「殿様の通信簿」 磯田 道史

2010.12.28 Tuesday

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    武士の家計簿」からすっかり磯田先生のファンになり、現在先生の著作を漁っているとろです。
    今回読んだのは「殿様の通信簿」。面白いタイトルですが、元ネタは実際に江戸時代に書かれた殿様の行状を記した古文書で、なんと隠密(!)が調査した極秘資料なのだそうです。

    殿様の通信簿」には殿様の性格や、その行状、領地の内情まで詳しく書かれています。なんてったって隠密がしらべたのですから、その信ぴょう性は高いといえるでしょう。
    我々のよく知る水戸黄門や忠臣蔵の浅野内匠頭や大石内蔵助が本当はどんな人物だったのかというと…

    水戸黄門(光圀)


    「女色に溺れて悪所通い」 うーん、黄門様のイメージ違いますね(^^;)。
    ただ、磯田先生の解説によると、当時の殿様はほとんど外出の自由がなかったため、文化人や芸能者(能役者)などと知的な会話を楽しむにも格式張った手続きで屋敷に呼びつけないといけない。
    だから、遊郭などをサロン替わりにしていた一面もあったのだとか。
    黄門様は学者以上の博識だったそうですが、通信簿には「学者を知識でやりこめるのはよくない」と書かれてしまいました。

    浅野内匠頭と大石内蔵助


    浅野内匠頭というと忠臣蔵では、生真面目な美青年が演じてきましたが、「殿様の通信簿」によると、結構なバカ殿らしいです。(^^;)頭はいいけれど極度の女好きが高じて政務をとらず、もっぱら家老たちに任せていたのだとか。だから大石内蔵助は赤穂時代からの指導力でもって討ち入りを果たしたと。

    また、刃傷沙汰や討ち入りの背景についても解説されています。赤穂は戦国時代の名残を残す藩で、そのプライドが高く、だから吉良をちょっと下に見ていたとか、また、内匠頭が辞世の句で「名残りを…」と詠んじゃったので、君主が絶対である当時の家臣たちは、その「名残り」をなんとかしなくちゃいけなくて討ち入りせざるを得なかった…とか、「忠臣蔵」という歴史的事件は様々な要因が重なって初めて起こったことなのですねえ。

    武士の家計簿」でも書かれた、「先祖の功績によって武士の階級や役割が決まる」といった武士の構造についても触れられています。先祖が頑張りすぎちゃって危険な場所に生かされると貧乏くじを引いた家はずっとそのまま、損な役目を期待されておおせつかっちゃうのだとか。

    磯田先生の著作
    「歴史の愉しみ方 - 忍者・合戦・幕末史に学ぶ (中公新書)」→
    「武士の家計簿」―「加賀藩御算用者」の幕末維新』→
    「江戸の忘備録」→
    「日本人の叡智」→


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    磯田道史先生著作
    「歴史の愉しみ方 - 忍者・合戦・幕末史に学ぶ (中公新書)」→
    「江戸の備忘録」→
    「武士の家計簿」―「加賀藩御算用者」の幕末維新』→
    「日本人の叡智」→
    「無私の日本人」→
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    「のぼうの城」 和田 竜

    2010.11.30 Tuesday

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      大人気戦国小説、和田竜さんの「のぼうの城」を読みました。私は生来のひねくれ者なので、流行りの本を読むのにはやや抵抗があったのですが、「のぼうの城」は単純明快で面白かった。また、今まであまり知らなかった歴史に隠れた地方領主たちの様子も垣間見れたのもよかった。

      いわゆる「負け組」にあたる関東の小城・忍城が、豊臣秀吉という巨大権力に一矢を報いるためにたちあがるところが人の心をとらえるのでしょうね。もちろん、私も捉えられた一人です。「少人数が大多数を打ち負かす」、「愚鈍な人物が実は賢者」という設定って、日本人は大好きなんですよね。

      関東VS上方、負け組VS権力


      私は関東育ちのためか、幕末では薩長より新選組、戦国では西軍よりも東軍が好きで、大の秀吉嫌いです。(嫁に苦労かけたし、モンスターペアレントだし。)
      そのため、金とか権力とか天下人の偉業とかでねじ伏せようとする秀吉や、自分の理想を他人にも押し付け気味の三成とかに、関東武者たちが挑んでいき、ことごとく勝ちをおさめる姿がが痛快で痛快で!( ̄ー ̄) 一部の歴女たちが慕ってやまない冷静沈着で麗しい三成を、未完成の無茶な若者として描いているのも面白い。

