2013.06.01 Saturday

『神去なあなあ夜話』 三浦 しをん

三重県の山林で働く人々と、山での暮らしを描いた「神去なあなあ日常」の続編「神去なあなあ夜話」を読みました。
今回は山の仕事以外の神去村の習慣や信仰、生活の様子などが語られています。

私が好きだったのは「神去村の起源」というお話。神去村はどうして「神が去る」というのか?その謎が今回明かされます。神去村には前回のお祭りで、結構力の強いオオヤマヅミという山の神様がいるのがわかっていますが、神去村の由来に関わるもう1柱、蛇の姿をした神様がいて、その神様と人との悲しい昔話があり、それをシゲばあちゃんが語ってくれます。

各地に残る蛇神と人との異類婚姻譚は、たいてい女性側が神を愛せず破綻することが多いのですが、神去村の昔話では困難を乗り越えた夫婦は幸せにくらします。奥さんに死なれた蛇神さんが嘆き悲しむところとか、普通の昔話よりもリアルに書かれています。

神去村のクリスマス」では、小学校にあがったおやかたさんの息子、山太がクリスマスに興味を持ち始めたことがきっかけで、おやかたさんのうちで盛大なクリスマスパーティーがひらかれることに。

しかしそこは「なあなあ」な神去村の面々のこと。クリスマスツリーは松の木に、プレゼントは木のおもちゃに、パーティーは宴会になってしまうのですが、みんなで集まって飲み食いしているところがほんと、楽しそうなんだよなあ(*´∀`)

神去なあなあ日常」でおやかたさんの義理の妹・直紀さんに一目惚れをした勇気でしたが、その後さしたる進展もなく、読者たちをやきもきさせていましたが、今回、ようやっと前進が!勇気がんばったね〜。神去村シリーズ、これからも続いて欲しいです、勇気と直紀さんの恋のその後も気になるし。


神去なあなあ夜話
神去なあなあ夜話
posted with amazlet at 13.05.28
三浦 しをん 徳間書店 売り上げランキング: 7,100


前作、「神去なあなあ日常」では山仕事と山のお祭りについて描かれます。勇気もこの頃はまだちゃらさが残ってますね(・∀・)

神去なあなあ日常
神去なあなあ日常
posted with amazlet at 13.05.28
三浦 しをん 徳間書店 売り上げランキング: 21,725


三浦しをん作品感想


『神去なあなあ日常』→
『むかしのはなし』→
『まほろ駅前狂騒曲』→
『まほろ駅前番外地』→
『まほろ駅前多田便利軒』→
『月魚』→『舟を編む』→
『風が強く吹いている』→
『きみはポラリス』→
『木暮荘物語』→
『星間商事株式会社社史編纂室』→
『三四郎はそれから門を出た』→

JUGEMテーマ:本の紹介

レビューポータル「MONO-PORTAL」

2013.02.25 Monday

「ビブリア古書堂の事件手帖4 〜栞子さんと二つの顔〜」 三上 延

古書にまつわる謎解きミステリ、ビブリア古書堂第4弾「ビブリア古書堂の事件手帖4 栞子さんと二つの顔」を読みました。
今回は乱歩作品のコレクションにまつわる長編で、いよいよ謎に満ちた栞子さんの母親が登場。金庫に収められた乱歩ゆかりの品をめぐって、栞子さんと母親が対決します。

これまでの「ビブリア古書堂シリーズ」では、失踪した栞子さんの母親・智恵子さんは、古書の知識と洞察力は栞子さん以上、けれど本のためなら犯罪まがいのことまでやってのける、油断のならない人物として描かれています。実際に登場した智恵子さんも、印象通りの人物で、この人の出現によって、栞子さんと大輔の関係にも影響がでてきそうです。

ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~ (メディアワークス文庫)
三上延 アスキー・メディアワークス (2013-02-22)売り上げランキング: 2


