2011.08.08 Monday

中国の不条理で怖い昔ばなし 「李白の月」 南 伸坊

シンプルでユーモラスなイラストが特徴の南伸坊さんですが、実は酒見賢一の小説「墨攻」の挿絵を担当していたり、奇異小説を漫画化た作品も多いのだそうです。そんな南伸坊さんが、中国の奇怪な物語をあつめて描いたのが「李白の月」不条理でユーモラスな中国の奇譚を独特のタッチで描いています。

どれくらい不条理かというと、「ある男が盗賊だと思い近づいてくるものを切ると、それは蝶々に変化し、その蝶々が脇にふれたために死んでしまった。」だの、「主人公が大きなハマグリの中にあった剣をとりだし、家に持ち帰ると、突然父母の首が落ちた」といった「なぜそんな展開に?」と首を傾げたくなる話ばかり。

奇怪で不思議な体験をすると必ずといっていいほど当事者や周りの人間に被害が及びます。
化物などに襲われるのではなく、ただちょっとした奇異に遭遇するだけで簡単に人が死んでしまうのです。
それだけ、昔の中国では不可解な出来事を「死」に値するくらいの出来事だと思っていたのでしょうか…

また、その他にも夜に首が胴体から離れて飛んでいく女や、人の顔のような花が咲く木の話など、人間離れした生き物の話もでてきます。これは、古い中国の奇書「山海経」で紹介されるものに近い。
どこか遠くには、きっと自分たちとは変わった生き物がいるに違いないと想像され、不思議なものたちがつくられたのでしょう。

李白の月
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山海経」で紹介された生物は、「十二国記」にも登場します。


JUGEMテーマ:歴史


2011.06.21 Tuesday

「日本人の叡智」 磯田 道史

今こそ、過去の人々が残してくれた言葉、「日本人の叡智 (新潮新書)」が必要だと思います。
「日本人の叡智」は、「武士の家計簿」の磯田道史先生が、古文書の中に埋もれた有名無名の人々の言葉を丹念に拾い集めた名言集。人物のひととなりや、その言葉が言われた背景を、磯田先生が簡潔にわかりやすく解説してくださっています。

ちょうど震災後ひと月くらい後に「日本人の叡智」は刊行されました。読んでみると不思議と今の時勢にぴったりはまるような言葉が多くて驚きました。過去の人々は、様々な困難に遭いながらも這い上がり、困難から学び、生き方のヒントを後世に伝えようと文字に残してくれました。私たちはまた、その遺産をきちんと受け継いで、そこから学び取らなければならないでしょう。

すばらしい言葉ばかりですが、その中でも今のご時世、ちょっと元気がでそうな言葉を紹介します。

本気で辛抱してりゃ、自分の目には見えなくても、畳の目のように物事はすすんでるんですよ(古今亭志ん生)

古今亭志ん生は言わずと知れた落語の大名人。破天荒な貧乏暮らしをしながらも、誰にも負けない愛嬌と、懸命な落語の稽古で名人に登りつめた人。磯田先生はこの名人の言葉に「本気の辛抱とともに楽天的なずぶとさも要る」と結んでいます。

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あと、わたしが個人的にツボだったのは、昭和の名経営者・土光敏夫さんの言葉。
会議は二時間以上してはならない
今の経営者連中に聞かせてやりたいです。本当に会社ってところは無駄な会議が多いんだから!ヽ(`Д´)ノ

今まで知らなかった、歴史に埋もれた人々の名言と生き様にふれられて、短い文章ながらも感動の連続でした。
特に戦時中、なり手のいない沖縄県知事を引き受けた島田叡さんの生き様に感動しました。

磯田道史先生著作
『無私の日本人』→
『歴史の愉しみ方 - 忍者・合戦・幕末史に学ぶ (中公新書)』→
『武士の家計簿」―「加賀藩御算用者」の幕末維新』→
『殿様の通信簿』→
『江戸の備忘録』→

JUGEMテーマ:人物伝
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2011.05.21 Saturday