      『のぼうの城』の魅力的な登場人物たち


      城主の娘の甲斐姫がかっこ良くて。眉目秀麗なのに男勝りで、百姓の女をなぶった家臣を一刀両断にする剣の腕前。若き家老・靭負の愛の告白にも「承知した。ありがとよ。」と応えるきっぷの良さがすてき!それと城主を「腑抜け」と評する奥方も。関東武士の女性たちは強いですねぇ。( ̄▽ ̄)

      主人公「のぼう様」こと成田長親の、うつけなのか知将なのか判別つきかねる不思議な人物像が魅力的です。でも彼はいわゆる「うつけ」のふりをしているのではなくて、戦という状況下でその将器が見出されたため周りが彼に勝手に価値をつけてしまいますが、きっとのぼう様は、ずっとのぼう様のまま、変わっていなかったのだと私は思うのですが。


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      和田竜作品感想


      小太郎の左腕
      戦国時代余談のよだん
      村上海賊の娘 上巻
      村上海賊の娘 下巻

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      『武士の家計簿―「加賀藩御算用者」の幕末維新」』 磯田 道史

      2010.11.18 Thursday

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        堺雅人さん主演の映画「武士の家計簿」、その原作となった「武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)」は、幕末から明治にかけてある加賀藩士の家計簿を通じ、今まであまり知られていなかった武士の会計管理の実態を明らかにした研究本です。

        しかし、こういった堅苦しい研究本なのに、ものすごくドラマティックで、小説のように面白い。幕末から明治にかけての激動の時代、猪山家の人々が何を考え、どんな行動をとったのかが「武士の家計簿」の数字の隙間からみえてくるようです。

        まさか、新潮新書でこんなにワクワクさせられるとは思わなかった。
        下手な小説よりよっぽど面白いです。

        家計簿の主人公は加賀藩、今の石川県の御算用者(会計管理者)として代々出仕し、その卓逸した会計能力で出世を果たした猪山家。出世してさぞかし左うちわかと思えば、猪山家の支出は出費がかさんで破産寸前にまで追い詰められます。それは何故か?
        そこには江戸時代の武家社会の「儀礼」と「身分」、「家制度」がからんできます。どんなに出費を控えても親戚や上司への挨拶、こどもの行事などにはお金を惜しんでしまうと、武家社会では生きて行けないシステムになっているのです。

        金は無い、しかし交際費は削れない。娘の祝いの席で当主・直之がとった行動は「お祝いの料理に絵に描いた鯛を飾る」というものでした。その他、直之は机から先祖伝来の道具、果ては妻の花嫁衣裳まで売り払うという強硬手段に打って出ます。直之の大胆な財政改革により破産をまぬがれましたが、幕末、明治と激動の時代は武士の生活や常識がまったく通用しない世の中になっていきます。

        直之の息子・成之は、父親譲りの算術の才能と勤勉さで頭角を表し、旧幕側の加賀藩にありながら明治海軍にスカウトされ士官がかないます。これは士族身分が廃止されて多くの武士が生活に困窮した中でも、まれに見る出世だそうで。また成之さんは、大村益次郎の元でも働いていたり、その息子は「坂の上の雲」の秋山真之さんと海軍の同期生だったり、幕末の歴史の一幕ににも関わっていました。

        江戸時代、算術などの事務を扱う武士は重宝されながらも身分的には低く、武士にあるまじき職業とされましたが、実力主義の明治の世では、名実ともにその才能が認められることになったのです。

        ・[映画]武士の家計簿→
        磯田道史先生著作
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        「江戸の備忘録」→
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        「アイスクリン強し」 畠中 恵

        2010.11.18 Thursday

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          アイスクリン、シウクリーム、チヨコレイト、ワッフルス…
          なんて「ろまんちっく」で「のすたるじっく」な響きなのでしょう。レトロ好き、歴史好き・スイーツ好きにはたまらない本です。

