勧善懲悪のない、大魔神。「荒神」 宮部 みゆき

2015.05.19 Tuesday

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    宮部みゆきさんの「荒神」読了。いや、すさまじい話でした…。時代物、ホラー、ミステリ、ヒューマンドラマが、相反することなく見事に交わり、壮大な物語が織り上げられた感じです。例えるなら、勧善懲悪のない「大魔神」かな。

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    荒神 あらすじ


    享保の頃、東北のある地方。小平良山の麓の仁谷村で、村民が襲われ、生き残ったものも隣の永津野藩へ逃げ込むという事件が起きる。永津野は香山の主筋にあたるが、香山の民を狩り、非道を行っていた。そんな永津野へ村民が逃げるのは、どれほどの理由があったのか。

    香山藩の若君暗殺の疑いをかけられ、城下を追われた元小姓・直弥は、原因究明のため、小平良山へ向かう。

    一方、永津野藩で鬼と恐れられる曽谷弾正の妹・朱音は、養蚕振興のため、国境の名賀村へ移り住んでいた。兄と違い心優しい朱音は、ある時、怪我をした子供を拾う。実はその子供は、隣の香山藩の子供・蓑吉だった…。

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    勧善懲悪のない、「大魔神」のような物語


    村を襲った化け物のは「何」なのか、若君の暗殺、間者の暗躍…。香山、永津野、両側の視点から交互に描かれていき、物語の後半、個々に展開していた物語が一気に交わり、最後まで息もつかせぬ展開になっていきました。


    「荒神」を「大魔神」みたいだな、と思ったのは、圧政に耐え忍んでいた人々が「人外」の力を頼む。結果、荒ぶる神は、敵も味方もなく暴れて手が付けられなくなり、美しい娘の、清い心によって怒りを鎮める。「荒神」も、大筋だけだと「大魔神」と似ているのですが、そこは宮部みゆきさんですから、いろいろな人の思い、いいものも悪いものも、全てを含めた、深い深い物語になっています。

    孤宿の人」を読んだ時も思ったけれど、ちかごろの宮部みゆきさんの時代物は、こういっちゃなんだが情け容赦がない。

    ちなみに、大魔神はこちら。おっかないんですよ…。

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    人の業


    「荒神」は、敵対する香山と永津野、両方の住民の視点から描き、そこへ蓑吉という香山側の少年が、敵側の永津野に投げ込まれることで、双方の言い分や立場が見え始めます。

    お互いに憎みあってはいるけれど、どちらの村人も、思いやりのある人々なんです。それが差別や偏見、圧政によって歪んでしまう。強大な力の前には、協力しあってことにあたればいいのに、そんな理想論は起こらず、曽谷弾正に至っては、己の野望のために怪物までをも利用しようとする。

    そんな、圧倒的な力の中でも、屈することなく、小さな勇気と、知恵を絞りながら抵抗する人々もいます。
    恐ろしく強大な絶望のあとには、残された希望はほんの一握り。それでも、それでも、前を向いていくしかない。

    切なく、悲しい話でした。

    朝日新聞連載中に描かれた、こうの史代さんの挿絵が本になった「荒神絵巻」こういうのは嬉しいですねえ。
    連載中の挿絵って、本になってもみたいですもの。

    荒神絵巻→

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    ドラマ 荒神


    「荒神」はNHKでドラマ化されました。朱音と弾正の永津野藩側からの視点で描かれています。平岳大さんの弾正が悪なんですが、魅力的でした。平岳大さんは本当に魅力的な悪役がうまい。

    スペシャルドラマ「荒神」


    「ケルトの白馬」 ローズマリー・サトクリフ

    2015.04.15 Wednesday

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      2015年本屋大賞を受賞した、上橋菜穂子さんにも影響を与えた、イギリスの作家ローズマリー・サトクリフ「第九軍団のワシ」を読んで以来、ローズマリー・サトクリフの描く物語の世界に惹かれています。

      「ケルトの白馬」は、「第九軍団のワシ」から200年くらい前のお話。イギリスに残る「アフィントンの白馬」の遺跡をモチーフにその地に住むケルト人、イケニ族の若者・ルブリンが丘陵に「アフィントンの白馬」を描くまでのエピソードが描かれます。

