。なりゆきでを柊くん預かることになった宇藤くんとモモちゃん。

              最初は人見知りで、ご飯を食べたがらない柊くんも、モモちゃんの工夫した料理(焼きそばパンケーキ、美味しそう!)や宇藤くんが遊んでくれたりしたおかげで、すっかり2人になついてしまいました。

              人見知りな柊くんがだんだん心をひらいていく様子がかわいい。やがてお母さんが退院し、柊くんは母親の故郷、新潟に帰ることに。柊くんが「うどうくん」て呼ぶのがかわいい。最後に大好きなメロンパンを勇気をだして宇藤くんに渡すシーンは、作中にでてくる芥川龍之介の「蜜柑」のシーンにかけているんですね。

              BAR追分の人々との出会いは、柊くんとお母さんにも最後の東京のいい思い出になったんじゃないかな。

              蜜柑
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              (2012-09-13)



              情熱のナポリタン


              宇藤くんや純くんにやたらとちょっかいを出してくるギシュウさん。宇藤くんの脚本をけなしても、才能は買っていて、しきりと脚本部へ誘ってくるし、あわよくば純もまとめて手元に置きたいらしい。

              そんな天才、ギシュウさんもメディアミックスの一大企画に頭を悩ませていた。ギシュウの腹心・空開は、なんとか宇藤を説得しようと画策をはじめ…。

              才能と、情熱。天才と凡人。宇藤くんとももちゃんも、ねこみち横丁のみんなに愛されているし、道半ばとはいえそれぞれ料理 や脚本の才能に長けているのだけど、「いつまでもここにはいられない。」っておもっているのね。

              彼らがねこみち横丁を卒業するときが、この物語が終わるときなんじゃないかと。そう思わせるところがあって、それは彼ら成長がうれしい反面、切ないことだなあ。

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              伊吹有喜作品 感想


              『彼方の友へ』
              『今はちょっと、ついてないだけ』
              『BAR追分』
              BAR追分シリーズ2『オムライス日和』
              BAR追分シリーズ3『情熱のナポリタン』
              『ミッドナイト・バス』
              『なでし子物語』
              『風待ちのひと』

              レビューポータル「MONO-PORTAL」

              いよいよ完結『ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~』三上 延

              2017.03.18 Saturday

              0
                人気古書ミステリ、ビブリア古書堂の事件手帖シリーズもいよいよ完結。今回いよいよ栞子さんの母・智恵子さんが長年探していた本が判明します。

                その本とは、いわばシェイクスピア戯曲の初版本・ファースト・フォリオ。1623年に発行された、市場にでまわればその価値は数億円にも及ぶという。

                今まで私なりに、智恵子の探す本がなんなのか、推測をしてみましたが、ことごとく予想を外されました。まあ、私ごときの推理でわかるものではないのですが。

                『ビブリア古書堂の事件手帖』が扱う本は「誰もが名前と代表作名は知っているけれど、詳細は知らない有名作家の稀覯本」だったし、これまでの物語の経緯からてっきり日本の作家だと思っていたけれど、シェイクスピアほど「名前と代表作は知っていても、詳細は知らない有名作家」はいませんね。

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                過去からの刺客


                前回、栞子さんの母方の祖父・久我山尚大という、悪名高き古書店主が登場して、犯罪まがいの取引で財をなした話が出てきましたが、今回もその祖父の亡霊(というか怨念)が栞子さんを苦しめます。

                発端は自分の跡を継がせようと、愛人の娘であった智恵子に3つの本から本物をひとつ、選ぶようにいいます。しかし、智恵子はこれを拒否。その因縁が巡り巡って、智恵子は家を出て本を探し、残された栞子さんは、母に遺恨をのこしてしまう。

                その亡霊の役割を演じたのが、長年・久我山尚大につかえていた吉原喜一という人物。彼がもちこんだ3つの複製本の中に、ひとつだけファースト・フォリオが紛れているというのですが…。


                母娘の対決


                今回はじめて、栞子さんと智恵子さんは直接対決を行います。古書市に宮原が出品したファースト・フォリオの落札を巡って、母娘が激しく競り合いを行います。

                果たして、勝つのはどちらか。また、本物のファースト・フォリオは存在するのか。このせりのシーンは、臨場感に溢れていて、読んでるこっちも手に汗握ってしまいます。

                栞子さんの能力は母親や宮原に正直劣るのかもしれません。ただね、栞子さんのそばには大輔くんがいます。大輔くんは確かに本を読むことはできませんが、できないからこそ宮原や智恵子が思いもよらないことをやってのけます。

