2009.07.12 Sunday

「プリンセス・トヨトミ」 万城目 学

関東出身の私には、関西地方は不思議で魅力的な憧れの土地です。
何が起きても不思議じゃない、関西にはそんな雰囲気を感じます。
そう、たとえば京都では茶きん絞りの「オニ」が闊歩し奈良では鹿が言葉をしゃべり、そして大阪には人知れず伝えられた「国」があったとしても…

大阪には豊臣家の末裔を守るため、ひそかに作られた「大阪国」というシステムが存在する。けれどその中心となる大阪国の「王女」自身は自分の出自を知ることはない。「王女」の存在が危うくなったとき、または大阪国が危機を迎えたときは、大阪に住む200万の男たちが立ち上がる。迎え撃つのは国の会計検査院。明治の昔の結ばれた条約によって大阪国に流れ行く国の補助金を不当とみなして追及してゆく。

最初、「会計検査院」というお堅い国の機関と、とある大阪の中学校での出来事がどう結びつくのか不思議だったのですが、見事に糸が繋がっていきました。まさか会計検査という極めて現実的な事柄が非現実的な「大阪国」に切り込んでいく様子や、大阪国が危機に瀕したときの発動の仕方が実に巧妙で面白かった。
ただ、私は女なので「男のみ」っていう大阪国のしくみにちょっと抵抗感があったり、お話のクライマックスがもっと盛り上がってもいいのになとは思いました。そこだけがちょっと残念。

登場人物はそれぞれ豊臣家にゆかりの人々の名前がつけられています。”プリンセス”である茶子は茶々(淀君)で苗字の「橋場」は「羽柴」、豊臣秀吉の旧姓。
茶子の性格「(自分が起こした事件が)後々どういうことを引き起こすかについて無自覚」っていうのも淀君っぽい。(^^;)
幼なじみの「大輔」は真田幸村の息子で最後まで豊臣家の一族につき従った人物。一方、会計監査院側は「松平」は徳川の旧姓で「鳥居」は鳥居強右衛門かな。だいぶ性格違うけれど…
「旭」は豊臣秀吉の妹で家康に嫁した女性。
徳川側にいながらも、もとは豊臣側という旭の立ち位置を考えると、「プリンセス・トヨトミ」での旭・ゲーンズブールの役割にぴったりな名前だと思います。

過去と現在をつなぐ細い糸が縒りあって「歴史」をつくるとするならば、万城目さんのたくみに紛れ込ませた感じがします。明らかに周りと毛色が異なるのに、違和感も確かにあるのに、「もしかしたらあったのかも」って思っちゃうんですよね。

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映画「プリンセス・トヨトミ」の感想はこちら→

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「鹿男あをによし」→
「鴨川ホルモー」→
「ホルモー六景」→
「ザ・万歩計」→
「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」→
「ザ・万遊記」→
「偉大なる、しゅららぼん」→

JUGEMテーマ:小説全般


2009.06.27 Saturday

「ヨコハマ洋食文化事始め」

開港150周年の横浜は、常にあたらしい文化を取り入れてきた場所。その中でも「食」は富国強兵の政策と珍しモノ好きの日本人気質にあったのか、明治の世では様々な洋食文化が広まってゆきます。

・洋酒事情


洋酒は比較的早く広まったようで、明治初頭にはビールやワイン・シャンパン等が出回り、中には粗悪なニセモノも多かったのだとか。洋酒であればなんでもいいともてはやされていたそうです。
特にビールは人気が高く「ビア酒」と呼ばれ、健康飲料だと宣伝されていたとか。明治時代の広告の誇大広告って…(^^;)それもバンカラで破天荒な明治時代ならではかも。この時代、ピストルも公然と売ってましたからね。

・西洋料理のレシピ


仮名垣魯文の「西洋料理通」は英国料理のレシピを翻訳した初の本格的西洋料理レシピ。分量の単位さえ現代に置き換えればいまでも十分使えそうです。実際に「新編懐古的洋食事情2」という昔の洋食をテーマにした漫画では、「西洋料理通」を使って料理を作る場面があります。