『若様組まいる』 畠中 恵

明治の西洋菓子職人とその仲間たちの活躍を描いた「アイスクリン強し」の続編「若様組まいる
続編と言っても時間軸は「アイスクリン強し」より少し戻って、菓子職人ミナこと皆川真次郎の友人・長瀬をはじめとした元旗本の若様たちの巡査教習所時代のお話です。

元旗本の若様たちも明治の世ではなかなか生きづらい。
元家臣たちの面倒をみなくてはならないし、幸い、長瀬たちの仲間は親が官吏として採用されたため、屋敷を手放さずにすんだものの、生活は苦しく、自由な未来を選べない。

幕府側の武士が明治政府の官吏となれたのは三割程度。
それでも「武士の家計簿」の猪山家のように、よほど能力がなければ旧幕側は出世もままならなかったのだとか。
ひどいところでは娘を吉原へ売っぱらって対面を保とうとする家もあったようです。

消去法ではあるものの、長瀬たちは、自分たちの進むべき道を選び、努力を重ねていきます。
しかし、教習所では次から次へトラブルが。仲間のひとり、福田の恋人が結婚させられそうになったり、教習所のNo.2、幹事ににらまれ、商人の息子・姫田が合格するよう指導を頼まれたり、射撃の授業中、姫田が銃で打たれたり…。どうやら教習所の中に流行りのピストル強盗と通じて銃弾の横流しをしているものがいるらしい。

様々な困難に見舞われた若様組、果たしての彼らは無事に卒業できるのでしょうか…

時代小説というよりも、青春小説と言った感じでした。禁止されている食べ物や酒を隠して仲間で楽しんだり、最初は薩長・旧幕・平民とにらみ合っていたのだけれど、みんなで協力して困難に向かうことで仲間意識や団結力がでてきたり。若い人達がエネルギーや鬱屈を持て余しながらも前に進んでいく姿は明治でも現代でも感動させられます。


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アイスクリン強し
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「アイスクリン強し」→
「若様とロマン」→

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2011.05.10 Tuesday

千年前も、夫の悪口は変わらん「蜻蛉日記をご一緒に」 田辺聖子

田辺聖子さんの古典は面白い。
難解な古典をわかりやすく、ユーモアあふれる文章で紹介してくれるので、ちっとも堅苦しくなく、古典文学を楽しめます。「蜻蛉日記をご一緒に」は、もともと講演会の内容を書籍化したものなので、口語体で書かれているのでわかりやすく、内容は多いですが、するするっと読めてしまします。

しかし、題材となった「蜻蛉日記」。実はあまり好きではありませんでした。
というのも、内容がただただ「夫への愚痴と非難を書き綴る日記」だからです。
それに、夫の愚痴ばっかりこぼしていたせいか、息子の道綱はマザコンのアホ息子に育ってしまったりしたので、なんで千年前の女のぐちをわざわざ読まなきゃならんのだ、と思っていたのです。
(兼家の息子には有名な藤原道長とか、歴史的にすごいひとが多いのに、道綱は気はいいけれど仕事ができなかったらしい)
今で言ったら奥さんが夫の愚痴をブログに書いたり、子供に自分の恨みつらみをこぼしているようなもんです。

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ただ、蜻蛉日記の作者(本名は伝わっておらず、通常兼家夫人もしくは道綱母と称します。)は非常に文才に優れていた方だったので、千年後も読み続かれていたのだそうです。田辺聖子さんの解説によると愚痴や非難文の中にも自然の描写がすばらしかったり、年をとるにつれて夫との仲を客観的に描写できるようになる変化など、いろいろと面白みのある作品なのだそうです。解説によると彼女のつくった歌はいくつもの掛詞や季節の言葉を幾重にもかけ合わせて巧みなものだったようです。

歌詠みとして才能があり、プライドの高い蜻蛉夫人は夫・兼家の浮気や自分のところへ通ってくれない切なさを上手いこと甘えられずに、やっと夫が来ても嫌味っぽい歌をつくったり、すねて相手をしなかったりします。読んでいくうちに「この人もっと素直になればいいのに…」と思ったりするのですが、パートナーに対してこんな態度にでることは、現代の私たちにも多々あるかと。

田辺聖子さんはそんな蜻蛉日記の作者を現代の女性の心情とも共通する部分や、男と女の考え方のちがいなど、面白く、興味深く伝えてくれています。やっぱり千年たっても女というものは変わらないんだなあ。(^^;)