                果たして、ファースト・フォリオは存在するのか。栞子さんはそれを競り落とすことができるのか、母との確執と大輔くんとの関係は…。

                ここからはもう、読んでください、としか言えません…。

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                「ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち」
                「ビブリア古書堂の事件手帖2〜栞子さんと謎めく日常」
                「ビブリア古書堂の事件手帖3〜栞子さんと消えない絆」
                「ビブリア古書堂の事件手帖4〜栞子さん2つの顔」
                「ビブリア古書堂の事件手帖5〜栞子さんと繋がりの時」
                「ビブリア古書堂の事件手帖6〜栞子さんと巡るさだめ」 
                ・「ビブリア古書堂の事件手帖 〜扉子と不思議な客人たち〜

                ビブリア古書堂シリーズで紹介された本が一冊に。「栞子さんの本棚」
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                BAR追分シリーズ『オムライス日和』 伊吹有喜

                2017.01.25 Wednesday

                0
                  大好きな伊吹有喜さんのBAR追分シリーズ、その続編『オムライス日和 BAR追分』読みました。気持ちがほぐれていく、大好きなお話です。そして、出て来る料理、どれも美味しそう。

                  新宿三丁目の奥にある「ねこみち横丁商店街」その路地の一番奥にあるのが「BAR追分」。昼間は、おいしいごはんを提供する「バール」夜は本格的な「バー」。ふたつの顔をもつBAR追分に集まる、人々の物語。

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                  猫の恩返し


                  「ねこみち横丁」の地域猫・デビイがこのごろ、よそで餌をもらっているらしい。デビイの肥満を心配するバールの料理人、桃子と、ねこみち横丁の管理人(兼脚本家の卵)の宇藤とともに、餌をあげた人にわかるよう、デビイのリボンにメッセージを送る。ところが数日後、デビイの首には「助けて」の文字が…。

                  どこのだれともわからない、助けを求める人を探すため、ねこみち横丁のメンバーが立ち上がります。

                  ねこみち横丁の管理人をしながら脚本家を目指す宇藤くんですが、商店街の紹介で、フリーペーパーにエッセイの連載をもらえることに。少しずつ、夢を叶えていく姿は、商店街の人々と同じく、読んでいる私たちも嬉しくなります。

                  モモちゃんが自分や宇藤のことを「デヴィのように横丁のみんなに居場所を与えてもらっている地域猫みたいなもの。」と言ってましたが、横丁のみなさんも若い人たちを応援したいんでしょうね。

                  オムライス日和


                  猫道商店街の管理人(兼脚本家の卵)宇藤くんは大学時代の友人、菊池沙里に偶然、ねこみち商店街で再会する。沙里から同級生たちの話を聞き、道半ばの自分と、どうしても比べてしまう。沙里は結婚式の二次会後、BAR追分で同じく宇藤を知る友人とあけすけな話に興じてしまい、それを宇藤くんに聞かれてしまう。

                  そりゃ、相手のテリトリーでその人のことをあけすけにしゃべるのって、ルール違反でしょう。

                  宇藤くんは、きちんと仕事をしている菊池さんにコンプレックスを感じ、仕事や恋に行き詰まっている菊池さんは、夢を追いかけている宇藤くんに憧れを抱いている。お互い、ないものねだりではあるのだけど。

                  みんな、無いもので、誰かをうらやましいって思ってる。ただ、ねこみち横丁の大人たちは、自分に自信を持っている気がします。だから迷える宇藤くんを助けたり、BAR追分の昼に桃ちゃんに料理屋をできるように計らってくれるのかもしれません。

                  バール追分のモモちゃんがつくるオムライスが美味しそう。ホワイトやデミグラス、フレッシュトマトソースを選べるのがぜいたくで楽しい。オムライスって、日常的に食べられるけれど、作り方によってちょっとしたご褒美ごはんにもなる。オムライスの黄色と赤いケチャップライスをみると、元気をもらえます。

                  ようこそ餃子パーティーへ


                  ねこみち商店街のイベント・フリーマーケット後の慰労会を、宇藤、桃子、バーテンダー見習いの伊藤の3人で仕切ることになった。宇藤くんは唯一得意だという餃子をつくり、桃子が焼いて、淳がビールを差し入れた慰労会は大好評。

                  宇藤くんは、BARの常連でフィギュアクリエイターの梵から、「スランプの時は基本に帰って(文章で)スケッチをすれば」と教えられ、横丁の人々の姿を文章にしはじめます。文章でスケッチっていい表現ですね。私もやってみたくなりました。こうしてコツコツと積み上げていけば、それはきっと、自分の力になっていくことでしょう。