孤島の鬼


江戸川乱歩コレクションを持つ来城慶子という女性から、恋人だった鹿山明という男性が遺した乱歩にまつわる高価な「何か」を探して欲しいと依頼が入る。その品は金庫に入っているが、鍵とパスワードが紛失している。金庫を開ける報酬として、高価な乱歩コレクションの売却を条件に依頼を引き受けることに…。


孤島の鬼 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
江戸川 乱歩 東京創元社 売り上げランキング: 36,574


少年探偵団


金庫の鍵を探すため、鹿山邸を訪れ、家族に話を聞く栞子さんと大輔。厳格な教育者、いたずら好きの人物という、鹿山明の「二つの顔」に翻弄されつつも、栞子さんの推理によってなんとか鍵を見つけ出し、依頼者の元へ。しかし、そこには失踪していたはずの母親・篠川智恵子が…。

ここでも、乱歩作品をモチーフにしたトリックが張り巡らされ、それが徐々に明らかになる様子は読んでいてワクワクします。

怪人二十面相 (少年探偵)
江戸川 乱歩 ポプラ社 売り上げランキング: 93,960


押絵と旅する男


栞子さんの前に現れた母親・篠川智恵子は、金庫の中の「物」についての推理を話します。それは、乱歩自らが廃棄したことになっている「押絵と旅する男」の幻の第一稿ではないかと。

もしそれが世にでれば、どれほど価値がつくかわからない。それにそんな幻の作品は、「本の虫」である篠川母子にとっても魅力的なものなはずです。どちらが早く真相にたどり着くか。暗号の解読をめぐって母親と娘の推理合戦がはじまります。


江戸川乱歩全集 第5巻 押絵と旅する男 (光文社文庫)
江戸川 乱歩 光文社 売り上げランキング: 82,993


暗号解読や、人物の入れ替わり、二転三転する真相、江戸川乱歩の作品の特徴を活かした展開は、今までで一番謎解きの要素が多かったような気がします。
江戸川乱歩の古書と、乱歩に関する資料から、「幻の作品」を創りだしているのですが、それが実際にこの世にあるのではないかと思わずにはいられない。三上延さんはリアルのなかに虚構を落としこむのがうまい作家さんですね。

乱歩の初期作品「二銭銅貨」をモチーフにした暗号解読は、ページ内に暗号表が表記されていて、より楽しめました。やはりミステリはこうした記号や暗号があると盛り上がりますね。(*´∀`*)

「ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち」
「ビブリア古書堂の事件手帖2〜栞子さんと謎めく日常〜」
「ビブリア古書堂の事件手帖3〜栞子さんと消えない絆〜」
「ビブリア古書堂の事件手帖5〜栞子さんと繋がりの時〜」

ビブリア古書堂シリーズで紹介された本が一冊に「栞子さんの本棚」

JUGEMテーマ:オススメの本


レビューポータル「MONO-PORTAL」

2012.11.24 Saturday

一家に一冊あると便利な本 「結び方・しばり方」の早引き便利帳

日常生活で使う、ありとあらゆるジャンルの結び方・しばり方を解説した『見てすぐできる!「結び方・しばり方」の早引き便利帳 (青春新書プレイブックス)』はネクタイや靴紐といった一般的なものから、着物の帯結や料理に使うブーケガルニの結び方、緊急時縄梯子の編み方まで載っている、一家に一冊あると便利な本です。

便利帳というより、これはもう辞書ですね。なんでも載っているから。ひとつひとつの結び方は、イラストで図解されているので覚えやすいし、結び方を忘れてしまっても、この本があれば安心です。



トレンチコートのベルトを後ろでまとめる結び方、これは便利!いつもベルトの結び方が悪いのでいつの間にかほどけてしまったり、かっこいい結び方ができなかったり、悩みの種だったコートのベルトの後ろ結びもこれで解決!