      私はもともと、ケルトの紋様のデザインが好きでしたので、そうした紋様をつくった人々の話にも興味がありました。紀元前のイギリスでそれらの紋様は、どのように生まれ、かたちづくられていったのか。

      ローズマリー・サトクリフは、実在する出土品や遺跡から、それらを作り使った当時の人々の物語を紡ぎだすのが本当にうまい。読んでいるとまるで、歴史そのものを垣間見ているような気持ちになれます。

      「第九軍団のワシ」ほど長くないので、さくっと読めます。



      「ケルトの白馬」あらすじ


      族長の息子、ルブリンは、幼いころから自然や動物が、作り出すかたちに興味をもち、独特の感性で描き残すことを好んだ。また彼は親友のダラとともに、商人から伝え聞いた北の大地と先祖の冒険をなぞらえて、いつかの冒険に出ることを夢みていた。

      しかし、ダラが妹の夫として族長の継承者となった後、一族は南からの部族によって壊滅的被害を受ける。奴隷となったルブリンは、敵の族長にかけあい、丘に巨大な馬の姿を描くことで一族を開放しようと試みる…。

      ケルトの氏族


      ルブリンが属するイケニ族は、馬の放牧を行う種族で、馬の女神をまつり、一族の長の継承者は女性。世継ぎの姫と結婚したものが族長となる、女性の血統が重視されています。他にも、吟遊詩人や賢者(ドルイド)なども登場し、まるで、ファンタジーの登場人物のようでした。

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      私がはじめてケルト人を知ったのは、このマンガでした。

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      ローズマリー・サトクリフ作品
      『第九軍団のワシ』→
      『ローマとケルトの息子』→

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      ローマ時代のイギリス冒険譚。「第九軍団のワシ」 ローズマリー・サトクリフ

      2015.02.01 Sunday

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        ローマ時代のイギリス冒険譚「第九軍団のワシ」を読みました。大好きな「精霊の守り人」の著者、上橋菜穂子先生が著作やインタビューで何度も取り上げられていたのがこの本です。

        読んでみて思ったのは「子どもの頃に読みたかった!」です。しかし、その反面、おとなになった今だからこそ、培ってきた経験値で物語の風景や状況が想像でき、より深く、物語の世界を楽しめました。

        「第九軍団のワシ」あらすじ


        紀元前100年頃のローマ時代。ブリテン島(今のイギリス)では、カレドニア(スコットランド)以外の土地はローマの支配が進んでいた。百人隊長としてブリテンに赴任したマーカスは、地元の氏族との戦いで負傷し、軍を退役する。

        やがてマーカスは、身を寄せていた叔父のもとで、かつて父親が所属し行方不明となった第九軍団と、その象徴である<ワシ>の噂を耳にし、叔父の友人である司令官に、<ワシ>の探索を願い出る。
        奴隷剣闘士として殺される運命にあったエスカを救い、旅の道連れとしたマーカスは、ローマの支配が及ばないカレドニアへ向けて旅立つのだが…

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        ファンタジーのような歴史小説


        カレドニア(スコットランド)、ヒルベニア(アイルランド)など、ローマ時代のブリテン(イギリス)の古い呼び名は、異なる異世界のようでした。それだけでも異世界っぽいのですが、あまりなじみのないローマ時代のイギリスは、今のイギリスとは全く違う世界のようでした。


        体感することのできる文章


        小説の中には、読者がまるで、その世界に入り込んだような錯覚をおこさせるものがありますが、ローズマリー・サトクリフの文章はまさに、体感できる小説です。

        前半、氏族との戦いでの雨の質感、丘をわたる風のここちよさ、カレドニアの氏族の聖地の暗闇、逃亡の緊迫感など、マーカスやエスカの体験が、ぴりぴりとこちらの皮膚にも伝わってくるような感覚が味わえます。数は少ないものの、食事のシーンの描写はどれも美味しそうなんです。

        また、この小説を寸分違わぬに日本語で翻訳してくれた猪熊葉子さんの力もすごい、と思います。


        <ワシ>と鹿の王


        この物語の根幹にある民族の対立や冒険譚は、上橋菜穂子さんも影響をうけている気がします。特に上橋さんの「鹿の王」では、国との対立と人同士の絆が描かれ、両方を読んでみると、共通点があるような気がします。おそらく、「第九軍団のワシ」は、上橋作品に影響を与えた作品であることが伺えます。