                  森の診療所(リトリート)


                  BAR追分のバーテンダー見習いの純は、中性的で美しい容姿を持つ、ちょっとミステリアスな存在で、自分のことをあまり話さない。ある時、昼のバールの営業中、若い女子3人組がやってきて、「シドウジュンヤ」という人物を探しに来たと告げる。どうやらそれは、純のことらしい。女子たちはその場にいた宇藤にひどい言葉を投げかけて去っていく。

                  純は以前、人気の舞台俳優で、ケガをして引退し、隠れるように暮らしている。純の治療を行っている森の診療所の久保田先生は、自らも診療所を継いだ悩みを抱えつつも、何も聞かず、彼の治療を行う。

                  私も、舞台が好きで、贔屓の俳優さんもいますが、「誕生日を祝いたいから」って、いきなり訪ねてきて、彼の居場所を荒らすようなマネをするファンは、どうかと思いますね。

                  人に弱みをみせない純くんですが、久保田先生には弱みや信頼感をみせているみたいです。ただ、久保田先生はバツイチで年上なので、施術者と患者という立場を崩さないようですが。

                  雨のなか、2人がゆっくり食事をするシーンが美味しそうだし、やさしい温かみを感じます。

                  BAR追分 感想→

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                  伊吹有喜作品 感想


                  『彼方の友へ』
                  『今はちょっと、ついてないだけ』
                  『BAR追分』
                  BAR追分シリーズ2『オムライス日和』
                  BAR追分シリーズ3『情熱のナポリタン』
                  『ミッドナイト・バス』
                  『なでし子物語』
                  『風待ちのひと』

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                  負け組たちの敗者復活。『今はちょっと、ついてないだけ』伊吹 有喜

                  2017.01.22 Sunday

                  0
                    伊吹有喜さんの負け組たちへの眼差しが、冷静でありながら、とてもあたたかい『今はちょっと、ついてないだけ』。

                    「人生は何度だってやり直せるさ」なんて、ドラマや映画にありそうなセリフですが、実際はそう簡単なものじゃない。けれど、この本をよむと、一歩踏み出さずに後悔するより、少しでも前へ進みたくなる。小さな希望が感じられます。だから大好きなんですよ、伊吹有喜さんの本。

                    『今はちょっと、ついてないだけ』あらすじ


                    立花浩樹は、若い頃ネイチャリングフォトグラファーとして騒がれた写真家だったが、プロデューサーの保証人になったせいで、莫大な借金を背負い、その返済のため故郷に戻る。借金は返し終えたものの、カメラを持つこともなく、ただ流されるように日々を送っていた。

                    ある日、母の友人・宮川静枝から、自分の写真を撮ってくれと頼まれるが…。

                    今はちょっと、ついてないだけ
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                    負け組からの敗者復活


                    退職においやられたテレビマン宮川、技術はあるのに接客が苦手で伸び悩む美容部員、瀬戸、崖っぷち芸人の会田など、世の中からみたら「負け組」と呼ばれる人々と立花が関わることで彼らの敗者復活がはじまります。

                    この、負け組たちの描き方が一筋縄ではなく、宮川なんて読んでいて最初は失礼なことばっかり言う、調子の良い奴だと思っていたら、意外にも母親思いの一面があったり、立花も過去の自分を嫌うあまり、頑なすぎるところがあったり、嫌な部分も、そうでない部分も同じように描かれているのに、読んでいて共感します。

                    そうなんだよね、人って誰かにやさしくても、他の人には嫌がられたり、いろんな面をもっているのだもの。

                    こんな働き方があってもいい


                    物語の中、立花は自分が住むシェアハウスで、転がり込んできた宮川と写真の仕事を始めます。ただ、それだけじゃ食べられないから、バイトをしつつ、細々と続けるのですが、途中からシェアハウスの住人・瀬戸にメイクを依頼したりすることで、付加価値がついて、そこから仕事の幅が広がっていくんです。

                    いろんなものを失ってしまったけれど、それでも若い頃のように「夢をかなえる」いうより、やりたいことをやっていく、それで食えなかったら、他で補填する。
                    一つの仕事をずっと続けるのも大事ですが、たとえそこからはみ出してしまっても、いくらでもやりようはある。