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田辺聖子作品感想
「おちくぼ姫」→
「孤独な夜のココア」→
「ほどらいの恋」→
「芋たこなんきん」→
「ジョゼと虎と魚たち」→
「薔薇の雨」→
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2011.02.02 Wednesday

「江戸の忘備録」 磯田 道史

「武士の家計簿」―「加賀藩御算用者」の幕末維新』の磯田先生が送る、戦国から江戸、明治の古文書から読み解いた歴史秘話エッセイ「江戸の忘備録」。ひとつひとつの話が短く、わかりやすいので、歴史をあまり知らなくても楽しめる本です。古文書から垣間見る昔の人々の暮らしは、当時の重要な事件から、どうでもいいようなことまで種々雑多。

・大河ドラマ「江」の夫、秀忠は真面目人間


秀忠さんは真面目な秀才タイプで、出張先で父親の家康が斡旋した女性に手をつけず、そのまま返してしまう堅物だったらしい。でも家臣には慕われていたようで、家康が一度秀忠を廃嫡しようとしたときは、家臣団がなんとか家康を説得したのだとか。偉大な父親と有名な息子に挟まれて歴史的には影がうすい秀忠ですが、二代目としてなかなか優れた人物ではあったようです。

・今も昔も同じこと


江戸時代にも単身赴任があり、地方の武士達は参勤交代について江戸に行くこともあったそうで、残してきた家族にあてた注意事項や老親の介護を頼むなどの手紙が残されています。江戸時代は結構女性の立場が強かったので、親孝行はマスト業務だとしても、ふんぞりかえって嫁に介護を丸投げってわけにはいかなかったようです。

それと、教育に関しても現代人以上に子どもの教育にお金をかけていたのだとか。「武士の家計簿」にも記載がありましたが、江戸時代は子どもの教育に家の存続がかかっていたわけですから必死で勉強させたのでしょうね。同じお金をかけても、回収率(?)は現代の方が格段に低そうですが…

それにしても磯田先生の好奇心が実にいろんな方向にを広げられています。
研究室の大そうじをするのがいやで、古文書を調べているうちにおもしろい記述に出くわしたり、学生たちと男色の資料を読みふけったりしています。読まされた学生さん達、どんな気持ちだったんだろう…(^^;)


磯田先生はあとがきで、「牛が草を食んで美味しい乳を出すように、古文書を読みといて噛み砕き、世の人に伝えておもしろい出来事を伝えたい。」ということをおっしゃっていました。
確かに、そこにどんなおもしろいことが書いてあったとしても、素人が古文書をみてもなんのこっちゃかわかりません。磯田先生はそんな歴史と現代をわかりやすくつなげる語り部の役割をになってくださっているのだと思います。


江戸の備忘録
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磯田 道史
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「歴史の愉しみ方 - 忍者・合戦・幕末史に学ぶ (中公新書)」→
「殿様の通信簿」→
「武士の家計簿」―「加賀藩御算用者」の幕末維新』→
「日本人の叡智」→
「無私の日本人」→

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2010.12.28 Tuesday

「殿様の通信簿」 磯田 道史

武士の家計簿」からすっかり磯田先生のファンになり、現在先生の著作を漁っているとろです。
今回読んだのは「殿様の通信簿」。面白いタイトルですが、元ネタは実際に江戸時代に書かれた殿様の行状を記した古文書で、なんと隠密(!)が調査した極秘資料なのだそうです。

殿様の通信簿」には殿様の性格や、その行状、領地の内情まで詳しく書かれています。なんてったって隠密がしらべたのですから、その信ぴょう性は高いといえるでしょう。
我々のよく知る水戸黄門や忠臣蔵の浅野内匠頭や大石内蔵助が本当はどんな人物だったのかというと…

水戸黄門(光圀)


「女色に溺れて悪所通い」 うーん、黄門様のイメージ違いますね(^^;)。
ただ、磯田先生の解説によると、当時の殿様はほとんど外出の自由がなかったため、文化人や芸能者(能役者)などと知的な会話を楽しむにも格式張った手続きで屋敷に呼びつけないといけない。
だから、遊郭などをサロン替わりにしていた一面もあったのだとか。
黄門様は学者以上の博識だったそうですが、通信簿には「学者を知識でやりこめるのはよくない」と書かれてしまいました。