「結び方・しばり方」の早引き便利帳2 (青春新書PLAY BOOKS)

新品価格
¥1,028から
(2018/5/10 22:30時点)




トレンチコートのベルトを後ろでまとめる結び方


イヤホンのコードをプレーヤーに固定する結び方で実際に結んでみました。たしかに、これならコードがもつれないし、使い時イヤホンの方をひっぱると、するっと抜けるので便利♪結び方に慣れるまでちょっと大変ですが、覚えてしまえばコードのもつれをイライラしながらほどく手間がいりません。長い目で見れば結び方を覚えたほうが時短に繋がりそう。
イヤホンのコードをプレーヤーに固定する結び方写真
イヤホンのコードをプレーヤーに固定する結び方図


続編「たたみ方・折り方」便利帳も発売。

見てすぐできる! 「たたみ方・折り方」の早引き便利帳 (青春新書PLAY BOOKS)
ホームライフ取材班 青春出版社 売り上げランキング: 74,061


JUGEMテーマ:生活雑貨
JUGEMテーマ:オススメの本

2012.06.04 Monday

『舟を編む』三浦 しをん

三浦しをんさんの「舟を編む」読了。辞書編纂という未知の世界と、言葉への愛がつまっています。辞書の薄くなめらかな紙の触感と、整然と並んだたくさんの言葉。読んでいるうちに、久しぶりに辞書を引きたくなりました。

タイトルの「舟を編む」は、辞書は膨大な言葉の海を渡るための舟である。という意味。
そして、その舟は、
もっともふさわしい言葉で、正確に、思いを誰かに届けるために
存在する。自分ではなく、相手のために。

「船」ではなく「舟」なのは、それだけ言葉の海が果てしないから、かもしれません。

辞書編纂室スタッフは、個性的な面々が集まっています。彼らについても、しをんさんはひとりひとりを丁寧に掘り下げて描いています。なかでも登場したての馬締(まじめ)さんの変人ぶりがおもしろい(^^)。
辞書「大渡海」を歌の「大都会」と勘違いしていきなり歌い出したり…!

愛すべき、辞書バカ


卓越した言葉のセンスを持つまじめさんですが、世情にうとく、同じ下宿の女性・かぐやさんに思いを寄せ、いまどき十数枚ものラブレターを書くのですが、難解過ぎて伝わってなかったりと、ズレっぷりが甚だしい。ひとことで言うなら「辞書バカ」。

でも「〜バカ」って、私にとってはほめ言葉です。それだけ一つのことに熱中できるってすばらしいですよね。

辞書編纂のベテラン荒木さん、松本先生、それぞれに辞書への愛と思いも語られます。西岡くんは、最初は適当に仕事をしてるだけのチャラ男かとおもいきや、辞書づくりに情熱を注げるまじめさんを羨ましく思ったり、それを表にださず、彼の徳井な営業面でさりげなくサポートしたり…。

いいやつだな、西岡。個人的には事務担当の佐々木さんも掘り下げて欲しかったのですが。

物語の後半、大渡海の企画開始から13年後の辞書編纂室の様子が描かれています。この時間経過は、それだけ辞書づくりに膨大な時間と手間がかかることを、読者は認識させられます。

辞書づくりに必要な能力は言葉のセンスと整理整頓の能力なのだそうで。(言葉や要訳をバランスよく配置するため)私には無理だなあ…。

舟を編む (光文社文庫)

中古価格
¥4から
(2019/1/31 23:36時点)




本屋大賞受賞した「舟を編む」はいくつもの書店で特集コーナーを設置されていますが、なぜか辞書と一緒に売られている書店にはまだお目にかかれない。この本の隣に辞書があれば、きっと辞書を手に取る人、多いとおもうんだけど。

「舟を編む」の書店ポップ。既存の辞書と、大渡海の「愛」の注釈が書かれています。本への愛を感じるポップです。(^O^)
「舟を編む」書店ポップ

「舟を編む」販促グッズのヌッポロラーメン。作中に登場する架空のインスタントラーメンで、まじめさんがよく食べています。
「舟を編む」販促グッズヌッポロラーメン


『舟を編む』は映画や漫画、アニメにもなりました。コミカライズは『昭和元禄落語心中』の雲田はるこさん。

舟を編む(上) (ITANコミックス)