                    要は、自分が納得するかどうかなんですね。

                    作中で、婚活の写真を立花に撮ってもらった女性が、相手に裏切られ、滞在先のホテルで現地の男性を買うことになるの話があります。

                    最初は、そんな関係は虚しいだけだからやめたほうがよいのに、と、思ったのですが、最後まで読んだら「自分が納得してればいいのかもしれない。」と、思うようになりました。個人的には賛成できないけど。

                    伊吹有喜作品 感想


                    『彼方の友へ』
                    『今はちょっと、ついてないだけ』
                    『BAR追分』
                    BAR追分シリーズ2『オムライス日和』
                    BAR追分シリーズ3『情熱のナポリタン』
                    『ミッドナイト・バス』
                    『なでし子物語』
                    『風待ちのひと』

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                    おいしいフレンチミステリ、復活。『マカロンはマカロン』近藤史恵

                    2016.12.24 Saturday

                    0
                      ようやく、待ちに待ったビストロパ・マルシリーズの続編『マカロンはマカロン (創元クライム・クラブ)

                      ミステリーというには、あまりにもやさしく、暖かい物語の数々。どの物語も、テーマとなる料理があり、そのどれもが美味しそう。料理を味わうように、物語を楽しめます。

                      装丁も、フランス料理のメニュー風に、フランス語と日本語で書かれています。

                      マカロンはマカロン (創元クライム・クラブ)

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                      以下、気になったものの感想を。

                      マカロンはマカロン


                      三舟シェフは、偶然再会したシェフ仲間の先輩、羽田野さんから、一緒に店に来たパティシエールの岸辺さんがあるお菓子とメッセージ「マカロンはマカロン」を残して姿を消したことに相談を受ける。

                      店に来た時、彼女のメイクや香水を注意したからではないかと(香りに敏感な料理人はメイクも香水もしないため)、羽田野さんは心配するが、それに対する三舟シェフの答えは…

                      日本でマカロンというと、色鮮やかなかわいいお菓子ですが、本番フランスでは、地味な色合いや、形も様々なバリエーションのマカロンがあるそうです。
                      日本で出回るマカロンは、マカロン・パリジャンという一種類なのだとか。


                      色鮮やかなマカロンばかりがもてはやされる。それを、若く女性が着飾った状態になぞらえて示す三舟シェフ。

                      料理界もですが、世の中まだまだ男性上位な世の中ですし、若くてきれいな女以外は女ではないと感じることも多いですから。

                      タルタルステーキの罠


                      牛の生肉を使ったタルタルステーキ。特に妊婦には寄生虫トキソプラズマの感染の可能性があるため、細心の注意が必要なメニュー。ある時、「タルタルステーキをメニューに載せて欲しい。」という風変わりな予約が入る。やがて現れた女性客2人は、タルタルステーキを注文するが、姑と思われる女性が、妊婦にタルタルステーキの一部を連れの妊婦に分け与えてしまい…。

                      せっかくの料理が、何らかの陰謀に使われたのでは、と落ち込む高築くんでしたが、一ヶ月後、予約した女性が一人で現れてタルタルステーキの真相を語ります。三舟シェフの「人が憎まれるなら、タルタルステーキが憎まれた方がいい。」というセリフがいいです。

                      三舟シェフは、単に料理をつくるだけでなく、お客さんに最高のかたちで提供し、喜んでもらえることを心情としているのですね。だから、ビストロ・パ・マルは居心地のいい空間なのでしょう。ああ、パ・マルに行ってみたい…(;´Д`)


                      ヴィンテージワインと友情


                      ビストロ パ・マルに若いグループが来店し、次の予約の際に、ワインの持ち込みを依頼される。やがて、グループのひとりの女性が高級なワインを持って現れる。その女性・嗣麻子の家は裕福らしく、ワインも家のものを持ってきたという。

                      それを快く思わない遙香という女性は嗣麻子を嫌い、彼女のワインの持ち込みを非難するが、実は…。

                      友情は難しいものです。聞き心地の良い言葉だけを言っていても、裏では相手を蔑んでいる友人と、嫌なことは嫌だとはっきりという友人。そのどちらを選ぶのは自分次第。

                      レストランではワインの持ち込み料金をを抜栓料というのだとか。こんなシステムがあったこと、初めて知りました。けれども持ち込みワインはつい飲みすぎてしまうらしいので、ご用心を。

                      タルト・タタンの夢 〈ビストロ・パ・マル〉 (創元推理文庫)




                      ヴァン・ショーをあなたに (創元推理文庫)
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                      ビストロ パ・マルシリーズ


                      「タルト・タタンの夢」→
                      「ヴァン・ショーをあなたに」→

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