昔の翻訳なのでポークソテーが「ホールク・コットレッツ」などど訳されていて、実際に作ってみないと何ができるかわからなかったようです。

実際に本の中で紹介されているりんごの焼き菓子は今でも十分つくれそう。このころはりんごを煮るのにレモンではなくゆずの皮をつかっています。こっちの方がおいしそう。レシピに書かれている「丁字」はクローブの和訳らしいです。

明治時代の洋食についての詳細な資料なので、この本を片手に「アイスクリン強し」や「新編懐古的洋食事情」などを読むと時代背景がわかりやすいかも。

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・こちらは戦後まもなくのレシピ集。サッカリン、ズルチンなど、いまではよくわからない材料が使われています。「中原淳一の幸せな食卓」
明治時代の洋食事情「懐古的洋食事情1」
明治青春菓子小説「アイスクリン強し」
明治女性の波乱万丈な人生「義侠娼婦 風船お玉」→

2009.06.15 Monday

「吉原手引草」 松井 今朝子

吉原遊郭に関する本や映像はたくさん出回っておりますが、ここまで面白いお話は、この「吉原手引草」と、杉浦日向子さんの江戸漫画「ゑひもせす (ちくま文庫)」や「二つ枕 (ちくま文庫)」くらいしか思い浮かびません。あと「さくらん」かな。

とかく遊郭を描いたものは、華やかさとは反対の、悲惨さやドロドロした情念的なものが取り上げられがちですが、「吉原手引草」は、吉原という異世界をニュートラルな視点で描き出すとともに、ミステリー要素を加えて今までにない遊郭ものに仕上がっています。

「吉原手引草」は、吉原一の花魁葛城の失踪事件について、ある人物が当事者たちから事件の聞き取りをしていくうち、葛城という花魁がどんな素性の女性だったのか、失踪の真相について迫っていくのですが…

芥川龍之介の「藪の中」を思わせる話で、結局のところ、最後の真相が本当なのかどうか、いまいち確信が持てませんでした。吉原というところは作者が何度も語っているように、「女郎の誠と卵の四角ない」世界なのですから。

最後の章のタイトルも「詭弁 弄弁 嘘も方便」とありますから、いったいどれが本当なのか、当の葛城花魁が語らない限り、本当の真相は藪の中なのかもしれません。


吉原手引草 (幻冬舎文庫)
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松井今朝子作品感想


「吉原十二月」→
「星と輝き花と咲き」→
「円朝の女」→
JUGEMテーマ:歴史小説

レビューポータル「MONO-PORTAL」

2009.05.28 Thursday

「明治ふしぎ写真館」 横田 順弥

横田順弥さんの明治本は、いままで真面目でカタブツなイメージのあった明治時代と明治の人々の印象をガラリと変えてしまいます。
しかも、今回は「写真館」と銘打っているだけあって、写真が豊富で読みやすい。
明治の人々って結構、破天荒で面白いことをやっていたんですね。

明治おもしろ博覧会→

明治ふしぎ写真館
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明治不可思議堂 (ちくま文庫)
横田 順弥 筑摩書房 売り上げランキング: 653270


●その他、明治を題材にした本

明治女性の波乱万丈な人生「義侠娼婦 風船お玉」→
明治時代の未来予測「明治ワンダー科学館」→
明治おもしろ博覧会→
明治青春菓子小説「アイスクリン強し」
明治時代の洋食事情「懐古的洋食事情1」

2009.04.10 Friday

「平将門魔方陣」 加門 七海

鴨川ホルモー」の続編、「ホルモー六景」には東京にもホルモーがあることを匂わせる話が載っていました。
そこには東京の守護神にしてたたり神、平将門の首塚がかかわっているらしいのです。

平将門魔方陣 (河出文庫―文芸COLLECTION)」では、朝廷の反逆者にしてたたり神となった将門が、どうして東京の守護神になったのかを推理しています。

難しい専門書のように敷居が高いのかと思いきや、作者の加門さんのくだけた文章のおかげですいすいと読めました。
わからないことを「わからん。誰か教えてください。」と書いてしまったり、将門びいきで調伏した側に対しては「きったねえ」と毒づいたり、面白い方です。(^^)

で、なぜ将門が東京の守護神なのか。
結局よくわかりませんでした。(・_・;)
時の権力者たちが封じ込めたり、敬ったりしながら
絶えず無視できない存在であったことは確かなのですが。