舟を編む 下巻 (KCx)

中古価格
¥340から
(2019/1/31 23:37時点)





舟を編む 通常版 [Blu-ray]

中古価格
¥2,509から
(2019/1/31 23:39時点)





三浦しをん作品感想


「むかしのはなし」→
「まほろ駅前狂騒曲」→
「まほろ駅前番外地」→
「まほろ駅前多田便利軒」→
「月魚」→
「風が強く吹いている」→
「きみはポラリス」→
「木暮荘物語」→
「星間商事株式会社社史編纂室」→
「三四郎はそれから門を出た」→

[映画]舟を編む 感想→


JUGEMテーマ:本の紹介

レビューポータル「MONO-PORTAL」

2012.05.23 Wednesday

映画ノベライズ「しあわせのパン」 三島 有紀子

映画「しあわせのパン」のノベライズ本。「しあわせのパン」は、北海道・湖のほとりの町月浦でカフェマーニを営む水縞くんとりえさん、カフェを訪れるお客さんたちの物語を、四季を通じて丁寧に描いたすてきな映画です。

映画に劣らず、小説もとてもよかった。
登場人物たちの設定や心情を深く描写していて、映画をより楽しめる物語になっています。

小説では映画に登場する料理の詳しい説明もあり、、未来ちゃんとパパが食べていたコロッケは百合根で作られていたものだとか、の誕生日ディナーのメニューなど、読んでいるだけでおいしそうなんです(^O^)

カラマツのように君を愛す


映画ではあまり語られなかった水縞くんとりえさんのお話。実はこの2人、月浦に来るまで数回しか会ったことがなかったのだそうです。でも水縞くんはりえさんのことをとても大事に思っていて、でもその思いは、りえさんに伝わってはいても、りえさんの心はときどき悲しみに満ちてしまう。

カラマツは開拓地に最初に植えられる木。りえさんを、カラマツのようにゆっくりと見守っていく水縞くん。
やがて水縞くんの思いはりえさんに届き…。

映画ではそのとき、大泉洋さん演じる水縞くんが、泣きそうで、でもうれしそうな表情をしていたのは、前のりえさんのセリフがあったからなのだなあ、そこから2人の新しい関係が始まってラストシーンにつながるのか、と映画のシーンを思い浮かべながら読み返しました。

映画で重要な役割を持つ「月とマーニ」の絵本も掲載されています。

([み]2-1)しあわせのパン (ポプラ文庫)

中古価格
¥1から
(2019/6/26 20:08時点)




しあわせのパン [DVD]

中古価格
¥2,680から
(2018/9/11 13:12時点)




映画「しあわせのパン」感想
しあわせのパンのロケ地・月浦に行って来ました→

JUGEMテーマ:本の紹介
レビューポータル「MONO-PORTAL」

2012.04.06 Friday

「三匹のおっさん ふたたび」 有川 浩

三匹のおっさん」の続編、「三匹のおっさん ふたたび」読了!
いやー、面白かった!(^^)今回もまた痛快でした。
キヨ、シゲ、ノリの幼馴染のアラ還三人のおっさんたちが、今回もご近所で起こる問題をが華麗に(?)解決。

今回、ノリさんに見合い話が浮上!
しかも三匹の偽物現る!
祭りは無事成功できるのか?
祐希と早苗の恋と受験の行方は?

前回は痴漢や小動物への虐待など悪質な犯罪行為が描かれていましたが、今回は万引き、違法ゴミ投棄などご近所トラブルが中心。しかし、身近な犯罪であればあるほど、ご近所の人間関係も関わってなかなかに解決が難しい問題なのです。

・ヘタレ親世代、がんばる


第一話では、キヨの息子の嫁であるお嬢さん育ちの奥様・貴子の、パート先でのトラブルが描かれています。パート先でハブにされる中で、親切にしてくれた人から「金を貸して」といわれたら、そりゃ断れないよね。(^^;) それでもなんとか自分で解決しようとする貴子さん、今回成長したと思います。