        「第九軍団のワシ」に描かれた支配者側と非支配者側との対立は、その違いを埋めるためにどうすればいいか、それを探す旅だったのかもしれません。それは普遍的なテーマとして、「鹿の王」に受け継がれている、そんな気がします。

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        サトクリフ作品感想
        『ケルトの白馬』→
        『ローマとケルトの息子』→

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        昔の人の日常が伝わる、古典入門「ビギナーズ・クラシックス今昔物語集」

        2014.11.23 Sunday

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          ビギナーズ・クラシックスとは


          古典文学には興味はあるが、なかなか難しくて手を出せない…(;´Д`)
          私を含め、そう思う人は多いのではないでしょうか。

          そんな知りたい、でも面倒くさいと言う人にぴったりなのがこの「ビギナーズクラシックシリーズ」です。

          至れり尽くせりの古典テキスト


          このビギナーズクラシックは、現代訳、それもやや砕けた言い回しの文章と、原文の両方を掲載しているので、物語の概要を現代文で、古典の雰囲気を原文で楽しめます。

          内容がわかってから原文を読むことで、古文への理解を深めることも可能です。それだけではなく、辞典の挿絵ように当時の道具や風俗の絵がついているので、物語の登場人物がどんな服装でどんな武器をもっていたのかなどが視覚ででわかるので、物語の理解が深まります。




          「今は昔」の、人の暮らしが伝わる物語


          今昔物語集の中には、芥川龍之介が「藪の中」や「羅生門」の元となった有名な物語があります。でも、やはり芥川作品と原文では内容は同じでも人物描写がだいぶ違っていて、この両方を読み比べても面白そうです。

          また、紫式部の父親や、清少納言の夫など、有名人の身内のエピソードもでてきます。紫式部の父親は、地方官の任につくために漢詩をつくり、藤原道長に認められて見事職をゲットしています。

          清少納言の夫は「枕草子」では、無骨で気の利かない体育会系男子として描かれますが、その剣の腕はすばらしく、盗賊たちを一人で切り倒したエピソードがあります。でも、平安時代では、そういうところも知性派の清少納言とは合わなかったのでしょうね…


          蛇蔵さん、日本語教師の凪子先生の「日本人なら知っておきたい日本文学」では、今昔物語集のエピソードが漫画で描かれています。ギャグ満彩でおすすめです。



          「蜻蛉日記をご一緒に」 田辺聖子
          「日本人なら知っておきたい日本文学」

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          「小太郎の左腕」 和田 竜

          2014.07.13 Sunday

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            戦国時代、神の手を持つ鉄砲の名手を巡る戦いを描いた和田竜さんの「小太郎の左腕」。なんというか、悲しい物語です。

            小太郎の左腕



            敵対する児玉家との戦で傷ついた戸沢家の猛将・林半右衛門。半右衛門と家臣三十郎は、風変わりな猟師(地鉄砲)の爺と少年・小太郎に助けられる。半右衛門は命を助けてくれた褒美を問うと、小太郎は城下で行われる鉄砲の大会に出たいという。

            半右衛門は望み通り、鉄砲大会に出場させるも、最初は的にあてることも出来ない小太郎だったが、半右衛門は小太郎の特徴に気付き、特別仕様の鉄砲を与えると、神の如き射撃の腕を発揮することになり…


            戦国時代の悲劇


            一見、凡庸に見える主人公が、実は、秘めたる才能をもっているというのは、「のぼうの城」でもみられた設定ですね。小太郎は、あの戦国時代の鉄砲専門集団、雑賀衆の生き残りで、神の如きと表される鉄砲の腕をもっていますが、それは平時では発揮されることのない才能です。

            しかし、「のぼうの城」が戦国時代の痛快さを描いたとしたら、「小太郎の左腕」は戦国時代の悲劇を描いているのではないでしょうか。

            時代の名も無き人々を描いた歴史ドラマ「タイムスクープハンター」でも、民が戦に駆り出されたり、巻き込まれていく様子が描かれています。そこには痛快さもかっこよさもなく、ただただ苦痛が与えられるだけでした。

            ただ、人並みになりたいと願い、鉄砲をとった小太郎。兵を救うため、小太郎に銃を取らせるために、最も嫌う卑怯なまねに手を染める半右衛門。

            このふたりが出会い、小太郎が銃をとったことで、運命が大きく変わっていきます。

            たとえ戦国時代の価値観が、現代とは違ったものだとしても、戦いに巻き込まれる人の悲しみは変わらないのでしょう。

            ただ、それでもやはり、小太郎の左腕による鉄砲技の場面は素晴らしいのですけれど。


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            和田竜作品感想


            のぼうの城
            戦国時代余談のよだん
            村上海賊の娘 上巻
            村上海賊の娘 下巻

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            明治・大正・昭和に活躍した女性は、男運が悪い?