ただ、加門さんの説として
東京の土地の地霊が将門を望んで、ここに住む者の無意識に訴えかけている。
だから地の影響を受けている人々が、明治政府が将門を神田明神から祭神から外した時、反対したり、GHQの無体な行いを止めようとしたのも土地の人々だった、と。

この説は私も好きです。だからあれほど恐れられる一方で
敬われ、愛されているのでしょう。
もしかしたら東京のホルモーも、そんな将門を退屈させないために始められたのかもしれませんね。
万城目さんにはぜひホルモー続続編を書いていただき、その辺の謎を明かしてほしいものです。

平将門魔方陣 (河出文庫―文芸COLLECTION)
平将門魔方陣 (河出文庫―文芸COLLECTION)


山田章博さんの名作「BEAST of EAST」
将門はそのカリスマ性と強い魂ゆえに、妖怪九尾の狐(玉藻の前)に魅入られる武人として登場します。
BEAST of EAST 3 (3) (バーズコミックスデラックス)
BEAST of EAST 3 (3) (バーズコミックスデラックス)

・こちらは京都の魔界伝説。「京都魔界地図」→

2009.03.30 Monday

「こころげそう 男女九人 お江戸恋ものがたり」 畠中 恵

「こころげそう 男女九人 お江戸恋ものがたり」。
男女七人夏物語 お江戸版といったところでしょうか。
幼なじみ9人の恋愛模様が複雑にこんぐらがって、せつない。

下っ引きの宇多は、思いを寄せていた幼なじみ・於ふじが突然死んでしまい、思いを告げられなかったことを後悔していた。
ところが、死んだはずの於ふじが幽霊となってもどってきた。
父親を心配して成仏できなかったという於ふじと奇妙なつきあいがはじまる。

幼なじみ同士の恋模様をからめつつの最後に物語の大きな謎がとけるような流れになっています。
思いが通じない相手を思う切なさは、山本 周五郎の「さぶ」に通じるものがあるかも。

ただ、於ふじと兄千之助が死んだ原因にからむ事件とか、犯人の結末がいまひとつ盛り上がりに欠けたのが残念。(>_<)

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●「しゃばけ」以外の畠中作品
「まんまこと」→
「つくもがみ貸します」→
「アイスクリン強し」→
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2008.06.20 Friday

十二国記の参考書 「山海経」

「山海経」とは、中国の古い書物で、「●●という地方には、こんな動物や植物がいる。」と一種の地理本なのですが、中に書かれている生き物たち、かなり奇想天外です。

・その人となり胸に穴がある
・その人となり翼があり、人面で鳥の嘴、魚を捕う。
そのほか、顔が3つある人や、足の生えた魚、
六つの足、四つの翼、面が無い神・帝江など。

その姿は奇想天外で不可思議でユーモラス。

古代中国の人々はどんなものを見て、どんなことを感じていたらこんな奇想天外な生き物達を想像することができたのでしょう。

いやいや、実は古代には実際に不思議なものたちが存在していたのかもしれない。
そう考えたほうがきっと楽しい。

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「山海経」に登場する生き物たちの中には
ファンタジー小説「十二国記」にも妖魔や妖獣として描かれているものが多く、
(駁、天馬、三騅など)
「十二国記の参考書」として十二国記と一緒に読むと
妖魔や妖獣たちのより特徴がわかります。
ぱらぱらとページを読みながら、どこか遠くの国の
不思議な生物たちに思いを馳せるのもいいかもしれません。

解説はなんと水木しげる大先生です。


三星堆・中国古代文明の謎―史実としての『山海経』 (あじあブックス)

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JUGEMテーマ:歴史

2008.05.27 Tuesday

「沈黙の王」 宮城谷昌光

最初の文字を創造した殷(商)の名君・高宗武丁のものがたり。「古代中国歴史小説」と聞くと堅苦しい印象がありますが、「沈黙の王」は戦あり・魔法(呪術)ありの冒険ファンタジー小説として充分読めるストーリーです。

「沈黙の王」あらすじ


殷の王子、子昭(武丁)は神に唱える祝詞以外は口から言葉を発することができなかった。それを憂いた父王は彼を野に放つ決心をする。子昭は最初に賢者・甘盤のいる州をめざして旅に出る。