息子の健児さんもたよりない印象でしたが、お祭りの出資を引き受けてくれたのは、すごいことじゃないかな。下手すりゃ会社での立場が悪くなることもあるから。

人ってその気になれば、いくつになっても成長できるのだ、と実感。


・本屋での悪質万引き


これは、今回一番「痛い」事件でした。地元の本屋の万引き対策を買ってでた三匹のお話。
本屋で新品のマンガを万引きして、古本屋に売りさばく計画的な万引き。子供に「欲しければ万引きしろ」と教える親。作中、本屋の利益率について解説がありますが、本屋って薄利多売の商売なんですよ。

そんな中で自分のエゴのために万引きをする、ましてやそれを悪いと思わない。これは、本が好きな人間からすると、読んでいて悔しくなります。

でも、最後本屋の店長さんが万引き少年たちに行った行為はステキでした。ただ頭ごなしに叱ってもなにも変わらないだろうし。


・偽物三匹と非常識な年寄り世代


よく時代劇なんかで偽黄門様や偽暴れん坊将軍がでてきますが、三匹のおっさんにも偽物が登場するとは…( ̄ー ̄)ニ
おまけに偽三匹のリーダーは、初恋の人がキヨさんの奥さん!そのため、ことあるごとに三匹に対抗意識を燃やします。偽三匹のおっさんたちは、居丈高な態度のため、とうとうトラブルを起こしてしまうのですが…。

今まではどちらかというと若い世代の犯罪や常識のなさに、三匹たちが立ち向かう感じでしたが、今回は年寄りも世代にも平気でゴミを不法投棄したり、「最近の年寄りは」と言われるマナーの悪い連中と遭遇します。

確かにねえ、私の周りでも老人同士の揉めごとは結構聞きます。( ´Д`)=3 宴席で自分の席順が下だと怒ったり、ゲートボールの点数ごまかしたりとかは日常茶飯事らしいですから。


三匹のおっさん ふたたび
有川 浩 文藝春秋 売り上げランキング: 127


有川作品感想


空飛ぶ広報室
明日の子供たち
ほっと文庫 「ゆず、香る」
クジラの彼
ラブコメ今昔
阪急電車
海の底
空の中
レインツリーの国
三匹のおっさん

キケン
ヒア・カムズ・ザ・サン
シアター!
シアター2!

フリーター、家を買う。
植物図鑑
県庁おもてなし課

JUGEMテーマ:小説全般


レビューポータル「MONO-PORTAL」

2012.03.05 Monday

「困っているひと」 大野 更紗

大野更紗さんの「困ってるひと」読みました。
明るく、若い女の子らしい文章で綴ってありますが、読んでいくうちにこれは「地獄」だな、と感じました。

・ある日突然、難病を発症する
・身動きがとれない
・治療方法が見つからない
・麻酔なし、皮膚を切り取られる検査
・かさむ入院費
・専門家でさえ難解な福祉システムとの手続きバトル
・サポートに疲弊した友人たちからの別れ

まさか、まだうら若き女性が数年間ですさまじく壮絶な体験をすることになるとは…。
普通なら、こんなに若い難病の人間を社会や周辺の人間が手厚く保護されるかというと、そんなことはなく、
(私は日本の保証制度を信じていたのです、この本を読むまで。)
驚くことに彼女は、サポートが受けられないと認識すると、治療病院の選択から福祉システムの手続き、果ては通院可能な圏内への引越し作業、こういったことを一人で決めて実行していきます。(もちろん、人の助けを仰ぎつつですが)

たぶん、私だったら途方にくれて、途中で「どうにかなって」しまうだろう。

健康な私では、大野さんが体験した壮絶な闘病の本質なんて理解出来ないのでしょう。
でも、理解はできなくても、知りたいと思いました。
それが、私がこの本を読んで正直に思ったことです。