            2014.05.28 Wednesday

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              朝ドラ「花子とアン」で、はなの腹心の友・蓮子にはモデルがいます。歌人として活躍した柳原白蓮は、ほとんど蓮子さんそのものといってもいいくらい、波瀾万丈な人生を送った方でした。

              小さい頃からドラマや映画で活躍する昔の女性って、たいてい男に苦労させられていることが多くて、「明治・大正・昭和初期には、DV、浮気、性病持ち、稼ぎのない旦那しかいないんじゃないか?」と疑いをもったほどです。「おしん」の旦那も働かなかったし…。

              ここに、明治から昭和初期にかけて活躍した女性たちで、思いついたものをざっと書き出してみましたが、驚くことに彼女たちのパートナーって、「性病持ち」「病気で働けない、稼ぎが少ない」「事業に失敗」する人が多い。

              もう、昔は、女性を大切にし、暴力をふるわず、性病もうつさず、体が丈夫で、ちゃんと家にお金を入れてくれる男性っていなかったの??新島襄さんくらいしか思いつかないよ…でも、襄さんも体弱かったしなあ…

              でも、こういうパートナーだからこそ、歴史に名を残す女性になったのかもしれませんけれど。

              荻野吟子(女性初の医者)
              ・旦那に性病をうつされる
              ・医者になるため勉強するが、女だからと最初は試験が受けられず
              ・年下男性と再婚、困窮を極め、家計を支える

              与謝野晶子(歌人)
              ・旦那と結婚してもライバルがいて四苦八苦
              ・旦那の稼ぎがすくないので、自分で家計を支える
              ・まあでも旦那とはラブラブ

              柳原白蓮(歌人)
              ・家族に嫁ぐも、耐えられず離婚、実家からも厄介者あつかい
              ・教養のない夫と政略結婚
              ・旦那から性病をうつされる
              ・妾とのバトルに疲れ果てる
              ・年下男性と再再婚
              ・旦那が病気になり、家計を支える

              村岡花子(作家・翻訳家)
              ・不倫の末に結婚
              ・関東大震災で旦那の事業が大打撃、家計を支える
              ・息子をなくす

              金子みすゞ(詩人)
              ・旦那に性病をうつされる
              ・旦那に詩作を禁じられる
              ・旦那の事業失敗
              ・離婚しようとしたら、あてつけに旦那が子どもを奪おうとする(当時は離婚も親権も女性に不利な法律)

              金子みすゞさん以外、苦労はあっても再婚相手や旦那とはラブラブなんだよな…。愛は苦労もいとわないということでしょうか。それにしても昔の女性は強い。






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              斬新な視点での歴史アプローチ 『銃・病原菌・鉄 (上)』 ジャレド・ダイアモンド

              2014.01.28 Tuesday

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                今まで、人類の歴史はただの必然、結果であって、それが覆る可能性なんて、考えたこともありませんでした。 『文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎』では、今まで人類が歩んできた歴史(主に征服の)が、どのようにして始まったのかを、食料生産の歴史から解き明かしていきます。

                長く、時には専門的な内容なのに、読んでいても、全然飽きない。それどころか、ページをめくるたびに謎が溶けていくようで、ワクワクすしました。

                ピンポイントからグローバルへ


                ・インカがスペインを征服する可能性なんて、考えたこともなかった。


                だって、インカ帝国の人、圧倒的に不利なんですもん。スペインの持ち込んだ銃・病原菌・鉄(と馬)にやられるし、敵を伝説の神だと思い込み、黄金集めても王様を殺されちゃう、世界史の中でも弱く哀れな事件だと考えていました。

                『銃・病原菌・鉄(上)』ではなぜ、逆にインカ帝国がスペインに侵攻することができなかったのか、その理由について考えていきます。そもそもなぜ、インカの人々はスペイン人がもちこんだ病原菌に耐えられなかったのか。