          畠中さんの新作「アイスクリン強し」は、明治20年代、当時まだ珍しい西洋菓子屋を舞台に、さまざまな事件に巻き込まれる主人公たちの活躍を描いています。


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          皆川真次郎(ミナ)は、西洋菓子屋・風琴屋を営む青年。しゃばけの栄吉さんと違って菓子の腕は外国人の折り紙つきです。居留地で覚えたピストル銃の名人で情に厚く、毎回長瀬たちのもってくるトラブルに嫌々ながらも巻きこまれてしまいます。

          ミナの友人の巡査・長瀬は元旗本。同じく元旗本の仲間とともに若様組と称し、家臣たちを養うためにさまざまな内職に手を出している。真次郎のことを「ミナ」と女の子のように呼んで殴られない、数少ない人物。

          物語のヒロイン・小泉沙羅は女学生。成金とよばれる財産家の令嬢で真次郎とは昔なじみ。当時の女性には珍しく行動的でおてんばなお嬢さん。真次郎のつくるお菓子が大好きで、彼らが巻き起こす騒動にもくびを突っ込みたがる。

          物語は風琴屋に集まる若様組と長瀬が、1通の封筒を真次郎に見せるところから始まります。差出人不明のその手紙には「差出人をつきとめ、なお且つ差出人の望むものを差し出せば報酬アリ」という謎に満ちた文面が。手紙について話をしていたその直後、今度は真次郎にも同様の手紙が届く。

          謎の差出人の目星もつかぬまま、真次郎と若様組の面々は旧藩のお家騒動に巻き込まれたり、新聞に醜聞を書かれたり、流行病・コレラに対応したりと目のまわる忙しさ。
          そんな中、幼なじみの沙羅さんにお見合いの話が持ち上がり、こちらの方も気にかかる。

          柔軟な発想をもつ真次郎や長瀬たち若者でさえ驚くほど目まぐるしく変わってゆく明治の世。世の中に取り残されるもの、新しい道を見つけるもの。やがて迫りくる日清・日露戦争の影。


          そんな時代に流されるのではなく、抗うのでもなく調和していこうとする真次郎や長瀬たち若様組の面々。はたして彼らのの未来や如何に。


          江戸時代よりも描かれることの少ない明治時代ですが、実は科学と迷信、流行と伝統が混然一体となった面白い時代のようです。


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          「アイスクリン強し」が好きな方におススメ漫画。市川ジュン先生の「新編懐古的洋食事情」シリーズ。

          明治の女学生とアイスクリン、チヨコレイトの関係。明治時代ブフェ・パーティ。新しい食べ物に心奪われ、悪戦苦闘する明治の方々のマンガです♪

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          「アイスクリン強し」のスピンオフ、「若様組まいる」。
          若様組の長瀬くんたちが活躍します。

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          「若様組まいる」→
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          「上海モダンの伝説」 森田 靖郎

          2010.11.12 Friday

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            古き良き「老上海」の本をまた見つけてしまいました。「上海セピアモダン」は、魔都・上海の成り立ちと文化・歴史などを紹介していましたが、「上海 モダンの伝説」は上海という「魔都」に魅せられた日本人を取り上げています。革命家、諜報機関、宗教家、反戦活動家、根無し草の詩人など、種々雑多な日本人が上海を訪れていますが、特徴的なのは大連など中国北部へ向う人は立身出世を目指してくるのに対し、上海に集まる人は、日本を追われたり、落ちぶれて上海に逃げてくるといった退廃的な人が多かったのだそうです。

            上海と内山書店


            「内山書店」と聞いてピンと来る人は、相当の読書マニアでしょう。内山書店の店主、内山完造は若くして中国に渡り内山書店を開く一方で、魯迅や孫文とも親しく、中国と日本との有効に務めた人物です。上海を訪れる食い詰め日本人は彼の元を頼ったそうです。

            人を惹きつける街・「魔都」上海


            築地本願寺をつくった大谷光瑞という人は、ものすごく変わった思想の持ち主で、チベット探検にいったり、美少年だけの新人類新民族を誕生させようとしていたのだとか。(^^;)その大谷光瑞は上海にも本願寺を作り、布教活動の傍ら日本軍の諜報活動をしていたそうで、かなり過激な戦争論をぶちまけています。この人、もう僧侶の枠を超えてますね。