私にも難病の友人がいます。
彼女もまた、壮絶な闘病の日々の中にいます。
そして、そこには誰もわからない「もの」があるのかもしれない。

自分にできることは限られている。

だから、この本を読んで少しでも知りたい。私にできることを。

明るい文章ですが、難病のこと、医療、社会福祉制度の矛盾などの問題点に関しても鋭く、わかりやすく書かれています。
困ってるひと
困ってるひと
posted with amazlet at 12.03.03
大野 更紗 ポプラ社 売り上げランキング: 913


JUGEMテーマ:注目★BOOK


2011.12.21 Wednesday

美しくも残酷な自転車ロードレースの世界。『サヴァイヴ』 近藤 史恵

自転車ロードレース界を舞台にした名作「サクリファイス」、「エデン」のスピンオフ短編「サヴァイヴ」。「サクリファイス」や「エデン」前後の登場人物たちの様子が語られます。

レースでは強気の伊庭が家庭にめんどくさい問題を抱えていたり、一匹狼のエース・石尾に振り回されるアシストの赤城の姿だったり。長編二作より登場人物たちの性格や感情、家庭環境など意外な一面が明らかになっていました。

そして、レースに潜む「魔物」と戦う選手たち。彼らのなかにはプレッシャーに潰され自滅するものも多い。明日は我が身だと思い知らされながら、それでも彼らペダルを漕ぐことをやめない。ゴールの果てにあるものを目指しながら。

・老ビプネンの腹の中


「サクリファイス」以後。
フランスのチームパート・ピカルディに所属した白石誓(チカ)は、もとチームメイトの急死に際し、遺体確認をすることに。ドラッグ常用者だったというチームメイトの突然の死に動揺するチカ。チームのエースであるミッコはチカにフィンランドの昔話を聞かせ、「大切なのは生き延びること」だと告げる。


スピードの果て


「サクリファイス」以後。チカの海外移籍後、日本のエースとなった元チームメイト伊庭は、路上でバイクにあおられたことが原因で、交通事故に巻き込まれる。幸い、自身に怪我はなかったものの、バイクの持ち主の死が原因で、伊庭は以前の事件を思い出し、レース中にもフラッシュバックが起きてしまう。そのため思うような成績が残せなかった。そんな中、世界選手権に出場することになった伊庭は恐怖を抑えてレースに臨む。


プロトンの中の孤独


「サクリファイス」以前。
石尾がチーム・オッジに入りたての頃。まだオッジには別のエースがいたが、一匹狼の石尾はチームから快く思われず、孤立していた。赤城は監督からの要請で石尾に近づき、面倒をみるようになる。
しかし、レース中、チーム内からの妨害にあい、レースに嫌気がさした石尾に、赤城は「俺をツール・ド・フランス」へ連れて行けと言い放つ。


レミング


「サクリファイス」以前。
エースとして君臨するようになった石尾だが、相変わらずの一匹狼。赤城は、エースのために献身するアシストに対し、もう少し感謝の感情を伝えるよう諭すのだが、一向に効く気配をみせない。
石尾にとってはアシストもエースも役割のひとつとしてしか考えていないようで、状況によってはあっさりエースの立場を捨てて行動したりする。しかし、あるとき、レースで石尾への嫌がらせが相次ぎ…。


ゴールよりももっと遠く


「サクリファイス」以前。
今ではエースとして恐れられる存在になった石尾。しかし、あるレースが書類不備で出場停止となり、そこに、別チームのスポンサーのレース不正があった知る。石尾は赤城を誘い、レースの行われる山へ向かい、ひたすらにペダルをこぐ。不正への抗議行動として。
赤城は走ることだけを追求する石尾に寂しさを感じるが、一方で石尾は赤城と交わした昔の約束を覚えていて…


・トゥラーダ


「サクリファイス」「エデン」以後。
ポルトガルのチームに移籍したチカはルームメイト・ルイスの両親の家に下宿する。ルイスは以前、ドーピング疑惑をかけられた過去があるものの、移籍後は良い成績をおさめていた。しかし、ある日、ルイスからドーピング陽性反応が出たことを知らされる。