                それは、スペイン人が病原菌に対する免疫を獲得していたからであり、じゃあどうして免疫を獲得することができたのか…。

                ひとつの歴史的な事実を検証して進んでいくと、また新たな疑問が浮上していき、人類全体の歴史へも関係してきます。

                ・地域格差と食料生産


                こうした地域格差の原因として、食料生産と家畜の取得にあるとジャレド・ダイアモンド氏は語っています。
                地域ごとの文明の発展速度は、人類が農耕を営み、定住が始まりつつあった一万三千年前からすでに始まっていたのだそうです。

                ざっと、書いてみるとこんな感じでしょうか。

                食料の生産が始まる→食糧事情に余裕がでてくる→生産者以外の人間があらわれる(王や軍隊)→文明が発展→発展していないところへ侵略→植民地支配

                確かに、狩猟採取だと、安定的に食料を確保することができないため、人口が爆発的に増えることはなく、そのため多くの軍隊を所有することができませんものね。
                では、なぜ、食糧事情に格差が生じたかというと、これもまた原因があるわけで…。


                ・恵まれていたユーラシア大陸


                さて、大航海時代がはじまるとヨーロッパの国々は新大陸に向かい、次々に国を征服し、移住していきます。

                どうしてヨーロッパがこれほどの発展をとげられたのか、それはユーラシア大陸の環境がもたらしたものらしい。ユーラシア大陸は、ほかの大陸よりも横に長かったことが一因とされます。

                これもざっと書くとこんな感じ

                緯度が変わらないため、栽培できる植物の環境が似ている→そのため農耕の伝わり方がほかの大陸より早い→おまけに家畜になる動物がほかの大陸よりも多かった。


                歴史の授業も、ピンポイントに出来事だけ教えるのではなく、こうした世界全体を俯瞰する視点で物事を考えられれば、もっと楽しくなりそうですね。

                文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
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                『戦国時代の余談のよだん。』 和田 竜

                2013.12.19 Thursday

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                  のぼうの城』の原作者・和田竜さんによる戦国歴史エッセイ『戦国時代の余談のよだん。』。かなり面白いです。わかりやすく、ユーモアにあふれた文体で書かれているので、さくさくと、でもワクワクしながら読み進めることができました。

                  来年の大河ドラマの主人公、黒田官兵衛(如水)や、その息子の黒田長政のエピソードも載っています。

                  ・『のぼうの城』などの取材エピソード


                  世にでることのない裏話。なるほど、こうした地道な調査があって、はじめて小説というのは世にでるのね。自転車を借りて、「のぼうの城」の舞台、忍城周辺を自転車で調査することになり、あまりの距離に大変な思いをしたことなどが書かれています。そういえば、『プリンセス・トヨトミ』の取材の時の万城目学さんも、大河ドラマ『新選組!』の三谷幸喜さんも、現地を自転車で取材しています。
                  もしかして、面白いものを書く人というのは自転車で取材をする傾向にあるのだろうか…。

                  ともあれ、実際に現地を訪れ、その土地を肌で感じた和田さんの作品は、どれも面白いんです。

                  ・戦国武将たちの面白ばなし


                  後半は資料からこぼれ落ちた、戦国武将たちのエピソード。
                  部下に言われたい放題だった徳川家康、大口ばっかり叩いてた豊臣秀吉、実は天下を狙っていた黒田官兵衛など、私達が抱いていたイメージとはまったく違った一面を紹介してます。

                  また、和田さんの表現が面白いんです。関ヶ原のキーパーソン小早川秀秋を『アホ』と公然と書いてみたり、連戦連勝の上杉謙信を『戦のアスリート』と表現したのは、うまいなあ、と思いました。


                  ・キングコング西野氏による、ひょうきんなイラスト


                  表紙および本のイラストはすべて、お笑い芸人キングコング西野さんの策だとか。ぎっしり細かい絵以外にも、こんなおもろい絵もかけるんですね。

                  作者の和田さんの他、戦国武将たちの間の抜けた似顔絵がなんとも言えない味があります。西野さん、絵でも食べてけるなー。

                  戦国時代の余談のよだん。
                  和田 竜 ベストセラーズ 売り上げランキング: 25,161


                  和田竜作品感想


                  小太郎の左腕
                  のぼうの城
                  村上海賊の娘 上巻
                  村上海賊の娘 下巻

