勧善懲悪のない、大魔神。「荒神」 宮部 みゆき
2015.05.19 Tuesday
宮部みゆきさんの「荒神」読了。いや、すさまじい話でした…。時代物、ホラー、ミステリ、ヒューマンドラマが、相反することなく見事に交わり、壮大な物語が織り上げられた感じです。例えるなら、勧善懲悪のない「大魔神」かな。
享保の頃、東北のある地方。小平良山の麓の仁谷村で、村民が襲われ、生き残ったものも隣の永津野藩へ逃げ込むという事件が起きる。永津野は香山の主筋にあたるが、香山の民を狩り、非道を行っていた。そんな永津野へ村民が逃げるのは、どれほどの理由があったのか。
香山藩の若君暗殺の疑いをかけられ、城下を追われた元小姓・直弥は、原因究明のため、小平良山へ向かう。
一方、永津野藩で鬼と恐れられる曽谷弾正の妹・朱音は、養蚕振興のため、国境の名賀村へ移り住んでいた。兄と違い心優しい朱音は、ある時、怪我をした子供を拾う。実はその子供は、隣の香山藩の子供・蓑吉だった…。
村を襲った化け物のは「何」なのか、若君の暗殺、間者の暗躍…。香山、永津野、両側の視点から交互に描かれていき、物語の後半、個々に展開していた物語が一気に交わり、最後まで息もつかせぬ展開になっていきました。
「荒神」を「大魔神」みたいだな、と思ったのは、圧政に耐え忍んでいた人々が「人外」の力を頼む。結果、荒ぶる神は、敵も味方もなく暴れて手が付けられなくなり、美しい娘の、清い心によって怒りを鎮める。「荒神」も、大筋だけだと「大魔神」と似ているのですが、そこは宮部みゆきさんですから、いろいろな人の思い、いいものも悪いものも、全てを含めた、深い深い物語になっています。
「孤宿の人」を読んだ時も思ったけれど、ちかごろの宮部みゆきさんの時代物は、こういっちゃなんだが情け容赦がない。
ちなみに、大魔神はこちら。おっかないんですよ…。
「荒神」は、敵対する香山と永津野、両方の住民の視点から描き、そこへ蓑吉という香山側の少年が、敵側の永津野に投げ込まれることで、双方の言い分や立場が見え始めます。
お互いに憎みあってはいるけれど、どちらの村人も、思いやりのある人々なんです。それが差別や偏見、圧政によって歪んでしまう。強大な力の前には、協力しあってことにあたればいいのに、そんな理想論は起こらず、曽谷弾正に至っては、己の野望のために怪物までをも利用しようとする。
そんな、圧倒的な力の中でも、屈することなく、小さな勇気と、知恵を絞りながら抵抗する人々もいます。
恐ろしく強大な絶望のあとには、残された希望はほんの一握り。それでも、それでも、前を向いていくしかない。
切なく、悲しい話でした。
朝日新聞連載中に描かれた、こうの史代さんの挿絵が本になった「荒神絵巻」こういうのは嬉しいですねえ。
連載中の挿絵って、本になってもみたいですもの。
・荒神絵巻→
「荒神」はNHKでドラマ化されました。朱音と弾正の永津野藩側からの視点で描かれています。平岳大さんの弾正が悪なんですが、魅力的でした。平岳大さんは本当に魅力的な悪役がうまい。
荒神 あらすじ
享保の頃、東北のある地方。小平良山の麓の仁谷村で、村民が襲われ、生き残ったものも隣の永津野藩へ逃げ込むという事件が起きる。永津野は香山の主筋にあたるが、香山の民を狩り、非道を行っていた。そんな永津野へ村民が逃げるのは、どれほどの理由があったのか。
香山藩の若君暗殺の疑いをかけられ、城下を追われた元小姓・直弥は、原因究明のため、小平良山へ向かう。
一方、永津野藩で鬼と恐れられる曽谷弾正の妹・朱音は、養蚕振興のため、国境の名賀村へ移り住んでいた。兄と違い心優しい朱音は、ある時、怪我をした子供を拾う。実はその子供は、隣の香山藩の子供・蓑吉だった…。
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勧善懲悪のない、「大魔神」のような物語
村を襲った化け物のは「何」なのか、若君の暗殺、間者の暗躍…。香山、永津野、両側の視点から交互に描かれていき、物語の後半、個々に展開していた物語が一気に交わり、最後まで息もつかせぬ展開になっていきました。
「荒神」を「大魔神」みたいだな、と思ったのは、圧政に耐え忍んでいた人々が「人外」の力を頼む。結果、荒ぶる神は、敵も味方もなく暴れて手が付けられなくなり、美しい娘の、清い心によって怒りを鎮める。「荒神」も、大筋だけだと「大魔神」と似ているのですが、そこは宮部みゆきさんですから、いろいろな人の思い、いいものも悪いものも、全てを含めた、深い深い物語になっています。
「孤宿の人」を読んだ時も思ったけれど、ちかごろの宮部みゆきさんの時代物は、こういっちゃなんだが情け容赦がない。
ちなみに、大魔神はこちら。おっかないんですよ…。
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人の業
「荒神」は、敵対する香山と永津野、両方の住民の視点から描き、そこへ蓑吉という香山側の少年が、敵側の永津野に投げ込まれることで、双方の言い分や立場が見え始めます。
お互いに憎みあってはいるけれど、どちらの村人も、思いやりのある人々なんです。それが差別や偏見、圧政によって歪んでしまう。強大な力の前には、協力しあってことにあたればいいのに、そんな理想論は起こらず、曽谷弾正に至っては、己の野望のために怪物までをも利用しようとする。
そんな、圧倒的な力の中でも、屈することなく、小さな勇気と、知恵を絞りながら抵抗する人々もいます。
恐ろしく強大な絶望のあとには、残された希望はほんの一握り。それでも、それでも、前を向いていくしかない。
切なく、悲しい話でした。
朝日新聞連載中に描かれた、こうの史代さんの挿絵が本になった「荒神絵巻」こういうのは嬉しいですねえ。
連載中の挿絵って、本になってもみたいですもの。
・荒神絵巻→
こうの史代 宮部みゆき 朝日新聞出版 (2014-08-20)売り上げランキング: 119,583
ドラマ 荒神
「荒神」はNHKでドラマ化されました。朱音と弾正の永津野藩側からの視点で描かれています。平岳大さんの弾正が悪なんですが、魅力的でした。平岳大さんは本当に魅力的な悪役がうまい。