            デラシネの詩人・金子光晴。パリに向かうつもりが上海に腰を落ち着け、エ○小説を書いたり、強請まがいで絵を販売したりと、あまりほめられた生活をしていませんでした。(^^;)その後、パリ、東南アジアを旅し、その時のことを「どくろ杯」や「マレー蘭印紀行
            」に書き残しています。この風変わりな詩人のことは今後もう少し調べてみようと思います。

            その他、映画「ラスト、コーション」にも出てきた特殊工作部隊、ジェスフィールド76号に関わった日本軍人や、ミステリアスな経歴を与えられて活躍した日本人ダンサー、「上海バンスキング」のモデルとなったジャズマンなど、戦前の上海に魅せられて集った人々の記録が載せられています。


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            森田 靖郎 JICC出版局 売り上げランキング: 953345


            マレー蘭印紀行 (中公文庫)
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            レトロモダン関連
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            「上海航路の時代―大正・昭和初期の長崎と上海」
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            『香港セピア物語』→
            「グ印亜細亜商会」→
            「そんへえ・おおへえ―上海生活三十五年」→
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            古代中国の直江兼続 「華栄の丘」 宮城谷 昌光

            2010.10.23 Saturday

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              春秋戦国時代というと、三国志や水滸伝に比べてややマイナーな感がありますが、孔子や墨家が活躍し、現代でも聞いたことのある数々の逸話・教訓(呉越同舟など)が生まれた時代でもあります。政治形態などは、名作ファンタジー「十二国記」にも引用されています。


              春秋戦国時代の特徴


              春秋戦国時代の特徴を超簡単に言いますと、日本の戦国時代に似ています。一応「周王」と呼ばれる元首はいるのですが、政治の実権は別の盟主国が握っていて、絶えず国同士で戦が起こっていた時代です。

              そんな戦乱の世にあっても、「華栄の丘」の主人公・華元と言う人は戦いではなく「礼」をもって国を治めようとした名宰相でした。

              華元のいる宗という小国は、かつての呪術国家・殷(商)の末裔の国のため、祖先の霊やまじない、礼節を重んじる国柄であり、華元はその宗の国にふさわしい「礼」の人でした。

              むやみに人を殺すと、それが結局自分に帰ってくると信じ、人を許し、無駄な争いをさけ、自らはおごることがなく新しく君主となった文公をささえます。
              そして文公もまた華元を信頼し、華元が敵に捕まったときは、財宝を惜しまず、自分の子を人質にしてまでも華元を取り戻そうとします。

              古代中国の直江兼続


              読んでいて誰かに似ているな、と思ったら戦国武将の直江兼続に似ているのです。(両者の間には千年以上の隔たりがあるので、この場合は兼続が華元に似ているのか。)直江兼続も上杉景勝の信頼が篤く、和をもって国を治めようとした人でした。名君と賢臣という組み合わせは国も時代も超えて、奇跡のように現れるものなのかもしれません。


              中国歴史物は登場人物も多く、分かりにくいのですが、宮城谷昌光さんの文章が簡潔でわかりやすく、時には歴史用語を解説しながら物語が進むので、最後まで混乱せずによめました。


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              古代中国関連
              古代中国の冒険譚「沈黙の王」→
              古代中国の恋愛模様「玉人」→
              誕生!中国文明展→

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              「上海セピアモダン―メガロポリスの原画」 森田 靖郎

              2010.10.17 Sunday

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                横浜中華街で上海租界時代の復刻ポストカードを買ってから、もっと老上海のことが知りたくなり、本を探していたところ、ぴったりの本に巡り会えました。

                上海セピアモダン―メガロポリスの原画」は、上海という都市の誕生から、「魔都」と呼ばれた怪しくも蠱惑的な都市へ変貌してゆく様子や、戦争中や文革中の上海の状況など、現代史と照らし合わせながら、レトロでノスタルジックな上海の魅力に迫る一冊です。

                表紙の写真がすてきです。

                上海セピアモダン―メガロポリスの原画


                阿片戦争後、上海では外国の租界がつくられ、冒険家たちが上海での成功を夢見て渡ってきた時代から、1930年代、上海に住む中国人たちは西洋風の都市に反して、快楽や犯罪が支配するアンダーグラウンドな「魔都」を創りだしてゆきます。