                  JUGEMテーマ:オススメの本


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                  古き良き、19世紀英国の参考資料 「エマ ヴィクトリアンガイド」 森薫 村上リコ

                  2013.12.08 Sunday

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                    11月にバーナード・ショー原作の舞台「ピグマリオン」を観に行ったのですが、お芝居の舞台となる19世紀イギリスの風俗・生活についての関連書籍を漁っていました。(ピグマリオンはヴィクトリア朝後のエドワード朝らしいのですが)

                    エマヴィクトリアンガイド (Beam comix)」は、英国紳士とメイドの恋愛を精密なタッチで描いた森薫さんの漫画「エマ」に出てきた19世紀英国の生活スタイルや風俗をイラストと文章で解説された副読本です。

                    英国メイド関連の著作を数多く手がける村上リコさんの解説に、森薫さんの美しいイラストや、「エマ」の漫画カットなどが挿入されていて、さながら『ヴィクトリア朝の生活図鑑』といった感じ。

                    もともと、シャーロック・ホームズ好きなのでヴィクトリア朝の生活には興味がありました。
                    フロックコートにシルクハットの紳士や、コルセットで締めあげた細いドレスに身を包んだ女性たち。彼らの生活や風俗、日用品などは、とても優雅で興味深く映るのです。

                    そして、イギリスは「まずい」食事で有名ですが、『エマ』で描かれた19世紀イギリスの食事風景は、なんだかとても美味しそうなんです。


                    エマヴィクトリアンガイド (Beam comix)
                    森 薫 村上 リコ エンターブレイン


                    エマ  全10巻 完結セット  (Beam comix)
                    森 薫 エンターブレイン


                    ヴィクトリア朝・英国メイド関連リンク
                    英国メイドのリアル・ライフ 「図説英国メイドの日常」
                    「英国メイドマーガレットの回想」
                    「エマ」
                    エマ以前の英国メイド物語「シャーリー」

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                    レビューポータル「MONO-PORTAL」

                    まんまことシリーズ 「ときぐすり」 畠中 恵

                    2013.11.19 Tuesday

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                      町名主の息子麻之助が、町内の揉め事を解決する「まんまこと」シリーズ4作目の「ときぐすり」では、傷心の麻之助がどうやって傷を癒していくかを様々な事件を通して描かれます。

                      前回麻之助は、愛しい妻と子を亡くし、一時は目を離せない状態でしたが、今では以前の道楽息子にもどり、親には嘆かれるものの、仕事をさぼって愛猫・ふにと遊ぶくらいまで元気を取り戻しています。

                      それでも時々、亡き妻の親戚の娘・おこ乃を妻と間違えてしまったりと、まだ傷は完全には癒えていないようですが…。そんな傷心の麻之助の元には、傷を癒やす間もないほど、たくさんの事件が持ち込まれてきます。
                      幼なじみの清十郎が行方不明になったり、同じく幼友だちだった堅物の同心見習い・吉五郎に恋の噂、おまけに猫まで行方不明になり…。

                      ときぐすり


                      個人的には、これが一番好きな話です。町内で流行病があり、その後処理に負われる麻之助の前に、ある日滝助という少年が現れるます。滝助は盗賊の下働きをしていた少年で、一味が散り散りになり、食べていくすべを探していたのです。幸い、悪さはしていないので、長屋で息子をなくした職人と、一人暮らしのばあさんに面倒を頼むのですが…。

                      「ときぐすり」とは「時薬(お坊さんの食事に関する用語)」を滝助が読み間違えたものですが、麻之助や長屋のものたちにも、時は新たな出会いを呼び、少しずつ哀しみを癒してくれます。

                      今回、可愛かったのは、頼まれて出稽古に行く吉五郎の婚約者の女の子が、まだ子どもだけれど、可愛らしいヤキモチをやいて吉五郎の外出をとがめるところ。でも朴念仁の吉五郎は全然そんなことに気がついていないんです。なんとも愛らしい夫婦になりそうです。

                      ときぐすり (文春文庫) まんまことシリーズ 4

                      中古価格
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                      まんまことシリーズ


                      「かわたれどき」
                      「まったなし」
                      「ときぐすり」
                      「こいしり」
                      「こいわすれ」
                      「まんまこと」
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