浅野内匠頭と大石内蔵助


浅野内匠頭というと忠臣蔵では、生真面目な美青年が演じてきましたが、「殿様の通信簿」によると、結構なバカ殿らしいです。(^^;)頭はいいけれど極度の女好きが高じて政務をとらず、もっぱら家老たちに任せていたのだとか。だから大石内蔵助は赤穂時代からの指導力でもって討ち入りを果たしたと。

また、刃傷沙汰や討ち入りの背景についても解説されています。赤穂は戦国時代の名残を残す藩で、そのプライドが高く、だから吉良をちょっと下に見ていたとか、また、内匠頭が辞世の句で「名残りを…」と詠んじゃったので、君主が絶対である当時の家臣たちは、その「名残り」をなんとかしなくちゃいけなくて討ち入りせざるを得なかった…とか、「忠臣蔵」という歴史的事件は様々な要因が重なって初めて起こったことなのですねえ。

武士の家計簿」でも書かれた、「先祖の功績によって武士の階級や役割が決まる」といった武士の構造についても触れられています。先祖が頑張りすぎちゃって危険な場所に生かされると貧乏くじを引いた家はずっとそのまま、損な役目を期待されておおせつかっちゃうのだとか。

磯田先生の著作
「歴史の愉しみ方 - 忍者・合戦・幕末史に学ぶ (中公新書)」→
「武士の家計簿」―「加賀藩御算用者」の幕末維新』→
「江戸の忘備録」→
「日本人の叡智」→


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武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)
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磯田道史先生著作
「歴史の愉しみ方 - 忍者・合戦・幕末史に学ぶ (中公新書)」→
「江戸の備忘録」→
「武士の家計簿」―「加賀藩御算用者」の幕末維新』→
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2010.11.30 Tuesday

「のぼうの城」 和田 竜

大人気戦国小説、和田竜さんの「のぼうの城」を読みました。私は生来のひねくれ者なので、流行りの本を読むのにはやや抵抗があったのですが、「のぼうの城」は単純明快で面白かった。また、今まであまり知らなかった歴史に隠れた地方領主たちの様子も垣間見れたのもよかった。

いわゆる「負け組」にあたる関東の小城・忍城が、豊臣秀吉という巨大権力に一矢を報いるためにたちあがるところが人の心をとらえるのでしょうね。もちろん、私も捉えられた一人です。「少人数が大多数を打ち負かす」、「愚鈍な人物が実は賢者」という設定って、日本人は大好きなんですよね。

関東VS上方、負け組VS権力


私は関東育ちのためか、幕末では薩長より新選組、戦国では西軍よりも東軍が好きで、大の秀吉嫌いです。(嫁に苦労かけたし、モンスターペアレントだし。)
そのため、金とか権力とか天下人の偉業とかでねじ伏せようとする秀吉や、自分の理想を他人にも押し付け気味の三成とかに、関東武者たちが挑んでいき、ことごとく勝ちをおさめる姿がが痛快で痛快で!( ̄ー ̄) 一部の歴女たちが慕ってやまない冷静沈着で麗しい三成を、未完成の無茶な若者として描いているのも面白い。

『のぼうの城』の魅力的な登場人物たち


城主の娘の甲斐姫がかっこ良くて。眉目秀麗なのに男勝りで、百姓の女をなぶった家臣を一刀両断にする剣の腕前。若き家老・靭負の愛の告白にも「承知した。ありがとよ。」と応えるきっぷの良さがすてき!それと城主を「腑抜け」と評する奥方も。関東武士の女性たちは強いですねぇ。( ̄▽ ̄)

主人公「のぼう様」こと成田長親の、うつけなのか知将なのか判別つきかねる不思議な人物像が魅力的です。でも彼はいわゆる「うつけ」のふりをしているのではなくて、戦という状況下でその将器が見出されたため周りが彼に勝手に価値をつけてしまいますが、きっとのぼう様は、ずっとのぼう様のまま、変わっていなかったのだと私は思うのですが。