                上海では、海外の資本家はもちろん、地方からの労働者や革命家、文化人、秘密結社(!)に軍部など、上海は種々雑多な人々がうごめく混沌とした時代でした。映画「ラスト、コーション」のように恋愛も革命も暗殺すらも日常茶飯事だったのです。
                大世界(ダスカ)」という娯楽施設では、賭博や射的、売春窟などありとあらゆる悦楽がそろっていました。大世界の顔役は一方でか秘密結社のメンバーでもあったのだとか。


                「魔都」と呼ばれる一方で、上海は流行の発信基地としての役割もになっていました。西洋からはジャズがもたらされ、断髪のモダンガールたちがチャイナドレスでデパートで買い物を楽しみ、映画館で明星(女優)たちの演技や歌に酔いしれた時代。


                この頃の上海は街のどこを切り取っても、映画になりそうな時代でした。やがて日本軍の支配が始まると上海は輝きを失い、文化大革命中は退廃的な雰囲気を払拭されてしまいます。しかし、上海は破壊のたびに不死鳥のように甦り、今また発展を続けています。
                センチメンタルでノスタルジック、セピア色をしていてなおかつモダンな都市。懐かしくも妖しい都市の記憶を受け継ぎながら発展してゆく上海。これからもその魅力で人々を惹きつけていくのでしょう。


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                レトロモダン関連書籍
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                「上海航路の時代―大正・昭和初期の長崎と上海」
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                女学生の愛読書復刻 『少女の友』創刊100周年記念号

                2010.09.16 Thursday

                0

                  なんてレトロでロマンチックな本なんだろう。


                  明治・大正・昭和の女学生愛読書『少女の友』創刊100周年記念号。この記念号では、全盛期の大正〜昭和10年代当時の記事を復刻したものから、田辺聖子さんやあさのあつこさんなど、『少女の友』ファンの作家の方々のインタビュー、そしてなんといっても『少女の友』の代表的な画家だった中原淳一さんの美しい絵がふんだんに載せられています。

                  読者をモデルにした小説の場面写真の撮影や有名読者の手記などもあり、今のティーン雑誌の形態を戦前からら取り入れていたのですね。

                  昔の広告などもそのままに載せられていて、「幸せを呼ぶラッキーリング」などというグッズが当時も売られているのにはびっくり。今も昔もこういうおまじないグッズは人気があるのね(*´∀`*)。

                  『少女の友』創刊100周年記念号 明治・大正・昭和ベストセレクション
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                  小説では川端康成が執筆した少女文学の名作「乙女の港」の第一話も掲載されています。これは当時の女学生たちのいわゆる「エス」のお話で、大正昭和版の「マリア様がみてる」といった感じでしょうか。

                  「シスタア」候補の下級生に、上級生たちは美しい菫の贈り物やきれいな詩を書いて贈るんです。これがもう、今じゃ考えられないようなロマンチックな文章なんですよ。その美文に中原淳一さんの美しい挿絵がついているんですよ。もうロマンチックというか、非日常的というか…


                  美しい異世界・女学校


                  今読むと当時の女学校に通う乙女たちは、どうも現実世界からかけ離れた異世界に住んでいるとしか思えない。
                  そこには略奪や暴力、戦争など醜いものが存在しない美しい世界。

                  しかしやがて訪れる戦争は女学生たちからそんな美しいものをことごとく奪っていきました。
                  そんなとき、彼女たちはどんな思いだったんでしょうか。。

                  前に読んだ戦争を題材にしたマンガ「COCCON」では女学生たちが悲惨な戦争に直面し美しい空想の繭で己の心を守ろうとしました。あるいは少女の友のような「美しいもの」が心にあったからこそ激動の時代を強く生きられたのかもしれませんね。


                  こちらは付録つき。中原淳一さんの美しいカードなど。
                  『少女の友』中原淳一 昭和の付録 お宝セット
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                  「しあわせの花束」中原淳一エッセイ集→
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                  レトロポーチつきムック 中原淳一 JUNICHI NAKAHARA FOREVER
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                  萌える百人一首!「超訳百人一首 うた恋い。」 杉田 圭