ある森にたどり着くと、そこには呪術者の修行をする美しい娘がいた。大蛇に襲われた彼女を救い出し、彼女の一族に歓待されるが先をいそぐ子昭は甘盤のもとへ。

やっとの思いでたどり着いた甘盤は、博学だが信用が置けない人物だった。自らを救ってくれるものを探し、子昭は祖先の霊に救いをもとめ、高祖・帝瞬の廟へと向かう。だが途中、彼は奴隷狩りの兵につかまってしまう。そこで彼は後の宰相となる人物・「説」と出会う。

貴種流離譚として


子昭の賢者を探す旅がそのまま、貴種流離譚、冒険を通じての成長、出会いの物語として楽しめます。彼が助けた少女はやがて子昭の妻となります。婦好と呼ばれたその妻は、その墓の収蔵品の多さから、武丁にとても愛されていたと伝わっています。


伝説上の神々を人間として描く


この短編集には、そのほか弓、弓術を発明した古代の王・后げいの物語や、笑わない絶世の美女・褒似、春秋戦国の悪女・夏姫を主人公にした物語が収録されています。

后げいや褒似は神や妖怪として、神話や伝説に彩られていますが、彼らを「人間」として生き生きと描かれています。宮城谷昌光先生は言葉の表現をとても追及されている方なので、彼の書く文章は表現の堅苦しい歴史小説家とは一線を画している感じがします。

「十二国記」で古代中国に興味をもたれた方なら、次は「沈黙の王」をオススメします。

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古代中国の恋愛模様「玉人」→
古代中国の名宰相「華栄の丘」→
誕生!中国文明展→

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2007.09.09 Sunday

『まんまこと』 畠中恵

しゃばけ」シリーズの作者、畠中恵さんの最新シリーズ「まんまこと」を読みました。

主人公の麻之助は、「しゃばけ」の若だんなとちがって、「悪童」とか、「お気楽者」と称される名主の家の跡取り息子。

名主とは、江戸時代、奉行所で裁ききれない民事事件を取り扱い捌きを行う権限をもつ家柄。

実は麻之助、昔は親も自慢の息子であったが、ある「切ない出来事」をきっかけにして、違った方向へ曲がってしまったらしい。

親には頭を抱えられるが、麻之助はどこ吹く風。日々飄々と生きている。

しかし、どうやら事件の方が麻之助をほおっておかないのか、次々と問題が持ち込まれる。

人と人のごんぐらがった問題を名主の息子である麻之助が解決してゆくのですが、自分自身の秘めた思いにはなかなか決着をつけることができないでいます。


NHKでドラマ化も→「まんまこと〜麻之助裁定帳〜」

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ドラマ「まんまこと麻之助裁定帳」


NHKでドラマ化された「まんまこと」シリーズ。シリーズ「ときぐすり」の前半部分までがドラマ化されています。福祉政治さんのひょうひょうとした麻之助、桐山漣さんのイケメン清十郎、趙ο造気鵑涼砲蕕靴さ噺渭困離肇螢が痛快でかっこいい。

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まんまことシリーズ


「かわたれどき」
「まったなし」
「ときぐすり」
「こいしり」
「こいわすれ」
「まんまこと」

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レビューポータル「MONO-PORTAL」

2007.01.22 Monday

「墨攻」 酒見賢一

酒見賢一さん原作の「墨攻」がアンディ・ラウ主演で映画化。とはいえ原作となったのはやはり漫画版の方でしょうね。

「墨攻」の主人公・墨家の革離は「城を守る」目的のためには手段を選ばない、ある意味非情な仕事人として描かれています。篭城に備えて死体を非常用食料として考えていたり…。けれど民は突然現れた救世主に熱狂していきます。しかし、権力者側はしだいに革離の人望に嫉妬しはじめ…


ストイックで高尚な理想を掲げる墨家の思想はやがて儒家に取って変わられ、歴史から消えてゆきます。小説「墨攻」では墨家のなりたちとその衰退のなかでも頑迷に自らの医師を貫き通す革離の姿が描かれています。しかし、その頑迷さが意外な結末を生むのですが…


原作はかなり短い話なのに、まるで長編小説を読んだような充実感。映画で興味をもたれた方は是非、小説もおすすめします。

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