のぼうの城
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和田竜作品感想


小太郎の左腕
戦国時代余談のよだん
村上海賊の娘 上巻
村上海賊の娘 下巻

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2010.11.18 Thursday

『武士の家計簿―「加賀藩御算用者」の幕末維新」』 磯田 道史

堺雅人さん主演の映画「武士の家計簿」、その原作となった「武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)」は、幕末から明治にかけてある加賀藩士の家計簿を通じ、今まであまり知られていなかった武士の会計管理の実態を明らかにした研究本です。

しかし、こういった堅苦しい研究本なのに、ものすごくドラマティックで、小説のように面白い。幕末から明治にかけての激動の時代、猪山家の人々が何を考え、どんな行動をとったのかが「武士の家計簿」の数字の隙間からみえてくるようです。

まさか、新潮新書でこんなにワクワクさせられるとは思わなかった。
下手な小説よりよっぽど面白いです。

家計簿の主人公は加賀藩、今の石川県の御算用者(会計管理者)として代々出仕し、その卓逸した会計能力で出世を果たした猪山家。出世してさぞかし左うちわかと思えば、猪山家の支出は出費がかさんで破産寸前にまで追い詰められます。それは何故か?
そこには江戸時代の武家社会の「儀礼」と「身分」、「家制度」がからんできます。どんなに出費を控えても親戚や上司への挨拶、こどもの行事などにはお金を惜しんでしまうと、武家社会では生きて行けないシステムになっているのです。

金は無い、しかし交際費は削れない。娘の祝いの席で当主・直之がとった行動は「お祝いの料理に絵に描いた鯛を飾る」というものでした。その他、直之は机から先祖伝来の道具、果ては妻の花嫁衣裳まで売り払うという強硬手段に打って出ます。直之の大胆な財政改革により破産をまぬがれましたが、幕末、明治と激動の時代は武士の生活や常識がまったく通用しない世の中になっていきます。

直之の息子・成之は、父親譲りの算術の才能と勤勉さで頭角を表し、旧幕側の加賀藩にありながら明治海軍にスカウトされ士官がかないます。これは士族身分が廃止されて多くの武士が生活に困窮した中でも、まれに見る出世だそうで。また成之さんは、大村益次郎の元でも働いていたり、その息子は「坂の上の雲」の秋山真之さんと海軍の同期生だったり、幕末の歴史の一幕ににも関わっていました。

江戸時代、算術などの事務を扱う武士は重宝されながらも身分的には低く、武士にあるまじき職業とされましたが、実力主義の明治の世では、名実ともにその才能が認められることになったのです。

・[映画]武士の家計簿→
磯田道史先生著作
「歴史の愉しみ方 - 忍者・合戦・幕末史に学ぶ (中公新書)」→
「江戸の備忘録」→
「殿様の通信簿」→
「日本人の叡智」→
「無私の日本人」→

武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)
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2010.11.18 Thursday

「アイスクリン強し」 畠中 恵

アイスクリン、シウクリーム、チヨコレイト、ワッフルス…
なんて「ろまんちっく」で「のすたるじっく」な響きなのでしょう。レトロ好き、歴史好き・スイーツ好きにはたまらない本です。

畠中さんの新作「アイスクリン強し」は、明治20年代、当時まだ珍しい西洋菓子屋を舞台に、さまざまな事件に巻き込まれる主人公たちの活躍を描いています。


アイスクリン強し
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皆川真次郎(ミナ)は、西洋菓子屋・風琴屋を営む青年。しゃばけの栄吉さんと違って菓子の腕は外国人の折り紙つきです。居留地で覚えたピストル銃の名人で情に厚く、毎回長瀬たちのもってくるトラブルに嫌々ながらも巻きこまれてしまいます。

ミナの友人の巡査・長瀬は元旗本。同じく元旗本の仲間とともに若様組と称し、家臣たちを養うためにさまざまな内職に手を出している。真次郎のことを「ミナ」と女の子のように呼んで殴られない、数少ない人物。