                  2010.09.15 Wednesday

                  0
                    超訳百人一首 うた恋い。」は藤原定家が集めた小倉百人一首を題材に、現代の女子にもわかるように超訳した和歌をベースにした恋愛マンガ。
                    最近の歴史マンガ系とおなじく、登場人物たちがみんな美しいし、ギャグ要素もありますので、楽しく読める百人一首本です。

                    表紙の絵は平安の美男子在原業平と清和天皇の女御・藤原高子。
                    美男美女カップルですね。
                    後に高子に招かれた宮廷サロンで、二人にしかわからない、昔の恋の名残を有名な和歌にこめて歌うと業平。大人の恋愛って感じです。

                    「ちはやぶる 神代かみよも聞きかず 竜田川 からくれなゐに 水みづくくるとは 」


                    超訳百人一首 うた恋い。
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                    主人公・藤原定家さんと、式子内親王との恋物語は切ない恋。
                    内親王、それも斎院(賀茂神社に仕える未婚の皇女)だった式子内親王は自由に結婚ができる身分ではなく、家司としてつとめる定家さんと「恋愛ごっこ」の和歌をつくります。
                    ままならない人生に、「歌だけは自由」だという式子内親王の心情が切なくって。・゚・(*ノД‘*)・゚・。
                    マンガでは定家さんも彼女のことを思っているのですが、もちろんどうにもすることはできません。

                    平安時代、不自由な身を嘆きながらも人々はいろいろな思いを込めて和歌をつくってきたんだなと思いました。



                    うた恋い2」が出ました!
                    DVDつきがおすすめです。「うた恋い」にも登場した恋に不器用な陽成院の幼少時代から、あの和歌を綏子さんに贈るまでが描かれています。

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                    うた恋い。和歌撰 恋いのうた。
                    「うた恋い。異聞 うた変。」
                    「超訳百人一首 うた恋い。【異聞】うた変。2」
                    超訳百人一首 うた恋い。3
                    超訳百人一首 うた恋い。2

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                    不良女中の体験記。「女中譚」 中島 京子

                    2010.08.29 Sunday

                    0
                      戦前の女中さんを主人公にした「小さいおうち」の中島京子さんが描く、もう一つの女中話「女中譚」。

                      永井荷風・林芙美子・吉屋信子などの作家が書いた、女中が出てくる小説をベースにした連作集で、秋葉原のメイドカフェの常連、90歳を超えたおすみばあさんが当時の思い出を若者たちに(勝手に)話はじめる、といった物語です。

                      不良女中


                      同じように女中を主人公にした「小さいおうち」のタキさんは、当時の上流家庭に仕えた、勤勉な家事のプロフェッショナルでしたが、「女中譚」にでてくるおすみばあさんは、ひとことでいうなら「すれっからし」です。(^^;)


                      おすみさんはもともと女給(現代でいうとホステスみたいなもの)で、たちの悪い男と組んで、男が女中に売った女から金を引き出す手紙を書いてみたり、奉公先を飛び出したり、夜にダンス練習所に通ってダンサーを志してみたりと、行動に一貫性がなく、浮草のような暮らしをしています。


                      小さいおうち」とくらべると、やはり面白さには欠けるかもしれません。年を取った元女中が、昔を回想するという手法はかわらないけれど、歴史的事件の取り上げ方も「小さいおうち」のように当時の面白いエピソードでうまく物語を包むのではなく、ちょっと強引のからめている感じがします。あとは主人公のおすみさんの性格や行動にまったく共感ができなかったのも原因かな。

                      ただまったく面白くないというわけではなくて、「小さいおうち」の女中像を捨てて、ひとりの女性の女中体験記として読めばいいのかもしれません。


                      唯一、秋葉原のメイド「りほっち」とおすみばあさんの年齢を超えた友情の話は好きでした。リボンやレース、ボタンなど、「可愛い、きれいなもの」が好きというセンスを共有しているふたり。りほっちは、おすみばあさんと同じ古アパートに住んでいて、世話をやいたり、ご飯を食べながら、ばあさんがせがまれて昔の話をするところなどは、読んでいて唯一ほっとできました。


                      女中譚
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