こうやって書きだしてみると、石尾と赤城は結構事件に巻き込まれていて、チカは仲間たちが落ちて行く姿を何度も目撃することになりました。
でも、それでも彼らは走ることをやめることはないのでしょうね。
このシリーズ、まだまだ続いてほしいです。もっと彼らの活躍と苦悩を読み味わいたい。
個人的にはサクリファイスで失恋(?)したチカに、色恋沙汰がちょっと起こって欲しい気も。

サヴァイヴ
サヴァイヴ
posted with amazlet at 11.12.15
近藤 史恵 新潮社 売り上げランキング: 4897



サクリファイスシリーズ


サクリファイス→
エデン→
キアズマ→スティグマータ→


レビューポータル「MONO-PORTAL」

2011.11.28 Monday

ワケあり物件に住む、仕事。『東京ロンダリング』 原田 ひ香

『東京ロンダリング』、面白いテーマの小説でした。過去に賃貸物件で事件が起こった場合、客に提示する義務がありますが、その後、一度でも人が住んでしまえば、伝える必要がなくなる。そのため、「ワケあり物件に住む仕事(ロンダリング)」がある、らしい。

本当かどうかはわかりませんが、もし、そんな仕事をしている人がいたら、どんな暮らしをしているのだろうか。そんな社会の片隅に生きる人にスポットを当てた作品です。

東京ロンダリング あらすじ


主人公・りさ子は、行き場を失い、いわくつき物件に住む「ロンダリング」の仕事をはじめる。
家を追い出されたりさこは、不動産屋の相葉にすすめられ1年間、ロンダリングの仕事を続けてきた。

「いつもにこやかに愛想よく、でも深入りはせず、礼儀正しく、清潔で、目立たないように。」
りさこは、相葉からいわれた言葉に従い、淡々と気力のない生活を続ける。

その後、ロンダリング先の下町のアパートである変化が訪れる。大家の眞鍋夫人に強引に説得され、定食屋「富士屋」を手伝うことになり、富士屋の息子・亮や周りの人達と「関わり」がうまれる。亮はりさ子に「ずっとここにいてほしい。」と告げるが、りさこはまた、そこを立ち去らなければならない。

そんな折、仲間の菅が失踪。りさ子は急遽・菅の代役でロンダリングをしなければならなくなった。亮や眞鍋夫人に別れもいえないまま…。


ロンダリングの果てに


このままりさ子はまた、鬱屈をかかえながらロンダリングを続けていくのかな、それではあまりにも救いがないな、と思っていたら、亮たちとの出会いや事件をきっかけにして、りさこの中に変化が起ていきます。最後の展開は爽快感がありました。今自分がいる場所でなにができるのか考え、前向きに進んでゆくことができたのです。

実際にロンダリングという職業があるかはわかりませんが、寄る辺のない人達が、都市のかたすみで寄生しながらいきていく生活は、先行きの不安を感じさせる反面、どこか自由な気がします。

変死があった部屋に住むのはできそうもありませんが、知らない街で少しの間過ごし、また去っていく。そんな生活に少し憧れを感じました。

東京ロンダリング
東京ロンダリング
posted with amazlet at 11.11.24
原田 ひ香 集英社 売り上げランキング: 25570

JUGEMテーマ:小説全般


レビューポータル「MONO-PORTAL」

2011.09.17 Saturday

「映画が世界を結ぶ」 川喜多 かしこ

鎌倉を旅行したとき、川喜多映画記念館へ行って来ました。映画プロデューサーであった川喜多長政・かしこ夫妻の邸宅を改築してつくられた記念館は、名画の上映や映画ポスターなど資料の企画展示などを行っていて、小さいながらも内容の充実した記念館でした。

なにより、私が興味を惹かれたのは川喜多長政夫人・かしこさんです。
昭和初期、まだ女性が働くということに偏見があった時代にプロデューサーとして、夫長政氏の片腕として、洋画の選別・輸入業務をまかされ、戦後は数々の映画祭から審査員として招かれるまでになった人物です。