物語のヒロイン・小泉沙羅は女学生。成金とよばれる財産家の令嬢で真次郎とは昔なじみ。当時の女性には珍しく行動的でおてんばなお嬢さん。真次郎のつくるお菓子が大好きで、彼らが巻き起こす騒動にもくびを突っ込みたがる。

物語は風琴屋に集まる若様組と長瀬が、1通の封筒を真次郎に見せるところから始まります。差出人不明のその手紙には「差出人をつきとめ、なお且つ差出人の望むものを差し出せば報酬アリ」という謎に満ちた文面が。手紙について話をしていたその直後、今度は真次郎にも同様の手紙が届く。

謎の差出人の目星もつかぬまま、真次郎と若様組の面々は旧藩のお家騒動に巻き込まれたり、新聞に醜聞を書かれたり、流行病・コレラに対応したりと目のまわる忙しさ。
そんな中、幼なじみの沙羅さんにお見合いの話が持ち上がり、こちらの方も気にかかる。

柔軟な発想をもつ真次郎や長瀬たち若者でさえ驚くほど目まぐるしく変わってゆく明治の世。世の中に取り残されるもの、新しい道を見つけるもの。やがて迫りくる日清・日露戦争の影。


そんな時代に流されるのではなく、抗うのでもなく調和していこうとする真次郎や長瀬たち若様組の面々。はたして彼らのの未来や如何に。


江戸時代よりも描かれることの少ない明治時代ですが、実は科学と迷信、流行と伝統が混然一体となった面白い時代のようです。


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「アイスクリン強し」が好きな方におススメ漫画。市川ジュン先生の「新編懐古的洋食事情」シリーズ。

明治の女学生とアイスクリン、チヨコレイトの関係。明治時代ブフェ・パーティ。新しい食べ物に心奪われ、悪戦苦闘する明治の方々のマンガです♪

新編懐古的洋食事情 (1)
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「アイスクリン強し」のスピンオフ、「若様組まいる」。
若様組の長瀬くんたちが活躍します。

若様組まいる (100周年書き下ろし)
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「若様組まいる」→
「若様とロマン」→

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2010.10.23 Saturday

古代中国の直江兼続 「華栄の丘」 宮城谷 昌光

春秋戦国時代というと、三国志や水滸伝に比べてややマイナーな感がありますが、孔子や墨家が活躍し、現代でも聞いたことのある数々の逸話・教訓(呉越同舟など)が生まれた時代でもあります。政治形態などは、名作ファンタジー「十二国記」にも引用されています。


春秋戦国時代の特徴


春秋戦国時代の特徴を超簡単に言いますと、日本の戦国時代に似ています。一応「周王」と呼ばれる元首はいるのですが、政治の実権は別の盟主国が握っていて、絶えず国同士で戦が起こっていた時代です。

そんな戦乱の世にあっても、「華栄の丘」の主人公・華元と言う人は戦いではなく「礼」をもって国を治めようとした名宰相でした。

華元のいる宗という小国は、かつての呪術国家・殷(商)の末裔の国のため、祖先の霊やまじない、礼節を重んじる国柄であり、華元はその宗の国にふさわしい「礼」の人でした。

むやみに人を殺すと、それが結局自分に帰ってくると信じ、人を許し、無駄な争いをさけ、自らはおごることがなく新しく君主となった文公をささえます。
そして文公もまた華元を信頼し、華元が敵に捕まったときは、財宝を惜しまず、自分の子を人質にしてまでも華元を取り戻そうとします。

古代中国の直江兼続


読んでいて誰かに似ているな、と思ったら戦国武将の直江兼続に似ているのです。(両者の間には千年以上の隔たりがあるので、この場合は兼続が華元に似ているのか。)直江兼続も上杉景勝の信頼が篤く、和をもって国を治めようとした人でした。名君と賢臣という組み合わせは国も時代も超えて、奇跡のように現れるものなのかもしれません。


中国歴史物は登場人物も多く、分かりにくいのですが、宮城谷昌光さんの文章が簡潔でわかりやすく、時には歴史用語を解説しながら物語が進むので、最後まで混乱せずによめました。


華栄の丘 (文春文庫)
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古代中国関連
古代中国の冒険譚「沈黙の王」→
古代中国の恋愛模様「玉人」→
誕生!中国文明展→

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