一体、どのようにして映画に携わることになったのか。とても興味を惹かれ、川喜多かしこさんの著書「映画が世界を結ぶ」を読みました。そこには、1本のドラマにできそうなくらいの波乱万丈な映画人生が綴られていました。

映画配給会社への就職


フェリス女学院出身のかしこさんは、関東大震災で父親を亡くしたため、働いて家族の生活を支えることになります。得意の英語力をいかして採用された「東和商事合資会社」で映画の輸入の仕事に携わります。

やがて社長である長政氏とのロマンスが芽生え、結婚。新婚旅行先で訪れた欧州で見た映画「制服の処女(おとめ)」が気に入り、日本に輸入すると大ヒット。それ以降、彼女の洋画の鑑定眼のおかげで、良質な映画が日本に輸入されることになります。

李香蘭を救った夫婦


戦中は大陸に渡った夫とともに、中国での映画産業に携わります。川喜多長政氏は、李香蘭が裏切り者として中国で処刑されそうになったとき、彼女の日本国籍を証明し、釈放に助力したことでも有名です。(このあたりのことは、ドラマ李香蘭に詳しい)また映画政策の方針から、満映の甘粕正彦に睨まれ、暗殺の対象になったことも!(((; ゚д゚))) それでも中国を離れなかった夫を支え、送り出したかしこさんの心痛は計り知れません。

戦後の混乱、そして映画祭へ


戦後は軍に関わったとして長政氏は公職追放となりましたが、それを救ったのは、欧州や中国で一緒に仕事をした映画人たちだったそうです。川喜多夫妻は単に映画をビジネスとしてだけではなく、優れた映画を欧州と日本とで紹介しあうことで、文化的な交流を図ることを基本理念としていました。

戦後、かしこさんはその確かな映画鑑定眼から、数々の映画祭に審査員として参加することになります。
出会った映画人たちのエピソードも興味深く、当時日本人にとって雲の上の存在だったチャップリンやオードリー・ヘップバーンなど著名な映画人たちと実際に言葉を交わし、友人となっていくのはすごいですね。
華やかな映画界の裏側をささえていた日本人、それも女性が活躍していたというのは、この本を読むまでまったくしりませんでした。

映画が世界を結ぶ

中古価格
¥201から
(2018/9/17 00:12時点)




映画ひとすじに (1973年)

中古価格
¥119から
(2018/9/17 00:17時点)




李香蘭 [DVD]
李香蘭 [DVD]
posted with amazlet at 11.09.17
角川エンタテインメント (2007-04-27)売り上げランキング: 51004


JUGEMテーマ:映画


JUGEMテーマ:オススメの本



Calendar

S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
<< November 2019 >>

おすすめ記事

検索

Archive

Selected Entry

Comment

  • 『白銀の墟 玄の月』第二巻 感想(ネタバレ)
    日月
  • 『白銀の墟 玄の月』第二巻 感想(ネタバレ)
    苗坊
  • あさイチの『スーパー主婦ワールド』で紹介されたイヴォンヌブレンド洗剤が超便利!
    日月
  • あさイチの『スーパー主婦ワールド』で紹介されたイヴォンヌブレンド洗剤が超便利!
    ミィママ
  • 戦前の少女雑誌の美しさ『彼方の友へ』伊吹有喜
    Roko
  • 音楽をことばで表す『羊と鋼の森』宮下 奈都
    日月
  • 音楽をことばで表す『羊と鋼の森』宮下 奈都
    苗坊
  • ハチミツとクローバー外伝と3月のライオン14巻でハチクロメンバーその後のその後
    日月
  • ハチミツとクローバー外伝と3月のライオン14巻でハチクロメンバーその後のその後
    あひる
  • ビブリア古書堂、その後の物語。『ビブリア古書堂の事件手帖 扉子と不思議な客人たち』三上 延
    日月

Link

Profile

Search

Other

Powered

無料ブログ作成サービス JUGEM